ポンコツ世界異聞=【終幕を切り刻む者達《ハッカーズ》】   作:きちきちきち

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事後【ルミナ・クロス】

【ルミナ・クロス】

―――大会の後の余白の時間。

 闘争都市で行われた。変則的な【冒険者限定の大会】の工程は終了した。

 この大会で勝ち進み”準優勝”と言う位置に付いた彼等であるが、その現在の様子はと言うと…。

 

「んー…寒い、ちょっと気持ち悪い。うげぇぇぇえ……」

「ちょっと、カイト大丈夫?」

 カイトが少し体調を崩しており、その背をローズが擦っていた。

 彼のオド性質の粘土の影響で、オド経絡から流れる付随する諸々が精霊に引きずり出されたのだ。

 カイトの所持する術式は、相変わらず単純な”オド出力と維持”と”親友の得意技”のみであり。

 【精霊術】を用い、分身として自身の延長を増やして出力を、未熟な力技で解決した反動であった。

 

「ありがと、楽になってきた。あー、うん。無理してやるもんじゃないよね」

「アンタ、もしかして身体弱いの?何時もなんかしら痛めてるじゃない」

「そんな事ない、ハズ。学が無いから賢くないやり方してるからね。仕方ないよ」

 余り心配させない様に、少し無理して笑う。

 仮に知識上位である者であれば、その引き出される物さえも生命力(プラーナ)として燃焼し、魔法剣の威力も補強し、ついでに精霊の繋がりを切るとするのが一つの解決法であろうが、彼には発想もない。 

 基礎知識の少ない彼は絶賛”脱水症状中”だ。

 経絡が痙攣し、電解質が不足し、脳が混乱して気持ち悪い。

 

(思えば、アレは”固有魔法”だったのかな)

 例えてローズと同じように、生まれつき頑強であり、理解不能な剣技を操った彼の事を思う。

 なお”親友”は確か力技でどうにかして冒険者として安定した後に、再度学び直したそうだ。

 真似できないと思う。

 

「ぬっわはは、決勝試合の結果は残念だったが、存分に休め”良い眼をした人”よ。なに、これから一大イベントがあるのだ。そんな調子でを見るのは損であろう!!」

「そう、だね。今日は早めに休みます」

 既に目的は達している。準優勝の商品は多少のゴルに、”観戦券”の三枚の獲得である。

 彼の想定とっては十二分な成果だ。嬉しい、気持ちが高揚する。

 

 しかし、喜び彼と騒ぎ立てるよりも。

 頭の中にぴろしの声が反響するのを愛想笑いで流す、その程度には余裕がなかった。

 現在はなんか表彰式があるやらなんやらで優勝賞品を受け取る為に、専用の控室で待機していた。

 

 

 そして暫く、時間が流れて。

 コンコン。

 闘士の待機部屋に戸を叩いて、誰かが訪れた。

「おぅ?誰であろうか。今開けるぞ好きに入ってくれー!」

「たのもう」

「おぅ邪魔すんゼ」

 ぴろしの大きな声で鍵の開いた戸を開き見えたのは、今回の決勝の対戦相手【ブルーブリゲイド】の内の二人。

 侍風の男【砂嵐三十郎】と、未だに名前を知らぬ【邪剣士の男】だ。

「ん、あら。何しに来たのかしら、敗者への冷やかしならお断りよ?」 

「ハァ?んな無駄な事しねぇよ。顔を合わせる機会は滅多にねぇからな。ツラ拝んでおこうと思ってな」

 初見ではないとはいえ、詳しくは知らない冒険者である。礼儀としての警戒態勢だ。

 邪剣の彼は、ぶっきら棒に顔をゆがませる様子は、まるでこちらを睨んでいるように見えた。

 装備は既に返還されている為に、その腰には明らかに上位装備であろう獲物が、存在感を放っていた。

 

「連れがすまんな。コイツは少し【戦闘狂】なだけで、そっちに害意がある訳ではないんだが」

 後ろ頭を搔きながら、それを侍風の男がフォーローを入れた。

 いや、戦闘狂は十分困る事であると思うのだが。

 面倒見の良い男なのだろう。闘技場の時も悪意的に受け取られかねない男の言葉をフォローしていたし、明らかに彼の趣向である正面勝負に、堂々と付き合っていたのが印象に残っている。

 

「おうおう、わかっておるわかっておる!いい勝負だったぞ、惜しくも破れてしまったが、あれだろう夕べの河川敷での殴り合いで友情を―――」

「おう、アンタは例外な。おかげで、うちのタンク調子崩してるんだがどうしてくれんだ」

「ガーン!釣れないではないか!」

 素の反応で演技臭く、よろめく巨漢鎧の大男。その姿はとても暑苦しい。

 

(あれを惜しいと言えるかな…?)

 かなり好意的な判定をしても、勝利者側は一人も欠ける事もなく、正面勝負に興じ、更にこちらの持ち味(変態な壁)も攻略された。

 やはり客観的に評価して、圧倒的な惨敗に思うのだが、彼の中では激闘の末らしい。

 その前向き思考(ポジティブシンキング)ぷりは羨ましく思う。これでいて彼の成長率は高いのだからなおさらに。

 

「じゃあ、とりあえず何の用なのさ」

「いや、苦戦した相手が気になるのは、普通の事だろう。二人とも若いのに良い腕だった。将来有望な戦士になるだろう…が、どうした。具合が悪そうだが、コイツの最後の斬撃が、実は当たってたか?」

「お気になさらず、僕が未熟でこうなってるだけですから」

 『小生は!小生は!?』と後ろで騒ぐ”存在圧”を放つ、デカ鎧は無視して会話は進む。

 鎧の彼の場合、形容する言葉が変態しかない故に、言葉に困るのもあるだろう。

 

「俺がヘマする訳ねーだろ三十郎。しかし、どういうこった。テメエの”魔法剣”の影響か?」

「そんな感じです。癒し手に行くまでもないけど」

 割と辛いが、食事とって水分を十分にとって安静にしてれば、直に良くなる。

 鍛錬で経験済みの事だった。他者のサポートを借りて”黄金双胴”の時は精霊の制御は音楽と調律に頼って、理想的にうまくいったのである。

 

「すまねぇな、必用な事とはいえ負担は掛けた様だ。過去に闘技場の決勝戦でな八百長な様な行為を続けて、賭け主やスポンサー怒らせた馬鹿が闇討ちに合った事例もあったからな。こういうのはきっちり終わらせるに限るんだよ」

【メンター】

 侍風の男が丁寧に、闘技場の暗黙の了解や意味を丁寧に説明してくれた。

 慣れた穏やかな分り易い声の調子だった。

 とても分かりやすく、するすると頭に入ってくる。

 

「いや、うん。後から思えば”蛇腹剣の人”が教えてくれて助かりました。たしかにあそこで一度でも武器手放したりして、疑われたら敵いませんし」

「そーねー。あたし等素人だし、その時は怒りが湧いたけど助かったのね。ありがとう」

「ふん、俺はただ全力で立ち合いがしたかっただけだがな」

【戦闘狂】

 ニィ、と男が口角を上げ笑った。

 戦闘狂である彼はいちいち挑発的な仕草である。”砂嵐三十郎”も苦労してるのだろうなぁ、と。

 他人ごとに思う。

 

 一般からは、”ぴろし”という変態巨壁と組んでいた彼等も、相手から存分にそう思われているのだが。

 特に自覚はない。

 

「まあとにかくだ!俺等ァは|クランで動いてるんだが、【ブルーブリゲイド】(旅団)と名乗ってる通りに、元々流れもんでな。顔を繋いでおくのも仕事の一つなんだ。お互いに名乗りを上げさせてくれないか」

「はぁ、僕らの顔を知ってても、良い事ないと思うんですけど、ローズとぴろしさんはどう?」

「あたしは構わないわよ」

「勿論である!いやーこんな物語の如く良い流れ、小生は感激である!」

 周りに確認を取って、それ位ならいいだろうと、冒険者カードを取り出す。

 

 クランと言うのは吟遊詩人の時にもあったが、目的や理念、または純粋な利益を共有して形成される集団の括りである。基本的に人は群れるその中でも冒険者クランと言うのは多種多様であり、大小問わず様々に生まれては消えていくのだが。

 彼等が組織するクランは村を滅ぼされたり、蛮族(バルバロッサ)、何らかの事情で所属を変えたりであったりする流れ者達の集団が。

 信頼関係を結んでいるクランである。同じ境遇の者への互助を目的にしてたりもするらしい。

 

 彼等の人柄は会話で知れたし、彼等程度のCランクの情報を知っていても悪用する理由も、方法も無いだろう。

 彼等は強い。それと繋がりが取れるなら、一方的にこちらに利がある話であった

 

「僕はカイト、役割(ロール)”レンジャー”の戦闘特化のCランク。活動場所は、ここから北西部の町の【ラインセドナ】です」

「大体同じだけど、あたしは役割(ロール)”ヘビーブレード”の戦闘特化ね。活動場所は同じというか大体、相棒だから彼に付いてるわ」

 軽く触りの自己紹介を行い、一応、冒険者カードに記載されている登録番号を伝えた。

 そしてある意味、本命と言えるのが…。

「どぅわーっはは!そして小生が”鈍き俊足のドーベルマン”ぴろし!Bランクである!今までこの地、【ルミナ・クロス】の治安を裏からひそーかに守ってきたのだが、むっしょーに興味が出てきたので、”良い眼をした人達”の拠点である【ラインセドナ】とやらに足を延ばす予定である!」

「……え?」

 何それ聞いてない。

 勿論冒険者など、生活に余裕があれば自由なものだ。

 騒がしい街に成りそうだと、将来の光景予想で目が遠くなるが。

 

(……まぁ一番苦労するのは、多分冒険亭受付のヒバリさんだからいいか)

 そう気持ちを切り替えた。彼自身はぴろしと言う冒険者は嫌っていないし、既に恩がある。

 伴に居たら疲れるだろうが、それだけだ。先輩で変人であろうと最初に環境に馴染むのは苦労がいる事である、適度に助けようと、線引きを設定する。

 少し後の話だが、冒険者ギルド【ヴェルニース亭】にて、間違えなく変人で変態であるのだが、割と働き者で一流水準の特殊技能(デザイナー)まで持ち合わせた、なんでおまえ冒険者やってんの?な奴の扱いに、苦慮し頭を悩ませることになるのだが…。

 それは将来の話だ。

 某初心者の街にて、ドラゴンに踏まれてもピンピンなドMの重戦士の様に。

 性質はかなり異なるが、変態でBランクやってるのは伊達ではないのである。

 

「おう、外から来た冒険者だったか、そりゃ運がいいな。早駆けで名乗ったとは思うが、俺の名は”砂嵐三十郎”、役割(ロール)”サムライ”のBランク冒険者だ。何でかしらんが一応、クラン【ブルーブリゲイド】の纏め役の一人をやらせてもらっている」

「俺は【ケネス・レイ】だ。役割(ロール)”邪剣士”(カオスソード)Bランクの冒険者やってる。本当なら戦闘狂(バトルマッド)とでも名乗りたかったんだがな、けけ」

「馬鹿野郎、まだそれを言うか。依頼人や会う連中をいちいち威圧してどうするんだ」

 侍風の男…、”砂嵐三十郎”が溜息を付くのに、失礼だと思いながらカイトは少し笑ってしまった

 確かに冒険者の名乗る役割(ロール)は自由であるが、好き好んで戦闘狂(バトルマッド)なんて名乗ってる奴には近寄りたくはないだろう。

 もしかして、桜皇の”牢人”と呼ばれる人種の様に、類が友を呼び蠱毒るかもしれないが。

 

(中々に濃い人達だなー)

 しかし、”ケネス・レイ”もなかなかに我が強い冒険者らしい。

 だが、まずは自然に侍風の男を立てているように見える。おそらく彼の人望の成せる技なのだろう。

 

「まぁ鎧のタンクの奴は”コーダン”っていうんだが、ちょっとトラウマ抱えて挨拶できねぇが、悪い奴じゃないぞ、何処かであったら宜しくしてやってくれ」

「なぬ!それは誰の仕業なのだ!おのれ好敵手を、許せぇンンン!」

「そりゃアンタの仕業よ、どう考えても」

【愉壊痛快】【ギャグ補正】

 彼等も主に一人のおかげで愉快な事になってるが。

 もはや彼等も慣れて、適度に突っ込み、流し聞く体制が出来上がっているのだった。

 

「ではまたな。お互い無事を祈って、また別の機会が会えれば何か頼むかもしれないな」

「あいあい。またねー!」

「はい、そちらご無事に。僕等にできる範囲の事だったら、ですね」

「達者でな、貴公らの頭上に、星々の輝きがあらん事を!」

 それぞれに、別れの挨拶を交わしクラン【ブルーブリゲイド】の面々が出ていく。

 本来こういう控室が分かれているのは、先程まで斬り合い殴り合って、興奮状態の闘士の場外乱闘を防ぐ意味があるのだが、お互いの意思が通れば接触までは制限しない。

 

 そして、その別れ際に。

「おい、坊主これをやるわ」

「!っ…え、ちょっとこれなんですか」

 無造作に邪剣の男”ケネス・レイ”から、草臥れた紙束を押し付けられる。

 

「なにって俺の”魔法剣”の設計図の基礎の部分の術式だぜ」

「んな!?」

 軽く言い渡された内容に困惑するカイト。

 知識は価値のある物であり、更に魔法術式と言えば算術も交えた計算式である為、ある程度の水準の教育を受けねば作り出せないし、手に入らない。

 確かにある程度の世界溢れているのかもしれないが、明らかに研究されている資料を、無償で提供するのは流石におかしい。

 話がおいしすぎて、冒険者的には何か裏を感じてしまうのも仕方ない事である。

 

「こんなん受け取れないですよ、一戦しただけの相手ですよ!?」

「いいんだよ。コピーはあるし俺は既に自分用に改造済みだ。手を明かした事にもならねえし、元々クソ実家のもんだ」

 そう言って、紙束を強引に押し付けてくる男。

 その術式は”破裂”の結果をもたらす為に、その魔術的アプローチに関して研究された資料である。

 彼の出身は魔術を研究していた家であり、詰らんと出走する際に持ち出した物の一つだ。

 最新のものではないし、専門知識が薄い彼には習得するには手間と時間とコネが掛かるだろうが、炎属性を持つ彼にとっては、可能性の一つとして確かに有用なものであった。

 

「ただし、次会った時に腕を上げておけよ。サボってたら容赦しねえからな、俺はただ喰い出のある相手は歓迎だケケケ」

「ん、それ渡すのか。悪いなコイツの悪い癖だ受け取ってくれ、裏はねえ保障する。まぁ次会った時には手合せ要求されるかもしれんが」

「え、ええ…、それもちょっと困ります」

【戦闘狂】

 何が戦闘狂の彼の琴線に触れたかわからないが、目ざとく目を付けられたらしい。

 戦闘狂の感性は良くわからないが、相手は遥かに格上である為に、今度は自分が関わる物騒な未来予想に頭を痛めるしかない。

 

 今度こそ【ブルーブリゲイド】の面々と別れて。

 

「……どうしよう。いや術式はありがたいけど」

「ご愁傷様、変な奴に目を付けられたわね。やっぱあんた変人引き寄せるなんかあるわ」

 彼女がまた呆れたように他人事のように言う。

 しかし彼女は知らない。【戦闘狂】の彼は、ローズにもきちんと目を付けている事を。

 彼は桜皇の”牢人”と呼ばれる剣に生きる人種よりはマシであるが、砂嵐三十郎(抑え役)がいて少し丸くなってなければ割と危険人物認定されて、冒険者ランクが下げられる位にはアレな戦闘狂である。

 

 

「うむ、とても気持ちの良い人達だったな。小生も精進せねばなるまい!」

「それより、まずアンタは少し落ち着きなさいよ」

「あはは……、それができるなら、ぴろしさんAランクも目指せると思うんだけどね。オンリーワンだし」

 彼との大会での戦闘を思い返す。”慣れた”彼等でも意識の片隅に居座る様な存在感。

 戦闘時にばら撒いてる”存在圧”さえ一極化できれば、彼は優良な冒険者として認識されるだろうに。

 動きの変態性はあるが、未熟な者よりは遥かにマシで。

 タンクと言う役割自体は率先して傷を負う物であり、好んで付く者は少ないのだから。

 

 しかし、彼が彼らしく生きてるからこそ、持ち味が活き活きして特化されていると言うのも。

 大会に限って共に戦って薄々感づいており、中々強く言い出せないものもある。

(世の中、中々儘ならない)

 意欲努力の範囲位で頑張ってほしいと、軽く思った。

 

 

 

 ●●●

 

 

 

 その後は少しの待機の後。

 やっと手続きと舞台準備が済んだらしく、担当員に儀礼的な表彰式へと案内された。

 なお、【パリス同盟】全体というか、貴族待遇で【聖錬】の要人たる【永遠戦姫】が観戦してる為に。

 何時もよりも見栄えに凝った為の時間経過であるのだが、彼等は知る由はない。

 

「んー結構、時間待たされたわね」

紅魔宮(下位宮)基準の大会なのにね。そんなに手間かける理由ないのに、なんでだろ」

 ちなみに当の本人の戦姫【テイルレッド】は、至極『どうでもいいから早くしない??』と思っているのだが、影響力を積み上げると、こう自由にはいかないものである。

 無駄な装飾がばかりが、彼女の周りを取り囲い込む。

 

『―――では今大会の入賞者の表彰と賞品の授与です。観客の皆さま盛大な拍手をお願いします!!』

 見れば会場は、人数が減って疎らになっていた。

 単純に予定が詰まっていた者、賭けに負け肩を落して帰った者、戦闘にしか興味ない者と様々だったが。

 彼等を迎える歓声は普通にあった。少し気恥ずかしくて、彼は頬を書く。

 

「―――ぬわっはは、いやー!応援感謝するぞ群衆よ!おかげで栄光に辿りつけたのだ!」

【愉壊痛快:パフォーマー】【ギャグ補正】

 いや訂正する、かなり恥ずかしかった。

 原因は隣で歓声に負けぬ大声で全身を、両腕を全力で振り回し応える大鎧の男だ。

 否が応でも目線が近くに集まり、凄く目立つ。下手すれば優勝チーム寄りも目立つ。

 

 あの歓声の比率は変態技能と変態大鎧による、全て受けて跳ねかえす(プロレススタイル)という。

 絵面は酷いが闘技場と言う場ですら珍しい戦い方への割合がかなり占めるだろう。

 唯一性と言うのは、それだけで価値を持つものなのだから。

 ぴろしと言う大男は、お調子者の性格を含めて興業者として(エンターティナー)向いてるのかもしれない。

 

 後は粛々と式典は進行し、賞品をしっかり受け取って、”紅魔宮”闘技場を後にする。

 たかが、三枚のチップが内蔵された紙切れ。

 一生に一度しかないかもしれない、重い重い三枚である。それを一枚ずつしっかり分けた。

 

 外に出れば、既に日は沈みかけ、過多気味な街の街灯が光を放ち始める。

 暗色に奇麗な反射をする様に、考慮して塗装が塗られているのか、仄暗い海の中の様な美しさを放っていた。

 

「今日は、お疲れ様でした。今日の所はありがとう。おかげで僕らでも結果残せたと思います」

「あたしからもありがとねデカ男!くぅやっと終わったわー」

 土地勘のある場所ならともかく、旅先の夜、しかも少しガラの悪い闘争都市【ライン・セドナ】である。

 自身の体調の事もある、早く宿に戻って休むが吉だろうと、早めの解散を提案した。

 

「おう、小生からも感謝するぞ良い眼をした人達よ!今回は過去類もなく動き易かったぞ、ぬわっはは」

「あはは、元気ですね、僕はもうへとへとで早く休みたくて」

「そうだな!本来ならこのまま波に任せて、祭りの打ち上げと洒落込みたい所だが!体調が悪い様子なら致し方あるまい!」

【愉壊痛快】

 体調を配慮された、直線的に良い人ではあるんだけどな、と。声の反響する頭で思う。

 戦いの連戦の後でも、ぴろしのその暴走列車ぶりは微塵も陰りを見せてない。

 素直に感心する。それは彼特有のものか、重戦士ならその位の体力が普通にあるものなのだろうか。

 

(今度から、もう少し走り込みの割合、増やした方がいいかな)

 そのどちらかは見当つかないが。

 彼は自身のサイクルを考え直して、単純にそう思った。

 

「では、存分に休まれよ。今日の所は感謝に尽きぬ、また機会があったら巡り合おう!旅路の果てまでも、頭上に星々の輝きのあらんことを!」

 そう声を大声で宣言し【ルミナ・クロス】の整備された道を、いつか見た様に元気に猛ダッシュしていく。

 最後まで嵐の如く巨大な存在感を放つ冒険者だった。

 

 そしていつもの二人になって、彼等も彼等のペースで道を歩み始める。

「あーあ、優勝はできなかったか、見得張って結局先輩は誘えないか、ちょっとだけ残念ね」

「まぁ悔いというか反省点はあんまないから、困るんだけどさ」

「でもそうできたら、素敵だったとっていうのは事実だと思うのよ。夢は大きくね」

【ムードメーカー】

 彼女がニシシと悪戯に笑う。

 善い事を想う力は彼女の方が強い。カイトが考えて、ローズが後押しする。彼女が思いついて、彼が検討する。

 大体そんな両輪にて回るのが、彼等という”相棒”(ペア)であった。

 

「全く、そんな事気にしなくてもいいのに。背伸びは程々にな」

「あれ、先輩?何時の間に、そっちから来たって事は、やっぱ試合見られてたか―」

 闘技場(アリーナ)の方から、槍を隠した布で隠した件の先輩が歩み寄ってきた。

 寒色系の新緑色の戦衣装(バトルドレス)に素っ気なく散りばめられた魔法石が寒色に浮き上がり。

 スラリと伸びた金の髪と合わさって、確かな存在感を纏ってそこに存在していた。

 

「すぐ声かけてくれればよかったのに」 

「その、君等の話を聞いて、悪い人物ではないとわかっているのだが、あの振る舞いを見ると気後れしてな。悪いと思いながら少し様子を見ていた」

「あー…、まぁ仕方ないです」

 苦笑する。ぴろしの相手はとにかく慣れが必要であるのは仕方ない。

 暴走列車で周りを撒き込み、更に戦闘の立ち回りは物理的な変態であるのだから、気後れもするだろう。

 

「とにかく、二人とも準優勝おめでとう。実況は巨漢の冒険者に集中していたが、私はしっかり見ていたぞ」

「ええ、地味だったっしょ。巨漢鎧(ぴろし)に吹っ飛ばされたのとか、調子狂わされた逸れたのひたすら囲んで殴ってたし」

「動きは悪くなかった、勝てればそれが正義だろう?」

 彼女から評した戦闘評価は及第点であったらしい。

 それを聞いて、彼は胸を撫でおろす、彼等の上を行く先立ちからの客観的な評価は自身に繋がる。

 

「そうだ先輩。カイトの調子が悪いらしいから、ちょっと診てやってくんない?」

「や、休んでれば治るから……」

「ん、そうか遠慮するな。ちょっと額を貸して」

【固有術:森】【治癒術】

 すすと、ごく自然にガルデニアのひんやりとした手が彼の額に触れた。

 だがその顏が何故か近い、最近の”クゥエーサー修道会”の出来事もあり……。

 良く知っているハズの女性の手が、その冷たさがたまらなく気恥ずかしい。

 

「なるほど少し熱があるな。この感じは”電解質”の不足か、この位なら癒活する程度で十分だろう」

【森属性:癒活】

 ガルデニアの掌から、生命波長が伝わり彼女の波長の基準で整えられる。

 神経を通して関連臓器の機能を活性化させ、バランスを整える。

 彼の未だに少し混乱していた脳が、その調子を緩やかに取り戻していき、まだ残っていた寒気と気持ち悪さが嘘のように消えていった。

 

―――この世界における魔術などの類で医療行為を行う者達を【癒し手】と呼ぶ。

 カルデニアは初歩的で【癒し手】と呼べるだけの技能習得していない、【癒し手】と呼ばれるには医療目的に合わせ、治癒魔術の種類を!最低十種類は使えないと話にならない”。

 また彼が訪れたより専門的な”クェーサー修道会”も他の内科的処理を行う【薬師】や、外科的な処理を行う【医師】の技術は併用しているだろうが、”黄の札”が母体である関係上、主に技術を抱えるのはこの【癒し手】となるだろう。

 

 

「ちょっ、ありがと。そ、それもう良くなりましたから!」

 彼は頬を赤く染めて、彼女の手から逃れた。

 別の要因で血行が良くなってしまう。

 その頬赤みは多少は寒色な光で紛れたか、【ライン・セドナ】の街を照らす過多な光量に初めて感謝したのだが…。

 

「んーちょっとカイトー、いっちょ前に照れてるの」

「ちょ、な。仕方ないでしょ、慣れてないんだから!」

「なにさ、あたしならいいって言うの」

 しかし結局、彼女にはばれていた。肘で小突かれて悪戯にからかわれる。

 彼女のその言葉で先輩にもばれたかと、更に恥かしく顔を赤らめるしかない。

  

「……ちょっとローズ、酷いよ」

「うえ、やり過ぎたか、ごめんごめんって」

 そして男のサガを弄繰られたカイトが、少しイジけて一人で冒険者宿へ歩んでいった。

 それをローズが平謝りして追う。そんな年甲斐らしい(?)珍しい光景があった。

 彼女はそれを微笑ましく気配を追いながら。

 

「―――ふむ、うむ。いいな」

 なお、ガルデニアは治療の建前はあったが、無意識を装った異性相手の触れ合い(スキンシップ)

 それをある程度、意識的にやっていたりするのだった。

 しばし、その場に留まって、その触れた手を見てにぎにぎ、感触と熱を確認する。

 

 本来、彼女の治療術には別に額に手を付ける必要はなかったりする、手を握る程度で十分だ。

 この間の膝枕から、気になる異性との触れ合う(スキンシップ)に楽しさに見出しており。

 産まれの九十九姉妹式のセオリー(ソレ)とは反するが、そのくすぐったい様な心地よさが癖になっていた。

 

―――変わらず、彼等は生き急いだ無謀な行為を続けているが。

「どうしたものかな」

 ガルデニアは既に冒険者として距離を取って見過ごせない程に、あの二人に入れ込んでる自身を感じていた。

 おそらく、もし彼等が目的のきっかけを掴み、一歩先に踏み込んだとしても。

 既に言葉では止めつつも、強引に自身を捻じ込んで伴に付き合ってしまうのが目に浮かぶ。

 

「それに、あの”腕輪”のこともある。あれは、どう考えても彼等の目的に関わっているな」

 カイトが身に覚えのないと言った、既存の技術からも明らかに異質な正体不明の魔具。

 その場や、試験(テスト)には軽く言ったが、”上級魔具”が都合よく生えてくる事が有り得ないと言うのは誰にでもわかる。

 おそらく伴に居たマーロー・ディアスも、それを理解していながら大袈裟にせずリスクだけ伝えて彼に配慮したのだろう。それだけでぶっきら棒だが十分信用に値する冒険者だと考える。

 

 おそらく彼等が関わろうとしてる”事変”とやらの実体や規模はおそらく、彼等が知るその程度ではなく。

 想像以上に深い。

 常識の範囲の成長だが、ただ仕事と鍛練を重ね鍛え上げ、強くなっていくのも不安を煽る。

 少し前なら、こんな所で準優勝とは言え結果を残すなど信じられない事だった。

 

「仕方ないな。ふう、これも趣味と言えるのかしらね」

 冗談めいて、いつかの付き合いで言われた彼の言葉を思い返して。

 いつか、因果として還ってくるとしても。

 既にガルデニアと言う冒険者は、自分の”好き”に殉じる事を決めていた。

 

 自身の想いを確認し、そして彼女も冒険宿【ナグマホーン亭】の方に足を進めるのだった。 

 

 

 

 

 

 

 

 




”邪剣”の彼はまた出てくるか未定ですが、一応名前を設定。
次回やっと、原典様のゲストキャラが出せます。
前提前置きが長ァい!時系列をうまく自然に切り替えられる人は尊敬します。


カイトは”破裂”に関する魔術式を手に入れました。専門知識の有る人物との交流で、習得します。


キャラクター初期メモ。
砂嵐三十郎(神鳴流、居合術、生体強化(アリアンロッド系)、ウォークライ、俊足、メンター)。
 神鳴流枠、ただし野太刀は使わない。魔術すら斬り破って進んでくる。
 魔具による生体強化を入れた彼はローズとフィジカル勝負ができる。
 リアル設定からメンターを所持。
 冒険者のクランと言う存在を出したかったので、面倒見の良い彼に外部クランのまとめ役に。
 流れ者の外部クラン【ブルーブリゲイド】のまとめ役の一人と設定。
 子ずれスタイルなんで、蛍君保護してるかもしれない(情操教育予定フラグ)。


 キャラクター初期メモ。
 ぴろし(デザイナー、愉壊痛快、ギャグ補正、専用BGM所持、衝撃防御、受け身の心得、アクシズ教徒)
 ギャグ枠、仕事はこなすのでこれでもBランクであるが、基本的に自己ルールで動く社会のはみ出し者の鏡。
 アダマンタイト製の鎧を着こんで、物理で殴って来たらその弾力性で衝撃返してくる。
 大体メガテンのギリメカラ、変態である。
 おそらくその訳の分からん趣味悪い鎧から割と財力はある模様。
 許容以上のダメージは【ギャグ補正】で辺りをゴロゴロゴロ転がり始める。
 一流基準の本職を別に持つ、冒険者しなくていい兼業冒険者。
 闘争都市【ルミナ・クロス】の一部の観光名所の構造物を設計をして、
 収入を得て、防具を鋳造した。
 

 
 

 

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