ポンコツ世界異聞=【終幕を切り刻む者達《ハッカーズ》】   作:きちきちきち

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到着【パリス同盟】

―――襲撃の後始末。

 

 【円環精霊】の襲撃の顛末。

 

 魔物の襲撃という村全体の危機を乗り越えた事により、小さい規模の宴が拓かれ。

 そこに彼らも招かねた。

 村を護った礼と、多少凝った食事と地元酒が振る舞われ、地元の料理を御馳走になっていた。

 穿って見れば大半は荒くれ者である冒険者をちやほやして。

 どちらも円満に済ませようと言う意図が無い訳ではないが、あえて気にする事でもない。

 

「ささ、食べてくだされ、量だけは一杯あるでな」

「その、ありがとうございます。怪我の為にお酒は良いですから…」

「うんうん、結構、美味しいじゃない」

 割と遠慮なくパクつくローズを傍目に、怪我の為にカイトは酒をやんわりと断った。

 その両腕には焼けた腕を隠すように、さらしが巻かれていた。

 だが、以前経験したような両腕をケロイド状に、焼かれたような痛みはない。

 痛みを実感とする傾向のある彼にとっては、それが無いのがむしろ怖い。

 ”腕輪”の干渉を感じて憂鬱になる。

 

 食材は主に芋の加工料理が多く、様々な形でそこに合る。

 芋も加工次第で色々ある物だと感心させられるものだ。このプニプニは何だろうか。

 

 滅多にないモンスターとの戦闘に昂った神経を鎮める為に、とにかく酒を飲みドンちゃん騒ぐのは冒険者でも良く在る事だった。

 特にモンスターパニックの【王国】ならともかく、【聖錬】ならばモンスターの交戦は少ない。

 ついハメを外すの者が多いのも、仕方のない事である。

 

(うん、懐かしいなぁ)

 それは故郷の村にいた頃を思い出す光景だった。

 興奮が冷めやらないか、気のある男女同士で夜の暗がりに消えていく様子も見える。

 意味を考えるのは野暮だろう。

 

「いや―集まってくれてあんがとなー」

「はなからとばしていくぜ!」

【漫才師:コント】

 吟遊詩人の二人は即席で作った高台で、自身等の持ちネタを披露していた。

 引き語りをできなくはないが、彼等は基本的にこちらの方が受けがいい。

 多くの人を笑顔にできると言う事で、こちらを興業のメインにしているらしい。

 

 それを背景に。

 

「で、もういいだろう。カイト、大精霊級を消し飛ばしたと言うその手段、説明してくれないか」

 笑い声が巻き上がり、大人衆の視線が集まる裏で。

 彼等、冒険者は互いに、異常の多い今回の事例の詳細を確認し合っていた。

「―――その、僕にもわからないんです。突然纏わりついて、多分魔具の類が起動して、全部消し飛ばしました」

 聞かれても実際そうとしか言いようがない。信憑性にしてもこの言葉に意味があるとも思わない。

 自身の身体であるはずなのに、己が一番信じられないのが心境なのだ。

 

「ふむ、嘘はついてないか、わかった信じよう。詳細を説明してくれ、性質の悪い物の類かも知れない」

「えあ、はい。出来る限りは」

 拍子抜けするほど、簡単に受け入れられて逆に困惑した。

 この腕輪によって起された現象を、憶えていられるだけ詳細に説明する。

 幾何学光帯での砲撃、対象の殻による分解現象、その残骸を腕輪が吸収して、自身の怪我を治した事、自身の頭の範囲で理解できた範囲を事細かに。

 

「なるほど、可能性としてはその【太陽の腕輪】が偽装された上級魔具の類だったが怪しいな」

「フン、捨てられるもんなら捨てちまえ、偽装してる時点で大概碌なもんじゃねえぞ」

 ずっと横で不機嫌そうに腕を組んで聞いていた。”上級魔具”使いとも言えるマーローが口を挟む。

 彼はこういう上級魔具のデメリットについて、体感で学んでいるのだ。

 特に治療が怪しい彼の両腕は驚く事に、ガルデニアの初歩的な治癒術で剣が振るえる程度に軽減されていた。

 おそらく”腕輪”の影響だろう。人体に干渉してることの証左だ。

 

「上級魔具なんてもんは効率求めて、人体改造がつきもんだ。出自不明なんてモンどう身体が弄られても不思議じゃねェ。俺の【黒蜘蛛の鎧】(サンパイ)も押し付けられたもんだ。”暗黒剣”以外使い難い様に改造していきやがる」 

 苦々しい顏で語る。それは【暗黒剣】を使う様に身体が最適化されたという事だろう。

 更に他に他者の印象に悪影響を与える【暗黒瘴気】が自然発生、そんな分り易い魔具デメリットの象徴が【黒蜘蛛の鎧】である。

 

「そう。最悪適合不全で衰弱死なんて事例も聞く。とにかく【太陽の腕輪】を外して試してみてくれ」

「そんなでも、暴走の危険性が」

「心配する事はないわ。最悪、彼に暗黒剣で切り開い貰って、私の樹が縛り込む。準備さえ事前にできればなんて事はない」

「…っち、仕方ねえな」

【阿修羅姫】【陰陽術】【固有術:木伴装】・【暗黒剣】

 彼の懸念とは裏腹に、ガルデニアは封殺して捕縛する気満々な算段を立てていた。

 これがこの世界の上位経験を持つ冒険者の思考(殺意)であった。

 

「じゃあ、やってみます」

 と言っても明確な意思を伴ってこの力を利用した訳ではないのだから、困る。

 とりあえず”魔法剣”を使う時のように、意識を身体に沈め呼吸を整え吐き出して集中力する。

 砲撃を放った瞬間を記憶から思い返し、想起する。

 

 だが。

 

(……何も起きない)

 今度は何となく、耳に残った特徴的なハ調を思い浮かべ。

 軽く、”出てこい”と念じてみた。

―――『ポーン、ギュイン、ガシャガシャ……シュイ―ン』

【黄昏の腕輪:展開】

 今度は随分簡単に、幾何学な光線で形造られた様な装甲束、いや砲台が彼の腕から顕れた。

 展開時間は三秒程度だろうか、随分と軽い引き金である。

 

 その様子を見て、周囲は一歩下がり、それぞれ得物を手にして一旦は警戒態勢に入る。

 

「ふーん、じっくり見ると結構奇麗じゃないこれ?悪くないわ」

「ちょ、ちょっと、危ないから触らないで……っ!」

 ただ一人、相棒であるローズを除いて。

 顕れる美しき”五欠片の花”。その手軽に砲塔たる花に触れて、その感触を確かめていた。

 この幾何学装甲は物理的な影響力があるらしい。

 

「いいのいいの、近くにいた方が止めやすいわ。アンタがしくじらなきゃ問題ないって」

「……そういう問題か?しかし、【太陽の腕輪】が発生源ではない様だな。寄生型か?ナノマシン型か?有り得ない話ではない、が。親衛隊の一人が使ってた【IS】は有り得んだろうし……」

 ガルデニアが経験に照らし合わせて、彼女が可能性を検討していく。

 【IS】とは魔導時代の発掘品の一種の魔具である。

 これと似たように異次元の腕輪で格納されて、使用の度に再構成される機動装甲とアビリティが特徴だが。

 類似性を考えたが、それは女以外動かせない、強力な兵器である。

 

「外す方法もわからないですし、”棚上げ”して少し様子を見ます。冒険者は出自怪しいの魔具だって、本来は贅沢言えないんですし」

「そう、ね。いったん棚上げして、専門家に見てもらうしかないか。私にもそんなコネはない。最悪ゴルを貯めて【牙の搭】に出向く必要があるかもしれない」

「ッチ、暫く下手に使うんじゃね―ぞ。どんな副作用あっても知らねぇからな」

 魔具に対する方針を決定して、とりあえず問題を棚上げした。

 とりあえず金もコネも足りないと言う、世知辛い冒険者事情からだ。

 また、カイトは自身の身を惜しんで、”異変”の解決に遠回りする程の時間も余裕もないのだ。

 

(ただ、怖い)

 この”都合のよすぎる”腕輪”が周囲を害するかもしれない。

 そんな強い違和感と脅迫感が心から消えない。

 

「その、心配してくれてありがとうございます」

「……ふん」

 とにかく礼を言う。

 良くわからないものを、誰かが一緒に考えてくれる、それは得難く頼もしい物なのだから。

 そのありがたみを噛みしめる。改めて、人の縁には恵まれている。

 

 背後で、どっと笑い声が湧きあがる。

 宴も時間がかなり過ぎた様で、潰れた村人もちらほら見えた。

 

 意外にも冒険者という存在に一番興味を抱いていた子供達は、最後まで現れなかった。

 

 後で知った事であるが、子供達は憧れた冒険者の戦いを見たいが為に、大人の誘導を抜け出して見物していた子もいたのだが、拳骨を落とされて引き戻されていった。 

 その罰でこの宴会に出禁であるらしい。

 

 だが、もう一つの理由として。

 実際、冒険者を闘いを目にした村の子供達も、塞ぎこんでいるのもあるのだが。

 

 それは身を削り潜らせながら、襲い掛かる致死の驚異を断ち逸らし踊り続けた武踊。

 それは身の上では格上である生物達を、吼えたけり気圧されぬと対峙し押し込み殺した波濤。

 

 それらは熱で溢れた懐の彼等が思い描いていた理想の物語より、泥臭く必死の闘争だったのだ。

 言うならば”モンスターリアリティショック”である。

 この世界の残酷差に触れた、子供達は自身の夢について思い影を落とし、今後を手繰るだろう。

 それが良い未来に巡るか、悪い未来に巡るかは彼等次第である。

 

「「ご拝聴ありがとうー!!」」

 漫才も終わったか、拍手が巻き起こっているのが聞こえた。

 少し、事態が切迫していたから聞き逃したが、少し悪い事をしたかもしれない。

 

 そして今日の日は、皆がそのまま寝入り翌朝に。

 滞在一日を、療養に充てて。

 体調に問題が無い事を確認して、チョコボを引いて”カイガラ村”を出発する。

 

 出発する時に、”人工精霊”に伴に立ち向かった樵と大男、ダジギさんに礼と謝罪を言われた。

 ”人工精霊”を吹き飛ばした砲撃に恐れをなして、声を掛けられなかったそうだ。

 それに気にしてないと言葉を返し、手を振って別れたのだった。

 

 

 

 

 ●●●

 

 

 

 

 あれから時は経ち。

 現在の彼等は、護衛旅の途中である。

 吟遊詩人として、ルートの村々を巡り、そこで情報を収集したり興行したりと旅の道を行っていた。

 モンスターの襲撃も度々あったが大体単発であり、囲んで殺したので問題という問題はない。

 【迎撃態勢】(こころがまえ)を持った者もいる。

 例え一人が無理できぬ状況でも、既に小規模な群れに、後れを取る面子ではないのである。

 

 時間が経ち、その中を通して思った感想をぽつりと漏らす。

「”カイガラ村”っていい村、でしたね」

「ほんまなー、ええ感じの雰囲気やったわ。うちらも結構回ってるけどな。ああいう小奇麗な村は珍しいねん」

「まぁな。こういう所があるから、旅はやめられないんだぜ」

 村の健康度は、そこの子供達の様子を見れば、大体わかると感じさせられた。

 あそこまで、純心に夢抱ける子供達がいる村はそう多くないだろう。

 公共で使われる設備も大したものだ。

 道もそうだが、道とか掘が非常に整っていたのは、村人が自身の村をきちんと愛してそれぞれ協力していたからだろうと、後から思い返すのだった。

 

「僕の故郷なんかは、自由ではあったけど」

 カイトは自身の故郷がまた基準としてある為に、”カイガラ村”が如何に良い村だったかを、吟遊詩人の二人とは違う尺度で感じていた。

 

 更に会話を続ける。

 既に長旅も終盤である。流石に、Cランクである彼等の気は少し緩んでくる。

 割と疲れ切って、集中力の保たせ方がわからないとも言う。

 なので適当な会話をして、何とか集中を繋ごうとしているのである。

 

「そういえば。結局、あの”人工精霊”襲撃はなんだったんですかね」

「さてね。そういえば私たちの所にも明らかに人工的に改造された大物の個体が一体出た。おそらくそれがモンスターを牽引していたのだろう」

「フン、嵌め殺してやったがな。刃が通りゃ後は”暗黒剣”で削り切るだけだ」

 話を聞くには彼女達の所にも、不自然に鱗が突出した。巨人型のモンスター(人工のモンスター)が出たらしい。

 矢を諸共しない頑強さとしぶとさが突出した個体だったらしいが、刃さえ通れば生命力自体を削りに行く暗黒剣士が居たのが運の尽き。足止めしてひたすら間に差し込んだらしい。

 

「多分、自爆の常套手段を考えると、おそらく、また恒例の【預験帝】辺りの工作手段やないかなー」

「まったく、ロックじゃない話だぜ」

【吟遊詩人:魔物知識】

 吟遊詩人の二人が自己の知識から推測を話す。

 【預験帝】が定期的に手段や方法、マローダーをアップデートしてちょっかいを掛けてくる。

 そんな実例を良く触れ、収集するのが彼等だ。

 

―――、一般人は知らない事であるが、聖錬獄を支配する座する超越者()

    そんな存在すら、可能であればうぜぇと速攻で消し飛ばす程の邪魔な国が【預験帝】である。

 致命的な工作については突出しており、また預験帝か!と現地の武力を預かる精鋭をも悩ませる。

 そしてますます殺意が高まるのである。

 

 そんな会話の片隅でも少し考えが伸びる、腕に結ばれ、外せぬ腕輪。

「にしても良かったじゃない。カイトが心配してた”腕輪”の暴走とかなかったみたいでさ」

「まぁ、ね。ちょっと怖かったけど」

 封殺できる人材が揃って、検証できる機会が少ないだろうと。

 ガルデニアの提案で、一度だけ検証の為に襲い来るモンスターに”腕輪”を向けたのだが。

 彼の意思通りに対象を消滅させたのはいいのだが、幾つかの弱点が露呈した。

 

 まずは誤射、なまじ殺傷力が高い為にそれが致命的すぎる。

 展開して発射までに三秒ほどの時間がかかる。実戦の三秒は重たい。

 多少誘導するが反動を軽減する為か、空間固定がされる為、小型・高速移動する対象に中てずらい。

 更に、範囲もそこまで大きくない故に、例えて【聖剣技】の様に地形攻撃(マップ攻撃)としては利用しずらいと言う物だ。

 

 

 纏めて、乱雑に言えば【大物殺し】(ジャイアントキラー)

 逆に言えば大物以外には、取り回しが悪すぎる大砲がこれらしい。

 

 

『ふむ、これなら展開確認したら、私なら目晦まししながら跳躍して斬るで対処できそうだ。そう怖い物ではない』

 結果、淡々と展開後の封殺を組まれた、怖い。

 目立ちすぎるのもあって、普段の冒険者依頼ではほぼ役に立たないという結論だ。

―――実際は、この”腕輪”を畏れているカイトに対する、配慮的な意味も混ざっているのだが。

 以上の点を含めて、なお十分過ぎる殺傷力を誇り機能も隠している凶悪な【上級魔具】である。

 

 結局の所、差し引きならぬ状況以外では封印という、大まかな方針は変わらない。

 世の中、楽はできない。

 

 またしばらくチョコボが街道を進む。

【レンジャー:野狩人】

 カイトは定期的に属性値をチェックして、異常がない事を確認しながら、日の傾きを追う。

 そうするうちに遥か遠くに小さく見える建物群と、行き来する人が見えてきた。

 

「おおー、やっと見えてきたで!あれが、最終目的地の【パリス同盟】所属都市の一つ、【ルミナ・クロス】や!」

「通称”闘争都市”って言われてたりするな。”闘技場”を中心に経済回してる都市だから少しガラが悪いが、注意していれば悪い所じゃないぜ?」

 【パリス同盟】は聖錬南部の小国同盟の名称である。

 その中の一つが、【ルミナ・クロス】と呼ばれる都市である。

 その特性は何よりも”闘技場”に寄る賭け事の場だろう。

 それは人間同士に留まらず、”投影獣”(スキャナー)の競り合い、使役師(トレーナー)の凌ぎ合い。ガチのモンスターを使った賭け事だけは禁止されているが、それだけである。

 そんな規模は娯楽に特化した、中規模程度の商業都市の街だった。

 

 入り口の門に辿りつき、街に入る為の身分証明を行う。

 扱う商業が商業だけに、無法地帯にならない様に、そこの所は厳しいらしい。

 既にいい日だったか、既に入口には行列ができており暫くの時間を要した。

「お疲れさん!これでいいでっしゃろか」

「お、吟遊詩人の方々だったか、よし証書を確認した。通っていいぞ」

 身分証明にあたっては、社会的な立場を持つ吟遊詩人の彼等がよく効いた。

 

(んー、ちゃらんぽらんな、【ラインセドナ】と違ってなんか嫌に厳重ね)

(あはは、こっちには鉄作りの城壁も立派な門もないからね、そんな田舎がルール気取ってたら廃れるから)

 おそらくC級冒険者の肩書では不安があるだろう。B級のガルデニアの保障があれば、通れるか程度だ。

 

 その後、共同である”ライダーギルド”にチョコボを返却して。

『―――クックク、クエー!』

「うん、よしよし」

 世話になったチョコボ達に、旅に持ち込んで余った飼料を、処分も兼ねて全部与えて。

 鶏冠を撫でて別れを告げる。人懐っこい為か、されるがまま目を細めた。

 働き者の良い子達だった、不慣れなカイトもしっかり運んでくれた。

 

「お疲れさん!色々あったが、無事辿りつけてなに寄りだわ。助かったぜ」

「絶対この街でやたら安い宿は利用しちゃアカンでー、身ぐるみ剥がされるかもしれへんからな」

 事前に協議した増額分の報酬と忠告を受け取る。

 何でも、この街に彼等の新興”吟遊クラン”の支部である【招福亭】があるそうで、そこで道中の経由した村々の報告の仕事があるらしい。

 気が向いたら遊びにきてやと、大体の場所を教えられた。

 

「こちらこそ色々話が聞けた。それにうごきやすかったわ、義務に尽くさせてくれたことを感謝する」

「それじゃ、またねー、元気でやってなさいよ!」

 そして手を振り別れた彼等は、人ごみの中に消えていくのだった。

 それを見送ってから。

 

「さて、カイトの怪我を【クェーサー修道会】に連れて行きたいのもあるが、とにかくまずは依頼報酬を分けたい、手近な冒険者ギルドを探すとしよう」

「フン」

「わかりました。とりあえず誰かに聞いたほうが早いですね、あの!すみません」

 近くの明らかに冒険者らしい人間に声をかけて、ギルドの場所を聞こうとするのだが…。

 

「おぅ小生に何か用か!なんでも言いたまえ、どぅーっはは!」、

【愉壊痛快】【ギャグ補正】

 帰ってきた意気揚々と調子の良い声、なんかとんでもない色物を引き当てたらしい。

 おかっぱ男の巨漢重鎧の戦士、背負った重斧の使い込み具合から察するに相当な戦士だろうが。

 何か雰囲気がおかしい、具体的にはヘンテコな熱気があふれている。

 

「あの、えっと、この街で冒険者ギルドの、場所が聞きたくて」

「おお、同業者であるか!さてはこの街は初めてだな、小生おすすめの冒険者ギルドは、南に三間行った所の『ナグマホーン】、運が良ければ巨乳のお姉さ……ごっほごほ、丁寧に応対してくれるのだぞ!」

 やたら凄いテンションが高く、捲し立てる。

 ミストラルとは違う、自分のリズムで生きる者の気配、しかも彼女のからっとした雰囲気とは違い。

 なんかもはや破壊的と言ったら良いだろうか、暑苦しいビュジアルも相まって嫌な予感がする。

 

「わっはは、良く見ればいい眼をしているな少年!小生の名はピロシ、実の所、私も頼みがあるのだが、あぁ聞いてくれるだけで良いのだ」

 とりあえず、周囲は見渡し様子を確認するピロシと名乗った大男。

「おお、しかし、見た所今は取り込んでる様子!では縁があればまた会おう、さらばだ良い眼をした人よ!」

 ちょっと待った。何だ頼みっていうのは、それを聞き返す間もなく大男は走り去っていた。

 話を聞く限り、おそらく彼は同じ冒険者宿を利用する事になるだろう。

 その時の助け舟欲しくて、背後の同行者に目を流すが。

 

「‥…ん、任せた」

「ぜってぇ俺は関わらねえぞ」

 先輩たちも関わりたくない様子であった。

 ただ通りすがりに冒険者ギルドの場所を聞いただけなのに、一発で何か特濃人材を引き当てた。

 そんな彼に、少し呆れ顔も見える。

 

(ちょっと解せない……)

 腕を組み自身の交友関係に関して、しばし考えるのだった。

 

「しっかたないわねぇ…。気が進まないけどあたしが付いて行ってあげる。これで最低、高ーい変な壺やら押し付けられる事はないでしょう」

「よかった、助かる」

「いいってこと、あたしら相棒でしょ」

 巨漢の大男からは悪意は感じなかったから、極端に悪い事にはならないだろうが。

 それはそれ、これはこれ。認識を受け入れてから、解釈を加える彼の処世術はであるが。

 そんなこと関係ないと暴走列車で突っ込まれると時折、割とフリーズする。

 

「フン、変な奴は何処でも居るもんだ」

「とにかく、ギルドの位置は分ったのだ。【マグナホン亭】向かう事にしよう」

 とにかく、教えられたギルドの場所に足を運ぶ一行。

 配分するゴルがゴルだけに、ギルドの個室を借りられれば一番良いだろうと算段付ける。

 

 歩いていくとこの街の表情が見えてくる。

 道は奇麗に整備され全て都市の中心である”アリーナ”に繋がっており、マナ光源も立ち並び、絢爛さというか現実離れした光景を成していた。

 おそらくあの巨大な”アリーナ”中で多くの”賭け事”が行われているのだろう、観光資源を売りにしている街としての特徴だ。

 高い壁も外界と世界を区切り、内部の存在を隔絶させ、印象付ける意図があるのかもしれない。

 

「はえー、すっごい。チカチカ奇麗な場所ね。ずっと見てたら眩暈がしそうだわ」

「完全に観光都市みたいだね。こういう所は冒険者の需要在るのかな」

「フン、こんなもんメッキだ。一皮めくりゃ、冒険者は薄暗に身を潜めるしかねえ」

 反面中心に繋がる道の傍道に目を伸ばせば、薄暗いアナーキーな雰囲気を放っている。

 立ち並ぶ質屋の用途は考えるに沼である。

 吟遊詩人の二人が注意すべきといった、生気を疑う淀んだ目をした者たちが出入りする。

 この街の側面だ。

 

 幸いというべきか、目的地である冒険者ギルドの【マグナホン亭】は表通り寄りにあった。

 入ると、表通りと異なりかなり質素な雰囲気を感じた。

 

「ようこそ、【マグナホン亭】へ。今日は何の御用かしら」

「すまない。こちらに旅をしていた冒険者だが、冒険宿に仮登録をお願いしたい。それと小部屋を少し借りられないだろうか」

「あら、では冒険者カードの提出を、確認しましたわ。【ラインセドナ】から護衛依頼をこなしてきたのね、報酬は預かってるわ、はいお疲れ様」

「あぁ、ありがたい」

 リーダーであるガルデニアが受付嬢に話しかけ、先導して一気に手続きを済ました。

 そして、ギルドの小部屋に案内される。

 魔導具である砂時計の進む程度によって、料金を取られるシステムらしい。

 

 それぞれに椅子に座る。

「さて、報酬の配分は事前で協議した通りで構わないかカイト、君は足し引きできるんだったな。ちょっと手伝ってくれ」

「あ、はい」

「ああ、構わねえよ。ちゃっちゃとしようぜ」

「あんたねー、悪い癖よそれ」

【孤独者の流儀】

 未だに人酔いの残る彼は、この場を早く切り上げようと微妙に急かす。

 特性ゆえに、足元を見て金のトラブルをかなり経験した事も反映されているこの人間不信は、既に信頼を置いた相手にもまだ棘となる。

 

 そしてゴルを等分して配当し、それぞれに間違いが無い事を確認する。

「さて、長旅ご苦労だった。後はそれぞれに自由にしてくれ、私はこの冒険宿に宿を取るつもりだから、何かあったら言うといい」

「お疲れ、んーっ疲れたわ、なかなか骨が折れるわねぇ長旅ってのも」

「お疲れ様でした。そもそも僕らじゃ基準に全然足りないから」

 依頼が受けられたのも、大体信頼を築いていたガルデニアのおかげであるし、支障なく進行できたのも彼女のおかげである。実体験が必須の事であるが、経験する機会は希少で高い。

 そういう事柄が、世の中には溢れている。故に、先立ちの先導とコネは貴重なものなのだ。

 

「ふん、世話になったな。機会があるならよろしく頼むぜ」

 マーロー・ディストは立ち上がり早々に部屋を出ていく。

 孤独にこだわる彼が、またと含んだ言葉を吐き出すのは、多少距離が詰まった証なのだろうか。

 

「ん、悪い奴ではないのだろうが…、多少危な気なきらいがあるな。マーローとやらは」

「あはは、悪い人ではないし頼りになるんですけどね。じゃあ、僕等も行きます。流石に疲れたので、宿で休みをとらないと……」

「ああ、良く休むといい。両腕の事は既に随分治って見えるが、原因が原因だ。【クェーサー修道会】に一応きちんと診せなさい」

 少し頬を染め、心配そうにめぶせしながら。医療に掛かる事を強く奨める。

「……まぁ君も若い男だ、識っておくべきだろうな、うん」

 少し不審げな様子で、一言呟いた。

 存在する場所なら、一言二言周囲に聞けば場所は分ると付け加えた。

 なお彼女の懸念は【クェーサ―修道会】の実体を知っているからであり、そこにモヤモヤとした物を感じたからである。

 

「街から出るときは声を掛けるから、準備だけはしといてくれ」

「はい、わかりました。今日は遅いから、明日になると思いますが」

「色々ありがとねー、先輩」

 危険が溢れる旅は基本群れる物だ。こういう根回しは普通に重要になるだろう。

 【ラインセドナ】に戻る時は依頼が無ければ、定期的なキャラバンに便乗して、戻る事になるだろうか。

 

「何時もの如く、一緒の部屋でいいわよね?」

「うん、出先だと流石にね」

 ローズと伴に部屋から出て、受付に戻り滞在の為の宿を取る手続きを行った。

 その基本料金はかなりお高い、観光地補正だろうか。

 

 鍵を受け取り、205号室と掲げられた扉のドアを開ける。

 最低限装備を外し、一通り柔軟体操を行い。

 そのまま用意されている硬いベットに飛び込んで、意識を放浪させる。

 

「―――んー……、」

 やる事がなくなれば、意識の中に棚上げすると決めた。”腕輪”に関する不安が湧き上がってきた。

 何故こんなに不安に駆られるか、その”都合の良さ”もあるが。

【凍結記憶】

 何より何か心の中に締め上げる、正体不明の圧迫感がそこにある。

 

―――だから。

 

「ねぇ、ローズ、”腕輪”に関係でお願いがあるんだけど」

「ん、なにさ」

「もしさ、ローズが僕が変だと、誰かを傷つけて動くようなら、殺してでも止めて欲しい」

 故にそれは弱音だった。

 ”相棒”故の信頼である。彼女の価値観に信じてる。正しく直情的な彼女の激発を知っている。

 それに委ねられるなら、この身体を結ぶ糸が繋がっていようと、致命的な間違いを犯す前に止まれる気がしたのである。

 

 だが。

「え、嫌よ」

「えぇー…、少しは考えてくれても」

「あったり前でしょ、なんであたしがそんな事しなきゃいけないのさ」

 即答、彼の不安を彼女は切り捨てた。

 それに仮に断られるとしても、叱られると思ってた故に意外だった。

 その目は何を馬鹿な事をと言う煩わしそうでもなく、その茶みかかった瞳は見つめて何か揺らいで。

 少し怖い。

 

「仮にあんたが素っ頓狂な事し始めても、手足圧し折って斬り落としてでも連れ帰るわ。だってあたしら”相棒”でしょ」

【■縛願■】

「ちょっとローズ、怖いんだけど。そりゃ殺してでもって言うのは、比喩だけどさ」

「ごめんごめん。こっちも比喩よ」

 割と死んだ方がましだと思った。

 仮に手足の意味をなくした己は生きてく手段はないし、何も価値などありはしないのである。

 正しい事をしていく、ただ進めると信じている。この脚は、実感が無ければただ腐る。

 腐りたくはない。

 

「ごめん、気弱になってた、忘れて」

「ふーん、まぁいいけどさ」

 安心を求めた弱い心に反省、意識を沈める。溜まっていた身体の疲労に従って意識が単調に離れていく。

 ローズはまだ多少体力に余裕があるようだった。まだこちらを見ている。

 やっぱり人種の違いは大きい。

 

「おやすみ。また、あしたー」

「あいよー。ゆっくり休みなさいな」

 明日、明日の予定を。

 依頼は受けるか、まずは街事情の調査だろうか、裏路地には近づかない方がいいだろう。

 頭に思い浮かべながら、眠りについて。

 

 

 今日の日は終わりを告げるのだった。

 

 

 

 




闘争都市「ルミナ・クロス」草案。
・元ネタは.hackGUのそのまま闘争都市「ルミナ・クロス」
・【聖錬】南部の小国連合である【パリス同盟】の加盟都市の一つ。
・闘争都市の名前の通り主な産業は、闘士の殴り合いを見せものにした賭け試合。
・裏通りには下級闘士の下宿や、モグリの質屋が並んでいる為、ガラが悪く興味本位で近づく事をおすすめしない。
使役師(トレーナー)投射師(スキャナー)を限定にした賭け試合もある。
・何でも有りの賭け試合ならば、無法地帯【奏護】に大きく利があるので、需要の差別化の為に観光都市として、表面の見た目と往来のしやすさ取り繕っている為、表通りは装飾過多。
・冒険者に対する依頼は、それに関するモノが大半である。「清掃」、「探偵」、「闘士の募集」。
・討伐依頼は少なく、あっても大型依頼、割と関係する専門技能を持ってないと冒険者は渇いて死ぬ。
・闘技場のアリーナの階級制度として【紅魔宮】【碧聖宮】【竜賢宮】と別れており右に行くほど高く、目に見えて待遇が変わる。
・闘士達は成り上がりを目指す為に、賭け試合で稼いだ金を積み上げる。
・さりとて、下位宮でも頂点たる宮皇(チャンピョン)に限定して、実力は確かである。”宮皇の名”の称号自体が興業・商業的な価値がある為に、象徴として存在している。
・各宮の頂点である三人を纏めて、【三宮皇】(イコン)と呼ぶ。
・医療共と娼婦共にの需要が高いので【黄の札】の出資する「クェーサー修道会」が大きく利権に関わっている。
・なお、賭け事に熱中しすぎて私財を投げだし再起不能になったダメ人間は、【黄の札】が経営してる鉱山にドナドナされる。

 箇条書きで設定考えてみましたが…、これでいけますかね?
 傭兵国家も闘技場あったとかなかったとか見た気がするんで、凄く不安。

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