ポンコツ世界異聞=【終幕を切り刻む者達《ハッカーズ》】   作:きちきちきち

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砲撃【運命の預言盤】

●●●

 

 

『覇濤首国:セレクティブ』

 

 

 

―――さらに数日後。

 

 戦の匂いがまだ薄い、そんな表の街の表情、朝焼けの話。

 

「それにしてもごめん、こんな事に付き合ってもらう形になっちゃって」

「んー、気にすんな。あたしも戦傷扱いで待機命令中だ。暇だからさ」

 若葉の少年が顔をフードで隠して、覇濤の街を歩いているだろう。

 彼が、こうして街を出歩くのは情報収集と戦準備、消耗した道具の補充目的の為である。 

 

「にしても街の中で買い物行くだけなのに―――」

『白磁のクローク』【深紅の瞳】【メンタルモデル】

 勝気の少女がその隣を。

 小麦色のサイドテールと白磁のクロークをご機嫌に揺らし連れ添っている。

「フードで顔を隠すってさ、考えすぎじゃないか?カイトの手配書なんて回ってなかったぞ」

「一応、ね。襲撃の可能性あるしぼくがやらかしちゃった事、一歩間違えればテロ行為だから……」

 残念な事に大きく切り裂かれた愛用軽鎧はもう補修も効かない。文字通りおしゃかだった。

 彼の防具唯一、特注の"細工籠手"が生きているのが不幸中の幸いであるだろう。  

 

「バレてても悪びれず堂々としてるよりましだと思う……?多分きっと??」

【聖錬冒険者】【田舎育ち】

 そしてそんな問いに自信に欠けたカラ笑いで返す。

 流石に『体制側』に対するやらかしが大きかった。気軽に外を出歩く気にはならない。

 仮に彼の故郷(田舎村)でやらかしたら、村八分の上に袋たたきだ。

 相手から見れば己が我を通す、その結果的に家屋全壊からの逃亡犯である。

 

 しかし、『覇濤』の外の人間である彼は知らない。

 超越者『魔王』たる支配者の系譜である"眷属"には、変装術の心得もない素人のそれなぞ、ないに等しいという事を。

 

 これを仮に『人魚姫』(セイレンブルー)が聞いていたら笑い飛ばすだろう。

『わははー、仲間内の喧嘩で拠点が吹っ飛んだなんて『対魔戦争』時代なら、よくあることよくある事ー』

 と。

 

「ふーん。まーいいけどさ」

 つまり黙認されているのだろう。

 『覇濤』で起きるほぼ全ての事故事件を、"眷属"が解決してきた実績は伊達ではない。

 故に勝気の少女は、彼が告げられた言葉はある意味ポーズに近しいのだろうとわかっている。

 だが口には出さない。若葉の少年は剣の柄から手を離さない。彼は大まじめである。

 

 というか、それによってこうやって頼ってくれるこの状況が割と好ましかった。

 

「でも疵塞がってるから、少し休めば一人でもう動けるのに」

「ほら、こんなこと言ってる奴放っておけねーじゃん。んー、こういう属性金属と野草の取り扱いなら、南の"魔法雑貨通り"がいいんじゃないか案内するぜ?」

 若葉の少年は既に半分臨戦態勢である。

 周囲を警戒しながら、多少マナを騒がせながら彼らは供だって歩く、歩く。

 

 そうして市場を物色しながら。 

 

「食べ物の時にも思ったけど、土地が違うのに、呪印塗布の調合用の薬草も鉱石も、本当にゴルさえあれば何でも揃うんだ」

「だろ、だろ?すげーだろ。いっそ落ち着いたらカイトも拠点移してここに住まないか?」

「無理、代わりに何もかも高価(タカ)いよ。"眷属"もいるし人多すぎて海の専門技能ないただの冒険者には食い扶持が困る」

「ちぇ」

 勝気の少女の挟まれる冗談を流して、新調した防具の重心を調整する。

 必要なものはすんなり揃った流石『覇濤』の港町というべきか、必要に迫られて有難さが身に染みてわかる。

 

 まさしく、選択肢が多くある。"ゴル"()さえあれば補填は容易であった。

 もし、本来拠点『ラインセドナ』であれば、ミストラル(商人)の伝手が必要な消耗である。

 

―――『公園』

 

 海鳥の鳴き声が響き渡る。

 

 そうしてこうして、彼らは戦支度調達を済ませ一息、街の小さな公園で小休止を取っている。

 人気は少ない。

 子供がブランコに、母親がその背を押して無邪気な笑い声がこだまするだろう。

 

 それを背景に。

 若葉の少年は買いそろえた属性金属と薬草と油をすり鉢で砕き擦り合わせて。

 彼が得手である"呪印"(ウェーブ)の塗布油を補充している。

 

「拾い物の剣に何してるんだそれ。そんな布で物々しくぐるぐる巻きにして、さ」

「んー、油断すると噛みついてくる布巻いて呪印打って、急造の鞘(首輪)で"待て"してる。これ妖刀の成りかけっぽいから」

「はえー、面白いな。そういうが陸の冒険者のやり方なんだな」

「いや、ぼくのは古いし賢くないやり方、勉強できればもっと簡単で効率いい方法は幾らでもあると思う」

【田舎育ち】【呪印術】(ウェーブ)

 それこそ、頭のおかしい使い手が、抜刀の一手間を嫌って刀にとって対となる鞘が存在しないからこそ打ち込めた楔である。

 

 そんな会話のさなかで穏やかな風が吹く。風に流れてきた一枚のビラを拾う。

 

『平和の歌姫ラクス=クライン』

 そのライブの宣伝のチラシであった。

 開催場所は、どうやら東に見える新造された『海上ドーム』で行われるらしい。

 遥か遠く、その場所を見やる。

 

「—――開催は今日の午後か」

「ん、興味があるのか?やめとけやめとけ、もうチケットは完売だぜ、なんたって聖錬有数の吟遊詩人(バード)ラクス=クラインの記念コンサートだかんな」

「いや別口、なんかこれも導火線らしいよ。」

 意識の片隅に置いておく。

 その方向を見やれば遠目にも目立つ、護衛だろう軍用機巧(ギア)が整列しているのが見えるだろう。

 

(高価な軍用機巧(ギア)があんなに)

 若葉の少年は『高山都市』の経験に、機巧(ギア)とその繰り手の頼もしさは知っている。

 その荘厳さを見やれば、きっと万が一にも懸念がないとわかった。

 この身に染みた凄い人たちが準備して備えて言うのだ。何も必要としていないだろう。

 彼は幸運な事に、先の茶会でそれが導火線の一つであることを知った。それだけの事を意識にとどめる。

 

 それはそれとして。

 

「で、ここからどうします?クリーブランドさんに宛は」

「それなんだよなー。上も動いてるけど、拠点がわからない。あんな苦労かけて奪ったんだから、どこかで使うはずなんだ」

「そっか、じれったいね」

 風が流れる。むず痒い。心は戦場にあるのに、待っているのがとてもじれったい。

 息が詰まる息が詰まる、そんな感覚に呟いて、中途半端な故に常在戦中に至らぬ心を持て余す。

 

 今は、己が手に届くことを、準備を重ねて―――

 

ヒューン……――――

 勝気の少女の耳が、遥か彼方何かの異質な飛来音を拾う。

「ん、なんか打ち上げたか、予定にないけどコンサートの花火か―――?」

【裡の海メトローム】

「—――いや、これ違うこの音は、違う!?とにかくやべぇ伏せろ!!!」

「!」

どんっ

 勝気の少女は若葉の少年を、いち早く突き飛ばした。

 次の瞬間に、

 灼熱する流星の如く砲弾が、公園を外れた石畳を砕きあたりに風景を炸裂四散させる。

 

―――ガドッォオオン!!

『グフタス/ドーラ列車砲』 【80cmカノン砲】

 光景に遅れて、破砕音が響き渡る。

 その正体は『覇濤』が誇る最大級の鉄船である『戦艦級』すら、凌駕する口径の砲塔の"列車砲"である。

 

「げほっげほ、いつつなんだ一体何が起きたんだ」

【メンタルモデル:艤装】【強化人間:超頑強】【多目的ハイパーセンサー】 

 彼女自身は頑丈さ任せに衝撃を飛び退き流して、踏ん張りながら。

 轟音に軋みひるみながらも、艤装に組み込まれたセンサーを稼働させる。

「……は?」

 

 困惑、土煙が晴れれば、平穏だった公園、まさしく一変していた。

 石畳に大穴、跡地の灼熱を見るに属性金属の砲弾でも使ったか、遊具の破片が広間を蹂躙しているだろう。

 

「うええええええん。まま、ままぁ!!」

 

 子供の泣き声が聞こえる。

 そこにセンサーを向けてみれば、その隣で恐らく母親だろう影が倒れ伏している。

 遊具の破片に当たったか本来、人は脆い。悪意の余波で十分に致命的だ。

 一転する、この地獄のような世界で人が作り出した街という楽園。

 その栄華の極みともいうべき『覇濤』とて、蔓延る悪意に一歩転じれば地獄の窯一直線である。

 

「冗談、だろっ?!おい、大丈夫か!!」

【海上騎士】

 勝気の少女はいまだに困惑と粉塵立ちこもる中、己の責務に反射的に体が動くだろう。

「うええええん……」

「大丈夫だ。今ねぇちゃんが助けてやるからな……!」

ヒュン!

 とっさに応急手当に包帯を取り出して駆けつけようと

 そこに悪意の飛来が襲い掛かる。

 

『魔具:十架指罪爪(スカ―デスネイル)』【五趾の弾丸】【魔具使い】

ガキンッ!!

「誰だ」

【円環精霊】/【迎撃態勢:怨敵覚悟】【ニ刀流】【俊足】

 若葉の少年は即座に立て直しカバーする様に、飛来する"何か"を双剣で弾き飛ばした。

 咄嗟に突き飛ばされて姿勢低く被害は軽微、未だ粉塵立ち込める中、それを成したのは儚紅の少女の導きによるものであろう。

 

「聞くまでもないか、タイミングが良すぎるつまりは"敵"」

 それは|"爪"か弾かれた慣性のまま直進し建物の壁を抉って、悪意の出所に帰っていく。

 ただ、睨みつけて。

 

『腕輪の担い手:プロテクト』【狂羅輪廻】

 追撃に襲い掛かる複数の”爪”(ネイル)を背後に流さない様に、腕輪由来の障壁でもって受け止め勢いを殺し、踏みしめ耐える。

 

バリン!!

 しかし、受けに回るのは彼の本領ではない。

 多少の膠着後割かれて挟まれる(捩じられる)を間一髪に、前進して直撃は避けた。

 

「どうなってんだよ?!陸からの戦艦以上の砲撃、それにこんなタイミング良く暴漢なんて!!カイト、今援護を!」

「必要ない。いいから行って、頭の出血はすぐ手遅れになる」

「でもっ奴ら7人も、しかもこれ全員高ランク魔具使いだぞ!!」

 彼女のセンサーは鋭敏にとらえている。

 暴漢は複数人であり、オドの出力だけでいえば若葉の少年を上回っているだろう。

『カオティックPK』【AIDA感染者】

 それは近年、『聖錬』で噂となる違法魔具の適応者。

 その中でも、暴力に肯定される不安定な傭兵国家に流れた半端モノたちである。

 

「やりたいこと!やるべき事、ただやりたい様に走ってぼくは―――」

 呼吸法に深く、双剣を鞘から引き抜き構える。殺意が跳ね上がる。

 そして淡々と、剣を向け宣言する。

「こいつら片づけてから追いつくから」

「……っ」

 勝気の少女は逡巡する。

 若葉の少年は強い。もちろん彼女は頼りにしている。救命に一刻も争うのはその通りだ。

 しかし、海でのトラウマが過り、その足を鈍らせて。

 

「あぁもう!すぐ戻るから!!少ししたらきっと"眷属"達が駆けつける、無理すんな死んだら許さないかんな!!」

「うん」

 しかし、『覇濤』が船娘の一人として、強く釘を刺して親子を抱え医者を探しに駆け出した。

 彼女の研ぎ澄まされた聴覚と"多目的センサー"が、もう滅茶苦茶に熱源反応を拾っている。

 どうやら、街全体至る所でお祭り騒ぎが起きているらしい。

 

 それに対して襲撃者は、己の優位を確信したか影がわいてくる。

 その数は、七人程かまるで待ち侘びた様に、ぞろぞろと好き勝手わめいている。

「邪魔しやがった邪魔しやがったあ、なんだぁ華がねぇ方が噛みついてきやがった」

「ぐふっ、『覇濤』の美人エリート様を蹂躙できると思っていきりたったこの股間をどうしてくれるんだよ」

「やだやだ下品下劣ね。こんな連中のお姉さまに近づけてられないわ」

『カオティックPK』【魅■の金眼:鮮血の牙】【AIDA感染者】

 それは全て醜く歪ませていた。

 愉悦に崇拝に蹂躙に性欲に略奪にこれからの期待に、己の欲望の賛徒に獣の如くである。

 

バリン!

【ファストアクション】【魔法剣Lv2:虎輪刃】【狂羅輪廻】

 

「なんだぁ??なんかしたか貧弱なその爪楊枝でよ」

『魔具:光の護封装』【魔法剣Lv3/5】【精霊術Lv1/6】

 返礼代わりの如く放たれた飛ぶ斬撃は、魔具使いの自動化された収束魔法剣に弾かれる。

 得手の出力・収束率で劣っているこれが、『魔具』の"装着者の拡張"という結果。

 

 それは上級に近づくほど、より先鋭化し魔具による"生物的改造"という最適化に近くなり、

 混沌の"感染型生物タスク"(AIDA)は、本来必要であるはずの魔具職人による”魔具の調整”をある程度を代替えする。

 そして本来『魔具使い』として育つべき、社会性(頼る事)を壊滅させたのが彼等だ。

 

「しかし姉御から聞いてるぞ坊主、お前も"上級魔具"持ちなんだってなぁ!!とんだ宝の持ち腐れだ。だから―――」

 彼等はただ嘲笑する。

 己が手にした人生を変える力を持ちながら、冒険者という縮こまった生き方に収まる愚か者を。

 

 だから。

「「「「「寄越せ」」」」」

『魔具:十架指罪爪(スカ―デスネイル)』/『魔具:光の護封装』/『魔具:丹霊鼓砲(エコーブレス)』/『魔具:白玄機甲』/『魔具:紅の血風(スルシェン)

 無造作な欲望が木霊(エコー)仕向ける。この世界にとって、数の理は絶対だ。

 それがたとえ連携を取らず、それぞれがまるで主人公を気取っていても変わらないだろう。

 

 しかし、たいして。

 都合よく集められた数、タイミング、襲撃者の裏を俯瞰する。

 

「あそこから見てるの、この波長(ノイズ)と血の匂い覚えがある」

『腕輪の担い手:電制感覚』

 あぁタイミングの測り、狙い打ちに仕掛けられた。同類故の共感で、看破する。

 ただ邪魔なのだろうか、変わらず勝気の少女を狙っているのだろうか。

 

「あの時の『吸血鬼』の差し金、敵敵敵敵敵敵、どこもかしこも敵だらけ、多すぎるんだよ」

 しかし、やることは変わらない。一つずつ、恐れるものはすべて片付ける。

 ただ、それが多すぎるだけ。多すぎて、それはもう心が軋み上げているだけ。

 きっとその為に、獣殺しでなく"人殺し"(マンハント)の流儀が必要だというならば―――

 

『ネイキッドソード』

ガタガタガタ……!

 鼓動を感じる。血の臭いに誘われたか、ガタガタと震える。

 今は呪印術に封をしてあるヒトリオオカミの牙を。

 

「"待て"、まだ」

 手を添えて制する。躊躇はしない。簒奪してでも身に焦がすだろう。

 彼に枯渇せぬオアシスの如く戦意の具現の道は遠いのだから。

 

 

―――●●●

 

 

 

 場所は変わって『覇濤』に津波に対する避難場所の一つから。

 一つの影が、眼下を見下ろしている。その様子を眺めている異形の存在があった。

 

「ふふ時間ぴったーり♡定刻(ダイヤ)通りってやつかしら~」

『元装式魔具:鮮血の伝承』【影を駆け抜ける者】

 噂の港の吸血鬼、機械的な翅、不敵に笑う紫の薔薇の如く吸血鬼の女である。

 この陸からの砲撃は鏑矢であり、襲撃者にとっては予定通り、時刻通りの事だった。

 

「まっさか、あのイカレ狼とやって運よく生き残るなんてねぇ」

 女は不敵に笑むように、しかし苛立ちに指噛むようにひとり呟いた。

 本当なら仕向けて食い合わせたオオカミ相手に消させるつもりだったが、生き残ったというならば、それは邪魔くさくて仕方がない。

 もう一度、甘言にぶつけ様としても、

 あのオオカミも、一度食い散らかした残飯(たべのこし)には興味を示さないだろう。

 

「―――ほーんと危険よ。そういうめぐりあわせ(・・・・・・・・)に恵まれた冒険者って」

【吸血鬼の如く】

 吸血鬼の女は警戒していた。

 異邦から偶然にもこの事態に紛れ込んだ『同類』を、だ。

 怪物は知っていた。

 己を、そういう巡り会わせに転ばせてくる小石のような下等生物(ニンゲン)がいるという事を。

 

 だから。

「色々調べて、あたしこの街で欲しいものが出来ちゃったの、あんた達すっごく邪魔してきそうだからぁ~♡」

【生物幻想】(ファンタズム)【魅了の魔眼】【超絶美形:エイジング】

 足止めに、傭兵国家に流れてきたお上りさん達をぶつけたのだ。

 その魔眼に、その甘言に、その美貌に誑かせて。

 

「そこでお馬鹿な下僕共と血が枯れるまで遊んでなさい」

【罪悪失調症】

 宣言する怪物は何処までも全てを見下しながら、嗤う。

 

 歴史の積み重なりに溜まった欲望の泥が今弾けて、何もかもを燃やし尽くす。

 後の世に『血のセレクティブ』と呼ばれる大事件。

 その始まりであった。

 

 

 




本来、罠師の男にやらせるはずだったムーブの傭兵たち。
やっぱ中身設定すると脱線するから駄目だな。
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