ポンコツ世界異聞=【終幕を切り刻む者達《ハッカーズ》】 作:きちきちきち
あれから、【ルミナクロス】においては特に出来事も用もなく。
半端な戦闘特化の冒険者には中々仕事となる依頼もないので。
ガルデニアの
闘争都市【ルミナ・クロス】を出発。
その後は自力の脚で、彼等は初めて訪れた【パリス同盟】から離れる事になった。
その旅道に特に特別なトラブルはなく。
―――【ライン・セドナ】
無事に、久しぶりの活動拠点と言うか、仕事場である【ヴェルニース亭】に戻って来ていた。
また冒険者として日銭と、余裕を稼ぐ日々に戻っていた。
まともな雑用依頼と討伐依頼を回してもらえる事に、変な安心感を憶える他称仕事キチであったが。
現在の彼等はどうしているかと言うと。
「うー、どうりで暫く見ないと思ったらずっるーい!ボクも見たかった!行きたかったぁ!」
「あ、あはは……」
【理性蒸発】
旅の話を聞いた”ミストラル”が腕をぶんぶんさせて、唇を尖らせて悔しがっていた。
それに困って曖昧に頬を搔くカイトに、肩をすくめるローズ。
ここは【A&M商店】の裏の一角であり、、また”精霊術”を習うのと、基礎教養を持つ彼女に、手渡された
ついでに何時かの約束の通りに、何故か波乱に塗れていた、ここ近況の話を彼女に話していた。
「いいなーいいなー、珍しい物一杯見れてー!
「確かに本当に、”永遠戦姫”と
その次期もそうだが、更に観戦する機会にも恵まれたのは非常に運がいい事だと言えた。
そもそも件の”永遠戦姫”が、思い付きで言い出さねば、彼等にその機会すらなかったのである。
「会った人たちも良い人達っぽいし、本当にボクも行きたかったなぁ」
「そりゃ術師は頼りになるし誘えれば良かったけどさ、仕方ないでしょ。ミストラルはいきなり店の方を一月近く開けるなんてできないっしょ?」
「うーうーうーっ!」
【人妻】
それを理解している彼女はこうして、手をバタバタさせて唸る事しかできない。
実際に、【理性蒸発】している彼女は、割と突拍子の無い行動をしがちであるが、それでも彼女は”夫”と築き上げた家庭とこの店が第一に大事だった。その
実際に誘われてその場の欲求で、付いてってしまう可能性もない訳ではないと、自身でも理解してるので強く言えないのである。
「あーあーっ、でもこうやって話を聞けるだけラッキーだよねぇ、こっちでも面白いこと起きないかなー」
「割と命掛けの事もあったんだけどなぁ、あ、そうだ。ちょっと向こうで知り合った一人がこっちに足を延ばすかもしれないとの事です」
「そういえばそんな事言ってたわね。アタシの人生で出会った中でも指折りに強烈に印象的な奴よ。覚悟しときなさい」
「へー、それは楽しみだね!ワクワク!」
浮き沈みする相変わらずの天衣無縫っぷりに、少し笑った。
そのテンションの高い愛嬌ある動きは、小動物に連想してしまう、彼は何となく安心感を憶えてしまった。
印象が染み付いていて【ラインセドナ】に帰ってきたのだなと、そんな感じに。
「でもさ、でもさ。ボクもさ、それと似ていたっていう遺跡の”クラゲ精霊”とは退治したけど、それより大きな簡単に”大魔法を扱う”様な”人工大精霊”をどうやって撃退したの?」
彼女が疑問を発し。
「気になるなー、もしかして必殺技とかドーンとかしたのかな?」
「いや、そのそれは…」
その質問にどう答えるか目を泳がす。不気味な”腕輪”の事は余り表に出したくないのだが。
信頼できる人ではある、しかしなんか【理性蒸発】している彼女にこの事を話して、どういった反応が返ってくるのか、秘密にしてくれるかに少し不安があった。
「あー!そうだわかった!とっておきの切札の類なんだね。ボクも冒険者の一端だよ?そりゃ自分の手札の大事さはわかってる。絶対に秘密にするし、だ・か・らね♪」
【理性蒸発】
もったいぶる様に、指を唇の前に持っていき、身体で秘密☆のジェスチャーをしながら。
イタズラにウィンクして提案する彼女、こうやって彼女が自然に愛嬌を振り撒きまくるのが、【A&M商店】の商売繁盛の理由の一つであるのだが、人妻としていいのか時々心配になる。
「代わりに君達がいない間にボクが習得した、秘密の魔法を見せちゃおうかなーと思うんだ!ッどうかな?」
「んー、そういう理由じゃないんだけどなぁ…」
単純に不気味であり、常識から考えれば荒唐無稽な話である。
事実だと捉えれば、今度は都合のよすぎるそれに何故と言う疑問が湧いてくるだろう。
それに悪意の意図を感じて距離を取るようになってみてもおかしくはない…、のだが。
(……まぁ、ミストラルなら問題ないかなぁ)
割と彼女なら全く気にしないかもしれないと、なんとなく思う。
「別に言っちゃっていいんじゃない?ミストラルなら、商売関係でそういうのに詳しいかもだし、夫さんの関係で魔具の知識も多いでしょ?」
ローズが気楽に肯定して、ミストラルの後押しをした。
その言葉にもかなり利がある、それに問題が無いなら無理に秘密にしておくのは精神上、余り宜しくもない。
「まぁいいか、護衛対象の吟遊詩人とローズと一緒に”人工大精霊”は追い詰める事はできたんですけどね、おそらく自爆の行動に入って」
彼は明らかに人為的であった、その脅威を思い出した。
多少に、環境利用による不死性を持っていた”遺跡の精霊”とは洗練度は劣っていたが、内に秘めたマナの量は比較にならない。
周囲のマナさえも暴走して収縮させる様な高エネルギー状態は、改めて思い返すと寒気がする物だった。
「……信じてもらえないかもしれないけど、腕からいきなり
一応、”腕輪”を最低限、五片の幾何学花弁は展開せずに、”腕輪”の延長のまま実体化させて彼女に見せてみた。
彼は自分で言ってて、何言ってるんだコイツと思うが、それが事実であった。
「へーへ、そっか変った魔具だね。話に聞く”魔導文明”の遺産の類みたい!だとしたらこれは完全展開じゃないよね?ちょっと展開してみてくれないかな」
「いや、ちょっと危ないし……、これ砲塔みたいなものだから、あんまり展開したくないんだけど、当たれば粉微塵に消失させる類ですし」
殺傷力が高すぎ、誤って暴走させたら洒落にならない部類である。
肉のある相手にも既に試していて、抵抗があり少し時間はかかるが、その際も全て塵も残さず消滅させる事を確認していた。
それは人間に誤射してもそれは同じだろう。それがすごく怖かった。
「そっか!じゃあ店の中じゃ狭くて危ないよね。外へ行こうか!ボクの新しい魔法を見せるのにも丁度いいしさ!」
「あの、そうじゃなくて…!」
「諦めなさいなカイト。ちょい見せでミストラルが諦めると思う?」
【理性蒸発】
カイトが静止し、ミストラルがテンションあげあげで店の外へと引っ張っていき、ローズが笑いながらそれに付いていく。
レアもの中のレアものに目がキラッキラである、輝いてすら見えるだろう。
彼はちょっと早まったかなと後悔しつつ、外へ引っ張って行かれるのだった。
―――【ラインセドナ郊外】
そしてミストラルに連れられて引っ張てこられた。
そこは街の郊外でも街道にも水路にも近くない、特に辺鄙な場所であった。
【レンジャー:野狩人】【太陽の腕輪】
カイトが役割由来に、周囲と属性値を事前に計測し警戒して…。
「―――ダリァ!!」
「邪魔だよーっ!」
【闘牙剣】・【魔術師】
と言うか普通に小型モンスターが居たのだが、複数人で寄ってたかって殴り倒した。
リスをそのまま大型した様な獣が相手だったのだが、術師がいる時点で安定性はかなり高く、木々に昇れば術師が叩き落とし、さほど苦戦せずに斬りばらした。
人がいない辺鄙な所というのにも、程があると彼は思った。
「あの、ちょっと??あんまり依頼以外でモンスターの相手したくないんだけど」
「えへへ、ごめんごめん。でもここにいるのは中型数匹だってわかってたし、誰かに切札を見られるって事もないよ!絶対安全だよ、誰にもばれないよ!」
人(ω<`;)と幻視される、彼女は彼女なりの考えがあったようだが、それでも困る。
ミストラルの暴走列車っぷりに頭を搔きながら、仕方ないなぁと流せてしまうのは、彼女の愛嬌の成せるわざだろうか。
「ほら、速く見せて見せて」
「仕方ない、かなー」
目が期待にキラキラ、物理的に発光しかねないその期待のまなざしに若干、押されながら頬を搔いた。
爛漫な純真さには適わない。
「お願いだから、撃つつもりはないけど、間違っても射線上には立たないでね」
「はいはい。わかってるわよー。ミストラルは押さえておくし安心して使いなさい」
「んあー!」
ローズがミストラルをがしっと掴み、そのまま座らせた。
比較的に小柄なミストラルはそのまま大人しくしていると、まるで小動物のようだった。
(さて、と)
万が一も無い様に、集中して、頭にあの特徴的な”ハ長調ラ音”を思い浮かべ鳴らす。
これが”腕輪”の起動のトリガーであった。
―――ジャカ、ジャキジャキ!!
【黄昏の腕輪】
するといつも通り三秒ほどの猶予により、幾何学文様の五片の花弁たる装甲束が顕れる。
万物を分解する幾何学吐息を放つ砲塔である。
キュイーン。
待機状態を示す音、とりあえず暴走はなさそうで安心する。
「ほへー、すっごーい。奇麗―…、こんな魔具見た事ないや、超レア―♪」
押さえつけられたまま、もがもがもがきながらミストラルは呟いた。
彼女の知識の中にあるのは、やはり旧文明の遺産の類であり、マニア故にそれが脳内に想起されていく。
「んーと、見た限りだとマギスフィアで展開してる訳ではないね。シードもないし”IS”とは違う。周囲のマナに術式投影して実体化してるのかな、眼の良い僕でも術式は感知できなかったし、”科学的魔剣”の一種?いいなぁ欲しいなぁ」
【森眼】【レアハンター;収集癖】
ミストラルが自身の知識の範囲での所見をつらつらと呟く。
強い収集癖の有る彼女は、手が届かなくてもその興味の対象となる物に付いて、様々な知識も収集していた。
ある意味、骨董趣味を持つような者と同じ様な傾向であった。
「んー、とにかくすっごい物だよ!一応聞くけど、ゴルで譲ってくれたりは、しないよね」
「無理ですね、なんかこの”腕輪”、僕の身体と同化しちゃってますし」
ちょっと笑う。
そういえば、マーローの”黒蜘蛛の鎧”を見た時にも同じことを言ってたか。
少し、”物狂い”と言われるのもわからなくもない。
彼女が満足した様なので砲塔の装甲束を解除させ、マナに溶かして霧散させる。
【黄昏の腕輪:紋章砲】
この取り回しの良さはミストラルの言った通り、この魔具の本領が魔術式であるからなのか、それにどんな意味があるのかは彼には推測できない。
「残念。じゃあ、僕の新しい魔法というか、”魔導具”を見せてあげるね!」
そう言って、彼女が懐から取り出したのはいつか見た事のある貝型の魔導具である。
彼等が遺跡で撃破した、”クラゲ精霊”から回収した魔導具であった。
「あれ、それこの間のじゃん?使い方でもわかったの?」
「えへへ、この間譲ってもらった魔導具の機能が分かったんだー。単純だけど魔術式の”保存・複製”っ!これをうまく使えば、みてて!」
そう言って彼女は詠唱を始める。
「―――”放たれよ・勅枝の光”……
【魔術師:二章魔法】【複製:ダブルキャスト】
ミストラルが得意とする対狙撃用の光属性の二章魔法。
それが魔導具の稼働音を響かせ、その光の矢は”二本の光筋となって”草々を焼き払った。
単純ではあるが、出力が全く同じで寸分たが、数が増えている。
「へーすっごいジャン。単純に火力が増えるってだけでもさ」
「でっしょー、この魔導具は”魔術式”の”保存と複製”を行う物みたいでね、これを使えば単純に二章魔法位だったら
―――彼等は知らない事であるが、遺跡で”守護者”を使役していた謎の女は、
ロストテクノロジーを、一流水準で扱う使い手であったが。
筐体もなしに、”化身化”と言う現象を起こす、高度な魔術を遠隔から維持する程の無茶はできない。
その筐体となっていたのが、この
謎の女水準での電子魔術による効率化が無ければ、あそこまでの無茶はできないのだが。
「まぁ良い事ばっかじゃないけどさ、人間規格じゃ相性悪いっぽいしあくまで魔術式を保存してるだけだからね、急に切り替えはできない」
魔導具に繋いだ紐を弄りながら情報を羅列させていく、出力はオドで自力でやらないといけないようだ。
その出力する際にわかった事だが、人体出力では相性が悪く、多くの反動をもらうらしい。
「ボクは”精霊術”と”妖精術”使って、外部妖精に投影して使い棄てて実行してるけど、ちゃんと燃やさないとと反動をもらうんだよねー」
「聞いてると、そんな簡単にできるのソレ」
本来の機能でないがそれは機能を特化した、使い捨てない”科学的な呪符”である。
何気に彼女はハーフエルフな事もあって、一般的な冒険者の魔術師がオドを出力して術式に馴染ませる工程に慣れる、”精度を上げる為”に使う様な”呪符”を使わないで、特別に調整した”専用の杖”を持って魔術を扱える程度には習熟している。
勿論”呪符”使った方が精度は上がるのだが実戦経験の不足と、モンスターの脅威が比較的緩い【聖錬】では、必要性をあまり感じなかっただけである。その程度には熟達した使い手だった。
「これを今使ってる杖に埋め込もうと思ってね、そうなると完全にボク専用に成っちゃうし、一応使いたい人がいるか聞いとこうと思って」
「ふーん、アタシはいいわ。術とか元々使えないし」
「僕もいいです。得意ではないので」
すでに取引は終了したと言うのに、いちいち訪ねてくるのが律儀と言うか。
単純にとにかくミストラルの火力で強化と言う意味では、とても有用な魔導具だった。
基礎部分を記録させ、上位章階魔術の展開はまだ理論上ではあるらしいが、彼の知識の範囲でも十分に可能な事である。
「うん、とんだ拾いモノだったね。多分旧時代の”遺物”って奴かな」
「でしょー!この
【レアハンター:魔具・魔導具知識】
o(≧▽≦)oと幻視されるように、嬉しそうに両手を上下に振るい主張する、人妻ミストラル。
マニア的な趣味を持つ人種は、自身の手持ちの物を自慢したくなるものであり、同時にその知識を話したがるものだった。
仮に尻尾があれば、ブンブンブンと思いっきり振っている事だろう。
その様子に苦笑しつつ。
「じゃあ用は済みましたし、町へ戻りましょうか。”腕輪”の事は秘密でお願いしますね」
「あ、うんわかったよー。勉強も途中で切り上げてきちゃったしねぇ、”破裂”の魔術式だっけ?一見した程度だけど結構複雑だよ?結構、解読に時間かかるかもねー」
「へー、あの戦闘狂良くそんなの持ってたわねー。意外とインテリなのかしら」
【ラインセドナ】の郊外から、話をしながら彼等は町へと歩いて戻っていった。
彼等の三人組で過ごすと、大体こんな感じの緩い雰囲気になる。
冒険者としてのランクが近しいの一因であるだろうが、何よりミストラルの天衣無縫はこうやって緊張感を解いていく、年は離れているだろうか、傍から見たら仲の良い友人同士に見えるだろう。
「でさでさ!あの
「うーん、元々もらい物ですしどうだろ……、何か別に気にしそうにないんで大丈夫だよ多分」
「わーい♪」
そして、また【A&M商店】の裏スペースに戻り、基礎教育の範囲で術式を解読…、といっても専門書を用いて、辞書を引くように関連するページと本をメモしていく地道な作業である。
眺めていたローズなんかは露骨に、頭を痛めて裏の方に素振りに行く位には地道な作業である。
そんな感じに、今日の日は終わりを告げたのだが。
―――翌日。
陽が昇った持った明朝にて。
彼は昨日の夜を早く寝て、早起きして持ち帰った課題を目に通そうとする。
「んーっ、やっぱりわからない!四則はともかく、それ以上はもはや暗号とか図形に見えるよ……?」
そして、”魔術式”はその解読はできても、ある程度は理解できなければ意味がない。
持ち帰り、ミストラルから借りた、基本的な算術に付いての本に目を通して頭を痛めていた。
なお、これは商品であるらしい。彼女に傷一つなく返さねばならない。
彼の知識は数の足し引き程度の教養である。一から学び直すにはあまりに膨大だった。
「ぬー、っと」
凝った背を伸ばして、気分転換に宿屋の外へと足を延ばす。
冒険者など自堕落な物で、他に同じくこの早朝から活動している様な物好きはいない様だ。
朝の突き刺すような光と、振り下ろす様な風が頬を叩く。
匂いがある。環境がいいのは、水の奇麗な田舎である【ラインセドナ】の貴重な長所であった。
(さて、何分で戻ろうか)
頭の中に今日の日の予定を立てつつ、ストレッチで身体全体を延しながら。
だが。
「―――こんにちわ。いい天気ね。かわいいぼうや」
「!?」
【闇の女王:ハッカー】
突然の声をかけてきた、高い声に驚いた。
長身に特徴的な目を覆うバイザーと帽子が特徴的な、杖を持った魔術師に見える。
そんな金髪長髪の女である。
「あの、僕に何か用ですか…?」
一応、記憶を探って見るが、こんな特徴的な姿見をした術師に全く覚えはなかった。
「ふふ、そうね。探したわ、ずっとね。……ちょっと、何で早速得物に手を掛けてるのかしら」
「いや、すみません癖で」
指摘されて流石に礼儀から得物から手を離す、奇抜な恰好など、冒険者の中には珍しくもないのだが。
こう相手から一方的に認識されているというのは、居心地悪いと言うか。
この間の”ツインテールの少女”のトラウマがそうさせた。
割と襲われた時、怖かったのである。
「ごほん、さて、困った物だわ。便利な物はどんどん使うべきじゃないかしら、”腕輪”の反応が散発的だから、追うのに手間がかかったじゃない」
「―――ッ!?」
【電子魔術師:ハッキング】【アナライズ】【袖幕の暗躍者】
その謎の女が、”腕輪”の事を言葉に出した時点で、カイトの警戒の度合いが跳ね上がった。
今度こそ双剣に手を掛けて、距離を詰め、抜き撃つ準備に身体を捻って、謎の女を睨みつけた。
(―――仕掛けて跳ね除けられるか…?この町の警邏は正直頼りにならないけど…っ)
時折、昼間から酒をかっくらってるこの町のゆるゆる警邏を思い返して。
溜息を付きながら。
「あなた、何者です……?何を知ってるんです!」
「さて敵か味方か?それ自体は重要ではないわ。まだあなたは、こちらの領域に立ってすらいないのだから」
謎の女、意味深な所為で道化の様ばふざけた振る舞いをしながら、こちらを伺ってくる。
その目線は、目隠しに隠され、そこから意図も熱も察する事はできない。
「茶化さないでください。こっちは真剣だ、場合によっては斬り倒して警邏に付きだしますよ」
「あら怖い。まぁ今回はただの忠言なのですけどね、干渉しすぎれば、”あの男”に気が付かれるから面倒だわ」
そう言って謎の女は杖を突き立てて、彼に向けて言葉を投げかけた。
【電子魔術:
その言葉に古き毒を混じらせ、言葉を植え付けながら。
「そのボウヤに与えられた”腕輪”を使いなさい、何かを憂いて自重してるようですけど、それは【黄昏の腕輪】、少なくともボウヤを害する事はないわ。そういう役割ですもの」
「お断りします。突然生えてきた物を信用して使うとか、そんな楽観予想はできない」
この”腕輪”は強力なのは知っている。
だからこそ怖かった、ずっと抱えてきたそれを一方的に知った様に言う、謎の女には腹が立った。
今度こそ、剣を抜いて構える。
「いいえ、使いこなしなさい。―――でないと、”あの男”の悪意に抗う事は適わない」
「っつあ、だから、はぐらかさないで!この”腕輪”は何なんです、”あの男”ってなんなんですか!?」
【電子魔術:
頭に纏わり付く違和感を払いながら。
思わず叫ぶ、”あの男”とは何の事であろうか。彼には全く見当がつかないというのに。
一方的に話を進められても困惑するしかない。
なのに”ただ、その言霊が事実だと植えつけられる”。
「結構頑固なのね。
初めて謎の女は困った様に、口元に手をやって考える。
目の前の少年を追い立てる、とびっきりの毒を考え、口に出す。
この位が効果的かしらと、他人事のように呟いて。
「あなたが信じた『蒼海』が追って、追われて振り払えなかった脅威の【八相】、それが迫ってるわ」
「―――ッ」
【凍結記憶:滅びの記憶】
『蒼海』、聞き覚えがあるはずなのに、知らない、単語。
なのに、カイトの目的である”親友”に勝手に結びついて離れない。
そもそも何故、彼の名前が浮かんでこなかった。”今まで疑問にも思えなかった違和感が、彼の焦燥感を加速させる”。
【電子魔術:
連想を齎す、重い重い”言霊”を投げかけて。
「【黄昏の腕輪】の開放された。舞台は進む、
「ま、待って!」
【ホログラフ:解除】
静止の声を無視して、謎の女の影が薄れて揺れて消えていく。
「私の名前は、そうね
それを掴めず、呆然と見送りながら。
『―――あなたの知る全てが無惨に死に絶える―――』
「ん、くそ。幻影……?高位術者の類?何、だったんだ……、つぅ、好き勝手一方的に言葉を投げつけて来て」
とにかく怪しい女であったが。
最後のその言葉が特に反響して、カイトの頭を離れなかった。
それに連想されて、凍結されているはずの”滅びの記憶”が、直近の記憶に重なり侵食していく。
知る人の死に様に想起が重なって、吐き気すらした。
「とにかく、この魔具の名前は【黄昏の腕輪】……か」
手を頭上に掲げ、軽くそれを起動して装甲束を顕著させる。
押しかけの”謎の女”に伝えられた。おそらく、この腕輪の正式な名前であろう言葉を呟く。
改めて、この名を”魔具”に詳しいミストラルに聞けば、少しでも何かが分るだろうか。
「―――僕に少しでも、特別な意味があるとしたら、おそらく、これだ」
”人工大精霊”の自爆に反応するかのように発生した魔具。
その吐息は極大の殺傷力を持ち、その幾何学装甲は物理的な干渉力を持つ、既に肉体と同一化した未知。
現在わかる範囲で特徴を並べてみても、これに何か意味を感じ取ることはできない。
それがやはり不気味で、怖い。
あの謎の女が放った言葉は、
この”腕輪”に、彼が知る”事変”に禍の意味があるなら、前に進み続けねねば。
彼が知る気の良い人達が死んでしまう。それに彼の根から、妙に強い信憑性を感じていた。
「結局、正しい事をしていく事でしか……きっと前には進めない。まずローズに相談しよう」
彼はそれでしか、前に進めないと信じている。幸いな事に彼は一人ではなかった。
正しさは信頼できる誰かに問えばいい。
今日、カイトは”腕輪”に向き合って、前に進んでいく事を決意したのだった。
犠牲者、リス型モンスター×3。
テイルレッドのプロットに捻じ込んだので、超登場遅れた謎の女の人。
立派な名前付いてるけど、