ポンコツ世界異聞=【終幕を切り刻む者達《ハッカーズ》】   作:きちきちきち

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現在。GUの蒸気技術的魔具な物を考えて変な物作ったのですが。
原典様であるポンコツ世界に蒸気技術系統は殆ど登場の憶えがないので、話半分で閲覧して頂ければ幸いです。割と無茶。


大会【ルミナ・クロス】

―――大会二日前の夜。

 対峙する三人の冒険者。

 彼等は適当にノウハウもないが、冒険者として大会に挑む為に。

 付け焼刃の立ち合いを重ねていたのだが。

 

「ぬはっは!さぁどこからでも掛かってくるが良い!」

「それじゃあ遠慮なく、―――シィ!」

【魔法剣】【舞武】

 その言葉と大男に向かって、伴に捲斬り込むカイト。

 電撃と風圧をばらして纏めた片手剣が捲りあげ、上半に比べて貧弱な下半の装甲を”しっかり当てずに”。

 ぴろしと名乗った冒険者の膝を崩させる。

 

「ぬお!やるではないか」 

「よし脚、崩した!」

「オッケェ!上から袋叩きにしてやんわ!」

【撃ち返し】

 そして、追撃のローズが有利な態勢と、フィジカルで抑え付ける様に殴り付けて封殺する。

 

「ぬわー!この、このひ、卑怯ではないかこれは!」

【■■防御:不発】

 彼等は何故か、連携を磨くとかそういう方向性ではなく、彼という冒険者の”攻略法”に終始して殴っていた。

 これは彼の特性ゆえに、連携を捨てた為である。

 とりあえず暫定主導する(リーダー)のカイトが方針を決め、彼には勝手に動いてもらって、長く場を荒し回って貰うために。

 その特異過ぎる鎧と戦闘法の穴を埋めようと、算段しての事だった。

 

「ふー、酷い目に合ったぞ。気のせいか、段々容赦なくなってるきがするのだが?」 

「それは仕方ない、大体防いで、返してくるんだからこっちはたまったもんじゃない」

「本当にどうなってるのよ、そのみょちくりんな鎧は」

「ぬはは、凄いであろうこれは小生自らデザインした特注品だからなぁ!強くてかっこいいのだ」

【デザイナー】

 聞けばその鎧は特注品(オーダーメイド)の魔具であるらしい。オーダーメイドの武具など相応に余裕がないと、作れるものではない。

 対外そういった物は、個人の趣向・体質に合わせた。金の暴力が良く発揮される逸品だ。

 だが機巧鎧とも呼べなくはないそれは、何とも分類しがたい物で。

 

(名前付ければ”蒸気重反鎧”かなー)

 ただただ”ぴろし”と言う変態が扱う事に、特化した鎧である。

 

「とにかくいい汗が掛けたな。色々学べるものだな感謝するぞ”良い眼をした人達”よ!」

【愉壊痛快】

「はぁ、まぁ役に立てたなら何よりです」

「おかげであたしは感覚狂いそうになったけどね…っ!」

 カイトが愛想笑いに、ローズが苦言を呈する。

 間違いなくぴろしと言う冒険者は強い事には強いのだ。装備の充実から、優に彼等の上を行き、特化部分では彼等の知るガルデニアさえ越えるかもしれない。

 ただその余りの変人っぷりから、対人戦経験が不足している様であり、そこが弱点になると考えて。

 こうしてなんとかサンドバック……げふんげふん。受けの練習を取り埋めようとしたのだ。

 

(うーん、”親友”の言った通りに、世の中不思議が溢れてる)

 連携と言う冒険者の基本を捨て、そんな遠回りな方法を取る程度には、彼は変態である。

 立ち合いで、散々殴り付けた際の変態チックな動き反芻し、遠い目をする。

 彼に付き合うのは少し所じゃなく疲れるのである

 つまり、とにかく彼は変態だった。変態と言う表現がゲシュタルト崩壊する。

 

「今日はお疲れ様でした。大会前に一日は休み挟みたいと考えてるけど、ぴろしさんはそれでいいかな」

「ぬっはは、勿論だとも、感謝するぞ!”良い眼をした”人達よ。やはり小生の眼に狂いはなかったのだな!」

 言葉を交せば交す程、ペースに呑まれる。

 だが、鍛錬のド付き合いの中である程度、彼の性格は感じ取った。

 意味は説明したとはいえ割と散々叩いたのに、素直に感謝の言葉を、意欲的に向上しようする。

 自分のリズムで暴走列車する割には、妙に素直である”ぴろし”は善良に分類される様な人間だろうと。

 ふんわりと思った。

 

「では大会当日にな、さらばだ諸君!頭上に星々の加護が有らん事を!」

 そして大鎧の彼と別れた。

 最後の最後まで騒がしい人だった。

 

「悪い奴じゃないんだけどなぁ…っ!もうちょっと、もうちょっとこうね。どうにかならないかしら」

「あはは、まぁ慣れていいのか、悪いのか困るよね」

 大概の交友関係の人物をそのまま受け入れるカイトだが。

 おそらく生涯、ぴろしと言う冒険者の事は変人枠から外す事はないだろう。

「ところでさ、実際の所勝機はあるの?」

「わかんない。後は成るように慣れだね。大怪我だけはしない様にさ」

 一応、時間の限りで精一杯の努力したとは思うが、如何せん付け焼刃である。

 大会の参加層の情報の収集だって、街に不慣れな彼等には一般的に知れること以上の事はわからない。

 ゴルがあれば”探偵”を雇う選択肢もあったのだろうが、貧乏性の感性がそれを邪魔した。 

 

 そして、彼等も”紅魔宮”の闘士向けの鍛錬場を後にするのだった。

 

 

 

 ●●●

 

 

 

―――そして時は翌日の朝。

 

 少し空いて出会った。

 朝食を食べながら、冒険者の先輩であるガルデニアと言葉を交わしていた。

 心配をかけた怪我の状態、、冒険者ぴろしの話と最近の近況、彼等が参加する事になった大会。

 適度な湿度の距離感で、世話話の様に一つ一つほどいて。

 

「なるほど、そうか。まず腕の怪我は大した事が無くて安心したわ」

「うん、おかげさまで初期治療のありがとう。剣をすぐ振るえる保障が付いたのは、先輩のおかげだと思います」

「まぁね。最初見た目は暫くひどかったけど、ちょっとしたらスーッと引いたからね」

 食事は簡易的なサンドイッチとスープであるが、お値段の割に味が寂しいと感じた。

 田舎町の【ラインセドナ】の食事の方がおいしいと感じたくらいだ。

 

「それにしても、そんなイベントがあったのか。戦姫筆頭【深紅の紐飾り】(リボンズスカーレット)の活躍は、私も【聖錬】北部で活動していた頃から聞いている。確かにその雄姿が、”最強を名乗る者どうしの決闘”が観戦できるのは、確かに滅多にない希少な経験だな」

「あたしにゃ、あまり実感がないんだけどね。超大活躍する英雄ってのが【奏護】じゃ余り聞かないし」

 【奏護】と言う国は元々身軽な放牧の流れ持つ無法の黒商人の国であり/または山岳の天空人(ハイランダー)や小数民族の引き籠りの国だ。

 後生大事に荷物を抱えず、損切りをして脱しなければ死ぬ/長寿故に富を蓄え、腐敗し停滞している。

 【死を呼ぶ黒い鳥】と呼ばれる英雄道の崖から堕ちて、迫る馬鹿でかいのや腐った根を全て殴り返すのは未来の話だ。

 G級はたまに出るが、現在の【奏護】はG級天国(怪獣パレード)でもなんでもないのである。

 

「……しかし、残念だな。その様な大会ならば私を誘ってくれても良かったのだけど、私の槍は頼りないか?」

「いえ、すみません。流石に誘われておいて断って、しれっと他の人と参加するのは気が引けので……、そんなの恥知らずだから?」

 少し拗ねた様に、彼女は言った。

 頼れる先輩として振る舞うのは九十九巫女からの癖で、もはや彼女の根でありライフワークである。

 ついでに気になる男の子に、伴に行動できるなら両得であるという、自覚しない想いもある。

 

「妙な所で律儀だな、冒険者はもう少し損得勘定に重ねいても良いハズなのだが、まぁしかたないわ。話を聞く限りその”ぴろし”という冒険者も、悪人ではなかったのだろう」

「まぁ疲れるけどね。感覚狂うわー」

「あはは、ちょっと動きも感性もその変ってて、多分組むなら、連携捨てて勝手に動かないと辛い冒険者です」

「……どういう事だ?」

 彼女の疑問の声。

 流石に本人の居ない所で”変態”と陰口の様に言うのは咎めたので、少し誤魔化して話す。

 なお本人の前では、容赦なく遠回しにぶつけるつもりだ。

 ちょっと彼の精神強度が強すぎて、それ位しないと通る気がしないのである。

 

 

「それにしても先輩がそう言うなら、この優勝賞品って本当に価値があるのね。もし優勝で来たら先輩も誘うから、楽しみにしてなさいよ」

「そうか、期待しないで待っておくわ」

【ムードメーカー】

 ガルデニアがくすっと笑う。

 初めての事だろうと、臆する事のない彼女の快活さは彼女特有のもので、微笑ましい気分になる。

 

「とにかく適度に頑張るといい。大会のレベルの程はわからないが、怪我だけはしないように、私は奮闘を祈ってるわ」 

「うん、勿論。やるからには全力でやりますけど、大怪我したらマイナスだから、根は詰め無い様にします」

「わかっているならいいさ」

 そして彼女は立ち上がって、席を後にする。郊外の大物を狩る合同依頼を受けているそうだ。

 彼女はカイト等程に、馬車馬のように(ワーカーホリック)の趣向も理由もないが、享楽に没頭できる程の趣味はない。

 あえて言うなら旅先での”地酒収集”だが、そこまで時間が掛かる者でもなく、消費量はさほど出なく、吞む事より集める事に意味を見出してる感すらある。

 他に自覚した草花についても、基本複数人での愉しみが身に染みており一人で行く気にもならない。

 結果的に”飽きたから”依頼を受けて、貯蓄を増やす。そんな冒険者である。

 

 割と女性的にはダメな人だったりする。

 

「じゃあまた。そちらもお気を付けて」

「あぁ、油断はしない。当日は多分見に行く。多少の怪我なら治すから、気軽に言いなさいね」

「うーん、多分見に来ない方がいいと思うけど、頑張ります」

 そう言ってカイトは笑いながら、曖昧に頬を搔く。

 主に変態的な意味で印象深い人と組んでいる。恥かしいと言う事はないが…。

 感覚が狂いかねない。彼等も慣れるのに時間を必要としたのだから。

 

 

 そこからは、大会前日と言う事でローズと伴に、適度に身体を休めて翌日に備えた。

 たった三日に準備期間が終了し。

 

 

 

 ●●●

 

 

 

―――そして【大会当日】の朝。

 

 【紅魔宮】の受付で案内された、闘士(ファイター)控室にて。

 彼等は自身の試合の順番を待ちながら、時を過ごしていた。

 ここから聞こえる会場の盛り上がりは余りなく、この大会自体は辺り注目されていない事を伺わせた。

 思い付きである為に、準備期間が足りず知名度がある様な冒険者を招けなかったのである。

 

「どぅあははは、決戦の地によくぞ参られた”良い眼をした人達”よ!」

「あはは、はい。宜しくお願いします」

「相変わらず、元気ねー。まぁ良いわ今日はよろっしくー」

 とりあえず、まだ半休状態の頭に響く声に愛想笑いで流しながら。

 大会運営から配布された、それぞれの得物、”鈍らの双剣””鈍らの大剣””鈍らの大斧”を受け取った。

 許された時間で鈍らの武器である双剣を軽く振るい、手応えを確認する。

 

「ん、よし。質は悪いけど許容範囲だ」

「アタシはかなり不満だけどね。結構重くないこれ」

 仮に得物にゴルを掛けており、更に魔具何かを扱う者であったらふざけんな!と言いたくなる様な低品質であるのだが。

 元よりそこまで質の良い武装を使っていない彼等にとっては、許容範囲であった。

 ただ一人、「すまぬ…っ、我が相棒”白銀の鉄斧”よ。すぐ迎えに行くからなぁ…っ」

 と、武器を預かられる際に、微妙にきらっと涙を流した暑苦しい男を除いてだが。

 

 何気ない動作でも”存在圧”が凄い。

 

 そして、彼等の最初の試合の時間が訪れる。

 

『さぁ!第四試合東にチーム名【ソードビット】!様々な剣士が集う鋭利なチームだァ!どうぞ盛大に拍手を!』

 対戦相手は、既に配置に付いている。

 なお、チーム名に尖った名前を付けるのは、闘士に取っては興業的に礼儀である。

 一言でいえば、無難な装備で身を固めた見た目が、剣士、双剣士、重装剣士の3人組が見えた。

 彼等は冒険者と兼業している、下位宮【紅魔宮】の闘士(ファイター)である。

 

「へん、人生何が幸いするか分かんないな。冒険者限定なんてヌルい大会なら、俺等にもチャンスがあるぜ」

 先日見送った"闘士限定"の大会にて、勝機が無いと見送った為。

 この【冒険者限定の大会】に、重複登録規制を抜け参加できた下っ端の闘士である。

 冒険者ランクにして平均Bの集団だ。

 

「今回の対戦相手のこと知っているか?闘士(ファイター)の中でも聞き覚えがないが」

「調べた所、Bが一人だけの無名そのものだ。警戒する事もない」

「はん、なら余裕だろさっさと蹴散らそうぜ」

 消化試合だと、余裕を持って笑う対戦者。

 闘士(ファイター)と冒険者の力関係は、基本的に闘士の方が優位である。

 当たり前であるが、雑多な雑用を兼任する冒険者より、闘う事だけに終始する闘士の方が強い。

 それが特に、専業冒険者の需要が偏った闘争都市【ルミナ・クロス】の常識。

 

 そう、普通ならばである。彼等は仕事キチ(ワーホリ)であり、場数だけならやたら多い。

 外の世界は広い、閉じた認識のままでは計れない事もあるのだ。

 

『対して!西にルーキー!……え?このチーム名あってます?……失礼しました!【マスターぴろしと良い眼をした人達】!!』

「呼ばれたならさぁさいざゆかん!トゥア!!」

―――【愉壊痛快:存在圧】【専用BGM所持】【ギャグ補正】

「「「―――は?」」」

 アナウンスのその何か変な物体が跳ねて、闘技場の頭上に巨大な物体が影を落とす。

ドスゥン!!

「どぅわははー!”蒼き曇天のイーグルマン”ぴろし!ただいま参上っ!!キラーン☆」

 参上と言うか惨状と言うべきだろう。

「はいはいー、さぁ行きましょうかー」

「あー、恥かし、何て事してくれたのよ、先輩が見に来てるかもしれないのにさー!?」

 派手にぴろしと名乗った冒険者が跳躍し、いきなり着地と伴に軽快で間抜けな音楽を流し始めたのだ。

 逆に彼等は目立たない様に適当に流して入場して、配置に付いた。

 併せる?無理である。チーム名の件で割と恥ずかしくて、もはや投げやりだ。

 

 会場もある種、ざわざわと騒ぎが起こる。

 闘技場も色物を押して興業を行う闘士もいるが、流石にこれ程のアレは珍しい。

『で、では。両者配置に付いてください』

 実況の人に従って、武器を構える。

 何時もの”相鉄の双剣”とはまた違う握り強度、しかし、しっかり頼りがいのある重量。

【二刀流:重心操作】

 親指に少しずつ力を入れて、振れ方で得物の重心を探る。

 そしてこの間の襲撃の体感から音を、弦を弾く様にオドを伝え【精霊術】の準備をする。

 指と剣との間の響きにて精霊に意思を伝える”共感”である。

 隣の愉快な”存在圧”と、軽快ヘンテコ音楽は無視して精神集中する、もう”慣れ方を憶えている”。

 

『では―――試合開始ィ!!』

 闘技場に試合開始のコールが鳴り響く。

「ぬぁっはは!では行くぞ”鈍器丸”供に勝利を掴まんが為にィ!」

【愉壊痛快】

 珍妙な名を貸し出された武器に付けて、ドスンドスンと突撃していく。

 その様はとても勇ましいが重戦士で圧殺する(ファランクス)戦術とは違い、無策に見えるだろう。

 実際無策だ。

 

「単騎突撃だと、チィこの素人が」

「舐めやがって、その珍妙な頭引っこ抜いてぶっ殺す!」

【早撃ち:抜刀斬】・【重剣技:唐竹割】【魔法剣】

 その突撃に案の定、双剣士と剣士の二人の戦士に取り囲まれ。

 連携した互いの鋭い刃が届こうとするが…。

 

「決めた通り様子見て。タイミング併せて動くよ」

「あいあい」

 しかしそれでも彼等は動かない。呼吸を整え、魔法剣の臨界に維持するだけに留まる。

 

―――最初に決めた通りに、彼との連携は無視するからだ。

 

「フン、甘いわぁ!」

「「んなぁ!?」」

【ギャグ補正】【衝撃防御:バインバインなのだぞ!】【受け身の心得】

 届いた刃はその鎧に、蒸気の一部を循環しながら撓み、そのまま弾き飛ばしたのだ。

 その”まるでゴムの如く”いや、それ以上の弾力性に困惑するしかない。

 双剣士の方なぞ一陣に賭ける【早撃ち】の技能である為に、刃自体を何処かに弾き飛ばされていた。

 

(うーん、気持ちはよくわかる)

 アレがあるから連携が出来ないのだ。

 単純に盾に壁にできない重戦士。

 ついでに敵の攻撃次第でヘンテコな動きをする為に、味方ですら予測ができないのである。

 あれはまだ大人しい物で、ローズの全力斬撃では自分がバインバイン跳ねて、衝撃を返しながらダメージ軽減していた。

 しかし連携できない理由はまだもう一つあるのだが、それはまだ知れない。

 

「よし行くよ、ローズ!」

「おっけぇ、後は一人囲んで倒せばいいって寸法ね!」

 それを見てから彼等は動く。

 獲物を喪う事がまず、失格の条件の一つである為に、早撃ち双剣士の方は無効化された。

 つまり、孤立してる重装戦士の方を畳めば後は、勝利確実である。

 

 困惑し、隙を生む重装戦士の男に。

「っしィ!」

「―――んなっ!?」

【ファストアクション】【二刀流:舞武】

ガギャン!

 上半に叩き付ける様な剣、意識を縫い流れるように追撃に奔る。

 相手も対人経験が多い。普通に盾で防がれるが、重心が下がった所を観て。

 

「連ねる!」

「が、ぬぐぅう!」

【魔法剣:爆双竜刃】【精霊術】

 もう片腕の剣にて、捲る様な斬撃と伴に”張力の破裂、疑似的な魔力撃”を用いて盾を浮かし。

ドカァ!

 重心制御を用いた蹴りの連撃で弾き飛ばした。

 彼は、呼吸をしっかり整えられるなら【精霊術】に習得により、以前より魔法剣の精度自体が向上している。

 オドとマナの張力との自覚的な制御だ、併せて鍛練を重ねていた。

 魔法剣の伝導率(ノリ)自体は”相鉄の双剣”より悪いが、彼はそれより劣悪な”素人の双剣”を使っていた経緯がある。

 ほぼ構わず、魔法剣を使用できるのは他の参加者にはない利点だろう。

 

「はいはい。これでチェックメイトってね。あたしいらなかったんじゃないの?」

「そうでもない後詰めいると、安心感違うから思いっきり動けるよ」

「……っくそ!てめぇら卑怯だぞ」

 対戦者の重装戦士の男に、ローズが大剣を突き付け武器を放棄させる。

 

 あちらの方を見れば。

―――ガキャァアアン!

 

「フン!!ウラアアぁ!!さっきから全力でぶっ叩いたてんだぞ、どうなってんだその鎧はァ!!」

【重剣技:虎発重剣】【闘気の才:生命燃焼】

「ぬははは、聞きたいか!我が鎧は全身【アダマンタイト】製っ!この”鈍き俊足のドーベルマン”!生半可な攻撃では抜けぬわぁ!」

【衝撃防御:こうっとブワァ!と】【受け身の心得】

 対戦相手の全力の斬撃だろうが、変態鎧に弾かれて膠着状態になっているようだった。

 

 彼の鎧は彼の言葉の通りに、【アダマンタイト】ついでに、しなる【ダマスクス鋼】を接続部に混ぜた鎧である。

 アダマンタイトと言う金属の特性はゴムの様な”弾力性”のあり更に鋼の様な硬度を持つ。

 耐久性に優れ、合金とする事で様々な特性を得る優秀な素材であるのだが、純粋なアダマンタイトは魔力のノリが悪いと言う弱点が存在し、魔法での強化を行う純人種には向いておらず。

 大概は属性金属との合金として運用される”捻くれ物の金属”である。

 ついでに錬金術でも作り出しづらく、希少である為、値段がクソ高いオーダーメイド品だ。

 

 しかし、ぴろしの大鎧は純粋に【アダマンタイト】、その特性を残したまま使っている。

 更に内部に蒸気圧を通して、その弾力特性を風船を膨らませる様に、殴られた際の反発を瞬間的に強化している。

 一言でいうなら”内部蒸気圧による自在の反応装甲”。

 

 ガンガン、ドォブワと。

 風巻き、続いて三段の突きが襲い掛かる。

「ダァ、もう!いい加減!にしろぉゴラァ!」

「ふはははっ!良い剣ではないか、さぁドンドン来い!」

【靭人:ハーフ】【愉壊痛快】

 彼は靭人(トロール)とのハーフであり、土地への属性値の適応性質は余り表には出ていないが。

 水属性が近いのか。特大の熱に対する耐性がある。

 そのおかげで内装部に熱い蒸気を通して、弾力変質させても平気のへいだ。

 

(なんか堂々と手札を明かして弱点晒している気がする)

(もう気にするだけ無駄よ)

 ただその鎧も無敵ではない。

 魔法の類は単純な鎧としての機能しかないし、この通り連携は難しい上に。

 一度、態勢を崩せば上半と下半のバランスの関係で、彼等が立ち合いでやった様に。

 復帰は難しい為、衝撃を利用されない様に引き倒して無効化など、物理での対抗手段もなくもない。

 詳細はできれば伏せていてほしかったのだが。

 

 重ねて言うが変態である。絶対真似してはいけない類だ。

 

「―――ッ!ッハァ…っハァ!」

「隙ありだー!」

 斬りかかるのに熱中して、体力を使い果たした所にぴろしが相手を斧でぶっ飛ばす。

 

『だ、第四試合、決着ー!勝者【マスターぴろしと良い眼をした人達】ッ!!多分すべての攻撃を弾き返し、良くわからない動きで【ソードビッカー】を翻弄しました!?』

 審判の勝利宣言を実況者が放送する。

―――『『うおおおおお!』』

 会場の反応は意外と悪くなかった。そもそもこの大会の期待度は低い物であり。

 いささか絵面が悪いが、好意的に解釈すれば全ての攻撃を凌ぎきっての勝利とも言えなくはない。

 賭け対象の大穴の勝利とも併せての歓声だった

 

「なはははっ!やったな”良い眼をした人”よ!そちらの男もいい勝負だった!」

「お疲れ様です。多分、次から警戒されますから気を引き締めていこう」

 これはモンスターとも共通する特徴だが、”特化型”は初見殺し的な性質を伴うモノである。

 次からは、今回の様にうまく行かないだろう。無名だった彼等も警戒対象に上がるはずだった。

 

(初見だと敵に回すと割と最悪だよね、ぴろしさん)

 立ち合わせの時に、初見は彼等も散々に弾かれた物だ。

 ビックリドッキリな事故対象相手に、初戦いきなりぶつかった彼等には同情しかできない。

 会場に留まる対戦相手【ソードビッカー】の方を見ると。

 

「こ、このまぬけな音楽のせいで負けたんだ!反則じゃねぇのかこれ!?」

『え、ええと。大会の規定によりますと、音楽機器を持ち込む事は違約の条文はない、との事です』

 審判に抗議して、試合の無効を求めていた。

 確かに間抜けな音楽を流して、ヘイトを集めたり集中を妨げたのも要因だろう。

 だが。

 

「反則失格って、情けないわねー。そりゃこんなん出てきたらアタシも不運ぐらいは嘆くけどさ、それはそれで仕方ないじゃん?」

「何だとこのアマァ!」

「ちょっとローズ、挑発しないの」

『試合外での乱闘は禁則事項です!両者速やかに退場してください』

 逆上して、武器を構える男に注意が飛ぶ。

 ペースに呑まれたのもあるかもしれないが、変態鎧を脈動させる彼の技能と強さ自体は本物である。

(ただ強い相手にぶつかって、負けたんじゃないかなー)

 他人事に思う。

 彼の強さは安定しないだけ尚更にだ。

 

 

 

 

 ●●●

 

 

 

 

 その後の試合では、所々一人武器を弾かれる等の苦戦を挟みながら、勝ち進んだ。

 愉快で間抜けな音楽を背景に(なお本人はかっこいいと思ってる模様)。

「ぬっははは!愉快愉快、誰も彼もいい戦士ばかりでないか!ふぅんぬ!」

【専用テーマ所持】【防具習熟】【衝撃防御】【受け身の心得】

 当たり前だが、冒険者ランクも高く目立つぴろしに注目(ヘイト)は集中した。

 攻略法を模索され、基本複数人で様々な手段で襲撃を受けたのだが。

 

「さらば強敵よ。昨日までの小生であったら負けていた…キラーン☆」

【ギャグ補正】

 付け焼刃でひたすら立ち会った成果と言うべきか、下半を意識し武器による”下段の構え”を取るようになった彼により、最低限粘って一人以上を拘束する事は出来ていた。

 そもそも、Bランクにもなって安定した”武器の構え”も持たずにやってこれたという事実が、彼を変態呼ばわりする理由の一つであるのだが。

 変人故に対人経験が不足しているが、根が素直なので意見も反省も取り込む。

 すくすく成長する変態とか性質が悪い。そう思った。

 

―――その背後で賑やかしとして。

「それは通さないっ!」

【魔法剣:虎輪刃】

 大鎧を狙う術師の魔術を、彼の魔法剣で牽制。

 たまに迎撃しながらローズを盾にして術師を落としに強引に突貫したり。

「油断大敵っィ成敗!」

【闘牙剣】

 変態(ぴろし)の動きに釣られた、または孤立した前衛を彼女で圧迫し、挟んで斬り倒したりしていた。

 流石に、相棒であるペアとなれば連携も慣れており、不足はない。

 と言うより、ペアの呼吸だけで言えば、この大会でも上位の練度を誇るのが彼等だ。

 

 ”ぴろし”がいると場が荒れる。そこの合間を縫うように互いに勝手に立ち回り続ける。

 攻撃性は突出してる訳ではないので、彼等が刺して削らないと場が動かないとも言う。

 

(侮られてるのは好都合っ)

 大体二人で互いをカバーする様に、動きを隠して零れた人材を攫って凹っていた。

 目立つモノの対策に終始したのを刺す。

 柔軟性があるのは彼等のペア故に、警戒すべきは本来こちらだと言う酷い罠だ。

 

「もしかして周りからは、ぼくら寄生か何かに見えてるかもしれないね」

「いいじゃん、目立たないの最高よ。あんなチーム名で印象残るのは罰ゲームじゃん」

 それは確かにと、彼はクスと笑った。

 

 

 

―――そして、勝ち抜いて決勝戦。

 

 

 

「―――意外と、いけるもんだね。なんか、不思議な感覚」

「不思議な事ないでしょ、なーに湿気た顔してるのよ。もうちょっと嬉しそうな顔しなさいって!」

「ちょ痛いっ」

 闘ってる最中は必死であったが、こうやって自身が居る場所を確認してみると、実感が薄い。

 他人と競うのが慣れてないのもあるが、勝つのはもっと慣れてないのである。

 カイトの周りには凄い人(格上)と認識している。

 ”親友”は隔絶していたし、ローズとは種族差をいつも感じる、ガルデニアはとにかく凄い先輩で、ミストラルは商売の成功者であるし、マーローは単独ですら強い。

 

「ぬーあっはは、そうだぞ!”良い眼をした人”我らが掴んだ結果だ、存分に誇る事が礼儀だろう!」

「そう、かな。うん、決勝までいけたから、そうだよね」

 客観的に見ても戦闘特化とはいえC級の冒険者程度が、ここまでこれたのは彼のおかげである。

 変態の類ではあるが、防御に特化した冒険者として、その性格と”存在圧”含めて。

 それを存分に利用しての結果だとは理解して、なおこの結果は認めざるを得なかった。

 

―――長大な目標を抱いているカイトにとっては、人としての”成功体験”自体が遠い物である。

 封じられた過去に、一般出身から成り上がった”例外”と短い間、共に歩んだ事もあって。

 自己評価が低い。多感な時期に植え付いたある種の歪みとも言える、自己評価。

 それが、確かな結果と笑いと伴に快活にぶつけてくる、快活な二人によって少し軽減したのだが。

 

「……?少し身体が軽くなったかな」

 劣るから全力全霊で挑む、それは聞こえの良い事だろう。しかしそれは長くは続かない。

 【王国】の兵士ならば大災害に数日全霊稼働するが、アレは専門の経験と鍛練が成せる業だ。

 引き戻れない程の狂人(勇者病)ならまた違った可能性があるだろうが。

 力の抜き方、疲労の対応に仕方についてはカイトはかなり劣る、その自覚はまだない。

 

『―――さぁ、決勝となりました。東に優勝候補【ブルーブリゲイド】、それぞれ特色のある重戦士で構成された有力チーム!!ここまで順当に勝ち上がってきたと言えるでしょう!』

『―――対して西に今大会のブラックホース!歯抜けする様に狩られる恐怖の謎チーム!【マスターぴろしと良い眼をした人達!】ちなみに、わたくし未だにこの名に慣れません』

 会場からのアナウンスが響き渡る

 それはそうだろう、一人除いて本人達すらこのチーム名は全く慣れないのだから。

 

「ぬはは、いよいよ決戦だな!いざゆかん栄光の彼方へ!」

 真っ先に飛び出していく、重鎧の男を傍目に。

「遅れて行こうか、また派手な入場するだろうから、悪いけどちょっと目立ちたくないし」

「はいはい。もうひと頑張りね」

 続いて脚を進め、入場する彼等。

 身体に問いかけ魔力の調子を確認する、適度に休憩を挟んだとは言え、流石に目減りしている。

(次までは、もたさないと)

 深呼吸、癒活、なだらかに意識を集中させながら歩みを進めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




  全部書いてたら進まないから半ダイジェストで決勝です。
 勝因:冒険者と兼任する有力闘士が参加していない(事前の闘士限定の大会で出場してる)。
    急遽決まった為に有力な冒険者も少ない上に、下位宮定義なので武器が鈍ら。
    初見殺しの変態に目を取られて柔軟にペアで動く彼等に順々に囲まれ圧殺されました。
 
 
 設定草案【蒸気重反鎧】
 ぴろしと言う冒険者が装備している鎧のVer1。デザインは自分製。
 ”捻くれ物の金属”と呼ばれるアダマンタイト製の鎧であり。
 筋繊維の様に内部に、内部空間にパイプをもっておりその中に蒸気圧を通す事で攻撃を受けた際に
 元々持った金属性質であるゴムの様な弾性を、内部殻の蒸気圧力も合わせて、例えて風船の様に反発力を強化する。
 身に纏うには蒸気を発生させる為に、ドワーフの如く高熱耐性が必須なのと。
 魔法を使用できない重戦士向けであり、更にこの鎧に合わせた防具修練が必要だと言うのが弱点。
 ついでに凄いお高い。使い手はおそらく変態である。
 元ネタはGUのぴろしの鎧ver3に機動鎧みたいな機能を考えてたのと。
 「ぽんこつのあなったたー」様でなんかネタにならんかなぁと通した時に出てきた。
 「ぴろし」と「ぴろし3」の融合。

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