ポンコツ世界異聞=【終幕を切り刻む者達《ハッカーズ》】   作:きちきちきち

131 / 136
火の泥【運命の預言盤】

 

 

 

 傭兵達の強襲戦、少年が海へと選んで沈んだそんな後。

 

「―――!」

 枷から解き放たれた『リヴァイアサン』(大蛇)が鬱憤を晴らすが様に暴れ回る。

 海賊娘が彼女の孤独なネットワークを立ち上げ暴れ回り。

 動揺と共に、船を揺らして、再び渦巻いて嵐を巻き起こそうとし状況は混沌とするだろう。

 

【洗脳:ギアスロールスクロール】

 機巧がその合間を潜り、彫り込んだ反射反応に掻っ攫う。

 そんな事を、海に沈みゆく若葉の少年は知る術もなく。

 

 一方その頃、そんな海上の死闘の傍ら、未だ平穏な陸の話。

 

 

 

 ●●●

 

 

 

 

―――【覇濤首国:セレクティブ】

 

 

【鎮守府 とある廊下】

 

こつんこつん。

 

 とある若造、青髪の青年が整然とした廊下を歩いている。

 彼の名前は"トーマス・サザーランド"。

 今回水面下に騒ぎに加担する"内通者"(思想犯)であり、表向き『議員』の立場を持つ青年である。

 現在進行形の一世一代の賭け事に、

 神経質に心を尖らせ歩きなれた筈のこの場所で、思考を空回している。

 

(……くそっ先の『鎮守府』からの報告で議題に上がった、海上で指名手配不明艦(アンノウン)の発見と、妨害。間違いなく『奏護』の"スポンサー"の仕業だな)

【執行議員】【政治知識Lv3/5】【経営の才】

 努めて穏やかな顔、表面上、動揺を隠して穏やかに穏やかに平静を勤めて。

 

 先に『鎮守府』からの議題に上がっていた報告にて、思い返し反芻しながら―――

 自身の執務室を目指して歩みをすすめるだろう。

 

(つまりは成果を急いて、そして派手に事にしくじったらしい。庇える範囲じゃない。俺との繋がりだって割れてないとも限らない)

【牙の塔卒業者】 【人道派閥】

 青年はあくまで、『覇濤首国:セレクティブ』における一派閥の代表、それだけでしかない。

 『覇濤』の外でも、多くの人間が既に動いている。欲望の為、利益の為、事はもう単純でない。

 彼が招いて火をつけた事であるとはいえ、たかだか内通者である彼一人の思惑では、もやは事は制御できる範疇になかった。

 

 彼視点にとって無能な味方に対して、ただただ、焦りが募る。

 

(どうする、どうする。もう事が起こるまで理由を付けて身を隠すべきか、しかし事が本格的に起こる前に隠遁してしまったら、今度は事態の収拾が滅茶苦茶になる。ことを成した後の優位性(イニシアティブ)も……)

【革命家】【扇動者の才】

 青年は今後の身の振り方に頭を回してる。

 膨大な利益『覇濤』に群がる蠅はともかく、彼には明確な目的がある。

 しかし、若造、"純人類種の為の港を手に入れる"、そんな夢みがちな思想犯(インテリ)である。

 

(優先事項じゃないが、オヤジも引退に追い込めていない)

 彼の頭の中で描いた空想絵図は、やはりどこかしら都合の良さが抜けきらない。

 

(すでに賽は投げられた。とにかく一度落ち着こう。クールになれ、なる様にしかならない)

 

 青年とて既に腹はくくっている。

 とにかくお茶の一杯でも飲んで落ち着かんと、己の執務室の扉を開こうとして―――

 

 

ガタン!

 

「やぁ」

「………」

『典雅なる礼装』【踏破者】【グレンダンの傭兵】

 しかし、彼の執務室であるはずのそこには既に先客がいた、

 気難しそうに表情に皺を深く刻んだ青年と対照的に。

 我が物顔に寛いでいたのは、いつもの戦闘服(コート)ではなく、場所に似合わせた礼装(スーツ)を纏った狼女だ。

 

 そして行儀悪く執務机の座り、勝手気儘にに茶菓子を齧りながら。

 ボサボサ銀に髪引き締まった凶器の如く素足を、気儘に我が儘に投げ出して寛いでいる。

 

 しかし、どうやらご機嫌になのか、しきりに獣人由来の耳と尻尾を揺らして。 

 敵地であるはずのこの『覇濤』を、自分の家が如く我がもの顔に狼女が寛いでいるだろう。

 見知らぬ顔でもない。一応、大事な"内通者"である彼の護衛という事になっている傭兵である。

 

―――"ラップランド"

 開口一言に、『魔王』と殺し合いたいとのたまった愚か者(ドン・キホーテ)

 腕は確か、しかし故に、『護衛』として首輪をつけて動きを制限している問題児である。

 『ロスリックの酒場』を経由し、このコードネーム持ち傭兵五人は―――

 内通者である彼の手でも動かせる"スポンサー"により、『傭兵国家』(グレンダン)から紹介された工作員(傭兵)である。

 

 

 改めて狼女は、 見慣れたその見開いた瞳孔と、いつも通りに不穏な笑みを浮かべて。

 身に着けた仮面をずらして、素顔を覗かせる。

 

「随分、遅かったじゃないか。何か大事件でもあったのかい?」

「……よくいけしゃあしゃあと、まぁいい」

 この依頼人を依頼人とも思わぬ物言いを無視しながら。

 腕利き傭兵風情にテリトリーを犯されてなるものかと、堂々と執務机の椅子を引いて腰かける。

 

 狂気に見開いた瞳孔と、気味の悪い笑みとの距離が近づき、血の匂いが鼻孔を刺激する。

 

 あぁ、普段に卓上に齧りつく彼にとっては、慣れない実に嫌な臭いだ。

 

「―――で?今回の失敗の経緯を説明しろ傭兵」

「随分とせっかちだね?いい報告と悪い報告が一つずつだ」

【ネイキッドソード】

 そう、あくまでこちらが使う側だと示す様に堂々と対峙する。

 対して狼女は相変わらず腰に据えた抜き身の刀を隠しもせずに、無遠慮に言うだろう。

 

 その様は、まるで護衛と雇い主の関係には見えない。

 だからこそ、彼も引かない。

 

「かねてから君のお得意様(スポンサー)から依頼があって僕等は動いた、放逐した"実験体"の回収は無事に済んださ。先に『覇濤』の『メンタルモデル』と冒険者がぶつかって止めてたから、接触は楽なもんだった」

「……『奏護』筋の肝いりか、己の手で"メンタルモデル"を量産したいとか言ってたな。『奏護』の狸ジジイ共はゴールが違う」

【ギアス:絶対存主】

 彼女の言う"実験体"、『奏護』からの流れの外科医。

 横流しされた完全でない中途半端なメンタルモデルへの改造技術―――。

 『奏護』は元々、人体改造機械(サイバネ)化の本場の一つだ。

 その分野に自負があるのだろう。まるで容易に考え完全に我が物にせんと動いてる節がある。

 

 つまり、仮にこの『セレクティブ』を奪えずとも、

 メンタルモデルの技術を盗めば、己で奏護で港を作りあげる事も可能だと思っているらしい。

 

 しかし。

「まったく、今やる事ではない。自負があるからこそ面倒な爺共だ。人体改造で『メンタルモデル』をでっち上げても、港もなしに鉄船の運用は一朝一夕に真似られるものでもない。事が済んでから進めないと何の意味がないというのに」

「あはは、しかしその足場ができる保証もないのに急いちゃったって訳だ。意気地な事だね」

「……とにかく成功はして、"実験体"は確保した。そうだな」

 議員の青年は他人事のように言う狼女に内心舌打ちしながら、腕を組みながら黙り込む。

 彼は所詮この計画における内通者だ。

 スポンサーの事情や考えなどすべては知る由はない。

 

 しかし確かに、今回のこの事件における"スポンサー"は急きすぎであるだろう。

 基本的に『メンタルモデル』と"鋼船"はセットだ。

 製造するのにも用意するにも"港"という土台、器、足場がなくては全て成り立たない大掛かりな城である。

 ただ、その踏み抜くような勇み足に、狼女は欲深な滑稽さを愉快そうに含み笑いに語る。

 

「そうそう、最低限だね。ここからが悪い報告さ、ボク達はさっさと護衛の"冒険者"を皆殺しにして『メンタルモデル』ごと実験体をさっさと拿捕するつもりが、そりゃもう抵抗激しくてさ!」

【血染めの衣】【闘争の血脈】【不屈狂練】

 狼女は悪い報告、つまりは失敗という割には心底楽しそうに頬を紅潮させ、言葉を重ねた。

 

 昂ぶる興奮に熱いと言わんばかりに、息を荒らげ。

 瞳孔は更に見開き、肌は微かに赤らみ、呼吸は荒く露出した肌に玉汗を滲ませて柔首を伝った。

「おい貴様の事などどうでも、報告は単極にっ……っ!」

ぞくぅ……!

 明らかに興奮した発情に、血の匂いがさらに濃くなる。

 

「いやぁ楽しかった心地よかった。流石に"鋼舟"の大砲に直射喰らった時は、まるで生きた心地はしなかったね。それに―――」

 狼女は頬を赤らめて余韻に解ける、弾ける様な心臓の心地に身を任せて身を悶えるだろう。

 その匂いを伴う、深淵の様に惚けた目に、議員の男は思わずに飲まれる。

 

 発情した雌獣の様で、夢に酔い焦がれる乙女の様で、

 同時に肉食獣の如くに捻じ曲った魔力があった。

 

 そんな矛盾した目の前の獣に、机の上のインテリにはわからない深淵に呑まれて気圧される。

 

「仕留めた双剣の冒険者(エモノ)も、人殺し(マンハント)の腕はともかく、あんな純度の高い殺意は久しぶりだったさ♪」

【処刑人】【血染めの衣】【狂羅輪廻】

 狼女は殺人鬼である、剣を通わせて己がエモノを感じ入っていた。

 感触は物珍しくはない。雑草、例えてそこらの砂に転がるが融解して固まった様な石ころ。

 

 しかし。

 

「"ガラス片"って言うのかな。ぶつけて砕いてなお鋭さを増して喰いついてくる」

 それは例えば真っ当な下地に、師の元に正当に鍛えられた刃。

 小さな石を年季に層を重ねてカラテ(基礎)を重ねた修羅とは違う。

「おかげで大事な大事な愛剣のカタワレは持ってかれて海の底!痛い出費だねこれ高かったのにさぁあははは」

 偽物の復讐心(イミテーション)と、誰かが評した通りの地金の成形に失敗した成りそこない。

 

 しかし、おそらく、ぶつかって砕けてだからこそ鋭く切っ先を尖らせる。

 そういう天然に転がる凶器である。

 だからこそ、あそこまで純度の高くて焦がしてくるのは久方ぶりだった。

 格別だ。味わって切り棄てた、なお余韻として染みついている。

 

「まぁ死んじゃったけどさ」

 あっさり砕けた事を含めて、けらけらと愉快そうに笑う。

 さりとてそれは血みどろの修羅場を体験していない者には、とうてい理解できない話である。

 

「……ごほんっ、そんなことどうでもはいいから早く結論を云え傭兵!」

「んあ、ああすまない。少し興奮して脱線したね」

 議員の男はその狂気的な目に魅入られそうに、何とか気を持ち直し改めて報告を急かした。

 狼女は依頼人に惚けた瞳孔の焦点を合わせて、仕切り直そうとした。

 

「つまりは目的を達する為にこっちは1人斬られて重傷だし、合流したパトロールに"機巧"も1機落された。何より顔を覚えられたちゃったね」

「……致命的じゃないか!!」

ダンッ!!

 想定より悪い。明白な結論に、議員の男は思わず叫ぶ。

 名目上護衛である彼女を経由して、『ロスリックの酒場』の傭兵達とは接触して使っている。

 

 仮面をかぶっているとはいえ、『覇濤』で彼女の特徴を覚えているものは多いだろう。

 なんにせよ目立つ女である。

 

 済んでしまったことへの焦りと、阿呆なスポンサーにヒステリックに掻きむしる。

 

「そも、なんでそこで手を出すんだ!"実験体"とやらを拿捕されても他にやりようあっただろうが、『覇濤』を舐めているのか!そういえば、舐めているからこんな分の悪い賭けの誘いに乗ったんだったな畜生!」

「そうさ致命的!だからこの後の事はわかるだろう?」

【獣人:犬亜人】

 議員の男とて文章を遺す様な間抜けはしていないが、こうも明確な証言が疑われるのは時間の問題だろう。

 しかし、疑わしきには石を投げろが"王国式"である。

 よく知っている、友好国である『覇濤』の系譜にもその"勇者の流儀"が受け継がれている事を。

 

 

「くそっ、そうなったらすぐに荷物を纏めて……!」

―――ダンダンっ!

 それと同時に乱暴に執務室のドアを叩く音が聞こえた。

 狼女はその焦燥に反して、愉快そうに笑いながら、唐突にその手を掴んで強引に引っ張る。

 

「開けろ憲兵だ!執行議員"トーマス・サザーランド"!!貴様に問いただすことがある!!」

「!」

「ほら、来ちゃった」

『憲兵:覇濤首国』【強制執行】【熟達する経験】

 彼は容易に自体を察する。

 早速疑いを掛けられたのだろう、疑わしきは石を投げろ、拷問してでも吐かせる。

 この世界にそういうガサイレである。途端に狼女は、腕を掴まれて身を引っ張りだされる。

 

「何を―――!」

「いや、エスコートをね。しっかり捕まってるといいよ」

 

バリィン!!

 

 そんな騒動を尻目に、狼女は勢いよく窓ガラスを突き破って、小柄の男を抱え連れ去って宙に躍り出る。

 

「――――――!!」

「逃げたぞ追えー!殺してしまってもも構わん。あとで霊体で焼き直せばいい!」

 この場所は5階建ての建造物である。まともに堕ちれば、もちろんただでは済まない。

 彼は原始的な恐怖と浮遊感に思わず、血の気が引きながらも身を強張らせる。

 

バギュン!!

 背後から銃弾(マンキラー)が通り抜け、諸々の衝撃が身体の髄に響き渡る。

 

「―――うぼぁ!?」

「安心しなよ落としやしないさ、ボクにとっても、君はまだ利用価値があるからさ」

【獣人:犬亜人】【影を駆け抜けるもの】【超俊足】

ダッ!!

 狼女はこの鉄火場さえ対照的に楽しそうに、壁面に剣を突き立て削りブレーキに人一人抱えながら、軽々しく着地して。

 そのまま屋根伝いに、剛脚をもって駆け抜けていくだろう。

 

 これが獣人の身体能力である。

 

「ぼく含めて、君が大馬鹿者をあんなに集めた。『正規魔王』とやり合えるかもしれない機会は、金輪際ないんだからさ♪」

「くそっああもうバカどもが!!」

【インテリ】【反魔族主義】

 議員の男はその突然な事態に、悲鳴を上げる事も出来ない。

 魔王の首を口にしたこのイカレ女に思わず青い青い空を仰ぎ、あっさり失った立場に心の中に吐き捨てる。

 そしてやはり相変わらず気狂いは間違えている。

 覇濤の支配者『海魔柱ダゴン』が出張ってきた時点でご破算である。

 焦った馬鹿も、命知らずの馬鹿も、身の程知らずの馬鹿もすべて含めて。

 

 しかし知っていて彼が招いた。賽は投げられたのだ。

 もはや 今までどおりなど、どこにもない事を噛み締める。

 

(―――"純人種の為の港を"、それでもやる)

【牙の塔卒業生】【革命家】

 青年は信じている。いわく『暗黒時代』から続き、『対魔戦争』という凄惨たる過去の歴史。

 謳われるとある学説、そして『覇濤』に”艤装”という形で普及しつつある実証。

 時代が進んで、魔族が持ち得るだろう知の積み重なりと魔具への適合の純人種が奴隷となる未来予想の絵図。

 それを根拠に彼の中に占めるは、怪物の様な恐れと、はた迷惑な恐怖と独善である。

 全てが思惑通りいくわけもない。

 未開の海の権益は巨大だからこそ、様々な思惑が絡まっている。

 

(時代が進めば進むほど、魔族との差が手遅れになるかもしれないんだ)

 彼は所詮この計画における内通者だ。この大きな話に噛んだ一つの駒でしかない。

 

 

 

―――しかし、頭の未来予想図に酔う。頭でっかちの彼はまだ知らない。

 目の前の傭兵が実例として魅入られかけたというのに、目を背けて理解していないのだから。

 

 人の怒りは、人の欲望は、人の恨みは、理屈でもない。

 ただ羨ましい、妬ましいだけで人を本気で呪える輩もこの世界にごまんといる。

 この世界の崖の下には、思いもよらない深淵が拡がりうるという事を。

 

 あるいは綿々と受け継がれる人の妄執こそが、醜悪で巨大なバケモノであるという現実を。

 

 ”戦争を招いた”。

 都合のいい未来絵図を描いた男が、その結果を。否応なく目に飛び込んでいくだろう。

 破滅(戦争)そのものを直視する事になるのは、近い未来の話である。

 

 

 

 

 

●●●

 

 

 

―――『聖錬南部:とある都市』

 

 物々しい雰囲気の空間。

 

 なんらかの集まりの集まりか、演台の上で一人の初老の男が堂々と立ち。

 眼下に集まった多様な集団に光景に演説せんとする。

 

 誰かが息を吸う。

 

 狂気的な昂ぶりの周囲が呼応する様にざわめく、待ちかねたように。

 

「―――聞け!!我らが正当なる同士よ!!後継者よ、『対魔戦争』は終わってなどいない!!」

【覇濤残塊】【反魔族主義者】【狂気のカリスマ】

 

 そして覇気に満ちた初老の男は開口一言、時代錯誤の放言を言い放った。

 

 500年以上前の話である。長命種にはともかく"純人種"には長い過ぎる時間だ。

 当事者である長命種以外は誰も覚えてない。

 

『おおおおおおおおおおお……!』

【集団同調】【選民教育:洗脳】 

 それはきっと異様な光景である。この時代にそんなお題目を掲げれば正気を疑われるだろう。

 しかしそれを聞いた眼下に並ぶ同志たちは、覇気に溢れた声に、声を上げ同調する。

 

「見よ魔王領の尖兵に支配された『覇濤』があの絢爛たる繁栄を!アレはもとより我らのものあった!それを簒奪された我らが先祖は500年前に無惨に殺され、奪われ、凌辱され、無念のまま見知らぬ土地にそれぞれ散ったのだ!!」

【鼓法】【演説の極意】

 男は言う。

 実際の『海魔柱ダゴン』及びその"眷属"と"鋼船"が織り成す、豊かで輝かしい治世。

 そこに根付いて育ったもの、それすらも奪われた物、本来浴すべきものであると嫉妬の念を煽らされている。

 

 魔王と眷属の依存した実体を知るものからすれば、鼻で笑うだろうが彼等は大まじめである。

 

 広すぎた海を局所適応種であり、個であり群である”眷属”をもってしても。

 到底手に掴めぬ、このマナに汚染した海の余りの広大さと、複雑怪奇を知らないのだから。

 

「それなのにかの地に住まう軟弱者は侵略者達に迎合し、悠々とのうのうと、あの海を!港を!我がもの顔で闊歩しているのだこれが赦されてなる物か!!これは聖戦である!!]

 覇気に満ちた初老の男が放つその演説は更にヒートアップしていく、

 その胸中に彼等を駆り立てるのは様々だろう―――

 

 憤怒、怨嗟、嫉妬、金欲、性欲。

 ざわざわっ……!

 渦まく人が負の感情に、あるいは外法に面々と継承され、螺子曲がって溜まりに溜まった揮発性の泥である。

 

「しかし同志たちよ!時は来たのだもう我慢する必要はない!今やかの地にも同士はあり、我らは奪還の為十二分に力を蓄えた!」

 覇気に溢れた男の手振り演出と共に―――

 ぱっと照明に照らされるは”機巧”(ギア)の群れを映した。

 それは整然とした鎧の装列である。頼もしい重量の鋼の塊である視覚的効果(インパクト)があるだろう。

 

 途端に熱狂が過熱し、喝采が盛り上がる。

 

『最新機巧フリーダム』【自由の翼】【無尽内燃機関】(リバースサイクルエンド)

 特に目立つのはどこから調達したのか、『円卓』で用いられるエース用、企業の最新式の物も見当たるだろう。

 自由の銘を持つ白と青のコントラスト、鋭利な多数の砲塔、どこかヒロイックな機巧である。

 まだ穢れを知らない翼が、汚れた希望を背負って中心に象徴として、そこにある。

 

「これは聖戦である同士諸君!あまつさえ先祖のその痛みを恨みを忘れ!迎合する連中事焼き払い。我らの土地を我らの世界を、我らの持ちえた全てを!!憎き『魔王領』の先兵から取り戻すのだ!!」

『『『――――――うおおおおおおおおおお!!』』』

 

パチパチパチ―――……

 そして万雷の喝采をもって男の演説は締められる。

 覇気に満ち溢れた歓声と拍手の余韻を背に受けながら、壇上から降りた。

 

 彼等の正体は波濤首国クトゥルー回帰派、かの港(栄光)を取り戻そうとする主張に敵対勢力(テロ集団)

 過去の対魔戦争により滅ぼされた"覇濤魁湾"難民が、難民として『聖錬』に流れてそこで経済基盤を築いた"純人種"勢力である。

 『聖錬』に進出した『魔王』に滅ぼされた現地難民とも合流している為、拠り所となるルーツも混じり、ただ約束の地(栄光)への帰還という曖昧な形で継承される。 

 

 そういうごった煮、『聖錬』に息づく生ける亡者の集団である。

 

―――ぱちぱちぱち……!

 演説の幕裏にてそれを鑑賞し、尊大に足を汲んだ称賛の声をかける男が一人いた。

 鎧纏った美女を引き連れて、過多な装飾に塗れた鎧を纏った粗野な男である。

 

「ははっ!実に小気味いい演説であったぞ『パトリック・ザラ首長』」

「……お褒めに預かり恐悦です『ラグナル王子』殿下」

【聖錬王族】(ハイヒューマン)【聖闘士】【重鎧要塞】

 『聖錬』に多数名を連ねる王子の一人、力自慢に聖錬屈指の豪傑を自ら名乗る男。

 故に比較に比較され末席に数えられる、それにより焦り権威名誉欲に駆られる比較の人面獣。

 しかし、実態は変わりなど幾らでもいる立派な人寄せのお飾りである。

 

「俺とて将軍の身であった兵士の士気の充足具合は肌でわかる―――『傭兵国家』(グレンダン)の傭兵にこれだけ死すら恐れない兵士がおれば、もはや『セレクティブ』奪還はなったような物!」

 

 その光景に鬱屈した名誉欲が存分に満たされたか、満足げに豪快に笑う。

 

「そして、『覇濤』のトーマス殿もすべては順調だと保証している。この実績をもって俺は次期『聖錬』の王に―――見ていろ兄弟よグハハハハハ!!」

「……ええ、約束しましょう殿下の名誉を」

 背後で響く呆れた溜息にも気がつかぬまま。

 彼はバラ色の未来を描いて、粗野な歩みにこの場を後にするだろう。

 その去り行く能天気な背に吐き捨てる。

 

「―――……、ふん若造が、煽てられてれば全て手中にあると勘違いする装飾品(パンダ)風情め」

「そーいうなって、”ザラの旦那"。世間知らずの王子様が記念日に子供が夢がかなうと笑ってると思えばかわいいもんじゃねぇか」

【怪人百面相】【奴隷商】【簒奪者】

 また新顔去り行く入れ替わりに声をかける。

 性根が顔に滲んだ余りに凶悪の悪人面を晒す大男。悪人同士のつながりというべきか。

 その実、近くに同じような簒奪の企みを拡げるド外道の一人である。

 

「いよー!演説聞いたぜ感動したぁ!いよいよじゃねぇか!」

「……『バルムンクノヴァ』の"コロンブス"か、黙れ心無い事を、貴様なんのようだ」

「おいおい随分冷たい反応だなぁ!うちに渡りをつけて人を流したのは俺だぜ。その取り分はきちんと勘定して置いてくれよダンナ」

【商売人(経営者)】【偽金律】【暗黒のコネクション】

 額に手を当て極めて悲しそうに大袈裟な反応(リアクション)をしながら。

 それはそれとして、からっと馴れ馴れしく探りを入れる。

 

「にしても良くあんな機巧(ハイエンド)手に入れたな。扱えるパイロットいるのかよぉ片割れ(ジャスティス)が習熟飛行中に事故って、優秀な優秀なご子息の行方不明って話じゃねぇか!」

 初めて男が、ぴくっと明確に肩を震わせて反応する。

 

「あてにしてたんだろう?今ならうちの”武器”を格安で―――」

「構わん。代わりの"切り札"は手に入れた。『魔導文明』の発掘物……理論上最高の適応性を持つ最高傑作の『人類凌駕種』(エクスマキナ)だ」

【人類凌駕種(エクスマキナ)】【可能性の翼】【調整された者(コーディネーター):人工天才】

 そう言って、舞台裏に居心地悪そうに、虚ろな目にコクピットに縮こまる少年を眼をやった。

 人の設計図を突き詰めて、機械と絡み合ったほぼ理論値を追求した『魔導文明』の最高傑作。

 彼等は包装されていた様に”都合よく”、保管器(ポッド)に保存されていたそれを拾ったのである。

 

「だから貴様の”投資"とやらはいらん。どうせ提供するバルムンクの”武器”など脳みそを弄られた木偶だろう」

「くーっ、仮にも息子が行方不明なのに随分薄情だねぇ憧れちまうぜェ、わかーったよ。幸運を祈るぜ旦那」

 

 そんな悪人同士の牽制のやり取り、互いに目が笑っていないだろう。

 覇気に溢れた男は、離れて、距離をとって拍手の熱狂も遠のき、静かな廊下を行く。

 

「ようやくだ」

 ぽつりと呟いて首元にぶら下げたくすみ古ぼけたペンダントを握り締める。

「……―――ようやく、仇が取れるレノアよ」

『残燃の首輪』【我が怒りの火よ】【過去から復讐者】

 そして火は再び燃え拡がる。

 

 

 

 




なんか増えた敵陣営の連中。
大体これで全部。

処分が大変だ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。