ポンコツ世界異聞=【終幕を切り刻む者達《ハッカーズ》】   作:きちきちきち

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闘争都市【ルミナ・クロス】
護衛【吟遊詩人】


【ラインセドナ】

 

 

 冒険者ギルド、ヴェルニース亭にて

 いつも通りに、冒険者ギルドでその日暮らしの依頼を探していたところに。

「すまないカイト、今少し時間あるか」

「あ、おはようガルデニアさん。何か用ですか?」

 こう冒険者の先輩である、ガルデニアに声を掛けられた。

 彼等はこうやって共通の生活基盤”冒険者ギルド”を通して、度々交流を重ねていた。

 

 ヴァルニース亭にて、酒場で三人の冒険者がそれぞれに話をする事になった。

 参加者はガルデニア、カイト、ローズの三人だ。

 

吟遊詩人(バード)の護衛…?ですか」

「ああ、そうだ。それが今回の依頼でな、人手が足りないから君等もどうかと思ってな」

 事の顛末はガルデニアから依頼の話をもちかけられ、それを聞いていた。

 吟遊詩人(バード)とは、この世界における情報の運び手、吟遊詩人、歌姫、各地を巡る者達の事である。

 点在する国家の社会を繋がる手段の一つであり、娯楽や文化を蓄え意味活用する仕組みの一つ。

 他国の社会の連帯感を喪わせ、宗教を蔓延らせたいであろう【預言帝】が、積極的に狙い。

 

 暗殺者というかマローダー(モンスター)を世に放つ為に、自衛の必要のある危険な職業だ

 故に噂ではあるが、【765】や【346】の大手のクランになると戦闘特化のAランク級の人材(アイドル)を幾つも抱えて今日も元気に殴り返しているという。

 そんな響きに反して、武闘派の物騒な組織である。

 

「今回の依頼者は新興のバードクランでな。興業の為に南方の【パリス同盟】までこの通り、末端の町や村などまで護衛を頼みたいそうだ」

 彼女は、説明に一呼吸置いて。

「遠いと思うだろうが、移動手段のチョコボは依頼人が用意してくれるらしい」

 【チョコボ】とはこの世界で一般的な鳥の騎乗獣である。

 鳥類であるが、羽は退化し脚が発達した人懐っこい種で、種別によって得意不得意がある。

 騎乗獣(ライダー)ギルドにて飼育されている個体は、ゴルを払えば信頼次第で借り受ける事が出来る。

 勿論死なせたりしたら、相応の保障・賠償(ペナルティ)を払う必要があるのだが。

 

「確かに地図を見ると結構距離行きますね。チョコボ込みで一週間くらいでしょうか」

「いや、依頼人の興業も見積もったほうがいい。2週間前後が見込みだろう」

 地図を広げて道を指刺し、手繰って確認する。

 彼女は役割(ロール)がディフェンダーであるから、そういう依頼を任されやすいそうだ。

 これが、冒険者としてが積み上げてきた信頼の賜物だろう。

 

「私は以前交戦した事があるがマローダーは強い、奇襲があって対応できる人数が必要だ」

「話は聞いてますが、積極的に吟遊詩人(バード)を狙うんでしたっけ、僕らはまだ出会った事ないですけど」

 

「心配する事はない。奴らとてそこまで蔓延っている訳ではないさ。おそらく知名度的に、マローダーに出会う確率はモンスターに襲われる確率より、大分低いわ」

 マローダーとは、人間を完膚なきまで機械改造した、推定【預言帝】が世界中にばら撒いている工作員。

 もとい公共の敵(パブリックエネミー)である。

 身体能力が高いわ、個体によって特殊能力持ってるわ、手段は選ばないわで非常に害悪。

 単独で出会えば今の彼等では死ぬしかないだろう。

 その害悪さは当の【預験帝】すら、モンスター認定してる程だ。

 何の冗談だろうか。

 

 そんな情報を、思い返してつい言葉に出る。

「事故で【預言帝】滅んでくれませんかね」

「全くだ」

 大体、この認識が他国から見たかの国の印象だろう。

 野郎ぶっ殺してやると殺意集めながら、超技術によって引き籠る五大国が【預言帝】だった。

 人類の足を引っ張る事だけにおいては随一な悪悦な国家である。

 

「嫌な国の話は置いておくぞ。護衛の人数は最低四人は欲しい。それが仮にマローダ―に遭遇した際に依頼人を護れる人数だ。その…、君にアテはないだろうか?」

「あ、はい。ちょっと待ってください」

 少し考える、カイトの冒険者の知り合いもそう多くない。

 まず思い浮かぶのはほぼ前衛のバランス的に、呪文士のミストラルが居てくれれば助かるが。

 彼女は商人との兼業冒険者であり、片道二週間の身軽な護衛旅は流石に無理である。

 ……誘ったらなんか、普通に付いてきそうなのが、少し怖い所ではあるが。

 

「ちょっと難しい、かな。ガルデニアさんの知り合いとかは」

「……いや、そのこちらに来てからの知り合いはいないんだ。卑下た連中とつるむ気にはならないし、そのまだ君等以外とは距離感が掴みずらくてな」

「なるほど、僕らも似たような物ですしねー」

 望んだ結果ではないとはいえ、女所帯でパーティ(親衛隊)を組んでいた彼女である。

 一時のパーティならともかく、大体の冒険者はある程度固定を組んでいて、男を誘うには長年の経験による危機予測が邪魔するし、女の人単体を誘うにはトラウマが蘇るのがガルデニアの精神状態であった。

 

「なーにやってんのさ、先輩の腕ならあっちこっちで引っ張りだこでしょうに」

「いや。ど、努力はしてるんだぞ?」

 それでも少し見得を張ってしまうのが、先輩としての意地である。

 頼られる先輩でありたいという想いもあるが。

 かなり襟元を開いて接した彼の前だと少し弱弱しくなるのだが、まだ彼女に自覚がない。

 

「確定できないけど、一人信頼できそうな人を知ってますので、まだ在籍してるか受付に聞いてみます」

「ん?もしかしてアイツ誘うの。結構厳しいんじゃない?ちょっと誘い出すのは面倒だと思うわよー」

「でも、頼りになるよ。今回は一般人の護衛って訳じゃないしさ」

 同じく察して面識のあるローズが反応した。

 確かに彼の言うアテは、単独行動(ソロ)を好む意地っ張りな冒険者だ。

 

「よくわからないけど、君等両方の知り合いとなれば問題ないだろう、頼んだわ」

 彼等も彼等の目的というか、野望がある為に冒険者同士の交友関係を拡げるのは難しい物だ。

 本音では信頼してもらえてるのが、少し嬉しいのだった。

 危険に背後を預ける冒険者の中では、信頼というのは非常に重い物なのだから。

 

 ただ選んだ事に全力なミストラル(理性蒸発)は例外である。

 

「もう一人は居ればなお良いが、現状のパーティは十分だろう。出発は三日後、依頼人には私が話を通しておく、言うまでもないが準備は怠るなよ」

「はい、勿論」

「うし、話纏まったみたいね!」

 そして横で眺めていた共通の知り合いのみに口出した、ローズが言葉を継ぐ。

 彼女は基本的に考える事はカイトに任せている、話の腰を折らない様に傍観に態勢だったのだ。

 

「じゃあさ、明日当りの時間が空くし鍛練ついでにちょっと息抜きにさ、また川辺で休まない?」

【ムードメーカー】

 その代わりにこう言った行動力のある誘いをできるのが、彼女の特徴であった。

 ガルデニアを誘い釣りで余暇を潰したその日に、ローズに話したのだが。

―――「良いじゃんドンドンやりましょと」

 異様な乗り気を発揮して、彼等三人は鍛練の後の恒例に組み込まれ、何度か共に過ごしていた。

 

「僕はいいけど。先輩は大丈夫かな」

「私も構わん、準備は一日もあれば事足りるし、適度な運動と最適な休息だろうさ」

「それじゃあ決まりね!」

 元々ローズは女系社会出身であり、同性の話相手が出来たのも、嬉しいのもあるのだろう。

 彼等は気心知れた相棒ではあるが、彼女とは異性でありお互いわからない事もある。

 

 ガルデニアの方も、自身の蟠りが全く影響しない快活な彼女との会話を楽しんでいるように見えた。

 彼等には知らない事であったが、ガルデニアにとって”姉妹”や”取り巻き”と違った。

 初めての【友人】といえた。故に割と彼女の方が調子があがっている。

 

 他に問題は彼の中毒(ワーホリ)であるのだが、今のカイトは【精霊術】の修行もある。

 術式の基礎は教えてもらったが、この技能を伸ばすのにはマナとの感応力が必要なのだと言う。

 いつもかりかり頭を回して、気を張っている彼ではなかなか厳しい物があった。

 

(多分釣りしてれば、感覚掴めるんじゃないかなぁ)

 そんな安易な発想だ。

 逆に常に自分の中が新しい情報で一杯一杯詰め込んで生きるミストラルには、適正が無かったのだそうだ。

 精神の問題は難しい物である。

 

 魚を釣り上げれば特にローズが食欲で喜ぶ、ガルデニアさんも美味しく食べてくれる。

 皆嬉しい。それが愉しい。

 そんな感じに、完全に鍛練兼ねて更に外部依存であるが、カイトは休む事を適度に憶えはじめていた。

 

 そんな鍛練の後の彼等の小さな遊興(ピクニック)である。

 

「じゃあ、また明日。アテが誘えたらまた明日にでも伝えますね」

「ああ、またな」

「じゃあねー。ばいばい」

 席を使う為に注文していたミルクを飲み乾して、彼等は席を立ち解散する。

 それぞれに護衛というか、旅の支度を確認する準備がある。この世界ではたかが旅を侮れば死ぬのである。

 

「ちょっと僕は受付に在籍と誘いの確認してくるから、ローズ、消耗品買って来てくれない?」

 軽くサラサラと思い当たる消耗品を記載して。

 

「はい、これメモ」

「はいよー。買い物はミストラルの店でいいわよね」

「うん。ただまぁあんまり仕事の内容言わない様にね。あの人いいないいなーって付いてきそうだから」

「あはは、確かにありそうね」

 ミストラルは愉快で好ましい人であるが、それはそれとして外部ブレーキが必要だった。

 吟遊詩人との旅なんて彼女の言葉で表現すれば、とってもレアな経験だろう。

 もし思い付きで、最低二週間の旅路に付きあうとか言われても困る。

 いや、正確には多分彼女の夫さんが困る。

 

(約束通りに後で体験を話すから、勘弁してほしい)

 相手を配慮してとはいえ、少し除け者にしてる感覚で、良心が痛むがこらえた。

 

 

 

 

 ●●●

 

 

 

 

 そして、受付嬢、ヒバリ・カイルンに宿に所属してる冒険者を守秘義務に反しない程度の訪ねて。

 【ラインセドナ】を離れていないことを確認し、伝言を頼んだ。

 

 場所は変らず、待ち合わせ場所に指定した。

【ヴェルニース亭:酒場】に彼は居た。

 冒険者にとってある程度広さがあり、落ち着ける場所と言ったら大概ここに落ち着くだろう。

 

「―――で、誘うのが俺か?馬鹿かテメェは」

「あはは……」

 椅子に座り、不機嫌そうに腕を組んでいる、暗黒鎧姿の男。

 以前、遺跡調査の際に組んだBランクの冒険者である『マーロー・ディアス』である。

 

「知ってんだろ俺ァ、群れて動くのが嫌いなんだよ、なんでそんな事しなくちゃいけないんだ」

「えっと、まぁ無理を承知でお願いします」

【孤独者の流儀】

 案の定の反応と言えばそうだった。彼は基本単独行動(ソロ)を好む冒険者である。

 その背景に何があったかはわからないが、相変わらず他人を拒絶するような雰囲気を纏って、ギルドの端々で目撃されている。

 

 ……その割には、挨拶すれば最低限「おう」と返事はするし。

 呼ばれれば、こうして話だけでも対応する辺り、変な所で律儀なのが彼だった。

 

「それに傍から見てですけど、最近依頼を受けられてないんじゃないかと思って」

「ッチクソ。見られてやがったか、それがどうしたよ、後輩に仕事恵まれる程落ちぶれてねーぞ」

「いや、そんなつもりは。ただどちらにとっても都合いいかなと」

 こちらは信頼できる戦力が欲しいし、彼はゴルが欲しいで両得であり、これは提案だった。

 単独行動(ソロ)と、戦闘特化である彼は、討伐依頼を多くこなすのがゴルを稼ぐ道であるのだが。

 都合よく連続で討伐依頼を受けられる事は少ない。それを彼は身に染みて知っていた。

 

 故に以前彼等と組んだ時の様に、流儀を曲げる余地はあるはずだった。

 

「ふんそうか……だがよ、自分で言うのは何だが、俺は集団行動にも向いてねぇ。それで護衛依頼だァ?それでいいのかよお前ら」

「えっと、頼りにしてますし何か問題が、その鎧の事なら僕が間に立ちますし、大丈夫ですよ」

 悪印象抱かれる位、重鎧を着た高ランク魔具使いの冒険者を、平均で雇えるなら普通にありだろう。

 流石に一般人対象のの護衛ならまた別の配慮が必要になるだろうが。

 今回の護衛対象は吟遊詩人(バード)である。荒時に対する耐性は普通にあると思われる。

 

(聞いた話だと運が悪ければ、ぐちゃドロに改造された『改造人間』(マローダー)に襲われるらしいしなぁ…)

 出会った事はないが、もしかして旅で見聞深めているのもあって、グロ耐性は冒険者より上かも知れない。

 上位陣になると上級魔人相当のそれを殴り倒してるのが吟遊詩人(バード)という職業だ。

 嘘か本当か、悪人は特に【アイドル】と名乗ってる奴らには近づくな、死ぬぞ。

 そんな冗談がささやかれる程に。

 

 

「テメエ位に振る舞えれば、他に頼れる相手がいるだろうよ。まぁいい、条件を教えろ。話はそれからだ」

「ううん、僕そんなに器用じゃないですってば」

 彼の重鎧だって整備代は安くはない。それが魔具となれば尚更だろう。

 生体機能を持っている高ランク魔具だ、長生きしたければ程々にメンテナンスするべきである。

 そういう意味で彼も定期的にゴルが必要なのだった。

 

 とりあえず、ガルデニアに聞かされた依頼内容と、参加人数を伝えた。

「ふん、まぁ報酬は相場通りだな。チョコボは借りて護衛対象は二人か、そりゃ人数がいるわな。……あの理性蒸発女は参加するのか」

「いえ、長旅なので、ミストラルには伝えてないです。兼業冒険者ですし、もしついてくると言われてもその、困りますし」

「そんな気を回され方するとか子供かアイツ。術師は居た方が便利だが仕方ね……、いやいねぇ方が清々するわ」

「……ふふ」

 口が滑るマーローに、少しおかしくて笑う。

 単独行動を好み意地は張るが、根は真面目な故に常識的な認識が時々顔を覗かせる。

 

「っなに笑ってんだよ、まぁいい。これで受けた、報酬配分はテメェらと同じでいい。代わりに戦闘以外余計な事を俺に期待するなよ」

 そう前置きをして。」

「それに依頼人に文句を付けられても知らねぇからな」

 そして、3日後にこの場所で合流を約束して、冒険者マーロ・ディアスと別れる。

 

「そうだ。一応、旅の準備は忘れずに、事前の目測では二週間はかかるそうです」

「うるせえ、わかってるよ。元々オラァ流れもんだ。言われるまでもねぇ」

 ほんとう一応、彼に言葉を投げた。

 ガルデニアと約束した通り、これで人数は揃った、それは明日の鍛錬時に伝えればいいだろう。

 

「よし、ローズと合流しなくちゃ」

 ギルドの外に出て、降り注ぐ日の光に目が眩み手で遮る。

 彼女には旅準備や消耗品の補充を頼んでいた。

 親しき仲でもゴルのやり取り(こういう事)は早く清算しておくに限る。

 それが冒険者として長生きする為のコツだ。ゴルのトラブルは本当に怖いと風の噂で聞いている。

 

(ローズは多分下宿に居るかな。細かい値は日が経てば、忘れる事も多いしねぇ)

 遠回りな経由した手段故にマーロと落ち合うまでに、かなり時間が経っている。

 既にミストラルの【AM商店】から、既に終えて彼女の下宿に戻っていく事だろう。

 一応、準備の最終確認も出来て都合がいい。彼女は信頼してるが、二人の確認が有れば完璧なのだから。

 

 

 

 

 ●●●

 

 

 

 

―――そして依頼日、当日。

 まだ日も昇って、数刻も立たぬ早い朝。

 待ち合わせの、酒場のテーブルに向かう。

 仲介者のガルデニアの話では、ここで依頼人である吟遊詩人(バード)と落ち合う予定だった。

 

「ん、来たか。ここだ」

 依頼に誘った、冒険者ガルデニアが先にテーブルに付いており、そこに手招きで誘われる。

 その席に見知らぬ男と女が一人ずつ見えた。

 

「おう!お前らが今回のサポーターか!頼りに成りそうだな、俺の名は【デューク兎丸】よろしく頼むな!」

 端正な顔立ちだが、天に立つ様に直立した紫髪に肩の札が特徴的な、派手な男。

 その名は芸名だろうか、装備は一般的な魔具に、背に槍(?)を背負っている。

「相方がうるさくてすまんねー、アタシは相方兼”マネージャー”の宜しゅう頼むわ」

 軽装を纏った栗毛の暖か気な髪に、ポニーテールが特徴的な朗らかな印象の女の人の二人組だった。

 彼女は身が極端に痩せた片手剣を、両腰に装備していた。

 

 そこから察するに彼等も多少は闘えるらしい。

 吟遊詩人(バード)というのは、やはりそういう職業なのか。

 

「はい、宜しくお願いします。僕は|役割(ロール)”レンジャー”のCランクのカイトと言います」

「アタシは同じCランクの|役割(ロール)”ヘビーブレイド”のローズよ、そっちの先輩がメインだけど、あたしも腕っぷしには自信があるわ」

 軽い自己紹介を交す彼等、役割紹介は特に依頼人までも戦えそうなこういう場合には特に重要だ。

 一見で連携できる訳ではないが、最低限を知ってるだけで違う。

 

 そこから、遅れてまた背後に最後の待ち人が来る。

「遅れたか、来たぞ。Bランクの役割(ロール)は|黒剣士だ。戦力として働かせてもらう、他は任せた」

「なるほど、君がカイトの知り合い(アテ)か」

「フン、癪だがそうなるな」

「 よろしく頼む、私はガルデニア役割(ロール)”ディフェンダー”だ。」

 同じように初見であるBランク同士が自己紹介を交す。

 

「おう!アンタからはロックな雰囲気を感じるな、うっし仲良くしようぜ!」

「……しらねぇよ。ロックって何だよ」

 何か気に入られたか、依頼人であるリューク兎丸に絡まれ顔を顰めるマーロー・ディアス。

 確かに単独行動(ソロ)に拘る彼は、冒険者の基準から見たら矜持的(ロック)な存在かもしれない。

 ただ一人で生きられるほど、この世界は優しくないし、とにかく辛い。

 それを知っているからこうやってつい気が回して、誘いをかけたのも今回の一因だった。

 

「とにかく、打ち合わせは早く済ませよう。カイト、地図を出してくれ旅の経路を確認するわ」

「あ、はい。僕の地図は安定地帯(オベリスク)に大体の位置に赤丸付いてますけど、大丈夫ですか」

「ああ、むしろ助かる」

 この間の採掘作業での登丘で思い付いて、ラインセドナ周囲限定であるが位置を印をしていた。

 そういう専門の地図もあるにはあるのだが、少しお高いので精度は自身が無いが自前で記録した地図である。

 

 それを用いて依頼人と旅路での打ち合わせを行う。

「おー、エライ丁寧でんなぁ。頼りに成りそうな冒険者やわー」

 その打ち合わせの進行は先輩であるガルデニアが行った。

 役割(ロール)の関係上、護衛依頼の進行に慣れているらしく、スムーズに余裕を持った道程が決まる。

 旅の体力やリスクなどのバランス、ペース配分等は経験則が活きる。

 彼は役割(ロール)”レンジャー”を自称してるが、まだ経験が足りないと実感させられる。

 

「それで問題ないやで、うちらもそこまで決めて旅してるわけやないから、助かるわー」

「訂正とかはないのか?吟遊詩人(バード)のそちらの方が、旅慣れてるだろう」

 それを聞いて依頼人の男の方、リューク兎丸が静かに首を振る。

「うちの相方”マネージャー”名乗ってはいるが、割と大雑把な所あるからなぁ。あんまこっちは期待しないでくれ」

「うっさいわ!それ言うたらあんたかてしてないやろ!」

「いってぇ!?」

【漫才師:つっこみ】【早撃ち】

 スパーンと、レイチェルがハリセンでリューク兎丸を思いっきり頭を叩いた。

 甲高い気持ちの良い音が響き渡った、慣れきった熟練の様な動きだった。

 

(というか、今ハリセン取り出した所全く見えなかったのだけど)

 特殊技能だろうか、世の中広いなと改めて実感させられる。

 

 

 

「イテテ、まぁとにかく今回はよろしく頼むわ!騎乗獣(ライダー)ギルドの方にも話を通してある。そろそろ出発しようぜ」

「わかった。そちらも準備の不足はないか」

「問題ねぇよ」

 打ち合わせは終わり、互いに信用の証として握手を交わした。

 長旅の出発の為に【ラインセドナ】の門へと一団は向かう。

 

 

 

 

 ●●●

 

 

 

 

 予定通りに騎乗獣(ライダー)ギルドからチョコボを借り受け、正門に全員集合した。

―――のだが。

「ちょっと待て、何だその荷物は聞いてねーぞ」

「え、なんやって。ちょっと仕入れた薬の類やけど、今思い付いたんや、折角長旅するんやしこういうの運べば両得やんって」

 重鎧のマーローが怪訝な声を上げた。ガルデニアも眉をひそめている。

 吟遊詩人(バード)の片割れ、レイチェルがちょっとした荷車を持って合流したのだ。

 一人分の労力で運べるような簡素な物だが、それは確かに目立つものだった。

 

「……確かに良くないな、荷物まで護衛対象に入ると話がまた違う。足枷であるし、保障するにもまた別の労力がいる。報酬の中にそれは含まれていない」

「えっ、そやの!?」

 冒険者としての先輩である二人の追求を受ける、依頼人レイチェル。

 人のみを護るか、荷物まで纏めて護るか。それによって護衛依頼の性質は大きく変わる物だ。

 荷物を喪って文句が入るのは困るし、護る為には危険度も上がるだろう。

 盗賊や死肉漁り(グールズ)だって、襲う対象は選ぶのだ。

 ”遠眼で目立つ”荷物を抱えてたら狙われる可能性は上がる為、リスク管理の問題もある。

 

「意図的なものだとすれば、相当悪質だ。このまま契約破棄もあり得る」

「え、ぇ、マジで…?」

 だらだらと、眼に見える形で冷や汗を流す依頼人の彼女。

 その様子からは悪意は全く見えない。

 

「お前なぁ…!最近ないと思ったらここでやらかしたか」

 溜息を吐いて、もう一人の依頼人であるリューク兎丸が間にフォローに入った。

「その、すまなかった!許してくれないか、相方も悪気があったわけじゃなくて、時々思い付きで色々やらかすんだ。コイツの荷物は護らなくていいし、報酬は別枠で出すわ」

「ごめんなさい!堪忍、堪忍やで!」

 依頼人の双方頭を下げて謝る。

 これは冒険者に対する、護衛依頼に対する”暗黙の了解”のようなもので。

 

 それを見て、まだ慣れていない彼等も思う。

(へー、冒険者の依頼ってガバガバの丼勘定思ってたら、結構基準あるのね)

(ん、僕ら護衛の経験は一回だけだからね。その時の交渉はガルデニアさんに任せてたし…)

 背後で小声で話すカイトとローズ。討伐依頼なら大体の”暗黙の了解”は理解できるのだが。

 実際、駆け出しから抜け出した程度の彼等も知らない事で、勉強になる事もであった。

 

「まぁ落とし所はそこら辺りだろう。事前に条件に含めてくれれば何の問題もなかった。手が間に合えば荷物の方も護るが、まずはチョコボを含めての命優先するわ」

「おおおきに、次から気を付けるわー!」

「……ふん」

 依頼報酬の増額、優先対象の明文化、この辺りで話が纏ったようだ。

 マーローもそこに口は出さない。雰囲気から察するにそれで文句がないらしい。

 

(軟着陸してよかった)

 もし個人護衛の依頼金程度で交易の運送を行おうとした、悪意を持った依頼人であったなら。

 このまま無理に険悪な雰囲気で護衛を続けるか、喧嘩別れに成るか、どちらにしろ悪評に繋がっただろう。

 社会の底辺である冒険者は、どうしてもこういうトラブルに関する信用度が低いのだ。

 

「すまない、手間を取らした。改めて出発だ」

「はいよー、隊列はどうすんの?」

 少しトラブルもあったが、改めて街道を踏み、目的地までの脚を進めた。

「私は、最前列に付こう。ディフェンダーでもあるし、ペース配分は経験者が調整した方がいい」

「……俺ァ後列にいる。重装甲だからな」

 依頼人を中心に自然に前列にガルデニアが、一番後列にマーロー・ディアスが付く。

 脅威に晒される事も多いが、護衛依頼では大概おいて経験を必要とされるポジションである。

 Bランクであるマーローとガルデニアは、カイト達とは違い、交流不足ではある。

 お互いに余り口数を好まないのも相まって、他人の動きに見て、経験則セオリー通りに動いていた。

 

「よし、僕は僕らは中心に着こうか」

「あいよー」

 彼等は隊列の中心に付く事にした。

 役割の関係上、初期警戒に便利な道具を持ち込んでいる為に、中心が良いとの判断した。

 

 【ラインセドナ】から続く街道の周囲には。

 彼等と同じように町から出発し、それぞれの目的地へと向かう他の集団も見えた。

 同じように護衛の依頼を受けたのか、同職の冒険者の姿も見える。

 

 目的地が違うのだから、段々と枝分かれしていくのだろう。

 この一団に紛れているうちは、盗賊なども安心だ、群れているのは強いのだ。

 ただしマローダーは除く。

 

「さてと」

 【レンジャー:索敵】【魔具:太陽の腕輪】

 自身の役割を果たす為に、新しく購入した魔具を早速展開する。

 この魔具は装着者の周囲における光学率の変動。

 その保持者の意思によって太陽光などを遮り、上手く使えば立体型の遠隔レンズとしても、周囲の空間を変動させることが出来る下級魔具だ。

 

「ん?カイト。まだそう気を張る状況ではないぞ、魔力も無限ではない抑えておけ」

「いや、これ新しく買ったばっかだから、慣れてなくて余裕があるうちにって」

 今まで簡易遠眼鏡で代用していた、自由自在の視界強化の魔具。

 ただ、試運転はしたが使い方に慣れていないのもあって、まだうまくピントの調整が出来ていないのだ。

 

「そうか、まぁ程々にしておけよ」

「うん、まぁテキトーな所で切り上げます」

 それに、新しい物を手に入れたら、試したくなるのが人情だった。

 魔力の絞りを細く長く、変調率を調整する。グアンボアンと空間が曲がるのは面白い物もあった。

 

「おー、なんやそれおもしろそうやなー、うちにも触らせてくれへん?」

「あ、うん。いいですけど、光集めすぎて直接見ないでくださいね」

 そして何故か、依頼人のレイチェルの興味を引いたらしい。

 低級魔具であれば貸し借りも、身体影響も適合もないから問題ないだろう。

 冒険者ギルドでも、死んだ冒険者から没収した中古の低級魔具をレンタルしてるほどだ。

 

「わかっとるわ、こうやってこうすればおもろいことができ……どわ熱っ!熱ぅ!」

「ちょ、直接見なきゃいいって訳じゃ…!」

 そして何か頭を焦がしていた。

 奇抜な事しようと光を集めすぎたらしい。適当に頭を叩いて鎮火する。

 

「なーにやってんだか、相方は」

 呆れた声で、肩をすくめるもう一人の依頼人のリューク兎丸。

 その様子を見るに割といつもの事なのだろう。

 

「遅れんじゃねぇぞ。あの女割とペースが速い」

 マーローの忠告が後ろから響き、チョコボ達はクエー!と鳴く。

 そして彼等はガヤガヤとやりながら、長い旅路の最初の道を行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




聖錬だと外れ(アイドル)が怖すぎる吟遊詩人たち、アイドルって何だっけ?

【ヴァ―ミリオン】だとステラが戦姫着任してるか不明だったから暈かしたましたが、
【パリス同盟は】ツインテキチは確実に現役だろうし、遠目に出すのはありかなぁ…、AIがわかりませんが。

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