ポンコツ世界異聞=【終幕を切り刻む者達《ハッカーズ》】   作:きちきちきち

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コミュ【ミストラル】

 陽が昇り切っていない、まだ仄暗い早い朝の事。

 

【ラインセドナ・商店】

 

 店の名前は【AM商店】。

 知り合いである、冒険者ミストラルの夫が経営している商いである。

 規模は中規模程度、外観は看板一つに小奇麗に纏った、実用的な質素な雰囲気を感じた。

 生産者と冒険者の扱う消耗品を主に取り扱う店であり、魔具の類もチラチラと見えた。

 一般人の向けの商品も置いているが、一次・二次産業に携わる人間ならここに来れば、ほとんど全て揃うという品揃えが特徴的だった。

 

「はい、お買い上げ、ありがとうございましたー♪」

【商の才】

 跳ね上がる様なミストラルの跳ねる様な艶声を背景に。 

 今日から三日位のカイトは依頼とは別に、ここで雑用の手伝いをしていた。

 普段ずっと身につけている防具は、物騒で流石に外して普段着でいる為に少し気分が落ち着かない。

 それを誤魔化(ワーホリ)しながら陳列を行い続けている。

 

「ごめんねー。いきなり頼んじゃって」

「いや、こっちこそ。依頼予定もなかったですし、手軽で助かります」

 今回は彼女に頼まれ、冒険者ギルドを経由せずに賃金の代わりに店の手伝いを頼まれていた。

 本来なら保障も何もない非公式の依頼は、何か後ろ暗い事情が多く危険な物であり推奨はされない。

 だが、今回の様に信頼のできる知り合いの頼みなら問題ない。

 というより個人の互助の範囲である。

 

(ふんふん、この道具文字では認識してたけど。実際はこんな形なのか)

 カイトは識字と足し引きの計算は最低限できるが、それ以上は学が足りない為に在庫整理や商品の陳列。

 ミストラルが苦手とする軽い会計整理を手伝っている。

 バッカー資格の勉強の為に、関連する商品事情に明るい事が地味に役に立っていた。

 

「おいー、ミストラルー!薬剤六セット出すんだっけ?」

「うんー。あと整備用の油も三セットお願い」

 ローズは肉体労働の方がい向いていると、力持ちを活かして倉庫整理を行っており、時々奥の方より声がした。

 消耗品が主力の商品であるこの店は、在庫の入れ替わりが他の形態の店より激しいのだと言う。

 

 何時か有った、護衛依頼の商隊の共同出資者の一つでもあったらしい。

 田舎町【ラインセドナ】の商業を支える店の一つだった。

 

 互いに互いの仕事を進めていく。

 適度に客が流れ、途切れ初めて、休憩の時間が取れるようになった頃。

 

「えへへー、丁度手が欲しかったんだぁ。信頼できる人って貴重だからね。おかげであの人()をね、勉強に送り出せたわけだし」

「はぁ、でも少し警戒したほうが、僕等だって付きあい長い訳じゃないし」

 すんなりと長年の付き合いの様に、無垢な笑顔を向け、伴侶の事まで話す彼女。

 その信頼は嬉しいのだが、ミストラルと僕等の付きあいはそう長くはない。

 その人懐っこさに少し心配にもなる。

 

「ぶー、大丈夫だよ。ぼくは選ぶさ、なんたって人を見る目は自信あるからね!」

【理性蒸発】

 d(>_・ )と背景に幻視できそうな程に、奇麗なサムズアップを決めたミストラル。

 彼女の心は常に跳ね回る様で、もはや快活を通り越して天衣無縫というべきな気がする。

(まぁマーローさんが、苦手に思ってるのもわからなくもない、かなー)

 彼女はとことん自分のリズムで生きる人だった。

 苦手な人は苦手だろう、傍目から見てる分には本気で嫌ってはないとは思うのから、問題はないと思うが。

 

 

 上の倉庫からローズが顔を出す。

 今日の彼女も珍しく、露出も控え目の白のブラウスに薄桃スカート姿の普段着である。

 正直、一目見た時に新鮮でどきっとしたのは心に伏せておく。

「はーっ、これで一区切りだっけ、もう降りてきていい?」

「お疲れ様♪しばらく休んでて。朝が一番のピークだから暫く安定だよー」

 一次・二次産業相手の消耗品を多く取り扱うこの商店。

 陽の明りが覗き、町の活動が始まるこの時間帯が、一番忙しいとの事だった。

 

 しかし、それが過ぎればこうして三人がフルで動く程の仕事はない。

 なので…。

 

「それにしても、こんな落ち着きないミストラルが人妻ねぇ…、彼はどんな人?どう捕まえたのよ?」

「えへへ、聞きたい?聞きたい?」

 カイトが店番をやっている後ろで、そんな姦しいガールズトーク(?)が聞こえてきた。

 

(―――客こない、良い天気だなぁ)

 その中で意識を外の陽気に移して、聞かないふりをした。逃避体制である。

 村でもそうだったが、だいたいこういう話は、男手の考える二・三倍のエグさを誇る物だ。

 遮る壁すら大体薄い、田舎育ちであった彼はそれを知っている。

 

「ボクとアレックス……あ、ボクの夫さんの名前ね、幼馴染だったんだ。お互いさ、気心知れた仲っていうかー。振り回してた仲って言うか」

「へー、素敵じゃない。異性の幼馴染なんて、そんなのあたしの所じゃ都市伝説よ」

 自慢げに言葉をばら撒くミストラル、一度乗った口は止まる事はない秘密が赤裸々公開である。

 特にローズは女系種族である蛮族(アマゾネス)出身だからか、その言葉に特に反応した。

 頭の片隅に知らない誰かの苦労がよぎる、天衣無縫な彼女のブレーキ役になるのは並大抵じゃないだろう。

 

「あの人はねー、【魔具職人】に成りたいって夢があって。まぁ小さい頃から勉強してたんだけど。

「え、【魔具職人】って、エリート職業じゃない」

「いや違うんだよ。専門の学び舎行くゴルが無くてさ。今はこうやってゴルを稼ぎながら、修行して目指してるって訳、今日は二人が手伝ってくれたおかげで彼を、短期修行に送り出せたんだよ」

【理性蒸発】

 止まらない惚気マシンガントーク、加速していく暴露。

 魔具職人とは、文字通り魔具を製造する職人であり、人間工学”人間はどういう風にすれば強化出来るのか”、これらの知識と人体構造学や医学、それらあらゆる雑多なものを教え込まれて初めて資格を得る。

 優れた高ランクの魔具を作り出す職人は、”人間の作り方”すら知ると言う。

 脅威に溢れた需要に支えられた知識層、エリート職業だ。

 

 

 

「告白された時に殺し文句”何時か、世界で一番珍しい魔具を見せてやる”ってかっこよかったなぁ。興奮して、つい抱きついて押し倒しちゃった、きゃは☆その後はね―――」

「ちょ、わかったわかった。大好きなのはわかったから!そこらへんで止まっておきなさい」

「むー、まだまだあるのにー」

 まさかの逆レ宣言、流石にマシンガンをローズが止めた。

 対して彼女は顔を紅潮されて杖を抱えて体をくねくね。

 ギザな台詞と甘酸っぱい思い出が台無しである。

 付きあいの親しさに反して、その余りにギザな台詞は精一杯考え想いを込めてだと予想できた。

 名前しか知らない誰かに、少し男として同情する。

(アレックスさんも大変だなぁ)

 なお、危機が多く生命倫理が傾いているこの世界では。

 こういう事例は特に【王国】の方で、割りとよくあったりするのだが、彼はまだ知らない。

 

「はー、ゴチソウサマ。いいわねぇほんと幸せで、胃もたれしそうだわ」

 彼女が、お腹をさすってジェスチャーで示した。

 エルフの恋は熱しにくいが、一度火が灯れば冷めにくく生涯想い果てると言う。

 彼女はハーフとは言えその気質を受け継いでおり、それが本人の熱量と相まっての熱愛っぷりだろう。

 末永く幸せになればいいと思う。

 

 

「……でも、最初から外堀埋まってて深めていったんじゃ、参考にならないわ。先輩からさなんかさ恋のアドバイスってない?」

 確かに余りにパワー系過ぎるミストラルの恋愛成就経験は、参考にするには重すぎるだろう。

 そんな感じに客観調子で評価しながら、他人行儀に聞き流す。

 ちらりと、彼女がこちらに目を寄越したのに気が付かずないまま。

 彼は以前として、客の会計を行っていた。

 近いゆえに耳に入ってきてしまう物は仕方ないが、他は逃避態勢である。

 

 そうしてまた姦しい会話を背後に、しばらく時間が経ち。

 

「あ、そろそろお昼休憩の時間!良ければ御馳走するよ」

「助かるわ」

「あ。ん、ありがとうございます」

【人妻:手料理】

 雇い主のミストラルがお昼休憩を提案をして、それにありがたくお世話になる事にする。

 ギルドの依頼なら、普通は持ち込みで軽い行動食で済ませる事も多い為にありがたい事だと言えた。

 

「ちょっと待っててね。ふふん♪」

 この後に、店番を置いて入れ替わりで軽食を御馳走になった。

 それは店で作られたものと謙遜のない出来であり、魔物肉(危険なので大体火を通す)を揚げた物のサンドイッチと、根菜煮込んだスープの軽い物であったが。

 カイトの田舎舌は貧相であるが、それでも非常に美味に感じた事が印象深い。

 

 

「むー、子供っぽいのに、ミストラルってば女子力高いわねぇ。……あたしも料理位できた方がいいのかしら」

「あはは、まぁローズ不器用だし、人には向き不向きがあるからさ」

「言ってくれるわね。この、生意気―!」

「ちょと、イタイ、痛いってば」

 解せない。少なくともローズは美人であるし、健康的な魅力は十二分にあると思う。

 彼女は彼女の魅力があると思うのだが、少なくとも彼女以上に頼りになる人は知らない。

 

 その後はなだらかな人の流れを相手しながら、初日の依頼は終了する。

 店の中をしっかりと清掃し終え。

「じゃあね。また明日もよろしくね」

「うん、お疲れ様でした。失礼します」

 

 

 

 

 ●●●

 

 

 

 

―――二日目。

 

 今日の日は大体の流れは初日と変わらないが。

 朝のラッシュが終わった後は、雇い主のミストラルは届け物や注文票の回収等を予定に外回りに向かっていた。

 曰く、初日の様子を見て二人に任せてだと考えて、他の仕事を行う事にしたらしい。

 

(店を開けられると、信頼が流石に重い)

 そう思った。

 不実をするつもりはないが、アクシデントを起さないように気を張る。

 

「結構、消耗品の需要在るんだねこの町、【建築魔法】の使う人、結構いてびっくりだよ」

「……そういう所見てるのアンタくらいでしょうよ」

 【建築魔法】というのは古くの魔王領にて知識層が使った、即席の建築を行う魔法形態であり。

 工芸の進んだ現代では殆ど廃れた物だが、一部では”よく吹っ飛ぶ施設”の立て直しに使われたり、”よく吹っ飛ぶ施設で罠”に使われたり、”よく吹っ飛ぶ重要施設のリスク分散”に使われている物だ。

 職人の中でも己の技術と併用して、補強や修繕に用いてる者も居ると言えば居る。

 そういう技術を持つ術者向けの資材が、かなり売れていたのだ。

 

「もしかして、この町って割と付近の村への中継地点になってるのかな。職人さんは結構いるらしい」

「さてねー。ギルドも三つあるしさ、何だか知らないけど割と仕事は多いよねこの町さ、不思議ね」

 慣れたと思った事でも視点の違いという事で新たな事を発見し、改めて知る事も多い。

 この間の鍛冶師、月長石の件も合わせてそう思った。

 

 快活なローズが接客をし、カイトが相変わらずの品出しを担当していた。

「はい、ありがとねー。またよろしくね」

【ムードメーカー】

 人当たりが良く、快活で素直な性格をしている彼女の接客は。

 高出力ハイテンションなミストラルとまた違った形で、何処かに居る距離の安心感があった。

 とても真似できないと思う。

 

(うん、こうしてると普通の女の子みたいだね)

 時折、ちらっと。

 視界の端に写る彼女を見ながら思う。これも相棒に対する新しい発見だった。

 その後は特に変わった事はなく、時は過ぎていった。

 

 

 

―――そして、最終日。

 

 

 

「ありがとうございましたー」

 連日の手伝いも、特に失敗なく無事終える事が出来た。

 基本知識が多く手先の器用なカイトが雑用や陳列に掃除を担当して、恵体の彼女が肉体労働等を徹底して、時折接客を行う。

 適正で役割分担を行った為か初めての試みとしては、大成功と言ってよいだろう。

 

 途中で、手が空いたので薪割りを割り作ったり、種火にオドで点火したりと追加しながら。

 魔力石での魔導式の調理器具もあるそうだが、大体は火の竈で料理したほうが加減が効いて味が出るそうだ。

 その細かい手間と工夫は愛ゆえか。

 

「三日の間お疲れ様―、いやーホント助かったよ」

「こちらこそね。いやーアタシらも冒険者だからさ結構しんどい仕事ばっかで、いい骨休めになったわ」

 うまく事運んだのは、真面目に取り組んだ依頼者こと、ミストラルの影響が大きいと言えた。

 彼女の理性の蒸発した天衣無縫は、警戒心や緊張を解くには効果的である。

 そのおかげで普段通りの能力を発揮できたと思う。

(うん、僕は物事を難しく考えがちだから、ほんと助かった)

 自身の癖を振り返りながら思う。

 

 彼女のその太陽の朗らかな笑顔は、接客にも活かされており目当てに、店を利用している客もいた。

【理性蒸発】【商の才】

 言葉にすれば曰く、見れば一日分の元気が貰えるそうだった。

 わからなくもない、と苦笑する。

 

 彼女は、背後からごそごそ何かを包んで。

「はい、これがお賃金ね。また頼むかもしれないから、その時はよろしくね!」

「はい。確かに、ありがとうございます」

「ふふ、ダメだよー。ちゃんと中身確認しなきゃ。誤魔化しって結構あるんだよ?」

「まぁ何時もなら、もう信用してますから」

 こういう忠告や、肝心な台帳や大口の依頼等の部分は線引き、肝心な部分は見せなかった。

 ミストラルもしっかりと商人なんだと、と感じさせられた。

 それこそ趣味で兼業冒険者をやっているのは、伊達じゃないと言う事か。

 

 

「時にカイト君、薪木に点火してもらった時から気になってた事があるんだけど、ちょっといいかな」

「はい、なんでしょう?」

 急に、ミストラルから追加で声がかかる。

 何だろうか、追加の雑用なら時間もまだ空いている事だし、軽く手伝えるのだが。

 

「えへへ、ちょっと手を貸して。オドを隆起させてくれないかな」

「?、いいですけど…ふぅ……!」

 万が一にでも彼女を傷つけぬ様に。呼吸を整え、漣のように身体の命脈を強化する。

 すると魔法剣の術式を経由せずに、放出されたオドは何時も見る様に、小さな青蛍火として舞った。

 特に変わった事もない火種になる、その程度の物だ。

 

「うん、やっぱり!君【精霊術】の素養があるよ!」

「??、そのえっと、痛いから離して」

【森眼】【精霊術:共感】

 (ノ≧∀)ノと勢いが幻視できそうな勢いで、彼の手を握り振り回した。

 というか勢いもそうだが、隆起されたオドが散って困惑で、隆起を治めるのが遅れて少し筋を焼いた。

 距離感近いし、困って目を泳がした。

 

「あ、ごめんごめん。カイト君のオドが濃いからさ、多分重たいでしょ?それは【精霊】を引き寄せるのに便利な特性なんだ」

 簡単に言ってしまえば、カイトのオドはマナで組まれた疑似生命にとっては栄養価が高いオド。

 ある種の”食糧として好かれる程度の才”それを彼は有していた。

 更に電流を起す事を得手とする、”空属性”を持っている事で、熟達できれば電気信号として符号を混ぜ、感応の助けとする事も出来るだろう。

 

 ただ呪文士である彼女は、そこまで思い至っている訳ではないが、それでも鋭眼であった。

 彼が簡単に火のオド性質を表に出し、生木に火を付けた事からそれに思い至ったのだから。

 

 適性や固有魔法といった類で、現象を引き出す大いなる者達に比べれば、取るに足りない。

 そんな、隠れてしまう程度の才能だった。

 

「へー、良くわからないけど良かったじゃないカイト。素質あるってさ」

「そうなの、かな。でも僕には【精霊術】のノウハウも基礎知識もないから、ね」

 【精霊術】とは自然環境におけるマナ、それを己が魔力と術式によって誘導し、使役する魔術である。

 魔術であるからには知恵・知識。または”魔を手足とする先天的な適性感覚”が必要となるだろう。

 生まれが平凡な彼にはそんな物は勿論ない。何時もの事だ。

 

「大丈夫!ボクが暇な時に来てくれたら、軽く教えてあげるよ」

 すると軽い調子で提案するミストラル。

「【精霊術】はさ、ぼくも基礎程度なんだけどね。母さんに教えてもらったから知識はあるよー」

「え、ありがとう?ただは悪いし…、対価は出すさないと」

「大丈夫、僕も駆け出しだからこれからも世話になるだろうし友達だからね。特別だよ?」

「でも‥」

 そう言って彼女は悪戯に笑った。友達認定が凄くはやい。

 距離の詰め方は半端ではなく、冒険者感覚の処世術で物事を奨める彼の裾にどんどん押し入ってくる。

 嫌ではないが大丈夫かなぁ、と心配になる

 

―――ここでは関係はないはないが。

 マナとオドの表面張力を自覚して、魔法剣を成している彼は例外的な部類に入る。

 オド経絡の拡張も一つの要因だが、精々がミクロの小さい単位だ。そこに合わさってオドの粘土、重さ等が複合要因としてに”魔力撃”の不得手の原因に繋がっていた。

 物事の結果に至る因果は、大概一つではない事が多いものだ。

 

「そういえばカイト、魔法剣も余り飛ばないって前、愚痴ってたけどそれも原因じゃない?」

「あー、うん。なるほどね重ければ飛ばないか、素質って難しいな…」

 傍から、それは聞いていたローズが指摘する。

 彼女の頭に思い浮かんでいるのは、ホーズから水を放出する単純なイメージだ。

 正確ではないが、それに近しいものではあった。

 

「そこの所はよくわかんないけどさ、僕にも都合がいいんだよ。色々な場所に連れ出してほしいし、君達はすっごく珍しい活動的な冒険者だからね、きっと色々な物を見ると思うんだ」

「まぁそうね。結構変な物は見たわ」

 その言葉に思い返す。田舎に居たままでは、生涯知る事はなかった物は色々見てきた。

 美と一体した武技を持つ女戦士、デーモンに、遺跡に、遥かなる丘陵。

 良いモノばかりではなく、死に掛けた事も多いが意味のある物だと思っている。

 

「その話をさ時々僕に効かせてくれるだけでいいんだ。何か持ってきてくれたら対価も出す、珍しいモノはだーいっ好きだし、それに僕らには夢があるから」

「……夢?」

「そう夢、ボクがレアアイテムを集める理由がさ、夫婦(ぼくたち)で”世界で一番珍しいモノ”を作る夢なんだ」

【レアハンター】

 思い返して、先程、傍耳に聞いた話の延長であった。

 ミストラルの夫であるアレックスさんは、魔具職人を目指している修行中という話だったか。

 

「あの人が見せてくれるって言ったけど、じっとしてるのは性に合わないし、その過程も楽しいからね」

「それで冒険者に、か。なんというかアグレッシブ。らしいと言うか…」

 それをお互い助けながら、出来る事の範囲で目指している

 他を知らないが、ここまで一致した夫婦の形というのは珍しいのではないだろうか。

 

「世界は不思議や未知が溢れてる。収集して研究してさ、ぼくらの夢を叶えるんだ」

「へー、いいじゃん素敵じゃない」

「……うん、お世話になりますし、協力できることなら出来る範囲でしたいけど」

 夢を語る彼女は、本当に愉しげな雰囲気に溢れてる。

 しかし。

 

「でもそれでも、別の方法もあると思う、不思議な事のそれ以上に理不尽が溢れてるから」

 ただ噛み合いすぎていて、不安にもなる。

 もしも、どちらかが欠けたらと頭が回ってしまうのは、彼の悪い癖だろうか。

 余裕のあるとはいえ、彼女の選ぶ冒険者の仕事は、危険とは切り離せない。

 

「わかってるよー。でも自分で”選ばない”人生なんて、ぼくにとって何の意味もないからね」

 彼には理解できない感覚だ。欠けて不安に急かされて人は走る物だと考えていた。

 足りるに足りたなら止まってしまえばいい。

 その方が幸せなんじゃないかと自然に思う。

 

「うん、なら出来る限りだけど、応援します」

「えへへー、ありがと」

 だけど、その在り方は眩しく見えた。

 ただただ、彼女はお調子者という訳ではない。

 物も人も生き方も自分で選んだ良い(善い)を選びつづける眩しいものだ。

 なくならないといいなと、軽く思った。

 

「じゃあさ、店の定休日がこの日だからさ。午前中に来てくれれば教えられるよ。パーティ組む時に実践見てあげられるし」」

「ありがとう。よろしくお願いします」

「こちらこそー、じゃあばいばーい。助かったよー」

 今後の予定の打ち合わせをし、ミストラルが元気に手を振りながら別れを告げる。

 

 

 

 

●●●

 

 

 

 

 ミストラルと、話し込んで辺りの日はすっかり暗くなっていた

 

「んーもう暗いか、宿に送ってくよローズ」

「そう?あんがと、悪いわね」

 今日の彼女は装備を外した普段着だ。組し易いと勘違いする輩も出るかもしれない。

 この世界の夜は調律器(ハーモナイザ)の効いた町中であろうと、人が活動すべき時間ではない。

 彼の双剣はともかく、ローズの大剣は取っても目立つので置いて行かざるを得ない。

 彼女を宿に送らねばと気を回す。

 

 そして静まりきった夜道を二人が歩く。

「そうだ聞き忘れてた。どう、あたしの普段着、滅多に着ないからちょっと不安でさ」

「ん、凄く可愛いと思うよ。ローズの肌黒くて奇麗だから白い服が良く映えると思う、薄桃のスカートも髪に合ってて似合ってる」

 素直に浮かんだ言葉を口に出した。普段着の彼女は露出している肌も少なく。

 肌を余計に際立たせた。

 チラリズムと村の誰かが評してたか、多分それだ。

 装備を纏った彼女とは違った大人しげな花のような、そんな雰囲気があると思う。

 

「そ、そう?ふふん。悪い気しないわ」

 それを聞いた彼女は多少頬を上気させて、少し上機嫌になって歩く。

 そして暫く歩いて、また彼女が口を開いた。

 

「この間に行った向こうの【ヴァ―ミリオン】なんかは、夜でも街灯とかきらきらで明るかったけど、もしかして夜中に人が活動してるのかしら」

「いるんじゃないかな。とても想像つかないけどさ」

 田舎育ちの彼にとって、夜は寝床で祈って眠る時間であった。

 まだ安定地帯の聖錬とは言え、夜にモンスターとか悪人に、頚根を搔き切られないとは限らないのだから。

 そうやって滅んだ村が幾多もある。20、30年の周期で村規模の集落など滅んで大体入れ替わる。

 

「こっちなんかはまだましだけど、調律器(ハーモナイザ)なしで、夜に沢山灯りなんてつけてたらモンスター引き寄せるかもしれないし、贅沢な話だよね」

「はーっ、あんたが住んでた所も大概やばいわね」

「ううん、田舎なだけだよ」

 町規模の【ラインセドナ】に、そんな贅沢なものが整えられている訳もないが。

 故にこの世界での上京はまた別の意味を持つのだろう。防衛力(チカラ)が安心な夜の担保である。

 

 

「やっぱ思うけど、この世界って地獄よねー」

聖錬(ここ)は全然マシらしいけどね。それでも疲れるよね生きてくの」

「ホントだわ」

 お互い、冗談めかして笑う。

 勿論、都会にも容量があるのだから、自身の居場所を確保できなかった奴は渇いて死ぬのだが。

 安定地帯である聖錬だと尚更に人は余る。

 それを何とか活用しようとした仕組みが、冒険者ギルドという枠組みだったなのだから。

 

 そして暫く歩くと、ローズが利用している冒険者宿が見えてきた。

 

「カイトももう遅いし、こっちに泊まってく?」

「いいよ。大丈夫討伐依頼帰りって訳じゃないし、そこまで疲れてない」

「そっか、残念ね」

 彼女の冗談を流し、手を振って場所を後にする。

 こういう時に、お互いの住む場所が近ければ便利なのだろうなとは思う。

 だが、官営のギルド宿舎は歯抜けしていく、空き部屋から順に埋めていくのが大体だ。

 歯抜けの理由は引退か、死亡かはそれぞれだが。そういうシステムだ、贅沢は言えない。

 

「じゃあねカイト!また明日ね」

「うん、また明日」

 ローズと別れ彼女の声を後ろに、彼も彼の利用する宿舎に脚を向ける。

 

「よし」

 頭の中で有意義だった。

 また今日含めて三日間を振り返って手応えに、確かな前進に。

 歩いていけている実感に、手を握るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




カイトは精霊術の基礎を獲得します。
先天:精霊的に栄養価の高い程度のオド性質。

なお、アレックスさんが出てくる予定はない模様。

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