ポンコツ世界異聞=【終幕を切り刻む者達《ハッカーズ》】   作:きちきちきち

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滞在【ルミナ・クロス】

【クェーサ修道会】

 ここは人類が魔導の道を専攻する七色の札の一つである【黄の札】を組織母体に持つ、

 医療を建前として、大規模な性産業を提供する、両方の機能を持つ組織である。

 需要と供給の関係からこの【ルミナ・クロス】の都市で大きな影響力を握っているのだが。

 それは今は関係なく。

 

 清潔感のある白い内装に、宗教を感じさせるシスター服が特徴的だろう。

 そこに所属する癒し手の一人である、黒髪巨乳の女がカイトの腕を問診して一言。

「はいはい、魔術、霊体、機械の三方で精査してみたけど、異常は検出されなかったわ」

【癒し手】【高等医療技能】【晶術】

 こんこんと額を筆記用具で揉みながら女が語る。

 お得意の【晶術】まで使用した、血液、細胞との同調・反響測癒まで使用した高度医療を持って断言する。 

 

「その魔具だっけ?肉体融合式らしいわ。右手に機械式の仕掛けがあった。外科手術で取り出すのは無理そうね」

「ただ極端に構成・属性値ともにバランスを崩している様子もない。使い続ければわからないけど、今の段階では健康体と言っていいでしょう。”クェーサーの癒し手”たる私が保障するわ」

「―――!そうですか良かったっ、あのその、すぐ剣は振るえますか?」

「ええ大丈夫よ。その反応見る限り本気だったみたいね。余りに怪我の痕跡なくちやほやされたい仮病患者かと思ったわ」

 高い金払ってそんな事する奴いないだろうと、内心首をかしげるが。

 そんな疑問より、健康体の保証が第一に嬉しい、第二に手術とかでゴルが掛からなかったのが嬉しい。

 今回の依頼での十二分の黒字に、彼は内心浮かれていた。

 

「薬の処方もないわ。保証書書いてあげるから、万一関連して発病したらまたかかりなさい。それはそれでいい治験……げふんげふん。とにかく私の権限で診療代を幾らか引いてあげる」

「はい、ありがとうございました」

 黒髪巨乳の癒し手に頭を下げて礼を言い。

 ”治療の料金”を払い。【クェーサー修道会】を後にして、冒険者ギルドに戻るとするのだが…。

 

「あら、医療(建前)だけでいいのかしら?」

「……?えっと、どういう意味でしょうか」

「あらあら、何も知らない程の坊やだったのかしら。珍しいわー、まぁ簡単に言うとね」

 黒髪巨乳の女が【クェーサー修道会】の裏の顏…、と言うより一般的にはこちらがメインなのだが。

 それについて簡単に説明する。

 つまり、いわば治療を建前にしての【聖練】全体での”娼婦ギルド”の実体である。

  【クェーサー修道会】治療と、娼婦を兼任する組織である。

 更に、通の利用法としては、身体を重ねた女の前では口が軽くなる男の習性を利用して、情報収集の場としても使えるのだが。

 カイトはそれらを全て知らず、診断と治療だけを求めていた。

 

「へ、あう…っ…その」

 カイトとて、若い雄である。確かにそういう行為(コト)に興味が無い訳ではない。

 むしろ閉鎖的な村社会出身である事から、そういう知識にはむしろ近しい環境である。

 だが初めてである限り”覚悟”がいるものだ。不意打ち気味に差し込まれて。

 赤面と混乱の極地にあった。

 

(ガルデニアさーん!?言ってくれても良かったじゃないですか!)

 心の中の頼れる先輩に、情けないと思いながらも恨み言を飛ばす。

 なお、その知識があっただろうガルデニアは九十九脳である為、大した事でないと。

 なお自身の口から説明するのは、恥ずかしいから、端折ったのである。

 

「あらあら」

 その様子を見て、百戦錬磨である黒髪巨乳の女の悪戯心に、火が付いた。

「あの、そのえっとちょっとー…?実はその僕一四歳なんですっ、そういうのは早いと思うので!」

「あら、診断書に十六って書いてなかった。医者に嘘をつくのはよくないわね。それになおさら―――ズキューン!ー――じゃない。さぁさ早く気を楽にして」

 彼が普段、他の人に語る年齢である十六歳は、相棒のローズの年齢に合わせた年齢設定である。

 彼なりに相応しい様にとの背伸びであったし。流石に齢十四と名乗れば、多少冒険者として侮られるという浅知恵でもある。

 

「あのあの!本当にいいですから、治療だけで十分ですから!」

 しかし、彼には知り合いの心配を集めて、色々考えてもらった実感がある。

 それが(性的に)遊んできたとなれば罪悪感がやばい。彼のクソ真面目な感性が邪魔をする。

 なお、一人を除いてそんなの気にする者はいないのだが、彼は知らない。

 むしろ適度に吐き出すのが、長生きのコツだと言うのが一般的な認識なのである。

 

 少しの間、手を押しのける問答の後。

 

「そう。まぁ私は楽できていいけどね」

「はぁ……はあ、ふぅ…ならもうちょっと、早く退いてくれて良かったんじゃ…?とにかく僕は行きますね…っ」

 一通りからかい飽きた修道女が、彼から手を除けた。

 もしこれがAランク以上の冒険者であれば種に価値を見込まれ、もう少し押し強引に接待(サービス)を受けた可能性もあっただろう。

 彼はCランクの木端である。反応の面白さ以外に、見向きもされる訳もないので平穏が帰ってきた。

 ”癒し手”も職業である。そこの所はシビアだ。

 

 その教会染みた建物から出て。

 

 

(―――よかった。ローズを待たせてるのに行為(コト)を始めたら、時間経って不審に思われるし…っ)

 

 多少時間が経ったか、既に日は登りきった所だ。

 

「あ、お帰りカイト。どうだったのさ、腕の様子は」

「―――っ」

 そんなやり取りがあったからか、相棒である彼女と合流してたのだが。

 普段意識しない異性としての彼女を意識して。少し、顏が赤くなるのだが、平穏を装って煩悩を追い出す。

 その方法が頭の中を仕事しなきゃと考えるというのが、彼らしいと言えた

 

「うん”癒し手”の話じゃ全く無事だってさ。剣だってすぐ振るえる保証付き、すぐ働けるって」

「あのねぇ…、第一声がそれなの。でも良かったじゃない、何も異常がなかったみたいで」

「まぁうん。本格的な治療になったらお金足りないしね」

 ”腕輪”の問題と疑問が解決したわけではないが。

 包帯を解いて、手を開き、握り直す、更に少しオドを活性させて流れを確認する。

 自己判断でもそこに違和感はない。無事また剣を握れそうな実感に安堵した。

 

 

 

 

 

―――翌日の闘争都市【ルミナ・クロス】の昼。

 

 

「さて、懸念もなくなったし。こっちは慣れてないけど今日は何するのさ」

「うーん。とりあえず市場調査?依頼の傾向をちょっと見てみるから、ローズは自由にしていいよ」

「何言ってるのさ、あのデカ男が来るかもしれないのに離れる訳にはいかないでしょ」

 

 依頼を眺める。

 目立つのは清掃の依頼であるが、割のいいものは信頼度を必要とするらしい。

 討伐の依頼は多くない上、街道付近で目撃された強大な肉食モンスターが大半だ。

 

(これは観光都市の需要なのかな)

 街の身姿を整える為に、清掃する。

 街道に行き来を少しでも阻害するような、凶暴なモンスターは排除する。

 断片的な情報から、読み取ればそんな感じだろか。

 その他の依頼は大分苦しい。正規の清掃員をいちいち雇ってられない故に冒険者に委託するのだろう。

 見る限り、来訪者が目につかなくなる場所程、報酬が安く、必要な信頼度も低い。

 

「どうにもこの街はただの戦闘特化の冒険者には厳しい感じ。僕等に清掃技能なんてないしね」

「これはどうなの?闘技場のファイター募集とか」

「契約期間に見合わないし、怪しいでしょそんなの」

 なんにせよ、ただの戦闘特化の低ランクである彼等に利はない。

 本気で何でもアリの賭け事を求めるなら、砂漠の無法地帯【奏護】の供給がある。

 故に多少上品さを取り繕って需要を得る賭博都市、それがここ闘争都市【ルミナ・クロス】である。

 

「あー、それにしても懐かしい響き。うちでは剣奴隷って呼んでたけど、こっちじゃ闘志(ファイター)なんて、上品な言い方するのね」

「そういえば、ローズは【奏護】出身だっけ」

「そうそうっ!ていっても噂程度しか聞いてないけどね。あたしら女系種族(アマゾネス)だからさ。そっから婿買ってくる事もあったのよ」

「おおぅ……、ゴルで買うのか」

 なかなかにエグイ。確かに結果残した剣奴隷は屈強な戦士であり、上位の雄だろう。

 だが、【聖錬】では流石に奴隷制を、以前としてそのまま取っている国はごく一部である為に、

 大体の【聖錬】の一般人には、その価値観は受け入れがたい物がある。

 

「いや割とうまく回るもんよ?うちの父親がそうだったかしら、昔みたいに降りて男狩りするより遥かにマシだしさ」

「怖いよ!?まぁ確かに、幸せになれるんならそれもありなのかな」

「少なくともうちはうまく行ったわよ。これからずっと隣にいる相手を買うなんて、あたしならごめんだけどね」

 確かに男を求めて旅人襲うなんて事より、遥かに文明的だろう。彼は受け入れて解釈を加えた。

 この世界は多種族・文化の坩堝である。

 異文化怖いなんて言ったら、可能性を狭めるだけだ。

 

 そんな感じで、だらだらとローズと談笑をしながらギルドの様子を観察している。

 出入りする人達も、戦闘寄りというより雑務で稼ぐ人が中心に見えた。

 『落し物を探してくれ!』なんていう依頼を見るに、【探偵】の技能持ちまでいるようだ。

 他にスポンサーが対戦相手の闘士を調べたり、賭ける対象の闘士の近況を調査したりするのだろう。

 

 そんな中入口より、覚えのある圧力が迫る。

「どぅわーっはは!また会ったな”良い眼をした人”よ!」

「うわ、出たよ……」

 思わず、ローズの溜息。

 昨日、ギルドへの道を尋ねた大鎧の男ピロシである。その様はギルドの中でも非常に暑苦しく浮いている。

(いや浮いていてよかった、かな)

 流石に彼の同類の溢れるギルドは流石に嫌すぎた。

 

「あはは…、おはようございますピロシさん」

「どうやら無事、ここに辿りつけた様子。どうだ、この宿はいいだろう!何せこの私を愛想笑いで迎えてくれるのだぞ!」

【愉壊痛快】【ギャグ補正】

 害されたわけでもないので普通に応対した。

 しかし、その言葉にどういう反応をすればいいのだろうか。

 愛想笑いで済ます受付を褒めればいいのか、自覚して何故そのノリなのか突っ込めばいいのか。

 

「所で機能切り出し損ねた件なのだが、良い眼をした人よ、今は暇であろうか?」

「え、まぁはい。依頼もないですし、一応は」

(ちょっとカイト!)

(まぁ話聞くだけなら、ダメな事はきちんと断るよ)

 彼女に少し小突かれるが、それを諌める。

 散々人の縁に助けられているのだ。直接害されない限りは奇縁であっても縁は大事にしたいと言う。

 そんな彼の軽い気持ちだ。

 

「おお、それは良かった!実はな近々アリーナの方で冒険者限定で開かれる大会で、とんっでもない景品があってだな!私はそれがどーっしても欲しいのだが、メンバーが足らんのだ!」

「はぁ、つまり闘士として、ですか。僕ら弱いんだけどなぁ…、景品と参加人数は?」

 彼等はあくまで冒険者だ。未熟者が慣れぬ事をしても、うまく行かないだろう。

 この時点で彼はどう断ろうかと、考えを巡らせ始めるのだが…。

 

「どぅわーっはは!聞いて驚け、何と【パリス同盟】が誇る二戦姫の一人【深紅の紐飾り(リボンズ・レッド)】と闘争都市【ルミナ・クロス】の頂点たる【三宮皇】(イコロ)の決闘の”個室観戦チケット”だ!」

「―――ッ!?それは本当ですか!?」

 その言葉に一気に興味を引き戻された。

 それは一生に一度、もしかしたらゴルを積んですら手に入らないかもしれない、それほど貴重な物だと。

 【聖錬】に住む者なら、だれでも理解するだろう代物である。

 

「??、どうしたのさ。それってそんな凄い物なの?」

「凄いも何も!聖錬最強って言われる戦姫の中でも【テイルレッド】は生ける伝説だよ!【三宮皇】(イコロ)は詳しくはないけど、軽くここらで聞いた話じゃ、闘争都市の頂点の集まりらしい」

 英雄の具現、沈まぬ不死鳥、唯一たる永遠戦姫。吟遊詩人の語る定番の英雄禄。

 幾多もの【八罪十罰】を砕き、災害を燃やし、悪を灰にしてきた戦姫。その筆頭である。

(【ヴァ―ミリオン】の”お披露目”じゃ、ただ姿が一目見れるかだったから、無理にとまで行かなかったけど。戦いが見れるとしたら話しはまた別だ)

 最強を背負う者同士。その武闘が見られるのかもしれないのだ。

 

「僕なんて剣士としては木端も良い所だけど、やっぱり小さい頃からずっと聞かされてた頂点だから。この目で見られるなら見たい」

「ふーん、そういうものなのねぇ。【奏護】で言えば【剣聖・ヨダルラーハ】(万結一閃)が決闘するみたいなものなのかしら」

 【奏護】出身だからか、ローズが生返事を返した。少し冷やかな視線すら感じる。

 冒険者ギルドに闘士の募集の依頼が溢れていたのはこの件だろう、納得だ。

 きっとそのチケットは高騰しており、相当の金を積まねば手に入らないに違いない。

 それを手に入れる為に、スポンサーが依頼を突っ込んでいたのだろう。

 

「そうだともそうだとも!一般人にはとても手の届かぬ品であるが、今回、商品として大会が開かれることになったのだ。これを見逃す手はなぁい!登録人数は三人だ。小生と組んで、天を輝く星を目指さないか!」

「うー、それでも、分が悪いのが変わらないし、どうしよう」

 参加するには彼の我儘に、ローズを撒き込む事になる。

 優勝しなければ手に入らぬ物だ。はっきり言ってしまえば、辿りつく自信など微塵もない。

 それでも賞品は惹かれるものである。

 

「いいじゃん、参加すれば?アタシは構わないわよ」

「でも、危険だし優勝できると思えない。余り賢い判断じゃないけど」

「あーもう!そういう後ろ向きに考えても仕方ないでしょう。折角来たんだからさー。あたしも闘技場ってのには興味あったからちょうどいいわ」

 そんな軽い調子で言い放つ彼女。

 いいんだろうかそんなので、やるなら本気で取り組むが、不安は付きまとう。

 

「すみません。もう少し情報をください。大会の開催の日にちはいつでしょうか、あと失礼ですがピロシさんの冒険者としてのランクにを教えてください」

「ん?慎重なのは良い事だ。大会は四日後!小生の冒険者ランクか、なんとBなのだぞどぅはっははー」

 だからもう少し、判断材料の情報を彼に求めた。冒険者のBランク、ベテランは確実である。

 そもそもAランクというのは特別な才能や技能が認められた、滅多にいない様な名誉職なのだ。

 Sランクはもはや伝説級である。

 

「四日か…、短いな。んー、というか初見の相手を誘う事じゃないと思うのですが、何で僕らに誘いを?」

 初見の相手の連携を考えれば、四日という時間はあまりに短い。

 Bランクとなれば知り合いがいるだろう。何かしら考えがあるのか気になった。

 明らかな変人であろうと、世話になった経験から彼の中の先達に対する期待値は高いのである。

 

「ふふん、それは貴公の眼が輝いていたからだ!良い眼をした人よ。……決して誘った面子に悉く”一時ならともかくそれ以上はちょっと”とか、断られた訳ではないのだぞ!」

「ええぇ……」

 語るに落ちてる巨漢の男に、どう返せばいいかわからない。

 騒々しく、至極自分のリズムで生きる知り合い(ミストラル)に心当たりがあるが、そこまで邪険にされてる思い出がない。

 頼れるなら別に良いと考える。

 

(うーん。見た目か、見た目なのかなぁ。フル装備の巨漢は怖いからなぁ…)

 いつも通り認識を呑みこんで、己の解釈を加えて少し同情的な感覚を抱いた。

 というか、ミストラルで麻痺している時点で、彼の感覚は割とおかしいのだが

 だが彼はまだ知らない、ピロシと言う男は【理性蒸発】を越え、暴走列車でノリで爆走する。

 良くわからない生命体なのだ。

 

 体験者曰く。

『暑苦しい、疲れる、煩い』

『主に動きがキモい、跳ねまわってキモい、と言うかどうなってんのあの鎧』

『彼と組んだら前衛としての動きがわからなくなりました!』

『彼と組んだら魔術師としての精神集中が出来ないんですけど!』

 そんな意見が寄せられる。この世界に時々生える色々な意味での変態である。

 

「して”良い眼をした人”よ。答えは如何に、別に都合が悪かったら断ってくれても構わんぞ。残念ではあるが、慣れている。わっはは」

「だってさ、結局どうするのさカイト。判断はあんたに任せるわ」

「んーっ、少し考えさせてください」

 とりあえず色々言葉をやり取りしたが、騙して利点がある話でないし、端々に悪意は微塵も感じられない。

 むしろ困惑する程真意をぶつけてくる所は、【親友】を思い出して、懐かしい気分にさえなる。

 

(多分、人柄については信用していいかな)

 彼はまだ浅い経験則からそう考えた。

 なら次に考えるのは提案の内容だが、問題は必ず利を得られる可能性は凄く低い事だ。

 余裕がない彼等が避けてきたもので、万一、大怪我を負えばそのまま大きなマイナスになるだろう。

 だが、それでも魅力的な賞品が件の”観戦券”である。

 

(ローズも興味あるみたいだし、決闘自体じゃなくて【闘技場】の方にみたいだけど)

 回答を保留するのは、大会までの短い期間の関係で無理だ。

 準備期間を合わせて、参加するならするで即答する意外に勝機すらないだろう。

 なお、彼の頭に善意で誘われてる時点で断り、信頼できる強い人(ガルデニア)と改めて組んで参加するという発想はない。

 

「―――わかりました。そのお話受けさせてもらいます。僕はCランクの冒険者、役割(ロール)”レンジャー”のカイト。よろしくお願いします」

「ん、受けるのね。あたしは役割(ロール)”ヘビーブレイド”のローズよ。よろしく頼むわね」

「おお、恩にきるぞ”良い眼をした人達よ”。我が名は”鈍き俊足のドーベルマン”ぴろし!伴に天辺を目指そうではないか!」

 それは役割役割(ロール)なのだろうか。ヘンテコなロール名乗る奴は居るにはいるが。

 きちんと名前を伝えたのに、何故かそのまま”良い眼をした人”と呼ばれる事に首を傾げながら。

 まぁこの人のこだわりかと、認識を受け入れ。また解釈を加えて吞み込んだ。

 

「さぁ、では早速登録して来よう!善は急げはなんとやらだ!では諸君、また会おう!」

「あ、ちょっと摺合せとかを…!」

「ぬわっはは!頭上に星々の輝きのが有らん事を!」

 その回答にテンション爆アゲして、ギルドを駆け出していく巨漢の大男。

 まるで嵐直下の如くその様子に、彼等二人は呆然とする他ない。

 

「行っちゃった…。どう合流すればいいんだろう。あの人、目立つから大丈夫かな」

「あたし時々思うけどさ」

 その様子を大体横から眺めて、ある程度客観的に見ていた彼女がポツリと漏らす。

 

「ん?」

「カイトって、実はぼっちと変人ホイホイなんじゃないの?」

「え、そんな事ない、ハズ?」

 というか、考えた事もそんな事ない。

 ぴろしと名乗った大男は間違いなく変人の類だろうと思うが、他に変人の類となると覚えが薄い。

 ある程度認識してしまえば、解釈は容易い。気の良い人達だと思い返す。

 

「ああうんそうね、あんたはそういう奴だわ」

「っ、ちょっと、痛いんだけど」

 何故か安心したように、盛大に背を叩かれた。

 背中がじんじん痛んで、そのよくわからなさに彼女を少し睨む。

 

「多分さ、他から見れば、あたしもきっと変人の部類に入るはずなのよ。勿論カイトもよ?」

「んな、確かにちょっと体強すぎるけどさ、僕もローズも普通だよ。失礼な」

「はいはい。そういう事にしとくわー」

 実際、彼等の主な拠点である【ラインセドナ】の”ヴァルニース亭”では。

 【聖錬】冒険者らしからず、雑多依頼と鍛練と討伐依頼のサイクル繰り返す彼等は、変人通り越してそろそろ狂人と認識されつつある。

 例えてストイックと言えば聞こえはいいが、一般から見れば過酷な現実を誤魔化す遊興を必要としない様に写る彼は、人間性の欠けてさえ見えるだろう。

 この世界の【王国】でさえ極一部の様な行為は本当に例外的なのだ。

 なお、例外としてギルド亭の関係者は、希少ってレベルじゃない有力な働き手にホクホク顔である。

 

 

「じゃあこれから、どうする。ぴろしってやつ追っかける?」

「いや、まぁ大会の情報収集しようか。ないとは思うけど、参加条件満たしてないなんて事ありそうだから」

「……確かに有りそうで困るわね。ちょっと見た限りでもアイツせわしないもの」

 それを除いても、まずはルールを把握しないと始まらない。

 調べる内容は、大会の概要、参加作法、参加資格、反則行為、できれば参加予定者の偵察。

 可能か不可は置いておいて、頭の中からリストアップして並べる。

 

「けど、どうやって調べるのさ」

「聞き込みしかないんじゃないかな、もしかして合流できるかもしれないし受付に向かおう」

「あいよー」

 そして方針を定めて、ギルド亭【ナグマホン】の外へと足を向ける。

 陽はまだ高い。時間はさほど立っていない様だ。道ゆく人達の行き来も激しい。

 大会の予定は四日後である、時間が詰まっている。早く行動しないとならない。

 

(弱いんだから挑むなら、それこそやること全部やる位のでないと)

 こんな祭りみたいな行事は、不慣れである事も勿論だが。

 弱いのだから、全力で挑まねば。万一にも何かを手に入れる事はできない。

 彼等はまだ木端の様なCランクの冒険者なのだからと、こころで唱え続ける。

 

 そう気合を入れて、見慣れぬ整備された華美な道を行くのだった。

 

 

 

 

 ●●●

 

 

 

 

 最初の位階【紅魔宮】。

 その様子は表の賭博受付はともかく、裏の選手利用の裏口は質素であり、少し汚れてさえいる。

 ここは華やかな都市の裏の顔の一つである。

 その張り付けらた件の大会のイメージ絵と概要の書かれたポスターの前に、彼等は居た。

 

 闘争都市における主な闘技場(アリーナ)は主に三種類ある。

 【紅魔宮】・【碧聖宮】・【竜賢宮】の三つ。

 右に行くほどに等級が高く。

 その中の【紅魔宮】は闘士(ファイター)として、成り上がり生きていく為の階段と言われている。

 基本的にここに所属する彼等は等級が低く実力も怪しい、これだけで生きていく事は難しい。

 ここで開かれる大会の賞品なんかも質屋等で、買い取られた物を流用してる安上がりな物だ。

 

 なお紅魔宮の頂点である、【紅宮皇】(アリーナチャンピョン)は例外で、その実力は隔絶しているらしい

 これは興業的な理由が大きい。宮皇・チャンピョンと言う響きはそれだけで商業的な価値があるのだ。

 稼げる対象(スター)の選別階級だ。ここで日々戦い、上の階級を目指すのが一般的である。

 

 つまりここは賭けられるには余り花のない、まだ駄馬達が集う場だ。

 

「―――って事らしいよ」

「へー、良く調べたわね。にしても何処も下は世知辛いもんだわ」

 とりあえず軽く周囲から聞いた。この闘争都市の軽い概要をローズと話す。

 彼女が闘技場自体に興味を持っていたから、その情報を含めてだ。

 結局、冒険者ぴろしとは合流できずに、該当の大会に彼等の名前が選手として登録されていたのを確認しただけだった。

 

「んー。まぁ割と普段通りかな魔具の使用も可らしいし、武器だけは用意された鈍らを使って、勝利宣言の寸止め意外に、明らかな急所部位を狙ったら反則だってさ」

「でもさ、結局この大会の意味ってなんだったの?反則の厳しさとか、冒険者だけ限定の大会ってどう考えてもヘンテコなんだけど」

 彼は、ポスターに書いてある概要を読み上げながら整理する。

 それでもこういう荒っぽい商業を売りにしているのだ、怪我人は出るときは出る物である。

―――ここから先は彼等は知らぬ事であるが。

 故に医療知識に先行し、闘士達に対して、娼婦としての需要を提供して満たせる。

 黄の札である【クェーサー教会】が、この街の利権の深くに関わっているのだ。

 それはもう、バリバリ稼いでいるそうだ。賭博都市特有の再起不能なダメ人間の処理にまで(鉱山にドナドナ)関わっている。

 

「聞いた話でしかないけど、冒険者限定っていうのは件の【戦姫】さんからの提案だって、機会を平等にってさ。良くわかんないけど英雄さんは視野が広いよね」

「ふーん、まぁ優勝するような奴は、冒険者の中でも上の方だろうし、意味くみ取れる奴いるのかしら」

 なお、彼は知らない事であるが、主催こと、当の本人戦姫【レッドテイル】にとっては完全な思い付きである。

 同じ賞品とする”闘士”限定の大会が開かれたのだが、『不平等じゃね?』と漏らした為だ。

 正しさを実行し貫く彼女は真性英雄ではあるが、そこまで深く考えて生きている訳ではないのである。

 

「あっ、見て見てカイト!優勝賞品が『個室』での”鑑賞券”であって、観客席の”入場券”だけなら三位まで賞品にあるってさ、すっごいじゃん!」

「っ、本当だ書いてあるね。よし少しだけ希望が見えてきた」

 少しだけ安心して緊張が解れる、彼が想定する難易度が相当に下がった。

 優勝となると、言葉の響きの重さも実態も全く違う。

 そもそも他人と何かを競って一番になると言う経験自体が、カイトにはないのだから、気後れし必要以上に緊張するのも仕方のない事だった。

 

「まぁやるからには優勝目指さないとね、仮に優勝で来たら個室で観戦できるから、知り合いも誘えるかもしれない」

「なるほど世話になってるしね、良くわかんないけど【聖錬】じゃそれって凄く魅力的な物なんでしょ?うっし、ヤル気でてきたーっ!」

 なお、”冒険者”限定の大会である為、兼業であっても既に闘士大会に出場した人員は出れない。

 この街の戦闘特化の冒険者の質は高くない。Aランクとしても特殊技能の評価が大きいのだ。

 外から有力者が冒険者を招くには時間が足りない。

 故に彼等にも、希望があるのだが、それはとっても幸運な事だった。

 

 ”主催”の思い付きで決まった大会である為に、こんな歪な構造を持つ事になったが、勿論戦姫【テイルレッド】は関知していない。

 ただ、良かれと思ってしただけの事だ。

 

 

―――そして、少し話をして。

 

 

「おおっ、良い眼をした人達よ。ここにいたか、探したぞ、ギルドで待っていてくれれば良かった物を」

 ぴろしと名乗った大男が、やっとと言うべきか、玉突き的に合流する。

 何故か色々走り回っていた様である。

「あ、デカ男!良く言うわ、探したのこっちの方だっつーの!いきなり勝手に走ってさ、あたしら困ったんだからね!」

「む、そうか?」

 見た目は落ち込んで見えたが。

「いやーすまんすまん。貴公らがこの街が初めてというから不慣れかと思って、小生が全てやったほうがいいと早合点してだな」

【愉壊痛快】

 すぐに復活して、ぬぅわっはとまた豪快と笑う、鎧姿の大男。

 登場しただけで周囲の気温が二・三度上がった気すらした。

 謝れるし、反省はできる。悪い人ではないのだろうが、何と言えばいいか。流石に彼等も苦い顔だ。

 

「あの、ぴろしさん。集団行動行動の基本は”報連相”ですよ?双方の意思の確認が取れて、初めて行動に移れるんです」

「ふむ、そーいえば自分の考えで動くのは悪い癖であったな。安心したまえ、この”鈍き俊足のドーベルマン”二度と同じ間違えはせん」

 全く安心できない。

 むしろその変な意味を成していない異名も合わせて、彼のその言葉に安心できる者がいるのだろうが。

 冒険者的には上位のBランクで先立ちであるはずなのだが。

 

(うーん、僕がしっかりしなきゃ)

 彼にそう思わせるのに十分な物があった。

 

「はぁ、合流できてよかった。もう行き違いがない様、僕が主導します。良いですか?」

「むっ、まぁよいだろう。悪気があったわけではないが、困らせてしまったようだからな!」

「よろしく頼んだわ、それでやっと安心できるってもんよ」

 何か気負わせて余計な事をさせてしまったのだろうと、認識を吞み込み解釈を付け加え。

 故に話の舵取りを、集団の先導を自分が取る事をカイトは決めた。

 こんな強引に主導権を求めるのは、普段は絶対に取らない方法であるが、割と背は腹に変えられないのだ。

 

「とにかく大会まで、四日しかないので付け焼刃でも連携を確認しなきゃ話にならない。ぴろしさんはこの都市で適度に運動出来そうな場所に心当たり有りませんか」

「それなら、金は少しかかるが、”紅魔宮”の闘士向けの鍛錬場なら一般でも借りられるぞ?」

「じゃあ、そこで動きを確認しましょっか!もうアンタよくわかんないから剣で対話よ!」

「ぬっはは、元気のいいのはいいことだ。小生が誘ったのだ。大会エントリーゴル諸共任せておけっ!」

「ちょっと待って、それも初耳なんですけど…っ!?」

「心配するな、この立派な鎧を見よ!ゴルなら有り余っているのだ!」

 そういう問題じゃない。大会に登録するのには前金にゴルが必要だった。

 それを彼が、自己判断で全負担したらしい。

 基本的に冒険者のゴルトラブルは怖いと言うのに、そういう事をされるのは非常に困る。

 更に多分善意だと言う事が、余計に始末に悪い。

 

 そんな感じでトラブルに揉まれたのだが。彼等にとってはここからが本番である

『主に動きがキモい、跳ねまわってキモい、と言うかどうなってんのあの鎧』

『彼と組んだら前衛としての動きがわからなくなりました!』

『彼と組んだら魔術師としての精神集中が出来ないんですけど!』

 と言われる彼の前衛性能を思い知る事となり。

 

「つ、強いわ強いんだけど。なんなのさアレ」

「さぁ?まぁそういう人もいるよね。連携は捨てよう無理だ」

「じゃあどうすんのさ」

「僕らは僕らで動くしかないんじゃないかな。ローズとなら不足はないから」

 認識して受け入れて解釈して、どうにもならないから捨てた。

 基本冒険者のセオリーを順守する彼には珍しい事であるが、世の中どうしようもない事もあるのだ。

 

 今日、彼は捨てる事を憶え、一つ賢くなったのだった。

 

 

 

 




裏道に立ち寄る理由もないし、舞台環境描写は難しい…。
というか、水の戦姫多分産まれてないだろうから、今の時期は【パリス同盟】戦姫一人なんですかね。原典重視で二戦姫で…。
こんなんでもぴろしさんお助けキャラです。
はよゲスト出したいけど、無駄使いできるゴルがない。立場に余裕持たしとかないと遠回りが多くなるのですね(後悔)。
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