ポンコツ世界異聞=【終幕を切り刻む者達《ハッカーズ》】   作:きちきちきち

16 / 128
決戦【吟遊詩人】

 陽の光を受けて輝く双胴の精霊。

 それを見る度に、頭の裏のチリチリする感覚がある。よくわからない焦燥感に襲われた。

【黄昏の守護者】【月衣】【鋼帯の錨】

 

「この、くそ、帰れよこのバカァ!」

【魔法剣・火】【舞武】

 黄金の双胴から放たれ突き刺しにくる触手を回避しながら、斬る。

 その触手は以前交戦したそれより、硬い。だが一度断ち切れば再生には時間がかかるらしい。

 幸い、範囲を質量で制圧する様に薙ぎ払う”遺跡のそれ”の方が、対処が難しかった。

 

(特性は色々変わってるけど、相変わらず反応が少し遅い!)

 以前の交戦経験をフルに活かし、時に建物に隠れながら純前衛として前線を支えていた。

 頼りになる前衛は今は居ない。呼吸と伴に魔法剣を整える余裕はない。

 ステップを踏みながらギザギザと角度をずらし、残り火をやり込みしながら攻撃を捌き続ける。

 

 既にカイトという双剣士は、【聖錬】の戦闘特化の枠組みで言えばC級の域を逸脱しつつある。

 ガルデニアの足捌きを、まだ呼吸を別にして模倣した【舞武】は、距離をギザギザに多用に切り替えながらの応戦を可能にしている。

 

 それの動きを多少の観察で察して、動きを併せる女剣士が一人。

「派手なんは好きやけど」

【早撃ち】【コンビネーション】

 吟遊詩人の相方、レイチェルだ。

 その背後に着きながら、剣速のみで金の鋼帯を断ち切る。

 彼女の扱う【早撃ち】は五大流儀(ソードアート)である、”技術特化剣術”魔具のギミックによって加速し、ひたすら両断する事を目的とした”殺害剣”である。

 主に【奏護】から流れてきた概念であり、旅人の技と言われてるそんな流派だ。

 

「うちにおさわりは厳禁やでー!」

【早撃ち:多段突き】

 剣先を押し当て、貫き拓く。

 その代り防御は貧弱な流派であり、こういう状況では前衛としては不安があるのだが。

 彼女の場合はそこまで【早撃ち】に特化している訳ではない。

 片手剣の魔具である【風滑り】を装備した、多少剣速が早い程度の剣士、彼女の性格に合った。朗らかな笑顔と話術(交渉術)で数拍でも稼ぎ、ばっさりという決まり手の為に修練している程度の業。

 

「タイガーマウスに正拳突きってなぁ!」

【コンビネーション】

 更に生来の彼女の特性として”空気を読む”のがうまいという特徴がある。

 それが旅を重ね、色々な空気に馴染んだ結果、他人の機敏を察する程度に昇華され、【コンビネーション】の技能として現れるのがレイチェルという剣士である。

 純粋な剣腕なら、カイトの方が上だろうが、彼とはまた違う強みがある物だ。

 

「よーしよーし、あんさんの言った通りにやっこさん熱に惹かれるみたいやなー、随分と楽に捌かせてもろうてるわ、にしてもどこ情報やこれ」

「以前似たのと交戦した事があるので、こっちが辛いですけどね!」

【魔法剣:火】【ダンシングヒーロー】

 止まったら死ぬ。ただ斬る、斬り裂き後を焼き千切る。彼の剣腕も腕力も地道に伸びている。

 残骸も破片も邪魔だ。細かく防具が裂かれるが、気にしては居られない。

 衝撃に弱く、質量は水のそれに比べまだ軽い、再生は遅い、相性は悪くない。

 しかし…。

 

『―――グギュ、ギュルルルル?』

【センスオーラ】【円環精霊:自己再生】【月衣:電制フィールド】

(前相手した奴は遺って、何かを纏ってる。月衣か)

 環境に依存した再生能力がない代わりに、あの目に見えて纏っているフィールドが邪魔だった。

 一度試して、アレのせいで彼程度の飛ぶ魔法剣では、減衰して本体にダメージを与えらなかった。

 月衣を纏う生物は大概は、生体出力の高い”上位生物”の類である。

 

「ホンと帰れ、何しに来た!相手してられない!!」

「ほかに何か情報無いん!」

「あの真ん中の指輪みたいのが、おそらく弱点って事位しか!」

 悪態をつく。経験から何とか捌けているが、既にもうきつい。

 推測するに液体金属の類であろうか、浮遊特性から軽いようだが、当たればただでは済まない。

 身を裂かれる想像の恐怖は常に隣にある。

 

(そろそろ対応してくるか!?経験則はどこまで通じる?)

 鋼帯を双剣で挟み込み捩じ切った。

 それでも一秒でも長く耐えて、応援を待つ、生き残るにはそれしかないのだから。

 

 そんな黄金との武闘を行う背後で。

 術式と補助する札をばら撒き、自身の槍を突きさして楽器を構える男が一人。

「よし、準備出来たぜ待たせたな、俺の歌を聞けェ!」

【援護歌:調律】【風水術:復元】

 吟遊詩人(バード)片割れ、”リューク兎丸”が戦場で音楽を掻き鳴らす。

 彼の扱う技術【風水術】は東の島国【桜皇】にて、属性災害に悩まされた故に特化された治水の法。

 破壊(バースト)復元(チェーン)の二つの体系に分けられ、大地や物体に対する固有振動数に影響を与えて、環境を治める技術、

 しかし彼は、桜皇出身の吟遊クランの師匠に基礎を叩き込まれた程度の見習いだ。

 

―――♪♪♪

 だが、師匠が確立した法も受け継いで、戦闘向けに昇華している。

 不自然に形成された【月衣】による、電磁フィールドに干渉(チューン)して弱体。

 

(周囲のマナが安定してきた……?精霊術、いけるか)

 更に陰陽術を併用し、属性値を干渉したマナ溜まりを作り出した。

 彼の肩に装備された札と、地面に描かれた陣と呪札、彼が担ぐ魔具である【音叉の槍】は。

 それを補助する物であり、”リューク兎丸”はそれを用いて未熟な歌唱と術を実用水準に持って行っていた。

 

「遅いわ全く!」

「そう言うなって、精一杯早く準備したんだぜこれでもよぃ!」

【援護歌:剣速のエチュード】・【早撃ち:駒蹴り】【コンビネーション:相方】【俊足】

 それに適応したか、レイチェルの動きの調子が一段上がる。

 音楽の旋律に合わせて、ステップと剣速が尖鋭化されていく。

 既にカイトの背から離れて、単独での攪乱行動で十分な動きで金の鋼帯を刻み始めた。

 その大地を蹴り加速し続ける駒の如く、彼女の魔具【風滑り】もそれに合わせた調整がされている。

 

「あぁもう、護衛対象に後ろにいて欲しいとか、贅沢言ってられないのが情けない……っ!」

【援護歌:剣速のエチュード】

 正直に助かる。

 握力が一瞬途切れて、逸らし損ねて肩が裂かれたが気にしてる余裕はない。

 血を吹き出しながら、彼も詩に合わせて動きを加速させる。

 

『―――ルルルルル』

【センスオーラ】【適応思考】

 それを見て、それは思考を対応する。

 生命熱量・波長は段々と弱くなっている、己は傷の一つもおっていない、持久戦なら殺せるだろう。

 ”活きの良い情報”がいるのはソレにとって、主にとっても好ましい物だ。

 しかし、対象の動きが活性化したのに対して危機感もあった、外の手駒の反応も減っているのが気にかかる。

 

 故に、多少目立とうとも。

『――――ギュル、ルルルルルるん】

「んな!?」

キュン、バリバリバリ!!

【大魔法:メライローム】【円環精霊:犠牲詠唱】

 巻き起こる魔法による雷鳴の嵐。

 方針を変更、自身のリソースすら消費して、大火力でゴリ押す事を選択した。

 

 その雷鳴は離れて周囲を舞い刻んでいた剣士を、軽く焼き吹き飛ばした。

 それはそれを誇らしげに、ポーンとポーンとカン高い音を鳴らす。

 

「っくぅ…、経験則に頼り、すぎた」

 バフを活かして辛うじて事前に、衝撃を魔法剣で引き裂いて軽減したカイトが早く復帰する。

 頭の片隅にはあった。本来は”精霊種”はその属性に適した”魔法”を得意にするものだと。

 だが余裕が無くて、以前の交戦経験に当て嵌め、その選択肢を捨て置いていたのだ。

 実際、先程の攻撃手段に準備なしで対抗する術を彼は持たない。どうにかするならば本格的な術師の類がいる。

 

「おい、おいレイチェル起きろ!やられちまうぞ!?」

「―――ん、んぅ…?」

 演奏し続ける焦る彼の声が飛ぶ、しかし、完全に防御手段を持たなかった片手剣速の彼女は。

 舞刻んで直前に跳んだが、それ以上に軽減できず諸に受けて意識を喪っていた。

 

『―――ルーン、ルルルルル』

【円環精霊】【鋼帯の錨】

 それはまるで捕食するかのように、その身体から十程の複数の触手を伸ばした。

「くそ、させるか!!」

【魔法剣:虎輪刃】

 それに横槍を入れる二筋の剣閃、その数本はカイトにより切断されるが全てを防ぐ事はできない。

 鋼帯がレイチェルを貫くか、そう思われてたが。

 

「―――ォオオオオラ!!」

【田舎の樵】【怪力】

 その間にマルタが飛び遮り防いだ。

 カイトは何故と考えるまでもなく駆け出し、依頼人レイチェルの身体を攫い…。

「ごめんなさい!」

「―――お、おごぉ!?」

【ダンシングヒーロー】【二刀流:重心操作】

 そして安全圏に乱暴に投げ蹴り飛ばした。

 反動で姿勢を返し、苛立つ様な追撃の鋼帯に頬を抉られながら躱して、すれ違ったそれを斬り飛ばす。

 

(助かったけど、さっきのは何だ)

 丸太の出所を見ると、そこには一人の大男が立っていた。

 村に入る時に案内を買って出た、タジキと呼ばれていた男だ。彼がマルタを投げ込んだらしい。

 

「ジ、ジジとババは地下室に連れて隠しただ!こ、怖ええけどオラも…っ!」

「下がって!防具なしでアレの相手は危険です!」

 先程は助かったが、それとこれとは話が別だ。魔具も防具なしでは砕けた鋼片ですら傷を負いかねない。

 だが。

「い、田舎もん舐めんじゃねぇダ!オラは逃げねえぞ、コイツ放置してたらジジと子供が死ぬでねェか!」

「……っ!わかり、ました」

 その言葉は強かった。傍目に流して、集中を目の前の黄金の精霊に引き戻す。

 

『―――ララ、ルルルルルr』

 それは食事を邪魔された事に苛立っているように見えた。

 しかしそれは冷静に判断する。先の攻撃は効果があったと判断、今度は”犠牲詠唱”で手順を短縮せず。

【円環精霊:マルチタスク】【詠唱準備】【鋼帯の帯】

 それは同時の処理能力を発揮、普段通り物理攻撃をしながら、大魔法の詠唱の準備を開始する。

 それはタダの魔法ではない、詠唱破棄したのとは別に。

―――様々端折った大魔法を上回る、【大精霊級】が最大火力である。

 

 

「くぅ、相方が無事なのはひとまず安心したが、アレどうするよ!」

「どうにかします!とにかく属性の調律を”僕が使います”」

「わ、わかった!手が有んだな、なら信じてロックに行くぜええええ!」

【援護歌:猛攻のプレリュード】・【魔法剣・雷】

 詩が切り替わる、呼吸三つで魔法剣を再付与し、駆けながらまた歩法を剣腕を刻む。

 辺りには先程の大魔法でばら撒かれていた、大精霊の放った”雷属性のオド”もある。

 

『―――ギュググルウウウンん!』 

【鋼帯の帯:マルチタスクにより弱体】

(何がなんでも利用して、次の一瞬に繋ぐ!!)

 幸いな事に魔法の詠唱中には流石に、思考リソースが取られるのか。

 鋼帯攻撃の数も質も、相当に弱体化していた。

 

「グぇ!?痛くねェゾックソクソ、離しやがれ!」

【田舎の樵:斧】【怪力】

 大男の方は懸念通りに、既に鋼帯に斬り裂かれて左腕は貫かれていた。

 元々戦闘者ではない上に、得物が小回りの利かない斧である。

 それでもまだ"鋼帯"の一部を拘束し続けてくれている。

 

「おい大丈夫かよ、無茶だぜ、下がりな!」

「―――ッ!」

【魔法剣:虎輪刃】

 樵を突きさしていた鋼帯だけを、手首の反動の遠心力の飛ぶ魔法剣で、擲つように斬り裂いた。

 代償に右親指を損壊する、彼にそれ以上に気に掛ける余裕はない、アレをそのまま発動させれば同じ結果だ。

 

「ぐォ!すまねぇオラ…オラァ……!」

 大男が腕を引き吊り、後方に下がっていく。

 鋼帯も一時それに惹かれるが、建物に隠れた大男を追跡不可と判断し退き戻っていった。

 そろそろ【大精霊】も大魔法の準備が整ったのか、鋼帯が巻き込まれない様に巻き戻っていくのが見えた。

 

 それに合わせて、護衛対象であるリューク兎丸の前に躍り出た。

 

「おい、準備整ったぜ、そこらに散らばってたマナは調律して掻き集めた。……後は信じたぜ」

「―――ありがとう、ございます。ふぅ……!」

【風水術:調律】【援護歌:猛攻のプレリュード】・【魔法剣:炎】【精霊術:チャージ】

 そう言うと彼は集中する。呼吸を整え、オドの臨界に指向性を持たせる。

 ここまでは彼の本気の魔法剣と変わりない。

 しかし、両手に握られた剣を合わせ、周囲に満ちたマナに意識を延して己が剣の身の組み替えていく。

 今この場には彼だけでは到底賄えない程のマナが、更に”黄金双胴”の放った雷撃のオドがある。

 

「僕じゃ、収束率はまだこの程度か、練習以外じゃぶっつけ本番だけど…っ!」

 彼が新しく覚えた【精霊術】という技術は、”自然環境におけるマナ、それを己が魔力と術式によって誘導し、使役する魔術”である。これを用いて意思と呼吸と伴に、魔法剣でマナを吸収し威力を上げる(チャージ)する初歩に利用していた。

 そして学んだ術式により、巨大なオド延長の仮想の剣を作り出す。

 

(収束も感応もまだまだだけど、収束率、精霊術、属性のバランス、刃の斬り口を調整…っ)

【感応:音感応】

 今回に限っては精霊術の入り口である”感応”については簡単だ。

 この状況を用意してくれた彼の”音楽に合わせればいい”。だから背伸びできる。

 

「ふぅっ一意専心‥…さぁ、いけぇ!!」

『―――ポーン、Lalalalalala!!』

【円環精霊】【五章魔法:ファライローム】

 ”黄金双胴”から、まばゆい雷の嵐が舞い降りる。

 単純に自身の内を加速させ巡り通し、広範囲を薙ぎ払う雷霆と化す広域殲滅魔法である。

 事実それに晒された広間に中心の井戸は吹飛ばされ、建物は焼け焦がすほどの威力。

 

 だがそれを。

―――斬ッッ!!

 

 

【裂破轟雷刃=ボ■テ■■アタック】

 

 双手の剣と伴に、形造られた”架空の刀身”が振るわれ雷霆嵐をクロス字に裂いた。

 本来、彼のオドは重く飛びにくい物だ。だが、粘度の纏わり付く適性から架空の刃を造形しやすい。

 制御は”まだ”できないから形成できてるうちに振り下ろす、それだけの技だ。

 

 カイトの空属性と炎属性、更にばら撒かれた雷属性がそれぞれに違う対流特性から。

 張力を自然に破戒し、自然に連ね重ねる旋風の渦を作り出して嵐に対抗した。

―――瞬間、想起される”親友”がこの”黄金双胴”に対峙し、斬り裂いた光景がよぎる。

 環境を整えている状態だからできた完成にはまだ遥か遠い、いつか見た覇道の剣。

 

「い、まのは。ぐがっ…!う……!!」

「おい、大丈夫か腕焼けてんぞ!」

 五章級魔法を、正面に限って文字通りに斬り拓いた。その代償は重い。

 オドを空気を吐き出し腑が縮み、逆流(バックファイア)と反動で腕を汗線ごと焼いてしまった。

 魔法剣は暫く使えないだろう。剣腕も怪しい。

 

 あの出力を完全に指向性を持って、向けられていたら危なかった。

 避ける想定をしていたか、それとも横着したか。

(”親友”の得意技だったけどっくそ、補助の調律と精霊術が有ってこれだ)

 先の想起も忘れ、動かねならない。剣だけ握って、とにかく脚をだけを動かして移動し続ける。

 止まれば死ぬ、倒せていない、殺せていないのだから。

 

『―――ルルルゥ、ルルルッル』

【適応思考】

 その様子を観察し、それは適応する。最大火力の魔法が一部とはいえ相殺された。

 それは驚くべき事である。

 未来予測では、これで邪魔な戦力を焼き殺し、呼びこんだ魔物による封鎖が効いてるうちに”鋼帯”で知的生命を情報を分解し、収集するはずだったのだ。

 故に原因を検討する為に演算能力を振り分ける。本来ならそれはこの精霊の強みであった。

 

―――だが、初撃の魔法の時点でそれは存在を周囲に示した。

 

「―――いい加減に……チェストォ!」

【重剣技】【錬気法:怪力】

 奇襲。”黄金双胴”の背後より、駆け付けたローズが斬りかかった。 

 村の衆と前線でモンスターを食い止めていた前線の彼等は初撃の雷霆で、後方の異変を感知した。

 この援護の遅れは【透明化】による空からの奇襲と、途中まで物理で振る舞っていた事が大きい。

 先達の二人はその時点でローズだけはと向かわせて、モンスターの対処をしていた。

 

【―――ぽーん、ルルルルル】

【円環精霊】【月衣:電制フィールド】

 だがその勢いは月衣に減算され、勢いを失う。しかし、今の彼女は怒っていた、凄く怒っていた。

 到着した時には”黄金双胴”が大規模魔法の詠唱準備をしており、相棒が”なんとかする”という言葉を信じて、何か蹴飛ばされた依頼人と合流、保護して姿を隠していた。

 それは己の相棒ならこうするだろうと言う模倣である。

 彼女の気勢ではない。本当ならば、相棒の危機にすぐに飛び出したかった。

 

「それがどうした、ぶっ殺す!!」

【闘牙剣:オーラファング】【頑強】

 つまり、凄く鬱憤が溜まっているのだ。感情に呼応してオドが沢立つ。

 刃を乱暴に自身の内から爆発的に波を汲出して、爆発的に電磁の壁を叩き割り。本体まで斬り裂いた。

 種族から頑強性を誇る彼女は、半端な反動なら無視できるのだ。

 

「ようやった!止めは任せいや!」

【ファストアタック】【早撃ち:ギミック剣】【コンビネーション】

 そして後に続くように、意識が回復したか、旅人の技を持つレイチェルが飛び出した。

 持ち前の初見連携で、彼女の波撃剣すら乗る様に跳び。

 後に閊えると封印していた【早撃ち】の魔具ギミック、風マナの放出も解放、”一度限りの疑似的な魔力放出とする”。

「―――往生せいやぁ!!」

【魔力放出】

 勢いを更に増して、”黄金双胴”の中心の指輪を荒く斬り裂いた。

 

ズドン。

 それに応じて、”黄金双胴”が浮遊から地に落ちた。

 斬撃が、有効打になった証拠だろう。

 

「カイト、大丈夫!?あぁまたこんな無理して」

「―――!!、前向いて、まだ終わって、ない」

 デジャブにより、心配して駆け寄ったローズを突き放した。

 それは”黄金双胴”は異音を発生させながら、目に見える紫電を発生させ円転させていた。

 それはまるで、先の大魔法を放つ準備が如く光景。

 ただし、詠唱は半端だが”自身の資源(リソース)”の全てを消費する物。

 

『―――ハロ、ハロ、ルルルルルルル!!』

【円環精霊:応急処置】【適応思考:証拠隠蔽】

 ”黄金双胴”は確信した、己が主に課された使命は失敗であると。

 自身を再生するコア円環(ヘッダ)の損壊を確認した。ロジックの検証を止める。

 現在は緊急時に対策として、自身の構成物質である”珪素”で接合し代替を成しているが。

 それはあくまで応急処置である。長くは持たない故に…。

『―――ポーン、ポーン、ポーン』

【犠牲詠唱:最終自爆』

 故に自身の全てのリソースを燃やし証拠隠滅する、己の存在を世界に示してはならない。

 場合によっては村の意味のある構造物ごと全て消し去るだろう、臨界の紫電の大爆発。

 誰かが言う。セキュリティの最終は、物理的な廃棄であるのだから……っ!

 

「チィ、あんさんは休んどき、無理はアカンで!」

「俺も前に出るしかないか、接近戦はそこまで得意じゃないんだが…っ」

 周りも対処する為に、動き始める。

 だが、無駄だ。全てを吹き飛ばし隠蔽する為に、猶予はあるが彼等に止める手段は有りはしない。

「クソ、―――んっな!?」

【凍結記憶:デジャブ】

 ノイズが走った。カイトはその現象を理解できているわけではない。

 ただ、アレを止めねば多くが死ぬ。

 ”自身が最も無力であった”時の、思い出せぬ記憶の残滓が彼の身体を動かせる。

 握力もまばらに、右腕を、止めようと突き出す。

 

―――そして彼の中の仕込まれたマーカーが起動する。

 それの起動条件は二つ。

 施術者が”円環精霊”と遭遇し、撃退を確認した事。

 施術者が”八相”のいずれかと接触した事。

 これを満たせなければ力を与える意味がない。誰かが定めた【演劇】(ストーリーフック)の通りに。

 

―――『陳腐だが、定番の英雄録だ』

―――『さて、今回は我が娘に送る花として満足いくものになるか』

 ただ一つの歪められた点を除いて、それは仕掛けた悪意の通りに起動した。

 

【転送マーカー】

 それは旧時代の超技術、”魔力式”転送システムによって成される贈り物。

 カイトに施された処理は、外科埋め込み式の伝送マーカーと装置である。

 特別な事のない、相応しくなければ何の意味も持たない、ただの唾付けの為の刻印。

 

「な、何だ……!」

【黄昏の腕輪:砲塔展開】

ジャギジャギジャギッ!

 時間にして三秒で転送され顕れたそれは【黄昏の腕輪】、。

 幾何学模様の半透明な五鱗の円輪となる固定具を展開。”レール”を形成する。

「あ、……あ…あ?」

 それは現実からかけ離れた、美しき五欠片の花に困惑する間もない。

 

「うわああああああああ!!」

【紋章砲】(データドレイン)

 それは右腕から自動的に自爆せんとする、『黄金双胴』に特異な電磁帯の吐息を放った…っ!

 高出力の特殊電磁波と光粒子の混合磁場帯であり、魔力及びマナ結合の類を通電し、意味結合を分解させそれが構成する要素の分解する性質を持つ。その存在を構成する外殻のみを分解し、情報透過する。

 

ギュン、ギィイイイン!!

 燐滅し、臨界へと達した”黄金双胴”を貫き、取り巻いて”殻”を形成し……。

 内部で跡形もなく分解した。あれだけ強大であった生物上位が跡形もない。

―――彼は知らないが、それはこの世界でも”必殺”に値する砲撃である。

 

「うぐっ…!」

【黄昏の腕輪:資源改造】(リ・モデリング)

 原初の情報を内包した”殻”が、彼に引き寄せられ【腕輪】に吸収されていく。

 それは腕輪の機能の一つ、分解した純粋資源(リソース)を吸収し、使用者を侵食改造していくもの。

―――損壊率二二%、回収資源を置換し修繕を開始。 

 その異物感に、吐き気を憶えた。

 

 それに周囲は困惑したのか押し黙り、嫌な沈黙が辺りを満たす。

 それはそうだろう、いきなり不可思議な立方体を構築して、原理不解な光線を放ち、月衣を持つほどの”上位生体”を跡形もなく文字通りに”消し飛ばした”。

 その反応としてはまだ生易しい方だろう。

 未知の理不尽は例え先まで背中を合わせていた仲間であっても、恐怖の対象である。

 

「なにそれ、凄いじゃない。あんなでっかいの消し飛ばすなんて、アンタ何時の間にそんな事できるようになったのさ?」

「わ、わかんない。こんなの僕は知らない」 

【ムードメーカー】

 以前から付き合い長い相棒であるローズが、畏れず、気軽にそれの正体について聞いてきた。

 今の顕れた腕輪の状態は、何故か彼の魔具である【太陽に腕輪】を取り込んで安定していた。

 結果的に助かったかもしれない。だがこんな都合がいい物は有り得ない。

 ”余りに都合がよすぎる”。それを感じない程に、彼は世間知らずではなかった。

 

 

「ふーん、あれじゃん”固有魔法”って奴じゃない?カイトの隠された才能とかさー」

 ”固有魔法”、先天的な特殊な、個人依存の才能。

「違う、絶対違う。明らかに人工物が生えてくる”固有魔法”ってなにさ」

 否定した。この腕輪には明確なギミックが存在する。

 知らぬ誰かの介入を感じた、自分の意志で、道を歩いているという実感が、虚構であるかも知れない。

 己が全てが誰かの操り人形であるかもしれない、その想像に背筋が凍る。

 

 混乱した頭に、伝う汗が、体内の不自然な癒活が、その全てが気持ち悪くグルグル視界が回った。

 吐きそうだった。そんな様子を見て。

 

「あぁもう!いいから落ち着け!」

「いっだ!?」

 不定の狂気に入りかけてたカイトの頭を、彼女は思いっきり叩いて復帰させた。

 明らかに様子がおかしい故の強硬手段である。

 

「今は”それ”のおかげで助かった。それが事実なんだからどうしようもない事考えない!そんなもん専門家に聞かなきゃわかるわけないでしょ」

「いてて、でも暴走するとか」

「いいからいいから。ほら、まだやる事あるでしょ」

「ええぇ……?」

 彼女はワーホリ傾向のある彼にばら撒かれた戦闘の破片やら札とか。

 後片付けを押し付けて意識を逸らさせようとする。相棒の深く考えすぎる癖は、彼女は良く知っていた。

 幾らか落ち着いてきた様子のカイトと、彼女の突っ込みの様子に多少警戒が解れたらしい。

 

「あー、そうだな。とにかく助かったわ。臨界して明らかに危険な状態だったからな」

「せやねー、最初からそのはでーな砲撃で吹っ飛ばしてくれるのが一番良かったんやけどねー」

「その分、逆に”ロック”だったと思うぜ。逆転劇はやっぱり定番だよな!」

 吟遊詩人の二人が冗談を混ぜながら笑った。

 それぞれの得物である魔具の槍と片手剣に、軽く油を塗り収めて収納して談笑を始めた。

 

 

「俺等も吟遊詩人の端くれだからな、いい話のタネになるぜ」

「ちょっとー、あたし等ただの冒険者なんだから、困るんだけど」

「おかげで命も助かったんやしねー。あ、勿論名前とか詳しい様子は伏せるやよ?」

 その様子に心の切迫が少しずつ安らいでいた。

 誰かが伴にいると言う実感が、彼に自分の歩いてる道を認識させるものだ。

 

 そして少し経ち。

 

「―――大丈夫か!すまない遅れた。大きな魔力反応を感知したが、何があったか!」

 金の髪と肩を揺らしながら、高い声で状況を確認する声が響く。

 正面の前線モンスターを片づけて、急いで駆けつけた槍を構えるガルデニアである。

【阿修羅姫】

 彼女は、相当斬り捨てたか、返り血で血化粧をしていた。

 魔物は何より数が多かった。そして村人は素人だった。

 大人衆の中にも近接戦はできる者は居た。が、大半が弓を引ける程度の心得である。

 弓はいい武器である。多少の修練で地形の利を活かせば獣であるモンスターなら、一方的に殺せる。

 大概が兼業で村の防衛戦力を担う、彼等にとっては有力な武器であるが、それだけでは護れない。

 故に彼女等の冒険者が、大半の前線を受け持ち、足止めして撃ち殺したのだ。

 

「あ、そっちも終わったの。そりゃもう大変だったみたいよ」

「うちから説明するわ。でかーい派手ーな、金ぴかの双胴みたいな大精霊が出てやなー

「ああ、おそらくこの辺りで噂になってる、”人工精霊”何じゃないかと思うぜ」

 伴に戦い、依頼人である吟遊詩人の二人が、身振り手振りを混ぜ状況について説明する。

 その様子に既に含む者はない様に見える。

 

「っく、そうか。精一杯急いだのだが、よかった。既に撃退出来たのだな。よかった」

「一応はなー。終始ヤバい相手やったけど、最後に盛大に自爆しようとした所を、そこのあんさんがなんか凄いもん展開して吹き飛ばしたんや」

「ん、カイトが、か……?説明してくれないか。」

 ガルデニアがカイトに訝しんだ視線を向ける。

 当然だろう、かなり長い付き合い冒険者である。お互い手を明かしている物だと思っていた。

 自身の手を隠すのはよくある事だが、互いに信頼を築けていると思っていた。

 だからか、内心少し気落ちする。

 

「おう、その話は後だ。ここ防衛の纏め役がすっ飛んで行っちまったせいで、今度は村の奴ら俺に怯えてやがる。早く話通して、音頭を取れや」

「あっ」

【暗黒瘴気】

 そこに重装ゆえに遅れて合流した、マーローが口を挟んだ。

 彼の鎧も血に塗れており、相変わらず黒霧を纏っており、忌避される様な威圧感を纏ってそこにいた。

 カイトはその様子に気が付いた様子で、後片付けした崩れかけの井戸に駆け出し水を汲みあげて。

 

―――バシャッ!!

「―――ぶわ!?何しやがる!」

「なにって、早く霧何とかしないと悪印象が不味いので」

「チィ、そうだがよ…!」

 盛大に水をぶっかけた。悠々としてるにはその霧の影響は大きすぎた。

 ほぼ無条件に悪印象を与える腐霧である。目に晒す対象が増えれば増える程、彼に不利益を与える。

 その自然に動いた身体にやっと心に整理がつく。

 

(うん、そうだ棚上げしよう)

 この【腕輪】(これ)の正体が意図が何であろうと、自身のやるべき事はなくならない。

 幾ら想い悩んでも、己の時間は止まらない、そんな当たり前のこと。

 

 話し込んでた事で時間が経ち、避難していたぞろぞろと村人がこの中央に集まってきた。

「ああ旅のお方、片付けは程はそこまでに、後はワシらがやりますので」

 その代表者としてか、『原間』名乗った先の村長が、前に出て彼等に話しかけてくる。

 既にそれぞれの代表的な大人衆に打ち合わせは済んだのか、背後でゾロゾロと大人衆は男女は動き出して。

 それぞれの仕事に動き出していた。

 

「村の衆の為に戦ってもらってありがたい事です。幸い、怪我人は出ましたが、死人はないと聞いとります」

「うちらも見て見ぬ振りするのも、目覚めが悪いしなー」

「それは何よりだ、モンスターは共通の敵だ。こちらも力を貸して貰った事、感謝する」

 村人、冒険者、依頼人。

 それぞれの立場を代替する三人がそれぞれの言葉を交わした。

 

「その、よう命を掛けてもらって、非常に言い難いのじゃが村防衛の報酬については、村から出せる物は余りなくてな」

「ええよ、ええよ。そんな押し付け取り立てみたいな真似せんわ。冒険者さんの方はどうや?」

「あぁ、こっちも気にしなくていい、依頼人の方針に従っただけだ」

 代表が恐る恐る切り出す、冒険者も命のやり取りをした興奮状態だろう。

 万が一ではあるが、機嫌を損ねてモンスターを撃退出来る冒険者に暴れられても、同じ様に脅威なる。

 実際に報告で、外部の人間に負担が大きい前衛を、任せ先導させた負い目もあるのは勿論。

 一部の衆が前線を張った黒い威圧的な鎧の男に畏れの印象を伝えており。

 それが丁寧な対応に重なっていた。

 

「そう言ってもらえると助かりますじゃ、多少の気持ちでゴルは払わせてもらいたい。それとワシらにできる範囲で希望を叶えたいとおもっちょります」

「うちは特にないやね。芸を披露する場所を提供してくれるだけでじゅーぶんや」

「では、村の衆のと伴に宴を開こうと思うちょります。そこでどうか」

「こちらからは一つだ。少し長い時間の滞在を認めて、大物と対峙した者達を休ませて、体調を見たい」

 軽い交渉というか、摺合せは進んでいった。

 言葉を重ねて、それぞれの立場の大体の線引きはできたらしい。

 

「村の衆も昂っているでな。参加してくれると助かりますや」

 そんな村長の言葉を最後に客舎に休む為に戻っていく。

 彼等冒険者は別れ、今日の騒乱の一日は、一旦の区切りとなったのだった。

 

 

 




田舎の樵さんの戦闘スキルは文字通り、【田舎の樵】と【怪力】だけです。

ウィルスバグ枠との交戦、カイトは魔具『黄昏の腕輪』を取得しました。
転送マーカーだけばら撒いて、条件を満たした奴に送られるくそい仕様。
隠蔽の為、死んでも元に伝送され返される事はないですが…。

キャラ初期メモ
「レイチェル(片手剣士、早撃ち、マネージャー、コンビネーション、漫才師)」
 片手剣速の早撃ち剣士枠。マネージャーの為交渉術を持ち、村々を歩き魔物知識を運んでいる。設定はリアル設定から漫才師。マネージャーは編集者希望から。
 外からの刺激が少ないこの世界の村に、情報の伝達ついでに笑いを運ぶ為のバードクラン【笑福亭】所属。バードの定義にあってるか不安。
 戦闘ではコンビネーションで連携慣れしているが、本領を発揮するのは相方のバフを受けてから、バフを活かした早撃ちは強力な設定。

「デューク兎丸」(バード、槍技、援護歌、風水術、漫才師)
 風水術枠、槍も使えるが歌によるバフが本領。歌も歌えるが半端であり漫才を興業の中心とする。
 設定はリアル設定から漫才師。外からの刺激が少ないこの世界の村に笑いを運ぶ為のバードクラン【笑福亭】の所属。バードの定義にあってるか不安。
 戦闘では援護歌と風水術による鼓舞と環境調律でバフをかける。
 マリオ兄弟のような環境操作は無理。槍も使えるが護身術程度。
 

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。