ポンコツ世界異聞=【終幕を切り刻む者達《ハッカーズ》】 作:きちきちきち
【紅魔宮】
冒険者限定の大会たるそれが開かれ、思わぬダークフォースに(賭け事的に)盛り上がる会場から隔離された一室。
とある観戦個室にて。
「―――ふんふんふふん♪」
真紅のツインテールの少女が上機嫌に自身の髪を弄りながら、鼻歌を歌っている。
先に至れば橙色が混じり、萌え咲く炎の様なグラデーションを美麗な両房の髪を持つ、まだ幼いとも見える少女。
【正義の心】
だがその正義の心を宿した瞳の強さは、周囲を圧倒する気配、さらに
―――戦姫筆頭・永遠に沈まぬ焔【テイルレッド】、既に伝説たるその人である。
【修羅双乱姫】
彼女は自身が提案した大会を、個室にてそれを観戦して眺めていた。
普通に観客席でいいよとは思っているのだが、知名度と立場上の制約があり自由が制限されるのが戦姫と言う立場だ。
「随分上機嫌だけど、まさか何か強い奴でもいたのか?所詮、冒険者程度の大会だぞ」
「いや、今回はそういうんじゃないけどさー、レッテル張るのは悪い癖だぜ冒険者もヤバい奴はヤバいぞー」
彼女で話をしている相手は、桜皇風の戦巫女の様な出で立ちをする小柄な少女。
【テイルレッド】の弟子の一人であり、真紅の髪に特徴的なアホ毛が愛嬌を感じさせる”紅宮皇”である【揺光】と言う少女である。
なお弟子と言っても、英雄の具現たる【テイルレッド】はほぼ一か所に留まる事なく、所属する【パリス同盟】全体を放浪している為に。
二つ返事に「おっけー」を貰い。偶にアドバイスを受けてる程度の立場ではあるのだが。
「いやー、将来が楽しみな奴がいたんだ」
指差した先には西のチーム【名前は以下略】が、試合の位置についてコールを待っていた。
巨漢のヘンテコ鎧に、双剣士と重剣士のチームであり。
大概の勝筋を巨漢のヘンテコ鎧に頼っていると見なされている、ワンマンチームだ。
「―――は?もしかしてあんな色物が好みなのか?趣味が悪いぞ戦姫筆頭」
「確かにアレ面白物体だけど流石にオレだって傷つくぞ、そんな血迷った扱いやめて???」
心底、心外な顔をするテイルレッド。
特殊な事情で男性的な大らかさも併せ持つ彼女だが、流石にノーサンキューである。
”生まれ変わった”魂は女性に近いのだ、アレが趣味と言われるのは色々尊厳にかかわる。
「そうじゃなくて!組んでるあの駆け出しの双剣士、良い動きするんだぜ!」
「フン、あいつがか?剣腕に全く突出したところは見えないぞ。買いかぶり過ぎじゃないか」
彼女が示したのは目立つ動きもせず、
よりによって”自らと同じ”双剣士に目を付けたと言う所も気に入らずに、辛辣な評価を返す。
「いや、確かに技量は未熟だけど、今までの戦いの流れを作ってたのは彼だ。いや縫ってるって言えばいいかな。あんなのと組むのは難しいだろうに【鼓咆】と違って、無秩序に垂れ流してさー」
「どういう事よ」
「もうすぐわかるさ、奇策ってのは長く続かないしね、もう自力が問われるハズだ。いやー若いっていいね!生きてる甲斐がある」
【超絶キューティクル】
そういうとまた上機嫌に、奇麗な
更に不機嫌そうなぶすっとした表情で、それに応じる揺光。
―――決勝戦が始まる
『―――さぁ、決勝となりました。東に優勝候補【ブルーブリゲイド】、それぞれ特色のある重戦士で構成された有力チーム!!ここまで順当に勝ち上がってきたと言えるでしょう!』
『―――対して西に今大会のブラックホース!いつの間にか歯抜けする様に狩られる恐怖の謎チーム!【マスターぴろしと良い眼をした人達!】ちなみに、わたくし未だにこの名に慣れません!』
「とおおおおおぅわあああああ!”翼の折れた荒鷲”ぴろし、ただいま参上!!」
ドゥワッシュ!
【専用BGM所持】
恒例となった冒険者ぴろしの大跳躍と、間抜けな専用BGMを背景に流しながら。
注目を惹き付ける。
「うーん、相手チームの目が鋭い。わからなくもないけど」
「はいはい。動きは事前に決めたとおりね」
それは慣れても見る度に身体が脱力しかねない光景だ。
良い具合に緊張をほぐしているとも言えるだろうか、良くわからない。
ただ、いつも通り両腕の刃を構え、全力を尽くす為に、オドを湧きたて活性化させる。
「決勝戦にCランクだァ?ワンマンで勝ち抜けるたぁ、程度の低い大会だな!」
「油断はできぬ、小人とてただ斬るのみ」
「やるか」
【紅魔宮】の選手の控室からは闘技場の様子は見えない。
故に実況のアナウンスの様子から察するしかないのだが、それが良い意味でも悪い意味でも目立つ彼に一極化していた為、こういう評価にもなる。
【チーム:ブルーブリゲイド】
侍の様な出で立ちをした剣士を筆頭に、重装盾士、蛇腹剣の邪剣士を纏ったBランクチームである。
アナウンスの通りに強く纏まった筆頭チームであるらしい。
決勝まで来たのなら、実力は確かなのでその情報は大して意味を持たないのであるが。
と言うか、蛇腹剣の貸し出しまであるのかこの闘技場はと、若干呆れる。
(実況からどういうの技能かは推測できていた…とは、いえ)
侍の様な男は【神鳴流】【抜刀術】、蛇腹剣の男は歪だが【早撃ち】【魔法剣】、重装盾鎧の男は不明。
こんな風に少しずつでも、得られるのだが。こちらのチーム【名前は以下略】は実況が混乱していたのもあって、その断片的な情報で”ぴろし”という謎の巨人を作り出していたのも、勝因の一つである。
しかし、流石に回数を重ねるにつれ、その効果は薄れてきているのは彼等も実感している。
苦しい戦いになるだろう。
『では、お互い準備は宜しいでしょうか』
審判の一声で静まる現場、盛り上がる会場。
『―――それでは試合開始ィ!!』
審判のアナウンスが響き渡り弾かれた様に全体が動いた……っ!
「だっはは!さぁゆくぞ!」
【愉壊痛快】
「砂嵐三十郎……、いざ参るっ!」
【神鳴流】【生体強化】【ウォークライ】
侍風の出で立ちの男が、姿勢を低くし疾風の勢いで駆け抜けてくる。
その刀は上段を塞ぎ、風を斬り裂く勢いの破竹の早や駆け。
「ぬお!?すまぬ!抜かれた」
それはあっさり何時も通り進撃する巨漢の男を抜いて、こちらの懐に迫る。
それは巨漢である為、脇が甘いのもあるが、対人戦経験の不足が響いた。
変態タンクである彼は、庇う範囲を増やす様な【カバーリング】の技術は所持していない。突出した変態性を持つ代わりに、細かい範囲は未熟さは否めない。
「―――ッ!シィイ!」
【魔法剣:虎輪刃】
それを迎撃する様に出鼻を挫こうと、”飛ぶ魔法剣”を投擲するが。
「ふ、甘いわァ!」
【神鳴流:斬魔剣】
それは容易く斬り裂かれ、そのままの勢いでの接近し続ける。彼に上段の構えを解除させた位だ。
その鋭さは今の彼では迎撃不可だろう、下段からの斬り返しにて斬られる未来が浮かぶ。
「お願いッ」
「まっかせなさい!」
【闘牙剣】【錬気法:怪力】【打ち返し】
しかし、彼女が前に歩み出て大剣が、薙ぎ払いにてその隙を
敵は、下段の構えである。刀の刃の付き方からそこからの型は限られる。
―――ギャギン!!
「ッ!……なるほど、仕掛けが甘かったようだな」
【神鳴流:斬り返し】【生体強化】
ズザザ!
侍は斬り返しの反動を使って、数歩飛ぶように後退していく。
その様は見事な物であり、初めからその予定だったかのようになだらかなものだ。
「ぎゃはは!おう一人も初撃で落せなかったか、こりゃ確かにCランクとはいえ舐めてかかれねえな」
「おう、面目ない」
そこに、邪剣士の男が合流する。彼も前線を抜いてきたようだ。
今までにないパターンだ。
タンクを無視して、脆い所で叩く。
それで対処できるなら、世の中にタンクと言う役割《ロール》はここまで普及しないだろう。
例えば【鼓咆】と言う技術がある、【聖錬】に伝わる軍師及び前衛将兵用術の技術。
鍛え抜いた肺活量とオド操作により敵味方にバフとデバフを与えるものであり、その中でも”デコイ”といった、強大な気配と圧迫感を押し付ける技能がある。
無視するにしても強靭な意思が必要になる、そんな騎士や正規軍兵が扱う様な正道の技術だ。
なお、この堂々たる技能は、モンスターパニックたる【王国】では自然で大声なぞだしたら途端に。
モンスターに囲まれ、殴り殺される為にか普及していない。
様々に五体を用い。敵味方、獣、人伴に精神を意のままにする技能。
この世界の人類の五体だけでも限界はまだ見えない。
そしてぴろしと言う冒険者は無意識だが、明後日の方向に似たような事をやっていた。
【愉壊痛快】【専門BGM所持】
この二つにより自身の存在感を良くも悪くも、周囲に拡散する”気配圧”の所持してるのである。
それによって注目を引き寄せ、調子を狂わし、自分の独特過ぎるペースに持ち込むタンク。
無視して突っ込んでも、物理的には巨大な壁の圧力を効率良く拡散するそれ、集中力を乱す。
彼の暴走列車的な性格、巨漢に大鎧の圧迫感を乗せて更に間抜けな音楽が鳴り響く。
しかし、彼はこの影響は自覚的に扱っている訳ではない為、少なからず”味方にも影響が出る”。
なれば、この変態技能に対する対策は何か?
”信頼である”。”気配圧”を乱される精神をそれで補完する。
故に彼等は基本的に”ぴろし”と言う冒険者との連携を無視して、古くからの最も信頼できるペアで自由に動いていたのである。
そして敵対者の彼等はと言うと…。
「ぬぅ、二人もう背後に通すとは小生、不覚である!」
「……っふン!」
【防具習熟】【ブロッキング】【カバーリング】
己がチームに”信頼できる壁”に、おそらく一番の脅威であろう冒険者を拘束させる。
混乱した実況が伝えた唯一ランクの突出した”謎の巨人”が何であろうと、必ず時間を稼ぐと”信頼する”壁に張り付かせる事で、対処する。
その信頼で”気配圧”を軽減していた、明確に性質を見抜いた対処法ではないが…。
「ぬおー!やるでないか!埒が明かぬぅ!」
「なんだその鎧は!?バインバインしてキモいわ!」
ドカ、ドカドカドカ!!
【重斧技】【防具習熟】
【突槍技】【防具習熟】
お互い決め手に欠ける膠着状態を作り出していた。
実際攻撃性を逆転して転嫁する変態を封じ込める手としては、次善手である。
ただ寡黙であったはずの鎧の男すら叫ばせる程度には、悲惨な絵面が繰り広げられていたが。
そして、同時に後衛の光景はと言うと。
「―――うぐ、ッまだァ!!」
「チィ、いつもの武器の様にはいかんか!」
【魔法剣;炎】【二刀流:舞武】【ダンシングヒーロー】
邪剣の男の蛇腹剣を相手にし、その蛇腹剣をただ前進しながら絡まれぬ様に舞弾き。
「では参るぞ!少女よ」
「上等じゃない、返り討ちにしてあげる!」
【闘牙剣】【錬気法:怪力】【頑強】
フィジカルの優れる者同士で斬り合いを演じていた。
侍風の男が扱う【神鳴流】は
特徴は野太刀と、生体電流に強化による身体強化による、霊体すら両断する剛剣だ。
「いったぁ…!?仕掛けから分ってたけど早いわね」
「女子と言っても容赦はせぬ、チェリアァ!」
それは【錬気法】と、自身の生体波長を増幅し波撃として放出する彼女と似通った物があるだろう。
しかし彼こと【砂嵐三十郎】は憧れた”侍被れ”である為、本来の神鳴流からは遠く野太刀ではなく、普通の刀身を用い、生体強化も魔具で代用した物だ。
―――ギャギィ!ガガガガッキン!!
小回りの利く侍の剣を、持ち前の頑強性でギリギリ致命打を避けながら、彼女も立ち回り続ける。
露骨に急所を狙うのが禁じられてる故に、競り続ける限り彼女の頑強性も良く活きる。
カイトはその様子を傍目に流しながら、とにかく歩みを進めて舞い踊る。
蛇腹剣と言う変則武器を相手にすら、力負けする己を嘆きながら。
(分りきってたけど、やっぱ相当格上だよねぇ…!)
そもそもこの大会の参加者ほぼ全て、格上だろ言う事は無視しながら。
微かに残る”気配圧”の影響、鈍らである蛇腹剣、脚を進める事に迷わぬ立ち回り、その全てを併せて一秒でも長く舞う。
(多分、慣性をそのまま乗せた斬撃を受ければ、終わりだ…っ!)
【ダンシングヒーロー】
ひたすら、脚を進め距離を詰め続けた。
それを相手にしながら彼は笑う。
「カハハ!こいつわァ!」
最初はC級だと舐めていたのは否めない。
一合弾かれた時点ではまぐれだと、リズムを連ねてそれぞれに潜られ弾かれた時にやるなと、呑気に思った。
搦めて無効化しようとしたのを看破され、流された時には、それはもう確信に変わっていた。
【変幻太刀:蛇腹一閃】【鞭の一打】
大きく蛇腹剣を一閃させ、力任せに弾かれた互いに距離が空いた。
互いに呼吸を整える。
「クハハハ」
「……っ?」
思わず笑う。
確かに剣腕はまだ未熟だ。闘技場に居れば珍しくもない。ただ見え見えの練り上げただけの剣。
己の得物が精密な機巧剣である、普段より劣る蛇腹の鈍らである事もいい訳になるまい。
だがそんな事はどうでもいい、そもそも、まず闘士に求められる資質とは何か?
「―――テメェ強いな」
【戦闘狂】
『糞度胸』である。
第一に、相手は人類種である。そこで経験なしに、躊躇せずぶん殴れる人間は限られるだろう。
第二に、金属同士のはぶつかり合い破裂音の如く甲高い音は、一般的には生物の延長にあるモンスターを相手にするのとは、また別の耐性を必要とする。
第三に、下位の【紅魔宮】限定ではあるが、互いの武器は質の悪い鈍らにて行われる。割と剥がれた金属菱が飛ぶ。肌に埋め込み痛みを、悪ければ一時的な失明に至る。
才能に頼らぬなら、それに畏れず、集中を乱さず、向かいなければならない。
「おい三十郎、互いに挟むぞ!」
「うむ、承知した」
そして大きく仕掛ける為に、前線を張る相方に声を掛け、距離をギリギリを取ったままに蛇腹斬撃を伸ばす。
それにカイトはステップを踏み下がる事で対応する。
再び潜るにしてもタイミングがあると、余裕を維持し、魔法剣を再点火し仕込みを伺う。
「キキキッ!」
【魔法剣:インパクト】【変幻太刀】【戦闘狂】
それでいい、これは例えて追い込み漁だ。
斬撃に魔法による虚と実を混ぜながら、凌げると勘違いさせ相手が後退する方向を誘導する。
蛇腹の魔法剣はただ軋み撓む任意のタイミングで、その衝撃を強化するだけの単純な物である。
「”弾けろ”」
【精霊術】
対して、カイトは空いた少しの時間で仕込んだ精霊を魔法剣でばら撒き、既にマナと混じった炎属性のを起爆する。
空属性の電磁が導火線に、目元視線が合う様に
しかし、相手は構わずに太刀を重ねる。
「ハッハー!効くかそんなコザイクがよゥ!?」
「動じないか、だよねぇ!」
ギャギッ!!
【戦闘狂】
己の半端な術に歯噛みする。正確には効いていない訳ではない。
太刀筋は多少緩むのだが、それを次の太刀で修正すればいいと重ねてくるだけだ。
そしてそのまま一方的に主導権を握られたままに、剣で円を描いて誘導されていくのだが。
「……っ!」
その狙いが明らかになった。彼女が留めてる侍の方も円を描く軌道で、歩み進めていたのだ。
段々と背に迫る相棒のローズ、もし仮に大剣を全力で振るう彼女の稼働域を狭めればそのまま押し切られるだろう。
連携の網を搦めて落とす狩りの技法。
「ローズ、スイッチ!」
「はあ、もう滅茶苦茶だわ!!」
故に一言でお互いの意図を疎通し、勢いをそのままに翻し立ち位置を入れ替え…!
「「―――追いぬけ(オラァ)!」」
ざ、ブォン!ザン!
【二刀流:舞武】【魔法剣:爆双竜刃】・【闘牙剣:オーラファング】【カバームーブ】
互いに相手に斬り合う相手を
既にお互いの呼吸は、離れていても察せられる領域にあったが、連携自体がこの大会で連携して挟んで殴った為に、また向上している。
その為にローズが習得した。取得した自身のフィジカルを活かす、その自覚的な立ち回りが彼女の【カバームーブ】である。
その結果、敵対象も互いに今まで相手にしてた剣と違った、しかも大技を剣で凌ぐ事と成り、リズムを崩して距離を取って空白の時間が出来るのである。
ざっざ。
「なるほど、見事なもんじゃないか」
「ひゅー、やるねぇ、そりゃ俺にも真似できねえわ」
邪剣の男は心底楽しそうに、侍風の男も単純に感心するように。
呑気に会話の言葉を投げかけてきた。その様子はまだまだ余裕がある様に見えた。
「ふぅ、はぁ……!そりゃこっちも必死ですっ」
「伊達に決勝まで来てないって事よ」
意図はわからないが、呼吸を整える時間を稼ぐ為に、それに応じた。
ちじこまる肺を、腑を気合で膨らませ、汗を拭う。オドの残量もかなり厳しい。
ちらりと重戦士である、ぴろしの方向に目を流すが。
「ぬうううううおおおお!”鈍き俊足のドーベルマン”!頑張れ小生はきっとできる子だァァア!!ここをどう何というか覚醒やらなんやら!」
「……っ!くそ暑苦しい!」
【愉快痛快】【衝撃防御:不全】
変わらず、タンクVSタンクの変速マッチを繰り広げていた。
流石に長く殴り合った影響でほとんど手は割れており、得物のみに集中して競り合わされていた。対人戦に不足する彼に、突破しての応援は期待できそうにない。
(となると勝機は、ほぼないか)
彼女も裂傷をいたる所に負っており消耗している。相当な格上二人、万が一もない。
無理な物は無理である。
本来彼等を留めて置けているのも多少
根を詰め過ぎて大怪我しては大損だ。彼女みたいな再生力と頑強性は彼にはない。
と、なると。
「―――仕方ないか、すみません。棄権し」
「おっと、棄権なんてぬるい事はやめておいた方がいいぜ、出来もしないだろがな!」
「!」
【戦闘狂】
それに何故か、対戦相手であるはずの邪剣の男に止められた。
それを面倒見がいい侍風の男が補足する。
「他ならともかく、決勝戦でそれやったら会場は冷えるだろう。賭け主に恨みを買う。観客席にまでは聞こえないだろうから審判も無視するだろうよ」
「っ!そんな無茶苦茶な」
【メンター】
それは冒険者の依頼にもある”暗黙の了解”である。
人が作った仕組みであるからにはそういうものは有るし、賭け主に関してもゴルの恨みは怖い。
(あぁもう、だから慣れない事はするもんじゃない…っ)
その言葉の意味を、理解して吞み込んでも悪態を付かずにはいられなかった。
「安心しな、テメェは十分強い。俺様相手にもワンチャンあるぜェ!」
「ささっ立ち回って魅せよ!それがこの場所の掟だ」
【変幻太刀】・【神鳴流】
休憩は終わりだとばかりに、じりじりと歩法を刻んで迫る。
こうして、攻め立てず対戦相手に余裕を持たせたのは、【戦闘狂】の戯れである。
まるで正面勝負だと言わん限りに、挑発的な気配を纏っている。
それに付き合う侍風の男も付き合いがいいと言うか、なんというか。
「だってさ、どうすんのさカイト」
「やるしかないみたい。ホントあとは何もないんだけど」
【魔法剣】・【闘牙剣】
双剣を握り込み。命が掛かってないだけ気楽だと、自身に言い聞かせて。
既に貧弱な手札すっからかんである。何も出せるものなどない。”腕輪”は論外である。
「限界まで、吐き出して…っ」
オドを放出、微かな”蛍火”が空間に放出され、揺らめきを放つ。
彼は魔力放出が不得意であるし、後が続かず目立つから、普段はここまで露骨な事はしないのだが。
―――”腕輪”を発現から、元から濃かった自身の属性値の濃度が上がってる事は自覚していた。
それ以外に手が無いから、きちんと決着を求められてるなら仕方ない。
”精霊に食糧として好かれる程度の才”にて、周囲に精霊を呼び寄せる。
マナに直接触れうる、
―――シャラ、シャンシャン。
指で剣の柄に電磁を、弦を弾く様に、音を響かせ”信号”にて、意思のない
過去最大元にうまく行った【精霊術】”共振”現象、その経験をなぞる様に。
「これやるのキッツイんだけどな」
そう呟いて、ぼやく。
「ッチ、アンタ等はいいでしょうけどね、そういうの困るのよっ!」
「来られよ。受けて立つ」
【闘牙剣:オーラファング】【錬気法:怪力】【生■■性】
それを感じてローズは、供に鍛練をしている彼女は、それは彼を傷つける物だと知っていた。
彼女は弾かれるように、その身体を捩じり振るいあげ、侍風の男に突撃を仕掛けた。
余裕面してる敵対者に感じるそれは、直情的な感情のまま焦りと怒りだ。
「ふっとべぇえええ!!」
参加したのは自己責任である、無知は言い訳にはならない。
しかし、それが八つ当たりだと知っていても、彼女はぶつけずにはいられない。
それを背景に。
「ハハハッ!良いねぇ!?」
【魔法剣:Lv3】【変幻太刀】【早撃ち】【戦闘狂】
仮に、彼の言葉に手を抜いて適当に闘った振りして、武器を手放す様な腑抜けであったら。
彼は一切の配慮はしなかっただろう。大怪我だろうが直接ブチ当てに行っただろう、
だが、そのどう見ても未熟なりの全霊であろうそれに、相応に応えぬ訳にはいかない。
「――――行くぜ」
邪剣の男が初めて構えを取る。腰に蛇腹剣を構え、身体を芯を残して捻じれ発条の様に馴染ませる。
―――【オンリーアーツ:幻風抜砕牙】
そして放たれる魔法轟一の斬撃…っ!!
蛇腹の節々が伸び解放される度に、魔法剣を連鎖発動させ、威力を増す風と火の
余波が本来頑強であるはずの闘技場の地表すら振るわせる。
本来の得物であれば、邪剣の彼の全力のその威力は、”亜竜さえ一撃で屠りうる”。
火と風のオド特性を最大限活かしたそれの完成度は、単純な放出の延長たる”彼の魔法剣”の二つ上を行くものである。
それを見て。
(あ、これ無理)
【魔法剣:爆双竜刃】【精霊術:共感精霊】
ブゥウン!
対して、内心、理解しながら、鍛練にて染み付いた動きが身体を動かし十字斬撃を成す。
それは【王国】の方では当たり前の様に使われる、
基礎知識がそもそも足りていないカイト単独の大技は、やはり既存の延長でしかなく。
―――バ リ ンガガガガ!
その全霊は暫くの均衡の後にあっけなく、ガラスが割れる様な音を立てて破られた。
これは精霊術を用い、普段使っている”疑似魔力撃”のただ出力を上げた剣技でしかないのだから。
――――ズゥウウウウン!
「―――っ」
「ほい、これで会場の連中も納得するだろ」
そしてその余波の斬撃は、会場の頑強な床を割り確かな傷跡を残す。
それで理解した。これは男が外した訳ではなく、わざとこの地点手前を斬り裂いたのだと、もし直撃したらの想像に身が震え竦む。
元より彼が頼る”魔法剣”ですら、邪剣士の男の方が格上であった。それだけの話である。
そして。背後では、侍風の男とローズとの決着も付いたようだ。
―――バギャン!!
「……くぅ!」
「見事」
【神鳴流:雷鳴抜刀】【生体強化:ストライクバック】【抜刀術】
彼女の全力斬撃を受けた刀の破片が宙を飛ぶ。
本来の神鳴流が野太刀で行われるが、力技故に武器の負担が大きい流派である。
それが生粋のパワーファイターである彼女の斬撃を受けて、負荷に耐えきれず砕けたのだ。
「しかし、某の勝利である」
だがその砕けた刃を持って、彼女の頚元に刃を当て勝利を宣言した。
彼女は迎撃する刀ごと砕いて、その身に鈍ら刃をブチ当てるつもりだったのだが、今一歩届かなかった。
力なく、鈍らの大剣を放棄する。
その後は消化試合だ。
ぴろしは普通に長時間殴り合って、手が割れていた上に三対一だ。
絡まれ手足の一部を無効化され。
『―――ぬわああああああ!う、動けぬ、無念!!』
とか最後まで騒がしくしながら、会場外に吹き飛んで行った。
だが、それでも跳ねまわって、少なくともに十数分稼いだのは流石の変態と言う所か。
最後まで貫禄の無傷である。巨漢な事もあって、頭すら狙いにくいのが彼と言う重戦士だ。
『決着ぅ!勝者は【ブルーブリゲイド】、一人も闘士を欠かす事なく終始圧倒!今大会のダークフォースを打ち破りました』
うおおおおお!と、歓声の響き渡る会場、確かに下位宮の試合では滅多に見られぬ競り合いと、更に奥義まで繰り出されたのだ。
誰かが懸念してた通りの手を抜いた、しょっぱい試合をしたとの怨みの気配は見られない。
一部賭け主は、大穴の勝利は成らず大儲けの機会を逃して項垂れていた位である。
―――これにて、彼等の初めての大会は終わりを告げたのだった。
―――そして視点は変わり。
観客席にて試合を観戦していた女性組。
その戦いの様子を見届けて、ピコピコ先までスラにと伸びる燈紅のツインテールが跳ねる。
「ほら見なさい!アンタの押しがさ負けたよ。こんな奴、軟弱すぎるわ」
「オレを何かのアイドルの追っかけみたいに言うのやめてくんない???、まぁそうだろうなー。自力が足らないからな」
多少の付き合いと、主に戦姫の男性的な大らかさで、気安く掛け合いを続けていた。
永遠戦姫と”紅魔皇”の師弟である。
「にしてもありゃヒドイなー。どういう鍛練してるんだ。精霊を組んだのはいいさ、ただそのオド放出のままに喰われながら収束して撃ちだしてるぜ」
「は?アホじゃないのかソイツ」
”紅宮皇”が呆れた声を上げる。
精霊術師が、精霊に喰われるとか笑い話にもならないと鼻で笑う。
”その単純な事で成した”出力には目を向けずに…、邪剣の彼が撃ちだした”魔法剣”は確かに
「いーや、逆に気に入ったー。剣の鍛え方に連携に歩の踏み方に反して、不釣り合い過ぎる、多分全部殆ど知識のない独流だ。魔法剣に作り方も歪だしな。とんでもない馬鹿だぜ」
「……むぅ、なんだよ私の方が」
その楽しそうなツインテールに、嫉妬に膨れる揺光。
男も女も骨太であるべし、という哲学を持つ彼女にとっては、その双剣士は余りにも脆弱に思えた。
しかも相手は憧れ尊敬する英雄であり、己も滅多に目を掛けてもらえない師である。
「ふん、見てろよな、今度の試合でぎゃふんと言わせてやる」
【負けず嫌い】【努力の才能】
しかしなら、それならば剣で振り向かせればいいと心を切り替える。
その為に鍛練は積んできた。プライドは高いが、それに対しての真摯さは誰にも負けない女が彼女である。
なお、注目を惹きたいなら髪伸ばして、ツインテールに成ればいいのだがそれはプライドが許さない。
彼女は、そんな若さに微笑ましく思いながらも。
「いいぞードンドン来いよ、代わりに負けたらツインテだぞー。一年は固定だからな忘れんなよー」
「わ、わかってるよ。ようは負けなきゃいいんだろ!」
【ツインテール愛】
本気と書いてマジな眼を向ける、この英雄に近しい者程、彼女を称する称号は限られる。
病的なまでにツインテールを愛する【ツインテキチ】と、その愛は群を抜けており独自の嗅覚にまで発展している程である。
そして、何故かその矛先は件の双剣士にも向かい。
「アイツもなーもし女だったら、奇麗なツインテ垂らしてる気が済んだよなー!」
そんな妄言を放つ程度には、彼女はツインテール狂いである。
頭の中で英雄に勝手に性転換させられてるとは、カイトも夢にも思ってない事だろう。
永遠戦姫と呼ばれる英雄。
世の中には知らない方がいい事もある。その典型例かもしれないのであった。
立場違いすぎて、絡ませる理由思い付きませんでしたぁ!(なので相手から興味をと言う感じで)
【精霊術】の方は以前解答を頂きましたが、その際には既にプロット予定で。
以前の吟遊詩人との連携(音楽調律)で経験点を入れる予定だったので、ちょっと違った使い方に成るかもですので、話半分に見ててくれるとありがたいです。