ポンコツ世界異聞=【終幕を切り刻む者達《ハッカーズ》】   作:きちきちきち

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噛み合う歯車【死の恐怖】
出発【ドゥナ・ロリヤック】


 少し曇った曇天の空。

―――【ラインセドナ:中級街】 

 

 場所は”情報屋”ワイズマンの邸宅。

 ワイズマンから、調査の方に進展があったと言う事で、自宅玄関への置き手紙を用いて呼び出された。

 いつも通りの符丁を用いて”妖精扉”を開いて彼を訪ねる。

 

「あの、こんにちわ。あの、調査の進展があったと聞いて」

「ああ君か、まぁそこに座りたまえ」

【情報屋】

 相変わらず、優雅に本と紅茶を片手に過ごす、銀髪の壮年の男性が彼を出迎える。

 正面のイスに促されて、座って彼に向き合った。

 

【妖精術:使役精霊】

ひゅりん。

 ワイズマンの一挙動で、妖精が動き。

 奥の本棚や戸棚から目的の物を取り出して持ってくるように見える。

(相変わらず、凄いな)

 彼も似た技術【精霊術】を専攻するようになり、少しずつ実体が見えてきたが凄まじい技量である。

 大別すれば【精霊術】は環境マナに己が魔力と術式によって誘導し、使役する魔術。

 対して【妖精術】は。自身で育成した精霊を”妖精”と言い、それを使役する術であるという。

 

「調査の結果だが、まぁ詳しい事はまだわからん。だが糸口になる物は見つけたかもしれん。君の報告にもあり、最近【聖錬】南部で目撃される様になった『黄金の双胴』、これの出現により村々が虫食いの様に襲われ欠けている。これを見たまえ」

「はぁ、あの『黄金の双胴』の出現傾向…、ですか?」

「あぁ、やはり聖錬南部の大きな異変と言うのはこれが大きいのだ。これが十分に関わっていると考えられる。いや私個人の考えでは確信と言っていい」

 ”情報屋”ワイズマンは、そう言って机に聖錬南部全体を移した、大きな地図を広げた。

 そこには点在するような赤い点が置かれており、それが大きく分布していることがわかる。

 更にその点が円を描くように、とある地点に集中している事も、一目で理解する。

 

「私はこの円形分布の中心に、”何か特異な物”が潜んでいると推測している。物事には大概理由があるものだ。そうでなくてはこの動きに説明が付かない」

「なら理由としては、指揮官みたいな物でしょうか…?規則的な群制行動なんて、その位しか思い付かないですけど」

「理解が早くて助かるよ」

 彼等も襲撃されて、その姿を確認した【黄金の双胴】と呼ばれる人工精霊。

 最近、南部の国に正式に認定された、『公共の敵』(パブリックエネミー)、【預験帝】のマローダーと同じような、扱いを受けていると言う。

 戦闘力は割と高く、未知の手段でモンスターを引き連れて移動するそれを、意図的に動かす何かいや誰かがあるとすれば、確かに非常に怪しいだろう。

―――あるいは、謎の女、”ヘルバ”が語る所の脅威である【八相】。それがある可能性。

 彼等の目的である”事変”との関わりとして、調査する意味は有ると考えた。

 

 ただ気になる事が一つ、少し不安になって尋ねる。

「えっと、この情報は何時のモノに成るでしょうか」

「ああ、安心したまえ、この情報はほぼ最新のものに近い」

「はぁ、そうなんですか」

【妖精術師】【知識の蛇】

 だとすれば、どうやって手に入れているのだろうか、困惑するほかない。

 こうも場所が掴めるならば、国が軍を出して掃討してしまえばいい。それが既に行われているか、国がつかめていない情報を”ワイズマン”が掴んだのか。

 どちらにしても違和感があり、彼の中で懸念が生まれる。

 

「不思議な顔をしているね。疑問はわかる、ここまで広範囲で村々が食い荒らされるなら、国が動くのに十分過ぎる案件だ。そして実際に動いた、だが…」

 彼のそんな考えを見透かしたように、付属情報を並べていく”情報屋”のワイズマン。

 その顔は多少得意げに、口角を上げているようにも見える。

 俗な事ではあるが、長命種の余興故に単純に得た情報を含みを持って話す事を、彼は割と好んでいた。

 

「軍隊が到着する時期に、モンスターの集合だけで『黄金の双胴』の活動も暫く立ち消えたのだよ、潜伏手段があるのか、それとも瞬間移動か、厄介な事に神出鬼没と言う奴だな」

「……人の世の動きに連動してる?やっぱり災害の類じゃないのか、【預験帝】の仕業にしては丁寧過ぎる…。こんな事起こせるような組織は聞いた事ないけど」

「だろうな、しかし明らかに範囲も能力も個人の域を超えている」

 カイトは限られた薄い情報から、推測を組み立てる。

 軍神出鬼没の”事変”、それだけで人為的な干渉を予見させるのに十分な情報だった。

 人の世相の動きを察知するのは、人界に触れるだけの触覚と知恵がいる。

 なお、【預験帝】についても人の仕業と言えるだろうが、あいつ等は『マローダー』を用いた工作を頻繁に行うが、大体成功しても、失敗しても良いかの如く、まるで廃棄物処分の様な突拍子のなさと雑さがあるものだ。

 

「国はこれを持って、身軽な有力な冒険者に調査を依頼した。正式な騎士団を動かすのも安くはない。もしかしたら本格的な調査隊と遭遇する事になるかもしれないな」

「……っ!そうですか、やった」

 国が注視している”証拠”いやできれば、”正体”を持ち帰れば国軍が動く、それは有意義な情報だった。

 遠大過ぎる目標、彼等の手には届かないそれに道に光が刺す。

 国が動けば解決に近づくだろう。

 それに何かしらの証拠を掴んで、一助になれればきっと早くに悲劇が止まる。

 きっと意味が残せることで。

 

―――きっと『早く親友も助ける事が出来る』。

【凍結記憶】

 そう強く、彼は道を進む意味を信じているのだから。

 

「まぁ、それ以上はマナ環境が不安定で、『探査妖精(サーチャー)』を飛ばせずに、これ以上の情報はない。もう一度確認するが、村々を潰してるように人類に対する明確な”害意だ”。多くの危険が予測される。本当に君等は関わっていくのか、引き返すのは今のうちだが」

「心配ありがとうございます。でもただ、ぼく等はその為に、歩いてきましたから」

 カイトとローズの相棒、冒険者としての”ペア”は目的としている。

 ”有り触れた”世界の理不尽に、ただ我慢できず納得できなかっただけの半端な者達だ。

 これ位で諦めるなら、とっくのとうに折れて諦めている。

 

(―――やっとだ。やっと…、近づけるかもしれない)

 そろそろCランクに上がってから、一年経つだろうか、長く長く、積み重ねてきた。

 冒険者ギルドの制度の関係で、彼等はまだCランクの駆け出しのままだが。

 努力は積み重ねてきた。昔の自分とはそれこそ比べ物のならない位の成長を自覚している。

 

 遠方地への長くの遠征だって、先達である”ガルデニア”から旅のノウハウを依頼にて見て学んでいる。

 ゴルの方は…、まぁ多少は有るし、最悪現地で稼ぐ事も出来る。【ラインセドナ】の町に家を構えたせいで割と蓄えが厳しいが。

 それでも、彼の思考が目的に取って”現実的”だと判断する。

 

(とにかく、ローズと相談しなきゃ。一人で考えても仕方ないし)

 自身の地図を取出し、その推測される調査地点を映して記載していく。

 地形が色々と異なるが、四年ごとの”大襲撃”(スタンピード)で書き換わったのだろう、最新の物はとても高くいちいち用意してられない。現地で適応していくしかないだろう。

 

 場所は【聖錬】南部、【ラインセドナ】の町から見て北西部の山岳辺境だ。

 近くの大きな街の名前は【ドゥナ・ロリアック】と言ったか。

 そこに辿りついて、まずは周辺地の情報収集に関しては、後から動いて考えればいい。

 

 

「あぁそうだ折角だ、君等は冒険者だろう私からも依頼を出そう」

「へ?」

 そして”情報屋”のワイズマンは意外な提案を彼に持ちかけた。

 背後の金庫から一袋程度を取出し、ギルドの依頼に用いられる誓約書と伴に手元に押し付けてくる。

 少なくはないお金(ゴル)の量だった。少なくとも彼ら二人基準で三月は楽に暮らせる位の大金である。

 

「これは私個人からの”調査依頼”だ。これは前金だが、更にその調査で結果が出たならば、その情報は私が買い取る事で本報酬とする。後で冒険者ギルドに依頼を出しておこう。忘れず受けて行きたまえ」

「え、いやいや僕ら技能もってないですし!。それに僕らが戻ってくる頃には、意味がなくなってると思うんですが?」

 情報を買い取る。それは戦闘特化の彼には馴染みのない取引である。

 基本的に情報は鮮度が命である。移動距離的にどうしても行きと帰りを含めれば、劣化してしまうだろう。

 劣化してしまった物は”知識”としか言わない。それに疑問を浮かべて意味を尋ねるが。

 

「いや、それでいい。これは私の趣味の様なものだからな。終わってしまった過去の物語でも、てぐさみ遊興にはなるさ、サラ部これは興味深く重要な物だ」、

「はぁ、まぁワイズマンさんが、それでいいなら、実際助かります」

 実際、ゴルは幾らあっても足りる物ではない。

 ”情報屋”は彼の趣味であると言う、過去の言葉を思い出して、疑問を呑みこんでその提案を快諾した。

 実際に【ラインセドナ】の町に家を構えた事もあって、余裕はそこまでないのだから、調査の旅費として助かるのである。

 

「後これも持って行きたまえ、お守りの様な物だ」

「これは―――、そんな悪いですって!貴重品じゃないですか」

「いいから持っていけ、私にとっても帰って来てもらわねば困るのだからな」

【エルフ】【妖精術:妖精のオーブ・■■妖精】

 そしてここからカイトに比重を置いて協力すると決めていた時より、密かに彼等を妖精を飛ばして観察をしていたワイズマンが、彼に有用な手札を強引に押し付けた。

 更に、周りのを認識して記録する機能を持った加工宝石を、『お守り』として混ぜておくのも抜かりがなかった。

 

(また、世話になってて悪いなぁ…、せめて冒険者として求められてる事はやらないと)

 カイトは罰の悪い表情で頭を搔いた。とにかく、恵まれている人の縁に感謝する。

 だが、”謎の女”のヘルバとの知り合いであり取引を行い。

 ”長命種”ワイズマンの趣味の為にある程度利用されており、更に日常をちょっとストーカーされていたと知れば、流石に顏を顰めるだろう。

 色々と決裂まで行くかもしれない。知らぬが仏である。

 

「とにかく色々ありがとうございました。出発の日はまだ未定ですが、決まったら追って連絡させてもらいます」

「あぁ幸運を祈るよ」

 深々と礼を告げて、ワイズマンの邸宅をいつも通りに後にする。

 ガチャンと閉まる”妖精扉”の閉じて鍵のかかる響く音の後に。

 

「―――よしっ!道が見えてきた、頑張らないと」

 垂直な壁の様な目標に、手を掛ける場所が現れた事に、小さくガッツポーズを取り。

 【ラインセドナ】の中級街を後にするのだった。

 

 

 

 

 

所変わって。

―――【ラインセドナ:彼等の自宅】

 

 

 ”情報屋”のワイズマンから聞いた話を、ローズに話を通した所。

「なるほどねー。まぁいいんじゃない?早速遠出の準備しましょ、アタシはまだワイズマンって奴は完全に信用してないけどさ」

「あのねぇ…、ローズ。もうちょっと考えない」

「カイトが判断したなら、間違いないっしょ。あたし考えるの苦手だしね」

【ムードメーカー】 

 そうローズは快活に笑って、答えて空気を牽引する。

 基本的に役割分担で、難しい事は考えるにをカイトに丸投げした彼女が素通りで同意した。

 

「遠出の準備には何が必要だっけ、【複合式羅針盤】もそろそろ古いんじゃない?」

「うん確かに。【属性検知器】は新しい良い物にしたけど、そっちは不安だね。旅の消耗品も併せてミストラルの店に買いに行くとして」

 彼は少し考えて、言葉を整理して言葉に出す。

 

「まぁ知り合いに挨拶していこうか、冒険者として依頼とか一緒に受ける仲だから、いきなりいなくなったら不安だろうし、もしかしたら帰ってこられないかもしれない」

「はいはい、そんな後ろ向きに考えないの!」

 当たり前のようにそんな言葉が出る辺り、この世界のサツバツさを滲ませた。

 自身の知己を指を折って数えていく、先輩冒険者の”ガルデニア”に、討伐で頻繁に組むようになった”マーロー・ディアス”は、鍛練ついでに家に訪ねてくるからその時で問題ないだろう。

 居場所は巡るのは商人兼魔術師の”ミストラル”、双剣のメンテナンスで顔を合わせる鍛冶師”月長石”、ギルドナイトらしい”なつめ”は、まだよくわからない。

 変態巨壁の”ぴろし”は居場所はわからないが、気配が騒がしいからすぐに見つかるだろう。

 

「ガルデニアさんに家の合鍵渡しとこうかなぁ。流石にこれだけ家開けてれば、持ち込んだ”寄せ植え”も枯れちゃうだろうし、使ってないと家も傷む。帰ってこれなかったらそのまま使ってくれれば丁度いい」

「あいよ。先輩なら信頼できるからね、いいんじゃない」

 彼等の共通認識として、知故の中で最初の頃から一番に世話になっている。

 先輩冒険者であるガルデニアにはその程度の共通した信頼があった。

 地図を広げて、”相棒”であるローズに説明しながら、着々と算段を立てて、予定を重ねていく。

 

「出発予定は三日後位になるかな、目的地は【ラインセドナ】からの北東の街【ドゥナ・ロリヤック】だね。チョコボで三日位だと思う。ローズは知ってたりする?」

「あーうん、ちょっちね。そこかぁ、ちょっと気まずいわね。あたしが暴れて追い出されたところだし。まぁ、大丈夫っしょ!一時期のDランクを憶えてる奴なんていないわ」

「あー…、なるほどここなんだ」

 【ドゥナ・ロリアック】は別名、”高山都市”との異名を持つ街である。

 ローズの種族『蛮族』(アマゾネス)は高山育ちである。故に活動し易い土地であり彼女の弟も、活動していたと一度二度の手紙で知り、勿論、彼女も目指して一時期留まっていた街である。

 曲りなりに冒険者夢を抱き、きちんと計画を立てて出立した弟と違って、衝動で飛び出た彼女の苦い苦い黒歴史である。 

 

(確か北西方面のキャラバンが、三日後にあったかな。それに便乗できればいいんだけど)

【レンジャー】

 適当に予測の日程を組み、纏める。

 護衛依頼の経験が豊富なガルデニアに比べたら、かなり想定が甘いが十分だろう。

 

「旅の日程はこの位かな、護衛依頼で前行った【パリス同盟】の『ルミナ・クロス』よりは近いし、旅先には大きなトラブルはないとは思うけど、念を入れてね」

「あいよー、自分達のスペースあるとこういうの楽でいいわね。にしても暫くお風呂からはおさらばかー」

「そこが惜しむ所なのか、まぁわからなくもないけどさ」

 彼女の言葉にくすっと笑って同意する。

 依頼帰りで、汗ばんだ衣服の心地の悪さを拭い去り疲れ切った全身を温めるあの感覚は、一度味わってしまえば離れがたい物がある

 純粋に生きていてよかったと、そう思える様な瞬間である。

 

「じゃあ、今日は買い出しに行こうか、荷物持ちお願い」

「あいよー任せなさい」

 普通は男女の役割が逆だと思われるかもしれないが、これが彼等の普通であった。

 身体能力の差が如実に現れているのだから、”役割分担”と仕方ない事である。

 

 楽しそうに後ろ歩きしながら話しかけてくる彼女に、少し危ないよと注意しながら。

 彼等は今日の予定を行くのだった。

 

 

 

 

 ●●●

 

 

 

 

 更に、翌日。

―――【ラインセドナ:彼らの自宅】

 

「―――と言った感じで、ちょっと僕らは町を開ける事になりますから、その間なんですけど、ローズと相談して」

「うん、家の方を任せられたらなってさ、適当に使ってもらって構わないわよ」

 偶然重なる様に、自宅に訪ねてきた、知己の”ガルデニア”と”マーロ・ディアス”の二人。

 彼等に、話があると呼びとめてリビングに案内して、お茶を入れて。

 暫く遠出をする為に、【ラインセドナ】の町を空けると、適当に端折って話を通した。

 

「―――ん、なるほどな。事情は分かった」

「ふん」

 ふと事情と、目的を話してしまったガルデニアが、多少眉を引止めて、重たい表情で頷いて。

 いつも通りに不機嫌そうな表情で、マーローは両手を組んでみながら、黙って聞いていた。

 

「……ふん、んで?何時頃戻ってくるんだ」

「いや、それはまだわからなくて」

 結果が出るまで滞在するかもしれないし、早々に関係ないと見切りを付けて戻ってくるかもしれない。

 幸か不幸か、節約していけば少し無理できるだけの資金は、予定外のワイズマンと言う物好きなスポンサーのおかげで確保できている。

 

 

「君等が個人的にそんな動きをするというのは、大体察しが付く。”事変”に関連する目的か、情報元は信用できるのか?」

「ハイ”情報屋”の方にお願いして、長期調査の方を、信頼はできる人だと思います」

 少し心配するような声色で彼女が聞いてきた。確かに情報源は重要である。

 流言に踊らされては堪らないが、彼はしっかりとこの町に居を構えて、立場に余裕がある人間だ。

 何より、”親友”の伝手な事もあるが、何度か直接会って話して、そんなつまらない事をする人間ではないと彼は考えていた。

 

「……ふん、そっちの女の反応から察するに、ただ街を空ける遠出ではないんだな」

「あー、はい。まぁ僕らなりに目的がありまして」

 彼等の事情を把握していないマーローが、口を挟んだ。

 説明するかは少し悩んだが…。

 

「簡単な話よ。ここら辺ちょっと最近物騒じゃない?その失せ人探しと犯人ぶん殴る。それがあたし等の目的なの」

「はぁ?失せ人探しだぁ、そりゃおめぇ無茶な。原因だって千差万別だぞ」

 相変わらず、彼女が簡単に暴露した。

 その様子にカイトが溜息を付く、なお彼女にとってはこの開示は、話す相手は選んでいるし”割と意図的に話している”。

 

(仕方ないなぁ…もう。無謀な事だって言ってるのに)

 それに、彼は気が付いていなかった。

 ガルデニアの方には既に知られているし、問題ないかとさらりと流した。

 

「とにかく、目的地は何処なんだ」

「ここから北西の山岳地帯にある、高山都市『ドゥナ・ロリヤック』です。出発は三日後に予定しているので、それまでに何か用があるなら言って……」

「―――よし、決めた」

 その言葉を遮るように凛とした声で、ガルデニアが言葉に割り込む。

 指で自身の得物である変形槍を、その端正な指で撫でて、改めて自身の意味を確認する。

 我が身は打ち払う槍である。故に。

 

「ならば私もつれていけ」

「え、ちょ」

【阿修羅姫】【女難の相】

 ガルデニアはその行為の無謀さを理解していながら、なおその言葉を放った。

 彼女は冒険者としてカイトとローズの”ペア”は、得難く動きやすい仲間だと思っているし、何より空気感を気に入っている。

 基本的に冒険者は自身のパーティ以外は信じない。

 そんなパーティの中でも、心許せる仲間というのは本当に珍しいだろう。

 何故か女性関係のトラブルに見舞われやすい彼女にとっては、尚更に得難い物だった。

 困惑する彼に、既に自身の”好き”に殉じる事を決めていた為に、強い眼光でそれを押し通してくる。

 

「その、えっと、お気持ちは嬉しいんですが、僕等の個人的な目的ですから…っ、今知っている情報だけでも、危ない橋を渡るし」

「ああ、なら私が急に観光がしに行きたくなっただけだ。他意はないぞ?」

「ええぇ……」

 カイトが断ろうと考えを巡らせる雰囲気を察して、そう悪戯っぽく制した。

 そう言われると返す言葉が無い。世間の世知辛さを除けば、冒険者など縛られる物が無い自由業な物である。

 目的を別に上げられれば、それを制する権利は、勿論カイトにはない。

 

「チィ、オマエらが暫くいないとなると、オレの方も動きにくくなるな」

【孤独者の流儀】

 元々”マーロー・ディアス”と言う冒険者は、風来坊をやって町を転居を繰り返すソロであった。

 それは彼の魔具『黒蜘蛛の鎧』の、暗黒剣を扱う代償に生命力の”他人の忌避感を引き寄せる闇属性への転化”する特性もあるが、更に彼の捻くれた性格によるところも大きい。

 

 そんな彼が曲がりなりにも、ここしばらく一か所に居着いているのは、理由がある。

 

「おい、オマエ。しばらくオレを雇え、報酬は成功報酬でいい」

 まず実利で彼等を中心とした知り合いと組むと、冒険者として非常に動きやすい。

 やはり群れると強いのは人間の自然な摂理である。

 そして彼の過去に騎士を目指していながら、ある出来事で螺子まがった捻くれ者の精神が大きい。

 

「確かに出せなくもないですけど、前金なしの依頼なんて破格な」

「ふん、いいんだよ。オラァ単純に手が空いている。目的地とかいう【ドゥナ・ロリヤック】には彷徨って多少土地勘がある。駒として考えろ」

【孤独者の矜持】

 それは、自身の在り方に妥協を求めない。

 彼等の成長に自身が、全てを奪った魔具を理由に、”腐っていた”のを自覚させられた事もあって。

 危険であっても、喪った時間のように再度また己自身を高めるのに、有用だと”マーロー・ディアス”は考えているのだ。

 ……いつかの鍛錬”疑似魔法剣”での借りを、きちんと返したいという気持ちも多少はあった。

 

「まぁいいんじゃない?慣れない事だし、力を借りられれば心強いわ。旅は大人数の方が愉しいしね」

「そういう気楽な感じになれば、いいんだけど」

 その提案を、ローズが気楽に後押しする。

 どちらも実際に善意での提案だと言うのはわかる。故に対応が難しい。

 これで無理は効かなくなっただろう。

 後に引けない彼等と違って、何の関係もないのだから、無理に危険に撒き込めない。

 

 彼は少し考えて。

 また、負い目にむず痒く成りながらも、笑みを作って答えた。 

 

「なら、お願いします。人の手が借りられるのはありがたいです」

「うむ、頼まれた」

「ふん、一応テメェが雇い主なんだ。使い潰すくらいで言いやがれよ」

【阿修羅姫】・【孤独者の矜持】

 変な意地を張らずに、二人の善意を受け入れてお願いした。

 ”親友”が言うのには見知らぬ土地の情報収集は”足と”、”人海戦術”だと言ってたか。

 戦闘特化でしかない彼等二人で出来る事と言うのはやはり限られているので、手が借りられるのは純粋にありがたかった。

 

 

(成功報酬とはいえマーローさんに報酬を出すのだから、ガルデニアさんにも同じ条件で出さないと…。滞在期間を切り詰めて行けるかな…、現地で稼ぐ事も想定して……)

 頭の中でそろばんを弾いて、試算する。

 なお、ガルデニアには私の趣味だとの一言で強く断られるのだが、彼は知らない。

 マーローにしても、依頼と言う形式を主張したのは、自身の矜持を通す為の建前である。

 成果が出るかも怪しい。特に期待はしてなかった。良い経験になればそれでいい。

 

「にしてもえらい大所帯になったわねー、旅支度考え直す必用あるんじゃない?」

「そだね。二人分の準備しかしてないし日程も、組み直しかな。先輩、ちょっとこれ見て欲しいんですけど…」

「あぁ、どれだ。ふむ、これならこちらのコースの方がいい。それにともなってこちらのキャラバンに便乗したほうがいいだろう。これなら直接行ける―――」

 

【ディフェンダー:護衛の心得】

 基本的に短期・長期を護衛を中心に活動していた冒険者の彼女が手直しを加えていく。

 結果的には殆ど手直しされて、余裕を持った日程が組まれる。

 

 結果的に出発は更に三日伸びて、各々にそれまで準備する事となって、別れたのであった。

 

 

 

 

―――【ラインセドナ:出発当日】

 出発の前に【ラインセドナ】の他の知り合いにも声を掛け、挨拶を交した。

 交したのだが…。

「んじゃあレッツゴー♪」

【理性蒸発】

 (ノ〃^▽)ノと幻視される様に、何か一人増えていた。

 具体的に言えば、知り合いの兼業冒険者の魔術師”ミストラル”である。

 集合地点に何故か彼女の姿があった。

 

「あれ、ミストラルじゃん、なんでここにお店は?」

「夫に任せてきた!賞品の仕入れも兼ねてね。だってさ、君等に絶対レアな事が起こるもん、ボクの勘がそう言ってるから、今度は置いてけぼりにはされないぞ!」

「んー、置いてけぼりにした事になるのかなぁ…、だって店の方が大事でしょうし」

 つまり聞き耳立てて、先回りしたのである。

 騒がしさが苦手な露骨に苦い顔のするマーローと、少し呆れ気味のガルデニアを尻目に。

 その小柄な身体全体を使って、感情表現をするミストラルは相変わらずだった。

 カイトは頬を搔いて苦笑い、長寿のハーフエルフとは言え、これでこの中で一番年長である。

 

「本当に大所帯になっちゃったなぁ」

「あっはは、でも嫌いじゃないんでしょ。もうなる様に成れよ」

 天気は晴れ、北西部に向かう定期的なキャラバンに、料金を払って便乗して彼等はいた。

 護衛依頼は伴わない遠出は、地味に初めての事であった。

 

ガタガタガッタン。

 適当に周囲の同じ様な同乗者を少し警戒しながら、適当に休めていた。

 

「うー、暇だねぇ。そーだ!カード遊びしない?」

「おっいいわね。手軽にやるなら”ババ抜き”か”ポーカー”かしら」

「流石にそれは気を抜きすぎじゃないかな、酔わないようにね?」

【ムードメーカ―】

 カイトとローズが適当に手持無沙汰に、話をしながら外の風景を眺めていた。

 これが冒険者の護衛依頼なら、だらしない姿を見せられないが、今は一応荷物扱いでもお客様である。

 移動する間長く硬い床に揺られるのだから、気を張りすぎて疲れても仕方ない。

 

「まぁいいじゃないか、馬車の広さには余裕あるみたいだしな」

「フン、オレは遠慮すんわ、勝手にやってろ」

 意外と乗り気のガルデニアと、鼻を鳴らして傍観している反応が対象的な先輩二人であった。

 ガルデニアは【女難の相】のせいで、割と気兼ねない同性の友達に飢えているのだ。

 

 

 四人で小さく纏まってトランプカードを並べて。

ぴらぴらぴらと。

 ミストラルがカードを配って、適当に”ばば抜き”をしながら話して時間を潰した。

 

(術式、燃やして。ふぅ…っと。吐瀉物の処理なんかなったら大参事だ)

【精霊術:癒しの風】【蛍火】

 彼は少し気を利かせて”蛍火”を燃やして、心地よい微風をふかした。

 魔力の無駄使いかもしれないが、嘔吐騒ぎとなったら馬車を追い出されかねないので死活問題である。

 

 ババ抜きをしながら

「おーい、マーロー!あんた【ドゥナ・ロリアック】で活動してた事あるんでしょ?アタシはちょっとしか見て無くてさ、ちょっと教えてくんない」

「フン、大した事は知らねぇぞ」」

 快活な声、少し似た所があるのか、彼女はマーローに対してはため語で話しかける。

 というか、彼女が言葉を取り繕う相手と言うのは珍しい。

 

「―――高山都市『ドゥナ・ロリアック』は、中央に馴染めない小数民族や、独自の文化を携えた連中とかが集まるポータル都市の様なもんだ。蛮族なんかも珍しくない。辺りに幾つか隔離領域を抱えているし、大襲撃の際には辺りの集落に、狼煙を伝達する為に冒険者ギルドの権益は割と強い都市だ」

「あとね、精霊由来技術の由来の彫刻品やら、ヘンテコな高山特有の薬草や果実とかが特産品として有名なんだよ。仕入れの狙い目は精霊道具と色々なマナスポットで鋳造された果実酒だね!時々【ラインセドナ】(こっち)に流れてくるんだよ」

 マーローの冒険者視点の知識を、商人のミストラルが補足を足していく。

 『隔離領域』とは隔離変動(ボックス・シフト)という謎の現象によって引き起こされる。

 ”周囲数十キロ”を対象として隔離された隔離現象にて、隔離された土地の事を刺す。

 現実に境界に高い壁が競りあがり行き来を妨害する様は、圧倒的な現象であり、その隔離された後の土地は、以前の様子とはまるで違う”環境変動”を引き起こし、最悪地獄の如く浸魔獄になり果てる。

 この世界に溢れた、突如襲い来る理不尽の一つである。

 アマゾネスは特殊だが、基本的に【蛮族】(バルバロッサ)とは、この現象に巻き込まれながらも適応して生き残り変質した人類の一種の事を刺す。

 

「ふむ、酒か。それは愉しみだな」

 地酒集めが趣味なガルデニアが特に反応して、逆にカイトはちょっと遠い目をする。

 最近、お酒で失敗したばかりであり、”その後のブレーキ”もうまく効かない為に、お酒の単語が出る度にちょっと苦い感情が頭をのぞかせるのだ。

 

 その一方でゲームの方も刻々と進んで。

「はいよ、あがり」

「あーっ!ちょっとなんでイカサマしてるんじゃないでしょうねカイト!?」

「表情が読みやすいのが悪いよ」

 ローズの手元にババが残って、頬を膨らませて不満を示す。

 ”相棒”である彼等はお互いに、何となく機運を察せられるが、表情にまで出るともう感情まで読める。

 彼女の快活さがのおかげか、だいたいこういうゲームで一対一だと彼が勝つようになる。

 

「むむむ、またこの構図かぁ」

【理性蒸発】

 それと同じようにゲームに弱いのがミストラルである。

 もう目は口ほど物を言うと言った具合に、考えてる事が表情に出るのだ。

 それでも時折、フェイントを混ぜてくる辺り侮れないのだが、それも気分次第である。

 

 百面相しならカードを引きあう彼女等の横で。

「所でさっきから、何をしているんだカイト」

「小さい範囲で風を回してて、もし気持ち悪くなったら溜まりませんし」

「ふむ、器用なもんだな」

 先程から、彼が揺らり揺らり揺れて瞬く火の輪に、それに寄り掛かる精霊に興味を持って。

 それに答えて形を作ったりしながら。

 

 こうして彼等は、慣れ親しんだ【ラインセドナ】の町を暫く後にするのだった。

 

 

 




ミストラルの身が重くて動かしずらぁい。
はよ八相殴りたい。

草案、高山都市『ドゥナ・ロリヤック』
・元ネタは.hack無印のそのまま「ドゥナ・ロリヤック」
・【聖錬】の都市の一つであり、【ヴァ―ミリオン】の西に位置する。
・主な産業は文化の玄関・中継口(ポータル)、交易都市。精霊の加護が強く、特殊な風車がその日の精霊の起源を教えてくれると言われ、今日も大きく回り続けている。
・高山を中心に点在する少数部族や、独自の文化を持ち土着民族が共通して集まり、様々に交流する。
・主な産業は持ち込まれる部族や民族の加工品に、高山で育つ柑橘・植物類の交易。特にマナが疎らな地域であり、その土地の地酒は様々な表情を持つとの評判である。
・近くに隔離領域が幾つかあり、その動向に対する監視の役割も追って中央から人材が派遣されている。
・鉱物系のモンスターが良く出現する。これは地を這うように丸まって移動する”雲貝”と言う幻属性の雲が原因だと推測されている。それを含めた精霊信奉が盛ん。砕いて恵みにするのじゃ(サツバツ)。
・その役割の関係上冒険者ギルドの権益は大きい、自由に動かせる働き手と重宝されている。
・冒険者に対する依頼は「討伐」、「土方(それぞれの道整備)」、「農作業」。
・鉱山もなくはないが、土着の民族との折り合いに苦慮しており精霊を主に信奉する関係上、開発はあまり進まない。
・中央からの文化も良く流入している為に、周囲からは肯定派と否定派と内心は複雑であり、緩い近郊の元に成り立っている”異文化の波濤”。
 
 適当に設定を考えた物なので、練りが甘いので追加する予定…。と言うか無理があれば大幅改定。
 原作でもあんま特徴ないしなぁ。
 ヴァ―ミリオンの横に未開拓帯が多かったので、隔離領域でもあるんじゃね?それ監視する前線都市あるんじゃね?ってなった結果。
 それがだんだん周囲の民族たちが居着いて、玄関口になったとか…?

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