ポンコツ世界異聞=【終幕を切り刻む者達《ハッカーズ》】   作:きちきちきち

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コミュ【マーロー】

―――闘争都市【ルミナ・クロス】にて。

 彼等は、未だにこの街の冒険者宿【マグナホーン亭】にて留まって過ごしていた。

 主に先輩であるガルデニアが主導して、旅の算段を立てている様に、打ち合せしていた為に、彼女からの話があるまで、ここに滞在するつもりであった。

 手頃な護衛依頼があるなら両得であるし、危険が溢れるこの世界における旅は、基本的に群れてゆく物だ。

 まだ未熟な彼等では、確実な算段が立たないと動けない。

 

 

「お、久しぶりだな。あの時の冒険者だよな。確かカイトとローズって言ったか」

「お、本当や。あんさんら聞いたよー!”冒険者限定の大会”で準優勝したんやって?おめでとー。言うてくれれば見に行ったんに」

「ん、あ。こんにちわー。”レイチェル”さん、”リューク兎丸”さん。まぁ一応はそうなりますね」

「ありがと!っていっても、アタシら全然目立てなかったからね。ヘンテコなデカ男が主にはっちゃけて目立ってたし」

 この街に訪れるきっかけとなった、護衛依頼で知り合った吟遊詩人の二人組である。

 派手で突き立つ長髪が目立つ”リューク兎丸”と、快活にそのポニーテールを揺らす”レイチェル”に遭遇して、軽く話をしたりする機会もあった。

 

「いやいや、それでも凄い事やよ。うー、惜しいなぁ!見に行けたらあの”人工大精霊”の撃退も併せてなー。うちらオリジナルの”語り詩”のネタになると思ったのに!」

「まだ俺等も未熟だかんな。おっと安心してくれ。勿論、名前は伏せるからよ」

 彼等が言うには、吟遊詩人として一端に認められるのは自身等のオリジナルの詩を書き綴り、それが一般的に継がれる様になる事であると言う。

 未だに未熟ではあるが、ある種、自分達だけの面白い史料と言えるのが、彼等かもしれないのである。

 最底辺からなる冒険者の成り上がりの物語の詩は、何時の時代もとても強いの需要を持つものだ。

 

「あー、そんな感じなのね。前にも言ったと思うけど、名前を伏せてくれるならアタシらの事なら、別に構わないいけどさー」

「あはは…、でも最近会った闘争都市の”三宮皇”(イコン)”深紅の紐飾り”(リボンズスカーレット)決闘の事とか、そっちの方が書き応えないですかね」

「そんなの、他の連中が幾らでも描き立てるだろ?俺等も見れてもないからなー、見てないのに。適当な事謳い上げる訳にはいかないだろう?」

「あーっ、それにしても思い出したら腹立ってきたわ!うちらのクラン【笑福亭】の長が」

 本気で怒っている声色ではなく、茶化す様な色でレイチェルは言う。

 

「試合終わってなー。闘技場から戻ってきたときドンだけ凄かったか一晩中怒涛に語り倒すんよ。ちょっと腹立ったわー」

「あぁ、確かに。気持ちはよくわかるんだがよ。一晩中聞かされる方はたまったもんじゃないぜ全く」

 そう言ってやれやれと肩を窄める、吟遊詩人の二人。

 なお、件の”【笑福亭】クラン長”は割と私財を投げ出して、観戦券を得た為に。

 そのノリで善意で、家庭でも話して妻に言葉と拳の沈められることになるのだが、彼等は知らない。

 そんな感じの個人の趣向に突出した吟遊詩人(バード)たちが所属してるのが、吟遊クラン【笑福亭】と言う組織であった。

 

 そしてまた少し、彼等と世話話をしながら。

「うん、楽しかったわ。じゃあ、うちらは行くわ。元気でなー」

「またねー。元気にしてなさいよー」

 聖錬南部全体で活動する吟遊詩人の彼等とは、また縁で巡り合える事もあるだろうと。

 お互いがお互いの持っている情報を交換し合い無事を祈って、別れて。

 

 また次の日に、今度はまた別の知り合いの声を掛けられる。

 

 

 

 ●●●

 

 

 

―――【ルミナ・クロス郊外】

 そして現在、カイトが何してるかと言うと。

 

「―――……」

「あの、マーローさん?どうしたんです」

「あぁ、すまねぇ」

 何故かマーロー・ディアスに呼び出されて、街の郊外に来ていた。

 単独で動くのを好む彼が、こんな風に知り合いとは言え人を呼び出すなんて珍しい事であった。

 

(うーん、”腕輪”の事かなぁ、そりゃ怖いし)

 マーローは呼びだし、きちんと規定時間・規定場所に先だって居たのはいいのだが、繰り出す言葉に詰まっている様だった。

 なんとなく、思い浮かんだ彼に見せた。とびきりの異常な特異の魔具の事を思い返すのだが。

 

「……オイ、坊主。その剣を抜け、手合せを頼む」

「へ?良いですけど、制限は」

「魔法剣も構わねえよ。この鎧装備だ、大概の無茶は通らぁ。とにかく全力で立ち会え」

 どうやら違ったようだと、彼は安堵する。

 カイトの正面に立ち、重鎧も相まって妙に様になった構えを取り、手合せを要求する鎧姿のマーロー。

 意図はわからないが、断る理由もない。

 いつもの鍛錬通りに、適度に距離を開けて布の巻いた双剣を手に取って構える。

 

「流石に危ないですし最初から魔法剣は……、じゃあ何時でも構いませんか?」

「フン、どっからでも来い」

【ソードマスタリー】【重装】【孤独者の流儀】

 正面から構えて、悠然に構えるマーロー相手の所為を観察する。

 彼と直接対峙するのは初めてであるが、きちんと正式の構えを持つ様に見えて、姿勢は揺らがない。

 故に、特に隙らしい隙は見当たらなかった。

 

「―――じゃあ遠慮なく!」

【二刀流】【舞武】

 それを聞いて、カイトは駆け出す。目測で踏み込みの距離を大体の感覚で掴み。

 身体の発条性が発揮できる距離を見定め、リズムを刻み込み直前に身体を捩じり踏み込んで。

 二刀を持って斬り込む。 

 

「チィ!」

【ソードマスタリー:平斬り】【重装】

 マーローは一歩下がったがそれを受け止め、力で押し返してくる。

 対峙した印象としてはお手本のような剣筋であり、十全にその重さを活かしているように見えた。

 ひ弱な双剣士、力負けするのはいつもの事だ。すかさず衝撃を流し、相手の利き手とは反対に潜ろうとする。

 

「な、えげつないなテメェ!」

「工夫しないとっ、勝負にもなりませんし!」

【二刀流:重心操作】【舞武】【ダンシングヒーロー】

 重心を前に踏み込んで、両手の斬撃をばらして再度斬り込む。

 同時に鎧を抜くように突きの動作と、反撃に備えた払いの構えの動作を同時に踏み込む。

 それをマーローは更に退いて、片腕斬撃で迎撃するが払いきれずに一部鎧で受け止める。

 

「チィ、慣れの差か、勘が戻らねぇか!」

「―――シィ!」

 その後も甲高い金属音を響かせ合いながら斬り合い続ける彼等。

 マーローは、彼の猛攻を剣で防ぐのも限界があると察したか、鎧の曲面を前面に出して、刃を弾くように対峙する。

 

 カイトの双撃は通る、通るが本命の突きはなかなか通せず。

 マーローは重量を斬り出せば、その斬撃はカイトに手首を身体を曲げて重心を傾けて流され続ける。

 

【ソードマスタリー】【重装】【生命燃焼】

【二刀流】【舞武】【ダンシングヒーロー】

 

―――そんな互いに冒険者としてはある程度洗練された、立ち合いを響かせ合い続け続けるが。

 

ザガ、ギィイイイン!

 

「……ふん、引き分けだな」

「はぁ、はぁ‥…、小回り効いて割り切れないからきっつい」

 そして、暫くして決着はついた。

 カイトは片方の剣を吹き飛ばされているが、マーローの鎧の喉元に剣を突き立てて。

 マーローの片手剣は、カイトの胴元に刃を当てて止まっていた。

 そのまま互いに大人しく剣を引いて。

 

「ん、運が良かった。手合せありがとうございます」

「チ、馬鹿言うな。テメェは既に俺と同格だよ、畜生が、勝率は装備の差だ」

「最初だからだと思うんだけどなぁ…」

 少しずれた互いの所見についての会話を交わし合った。

 実際、どちらも理があるが、今回は比較的にマーロー・ディアスの言葉が正しい。

 再度立ち合いを行えば、三対七でマーロー有利だろうが、それは重装によって、有効な攻撃手段が鎧を抜く”突き”に限れているからだ。”剣腕は追いつかれている”。

 魔法剣を解放すれば逆転するし、マーローが暗黒剣を解放しても、鍛練で済ませる範囲では互分である。

 

 鍛錬の頻度の差に、そして何より様々な人間と対峙して打ち合せた経験の豊富さが、先ゆく者との差を急激に埋めたのである。

 

 吹き飛ばされた剣を回収し、ホルダーに仕舞い。

 この鍛錬に付いて、カイトが少し気になった事を彼に切り出してみる。

 

「でも、鍛錬なんて急に何でこんな事を?」

「ふん、らしくねぇってのはわかってんだよ。ただオメェらを見てると、な」

 彼は少し口ごもって、言兄出した。

「聞いたぜオメェら”闘争都市”の大会で、準優勝したんだってな」

 マーローと多少話しながら、戻る支度を始めながら。

 ”孤独癖”のある彼がその事を耳に止め気に掛けたと言う事を、彼は意外に思いながら、既に多少薄くなったその時の記憶をたどった。

 

「うん。出場者が限られてましたし、強い人に頼っての準優勝でしたけどね。逸れたり調子崩した人をローズと囲んで殴ったりとか、そんな程度ですよ」

「馬鹿野郎、それでもワンマンで勝ち抜ける程甘い訳有るか、自身を持てや見ててイライラすんだよ」

「す、すみません?」

 何故か怒られた。

 彼は正直、事実を言ったつもりなのであるが。

 その後の”永遠戦姫VS三宮皇”頂上決戦の印象も強く、割とその時の印象が変態(ぴろし)一色に染まっていた為、その時に掴んだ成功体験も中々、精神に根を下ろすに至らない。

 割と日々生きるのが忙しくて、少し前の事でもどんどんと抜けて行ってしまうのである。

 

「フン、とにかく少し前までひよっこだったテメェらが、その勢いで強くなった」

 溜息を付くように一呼吸おいて。

「……そんなん聞いちまうとな、オレが産廃の鎧を理由にして足踏みして、腐っている気がしてくんだよ」

「はぁ、なるほど」

 彼の魔具である”黒蜘蛛の鎧”は、確かにデメリットの大きい魔具であるが、本来なら血を滲むような暗黒剣の肉体・精神鍛錬の修行を伴わず、ある水準の暗黒剣を補助すると言う破格の魔具である。

 ”五大流儀”(ソードアート)の一つである暗黒剣、この技能は生物特攻と言える様な流儀である。

 彼が単独(ソロ)冒険者として活動できている大きな理由であり、敵対象に生命力を奪えば弱体化を、自身に強化を、更に技能補正により簡易的な自己治癒促進や限界拡張を行える技能だ。

 更に”奪い果てれば”【真人】(エタニティ)と言う生命力を奪い尽くす怪物(生物的な狂進化)をもたらすという事例も、過去の大戦にて多く確認されている。

 

 つまり、彼の言う様に、”産廃”……使えない魔具ではないのである。

 

「フン、こんな”産廃”ただ使えりゃいいと思ってたが、今の俺にはこれしかないなら、これを使いこなす位はしかねえとな」

「マーローさん十分強いと思うんだけどなぁ、そもそもこの魔具鎧どこで手に入れたんです?」

 それを聞かれると、マーローは露骨に顔を歪めた。

 何か嫌な思い出があるのか、そういえば初めて会った時に押し付けられたと言っていたか、本意で装備したんじゃないのかもしれないと彼は考えた。

 

「あ、別に言いたくないんでしたら、言わなくても少し気になっただけだし」

「フン、別に大した事でもねえよ」

 そして少し悩むように、暫く黙りこみ、口を開いた。

 

「何の教訓にもならねぇ間抜けな話だがな……、昔の事だがオレが騎士を目指していたって言ったら、オメェは信じるか?」

「ん、普通じゃないですか、似合うと思いますよ」

 【騎士団】…、国が抱える軍事力の象徴として、良く用いられ名付けられる”組織称号”である。

 一般的にゴロツキとまで言われる冒険者とは、比較にならないエリートである。

 名が通った騎士団か、小国の騎士団からその内実は全く異なるだろうが、名誉な事には間違いない。

 その中でも【聖錬】自体が抱えていると言える【礼拝騎士団】は他と比類せぬ練度と、名誉を持つ。

 

「……っけ、とにかく、オレはダチと修行しながら、故郷の国の騎士団の士官を目指してた。魔法剣の”風の流派”も学んでいたな。ある程度は有望視されていたと思うぜ」

 苦々しく歯噛む様な顏で、自身の過去の話を語るマーロー・ディアス。

 今までの少しだが覗かせていた、彼の孤独癖、拒絶癖の根本ともなる話であった。

 

「だがよ。俺等は愚かだった。この”産廃”は元々流れ物でな、ダチがよ。闇市で安い掘りだし物の魔具を見付けたって寄越したもんだ。一見すれば重装鎧で最初は何の異常もなかったんだがな、血を浴びた瞬間に起動しやがった」

 それは急激な、極端な改造を伴う為に死者さえ出した”呪いの魔具”と言われた遺物。

 正規ルートを介していない商品(ブツ)の危険性、人体改造を伴う魔具という物の危険性。

 何より友人に送られた物とはいえ、善意が必ずしも良い結果をもたらす訳ではないと、そんな若さ故の愚かさ、それをマーローは自嘲する。

 

「後はあっという間だぜ。この”産廃”のせいで最初は苦しんだ、身体が造り替えられる違和感にのた打ち回った。症状が落ち着いたら今まで扱ってた”魔法剣”が使えなくなってやがる。しかも代わりに使える様になったのは禁忌の”暗黒剣”だ。あっという間に破門になって、夢は潰えたって訳だ」

 マーロー・ディアスはこの魔具に適合する過程で、肉体改造により生来のオドを変質している。

 この世界の基本的な流派と言うのは、基本的に固有魔法や、オド属性等を利用した物が多い。

 ”それが手っ取り早く、結果が出やすい”からだ。

 その前提となるオドの属性、固有体質が崩れた彼には元の流派は扱えない。

 結果、”魔法剣”を前提にする脆い奇剣だけが残った。

 騎士を目指すとしても基本の五体(カラテ)を着眼し、それに注視し同時に鍛えるのは極一部の修羅や、王国兵位なものである。

 

「ある程度鍛え直す中でな、家の連中の蔑む様な目や、ダチの居た堪れないような情けない眼が嫌気がさしてな、逃げ出して来たって訳だ。俺自身もダチを許せてねぇと思う」

 今の剣技は一から独学で鍛え直した。彼の剣技がお手本の様に、素直な太刀筋をしてるのはこの為である。

 孤独(ソロ)で活動してたのと、斬り込めれば生物特攻が突き刺さる”暗黒剣”の強力さもあって、その癖は中々に矯正されず、聖錬の戦闘特化の平均程度の練度に収まっているのだった。

 彼はデメリットとトラウマからそれを嫌い、単純な生命力の奪取や魔力の吸収などに制限し、後は昔に修練した、”別の技術”を前提とした剣技も捨てて可能性を狭めていたのだ。

 

「なるほど。それで、その”黒蜘蛛の鎧”の鎧も活用して強くなろうと、えっとそのアテはあるんです?」

「ッケ、んなもんあったらすぐ試してるつーの。……手合せは感謝すんわ、またな」

 最後まで口が悪く、去ろうとしていく彼の牛の姿を見送りながら。

 

 過去に騎士を目指していたマーローは、特に自分に厳しい人間だった。口が悪いのもその延長である。

 故にいつも通り他人には頼らない。【孤独者の矜持】と言う技能(スキル)は精神性を示す、一人だろうが自身の道を恥じる事なく生きる為に拓くために、努力は厭わないのが彼である。

 件の過去の善意から全てを喪った出来事から、他人を廃して自身の努力の範囲で生き、進む癖は既に染み付いていた。

 

 それを見て、ふと、思い付いたカイトは一つの提案を投げつけた。

「じゃあ、ちょっと待っててください。こういう事は他の人に聞いたほうがうまく行く事が多いですし、ちょっと相談してみましょう」

「はぁ?ちぃ余計な世話だ。いらねえよ。そんなめんどくせえ」

「じゃあ僕が聞けば早いですかね。世話になってますし、何にしても一人じゃ限界有りますよ」

 彼の他人のマーローの拒絶癖を無視して、話を奨めて、荷物を持って別れて走って去る。

 カイトの経験談にもなるが、一人でどんなに足掻いても成長の幅は限られる。

 この世界は、封されれば廃するのだ。

 実際、カイトの戦闘術の全ての骨子は全て、彼一人で積み上げた物ではないのである。

 

 

 

―――と言っても、彼の知り合いの範囲など限られる。ましてはここは出先であった。

 あっという間に、すぐ所在が明らかな全員に、全て聞き終わった。

 

『相棒、ローズ』

「あたしに難しい事わかる訳ないっしょ、ただそうねー。アレに剣を合わせると魔力も吸われる感覚あるし、何か纏わせるの向いてんじゃないの?」

 感覚派であるローズらしい所感と意見。

 

『先輩、ガルデニア』

「ふむ、なるほどマーローとやらの鎧か。まずは肉体の属性値を判定する事からだな、適応技術を考えるのはそれからだ。多少見た所、代謝自体は問題ない、学ぶ技術を選べば利用できるんじゃないか?」

 高度な教育を受けた、ガルデニアの基本に主を置いたアプローチ。

 

『巨漢、ぴろし』

「ふーむ、なるほど。そういう事情ならまっかせたまえ!今この”鈍き俊足のドーベルマン”が、この黄金の肉体を作り上げた”ぴろし特製ブートキャンプ”を披露―――」

「あ、いいです。失礼しましたー」

 なんか、変態が誇る珍音頭に巻き込まれそうになったので、逃走する。

 

『偶然遭遇した、通りすがりのツインテールの少女』

「おーっす、悩みか?―――ふんふん、知り合いの魔具が?あーそりゃ、それ生命力を腐らしてんじゃなくて、魔具が生命力(プラーナ)を別のオドに変換してるんじゃね?大気中に生命力(プラーナ)が霧の様に溢れだすなんて有り得ねえって訳じゃないが、相当難しいぜ?」

 

(なんか、最後とんでもないのが混じった気がする)

 それを意識して、気にしない事にする。

 人には自分が呼ばれたい名を名乗る権利がある。彼は彼女が名乗った名である”ソーラ・ミートゥカ”として認識して受け入れると決めていた。

 というか、そうしないと流石に身体と精神がこわばるのである。ムリ怖い。

 

 

 

―――そして、また後日。

 

 

 カイトが再度、マーローを探して合流しての事。

「―――と言う事で、まずオド属性の特定と、その”黒蜘蛛の鎧”の稼働で発生する霧の正体の特定ですね」

「お、おぅ。本気で周りに聞いてきやがったのか、マジかよ‥…」

 困惑して、少し引いた態勢のマーロー・ディアス。

 マジでやるとは思ってなかったと言う顏であるが、押しつけがましいとは言え、流石に露骨な善意に文句付ける様な大人げない事は、彼の矜持が許さないかった。

 

「個人の体質オドは”闘争都市”(こちら)には医療に専心する”クェーサー修道会”がありますし、精密な結果も出るでしょうし、オドの特定には丁度いいですよね」

 なお、カイトはここ最近は、誰かから世話に、貰ってばっかりという自覚から。

 自分の出来る事であるこの話に、割と張り切って考えて検討していた。

 彼は善意は循環せねばならないとか、高尚なことを考えている訳ではないが。

 誰かに世話になったなら、違う誰かでもそれを返したいと思うのが、健康的な人情である。

 

「霧の方は僕の、簡単な”属性検知器”では”七大属性”の範囲までしかわからないんですよね。……と言う事で買ってきました。高性能な”属性検知器”、マーローさんその”黒蜘蛛の鎧”起動してくれませんか」

「はぁ!?そこまでせんでも」

「いや、僕の冒険者としての役割(ロール)が”レンジャー”ですし、そろそろ用意しなきゃとは思ってたんで丁度よかったですよ」

「……ああ」

 人酔いの感覚から、居心地の悪い顔をしながら魔具を起動するマーロー・ディアス。

 割と高性能な”属性検知器”なので、サンプルを採取すると言う必要もなく、ロッドを刺してその属性を割り出しだ。

 

「え、はぁ?水属性と、大半の闇属性…?冥属性じゃなくて」

 困惑しながら、先輩であるガルデニアから、特性を説明する為に聞かされた知識がよぎる。

 ”闇属性”とはガルデニアの”森属性”と同じく、一般的に言われる”七大属性”とは別に数えられる自然マナの分類である”七界属性”の一つである。

  冥属性の亜種であり、あるいは基本そのもの。純粋な夜闇などに多く含まれており、闇属性が高い場所だと足元から沈み込んだり、頭上からマナ影響によって侵食、眩暈や昏倒を起こす。闇から目を背けるという集中力の欠如から感覚を蝕む属性である。

 彼の放つ霧からは、この割とレアな”闇属性”の値が大きく検知されたのである。

 

「危機感を煽る効果は、この闇属性の影響でしょうか。一応オドではありますし、この”霧”自体を精錬する事で魔法剣にできないですかね、属性の吸着事態は暗黒剣で試して」

「そんな事でうまく行くわけないだろうが、今まで肉体からオドが今までどおりにでねぇで、オレがどれだけ苦労したと―――」 

 これは他人の知見からの複合案であった。ぼやきながらマーローは。

 一応、律儀に構え。

 彼の得物である鉄の剣を、”霧”に対して振るい吸着させ属性剣を作ろうとする。

 

 

ブゥン、ぼわぁ…!

 その目論みは一部は成功したのだが……。

 

「―――ッ」

「成功、って言っていいんですかねこれ」

【暗黒剣:吸纏】=【疑似魔法剣・Lv1】

 それは彼の振るった剣を取り巻き数秒間の間、そのオド性質を纏わせたように見えた。

 本来”魔法剣”の技術は、性質の維持は難しい物である。数秒で途絶えて大気に帰ってしまう。

 

「っていっても、現状それだけっポイですかね」

 現状では付与時間も予備動作も大きすぎた。

 そもそも属性を特性を纏った単純な魔法剣だが、彼等にとっては”闇属性”にどんな特性があるが、どのような利点があるかすら不明なのだ。

 

「フン、とにかく特性を掴まないと話になねぇか、試し斬りしてみるとするか!」

斬ッ!

 マーローはそこらの木々に、黒霧を纏った鉄剣を振るい。

 そのまま感覚を掴む為に斬り刻む。威力の方は特出した物は見当たらない。

 更に受けた木々をカイトが観察してみるが、そちらも特出すべき異常は見当たらなかった。

 斬痕が多少荒くなっている位である。

 

「んー、っと…、”暗黒剣”の延長なら、モンスター斬らないと本領わからないかもしれないですね…?斬り痕が荒くなっているって事は、物理的な干渉力はあるかな。もうちょっと属性値の精錬純度を上げれば」

「っち、んなことオレも騎士目指していたんんだ、知ってらぁよ」

 カイトは自身が試して来たほぼ独学の”魔法剣”のメソッドを参照しながら、意見を出した。

 彼はその言葉通りに、経験を活かして魔法剣の維持の時間を試行と伴に徐々に増やしていった。

 そして出した結論が。

 

「よし、これとにかく飛ばしましょう!」

 初期の彼が固執しており鍛錬していた魔法剣による、遠隔攻撃である。

 獲物を持ち替えずに、一所為で行えるならば十分に意味がある事だと、体感で考えての事であった。

 

「チィ、簡単に言うんじゃねぇよ。これは漂ってるのを固着しているだけだ。”魔力放出”がない分、そう簡単に行くもんかよ」

「んー。僕は投げてますが、なんとか遠心力と手首のスナップでいけませんかね」

「馬鹿野郎、普通は”魔力撃”を併用してやるわ、というかオメエそんなんでやってたのかよ」

 ”粘度”が高いオドを持った、彼のやり方は一般的ではないが、魔具に改造されてオドを内巡させる体質に改造されたマーロー・ディアスにとって、只管素振りを重ねたそ彼のそれは、ある程度有用な経験則であった。

 

【暗黒剣:暗霧の剣】

 そして試し斬りを行い。ある程度、暗黒剣の延長の”魔法剣”に付いての初歩的な形が纏ってきた。

 彼が捨てざるを得なかった可能性である【風の担い手】とは全く違う物である為に、すぐに有用になるものではないが。

 将来的に、その経験さえも利用して【黒蜘蛛の鎧】、そう言われた重鎧の魔具の本領を発揮する技能に繋がる事に成るが。

 それはまだ将来の話である。

 

 現在、彼の”暗霧の剣”は注意を逸らす指向性を持った牽制の手段、多少伸びる程度の魔法剣でしかない。

 特性と技量で投げる様に魔法剣を投擲してるカイトは、割と変な使い手なのだ。

 

―――後日、判明する事だが彼のオド属性は、冥属性に改造されており。

 ”冥属性”は強い侵透特性を持つ属性である、浸食し奪う”暗黒剣”と相性が比較的良い。

 まさしく的確に”暗黒剣”を扱う事に特化した体質に、”黒蜘蛛の鎧”は改造していったのである。

 これは極端な例であるが、この世界で”高位魔具”を使い手と呼ばれる戦士と言うのは、多かれ少なかれこういう事だった。

 

 とにかく改善の余地は山ほどあるが、形にはなったのだ。

 経緯から”黒蜘蛛の鎧”を嫌悪し活用を意識的に避けていたとはいえ、たった二日でである。

「―――こうも簡単に、な」

 孤独癖故に、それに釈然としないものはあるが、有用さを認めない訳にはいかなかった。

 何故彼が、カイト達を意識して向上心を張り巡らされたかと言えば、後輩であった彼等に。

 いつか完全に追い抜かれ下から見上げて羨むかもしれない。

 そんな情けない恥ずべき生き方をしたくないが為に、自身を高める事に駆られたのもあるが。

 何より、慣れてはいないが、頼られるという存在でありたいと言う、彼の元来の願望からだった。

 

「フン、こんな奴に付き合うなんて物好きで暇な野郎だな。……いや、今日の所はあんがとよ」

「あはは、まぁ僕ももらってばかりですしね。それに、僕は知恵借りただけですし礼を言うなら他の人にも」

「……ふん、考えておく。またな」

 やはり、まだ素直に感謝の言葉も出てこないが、そこが彼らしいとも言えた。

 自身に恥じぬ様に自己で完結して生きてきた彼が、他人とどう交わっていくかは、これからの彼の成長に寄るのである。

 

 ぶっきら棒な挨拶をして彼等は街に戻り別れた。

 

 対してカイトの側としては。

 (やっぱり、他者の知恵の力は大きいね、うん)

 他人の力の実感を再度感じていた。

 そしてカイトの鍛錬相手にマーロー・ディアスの名が、時々加わる事に成るのだが、それは【ラインセドナ】に戻ってからの話。

 定期的な鍛錬に、新しく増えた手本のような剣が対象になり、大会に参加した事で様々に対人戦も経験した。

 双剣という種別に限れば得物を選ばず、身体の延長とする【ソードマスタリー】に至る道に一歩近づいたのであった。

 

 




 マーロー・ディアスは、疑似魔法剣を習得しました
 カイトは対人経験値の入手先が増えました。
 予定しているマーローの最終形態は割と”黒蜘蛛の鎧”の名のまんまです。

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