ポンコツ世界異聞=【終幕を切り刻む者達《ハッカーズ》】   作:きちきちきち

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※注)
ちょっとゲストキャラ描写的に自身が無いです。
何で年上目線化してまうんツインテキチ…(文章カラテ不足)。


EXコミュ【永遠戦姫】

【ルミナ・クロス郊外にて】

 

 『永遠戦姫VS三宮皇(イコン)』の試合は、かつてない程の盛り上がりで終了した。

 元より、お互い、最強の名を背負う恥じぬ武の持ち主である。

 それがお互いに満身創痍にまで、手に汗握る激戦を繰り広げた。

 まさしく、”闘争都市”の歴史においても、有数の名勝負に語り継がれる試合であると言えた。

 

 幸い、再起不能になる程の怪我人が出たとの情報もなく、観光都市の体栽も守られている。

 

 打倒するには至らなかったが、伝説を追い詰めた闘争都市の代表の評判は向上。

 【クェーサー修道会】(黄の札)は、試合で滾った観客の駆け込み需要を得たりした。

 観戦しに来た一般人は伝説に語られる英雄の有志を目に焼き付け、残酷なこの世界の知れぬ明日を、”永遠戦姫”(英雄)がいるから安心だと枕を高くして眠れる。

 【三宮皇】(イコン)の面々達も、一部が存分に悔しがるがってはいるが、頂点である伝説相手に貴重な経験を積み。

 ”永遠戦姫”は弟子を自身の理想とするツインテールに、改造する権利を得た(なおツインテ被害者)。

 

 そんな感じに方邦に善い影響を循環させていたのだが。

 

―――そんな中、珍しく浮かない顔してる者が一人。

 

【レンジャー:野狩人】

「んー、いい天気」

 その世紀の試合を見物していた冒険者の一人であるカイトだった。

 今はこんな郊外の草原にて、相棒であるローズとすら離れて一人で穏やかな風を浴びながら。

 久しぶりに、純粋に思考を呆けさせている。

 

 右腕に装着した、下位の魔具である【太陽の腕輪】を空に向け起動させて。

 その光変調率を、弄繰り回しながら身を投げ出して、ただ考えを空白に風に任せる。

 

「凄かったなぁ…っ、【テイルレッド】さん。アレが英雄、伝説、世界の頂点か」

 伝説の力を見て、無力感に浸っている訳ではない。英雄とは元より違う人種だと理解している。

 だが、その太陽の輝き如き英雄の輝きに目を焼いて

――――”きっと、彼女が全てをどうにかしてくれる”。

 少しだけそんな幻想に浸りたかった自分を自覚して、少し鬱になっていただけだった。

 己の情けなさに、自嘲して落ち込む。

 誰かじゃなく、僕等の為に、僕等がやる事と自分で決めたと言うのにと。

 盲目にただ待ってて物事が好転する程、世界は優しくはないのだから。

 

「……熱っい」

 光を弄り、身に少し集めて光を浴びながら呟いた。それは彼には珍しい遊興に近い行為である。

 苦痛にて、前進を実感する仕事キチ(ワーホリ)な彼は、目を焼くかもしれないこの刺激にて。

 ぐわんぎゅんと、空気をかき回して遊んでいた。

 太陽の腕輪を制御していれば、何も問題ないと理解しているからこそ遠回りな自傷行為である。

 

(とにかく、一日休んだらまた頑張ろう)

 今は身体が動かないだけだ。少し休めば頑張れる。

 そう考えて今はともかく、日の光と自然の風に身を任せていた。

 今はあの怒涛の情報が焼き付いているが、こうやって少し休めば抜けていくだろう。

 あの”絶界”が身体のイメージに残っているのは、多分に調子が狂う。

 

 そのイメージを反芻してと成長の糧にしていくには、まだカイトは余りに未熟だった。

 それを見て余りに何も理解できなかったのだから、活かして鍛練にと前向きな方向に考える事はできない。

 修羅に至らぬ彼程度では、傍から見た程度ではただ凄いと言う事しかわからない。

 何かしらの無力感なんて珍しくもないが、倦怠感に襲われたのは何時ぶりだろうか。

 もはや覚えがない。

 

「よう、そんな所で何やってんだ?」

「―――!……?」

【魔器呪印:影法師】

 その凛とした声に多少驚く、声を掛けられる直前まで接近に全く気が付かなかった。

 寝転がる頭上に見えるのは、橙みかかった真紅の揺らぎの両房の奇麗な髪を提げた少女である。

 ばっと、半身起して、気が抜け過ぎてたかなと、気まずく頬を搔いた。

 

「えっとこんな所でって。うーん、日向ぼっこ?一応怪しい者じゃないんだけど……」

「そりゃ変だな、街の近くとは言えそんな所で寝てたら危ないぞ」

【オレっ子】

 からからと笑いながら、姿に似合わぬ男言葉を使う少女に違和感を感じながら。

 まぁ、そういう人もいるかと、何時も通りに認識して吞み込んだ。

 

「寝てないから大丈夫。モンスター出てもある程度は戦えるし、迷惑はかけないから放っておいて」

「ふーん」

 それはこんな所でリスクを侵して、ボーっと呆けている理由にはならないのだが。

 未だに祭りの雰囲気冷めやらぬ、”闘争都市”で一人に成れる場所が少ない為にこうしているのだ。

 何より、心配性な相棒の追跡を撒く苦労が半端ではない。

 

 カイトは普段なら、初見の相手を無警戒に観察しないなんて事はしないのだが、

 しかし、現在倦怠感に身を浸している彼にとっては、割と会話が自体がめんどうに思っていた。

 結局の所、この状態は無理を重ねて、溜まり続けた疲労が精神力が弱った所に現れてる。

 その相乗効果が現れるその為に、割と根が深い。

 

「んー、確かにいい天気だなー。昼寝したくなってくるぜ」 

「!、そっちこそ外は危ないよ。奇麗な女の人が郊外を一人でうろついてると、余計なトラブル惹き付けるから、賊とかモンスターとか」

「問題ないぞ。オレ強いし、そうだおまえの名前はなんて言うんだ?教えてくれよ」

 カイトは上半身だけ起した状態で、陽の光に目を細めながら相変わらず呆けている。

 対して少女は持ち前の男性的な大らかさで、まるで同世代の同性に話しかける様に距離を詰めてきた。

「……ん、そう。名前くらいはいいか、カイト。しがない下位冒険者だよ、ゴロツキだよ、危ないよー」

「そっか、オレの名前はテイ……んー、”ソーラ・ミートゥカ”だ。よろしくな」

 そんな気の抜けきった、ふわふわの軽い脅しの事を気にも止めない。

 彼の横に腰を下ろし、何故か伴に日向ぼっこを始めるツインテールの少女。

 それに反応して、あまり意識せずに何時もの癖で失礼は無いように、適当に言葉を並べた。

 

―――お察しの通りこの妙齢の少女は、【魔器呪印】で姿を変えている戦姫”テイルレッド”である。

【偶像少女】

 精人の上位種(マナフレア)故の普遍性と、過去由来の永遠変わらなくても良いとの誓い。

 自身の容姿にも自信のあるそんな彼女が魔具機能を使ってまで、変装してる理由は、未だに熱狂に撒かれる”闘争都市”で自由に行動する為に、何より未だ怪我が治っていない為に、驚かせるかなと怪我を隠すために配慮しての事である。 

 ”魔導具”影法師で同じサイズの幻影を纏うと、どうしても違和感が出るのでキグルミ状態だ。

 ”永遠戦姫”としての知名度もそうだが、大怪我してる相手に普段通りに振る舞えるのは多くあるまい。

 右腕はまだ動かせる程度であるし、マナを散らす”魔殺しの斬撃”を受けた腹部の大穴は特に修復が遅く、完全に塞がりきっていないのだから。

 精人の上位種(マナフレア)基準でも、余裕の重症判定である。

 仕事キチでも一月は安静にしてるレベルだ。

 

 

 しかし、だが。

 一般的には、圧倒的な知名度を持つ”永遠戦姫”こと、テイルレッドではあるが。

 【オレっ子】【永遠少女】(ロリ)【ツインテール愛】

 と言う強烈な個性を持ち、それに沿った振る舞いをする快活な彼女であっても、一般人にとってはその詳細な風采を知る者は多くない。

 観客席の遠目で見た事も相まって、故に彼は所見で、”永遠戦姫”との類似性を少女から見いだせなかった。

 

「なんかさっきから見てると、調子が悪いのか悩み事なら聞くぞ。歳だけは取っているからなー」

 その言葉に彼女はエルフか何かなのかと、思いながら。

「心配ないよー。一日で調子を無理にでも戻すから、帰り道が心配なら街まで送るよ」

 また一人に成りたくて。彼女の正体をを知る者から見れば、相当ずれた不遜である言葉が出てきた。

 

 彼女が、こんな所にいる理由だが。

 強すぎる精人上位種(マナフレア)である彼女はハーモナイザに負担を掛ける為に、一つの街に長くとどまる事はできない。居れる間に変装して、”ナイスツインテール”探しをしていたら、この間に目を付けた少年が、ところこと郊外に足を延ばす彼を発見し、興味を持って付けてきたのだ。

 

 故に変則的であり。

 ましてや、まだ怪我してるだろう英雄が、こんな辺鄙な郊外にいるとは思わないのも相まって。

 彼の認識を正解から遠ざけている。

 

「いやいいけどさ、ダメだぞー。若い奴がこんな調子じゃ、オレは齢だけは取ってるし話は聞くぜ?」

「だから、一日で調子を戻しますって」

 今は少し体が動かないだけである。

 

 

 

 そしてしばらく何故か、雲だけがゆったり流れていくだけの空白の時間が過ぎていく。

 そう、余りに長く空白の時間が経った。

 

 

 

(もしかして、何か用なのだろうか)

 時間が経てば流石に、隣の存在に疑問と伴に気になって来た。

 少女は男口調と大らかに馴染み易さを滲ませていた為に、容易に隣に馴染んでいたが、良く見れば目を疑うような美少女であるし、その瞳の強さは他者の存在を圧倒するようなものがある。

 彼の中の違和感は大きくなるが、やはりそれは怠惰で穴の開いた風船の様にしぼんでいく。

 

「……えっと、僕に何か用なのかな?」

「お、やっとしっかりこっち向いたな。そうだな、君の試合見てたぜー」

「はぁ、それですか」

 知らぬ誰かに声を掛けられる理由があっただろうかと、頭を傾げていた疑問が解消された。

 ぼやける頭を、もう少し動かし。それが最近知り合いから少し聞いた話に結びついた。

 

「んと、じゃあぴろしさんのファンかな?あれから彼も結構注目されてるらしいからなぁ、珍しいから一ヶ性の物だと思うけど、彼も喜ぶだろうし紹介しようか」

「いや、違うから、アレ紹介されても困るんだけど???自分に自信なさすぎじゃないか」

「んあ?もしかしてぼくか」

 大体が、巨漢の変態重戦士(ぴろし)に注目が集まった”ワンマンチーム”であったのだが、知り合い以外にも彼等のペアに注目していた物好きな者もいたらしい。

 もしかして、少女は冒険者だったりするのだろうかと、相手の素性を考えが及び。

 少し何時もの思考《ペース》に戻りかけるが、酷い疲労にまだかなりと思考が重たい。ただ、自身に興味を持つ様な珍しい人物と会話を続ける程度の意欲で、宙を彷徨っている。

 

「そうそう!まぁ面白いって意味だけどなー、一体どういう鍛練してきたんだ?剣の方はもう一端の代わりに、他の技術が半端過ぎるぜ」

「素振りして、走り回って、魔法剣反復してるだけだけど、術は単純に知恵が足りないだけだし」

「そっか、そっかー。あれを反復してたのか」

 余計に楽しそうに、からから笑うツインテールの少女。

 当たり前の鍛錬、普通の方法を言ったつもりの彼は、頭を傾げるしかない。

 なお、”永遠戦姫”事、”テイルレッド”の人物評価は割と甘い。

 【聖錬】に長く根を下ろす彼女は、脆く寿命が短いハズの純人種が、自身より若い人間がいつの間にか互する修羅に至るのを何度も見てきた。

 ”三強”、”五傑”と呼ばれる存在である。その中には生物上位で例外(バグ)の彼女ですら、正面から戦えば分が悪い存在すらいる。故に修練を欠かさぬ若く面白い対象ってだけで評価の対象となるのだ。

 

「カイトは何処で活動している冒険者なんだ、この街かそれとも遠い所か?」

「外の方、【ラインセドナ】って呼ばれてる田舎町」

「あっちゃー、そこは【パリス同盟】の外か、オレの管轄外だな。何か仕込むには時間が足らないか」

「?」

 残念そうに肩を竦めるツインテールの少女。

 何故かと問われるならば。

―――彼女はなんとなく、彼が何かしらの困難に直面するであろう事は、人生経験から感じ取っていた。

 ”英雄的直感”と言うべきだろうか、実際、話をしてみても目を付けた少年は善性のそれである。

 この直感が間違えで、何もなくても、それはそれで助けになる事に損はない。

 

【戦闘続行:ヒーロー】

 それこそ己の手を惜しむ気はないが、自分の手の届く範囲など限られている。

 世界の影に生きる誰かが悪を、道化を、災害を、理不尽を殴り付ける、

 長く活きる彼女はそれが、この残酷な世界を僅かでも優しくする方法だと知っていた。

 

「で、結局。なんでこんな風に黄昏てんだよ。そんな魔具ギュンギュン稼働させてさ」

「ん、まだ聞くの。情けないなーって反省したら、ちょっと疲れがぶり返して来ただけだよ」

 端折って、目を細めながら事実だけを並べて言葉に乗せる。

 自分で切望して頂上決戦を見物して、勝手に自己嫌悪に陥っているとか、意味不明だし情けないにも程があると。

 彼の心は自嘲する。

 

「疲れてるなら、ツインテールのかわいい女の子の事考えるといいぞ!きっと疲れなんてすぐ吹っ飛ぶぜー、穂先がスラリ伸びた髪はもはや一種の芸術―――!」

【ツインテール愛】

 すすすと、カイトはツインテールの少女から距離を取る。

 

「え、なに。ナンパ?客引き?美人局?”闘争都市”って裏の治安悪いらしいし、着いてったら怖いおじさんが待機してるの?」

「ちょおま、違うぞ。勘違いだからな、オレが好きなだけなんだが、おい待って??」

 男の人がそれを言うのはわかるが、実際にツインテールを提げた美少女が言う台詞ではなかった。

 これが元の姿の幼女だったら、そうなりたいと言う意味でとって、また違う反応だっただろうが。

 何か誘われていると変な邪推をしても仕方ないだろう。既にかなり状況が特殊である。

 

「んー本当に。おかしな人だなぁ」

「こっちの台詞だぞ、そういう反応はオレも初めてだわ」

 改めて見ると、大らかな男口調でに馴染み、ツインテールに付いて目を輝かせる少女はヘンテコである。

 それが少しおかしくて、少し笑った。そのおかげか、少し活力が戻ってきた気がする。

 彼は割と、男の子らしく強がりで見栄っ張りな所もある為に。心配かけまいと相棒や知り合いは避けていたのだが、他人と話すのは精神に効くらしい。

 

 その後は適当に、ツインテールの少女の彼の事を聞きだし、彼が適当に応えて相槌を打ち続けうる。

 なお、隣の少女が昨日、”永遠戦姫VS三宮皇”の激闘を繰り広げた憧れの英雄と知ったら、後でひっくり返るだろう。

 

「まぁふっつーだな。田舎育ち(INAKA)でやたら濃くて強い冒険者上がりは知ってるけど、やっぱアイツみたいのは珍しいんだなー」

「そりゃまぁ、ぼくの故郷の村には神父さんもいなかったし。その田舎育ちの強い人ってどんな人です?」

「んあー、かわいい同僚だぞ。冒険者から昇格した珍しい奴でな。会う度に決闘申し込んでくるのが、死闘に成るから簡便な!っていってるんだけどなー」

 先程の己の強い発言や、その好戦的な話からこの少女は”闘争都市”で活動する闘士なのかと解釈した。

 【聖錬】特化戦力たる”戦姫”は選抜血統である貴族から選ばれる物であり、冒険者(へいみん)から選ばれる事は、”ほぼ”有り得ないのが、更に彼を正解から遠ざけたのであった。

 

「『お前の強さの秘密は何だ!?』って聞かれてな、ツインテール愛だ!って答えたら、次の日にはツインテールになってたなー、素朴なツインテールもいいもんだなぁって、やったぜ。」

「はぁ、うん。素直ないい女の人なんですね」

 端々に熱が入るツインテール談に苦笑いしつつ。その素直さから素朴で純朴な女の人が頭に浮かんだ

 なお、件の話の彼女は”人類讃歌”で魂を燃やす、超トンキチであるのだが彼は知らない。

 極稀である平民上がりの【戦姫】であり、”テイルレッド”と同じく【パリス同盟】に所属する百年以上の在位を誇る”永遠戦姫”と正面から殴り合える、魔人と精人の人類上位種のハイブリットだ。

 

「にしても、困ったな」

 ツインテールを弄りながら呟いた。

 彼女が所持する技能とノウハウほぼ全ては、大体人類の上位(ハイエンド)向けの物だ。

 弟子の一人である”紅魔皇・揺光”に助言を送ってる武踏の所為は、経験を積まぬなら本人の資質(センス)に依存する物であるし、魔法剣は一朝一夕にとはいかない、自己改造を交えた【魔器呪印】(アクティベート)は論外である。

 同じく炎属性を持っている上に、精霊への適性の高さから、【マナの手】による魔力の委譲と仮契約はなんか面白い事が起こりそうな気がするが、現在の彼女は重傷・重体で割と余裕がない。

 精人の上位種(マナフレア)である為、自身を構成する身を切り分ける余裕は割となかったりする。

 

 

 実際に、”テイルレッド”個人としては、

 依然感じた、カイトが女性だったらと言う想像で、ツインテールが似合いそうだと言う直感もそうだが。

 未だに、少ししか会話してないが目を付けた、まだ幼いだろう少年の事を、気に入ってしまっている。

 善人である事は前提だが、頑張る若者は好きだし、彼は構い甲斐もあると思う。

 なにより認識の元にそういう物かと、吞み込んでから、解釈を付け加えるその在り方が、怠惰に沈んでいるのもあって適度に湿度を保った距離感に座る彼の在り方を示していた。

 安きこと泰山の如しと評するべきか、普段の彼の精神性はおそらく年甲斐もなく、落ち着いた物があるのだろう。

 肉体・容姿に見合わず戦姫”テイルレッド”は、実年齢由来から、基本的に歳上目線で評する。

 

 

「ちょっと、アレ見せてくれよ。最後の魔法剣でやってた、精霊集めて属性を形成して殴った奴」

「え、”蛍火”は別に特別な物は何もないよ?」

 まぁ、それ位ならいいかと掌からオドを放出して揺らぐ、術式を経由せずにオドにしては炎の性質が表に出やすい程度の物、漂わせれば精霊を呼び寄せるだけの脆い人魂の様な現象。

 ”腕輪”が顕現して以来、カイト自身の属性値……、オドの濃度が上がった為。掌から、離れても暫く浮遊する様に存在する様になっただけの”蛍火”である。大体、すぐ精霊に食べられ溶けて消えるが。

 あの試合の時とは違い、オドがほぼ万全な状態な為に、多少は活きが良く暫く浮遊する。

 

「ふんふんふん」

 それをちょっとだけ眺めながら、手に取り捕まえて。

―――何の躊躇なく口に運び、食べた。

 もぐもぐもぐ。

 ごきゅ。

 

「は?」

「んー悪くはない味だな、おかわり!」 

 突拍子の無い行動をする、そのツインテールの少女を困惑の表情で眺める。

 いや、本気で訳が分からない。

 

「え、いやおかわりて食べ物じゃないだから、早く戻して一応火種になるんだよこれ…!?」

「この程度でオレが焼けるかよー。丁度いいヌルさだぜ」

 この世界にはオドの移譲と言う概念はあるが、断じてこういう方法ではない。

 元々彼のソレは手に掴もうとすれば搔き消えるか細い者で、掴まれること自体が想定外であり、ひょいぱくと食べられたのはもっと想定外で反応が遅れた。

 

「なー、もう一度!」

「だめだよ、危ないし怖いし責任取れない」

「ちぇー、けち臭いなーまぁ良いか大体解析できたし、もう”調律”できるだろ」

【魔器呪印(アクティベート):調律呪印】

 そう言ってツインテールの少女は大仰に印を込んで。

 

「痛いから歯ぁ食いしばれよー、調整式パンチ!」

「え―――は、ゴフッ!?」

 指を立て、いきなり腹を殴られた。

 思わず反射で跳び下がり、とにかく次撃に対応出来るよう重心を低く受けの構え、腰に下げた獲物の刃に手が伸びるが。

 手首を捻り、良くわからない首巻で大地に叩き伏せられる。

 

(な、えこれ幻影!?)

 流石に接触されれば、【魔器刻印】の”影法師”による幻影の変装にも気が付き、怠惰と会話で緩んでいた警戒心に流石に火が付いた。

 また遥か格上かと、彼の中の経験が、もはや諦めの境地で打開策を探す。

 

「ン♪良い反応だ」

「ごほっ!えっと、僕悪い事、しました!?」

「いや別に?大人しくしてろよー。今から精霊術のやり方、身体に教えるから」

【呪印術:同調】

 彼女は初撃のパンチで既に”呪印式”を彼の身体に刻み込んでいる。本来なら相性の良い塗料を使って、塗り描き(マーカー)適応させていくのだが、あいにく彼女は普通ではないので、相手のオド(の再現)を使って焼いて代用した。血を使えればなお良いが、流石に過激である。

 更にツインテールの少女は【呪印刻印(アクティベート)】により、一部彼のオドに相応する様に調律しており、その呪印を通じて彼の経絡に介入していた。

 

(い、いきなりなんだよもう!)

 抑え付けたままでは、抵抗手段は限られる。

 せめてもの抵抗として魔法剣の動作を起動しようとするが、そのまま制御を取られて沈む、その現象に見当つかない彼は混乱するほかない。

 

「本当は”呪印”の基礎知識から教えられたらよかったんだけどなー、時間が無いみたいだから手荒に行くわ」

 

「あっつ…!?」

【精霊術:精霊作成】【呪印術:感覚伝達】

 ツインテールの少女は、馬乗りになりながら、並行してマナに隆起活性、投影して精霊を作成。

 それを手なずけ、制御する一連の動作を行う。

【マナの手:半受肉】

 その右手の受肉が未だに甘い事を利用して、感覚を繋がってるオドの経絡系、それに合わせて無理矢理送りつけた。

 

 精人である彼女をフィルターにして精霊術の基礎である共振、イメージの伝達を身体に教え込む。

 

「だから大人しくしてろって、悪い様にはしないからさー」

「そんな事言われても、いきなり殴ってきて、警戒しない人いないと思うんだけど…!?」

「それはそうだな」

 姿を偽って近づいてきたと言う時点で、強い警戒対象だが。相変わらず、敵意も害意も見せない大らかな男口調に、こちらを害する気が無いのかと本気で考えてしまう。

 少しじたばたするがびくともしない。感じる重量は軽いのに不可解であった。

 最終的に、対抗しようがないので。どうにでも成れと身を任せた。

 

 ひとしきり 抵抗をツインテールの少女(?)は、からから笑いながら眺めていた。

 

 なお、強引に捻じ込んだ意味は特にない。

 反応を試す意味と、おもしろそうだったから超手加減して殴っただけである。

 彼女の髄にある何か男の子残滓が、探究心を基にする変な悪戯心による行動であった。

 

「意地悪はもういいかー、よっし精霊術使ってみろよ、大分具合が良くなってるはずだぜ」

「……?、えっと、うん」

 やっと、ツインテールの少女が退いて、やっと体が自由になった。

 関連して最初の言葉を思い出す。”精霊術の遣い方”を教えるだったか。

 違う感覚器を無理矢理、焼かれた肌に、植えつけられる感覚と内から湧き上がる熱気で、気持ちが悪い。

【正義の心:燃える眼力】

 ついでに眼力が半端でない為、変な気持ちは湧いてこない。

 未だに感じる命の危機で冷や汗が止まらない。

 

 半信半疑で。

 言われた通りに。刃を抜く機会でもあるしその状態で、何時も通り”蛍火”を餌に周囲の精霊を集めて。

 疑似刃を形成しようとするが…。

「―――えっ?」

 いつもより負担なく、しかもすばやく精霊が整列して並んだ。規則的な刃を作り成す。

 その簡易精霊はもはや鱗の様であり、精度が違うのが明らかである。

 本来ならば、共振で意思を伝えながら、オドの餌に精霊を集め形成して、犬にボールを投げる様にオドを放出して、ご褒美だ取って来いと”その都度の共振とオド放出”で指向性を持たせるというのが、微かな才能にゴリ押した彼の未熟な精霊術であった。

 

「…っ!?本当だ。精度が全然違う」

「だろー。あんな躾けられてない精霊でよくやってたもんだぜ、感覚反復させる”呪印”も埋め込んだから、鍛練欠かさなきゃ馴染むだろー」

 手の甲の紋様が刻まれている、彼女は軽く言っているが、普通にとんでもない技術である。

 刻み込む様に入れても普通は、純人種の自然治癒で”治ってしまう(修正)のだから。

 カイトのオドを用いて、刻み込み。その状態が自然であると騙している状態だ。そうしなければその感覚とて、すぐ抜けて行ってしまうだろう。

 

 とりあえず、余りに滅茶苦茶な技能に困惑しながら…。

「その、ありがとう、なのかな。そのでも僕には出せる対価がないだけど」

「大丈夫だぞ?もう貰った。カイトのオド大体ギリギリまで持ってたし、同属性で精人(オレ)とやたら相性良い、マナだけじゃ味気ないから、身体の材料になって助かるわ」

「……え、そんなのでいいの?」

【魔器刻印:吸炎】

 彼は怪訝な顔する。

 転々とする事態に翻弄された頭で気が付かなかったが、確かに彼の中の生体鼓動(オド)が明らかに目減りしてる。生命力の奪取する”暗黒剣使い”を見てる為に、オドの奪取位はあるだろうとしか思わないが。

 そんなものに普通は価値はないのである。

 

―――仮に、彼を身体ごと専門術式を持って、カイトを贄や薪として燃やせば、効率的に精霊の材料になる。

 成長し身体が完成すれば所謂魔剣の材料とすらなるだろう。”精霊に食料として好かれる程度の才”と言うのはそう言う才だった。

 現代では他の効率の良い方法が発見されているから、滅多にやる奴はいないだろうが、普通に宝石を使うだろう。

 

「まぁ、あんま気にすんなよ。人を助けるのに理由はいらないもんだしなー」

【ヒーロー】

 相変わらず、からから笑う。ツインテールの少女に眼の強さ圧倒されながら。

 明らかに所為と見合わず余技の様に、一流の術師が施す以上の施術をやってのけた彼女の正体について。

 流石に、最初の認識を呑みこんで解釈を加える癖で、鈍くなって居たカイトの洞察でも。

 

 ある程度、推測が成り立ってきた。

 

(もしかして、戦姫”テイルテッド”…?えぇえええ?行動が奔放すぎるし、昨日の今日であの怪我が治る訳もないし?)

 実際、常識で考えれば高貴な戦姫であり、その中でも伝説である彼女がこんな辺鄙な所にいるのは有り得ないのだが、良く見れば変装に面影が見えなくもない。

 見て今までを思い返す程、思考が土壷に嵌っていく。

 

(―――まぁいいか、”ソーラ・ミートゥカ”って名乗ったんだし、彼女はその名前の女の人だ。うん)

 何時も通り認識を呑みこんで、解釈を付け加える。

 悪意があるならともかくとして、役割(ロール)と同じく、人には自分が呼ばれたい名前を名乗る権利があると彼は考えている。

 仮に万が一、彼女が戦姫”テイルレッド”であったとして、それはそれで物凄い幸運なだけである。

 それ以上に交わる道はない。

 

 呆けていた時間も含めて、かなりの時間が経過していたか。

 空に輝く陽が傾き始めてくる。

 

「おっと、もうそろそろ日が暮れるな。弟子が待ってるか、オレは戻るからな―、お前も適度に戻れよー」

「あ、その、えっと、とにかくありがとうございます」

 といっても、その可能性が頭がよぎると、中々適した言葉が出てこない。

 

「頑張れよー、応援してるからなー」

 そして、なんか独特過ぎるツインテールの少女は、また嵐のように去っていた。

 何だったんだろうと、困惑するほかない。

 

 そして彼も陽の流れを見て、そろそろ良い時間だと街の方に、冒険者宿に戻る為に足を運ぶ。

 門の検問は、既に冒険亭に仮登録してる為、多少の照会で通る事が出来る。

「何処行ってたのよカイトォ、見知らない出先なんだからね!一人で行動すん成っての、わかってるのアンタがいーつも言ってる事でしょーが!」

「痛い、痛いって。ごめんってちょっと疲れて」

 なお、姿を消して撒いていた相棒のローズに凄く怒られて絞られたのだが。

 様子がおかしいのを心配して、一日中探していたらしい。

 こちらが一方的に悪いので何も言えず、今日の日は過ぎていくのだった。

 

 

 




カイトの精霊術を向上しました。使役精霊の可能性を得ます。
テイルレッドがいなければ、スケィス後に可能性生える筈だったのですが…。
ちょっと常に塗料を持ち運んでるイメージがわかなかったんで、何か呪印と言う事だから、参考にして、NARUTOの五行封印みたいに叩き込んでるイメージで…。

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