ポンコツ世界異聞=【終幕を切り刻む者達《ハッカーズ》】   作:きちきちきち

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双剣【後篇】

―――場所が変わって、双剣士なつめ視点。

 陽も遮られる深い谷にて。

 遠方で甲高い金属音と炸裂が鳴るのを、彼女の高精度なセンサーが拾う。

 それは、明らかに別れたと言うか反転して置いて行った、同行者の戦闘音であった。

 

「あちゃー、脚止めちゃったすか。”月長石”さんもいたから、分ってもらえると思ったんすけどね」

【自■■革】【多目的ハイパーセンサー】

 顏に手を当てて、まいったと分り易いわざとらしい仕草をしながら

 猫目の彼女…”双剣士”なつめは余裕を持って、周囲を観察していく。

 既に彼女の周囲を襲撃者は周囲を取り囲んでいた。

 

「はー、逃げてくれた方が、心情的に楽だったんすけどね。撒き込んだ感じになるっすから」

 溜息つきながら、たった一人で多数の悪意の眼に対峙する。

 

『%ーガー@ィ#ン』

 敵対象は純人種が三人、”改造モンスター”と推測されるもの多数、既に囲まれている。

 それらはもう一方のカイト達の方に出現したモンスターと同じ、だがその数は三体と多かった。

 それを彼女はごく自然に。まぁ、問題ないだろうと判断する。

 

 ”双剣士”なつめの正体は【ギルドナイト】である。

 これは大陸の冒険者ギルドと言う半官営である公共的な社会の仕組み。

 そのある程度の規律と秩序を維持する為に、時には行き過ぎた冒険者すら狩るという、それも都市伝説的な秘密裏の役職である。

 

 その組織的巨体故に緩慢だが【冒険者ギルド】も無能じゃない、情報を集積して検証する。

 近頃、近辺で頻発した冒険者の失踪案件、その情報を整理して。それが【ラインセドナ】の近辺の”遺跡”を中心に移動しながら発生していると、分析をしていた。

 その傾向から、次はここの近くの遺跡周辺で活動するだろうと決め打ちで彼女と言う、最高戦力を惜しげもなく投入していたのだ。

 

 それに対して、【死肉漁り】(グールズ)は、モンスターの背後に隠れて、だがしっかり姿を見せて居る。

 有体に言ってこちらも舐めている、彼女の【自■■革】の仮面(ペルソナ)にそれを真に受けていた。

 今までの成功体験の通りに、自身等の狩りの成功を疑いもしてない。

 

「へへ、随分余裕じゃねぇか。殿のつもりか嬢ちゃんよー」

「健気だな。感動的だな、だが無意味だ」

「……なぁ?適度にモンスターけし掛けて逃げようぜ、俺知ってんだぞこういう雰囲気の奴はヤベーんだって」

【死肉漁り】【片手剣士】【獣飼い:放任】・【鼠の心得】

【多目的ハイパーセンサー】

 対して、それをなつめはしっかり観察して読み解いていく。

 ただ一人を除いて、警戒対象に値しないゴロツキ、雑魚どもである。

 与えられた制御可能なモンスターに、慢心し濁りきった心拍の張り、良い魔具を装備しているようだが、ダダ漏れの締りのないオドを彼女のセンサーは克明に拾っている。

 

「一応一つ聞いとくっすけど、最近ここらで冒険者を襲っている下手人は、アンタ等っすか?」

「へへ、だからどうだって言うんだよ」

「げはは、そうだよ!お前もその仲間に入れてやるってさ!」

 この通り、口も軽い。

 与えられた力にゆるみきった、取るに足らないゴロツキの三下である。

 

「ハッハー!さぁやれモンスター共!何時も通りに蹂躙しちまえ!!」

『―――グォオオオオオ!!』

【改造個体:命令尊守】【鎌伐り:いあいぎり】【生命燃焼】

 猫目の彼女は大鎌を構えた改造個体に一斉に襲われた。

 その動きは元々のモンスターの身体(フィジカル)に優れたモンスターの、それをまた寿命を燃やし費やして、動かす為に更に力を増して。

 猫目の少女の小さな身体をバラそうと迫り―――。

 

「ああ、まぁまぁ早いっすね」

【二刀流:ターンクイック】【機人闘舞:流水】【見切り:ジャストカウンター】

 その三様の軌跡を、重心を自然に軸回転を流し、人体に許されぬ加速を持って、大鎌を構えた様な改造モンスターも攻撃を流し、逆に『相鉄の双剣』を持って斬り刻む。

 その改造された硬い装甲をも、ただの鉄剣をもって一度亀裂を入れて、もう一方の剣で流れる様にその首を肉を抉り抜いて、三太刀で重傷を負わせた。

 

『―――ギャシャアアアアアア!?』

 悲鳴を上げる改造モンスター相手に、【死肉漁り】(グールズ)のゴロツキに動揺が拡がる。

 彼等の都合の良い頭の中では、初撃で八つ裂きになる彼女が思い浮かんでいたのだ。

【ドロー:カードセット】 

 臆病であるただ一人なんかは、もういそいそ撤退準備を始めている。

 

「うーん流石にしんどいっすねぇ、『相鉄の双剣』は良い剣なんですけど」 

【エッジマニア】

 代償に欠けた剣、なつめが扱う剣はカイトが少し前に、使っていた物と月長石印の同型である。

 良い剣ではあるが、それは値段と素材に相応してと言う意味でしかない。彼のの様な魔法剣もない単純な物理剣では厳しいのだ。

 とある勇者の一番の愛剣の様に、物理剣で通すにはせめて【アダマンタイト】級の合金剣が欲しい。

 

「へへなんだよ、ビビらせやがって!多少、腕に自信がある様だが武器がもたねえようだな」

「え、何でそんなに楽観的なんだ、全然動揺してない様だが?俺はもう逃げていいか、狩れても報酬はいらねえからよ」

 グールズのガヤを無視し猫目の少女はそれを慈しむ様に撫でて、大地に着き立てて剣を放置。

 大事な得物とはいえ、いちいち収納する程に平和ボケしていない。

 

「さて、あっちも気になるっす、急いで片づけますか」

 その代わりに自身の胸元に手を当てて、それを起動して自らの性能の”本領を発揮させる”。

 

【自己変革】(ペルソナ):解除」

『マギスフィア:核装解放』

 現れる捻じれる鎧、魔導文明の遺産であるそれは、彼女に残された少ない拡張武装(ガジェット)の一つ。

 戦闘エクスマキナであり、”兵器”として製造され、何かを成す前に前に【邪■】の出現で、地下深くに封印された彼女に扱う事を許された機装である。

 

 白い粒子が集まって、(フィン)を重ねたような鎧を・剣を形取る。

 

【ギルドナイト】【戦闘エクスマキナ:Type72ME】【エッジマニア:阿修羅姫・修羅道】

 猫目が見開き、次の瞬間。

 先ほどの純心で柔らかなフワフワな雰囲気は消え失せていた。

 彼女は機械の乙女である設計機能に、潜入工作の為に自覚的な多重人格(ペルソナ)を纏う事が出来る。

 文字通りに事前に自身が定めた自己を”容易に変革する”(モードを設定する)技能である。

 

―――【自己変革(ペルソナ):解除】=【オルギアモード】

 

 戦場の空気が変わる。

 

「なっ……なっ、何だその装備は!?」

「ふん、どうせこけおどしだ!やっちまえ化けモン共ォ!!」

 その遺失に言葉をなくし、ただモンスターに野次飛ばす【死肉漁り】(グールズ)の襲撃者達。

 未知、明らかな上位の迫力……、ゴロツキは装備でしか判断してないのだが。

 それも仕方のない事である。彼等は群れても内実で言えば、楽に流れた冒険者に留まる意地すらなかった。

 この厳しい世界における、”真の落第者”でしかないのだから。

 

「こんなもんすか、あぁこんな連中に―――」

 そして、その情けない様子を見て、機装を纏った”エッジマニア”なつめは苛立ちを漏らす。

 これに喰われた”社会の底辺”と呼ばれながらも、それでも冒険者として踏ん張っていた人間の無念。

 そして、何より彼女の異名にもなってる、独自の価値観が影響を滲ませた。

 

「あぁかわいそうに、こんな奴らに使われる剣が刃がかわいそうっす。奪った物なんでしょうその身に合わない刃は?それはもっともっと有意義に使われる物で、こんな屑どもに使われて」

【乙女回路】【エッジマニア:アイ憐憫】

 本来は兵器であるはずの自身の、刃に対する自己証明に関わる共感である。

 

『グォオオオオオ!!』

【改造個体:命令順守】【鎌伐り:斬り裂く】【硬晶皮】【生命燃焼】

 返すように襲い掛かる二体を『改造個体』の大鎌を流し受け。

 余裕に襲い掛かる返す刃で、その硬い皮膚ごとバラバラに解体する。

 

「ほんとばかですねぇ、誰にどんな理不尽を恵んでもらったか知らないけど、その程度で―――人様の庭で、好き勝手出来ると思うなクズ共が」

 刃が奔る、現存する戦闘エクスマキナ用の武装は貴重だ。

 故にこれは温存して展開した最低限の拡張武装(パッケージ)である、出力自体を強化する物ではない。

【機人闘舞】

 だが、しかし稼動から猫目の少女、『Type72ME』が積み上げた武技(カラテ)はエクスマキナの靭力と五体関節自由度から、二刀でありながら剛剣の如く性質を持ち。

 鋭い円弧とステップと舞踏中心に時に中を蹴り、刃を織り交ぜ、切り刻む。

 死に踏込み、その間隙を縫うように時に大胆に立ち回る彼女の動き(ルーチン)は、

 その稼働期間の長さから最適化を繰り返し、既に一流の武芸とも言える領域にまで至っているのだ。

 

 つまり、”エッジマニア”と異名を取る彼女の、この戦闘力の殆どは自力(カラテ)依存なのである。

 

 故に一部の隙もない。一振り二振り事の円弧の剛剣が奔る。

 血飛沫が大地を濡らしていき、染まっていく。

 

 それはまさに蹂躙劇である。

 

「―――クソだから言ったんだ!」

「アンタだけは別格ですね」

『力写札:魂削りの死霊』【決闘者(デュエリスト):遅延デッキ】【鼠の心得】

 心得を持ったただ一人の決闘者が抵抗するが、圧倒的な武威の前には焼け石に水である。

 自身の生存だけを眼中に追う刃を、影の如く『投影札』で凌ぎ、凌ぎ、凌いで。

 五太刀を過ぎた時点で刻まれ、地道に削られやり合った。

 

 

 

 

 

―――その一方で…。

 

 

 

 

 『改造モンスター』にゴロツキ二人と、対峙するカイト等の視点である。

 

ブォオオオン!!

【改造個体:命令順守】【鎌伐り:いあいぎり】【硬晶皮】【生命燃焼】

 カイトは生物格差的に不利と判断した。

 一目観察して判断、その大鎌は片刃である。潜り踏み込んでとにかく裏に回ろうと前進する。

 

「ちい、くそ!」

ギャン、グギギィ!

【魔法剣:爆竜双牙】【二刀流:舞武】【ダンシングヒーロー】

 振るわれる大鎌を先陣を”疑似魔力撃”で正面から弾いて潜り、『絆の双刃』の”共振”機能を利用。

 【精霊術】並行してマナに干渉して全力で魔法剣を燃やしながら、火の粉舞い散り立ち回る。

 オドを精一杯に隆起しての火の全力稼動、グールズのゴロツキの動きを初手で制限する為の派手な見せ札である。

 

 それは『改造個体』の硬質な皮膚を焼き貫くには至らないが、その隙を付いて。

「別の感知法が無ければ…」

【投擲術:棒手裏剣】【死点突き】【鉄芯の如く】

 月長石が返しが付いた針のような投擲物を、『改造個体』の眼を狙い何本も投擲する。

 皮膚が、骨の様に硬質に改造されたモンスターであるが、流石に眼まで硬くはない。

 元よりその投擲は装甲の継ぎ目を狙い、弱点を切り裂く程の技量を持つ。

 幾本かの修正の後に確かに貫き通した。

 

 

『―――ギャシャアアアア!?』

【目潰し:再生力】【鎌伐り:眼暗斬り】

 これは元々単純な命令を聞くのみの、狂化気味のモンスターである。

 ”目の前の対象を排除せよ”との命令を判断する事が出来ず、とにかくやたらに暴れまくる。

 

「んなくそテメェ!?飼い主に牙向くのなよ!」

 大半の死肉漁りは、多少腕っぷしに自身がある(腕利きとは言ってない)ゴロツキである。

 狂う様に大鎌を振り回す『改造モンスター』の脅威から不恰好に、範囲から単純逃げて、不恰好に避ける。

 対してカイトは、その裏で立ち回る事でゴロツキの横槍を無効化し、『改造モンスター』相手に集中し重心を回し、必死に立ち合っている。

 

「今更、ただの硬くて凶暴なモンスターがどうした!」

【二刀流:舞武】【ダンシングヒーロ―】

 そう自分を鼓舞しながら舞う。

 強がっているがあの大鎌が直撃したら、恐らく即死である。

 振り回される大鎌は片刃である、大きさ故に可動域も狭い。

 故に受ける位置を選べば死にはしない。そんな明確な弱点があるのだ。

 意地でも足を止めてやるもんかと、脚を歩み稼動の裏に挑み続けた。

 

 その大きな要因として。

 『改造個体』はゴロツキの命令を聞くだけで、【闘争士】(トレーナー)ではない。連携は取れない。

 これが仮に【闘争士】(トレーナ)の技能を持つ者が居れば、その脅威は数倍に跳ね上がっただろう。

 それこそ一流のトレーナーは【四式六令】という種族の差を越えての単純な命令方式を用いて、視界を潰されても、挙動指示で最善手を伝心する物だ。

 

 その合間に、もう片方でも甲高い金属音が響き渡る。

 

「ちぃ、クソがチラチラ鬱陶しい!」

「……塞ぎ潰す」

【双剣士】【投擲術】【気配遮断】

 月長石が斬り付け投射も混ぜて、同じく投擲で茶々を入れようとするゴロツキを牽制し続ける。

 彼は基本的に投擲術に優れ、接近戦でも技量を発揮する中・近距離のオールランダーだ。

 鍛冶の為に【気配遮断】を、勝手に習得して戦闘に活用している関係上、オドを扱う技術に手段を喪って。

 カイトには出力は劣るが、単純な剣腕では匹敵する。

 

 それを活かして、二対一と言う状況でも、腕自慢(腕利きとは言っていない)のゴロツキを拘束し続ける。

 魔具の質の有利、数の有利があっても人体に対する致死の双剣と投擲物に。

 社会の落第者であるゴロツキ如きに、思い切って踏み込む勇気も意地もない。

 

「な、何だよコイツら!!あっちはまだ片づかねぇのか」

「さっさとやっちまえ、その為の兵器だろこの役立たずが!!」

 想定外の強固な抵抗に、【死肉漁り】(グールズ)のゴロツキは困惑の叫びを上げ、八つ当たりする。

 頼みの『改造個体』単体で拘束されてるのは予想外に過ぎて、他人に頼る弱音が漏れ出す。

 

 改造された戦闘特化、フィジカルの優れたモンスター。

 それを曲りなりに単体で拘束できる冒険者など、彼等の常識では冗談の様だ。

 

「…っ」

 大鎌の峰打ちを、乱雑に弾いて道を拓いて流す。

 これを可能にしているのが月長石の目潰しの援護と、新しい彼の愛剣たる『絆の双刃』である。

 

「っふ、、身体が、軽い…っ!!」

【精霊術:快速のタリスマン(アプドゥ)

 それはミストラルから術式は知っていたが、出力と技能が足らず理論上だった精霊術。

 精霊と共振し、空属性の空気抵抗軽減と導きによる、行動補助の術式。

 ”疑似俊足・剣速を補助”し、過去の自分の一歩先を歩き、それを活かしてモンスターの駆動に裏をに回れる割合を増やしていた。

 

 

―――精霊剣『絆の双刃』。

 この双剣の機能は、彼のオドに染色された生物素材とも言える”属性金属”であり、彼の生体呼吸に合わせて、脈を強化し出力と”魔法剣”の維持と収束を補助にする。

 更に剣の中央に”装飾され刻まれた彫金”は、彼が精霊術のコミュニケーション(共感)の為に用いる高音に、剣の柄(グリップ)を指で弾き音を奏でて、高音を刀身全体で響かせる音叉の性質を与えた。

 

 つまり、カイトの今までの技能を補助するだけの専門の剣(オーダーメイド)がこれである。

 受け取って当日で、対応するのは、あくまで既存の延長でしかない事が

 慣れ親しんだ愛剣『素人の双剣』を素体にしているからだろう。

 まだ熟練しきってないが、カイトのその可能性を拡張するだけに足りる、そんな彼の為だけの剣…っ!

 

 しかし、それでもオド(リソース)を吐き出しての拮抗状態である。

 一言で言えば厳しい。状況を作る初撃の遠慮なく魔法剣を燃やした見せ札で三割オドを吐き出したし、事前の消耗もあった。 

 

(月長石さんの方は、大丈夫っ?自分で言い出した事だけどッ…キツイ)

 片割れの状況に目を配り確認しながら、敵の身体全体の体当たりに、丁度良いと脚を進めて剣を振るう。

 この交戦に意味のある事かもわからない。もしかしたら全部杞憂なのかもしれない。

 だが最悪を想い続けるより遥かにマシだと、これらにひたすら競り合うのである。

 

「くっそ硬いっ、刃が滑るか」

【魔法剣:炎】【二刀流:舞武】 

 『改造個体』に双剣を突きの姿勢で捻じ込むが、金属質な【硬晶皮】割るのみで肉まで届かない。

 一方の”エッジマニア”のなつめの様に、動く相手に流れる様に割り傷を狙い、肉を捻じ斬るには剣腕が遥かに足りなかった。

 

『―――ぐるぉぉむむむ』

【改造個体:再生力】【駒奴流】

 しかも、入れた疵は寿命を削った再生力で、暫くすると塞がっていまう。

 視界ももう戻っているようだ。

 狂化気味で息付く間もなく、残り火で魔法剣をやりくりしている為に、再度魔法剣の”得意の型”を放つには余裕がない。

 

 大鎌の振りおろしを避け、変らず裏に回りながら。

 

(何か、もっと弱点は…ッ!)

 戦闘舞踏の中で、再度この『改造個体』を注意深く観察して、弱点を見出そうとする。

 その生物構造の鎌は片刃であり攻撃性を実現する為に、長大となっている。取り回しの悪い部位だ。

 

 更にその大鎌に相応して上半身に反して、弱くもないが下半身の力強さが不足していた。

 というより、彼は知らないが改造者が戦闘者ではない為に、耐えて殺せばいいと。後は攻撃性だけを強化し特化型に留めたのがこのモンスターだった。

 カイトはその弱点を付いて、常に裏周りを意識して立ち舞って時間を稼いでいたのだ。

 だが、凌げている。それだけである。

 

 彼は結論を出す。

 指で奏でた精霊術の補助と、剣腕のみでこれを撃破は無理である。

 ”相棒”が居れば、順当に屠殺する自身があるが、単独ならせめて罠が欲しい。 

 万一に、彼の中の推定強者である”なつめ”に介助が必要ならば、早期にこれを打倒し戦いを終結させる必要もあった

 

「仕方ない、”腕輪”を使うか…!」

 安易な発想であるが、未熟な彼がこの状況を打開できるのは、やはり上級魔具の力である。

 【紋章砲】(データドレイン)を用いれば容易に消し飛ばせるだろう。

 カイトは度胸は有れど、分の悪い勝負を拾い格上を踏破し、勝利するには彼にはまだ修羅の資質が足りない。

 

 しかし、その為には砲塔展開から発射の為の三秒が、実戦ではただ重い。

 故に、右手の剣を手放し…。

 破調ラ音を基準にタイミングを計り、『黄昏の腕輪』そう呼ばれる砲塔の如く上級魔具をもって。

 

「―――ぶっとべぇえ!!」

 『黄昏の腕輪:装甲パンチ(シェルクラッシュ)

 拳を振りかぶり殴り込む。

 同時に”腕輪”の幾何学装甲解放をする事で、展開の圧力を併せて瞬間的に衝撃を倍加して打撃とした。

『Gyォオギャアアア!!?』

 その衝撃は凄まじく、『改造個体』の硬い躯体にめり込み突き飛ばし、谷の壁面付近吹き飛ばした。

 

 『黄昏の腕輪』の主な機能の【紋章砲】の展開には、三つの段階がある。

 初段に六燐で電子装甲をマナに投影展開し”空間を固定”し同時に担い手の保護。

 中段に中心砲塔の形成し”粒子加速機”を形成されレールとする。

 終段に、内包マナの”臨界”を魔具が判断し引金を担い手に伝達する。この三つの段階である。

 その、この第一段階である六燐の幾何学装甲が展開する、その状態で留める状態。

【電子防壁】(プロテクト)

 その”空間固定”を工程を半端に留め、装甲斥力を発生させ防壁とする。

 これは本来、この上級魔具(?)である『黄昏の腕輪』に”元々想定された機能である”。

 

―――のであるが、そこから『装甲パンチ(シェルクラッシュ)』への発展は想定された機能ではない。

 カイトが展開から砲撃まで三秒という、重すぎるラグを埋める為に鍛練で思い付き、多少練習した。

 担い手の苦肉の工夫(アレンジ)である。

 

 元々、【紋章砲】という弩級の砲撃を放つ為に、反動から担い手を保護する機能がある。

 それが腕輪の展開を瞬間的な打撃に変えても、衝撃を逃がし保護する為に想定外の無茶な使い方を可能にしている。

 

 しかし。

 

「―――痛ぁア……っ!?」

 タイミングが多少ずれ、重量生物に初めて用いた反動に右腕が折れた。

 理論上は無傷は、それは理想的に完全に、タイミングを合わせて用いられたらの話である。

 鍛錬で腕輪の展開と収納を繰り返し、担い手として血を通わせたとしても、経験がまだ足りていない。

 

 その芯を打つ痛みに、唇を噛み締めながら。

ガシャガシャン

 それを意思の力で捻じ伏せて、腕をそのままの耐性で距離が拓いて、敵対象が蠢いてる所に、続けて完全展開。

 幾何学模様の半透明な五鱗の円輪となる固定具が花開き、”臨界”のトリガーを彼に伝えて…。

 

「―――喰ら、え!」

【紋章砲】(データドレイン)

 いつか見た特異な電磁帯の吐息を放った…っ!

『ゴガアアアアア!!』

 それは過去見た光景と寸分たがわず、意味結合を分解させその存在を構成する外殻のみを分解し、後型もなく消滅させた。

 

ギュン、ギィイイイン!!

『黄昏の腕輪:資源改造(リ・モデリング)

 以前と同じように原初の情報を内包した”殻”が、彼に引き寄せられ【腕輪】に吸収されていく。

 久しぶりに生物に放ったが、相変わらず腕輪から駆け奔るその異物感は慣れない。

 

(スぅ…ハァ……)

 呼吸を一つ大きく吐いて、深呼吸。

 モヤモヤするそれを吐露し、気分を落ち着かせながら、痛みをこらえて。

 

「―――警告です。まだ、やりますか」

 【死肉漁り】(グールズ)のゴロツキ二人がいる方向に、折れた腕の未だ顕著する腕輪を向け牽制する。

 実際には、【紋章砲】は連発するには事はできないが、脅しには十二分に効果があるだろう。

 

 痛みに霞んだ目が請け負ってた、”月長石”が抑えていた方面を映す。

 

「終わった…か、十分だ」

「なん、とか。付き合ってもらって、ありがとうございます」

「いい、探究にはいい経験だった」

【双剣士】【死点突き】【鉄芯の如く】

 そちらは片方のチンピラの頭に『某手裏剣』を突き刺して、殺害し。

 片方と膠着状態に入っていた。腐ってもゴロツキも腕自慢(腕利きとは言っていない)である。

 【気配遮断】を持ちいぬ、慣れない正面スタイルで闘っていた為に、殺しきれなかったのだ。

 

「チィ…クソがテメェ”上級魔具使い”かよ。へへ道理で強い訳だ運がねぇ。……降伏だ」

 それだけの印象でカイトを纏めて評価して呟き、力なく手を上げる。

 その圧倒的な威力を見せ付けた、上級魔具である幾何学装甲帯に、特段に”濁った目線”を向けている。

 カイトのその全てが魔具の力だと信じて疑わない。故に…。

 

(本体(あっち)が片付いたら、奴らには隠して俺が手に、へへ)

【死肉漁り】【小悪党:腐肉の心】

 そんなゲスな笑みを隠すように、俯いて絶望した演技をする。

 大人しく、野狩人の縄道具による拘束用の受け入れ、機を伺いながら俯くゴロツキの生き残りだが。

 

―――そんな男に都合の良い未来は訪れない。

 がさがさと揺れる藪、その奥から。

 

「あー、良かった無事だったすね!もう心配で心配で、すみません。巻き込んだ形になったみたいで!!」

「―――っ!そちらも、無事でよかった」

「……だから言っただろう」

【双剣士】【自己変革:再成】(ペルソナ)

 相変わらず初心者の様な所為で、人懐っこそうな猫目で心配そうに駆け寄ってきた。

 その様子に、仮に無事だったら文句の一つでも言ってやろうと言う気炎が、急速に萎えて消えていく。

 結局は、彼は過去の疵跡(トラウマ)から、身体が動いてしまっただけであり。

 その無事を確認すれば、良かったという安堵しか出てこない。

 

 【死肉漁り】(グールズ)の群れは、『改造個体』と一人の不死性を持つ亡霊のデータを【遅延デッキ】を扱う決闘者(デュエリスト)が手ごたえがあっただけであり。

 ほぼ全てをカラテで蹂躙し屠殺したのだが、それを微塵も感じさせない振る舞いである。

 

「な、な、な馬鹿なッ!四人と預かったモンスターもいたはずだぞ!なんでテメェみたいな小娘が生きて戻ってこられる…っ!?」

 顔面を蒼白にしながら、汚く叫ぶゴロツキ。 

 大陸中に根を持ち、迷惑を振る撒く盗賊である【死肉漁り】《グールズ》、情けを掛ける理由はありはしない。

 例外として、強く有名な犯罪者などは”九十九機関”などでは優秀な種として、飼われる例もあるが彼はその例ではないし、それでも人間としては決定的に終わる。

 彼の都合の良い未来予想は崩れ、屠殺を待つだけの家畜である事を自覚する。

 

「ありゃ、一人生かしてるんすか。どうせこんな下っ端端碌な情報持ってないんですから、全部殺した方が安全なのに」

「そんな、物騒な、一応連れ帰ったほうが……、モンスターの出所位はわかるかも」

 殺す相手は殺すが、無抵抗な人間まで簡単に、殺すのに抵抗がある彼が言葉を挟む。

 そう、ゴロツキの処遇を話している背後で…。

 

(クソクソ……っ!こんな所で死んでたまるかよ!!俺はもっともっと…っ!?)

 楽に流れるだけであったゴロツキは、初めて自分の運命に掛けた。

「げひゃひゃは、そうだ、その上級魔具だそれさえあればァ!」

【小悪党:縄抜け】

 ゴロツキが、自分の肉親を、特段厳しかった父親を不意を突いてコロした技能。

 それを持ちいて自由を得て、彼の恐らく上級魔具の発生源である右腕。

 その腕を圧し折って奪おうと浅ましく手を伸ばした。

 

「な、っぐ!?」

 それに反応はするが、咄嗟に右腕に剣を構えて、骨が痛みに歪み遅れる。

 ゴロツキの手が届こうとするその瞬間。

 

「見苦しいっすよ」

【二刀流】【多目的ハイパーセンサー】

 それを呼吸の様子で察していた”双剣士”なつめの閃刃が奔り、ゴロツキの手を両断する。

 

「グギャアアァァ!!?腕が、オレの腕がァ!!」

「はいはい。カイトさん達の手柄っすからね、こっちは急いでて証人残すの忘れましたし、命だけは奪ってあげませんよ」

 何でもないかのように血を払って再度、無効化する。

 半融合型の『黄昏の腕輪』が奪えるかも、適応できるかもわからないが、それは関係なかった。

 それに彼は冷や汗をかく。油断か、人の命に関わる事に畏れたか、とにかく助けられた。

 

 情けない失態である。

 

 それに続いて男は喚く。

「くそ、くそ!俺も糞オヤジがいなけりゃ、せめていい魔具があれば…っ!何で俺じゃないんだ!何で幸運って奴は俺の人生は一度も微笑まなねぇんだ…!?」

「っ」

【魔具幻想】

 一般的に言われる安易な上級魔具の幻想の力を求めた、それはまさしく、負け犬の遠吠え。

 しかしそれは、カイトのに刺さる毒。何故、自分が『黄昏の腕輪』を手に入れた経緯が経緯だ。

 恵まれた理由なんて知らない。”腕輪”を自分の力なんて間違っても言えない。

 もし、本当に己に何もなければ、彼の様になる可能性もあったのだろうか。

 そんな詮のない疑問が一瞬よぎる。

 

「恨んでやる、呪ってやる…クソォ…くそがァ…」

「ふん、奪う事を選んだ。自業自得だ」

 恨み言を残して、ゴロツキは気絶し、月長石がそれを吐き捨てる。

 生来の狂人ではないカイトじゃ善い人に恵まれて癒され、最近は心に沈んでいた想いである。

 常に心の何処かで『自分ではなく親友が残れば』、『自分がしてる事は余計ではないか』と不安に想う。

 

(……こんなの真に受ける事じゃない。)

 彼は懐かしんだ自身の声を、少しだけ思い出して、振り払った。

 

「その、ありがとう。助かりました」

「いーっすよ、出るか出ないかは五分で併せてもらってこっちも助かりましたし、気持ちが嬉しいっす」

 そんなちくりと、疵跡を隠して何時も通りに。

 助けてもらった礼をいう。合流時の様子を見るに、この意地の通し方は余計な世話だったのだろう。

 彼は自身の空回りに頭を搔く、今回は月長石も巻き込んでいた。

 

「ホントは秘密なんすけどね。【ラインセドナ】の【ギルドナイト】の一人”なつめ”っす。種族は【エクスマキナ】、改めて宜しくお願いしますね」

【機械の乙女】【エッジハンター】

 その言葉にカイトは驚き、彼女の剣を鍛え既に知っていた月長石は無反応である。

 役職もそうであるが、【エクスマキナ】と言う種族は異質だった。

 機械化された肉体を持つ人間、あるいは半機械の生命体、その称号である。生物ではありえない機械による補助や機能を持つ、既に滅んだ魔導文明の遺産で、ロストテクノロジーである為に遭遇する事は珍しいのだ。

 

 彼女の内心で言えば、今回の事とその双剣の使い込み具合に”エッジマニア”として。

 結構気に入ってしまっており、Cランク相手とはいえ気楽に暴露した。

 

「悪い事すると、斬って、その双剣もらっちゃいますよ」

 そう悪戯ぽく、言うのだった。

 

 

 

 




キャラ草案
『Type72ME(なつめ)』(一杯)
 ラインセドナと言う田舎町でギルドナイトやってる戦闘用エクスマキナ。異名”エッジマニア”。
 潜入工作用の自身の機能である【自己変革】(ペルソナ)により、遺跡からの自己解凍組なので、上位命令者が居ない為に稼働当初から精神が不安定であり、自身の存在意味や在り方について希求している。現在は三つの主軸モード(潜伏モード・省エネモード・オルギアモード)に落ち着いているが、一時期は二十二に分解していた。増やそうと思えば今も増やせる。
 邪神により文明が崩壊し、本領を果たす事が出来なくなった戦闘用エクスマキナの機能を刃と例えて、使い手が意味を与えると定義しているために、有意義に使われてない刃等を回収して。コレクションしていたりする。
 巧く使えそうだと見込んだ相手には押し付けてくる。
※某アイギスさんは彼女にエクスマキナ枠を当てると決めた際に、スキルのCVで参考元として入ってるだけで。
 性格は殆ど関係がありません。
 ラインセドナと言う田舎町で、周りがファンタジーやってるのに一人だけアークス(PSP2)やってる奴。
 与えられた理想値のモーションを、稼動経験の長さから改造、特有の靭力と間接自由度と、双剣でありながら怒涛の剛剣で捻じ込む。

 初心者ムーブで、舐めてかかった悪党を事故死させるウーマン。
 野生の修羅?として設定決めてたけど、これや野生じゃないやん()。

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