ポンコツ世界異聞=【終幕を切り刻む者達《ハッカーズ》】   作:きちきちきち

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遭遇【ドゥナ・ロリヤック】

 昨日のマーローの話はあったが、幾ら脅威を再度感じさせられようと、ここまで遥々来たのだ。

 簡単に止まる訳にはいかない。

 

 一行は、慣れぬ山行ゆえに一日休憩を。

 体力を万全に回復させて、依頼を受ける事にした。

 

―――翌日の【ドゥナ・ロリヤック】。

「さて、準備はできたか」

「おっけーよ、さぁ張り切って行きましょう!」

「非常食も、精霊避けも『ホットドリンク』も持ったし、調整用の上着だって持ち合わせてる。緊急の狼星も新しい物だし…、はい大丈夫です」

【レンジャー:野狩人】

 魔具である変形槍を構えたガルデニアの凛とした声が響く。

 今日の目的は『ドゥナ・ロリヤック』の、周辺の友好的な部落への”定期連絡兼調査”である。

 ある程度整備された道を行き、設定された高低差溢れる巡回ルートを回るのである。

 

「楽しみだねぇ♪初めての所は何時もワクワクするよ。どんな出会いが待ってるかな」

「何時も楽しそうだな”理性蒸発女”…。浮かれて術師をぬかるんじゃねえぞ」

  o(≧▽≦)oと、帽子の耳を振り回しながら、幻視される様に張り切るミストラルに、マーローは眉を顰めながら、それでも術師としては頼りにする。

 隊列は前衛をガルデニアとカイトが、後列にマーロー。中心に魔術師であるミストラルがいる構成。

 大体、先導者”レンジャー”凌ぐ”ディフェンダー”が前列、中心対応力を持つ”呪文士”に護衛の”重剣士”、何だかんだ精神的な安定性が強い”黒剣士”。組んだ時の大体の配置である。

 

「いやー助かります。情勢不安で受けてくれる方も最近少なくて、これが”ギルド信認の印証”になります。無くさないでくださいねー、処罰がありますから」

「了解した。なに、危険性で手当ても増えている。問題はないわ」

 相変わらずフワフワな口調で、こちらに語る『クルナリアック亭』の受付嬢。

 代表して名目上パーティリーダーであるガルデニアがそれを受け取って、懐にしまいこんだ。

 

「それを見せれば、友好的な部落だったら大体顔パスですが、ギルドの面子を背負っている事を自覚して、見合う行動を心がけてくださいね?お願いしますよ」

「わかっている。そんな不埒な面子はいないわ」

 受付嬢の念を入れた注意を受けながら、一行はギルド『クルナリアック亭』から外に出て。

 外周の為に広間を経由して街の出入り口になる門へと向かう。

 

「お、一昨日のアンタ等か。確か冒険者だったな早速集団で外に足を運ぶたぁ早速依頼か精が出るな」

「こんにちわ、良く覚えてますね」

「最近出入りがめっきり減ってなぁ、新参は珍しいのよ。ここの”精霊風車”の詠み方はわかるか?今日はとりあえず異常はなさそうだぞ」

「おー、丁寧にありがとねー♪」

【高山の門番】【機巧乗り】【迎撃態勢】

 物騒な戦闘用『機巧』に反して、中の人は気さくに彼等には話しかけてきた。

 その見送りを挨拶を交して背後に、門を降りて道を行き、『調律器』(ハーモナイザ)の範囲から外れたからか、風に多少強くなり、風自体に”緑色の実体”が見えてくる。

 おそらく、小精霊化から中精霊化しているのだろう。そんな自然が濃い環境である。

 

「わー、すっごい!本当に風の形が見えるんだねー、見てみて、触れもするよ♪」

「……おい、理性蒸発女。あんまはしゃいで触るなよ?”精霊の戯れ”って奴で、強い精霊はそれに捕えられて空に打ち上げられて、死んじまう事例だってあんだぞ」

「大丈夫だよ。ボクは妖精術師でもあるからね♪」

【理性蒸発】【妖精術:使役妖精】【属性:光・火】

 その緑色のソレに戯れるミストラルに、マーローは顰め面で注意を飛ばす。

 彼女はそれにお構いなしに、満足げに数匹その小精霊を、術式をもって付き添わせて制御していた。

 ”呪文士”ミストラルの属性(オド)は、生来の天と空の混合属性の”光”に、愛おしの伴侶を夜な夜な襲って馴染んだ火属性のトライキャスターである。環境への親和性は割と良い。

 

 なお緊急時に精霊を燃料として燃やす気満々である。

 可愛く愛でるけどそれはそれ、この世界はサツバツであった。

 

 水属性が豊富故に水脈を元に『調律器』(ハーモナイザ)で、マナの属性値を調整する都市がある様に。

 風が豊富な『ドゥナ・ロリヤック』では調律する為、風を受けて観測する役目も負っているのが、街でゆらゆら靡いていた”連なってた風凧”であったりする。

 

 しばらく、ごつごつした岩肌の道を一行は行く。

 

「うー、風が強い」

「大丈夫カイト?前列変わろうか」

「大丈夫だよ。散らせば多分問題ないから」

【精霊術】【蛍火】

 カイトはそれとは逆に範囲を外の出てこの様に、猛烈な洗礼を浴びせかけられていた。

 彼の場合はそこまで”魔術術式”に精通してる訳でもなく、先天体質で精霊に好かれやすいオドを持つ為、有体に言って、多少精霊に(タカ)られていた。

 しかたなく、早速オドの放出を抑える『迷彩外套』を被りながら、オドを燃やした掌を引っ込める。

 

「モンスター避けの”気配迷彩”を使おうとしたらこの様か、ちょっと多すぎて風に流れますね。ミストラルは行けます?」

「ボクも無理だねー、二人で協力しても魔力の効率に合わないと思うよ」

「そうですか」

【精霊術:気配迷彩=不発】

 ”多様・維持に優れる”ミストラルと、”出力・付与に優れる”カイトが協力すれば.

道具も併せて、気配を偽装した”移動簡易結界”まで形成可能ではあるが、この環境では燃費は見合わない。

 完全に霧散させて、精霊を散らす。

 

「……こう色々組み立ててると、本当に、少し見ない間に立派になったのだな」

「まぁそりゃ、一年近くもあれば術の一つでも覚えますよ、ちょっとズルしましたし?」

 そう言われて思い出す、”ツインテールの少女”による調律式のパンチ。

 カイトは基礎知識の勉学を重ねて来て、感情にオドが多少連動すると言う事を知った。おそらく”痛み”や”驚き”で相手を驚かしてオドを表に出させてそれを捕まえて、調律を施したのだろうと推測している。

 なお”ツインテールの少女”本人はそんな自覚はなく若い彼の反応が面白そうだからと、感覚派で全部こなしたのだが、カイトは知らずに畏怖と敬意の念を憶える。

 

 それがなければ今も、己の身体を削りながら、精霊に喰わせて術を使っていただろう。

(うん、本当に僕には勿体ない位に)

 とにかく物語に良く語られる様な、大いなる存在からの”加護”などの類ではないが、それでも破格な処置である。

 

「いや、真摯に君が取り組んでいた事は知っている。出来ない奴は出来ない者だ。自信を持ちなさい」

「はぁ…、やっと初歩で術を使える程度なんですけどね」

 ガルデニアはそう言って微笑んで、カイトの背中を叩いた。

 彼女は即席で術を扱う適性が余りなく、槍に傾倒した経緯がある為に、教育を受けずにある程度の水準の術を扱う程度でも羨ましく思う物だ。

 

 そんな感じ話ながら、しばらく、地図で指定された道を歩く。

【レンジャー:野狩人】

 山の岩肌を植性を観察し、周囲を警戒しながら雲の様子を時々チラッと見て、天気の変化を観察していく。

 その山岳の道は、高低さが激しいが割と整備が行われており、疲れは余り感じなかった。

 一番の重装備である、マーロー・ディアスの歩幅に合わして前列組は歩み速さを調整していく。

 

 

 

 ●●●

 

 

 

 暫くまた時間が進む。

 

 

 歩いて歩いて二刻程か、峠に辿りついた。

 

 その上から見下ろした風景は山と言うより大規模な渓谷である。

 雄大に自然のアーティスト達が、自身等の痕跡を残すように山に剃り込みを残している。

 人智の及ぶところではないそんな雄大な光景であった。

 

「うわー!すっごい風景!!」

「あ、あそこに見えるでしょ?あれがここらで有名な”雲貝”って奴ね。地を這うように進むから。分り易いわ。アレが過ぎた後は鉱石系のモンスターが出るからねー。気を付けましょう?」

「うん。進路と時間帯を…、幾つかぶつかるねこれ。一旦ここで休憩しましょうか」

「よし、わかった」

【レンジャー】

 ローズの声に呼応して、とりあえず休憩のキャンプである。

 カイトの故郷の裏山を行く時と違う。高山故に空気は薄いし風は体温と体力を奪っていく。

 適度に休憩をとらねば、うっかり事故も起きかねないだろう。

 

「よし、焚き木を組んだわ」

「ありがと、よいしょっと」

【蛍火】

 簡易的に焚き木を組んで、【蛍火】を種火に付けた。その性質由来か、小精霊が適度に集まって良く燃える。

 湯を沸かして、携帯食のパンにモンスターの干し肉を湯にふやかして、簡易的な昼飯とする。

 

「そうだ、焼いたチーズ要ります?しょっぱさと雑味が少しは解消されますけど」

「……なんで君は、そんなもの持ち歩いているのだ?」

「持ち運びやすいですし、熱で簡単な加工できるので便利ですよ?」

 カイトが最近集めているチーズの類だ。保存状況がよければ長持ちする物で、種類ごとに味も異なる。

 熱だけでかなりの性質に変化する為に炎属性もあって、料理を専攻していない、一手間の加工として重宝しているものだった。

 

「まぁ、貰っておくわ。ありがとう」

「あたしの分もねお願いね」

「はい、どうも」

 ローズとガルデニアのパンを受け取り、軽く焼いたチーズとふやかしたモンスターの干し肉を挟んで返す。

 この世界の一般的な食料の肉である幾らでも湧いてくるモンスターであるが、その実多種多様な雑種であり、味も様々で時に雑味が強く時に大味だ。それを誤魔化すのにチーズは有効だと彼は考えている。

 一人なら考えもしなかっただろうが、誰かに喜んでもらえるとなれば身も入るという物だった。

 

「っけ、変な所でマメだなオメェ」

「あー、わかる便利だけだよねー、ボクはお肉の味の方を優先するけどさ」

【人妻:手料理】

 

 休憩して食事を挟みながら、暫く会話しながら時間が流れて…。

 峠からの風景を眺める。植生も豊かな様で、様々な草木が強い風に負けずにたなびいて踏ん張っていた。

 

(この果物食べれるな、昔は野草や果実集めに登ったけなぁ、畑だけじゃ食べるのに足らなかったし)

 基本的な知識は大人に教えてもらって、後は空いた時間に自由気ままに登っていた。

 薬になる薬草を持って帰ってきたときには、大きい家とお肉とか乳とか交換してもらっていた物である。

 そんな貧しくて、当たり前を懐かしむ。

 

 

「―――さて、そろそろいいな。行くぞ」

 そして休憩も終わり、それぞれの立て掛けていた装備と武器を拾い。

 また山道を歩きはじめるのだった。

 

 

 

 

 ●●●

 

 そろそろ町から出始めて三刻過ぎた頃。

 予定のペースならば、そろそろ目的地に到着するかと言う時間である。

 

「チィ、止まれ」

【迎撃態勢:孤独】

 後列のマーローが一声、一行が歩みを止める。

 何事かと思い、周囲を見渡してみると丘の上に”大きな”大岩が不自然に幾つもあった。

 大体、それで察せられた一行は武器を構え、臨戦態勢を取る。

 

「とりあえず、ここら辺って落石って多いですか?」

「―――フン、そんなにないはずだ。ここらは水属性があまり強くない、ガレは余りできずらい。風に削られて摩耗していくのが殆どだ」

「なるほど、つまりあれは……」

 噂に聞く幻属性の”雲貝”で産まれた鉱物系のモンスターと言う奴だろう。

 丘上の位置エネルギーを利用するかのように、敵対する人類種をどっしり待ち構えていた。

 どう感知しているかは知らないが、おそらく、その進路上に立てば怒涛の勢いで転がって、こちらを踏みつぶそうとして来るだろう。

 

「どうする?あんなデカいの上から転がって来たら、アタシでも壁やんの難しいと思うけど」

「やるしかないだろう。しかし先に気が付けたなら油は勿体ない。ミストラル術はいけるか」

「はいよー♪燃やしていこうか」

【魔術師】【精霊術】・【陰陽術】【固有術:森】

 その掛け声と伴に、ミストラルが詠唱を紡ぎはじめ。

 ガルデニアがダガーに括り付けた札と”森属性の汚染種”を投擲する。目配せで、お互いの準備が完了した事を察して。

 

「―――行けぇ”光の矢”(レイザス)!」

【魔術師:二章魔法】【森眼】

 術師であるミストラルはお得意の狙撃用の術式を持って、丘上の狙撃を行う。

 そこでまだ留まる様ならまぁ良し、カイトの【蛍火】を持って豊富な精霊(燃料)を掻き集めて、撃ち込み続け少しずつ削る。

【岩石生命】【丸くなる】【転がる】【頑強】

ゴロゴロンゴロン!!

 今回の様に、驚いて、交戦できる低所に降りてこようとするならば……。

 

「よしきた、万象見鬼、風を解し森に崩さん……、奔れ【木伴装】!!」

 ガルデニアが印を結び形成した森属性で急成長した、壁として機能する程の強度の木々が”カタパルト”を形成して、”岩型のモンスター”を勢いのまま更に上空に打ち上げた。

 転がる勢いそのままに、更に高みから”墜落”させる。

 彼女の森属性の固有術の精度は、最近は自らの寄せ植え(趣味)の地味に上がっているのだ。

 在り方だけで、そこまで変わるかと思うが、まず魔を扱う術はオドの放出がまずの難関となる為に、向き合い方だけでも、ブレイクスルーのきっかけになる物だった。

 

―――ゴガシャァアアアン!!!

 その衝撃をモロに喰らったモンスターは、その芯まで割れてしまう物もいた。

 頑強な金属なモンスターとて、高い所から落ちれば死ぬのである。

 このモンスターの名前は『ゴローン』、オーソドックスな岩と金属の土壌から産まれたモンスターである。

 本来ならば一〇〇kgもの重量が、位置エネルギーを持って襲ってくるのは脅威でしかない。

 更に岩で出来た両の腕から岩石等を飛ばしてくる、原始的に恐ろしいモンスターだっただろう。

 

 しかしその自身の攻撃性を、母なる大地に抱擁されてしまえば一溜まりない。

 割れてない類は材質により特性『がんじょう』を持っていた類であり、特性『いしあたま』であった類は、例外なく砕けていた。

 

「フム、無事なのもいるか存外頑強だったな。近づくなよ。こういう類は追い詰められれば破裂する」

「了解です」

「あいさ、いくわよー!」

【魔法剣:虎輪刃】・【闘牙剣:スマッシュブロウ】

 そこにすかさず容赦なく、カイトとローズが追撃を掛ける。

 ローズの生体波長を溜めて薙ぎ放つ一撃は、威力が低いながらも射程を持っている。

 なお、マーローは遠距離手段に手順がいるので、魔術師の周辺での新手の警戒待機態勢である。

 

 もはや虫の息であった岩の塊に止めを刺していくのだが…。

―――ゴグオオオオオオ!!

 群れのリーダーだろうか、一匹だけ違うモンスターが混じっていた。

 更に躯体の構成純度が上がり、鈍い金属色をしている二足歩行のモンスター…。

 『ゴローン』の進化個体である、『ゴローニャ』である。

 

ゴゴオオオン!!

【岩石の如く】【マグニチュード】【超頑強】

 自身に地属性をばら撒いて、辺りの大地を振動を伝える。風水技術による地形変革に似たそれは、環境によって威力の変化する”共振破砕技”。

 普通の冒険者相手ならばこれで脚を滅殺か、二手は稼げるほどの範囲攻撃である。

 

「―――で?」

『ダッシュブーツ・改』【ガゼルフッド】【阿修羅姫】

 だが、あいにく普通じゃない冒険者であるガルデニアが居た事で、変形槍による魔力撃混ざりに殴られて、すぐにその放出は止められる。

 彼女は自分の森属性を利用した『ダッシュブーツ・改』の反発力で、即座に衝撃を利用して跳ね飛んだのだ。

 

「チィ、クソ硬度で割れなかったのがいたか」

「嵌め殺すわよ!!」

『黒蜘蛛の鎧』【疑似魔法剣:アンゾッド】・【ウォークライ】【カバーリング】

 強敵を察し、動きを解放され一番頑丈であるローズが再度、生体波長剣を纏いながら突貫し壁に。

 マーローが鎧の機能を解放した”黒霧の剣”を狙って、足元を斬り付け妨害する。

 現状の”黒霧”は闇を主にした水も少し混ざり、闇属性の性質を水が変質し、足場を浸食して、相手の重心を奪い動きを妨害する。

 ”アンゾット”(闇の溝を彫る)である。

 それがマーロー・ディアスが取得したの現状の魔法剣の一つである。

 

―――ご、ぐおおぉおおおん。

【岩落とし】【超頑強】

 岩塊のモンスターは連携にうめく。

 思うように動けず、岩子を剥がしてぶつけようとしても武器を盾にした重剣士(ローズ)の壁に通らない。

 その後は蹂躙劇である。幾ら頑強とは言え、”連携”する三人に囲まれて勝てる訳もない。

 しかし、しかし、それでも人類種に対し揺るぎない殺意を蓄えるの儘に、唸り震える岩塊。

【大爆発】

 先の”マグニチュード”を自身の内側に向けて、共振を貯め込み、自壊して衝撃をばら撒こうとする。

 そう己が死ぬとしても、人類を駆逐しようとするのが、人類の敵対存在(モンスター)と言う存在。

 

「上に流すよー、手を貸してー」

「はい、ただの燃料ですけどね」

【魔術師:設計術式(モールドマジック)】【ダブルキャスト】【妖精術】・【精霊術:使役精霊】【蛍火】

 しかし、それに至るまで十分過ぎる時間はあった。

 研ぎ澄まし鋭く武器とする”魔術使い”とまた違った、術を制御して現象を制御する魔術師ならではの柔軟性。

 準備期間を持って彼が『蛍火』と『絆の相刃』でもって”奏であげ”、手なずけた風の精霊の制御を借りて、モンスターの足元に誘導させ…。

 

【四章魔法:リジュローム】

 それは”範囲””媒体”(精霊)を指定した風の四章魔法。炸裂させて爆発の衝撃を風で流し上昇気流に乗せる…っ!

 風属性の精霊に溢れたこの地であるから可能になった魔術。

 この世界の魔法師と言うのは明確な壁ではない、魔を扱う術を”効率化する為の知識”である。

 最悪、魔術が使えずとも取得でき、幾らかの補助が乗せればレベルが低くても”大魔法”に近い物を扱う事も出来なくもないのだ。

 

「フンっ!」

【打ち返し】【闘牙剣:スマッシュブロウ】

 相殺しきれない衝撃波は更に最前線のローズが荒く薙ぎ払って、完全に引き裂いた。

 これで今回の戦闘は封殺にて終わりを告げるのだった。

 

「フン、呆気ないな。集団で掛かればそんなもんか」

「ふー、片付いたわね。こんな群れに遭遇するなんて、本当にギルド回ってない様ねー」

【迎撃態勢:孤独】

 マーローがその精神性で警戒態勢を維持しながら。

 それぞれに己に武装を格納し、呼吸を整えオドの隆起・緊張態勢を解く。

 

「どーする、コイツら何か剥ぎ取れる?」

「んーわからない。多分重たいから目的の部落ももう近いし、そっちに報告して取れる物があるなら取ってもらおう」

「とりあえず僕はこれ貰ってくねー、記念品だ♪」

【レアハンター】【バッカ-Lv1】

 離散した使用法も良くわからない素材?の処遇を適当に決めてた

 ミストラルが最後の群れのボスから破裂した中心核の一部を拾って、異次元収納カバンに一つしまった。

 思い出も彼女の収集対象である。

 

 

 

 ●●●

 

 

 

 その後は少し歩けば、”定期連絡兼調査”の目的地である集落に辿りついた。

 部落の門番には”ギルド信任の印章”をみせれば、笑顔で迎えられ、すぐに通してもらえた。

 その規模は三百を少し超える、高山都市『ドゥナ・ロリヤック』周辺の、部落としては少し大きめの類である。

 しっかりとして石細工の壁が築かれており、特殊な塗料の紋様がそこに塗られ、臭いもあって独特の雰囲気を醸し出してる。

 これは古くから継承される”モンスター避け”と”風纏い”の複合技術である。

 壁から内部の棲家は木々の上と融合した、無粋な言い方でツリーハウスとして存在している。

  

 岩璧の上には屈強でがっしりとした身体に紋様を描いた戦士が、村の見張りに付いているのが見られる。

 そんな自衛戦力は揃った”友好部落”である。

 

「なるほど、『ゴローン』と『ゴローニャ』の群れの残骸か感謝するぞ”来訪者”、あれらの残骸はとても良い肥料になるうえ、『ゴローニャ』の核は精霊への御伺いに便利である」

「そうか、まぁ私らには不要な物だ。好きに使ってくれ」

【呪印戦士】【風の担い手】【頑強】

 パーティの代表者として、ガルデニアは部落の代表者と話を通す、彼も屈強な戦士と察せられる。

 単純に勿体ないからと、報告しただけである。

 

「”我ら”の誇りは等価交換である。施しは受けん、それが善意である物なら尚更にな。若い衆を向かわせる。それに応じて報酬を出そう、上の都で聞く金子(ゴル)とやらはないがな」

「ふむ、感謝する。すまないが出来るだけ軽めの物で頼む」

 代表同士の話は付いたようだった。

 物々交換は田舎育ちのカイトにも馴染みがあるが、外貨を稼ぐ手段に限られていた、彼の故郷の田舎とは違いそれを”誇り”評すのは不思議な感覚だった。

 

(んー、場所が変われば、色々変わる物だなぁ)

 誇りと評するそれを、そういう物かとのほほんと認識して解釈を付け加える。

 

「―――とにかく、警戒態勢をしいているが、こちらの方では異常はない。氏族の方もだ。契約通りに異常があれば狼星を上げる」

「そうか、とにかく平穏無事であると、ギルドには報告しておこう。”紋章”を持っていくぞ」

「ああ、近頃は”精霊様”は騒がしいが、それに応じて備えてはいるのだ。とにかく、泊まる場所は右奥の建物だ、既に同業者の先客がいるが、騒ぎは起こすなよ」

「む、先客だと?」

 今から戻れば夜の山道を歩く、それは流石に危険である為に、部落に一晩泊まる、それが依頼契約だった。

 どうやらこの不安定な時期に珍しく、他の冒険者がこの部落に訪れているとの事だった。

 依頼のブッキングでもなければ相当好き物だろうと、疑問を抱く。

 

 一方でカイトは、自身の目的に関する事を部落の代表者に問うてみる。

「あのすみません。ちょっと岩璧の上で、ここら辺の様子見せてもらっても構わないでしょうか?」

「む?あの男と同じようのことを言う。構わん、残骸の借りもある。見張りの邪魔にならない程度なら構わんのである」

「ありがとうございます」

【レンジャー:野狩人】

 村の代表者のである大男から、快く許可を得る事が出来た。

 内心ぐっと手を握る。これで周辺地の詳細を得る事は無理でも、岩肌や植生などは把握できるだろう。

 個人的な”調査目的”のための布石である。何事もこうして少しずつ、そうでなくては進めない。

 

「フン…?まぁいい」

「では、私達は部屋に戻って休んでいるか。魔力も使った、集団で動いても邪魔になるだろう」

「だねー、ボクも見たいけど、流石に補助あっても”四章”は疲れるぅ~」

 珍しく疲れたような表情を見せるミストラル。彼女の魔術師技能は一流水準(Lv3)に届いておらず。

 魔導具『複合記貝』(デコードトーカー)や、カイトの補助を付けても単純に効率化が足りてないのだ。

 それでも彼女も、お金の暴力で徐々にCランクから逸脱しつつはあるのだが。

 

「アタシは付いていくわよ。見知らぬ場所で単独行動なんて、もっての他なんだからね」

「ん、ありがと」

【生命活性】

 ローズは相棒と同行する。

 二人程度ならばそこまで邪魔になる事もないだろう。

 

 部落の住人達と、挨拶を交しながら防壁の方へと足を延ばす。

 反応は話を見ていた住人が噂を浸透させたか、『ゴローン』の残骸の件もあって割と好意的である。

 こういう自身の文化を強く持っている部落でも、来訪者というのは貴重な娯楽であった。

 

 岩の防壁を登れば、この辺りの地形が一望できるような立地だ。

 一行が休んできていた峠も、ここから見える。

 この様になっているのは防衛の理由だろう。丘上都市に弓使いを配置はすれば強い。

 古来から言われている。

 

「あら、先に見えた”来訪者”ね。落ちない様に気を付けな」 

「お邪魔するわよー。凄い場所ねぇ、あたしの故郷なんか、似たような場所だけど光景は砂漠ばっかだからさ」

「そうなんかい?確かにアンタから似た様な匂いがするね。何処出身なんだい―――」

【妖精弓手】【呪印】【錬気法:オウルビジョン】

 その岩壁には、同じく特殊な文様を身体に描いた女戦士が、弓を構えながら見張りに付いている。

(露出が多くて、ちょっと目に毒だ)

 ローズといい。

 ”練気”を扱う様な高山の戦士は大体みんなこんな感じなのだろうか。

 

【レンジャー:野狩人】

 少し、石璧を歩いて渡いて、風景を自身の役割(ロール)の感覚と知識から推定して解して記録しておく。

 その最中で、部落の戦士とは違った人影と遭遇する。

「む、貴様か。先にも会ったな。『クルナリアック亭』にいたのだから、冒険者なのは知っていたが」

「えっと、あなたは……」

「ん?カイト知ってるの、この羽ふわふわの伊達男」

【人魔身:蒼天の翼】【超絶美形】

 冒険者ギルド『クルナリアック』の地下資料室で出会った、特徴的な翼を湛えた人魔身の男である。

 彼はその端正な顔を険しくしながら、防壁の上から周囲を見渡していた。

 

 翼の彼はこちらを一瞥して。

「何をしに来た、見た所Cランク(駆け出し)だろう?近頃ここらは危険だ。用が済んだなら早々に街に戻れ」

「はぁ、いや仕事ですよ。部落の”調査連絡”です」

【精神焦燥】【天然】

 いきなりぶしつけにカイト達を否定してくる様な、言葉を投げつける翼の男。

 なお彼は至って真面目に忠告しているつもりなのだが、とある事情で彼には精神的な余裕がない。

 元々人の空気を読むのは苦手な彼は、更に突き放した様な感じになっているのだ。

 

「何よ感じ悪ぅ!」

「まぁローズ。僕はカイト、Cランクの役割(ロール)”レンジャー”です。あなたは?」

「む…?」

 直情的に憤る彼女を諌めて。

 そんな事で挫けていては、特にマーロー・ディアスとパーティなんて組めないだろう。

 とにかく、悪い人な感じはしない。距離は取られても悪印象は持たれぬ様に、まずは当たり前の自己紹介から始める、大体名前を憶えてもらうだけで、次の応対があれば印象が変わる。当たり前の処世術だった。

 

「俺の名は”バルムンク”、Aランクの冒険者で【蒼天】とか呼ばれているな。こちらに出向いたのは調査目的で、休息の為に集落を利用させてもらっている」

「…っ、そうですか、あなたが」

 それに根は真面目な天然である銀髪の剣士が、相手に目的まで詳細に話した。

 やましい事はないとはいえ、名前だけでもいいだろに、これが彼が天然たる由来である。

 

 それはともかく、その名には近くに話題にも出ていた。

 聖錬次期Sランク候補『鬼人八人衆』、過去の大襲撃(スタンピード)における『十罰スレイヤー』の一人。

 推定、彼等と願いを伴にすると推測される冒険者である。

 

―――”【蒼天】のバルムンク”。

 それが良くも悪くもこれから関わっていく事になる、”英雄”である彼との初対面だった。

 

 




そろそろ全員中身詰ってきたし。
ガルデニアも揃って、5人いると歴戦個体でも出さないと蹂躙だよ!(出すと負けかねないけど)
彼女は経歴的に普通にマンチします
『ゴローン』はおそらく土壌混じってるタイプだから、直接殴られても斃せるし。

『ゴローン』と『ゴローニャ』の出展はポケットモンスターから。 
『ゴローニャ』の抜け殻は肥料になるらしいので、利用法は原作参照です。

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