ポンコツ世界異聞=【終幕を切り刻む者達《ハッカーズ》】   作:きちきちきち

134 / 136
茶会【運命の預言盤】

●●●

 

 

―――あれから時は、少しさかのぼる。

 

 若葉の少年が広大な海に落ち、拾い上げられ、意識が戻ってからしばらくの事である。

 

 若葉の少年は思い付きで招かれた茶会で。

 傭兵ギルド『あかずきん』と名乗った恩ある人達と、テーブルを囲みながら対峙していた。

 

『—――おにーさんが"魔王事象"を招いている。そう考えたことはないかな』

 その中で、疑念を負債を突き付けられて、それにティーカップを持つ手が震えた。

 彼の中に返す言葉はない。押し黙るしかない。

 

(……忘れてた)

『腕輪の担い手』【事変の証明者】

 誰にも証明できない。

 『魔王級』(スケィス)との遭遇、"終わりの夜"に己が生き残った理由など―――

 そんなもの、己が一番己自身に問いかけているのだから。

 

「だから、どうします?」

 若葉の少年は辛うじて、震える言葉を絞り出し返した。

 覇涛の支配者の代行に告げられた通告のような言葉、きっと突き付けられた負債の証明である。

 何もするなと言われたが、それは若葉の少年にとっては飲み込みがたいものであるのだから。

 

「敵が、敵がいるのに、このまま、指くわえて大人しくしていろ、とでも?」

「必要ならね。『覇濤』には『覇濤』のルールがあり力がある。邪魔をするならそれこそ誰であっても変わらない、……ってダゴン様は言っている」

「いやです」

【狂羅輪廻】

 即答した。

 茶会にて注がれた紅茶の香ばしい芳香は、彼の本能を誤魔化すには足りない。

 あんなふざけた連中に適わず"同類"と呼ばれた悔しさがある。

 見えない暗中にひたすらの恐れがある。

 それは凶気の輪廻の淵落ちた者の習性、ある種の中毒者、腹の底から湧き上がる自身の欲求に逆らうこと自体は、それこそ死に等しいのである。

 

 それがたとえ、理があろうと『覇濤首国クトゥルー』の支配者代行相手でも変わりはしない。

 

「足音が聞こえたんだ。"侵略者"の足跡。崩れる音、走り続けなきゃすぐ落ちてしまう」

「なおさらだろう。お前は無手で、この状況が吠えた結果の証明だ。躊躇なく飛び込んであっけなくあっさり死ぬ奴の目だぞ」

【口下手】

 深紅のバイザーの男が腕組みをしながら、忠告のような言葉とともに冷徹な視線が貫く。

 言葉は厳しいが、きっとこちらを気遣っての事だろう。その端に棘はない。

 そう動乱の全貌は肌で感じた。未熟、手に余る。身の程知らずの指摘、それはわかっている。

 

カラン。

 しかし、若葉の少年は小洒落たカップを置いて一人ゆっくりと立ち上がる。

 己が愛剣は近くにない。自分で手放した。

 彼らまだテーブルに座っている。自然と立ち上がる動作の中に悟られないように、さりげなく視線を流す。

 

 小銃のホルスター、機巧剣の鞘、それと傘……傘……??

 若葉の少年は不躾だとわかっていながら、そう目的を悟られないように、ゆっくりと歩いた。

 

「……おいカイト、その行動の意味、分かっているんだろうな?」

「ふーん」

【ワンマンアーミー】【無窮の武錬】【修羅道】

ぴくっ

 しかし、相手は格上の戦士だ。その視線の機敏は容易に察せられるだろう。

 紅バイザーの男は、小銃のホルスターに手をかける。

 そう、”下手な得物(エモノ)の詮索”は、この場では挑発に等しい行為であるのだから。

 体制側、ゆえに彼らはどこまでも正しいのだろう。そしてだからこそこの場では相いれない。

 

「まーまー、アレックスもミズキ君も、ここはかわいいさやかちゃんに免じてさー」

『赤ずきん:人魚姫(セイレーンブルー)

 青髪の童女は殺気立ちそうな場を、どこか茶化した声で呼び止める。

 事実、ワンアウト、未熟に気取られたからには挑発行為でしかない。

 しかし、それをまだ見逃してくれるらしい。どこか面白がっているようにも見える。

 

「君も、もうちょっとゆっくり休んでいきなよ。何をそんなに急ぐんだい若人、理由を聞かせておくれよ」

「—――戦場であれ日常であれ、"戦う場所を己で選び取る者こそが自由だ"。ぼくにそう言ってくれる人がいました」

【凍結記憶:偽物の復讐心(イミテーション)

 若葉の少年は無礼を働いたのに変わらず、まだ見据えてくれている優しい彼らに、だからこそ問われれば全てを吐き出す。

 これから己のエゴで恩を押し通り、不義理をするだろう。

 

「勝手気ままで迷惑な人だったけど、心の底から信じてくれた人だった」

【光耀■姫】

 "信じる"という免罪符に、凡て全てにもっと輝けと押し付ける。

 忘却の許されぬ偽物の復讐心(イミテーション)を否定する、ある意味無責任なその言葉に、救われた。

 だからこそ彼は目を瞑って、噓偽りなく胸の内に灯っている言の葉を反芻するように宣言した。

 

「大好きな友達ができました。渦巻いた不安より、その眼を信じる(応えたい)この街には冒険者としての依頼がある。ぼくが戦う理由はある。だから―――」

ガっ……ブォンブォン。

 無造作に足元に落ちていた独特な柄の握りを足をかけ蹴り上げて、宙に放り出す―――

 それは彼が身体を食い破り貫いた狂刃、しかし、この場にある唯一手が届く刃である。

 

『ネイキッドソード:ミスリル装飾剣』【■血感応】

 

ガチッ! 

「押し通ります」

「ふーんそこで手当たり次第で刃握っちゃうか、あたし達とは違うタイプだねえ」

 そして、乱雑に宙に放り投げられた目的のモノをしっかり掴む(キャッチ)

 一回転、それは二刀のときの癖であろう。受け止めた重量を流してそして刃を構える。

 "鋭利すぎる"慣れない刃、長剣にしてはいやに軽く、切っ先はまるでマナを滑り割くようだ。

 触ったことはないが、きっとこれが"一級品の刀剣"というやつなのだろう。

 果たして扱いきれるか、その疑問と不安などは沸騰して流れる。

 

 戦い続けるのは前提条件だ。理由などその道標でしかない。

 "偽物の復讐心"(イミテーション)から導き出される。だからこそ純心な答えである。 

 

「だってさ」

 それに対して青髪の戦乙女は、椅子に座って手を組んだまま。

 どこか面白げに水玉色の少年に反応を流す。

「どーするーミズキ君、君がダゴンの奴からの監視役だけどさ」

「うーん?」

【眷属:上級魔人】【人喰らい】【善悪二元論】 

 水玉色の少年はその言葉に子首を傾ける。彼には意味を見出せない。意味が分からない。

『覇濤首国クトゥルー』を支配する魔族、海魔眷属という種族は特殊である。 

 彼らには彼らの言葉(ネットワーク)がある。それは距離も時間(ラグ)も誤解すら超越した特別なものだ。

 海魔柱ダゴンを頂点とした眷属という全体を構成する一個体であり―――

 半面、若さゆえに"エゴ"が薄いゆえにまったく意味が分からない。

 

「よくわからないけど、刃を取ったって事は聞く耳持たないって事かな。こういう場合—―――」 

 

 だからこそ、まるでお互いのありの様に誤解なく、全体の利益のために社会を構築している。

 近すぎるゆえに、個別の名前とは"級"(クラス)といった別に役割が存在する。

 その中でも特に彼は鈍い、価値観の天秤は、ある種極端に全体主義または拡張した『覇濤』という共同体に偏っているのだから。

 

 穏やかな室内に置いて、その傘を開くという矛盾した行為を経て。

【上級眷属】【水母の化身】【月衣:鏡花水月】

ずぞぞぞぞっぞ!!

 それに呼応して、泡が弾ける幻想的なイメージから悍ましい海魔化身が多くが咲いた。

 水玉色の少年の足元に傘から水滴が落ちて、爆発的に周囲を支配し隔離する。

 

(……っず!?精神干渉、か!)

 意識が飛んだ。

 呼吸を止め揺り戻す。招かれていない頭をかき乱す頭痛の感触に、苦痛を漏らした。 

 初めて感じた本物の上級魔人という存在感。

 一所為、それだけで、数のを成し、泡のように包み込んで結界のように、異界をなすだろう。

 マナを半ばすでに支配されている。対抗する為の音叉の性質を持つ愛剣はその手にはない。

 

 これが人類上位種たる『上級魔人』が月衣(カグヤ)

 それに類するものに、許されるマナの世界の自己を表現する理不尽の権化の総称である。

「おにーさんをいったん弱らせて捕まえて、大人しくなってもらうのがいいのかな?」

【ジレンマ】

 魔王、海魔柱ダゴンの指示はない。覇濤の支配者はこんなに些事に係る程、暇ではない。

 ただ、命じられた通り監視役として考える。

 少なくとも余所者、不確定人材である。あるいは"爆弾"であるかもしれない。

 ならば、指示があるまで"保留”の状態にすべきだろう。

 

 ミズキと呼ばれた眷属が海で監視対象を救い上げたのは、

 ただ。彼が悪い人じゃなさそうだからだ。

 この時世において監視対象に役割はない。別に、必要だからという訳でもない。

 

ジリ。

「はぁ……何をやってんだが」

 対峙する。無言の緊張―――

 赤バイザーの男は意地を張る少年と、融通聞かずの眷属にため息を漏らして顛末を見守る。

 どうやら、他はテーブルに座ったまま水玉色の少年しか動かないようだ。

 二人は傍観である。おそらく遥か格上が3人、助かる。

 

 

 しかしその膠着は、意外な形で打ち破られる。

 

 

『—――やっと、やっとやっとやっと、見つけた』

「ふえ?」

『電子術式:黒写の天球儀』

 若葉の少年の惚けた耳に、己の中から響き、聞きなれた転がるような声が聞こえる。

 凛と鈴が転がるような。しかし、心なしか怒っているような響き、である。

 

 

―――ヒューン…………!

 大きくなっていく何かしらの飛来音を感じる。

「は?」

「えちょっとま、リコやめ待って………っあの、逃げて!?」

【円環精霊】【タッピングエア】【憑依具:異心電信】

 半身、同属性による、異心電信これから起こりうる展望が伝わり、大声を上げた。

 そして、既に止める事が手遅れであろう事を。

 若葉の少年はそれに壁蹴り跳躍、宙に逃れ、腕輪の力で緊急の花冠()を生成して少しでも衝撃を和らげようと備える。

 

『建築機巧(ギア)杭打ち重機(パイルバンカー)

 

 予想外、サプライズ、まさしく奇襲。

 

ぐにゅ……。

 展開されていた電子細工の花冠が弾け、展開された異界が紙が燃えるように崩壊して。

バカバキッズッツッドンォォオオオン!!

 そして次の瞬間には浮島(フロート)を海底まで固定するでかくて立派な鉄棒に、建物ごとぶち抜かれたのである。

 

「わー?!なんで、ごめんなさいごめんなさい!!」

 若葉の少年は、勿論その犯人はわかっている。

 近くで行われるライブ会場の建築機巧(ギア)乗っ取(ハック)した、儚紅の幼子の仕業であろう。

 

 突き刺さる杭、派手に吹き飛ばされる瓦礫、木片、着弾位置は儚紅の少女の計算済みだった。

 その証明に若葉の少年側には、被害は見事すぎるほどに軽微である。

 

リィン♪

「ぶい」

「ストップ、ストップ!!リコ、助けてもらったんだってば!!」

【常世割き咲く花】【憑依具:逆召喚】

 焔が、若葉の少年が周囲に、虚空花開いて散る中に見慣れた幼子が現れる。

 誇らしげに成果を誇るように、その小さな手でブイサインをしながら虚空を彩っている。

 パスを辿った逆召喚という現象、だろう。

 きっと、理由なんて考えずともわかる。半身であり宿主たる若葉の少年の為だ。

 

「だって—――必死に探した。全部全部機械の手を繋いで、そしたら襲われてたの」

「そうだけどそうじゃなくて…っ」

 困った。

 状況把握に、戦場に感化されたままの本能に、高所を取ろうと突き刺さった杭に踏み降り立つ。

 今だ周囲には破砕された粉塵が立ち込めている、相手が無事かどうか確認もできない。

 

「とにかく粉塵を”ククル”―――」

【精霊術Lv1(2)】

 あの状況であれば、襲撃者に捕えられた可能性が一番可能性が高く、事実、近くに月衣とオドを激しく励起させるを観測すれば、その確信は大きくなる。

 彼は怒るに怒れない。彼女にそうさせたのは己の不甲斐なさである。

 

 ミストラルがいなければ風が使えない。

 異界解けて溢れている海属性を精霊術で結ぼうとして。

 

「—――ッ」

『ネイキッドソード:怨嗟骨髄』【■血感応】【狂羅輪廻】

ゾワァ!!

 突然に、鋭利で冷たい殺気が少年の本能を貫いた。

 感応、すっぱりと首が落ちる幻視、刃が来る。まるで刀に導かれる様にそれだけがわかる。

 

 自然に手首を脱力しながら反射的に翻して、

 剣先を蹴り上げ手慣れない刀を身動ぎに振るい、過ぎた重量に指先を添えて剣筋を通す。

 きっと、それは彼の剣戯ではない。彼の経験ではない。きっと怨念の血に繋がった感応現象(エコロケーション)

吟ッ!!

 衝突、打ち鳴らした。火花が弾けた。

 あの奇襲(サプライズ)からまさしく返す刀それこそ、瞬きより早く一瞬の出来事である。

 

(はや…うちっ!)

「いい勘してるじゃん。でも面倒な事してくれたから――――」

【瞬撃士】【機巧剣:炸裂機構】【夢幻羅道】

 それは機巧剣の一種、海という人類の生存領域ではない場所で生まれた流儀。

 対魔戦争の時代、水の密度と粘性を魔人が月衣ごと突き通す為に生まれた炸裂剣である、

 熟達者であれば当然に、大気中であっても破城の槍として通じるだろう。

 

ギギギギギ……!

 

「このままぶっとんじゃえ!!」

シュバッ!!

【一刀鞘花】

 なぜなら童女はその源流(オリジン)である。純度は使い手の比ではなく―――

 機巧細工二の段、大海すら突き通す衝撃が、鍔迫り合いのガードの上から少年を貫き通し。

 

 そのままわざと彼方へと弾き飛ばす。

 フルスイング、(あやま)たず、それは目的通りにである。

 

 そして、ようやく破砕された粉塵が収まり、件の少年が吹き飛んでいなくなった場所で。

 

「め、め、めちゃくちゃするな……っ!」

「わっはは、かわいい精人さんだったねぇ。随分とアグレッシブにお迎えが来たこと」

ガラッあ……!

 瓦礫を払い除けて赤バイザーの男が、粉塵の中より這い出てて埃を払う。

 身体が思考より先に動いた人魚姫が、愉快そうに煙吹き白熱した刃を鞘へと納めた。

 先の返し刀の影響か、身体には無数の木片が突き刺さって、血を噴き出していたりする。

 

「よく懐いているもんだ。この複雑で拡い『セレクティブ』の中で、よくここを探知したものだよ。それに純粋な殺意に反応してそのまま逃走を選んだね。いい勘もしてる。もう完全につぶれてるけど見聞色の才もあったのかな」

「そんな事より、大丈夫か”人魚姫”、さっきの破砕でいろいろ刺さっているが」

「んー、あーだいじょーぶだいじょーぶ。なんせさやかちゃんは不死身だからねー。おーいミズキ君は大丈夫かーい」

【八尾比丘尼】【不死者の縫合術】

 青髪の童女はそのケガをあっけらかんと笑い飛ばすだろう。

 彼女はとある由来できわめて死ににくい。その生血はモンスターを引き寄せる。

 そんな化け物として迫害を生餌として、悲劇を生み出すために悪意をもとに放流されたそういう存在である。

 

 

「ふにゅぅ………―――」

「あっちゃー。ミズキ君、領域一気に割られた反動(フィードバック)で完全に伸びちゃってるね。起きたら焦るだろうなー」

 水玉傘の少年は、崩れた床にぺたんと仰向けに寝込んでいた。

 生物的機能としての領域汚染、異界生成それを拡げることは神経を拡げることに等しく、だからこそ、一気に壊されれば反動でこの有様である。

 

 

「追わなくていいのか」

「行かせてあげなよ。ダゴンの奴ならともかく、元から私達に止める権利なんてないんだからさ」

「今なら、理由ができたと思うが?」

「無粋だねぇアレックス。いやアスラン=ザラ(・・・・・・・・・)君が人のこと言えるー?男の子のする事だよ、わかるでしょ意地っ張り」

「………だからこそだ。こんな事に部外者が死に急ぐ理由はないだろ。死ぬぞあのままじゃ」

「かもねー」

 赤バイザーの男は、さらっと偽名を指摘され苦々しい表情で噛み締める。

 国外で蠢く覇濤残会過激派その指導者たる"ザラ"の姓、それが示すところは大きい。

 偽名をもってそれを隠す、きっと彼には彼の譲れない事情があるのだろう。

 

 それはさておいて。

 青髪の童女は、手早く傷を縫い。

 崩れた柱に背をかけて座り、水玉色の少年を撫でながら思う。

 

「さりとてダゴンの奴、冒険者をミズキ君の勉強に使うつもりだなー。相変わらず意地の悪いね」

【王国十三英傑】【対魔戦争経験者】

 彼女は『覇濤首国クトゥルー』の絶対的支配者である『海魔柱ダゴン』に気兼ねしない。

 長い長い付き合いであり、元々が敵同士である、囲んで殴って剣も槍もぶっ刺した関係だ。

 

「これで温かく見守ってるつもりなのかな。女神気取りかっつうの」

 ミズキと呼ばれた眷属はまだまだ若く、しかしとして年に不相応な賢さにいろいろな物事をすでに線引きしてしまっている。

 絶対者からなる種族全体から生物的な位階、群体生物的なシステマチック(それぞれのやくわり)、絶対者からなる俯瞰的な善悪の二元論―――

 そして、彼は特殊個体である。捕食行動がそのまま種族的な代謝にもなりうる、そんな難しい子だった。

 

「頑張りなよ。少年、結局のところ大事なのは、キミ自身がどうあるべきかを強く持つこと―――」

 青髪の童女は、この出会いを飴玉のように言葉を転がした。

 話していればわかる。

 何事も飲み込んでから解釈をし、その在りのままの距離で座るそんな風中の山の如く気質。

 そんな、本来なら戦士の気質に遠い少年が、過去の己のように戦に憑りつかれてるか、あまり良い想像はできないが―――

 

「この街が幾らうまく回っていたってさ、本当の意味で個人(ヒト)を救えるのは、いつの時代も誰かのエゴだけなんだからさ」

【かつて恋に救われた者】

 彼女は脳裏に思い返すのはかつての白金を受け継いだ鎧の彼、である。

 頑固すぎて、ある意味、純粋なエゴの塊である。あの冒険者はきっといい刺激になるだろう。

 

 世界の影に生きる誰かが悪を、道化を、災害を、理不尽を殴り付ける。

 

 この世界で長く戦場で生きる者は、

 きっと、それが少しでも、世界を優しくする方法だと知っているのだから。

 

 

 

●●●

 

 

 

―――ところ変わって。

 

 

 『セレクティブ路地』

 

 若葉の少年は、必死に逃走し路地の壁に背中を預けていた。緊迫を解いて肩で息を吐く。

 そう不義理を承知で、炸裂刃に吹き飛ばされてそのまま、あの場から遠くへと逃げ出したのだ。

 

「やばかった。本当に追ってこなくてよかった」

【レンジャー】【超俊足】

 元々、意地張っていい相手じゃなかった。ただ言葉を許されていただけだった。

 それはわかっている。本来ならあの抜刀一閃で、悠々と己が首など落としていたのだろう。

 

 しかし反応できた。できてしまった。

 

 ここに、相手の無事を確認せず、不義理を押し通した理由がある。

『ネイキッドソード:怨嗟骨髄』

ガタガタガタガタ……!

 若葉の少年の握りしめた刀が震える。

 まるで先の鋭い殺意に興奮してエモノを求める様に、それを意思の力で強く握り押さえつける。

 

「これ、”成りかけ”、かな。あの傭兵、どれだけ人を斬ったんだ」

【精霊術師】【■炎:蛍火】

ぎりぎりぎりっ。

 まるで刀に憑り動かされた感覚に思う。遥か遠く噂に聞く"妖刀"、その羽化しかけ、だろう。

 どうやら一級の刀剣素材(ミスリル細工)に、この刀が錆へと変えた人間の幾多の呪詛と、

 己が死に瀕した時の決死の血潮と、"精霊の糧に成り易いオド体質"が合わさって、実を結んでしまったらしい。

 

 拾った帆の材料であろう布できつく縛り付ける。

 強く強く、まるで凶暴な獣の首輪を引っ張るように、どちらが主人か教え込むように。

 

「後で『呪印』で封しないと、これで大人しくしてくれるといいけど」

「……"解く"(デリート)、する?」

「ダメ、碌なもんじゃない。きっと肉体がないリコは触れない方がいい」

 近しい例を挙げれば、『桜皇:百任一朱』が運用する式紙"斬魄刀"が近しいだろう。

 後天的に言えば、儚紅の幼子の器になっている精霊巫器『絆の相刃』だってそうだ。

 それは製造に陰陽、雄雌の如く鞘と刀が一セットであり、神咒(カジリ)のほかに、"鞘に収める事"で寝かせ制御に一役買っているが、それでも未熟ものが式神に食われる例は後を絶たない。

 

 そのくらい『妖精』『式神』、生き物を武器にすることは危うい事なのである。

 しかし、しかし、この刀を収めるべき鞘は元からない、らしい。

 

「とんだ拾い物。だから、刃には鞘が必要なんだあのバカ傭兵め」 

 マナという不純物に溢れた世界だ。斬り(喰い)続ければ"化ける"、”成る”事も在るだろうに。

 抜けば殺せるという利点だけで、本当にこれの使い手は馬鹿なんじゃないかと悪態を付いた。

 先の返し刃には助られたが、もし追ってこられて、刃を向けられたら。刀に染み付いたヤリ方(マンハント)で応じるしかないだろう。

 

 少年の未熟故に、きっと殺し合いになってしまう。

 幸運なことに、そうならずに済んで。とにかく安堵のため息を漏らすのである。

 

 しかしそれはそれとして――― 

 

「これから、どうしよう」

 陽は落ちかけて、街は眠る。若葉の少年は見切り発車に途方に暮れる。

 連絡自体は、儚紅の幼子がいればいくらでも付くが、こうやって体制側に喧嘩を売ってしまったからには、大人しく徒党(パーティ)の仲間の元には帰れない。

 

 病み上がりである。生命力に活性された体が熱い。屋根の下で少し休みたい。

 金も余りない、失ったものを補充もしたい。

 

 しかし、観光先の異国である。頼れる相手は―――

「いる、けど」

 彼は、懐にしまってた観光案内の別れ際に渡された紙を取り出し眺めた。

 

「—――迷惑、だよなぁ」

 彼が勝手に友達だと思ってる。この街で知り合った頼れる相手が思い浮かんだ。

 しかし、彼女は年頃の異性である。

 しかも、こうやってやらかした相手を匿ってくれなんて、迷惑極まるだろう。

 

 それでも、この街のどこかに侵略者が潜んでいるというならば―――

 大好きな友達が取り戻したいものがあるというのならば―――

 

「戦わないと」

 ぽつりとその一言で、凡ての迷いを振り払って目的地に歩を進める。

 

 ただただ純粋に、狂羅の輪廻に導かれて。




寄り道多くて話が進まない。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。