ポンコツ世界異聞=【終幕を切り刻む者達《ハッカーズ》】   作:きちきちきち

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到着【ドゥナ・ロリヤック】

 少し曇り掛かった空に、ガタガタとゆれる馬車。

 【遺物構造物】(オベリスク)を経緯して、所々キャンプを行いながら旅道をこなしていき。

 

ガランゴロン。

 それに揺られて、暫く彼等は行く。 

 ”赤チョコボ”が坂を蹴りあげて、キツイ坂を登って行いった。

 

 彼等のその旅は特に大きなトラブルが起きずに、高山都市『ドゥナ・ロリヤック』が見えてくる。

 

 

―――【聖錬:ドゥナ・ロリヤック】

 外から町の様子を見やれば。

 雄峰の麗に存在する頑強に塗り固められた土造りの建物が、特徴的な文様が描かれた点在している。

 台地に詰まる様に建物が林立し、高低差に合わせて、樹木で作られた大きな橋が台地それを風の軋み音を鳴らしながら繋いでいる。

 風を受けてたなびく、連続して凧がゆらゆらと音を立てて揺れる。

 特に特徴的なのは、台地の大地ごとに大きい”紋様風車”が、雄大な勢いを持って回転し続けていた。

 

「はえーすっごい♪大きな風車だねぇ、それに一杯あるよ」

「そうだね。それに風が強い。これは注意が必要そうだ。

 遠くにあるはずだが、ギシィギシィと迫力の駆動音が空気を揺らしているような気がする。

 それに感嘆の声を上げるのが、カイトにミストラルの初見組である。

 

 これがこの街の大きな特徴である、”精霊予報”の風車であった。

 山の天気は変わりやすい、これは一部の憂いのマナスポットから溢れだし、山上から風として吹き降ろす。その属性値によって吸着されたり、掃われたりすることで気候が移り変わる。

 その流れと様子を、山の気候を観察する為の大きな指標が、この風車になるらしい。

 特殊な塗料を持って、それぞれに紋様が塗られて見えるのは、どんな意味のあることなのだろうか。

 ついでに風車の動力を、動力源としても利用してもいるそうだった。

 

ギィ、ガッシャン。

「さて、止まったか。ここからは歩きらしいな。脚は鈍ってないか、十分解してから歩くといい」

「っけ、ガキじゃあるまいし」

 街から少し離れた、低い大地に停車して、一行は他の同乗者と伴に馬車を降りた。

 彼等を運んできてくれたのは、この世界の一般的な移動手段の”チョコボ”の亜種である。

 より足腰が強靭に品種改良され、魔力を持ちい手の自重の軽減まで行う”赤チョコボ”がクエー!と成果を主張する様に鳴き声を上げた。

 

「バイバイー♪」

 それにミストラルは手を振って別れを告げる。

 対して、”赤チョコボ”はクエと一鳴きして、馬車の御者からご飯を与えられてがっついた。

 

 その背後で。

「上着を調整しよう。下手すればすぐ体力奪われる、何枚持ってきてたっけ」

「予備の一、二枚ね。けどあたしは高山育ちだから、割と大丈夫よ?」

「念には念をだよ。ローズも久しぶりだろうし、手持ちはこれ位か、もうちょっと現地で重ね着できる調整できるやつ買い足すかな」

 ローズは【練気法】を扱う関係で、戦闘を想定する際にはかなり露出が多い姿で出歩いている。

 その姿はこの強風の中だと体温が奪われそうで、心配にもなる。

 

 暫く歩く、整備された石階段を登れば都市の入り口となる台地へと繋がっていく。

 その入口には独特の装飾を施された門があり、衛士が幾らか立って検門を行っていた。

―――しかし、その両隣には余り馴染みのない。『機巧』の存在があった。

 

「……ふん、おかしいな。前に来た時よりいやに厳重だ。オレは後ろに下がるぜ」

「あぁ、そうか」

『黒蜘蛛の鎧』【黒剣士】

 町に訪れた経験のあるマーロー・ディアスが違和感を漏らした。

 自身の姿見への理解から、後方に下がって伺い、代わりに同ランクであるガルデニアが前に出た。

 

「待て、身分証明の提示と、来訪目的を言え」

「これで良いか、こちらに来たのは観光だな。なんだか物々しいな様子だが、何かあったのか?」

【阿修羅姫】【超絶美形】

 その雰囲気は、視線を集める為に。全員分の冒険者カードを提出して照会を行う。

 冒険者カードの中には、依頼でモンスターを討伐した時に用いる『証明版』(スタンチップ)と同じく、ギルドを介した行動が記録される。

 彼等は直前まで、精力的に活動していた冒険者である。

 ”冒険者ギルド”の半公営を介した記録はこういう所ではごまかし用もなく、優良な証明となるだろう。

 

「なるほど、南からの冒険者か。特段怪しい者ではなさそうだな。だが、こっちも忙しい、後ろが閊えてるんだ。詳しい話は冒険者ギルドで聞いてくれ、東に少し歩いた所に見えるはずだ」

「ああ、分かったギルドの場所の情報、感謝する」

 すんなり許可が出て冒険者カードを返してもらい、門を通された。

 その様子は、まだ”警戒態勢”と言った感じの風貌である。”厳戒態勢”には足りず、一応何かを用心しているといった具合の段階にみえた。

 

「んー、何があったんだろうね?あの機巧なんだけどさ、見た所、『大襲撃』(スタンピード)で出張る様な戦闘用だよ。町の入り口に配置するには物騒過ぎる気がするなー」

「さぁな、カイトは何か知っているか?何か心当たりがあるから、この『ドゥナ・ロリアック』に足を延ばしたのだろう?」

【商人】【レアハンター】

 職業と趣味を併せて、物品に全般に詳しいミストラルが疑問を漏らした。

 【機巧】とは、機械技術や魔導技術、またはその複合で動く機動甲冑兵器及び器具の事をさす。

 一般的にこれを駆る乗り手は『機巧操り』(ギアドライバー)と呼ばれ、冒険者の中にも所有して動かす者がいる。

 この世界の”発展・復興中の技術”である事や、人体限界を引き出す『魔具』の存在。

 そもそも生身の能力が高い為に、前提技術の専門性からも、一般的には手間のかかる強化アーマー的な位置で認識されている。

 それでも頭のおかしい奴はおかしく、戦闘用となれば町の玄関口に置く物ではない。

 外から来る者を全力で威嚇しているような物だろう。

 

「あー、はい。関連してるかはわからないですが、ここら一体に『人工精霊』の類が多く出没してるとは聞いてます。”護衛の時”、村を襲ってきたと同タイプの」

「……ふむ、あれか。察する荒事の可能性が高いな。明らかにあれは人為的なものだったからな」

「っち、まーた【預験帝】の馬鹿共が変な事やってんだろ。おい、アレが冒険者ギルドだぜ」

 ガルデニアが呟き、マーローが吐き捨てる。

 町の中の様子は、特殊な文様を刻んだ様々な人類種が行き来しており、余所者をジロジロ見て目を逸らす。

 疑いか、多少ピリピリしているように感じられた。

 

 そしてまた少し歩く。

 

 広間が見える。

 粗く削られた石畳みに風巻く様子を模したような文様が見える。

 この街は人の住む領域の台地の傍には、何とも言い難い間抜けな顏の彫刻が立っていた。

 

 そこには人が集まっている様で、取り囲む様に露店が並んで異文化風味の装束を纏った人が店子に立っている。

 商品には彫刻や塗装が施されている道具やら、言っていた様に地元酒の類などが見えた。

 中央では魔具や化学等で比率を落しつつある、【戦姫テイルレッド】が扱っていた(アレは肉体改造まで含めた別物だが)、古きオドマナの感応を補助する”呪印”や。

 意味の情報を与え、拠り所”精刻印術”を等の古い技術を継承する部族が集まり、交流する地がここだ。

 

~~♪

 広場の中心には吟遊詩人が引き語りをしていた。

 そんな辺りに見える無骨な岩肌の様に、無骨で異文化情緒溢れる町がここ【ドゥナ・ロリヤック】である。

 

 門から入ってすぐ東の方向に大きな建物が見える、アレがこの街の冒険者ギルドであるらしい。

 アクセスが良い中々に良い立地にある。

 

 ギルド中の装飾も異文化染みて、特殊な塗料で塗られた紋様が至る所に見えた。

 真っ直ぐ受付に足を運び。

「ようこそ、冒険者宿『クルナリアック』へ、冒険者さん。仮登録でしょうか?」

「ああ、お願いする。あとついでに、町の様子が変だが、何が起きているか教えてくれないだろうか」

 ギルドの受付嬢に仮登録の申請をして、町の様子に付いて素直に尋ねた。

 

「あーはい。そうですね、最近になりますでしょうか、この辺りに黄金色の特異な精霊の出没事例が多く聞かれて、それによってかなりの集落に打撃を受けてるんですよね。それだけならたまにある事なんですが、ここら辺の部族は”精霊信仰”が盛んでして、それに付いての反応も様々で……」

 ふわふわとした雰囲気を纏った受付嬢は困った様に顎に手を当てて、軽く世話話のように情勢を話していく。

 現地では知られている情報らしいが、まだ彼等の知る情報とイコールにはならない。

 

「”精霊様”の怒りだとか、【聖錬(中央)】の手先のこの町の陰謀だとか、強硬姿勢を取ってる部族もいるんですよねぇ、元々精霊の邪魔をするとかで、『調律器』(ハーモナイザ)の存在自体が気に入らないって連中もいるので、対応に困ってますの」

 高山都市【ドゥナ・ロリアック】は”異文化の波濤”である。

 独自の価値観や文化を持っているために、こうやってぶつかり合う事もある。

 部族出身からの冒険者もおり、血も混ざりつつある為に、少しずつ融和の方向に向かってはいるが、それでも中央事【聖錬】の事を快く思っていない者もいる。

 

「まぁこんな事で活動止めてたら、渇いて死ぬだけですからー、冒険者ギルドの方は普段通り動くんですけどね。貴方達も警戒はされた方がいいかと、ギルドの書庫でここらの友好的な種族と均衡な種族の地図はあるから、目を通すのをお勧めするわ。黄金精霊の情報もあるわよ?」

 受付嬢のそう軽い調子で言った。

 ”大精霊”級と推測されるそれを、撃退できるだけの戦力はあった。非常に厄介な物ではあるが周囲の未開領域…、高地から『隔離領域』の監視を歴史の源流に持つ為である。 

 街門付近に配置されていた戦闘用『機巧操り』(ギアドライバー)は高低差と悪整地をある程度無視でき、環境汚染に強い為に、中央から派遣されている戦力であった。

 この特性の為に聖錬西部の【円卓】と呼ばれる資源に溢れた”侵魔獄”に等しい地獄では、卓越した『機巧操り』(ギアドライバー)同士の殺し合い、競り合いが繰り広げられていると言う。

 

―――それでも体制側は心穏やかではない。

 友好的な種族とかに特使を派遣して、異常の狼煙だけは最低限あげる様にと、戦力を送っても。

 ”報告も届かず、その戦力ごと集落が壊滅してる”。

 聖錬の”騎士団員”級と見込まれた戦力がである。そんな報告も届いているのだから、過度な混乱を生まない様に自体をコントロールして今の小康状態がある事を、一般視点は知らないだけである。

 

「はい、これで仮登録は終わりました。もうすぐボウヤ達はB級に上がれそうねー、楽しみだわー」

「あ、うん。ありがとうございます」

 そんな感じの緩さを持って、冒険者ギルド『クルナリアック』の仮登録は終了した。

 これでこの町で依頼を受ける事が出来るだろう。

 

「ふむ、宿は面倒だから大部屋でいいか?」

「おっけーよ、そちらの方が安心だし、安いしねー」

「……俺は勝手に自分でとるから、そっちは勝手にしやがれ」

【孤独者の流儀】

 ついでにここに滞在する為の、宿部屋をギルドに申請して終わる。

 しかし人酔いがまだ治らぬマーローは、単独で宿を取るとの事だったが、個人の自由だ仕方ないだろう。

 周辺情勢が不安定であるからか、外部滞在者向けのそれはかなり余裕があるそうで、すんなりと通った。

 

 

 ●●●

 

 

 

 そして、ギルドに併設する酒場に移動して。それぞれ、こちらでの方針を話し合う事にした。 

「さて、君等は結局はどう動くつもりなんだ?考えを聞かせてもらうわ」

「アタシはパース、カイトに任せてるし!」

「あはは、ちょっと待ってください。とりあえず現地の状況次第って感じだったので…」

 向こうの前提情報が少ない故の、臨機応変に考えていた。

 彼等の目標は、現在露出している”黄金の精霊”を片っ端から叩く事ではない。

 おそらく存在する、その”元凶”の調査し突き止めて、それをできれば断つ事である。

 

 その目的に沿って、カイトは”情報屋”の情報を書き写した地図を広げて、しばらく考え込む。

「まずは、とりあえず線引きです。目標設定は現地の情報が無ければ厳しかったですから、この時間帯赤点の中心地の周辺の探索を終えて成果が無ければ、諦めて戻る感じに考えています」

 これは当初のプランであったが、現地の情報を鑑みて、安全・危険を振り分けて再度ルートを検討する。

 彼は知らない事であったが、これは目撃者のいない情報まで含んだ”現状では最も詳しい”情報である。

 ワイズマンが行使する【知識の蛇】という。

 喪われた遺失技術(テクノマンサ―)の補助を受け、卓越した妖精術を交えた”儀式術式”はそれを可能にしていた。

 

「ふむ、その地図が君等の情報か。なるほど下調べは結構していたようだ。ならば、私はギルドの書庫を借りて、ルートを模索してみよう。手伝えカイト」

「うん、よろしくお願いします」

【ディフェンダー】・【レンジャー:野狩人】

 少しばかり特殊技能と言えるようなものを持つ彼等が、現地活動への適応を考える。

 田舎育ち故に自然への向き合い方を知るカイトと、冒険者としての経験で予定を模索するのが得意なガルデニアが相談して動きを考えて。

 

「じゃあ、ボクも商品の仕入れついでに、色々聞いてみるよ。何か動くようだったら声かけてよ!絶対だよ?」

「なら、あたしはミストラルに案内ついでしながら、外で色々聞き込みしてくるわ。そっち頼んだわよー」

【商いの才】【理性蒸発】・【ムードメイカー】

 対して、ローズとミストラルたちは元々の目的と、ついでに現地の話を足で重ねてくると言う事だった。

 人当たりの良く、その快活さと裏表のなさで好印象を与える彼女等には適任だろう。と言うか、ローズがブレーキ役にもなる為に、その仲もあって彼女等の相性はかなり良い。

 

「……ふん、俺に何か戦闘以外の事を期待するんじゃねぇよ。まぁ酒場で聞いた話なら持ってきてもいいぜ。酒が入れば口が軽くなる」

 マーローはぶっきら棒にそう放って早々に席を立つ。

 酒場での情報収集は定番である。冒険者ギルドの権益が大きく、結果的に多くの冒険者が活動する【ドゥナ・ロリアック】では尚更だろう。

 独自の文化や技術や体質を抱えた、周辺の部落からの”上京者”への門徒を大きくするために、そういう形態を取っているのだ。

 聞けば【聖錬】の学問の中心機関である『牙の搭』へのスカウトもこの町に紛れてるそうだ。

 

「では、集合場所はまたここで、また後で会おう」

「気を付けてねローズ。一度来た事あるからって油断しちゃダメだよ。ちゃんとミストラル引き留めて、あとついでに重ね着できるタイプの、防寒着の買いだしお願い」

「わーかってるわよ。全くアンタはあたしのおかーさんかっての!」

 遠征地で、完全に逸れる事や、不測の事態を把握できないなど不都合が無い様にそれぞれの都合を告げて、決めたとおりに分かれた。

 

 彼等の傍迷惑な目的の為に、知り合いの手を借りている。

 それに申し訳ない様なむず痒い感覚がまだ抜けないが、善意は善意で認識して受け入れた方が、相手もこちらも世の中うまく回る。

「では、行こうか。ここのギルドは資料室は地下にあるらしいな」

「その、色々ありがとございます」

「気にするな、ただの趣味だ

 ただ、感謝を口に出す事を忘れない様に、それを当たり前としてしまえば腐る。

 感謝とは相手に伝え、自分に教える為にするものである。

(それを噛みしめて返せる時に還して、歩いて行こう)

 カイトは漠然とそう思った。

 

 

 

 ●●●

 

 

 

―――そしてまた場所が変わり、『クルナリアック亭』。

 

 地下の書庫施設にて。

「えーと、結構注意地帯多いんですね…、ルート取り大変だなぁ」

「それはそうだ。本来なら現地の案内人がいる事だぞコレは、とりあえずこれは最低限だ」

【レンジャー:田舎育ち】

 カイトが持ち込んだ地図を照らし合わせて、道を検討していく。

 地図の読み方や街道はガルデニアの方が専攻しているが、そこから環境や自然による驚異を想定するのは、田舎育ちと『役割』(ロール)の関係から彼が優れている。

 村ではないが、田舎町である【ラインセドナ】も未整地は多い。

 そこでこの一年近く冒険者として活動し、バッカ-としての基本知識を勉強し、様々な不整地を歩み、護衛で街まで渡り歩いた事で、カイトの元々の得手も成長をしているのだ。

 

「先程、冒険者に対する依頼を確認したんですが、こんな依頼がありまして……、ガルデニアさんの信頼なら受けられると思います」

 『定期連絡:周辺集落への周回』

 周辺の異常や無事を確認する為に定期的に行われる巡回依頼だった。

 これもコスト的な問題と門徒を開いていている冒険者は地元出身者も混ざる為に、循環させて周辺融和を考慮しての事であるらしい。

 

 今の時期だと高山都市【ドゥナ・ロリヤック】の周辺不安のせいで依頼のリスクが高いと認識されて、受け手も多くらしい。

 特に優秀な部族出身の冒険者は、故郷を案じて出身地に戻っているとの事だ。

 

「まず依頼を受けながら周辺地を歩いて慣らして土地勘に慣れて、そこから外れて個人的な調査をこなしていこうと思ってまして。慣れない場所は怖いですし」

「それがいい。幸い時間も資金もあるのだろう?急ぐことはないさ」

 そう、先輩であるガルデニアも同意しては纏めた。

 ただ彼女は、この残酷な世界で芽吹いた”好きなモノ”の為に、自分に出来る事をする為にいる。

 ”事変”の調査解決などは重要視していないのだから、安全性重視である。

 

「それにしても、ここらに危険性が高いのは鉱物系のモンスターですか、どう対処したらいいんでしょう」

「ああ、あれか。身体が金属とは言え実際殺せない程の頑強性はないさ、大体土壌との継ぎ接ぎだ。魔法か油で熱か凍らせて歪ませてもいいし、雷撃で伝えて霊体を焼いてもいい。まぁ敵に寄るがな」

「なるほど……」

【阿修羅姫】【陰陽術】

 それでも物理で殺すのは難しい類なので、一般的な冒険者には忌避されるものではあるのだが。

 通じるだけの魔を扱う技術も容易い物ではない。

 彼等は知らないが、重鎧を纏って、一般人の域を出ない身体能力で、ただ技術を持ってゴーレムの類と正面から殴り合え叩き壊す変態もいるにはいるから、この世界は業が深い。

 

 そうやって二人で大体の見当をメモにまとめ上げた時に。

 

「―――すまない。そこの資料はもう読みを終わったのか?」

【魔法剣士】【修羅道】【超絶美形】

―――絵に描いた様な騎士然とした男だった。

 一人の長い銀髪を流した、美麗の男が話しかけてきたのだ。

 その背には湛えられた純白の大翼が見え、その気配は他と隔絶しており、ある種この場から浮いている様にすら見えた。

 その質良く正当派の装備からも、物語から抜け出して来たような英雄の如し、さぞかし名のある戦士なのだろうと、一目で感じ取らせるそんな美男子である。

 

 どうやら、彼等が手にしている参照していた史料に用があるらしかった。

「あ、はいどうぞ。もう大丈夫です、もう済みましたから」

「ああ、感謝する」

 しかし、その表情は翳っており、ピリピリとした焦燥感を感じさせられる程張り詰めている。

 そんな彼に手にした資料を手渡し、一言で不愛想に去っていった。

 その翼の男の、違和感を感じながら。

 

「……ふむ?今の男、【人魔身】(ナイトメア)か、あそこまで特徴が出ている者は珍しいな」

「はぁ、ナイト、メアですか…?」

 【人魔身】(ナイトメア)”人類種から自然発生した魔人”の事をさす。

 生体における過度な属性汚染により発生すると言われ、生まれからの先天的タイプ、後天的タイプと存在するが、膨大な魔力だけではなく独自の固有能力や、特殊な力場を発生される生体上位に許された『月衣』等を纏う等強力な者が多い。

 弱点と言えば、完結して単一種族である為に子孫を残す能力が弱いと言う位である。

 

 割と常識的な部類の知識であるのだが、実際、”眼にするのは初めてだった”。

【凍結記憶】

 彼は何故か、吞み込むのが遅れた。

 

「どうした?様子が変だが」

「あ、いえ。何でもないです。上に戻りましょう、相当時間が経ってしまったし」

 少し笑って脳裏に残るしこりを振り払って、平静を装う。

 先の事を考えれば違和感はすぐ消える。そろそろ別れた他の同行者も、指定された集合場所に戻っている時間だろう。 

 予定は決まった、故に確認して共有しなくてはと、彼は気持ちを急いた。

 

 

 

 ●●●

 

 

 

 再度、場所を変えて。

―――【クルナリアック亭・併設酒場】

 

 再度、集合した一行がそれぞれに話し合う。

 マーロー・ディアスが戻っていないが、それを含めて待っていた。

 

「こっちは現地の地理と環境予測はついた。そちらの様子はどうだ、何か収穫はあったか」

「ん、こっちは気になる事が二つくらいね。何時もよりかなーり周辺との行き来が少なくなってさ、困ってるって事ね。【聖錬】からの調査依頼を受けた冒険者が暫く前から入ったそうね。『蒼天のバルムンク』って言ったかしら、聞けば聖錬の次期Sランク候補の冒険者の【鬼人八部衆】のとか呼ばれてるって話よ」

「んー、そだねー。ボクも住人の人達と”精霊術師”として話したけど、風の匂いが変な事が最近あるらしくてさ、どうにもみんな落ち着かなくてピリピリしてるみたいだよ?」

 一つは街の賑わいの話。それに付随して、環境が変化してるかもしれない。

 あとは”情報屋”が推測で言っていた中央からの調査隊、その話が二つ目だった。

 カイトはその単語に、一つ聞き覚えがあって反応する。

 

「『蒼天』…?聞いた事ある様な……。ああ思い出した!僕等同じように異変を調査してる冒険者だっだけ!」

 これも”情報屋”から聞いて、接触した時の算段まで立てていたのだが。

 日々忙しくて、すっかり頭の優先目標から忘れていた情報である。

 これは僥倖と言うべきだろう、目的を同じくするのだから接触できれば損はない。

 

「あー、そんな話あったわね。不安もあって有名な冒険者らしくて”広場”で吟遊詩人が詩っててさー、明るい話題として良く話に上がっていたわ」

「あぁ、私も聞いた。確かこうだったか『蒼天のバルムンク』、『大襲撃』(スタンピード)における”十罰スレイヤー”の一人だったか、曰く”全てを遮断する虹の翼を纏うおおいなるモノ”、『ザ・ワンシン』を打倒したらしい。最近話はあまり聞かなかったのだが」

 【鬼人八部衆】とは、役職でもない書き立てられる民衆からの自由称号である。

 『聖錬』で活躍している有力な冒険者の中で、有名な八人の事を勝手に呼んでいる名誉称号だ

 。民草からの評価の為に、”吟遊詩人”に謳われる身美しい者や、絵になり珍しい女性冒険者が呼ばれる事がある為に偏るが。

 それでも時期Sランク候補と呼ばれる実力は確かである。

 この世界は不確かな力なら、すぐに朽ちて落ちる物なのだから。

 

「うーん、詳細知るだけ凄い人だね。何も用意してないしまだ接触してもなぁ…、偶然会ったら挨拶して、意思を繋ぐかな」

「会えたら教えてね!サイン貰ってくるんだ!次期Sランク候補だもの、冒険者の頂点に一番近いって事だしさ、絶対超レアアイテムだ♪」

「ミストラルは変わんないわねぇ……」

【レアハンター】

 【鬼人八武衆】を含めて、更に”十罰スレイヤー”ともなれば、人の及ばぬ怪獣を打倒したまさに”英雄”の一人である。

 人は第一印象を重要視する物である。例えだが、乞食が強力すると申し出て説得力が出ようか。

 カイトは”英雄”を違う世界の人達と捉えている為に、木端であるCランクの冒険者である事も含めて、せめて自身の価値を示せる土産を持ち寄らないと話にならないと考えるのだ。

 

(んっと、どうしたものだか)

 なお、カイトは”情報屋”の情報が、土産に十分な価値のある物だとは気が付いていない。

 身近故に、国もこの位、いやこれ以上把握していると勘違いしている。

 仕方のない事だろう、”情報屋”はある種反則を使っているのだから、ワイズマン自身も目立たぬ様にそこは伏せて話している節があった。

 

 

 

 

 そして、またしばらく時間が経過し…、辺りの陽が落ちる時間の頃に。

 

 

 

 

「―――フン、こっちも戻ったぞ」

「お、マーロー遅かったじゃない。どったの?」

 やっと、マーロー・ディアスが合流した。

 その顔は少し赤らんでて、宣言通りにどの位かはわからないが、酒を飲んだ様子だった。

 しかしその様子と口調は微塵も変化していない。

 

「何でもねぇよ。吞みに来たここの兵士どもに酒を奢って、少し話を聞いただけだ」

「ふむ、酒が入れば、人間口が軽くなるものだからな」

 それは大人の情報収集の仕方だった。

 過ぎれば目的を成せずに、露骨なら怪しまれるだろうが参考の一つとして、彼は心に留める。

 なお、お酒にあまり強くなく、性格上も向いていない為、空振りのアプローチになるのだが彼は知らない。

 

「……愚痴が混じるから、ちょっと大げさかもしれねけどよ。兵士の話じゃあな、中央(聖錬)から派遣されてきた騎士団の連中が、幾らか行方不明になっているらしいぜ。”隔離領域”から何かしらの弩級のモンスターが這い出てきたとか、推測が流れているが、詳細はわからねぇ」 

 それは一般には知られぬ……、いや混乱を防ぐために街の裏事情の話であった。

 それを持って街の意思決定を司る上層部はかなり憔悴している。徘徊する黄金の”人工精霊”の事も信仰と重なる事もあって、色々と苦慮が耐えないのが現在であった。

 

「普通はモンスターはそんな丁寧な事はできねぇ、精鋭連中なら生存者が情報を残してるのが普通だ。気を付けろ。自体は知られてる情報より、相当ドデカい話かも知れねェ」

「―――…そうですか、ありがとうございます」

 そう彼は重苦しい口調で締める。

 マーロー・ディアスはこの調査は空振りに終わると思ってた。

 その位、この世界で人が死ぬことは有り触れた事で、その真実を掴むのは雲を掴むような話である。

 しかし、冒険者ではなく”騎士団級”の信認を帯びた人員が消息を絶っている。

 その事実は重い。

 

「ほへ―、物騒だねぇ」

【理性蒸発】

 ミストラルが呑気な声で場を和ませるが。

 しかし、その驚異が現実を帯びてきて、少し気が引き締まる思いだった。

 

 

 

 ●●●

 

 

 

 

―――とある一方で、同時間の【ドゥナ・ロリヤック】部族集落。

 

 凍り付き、砕かれた、全ての建造物は意味をなくし。

 使い手を喪った武具が辺りに散らばり、しかし人の痕跡は屍すら転がっていない。

 周囲に刻まれた傷痕だけが、激戦の跡を物語る。

 ”その存在の全て”を奪われて、空虚なガランドウになっていた。

 

 それはオド・マナ由来の魂の離散による霊体情報すら残らない、完全な滅びの光景である。

 

『キュイーン、キューン、キュイーン』

【円環精霊】【月衣:電制フィールド】【黄昏の守護者】

 何時かの襲撃者、”黄金の精霊”周囲を周り甲高い音を鳴らして漂い。

 

 その中心にて、圧倒的な存在感を示す虚無の人型があった。

『―――――――』 

 特徴的な真紅の十字の杖を身に付け、闇に潜む紅の三眼が紅蓮と暗闇を照らしていた。

【死ノ恐怖】【影ヲ疾走スル者】【禍々シキ波】

 この存在から、現状から”死の恐怖”逃れた人類は存在しないが故の情報皆無である。

 世界の、意図された(デザイン)された人類に対する敵対存在であった。

 

 ヒトガタがその腕を掲げ、握りしめる。

 

『――――――』

【紅の三眼】【凍結の櫃】【円環魔術:リ・モデリング】

 すると、凍り付いた全てが何事もなかったように戻り、痕跡をまた混沌とさせた。

 そして、その虚無の人型は”黄金精霊”を自らの体内に吸収し、暗闇の中に消えていくのだった。

 

 静寂に風がたなびく、後に残るのは壊滅した集落の痕跡だけで在った…。

 悪意の影は、彼等の近くに存在している。

 

 

 

 

 

 




GMから開示の在った呪印技術出したくて、割と歪な都市構造に。
やっとスケィス影だけでも出せたぞおらぁ!(30話越えから目を逸らしつつ)

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