ポンコツ世界異聞=【終幕を切り刻む者達《ハッカーズ》】   作:きちきちきち

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覚醒【ドゥナ・ロリヤック】

『ドゥナ・ロリヤック』

―――月明かりが薄く照らす緑生い茂る谷。

 その降り注ぐ月光と穏やかな風が、木々を揺らし、普段は想像を描き立てさせる風情があるのだろう。

 だが。

 

【領域作成:禍々シキ波】

 それが今は無粋に塗り潰され、銀砂の波が辺りを覆い尽くし、波立たせ。

 異常な空間を形成していた。

 

 その中に双剣を構える少年が双眼を見開いて、重心を前に傾けて地を蹴った。

 カイトは先の『ドゥナ・ロリヤック』の、おそらく筆頭防衛戦力である【機巧操り】(ギアドライバー)との交戦は、極所的ではあるが『太陽の腕輪』で屈折率を操作して観察していた。

 遠くからでもその位、目立つ輝星の戦闘だったのだ。既にその観察も動きに反映されている。

 

『黄昏の腕輪:電解介入(ゲートハッキング)

 銀波を拒絶する様に弾き分解しながら、時に利用し距離に踏み込もうと鬱蒼とした地を駆ける。

 対して、『死神』は、鬱蒼とした木々を払いながら後退し、高い空間把握を持つ紅の三眼を傾けて追いながら。

 

ブゥン!

【憑神の杖】【怪力】【継承・夢幻羅道】

 その怪力で木々を粉砕し視界を拡げながら、迎え撃とうとする。

 ”3秒”それが『死神』にとっての重要な言葉(キーワード)である。

 小回りが利く『腕輪の担い手』の方が、お互いの必殺である【紋章砲】(データドレイン)の自由度が遥かに高い。

【影ヲ疾走スル者】【浮遊】【光鱗の衣:破損】

 『死神』は虚属性の幻影を纏いながらの、等速後退。

 ”三秒”、姿を見失えば死にうる。機動力が落ちている為に、それが致命傷に成りかねないと試算した。

 故に小手先で、視界を塞ぐ障害物を砕きながら、伴に小人を粉砕しようとするのである。

 

「―――ザ、つッ!」

【舞武】【精霊術:疑似俊足】【ダンシングヒーロー】

 彼は木々の破片を実体剣に払いながら、頬を切りながらも怯まず、前進し続けた。

 その双剣に”維持”に優れた魔法剣は纏っていない。それは先の初撃で使い切った。

 ”呼吸”と連動してオドの切り替え、再度結いあげているがそれも相手を殺す為の”瞬発”魔法剣である。

【狂羅輪廻】

 後の先など考えない故の反応速度と、重心移動で死線を潜らせて擦れ違う。

 

 お互いに炸裂音を、谷に反響させながらの交戦し続けた。

 【光鱗の衣】(ツバサ)を折られたとして、その巨躯によって、相応の移動速度を持っている。

【レンジャー】【精霊術:アプドゥ】

 だが、不整地での歩みを知り、精霊の補助を受けたそれは、『死神』との距離を詰めた。

 

『―――――――ッ』

【憑神の杖】【怪力】【継承・夢幻羅道】

 『死神』は単純すぎる追い縋る小物に、分析上の疑問を感じながら、十字杖で鉄槌を下した。

 先は利用された為に、反り合わぬ巨躯に”骨子”の技を纏わせて、下から跳ね上がる薙ぎ払いの構えである。

 さぁ、打ち上げて、出力差で圧殺するせんと、続く流れのモーションを自動生成して、出方を伺う。

 

「邪魔、だ!」

『黄昏の腕輪:電子装甲』【舞武】

 それをカイトは重心を上に、『腕輪』幾何学装甲の花弁を費やして、”防いだ”。

 勿論、巨躯以上の怪力を持った『死神』の一撃を、片手間の花弁で防げるわけはない。数秒の均衡で砕け散る。

ギャン!ぶわあ…っ。

 しかし、彼は推進力を貰ったと言わんばかりに、十字杖の特性。ぶつかり合った衝撃波を重ねて展開した二重装甲の内側で受け、弾ける花弁の上に乗り煽られて宙を舞った。

 

(最初の交戦でわかった、僕なら、いや『腕輪』ならこの波を、掴める……っ!)

【禍々シキ波】

 周囲空間のマナに、幾何学装甲を投影する機能を持つ『腕輪』を、満ちる抵抗を持った”銀砂波”(ノイズ)を素材に投影した結果がこれだ。

『電子装甲』(プロテクト)+『絆の双刃』+【精霊術:ヘイスト(アプドゥ)】=『黄昏の腕輪:電制闊歩(ルーティング)

 ”腕輪”は呼吸する。投影自由度が上昇し、解けば後に残る電磁の網は強化すれば、彼にとって歩みを受け入れる十分な力場となる。

 

「―――斬、刻むッ!」

【二刀流】【魔法剣:虎輪刃】【ダンシングヒーロー】【狂羅輪廻】

 その力場を利用して、得意の重心操作と精霊補助の空力、更に辺りの木々の環境足場に掛け合わせ。

 『死神』に飛ぶ魔法剣を牽制に織り交ぜ放ち。反動も利用しながら、周囲の空中を跳ね回る。

 その駆動の限界に実体の刃を突き入れる。

 【機巧操り】の意地により纏うフィールドを全損をしてる事もあり、それを修復最中の亀裂として受ける。

 

シュン

 その光景は、四肢に砕けた幾何学な花弁と紫電を纏い続け、全身四肢で蹴り上げ、時に滑り宙を駆ける。

 知らぬ者から見れば、そんな”固有魔法使い”の”幻想”としても見えるだろう。

 生来の属性(オド)に”空属性”を持つ彼は、特に空を良く奏で、良く掴むのである。

シュン

 『死神』の角を斬り折る。

 彼の可能性を越える剣舞の制御を導いているのは、絆の双刃(己の剣)による”旋律感応”と”殺意”。

 更に『黄昏の腕輪』の呼吸と、演算能力。

【黒薔薇の加護:生命励起、風属性】

 更に己の”相棒”と交わって拡張された生体限界とオドの流動性である。

 それでも過度の脳内麻薬を越えて、痛みのアラートを慣らすが、コイツを殺せるならそれでいいと。

 容易く踏み倒して『死神』噛みつき離さない。

ガッ、シュン

 塞がりかけていた左腕に、傷痕を突き入れてこじあける。

 狂気で加速した心の象の鼓動を脈を、剣に伝えて奏であげた、狂気に全てを委ねてのみ許される。

 そんな空戦剣舞である。

 

―――なお、製作者の意図としては、『碑文八相』を相手にする際の、”無限装甲”として設計されており。

 発条に、手掴みや足場にされるのは想定外であった。

 本来戦闘者ではない設計者の男は、修羅等の不合理は認識しているが、卓上の空論に頼る他ないのだ。

 

『―――――ルルル』

【憑神の杖:ガード】【紅の三眼】【円環魔術:超再生】

 『死神』は呻く、速度はそこまで出ない。動きは認識できている。

 しかし四肢の駆動が追い付かない。

 【藍の札】の人形師も兼任する卓越した電子魔術師(テクノマンサ―)が設計したとはいえ、その稼働域には限界がある。

 『蒼天』を対処した際もそうだが、『機巧』と違い小人を相手にすると、その巨躯が仇となるのだ。

 

 そもそも『碑文八相』、本来彼等は”都市喰らい”の類である。

 先兵である【死ノ恐怖】はまだましであるが、人が燕を切ろうとする如く、空中の地団駄(タップダンス)を踊る光景が繰り広げられた。

 

 しかし、だがしかし。

【――――――ブォン】

【影ヲ疾走する者】【死ノ恐怖】【継承・夢幻羅道】

 その戦力比は、その”骨子”を含めた稼動経験を含めたこの存在は【魔王級】と呼ばれる理不尽。

 その天と地の如く差は、容易く埋められる物ではなかった。

 『死神』のその手から真紅の十字杖を手放し、その重量により大地に刺さり、本体は等速で後退する。

「―――ガッァア!!」

【魔法剣:爆双竜刃】【狂羅輪廻】

 カイトは、追う様に宙を空を蹴り込む、それを認識しなながら気を留めない。

 厄介な武器を捨て、無手となった懐に殺意に導かれるまま、”疑似魔力撃”を纏わせた双刃を届かせようとするが…っ!

 

『――――――ポゥン』

 それを『死神』が嘲笑った。

ドォオオン!!

【憑神の杖:遠隔起動】【怪力:拳】

 紅の十字杖を中心に、【死の波動】による衝撃波を背後で起動させ、それと連動する様にその拳を叩きつける。

 カイトはその煽りを受けて、姿勢を崩しながら。

 それでも重心を回し、空を掴みとり、その双刃だけは『死神』に向けて……。

 

『――――――』

「グ、ァ!?」

 疑似魔力撃に纏った双剣と、禍々しい拳が衝突する。

 回転、衝突、衝撃。

 カイトはその拳を一部破損させる代償として、怪力と重量に衝突して、受け身を取りながらも回転し、枝を粉砕しながら吹飛ばされた。

ズガァ

 ……そして、今は朽ちた『機巧』の麓で止まる。

 

「―――ぐ、そ」

【舞武:重心操作】【精霊術:アプドゥ】

 片目に枝の破片を受け血を流し失明、左腕を損壊、刃を合わせ、精霊の空力も併せてクッションにしなければ即死だっただろう。

 それを未熟と罵るのは酷だった。純人種の視野の範囲外さえも勘にやり取りするのは、幾度も地獄を踏破した(修羅道)極まった者の領域である。

【狂羅輪廻】

 彼は敵対者にとって最悪の選択を選び続ける。狂気によって戦いの淵に降り立った者。ワライながら薄氷の淵を踊る者。

 一つ踏み外せばその淵から転げ落ち死ぬだけだ。

 

『――――――』

 『死神』は手を緩めない。復帰の隙に十字杖を取り、左手を『腕輪の担い手』に向けて畳みかける。

 鬱々しい蛾は地に堕ちた。ならば、もう羽ばたかせる事を能わずと、標準を計算し。

【凍結の櫃】(フリーズ)【継承・夢幻羅道】

 自身の固有権能である、”同化凍結”の波動を放つ…っ!

 谷に茂る放射線状に氷付き、その動きを完全に停止させていくそれはまるで氷牢の如くである。

 

 

『黄昏の腕輪:電子装甲(プロテクト)

 カイトは幾何学装甲の盾を展開、本人の凍結だけは免れるが、周囲空間が完全に凍り付いた。

 止まった世界の先にいる『死神』を彼は睨めつける、すぐには動けない。

 対処法はある。しかし、仮に『腕輪』で装甲を投影させて解かしていけば、この氷は解けるだろう。

 しかしそんな悠長な事していれば、きっと死ぬ。

【ダンシングヒーロー】

 それは心構え、戦場で遥か格上相手に立ち止まれば、死ぬしかないのは彼は知っていた。

 

 それに対抗する様に右腕を防ぐために装甲帯を半端に展開して、盾となったそれを今度は、完全に展開する。

 破調ラ音を鳴らして。

「……っ!」

『黄昏の腕輪:紋章砲(データドレイン)

 故に、カイトは【紋章砲】を、同時に『死神』を狙うコースに、吹飛ばして進むべき道を確保しようとする―――。

『――――――ジジジ』

 それは『死神』の思惑通り、自身を滅ぼし得る【紋章砲】は暫くのタイムラグが存在する。

 これさえ、半端な状態で発動させれば。

 貧弱な人の技術で己を滅ぼせる訳がないと自惚れるわけではないが、脅威度は遥かに下がるのである。

 

 紅の杖を構えて、順当に圧殺する”紅の三眼”が、嘲笑うかのように不気味に光り。

 

 

「―――この、カイトもバッキャロオオオオオ!!」

 ……その前に、『死神』は横合いから、ぶっ飛ばされた。

「―――……エ」

 虚を突かれて、カイトの【紋章砲】の稼働も止まる。

【闘牙剣:オーラファング】【ウォークライ】【錬気法:マッスルベアー】

 やっとの事で即席に追いついた”重剣士”ローズが、横合いから跳躍して、横薙ぎでぶっ飛ばしたのだ。

 彼女もある種感情が振り切れていた。”相棒”が無事とは言い難いが、とにかく命の有って安堵して…。

【生命活性:激怒】

 そしたら、とにかく腹が立って、色々ぶっ飛ばすと気合を入れ、綯交ぜになった荒ぶる感情のままに、呼吸を練り込み励起させた。

 

『―――――――』

【継承・夢幻羅道】

 その巨躯を揺らしたが、羽虫が増えた所で何だと言うのだ。

 即座に右腕で反撃で十字杖を振るう。

 

【錬気法:竜装■=ドラゴンテイル】

 しかし、ローズを吹きこぼれる錬気の息吹が、風と炎の”紋”が紡ぎ、自身の部位投影する。

 感覚派であるローズは、意識してこれを行っている訳ではないが、継がれた”燃え続ける炎”の性質が、彼女の”練気”に新たな可能性を与えた。

 一度は足を竦めた、【死ノ恐怖】にプレッシャーを踏み倒して、独自の剣の構えを取り、踏込に脚をめり込ませ…。

 

「舐めんじゃないわよ、うらアアア!!」

ズガアアア!!

【闘牙剣:オーバードライブ(クライムハザード)】【打ち返し】【怪力】【蒼火の息吹】

 重心、前進の発条、十全に重ね闘気を噴出し、破砕の領域に至る大剣を振るわれた……っ!

 彼女が”銀砂の(ノイズ)”の妨害に対して、とった選択肢は単純、ただ、踏ん張って踏み消す事だ。

 己に難しい事はできない。故に大地に対する重心を三点増やして突き刺し、大地からの波の干渉を踏み潰し、十全の力を持ってぶん殴るだけだった!!

 

『――――――!?』

バギャッッンン!!

『部位破損:掌』【憑神の杖:損失】

 その渾身一打は、『死神』の剛力伴う十字杖を迎撃して、そのままに吹き飛ばした。

 カイトとの衝突に、魔法剣に損壊した掌がここで響いた。

 

「っち、アホが。特攻してどうにかしちまうのかよ」

『黒蜘蛛の鎧』【暗黒剣:領域削り】【疑似・魔法剣:アンゾット】【孤独者の流儀:精神耐性】

 無手になった『死神』にマーロー・ディアスの縫い付ける魔法剣が奔る。

 まだ制御の甘い”疑似魔法剣”を、出来るだけ関節部を狙って斬り付ける。

 彼の場合、マナ干渉の類は『黒蜘蛛の鎧』が、完全にではないが喰らって還元して軽減する。

 死の恐怖のプレシャーは意地と見得を張って踏み止まるのが、騎士を目指したマーローと言う捻くれ者だ。

 

『―――――――!』

【憑神の杖:召喚】【怪力】

 だが、『死神』にとっては【憑神の杖】は装備でなく機能(スキル)である。

 呼び篭めば浮遊し戻ってくる物だ。

 それを持って鈍くなった関節を無理矢理動かして薙ぎ払い、羽虫どもを追い散らそうとする。

 

 前衛二人は片や剣で受けて退き、片や生命燃焼で跳び退いて後退する。

 

 それで十分に時間は稼げた。

『――――――ジ、ジ、ジ』

 その紅の三眼を向ければ、氷牢に閉じ込めていた『腕輪の担い手』。

 その自身の天敵が、その場にはいない。

 ”三秒”それで『死神』を滅しうる脅威である。焦りに力動して、駆動に焦りが混じる。

 

「……ッ」

「―――”右目”損壊、”左腕”複数骨折か。それはあくまで応急処置だ。君はもう大人しくしていろ」

【薬草知識】【治療術】

 一方で彼は横合いから攫われて、槍使いの後方に。

 ローズが派手に矢面に火花を散らしたその隙に、”暗黒騎士”(マーロー)が”同化凍結”を侵食して解かして。

 治療の心得を持つ”元・九十九巫女”(ガルデニア)がきつく薬剤の塗られた包帯を生命活性を交えて、その傷口を塞ぎとめたのだ。

 

「―――どう、して…?」

「どうしてって、勝算もなしに飛び出たどっかの馬鹿のせいでしょうが!」

 狂気に霞んだ頭に漏れる困惑。馴染んだその三者の姿に、カイトは困惑するしかなかった。

 賢くない事だというのは、彼が一番理解している。【魔王級】である”死の恐怖”に立ち会うのは理由がいる。

 故に、彼が手を誘ったのは、理由があるを伴にした”同志”であるローズだけだった。

 それも届かなかったと思って、それを仕方ないと受け入れた。

 

「ボクがころせば、すんだ」

【狂羅輪廻:殺意帰結】

 殺す、刺し違えてでも殺す。『死神』を八つ裂きにして埋める。

 狂気ゆえにカイトの胸に満ちる殺意は衰えていない。普段の理性的な算段などない。

 出来るか出来ないかではなく、ただ殺る。

 故に、戦力の算段などせずに、そんな事に賭ける命など少なく軽い方が良い。

 それで”事変”は終わる。犠牲は後に続かずに、”仲間”は無事に、全てが奇麗に終わるのだと。

 

 

 そんな言葉にガルデニアは、こちらを真っ直ぐ見据えて、眉をひそめて。

ガシッ!ギギギギ…ッ!

「……それを、本気で言ってるのだな」

「―――いだ、いだいいだっ!?」

 カイトが重傷である事を無視して、アイアンクローを喰らわせる。

 接触、人肌の温もりはある種、特殊な効果がある。狂気すら溶かし得る位に。

 今まで脳内麻薬で無視できていた痛みが、それにより痺れた感覚に少し巡り戻って来た為に、今までの無理の反動も併せて、痛みに呻いた。

 

「ふむ、なるほど生脈がおかしいな。言葉が途切れるのも”精神干渉”の類か?仕掛けた奴は潰すが。それはそれとして、君は!全く!人の気持ちがわかってない…っ!!」

「っけ、俺は仕事だがな、雇い主見捨てたら次の仕事はねぇんだよタコ……、テメェにゃ借りもある」

 片や建前を吐き出して、片や憤慨して、己の得物の大槍を取る。

 地に突き刺して、森に谷に散らばる森属性を【陰陽術】により調律して掻き集め、自身の固有魔法の準備を整える。

 

「二人とも前衛を頼んだ。私はこの鬱々しい干渉をどうにかする!」

「りょーかいっ」

「フン、否はねぇオレはそれしかできねぇからな!!」

【闘牙剣】【天性の肉体】【練気法:ドラゴンテイル】・【重装】【生命改造】【暗黒瘴気】

 両名、弾けるように駆け、己の武器を構え、頑強なローズを主体に連携を行う。

 『死神』相手に時折、カウンターウェイト(三点重心)を発生させて、正面から受けずに立ち向かい。

 ”暗黒瘴気”での攪乱も織り交ぜて、時折”疑似魔法剣”で只管に関節を狙い放った。

 

ズガァン!ジギィイン!!

 森の破壊痕が生々しく、そこに破砕的な轟音と巻き上がる砂煙が立ち上がる。

 

「―――っ」

【狂羅輪廻】

 カイトはそれを見て大人しく見ていられる様な精神はしていない。

 まだ動ける、己も”連携”を併せる様と、痛みが多少戻った身体に鞭打ち。折れた腕を支えて、片剣を構えて駆けだそうとする。

 

しかし。

「―――休んでいろと言ったはず」

「な、あれじゃ、タリないっ!」

 それをガルデニアに制され、止められてしまった。

 先から交戦経験で、『死神』を倒すには在野の冒険者基準では、火力が足りない事を実感していた。

 カイトの知る所ではないが、マナを取り込んでの【超再生】による”不滅性”、<融合>と呼ばれる類の”化身化”である。

 

 彼等を大きく超える、次期Sランクと見込まれたる『蒼天』、防衛筆頭戦力たる【機巧騎士】(ギア・ナイト)と対峙し、なお殺しきれなかった理由はこれが大きい。

 仮に囲んで殴って封殺したとして、真っ当な削り合いが通るならとっくに滅ぼされている。

 

(アレを滅ぼすには、今の手札だと『腕輪』がいる……っ!)

 慣れた頼らしい背中に、人肌の熱に、少し理性の戻った頭が判断した。

 狂気に酔いながらも捨て身はもうできない。焦る、”この場に喪いたくないものが多すぎた”。

 それが彼に、脳を直接掻き毟りたくなる程の焦燥感を与える。 

 

「―――良いから見ていろ。流石に”魔王級”との交戦は初めてだがな…っ!私が無力と思うな…っ!」

『知力の腕輪:魔石粉砕(パリン)』【陰陽術:印】【固有魔法:森】【阿修羅姫】

 それにそんなに私は頼りないかと気合を入れて。

 背中にある確かな熱を頼りに、自身に出来ると自己暗示を。

 ガルデニアがミストラルから預かったを地面に叩き付け、しなやかな指が印を結んで、同時に詩を歌いあげる。

 

「地の網、地の脈。

 草木は半在覆いあげ生滅、

 花は散りゆき欠けるは盛衰、

 命の川の流れは止まらず、

 我は木卦成す織り手、森羅顕現ここに示さん…っ。」

 

 彼女が過去成せなかった規模の術、歌を併せ自身に、環境に没入して限界を超える。

 さて【陰陽術】と言うのは、とある外来人により、”【桜皇】の伝統呪術概念+海外の魔術理論”で構成された体系魔術である。

 【桜皇】固有の呪いの結び方という考え方を主体として、”地脈、人、物、札問わずマナ・オドの放出現象(マナストリーム)”をロジックで制御する事で成される術だ。

 

 

 固有魔法を宿す自身の身体を回路に、生脈の放出を導き出す事で成される”環境誘導”。

 発想として、桜皇の古来魔術、”鬼道”と呼ばれるアプローチに酷似したそれ。

 これは新しい趣味で草花と対話して固有術の精度が上昇し、カイトから疑似・精霊楽器の”奏でて”精霊の”感応”から発想を得て開いた可能性。

 

 そう彼女の【固有魔法】、森属性に特化した”呪”を混じらせたような物、それが設計術式(モールドマジック)に混じって妨害していた雑音の正体である。

 だから、瞬間的なオドの放出である、”魔力撃”を得意とし、術として扱えば森属性に純粋に感応し、関連した放出を引き出してしまう、そんな固有術(たいしつ)である。

 森属性に良く馴染む、地属性がない場所は滅多にないのだから、どうしても術式に混ざり結果を半端にする。故に、彼女は札なしの術式は扱えない。

 

 

【陰陽術:札術】+【固有魔法・森】+【旋律詠唱:天道和歌】=【木卦牢壁】

―――ドドドドドッ!!

 伸び茂る植生、『死神』の周囲を活性化した木々が成長し割り込み、辺りを迷路の如く取り巻く。

 樹木が幾多に多重の檻で制圧した。森属性のマナが濃い、山岳秘境でのみ許される規模の環境操作であった。

 

「よし、”足場”確保ね!跳ぶわよ、宙なら全然マシだわ!」

「っち、本当に滅茶苦茶だなあの女。即席の連携だ。余り期待するなよ」

【禍々シキ波:生体濾過】

 それは大地を媒介にして、その波長(ノイズ)を拡散させるものだ。

 故に大地から離れれば影響が弱くなる、これが空を翔る様な修羅が『碑文八相』に相性が良い理由である。

 更にその足場自体が、生きてフィルターに成る様な物だとなお良い。

 

 そうやって【禍々シキ波】干渉を軽減した彼等は。

 

 それに呼応して組んだ経験も長くフィジカルが優れたローズが、初めて組んだ時、投影された”悪魔”にそうした様に、成長した樹木に跳び移り、時に尻尾まで使ってはたき機動を変え。銀砂波(ノイズ)の影響を軽減しながら、剣技を放つ。

 重量級のマーロー・ディアスが、同じく組まれた木々の足場を利用しながら、”暗黒剣”で斬り付け、時に木々の生命力を吸い上げて黒霧の刻剣を放つ。

 

 波長剣が空を搔き、黒霧の剣が飛ぶ。

 

『――――――』

【憑神の杖】【光鱗の衣:破損】【超再生】【継承・夢幻羅道】

 『死神】はそれに身を削られながら、演算してルート取りを、十字杖で自身の行く路を掃う。

 仮に、【光鱗の衣】が健在ならば、そんなものはしゃらくさいと宙に舞い”疾走”し、気にも留めなかっただろうが、現在はその翼はカイトにより斬り折られている。

 その設計された機能は、十全に発揮する事が出来ない。

 

 『死神』を取り巻き、割り込み続ける様に成長する木々、受ける度に躯体に負荷をかける黒霧の刻剣。

 それを『死神』の怪力と伴に放たれる十字杖が粉砕するが。

 どうしても遅れ軌道がぶれる。既にそこに同時に狙った羽虫はそこにいない。

―――斬ッ

【重剣技】【怪力】【竜装■:ドラゴンテイル】

 逆に、外部部位を増やして、瞬発力を発生させた剛剣が『死神』の肩を斬り開いた。

 

【影ヲ疾走スル者】【プロテクト:一部修復】

 自己再生により一部修復した機能を活かしながらも、なお連携に翻弄されている。

 普通ならば、その砕かれた木片も脅威になるだろうが、ここにいるのは頑強性の優れた冒険者だ。

 魔具使いは鎧の丸みで流し、蛮族(アマゾネス)は怒りと頑強任せて素で無視する。

 【円環魔術:超再生】は環境に満ちるマナを吸収し、基盤の限り埋め合わせる物である。

 大地からのマナ放出(マナストリーム)の一部が握られたのもあり、”化身化”の修復が追い付かない。

 『死神』の欠損は増え続ける。

 

「こいつ、剛剣の方が通るわね。ならこのまま嬲り殺すわっ!」

「っ…、まだイケル。このまま…っ!」

 横殴りで参戦した彼等も、命を燃やして『死神』を対抗していた。

 ”ローズ”は怒りのままに部位まで拡張して、慣れぬ駆動を慣性任せに無理に成し。

 ”ガルデニア”は自信を術式の生体パーツとした大規模術式を過稼動、魔力を絞り出しながら維持し。

 ”マーロー・ディアス”は未だ忌避意識の残る、上級魔具に身を任せて循環させて、重装備だろうと、”連携に”稼動を追い付かせる。

 命が続く限り殴り返す、熟練も未熟も関係ない理不尽と闘う者達の血重ねて、【死ノ恐怖】と定義される【魔王級】の存在すら屠りうると証明を突き立て様とする…っ!

 

『―――――――ッガガガガ』

【継承・夢幻羅道】

 その光景は『死神』に取っては理解不能なものである。

 『死神』はその”骨子”から人間を侮らない、だが反面、その脆さも弱さも良く知っていた。

 ”骨子”はそれを付いて、世界を嘲笑うかのように立ち回っていた事もあった。

 その洗練も、『蒼天』、【機巧操り】双方に比べれば未熟も良い所。だが、それでもそれを踏み潰せない。

 

 己を滅ぼし得る『腕輪の担い手』から、どの位の時間目を離したか。

 募る募る募る。

 『死神』自身の”死の恐怖”。

 

 そもそも演幕を流れを作る『碑文八相』、その機能と権能は、人の弱さを征服するに十分な物だったハズだ。

 【死ノ恐怖】のプレッシャー、【禍々シキ波】の銀砂(ノイズ)の負荷、巨体由来の出力。

 その前には、立つ事さえ許されない羽虫(モブ)で在るはずなのに…!

 

 羽虫の刃はまだ自身の中心たる『碑文』には届いていないが、徐々に自身の身が削られる事に恐怖を覚える。

 

【――――――シニタクナイ、シニタクナイ、シニタクナイ】

 【憑神の杖】に、惨たらしく殺され塗り固められた怨霊達の共通する想い(ネガイ)が共鳴する。

 ”生に執着”する心が、輝かしい”生の輝き”に呪いあれと、沸き立つ。

 犠牲者であっても怨霊は怨霊でしかない、その魂は貶められて混ぜ合わされて、個を喪っていた。

 凍結する世界の中、意識だけが鋭敏に、”徐々に吸い殺される”という、凄惨な記憶が束ねた”生への執着”の指向性。

 

【常世裂き咲く花】

 そして、同じ想いを抱きながらも、自身の運命を受け入れたプロトタイプたる、儚き花の残滓が。

 

 ただ本能的な想いに呼応して、【死の恐怖】の元々の設定機能が呼応する…っ!

 

「ッ…!?気配が変っただと」

「―――っく、離れろ!ああいう類は厄介になる!」

【阿修羅姫】【固有術:木卦牢獄】

 『死神』は、その身に血を煮詰めた十字杖を抱き取り込み始める。

 それに対し、ガルデニアが前衛を引かせて、成長する木々を誘導し取り巻き覆う。

 『死神』はそれも構わずに。

 

【憑神の杖:怨霊巫器】

 ネガイは共通する、共振する、融合する。

 その合間に何が起ころうと「うるせぇ死ね」と殴りかかる、理不尽を踏破し続けた修羅はここにはいない。

 取り囲む樹木を繭にする様に、そして『死神』の”変性”は完了する。

 

―――ドォン!

 そしてその木の繭を一閃して破砕。

 

『死の恐怖・R2』【自己変性:我ハ、ココニイル】

 その先に、依り鋭利になった死神の姿がそこにあった。

 石質の様な躯体を深淵の様な黒質に換え、幾何学模様の大きな鎌を構えている。さらに死神としてのイメージを強くした、そんな鋭利な躯体だった。

 

 なお、この形態では【領域作成:禍々シキ波】は用いない。”その分のリソースを別に回している”。

 この覚醒は、自己機能の指向性を絞り鋭く研ぎ澄ませた者。

 稼動年数から自身の役割など知った事か、己は生きると自己再定義した物である。

 それは、黒幕である制作者ですら想定外のモノだ。本来彼等に設計された領分を逸脱することなど許されていないのだから。

 

 手始めに、大鎌を構えて、大地に突き刺す。

 特に自身に痕を通す大剣の重剣士を、縫い止める暗黒剣士を、周囲を渦巻く鬱々しい成長する樹木を…っ!

 

【超絶魔力】【黒き月魄ノ巫器:環伐乱絶閃】

 その挙動に合わせ、地形から地獄の鎌刃が競り上がり、それぞれに地形自体を粉微塵に斬り刻む。

 マナに投影し”化身化”という現象、周囲のマナに対してオドを混ぜ込んで染色支配するタイプ<覚醒>と、その中でも 言われる様なモノである。

 元より”化身化”は、延長である『円環精霊』の様に、周囲のオドを吸い込んで自身と一体化させる<融合> として【超再生】を設計通りに成していたが、それとは別のモノだった。

 

文字通りに地形がバラサレル。

 その一閃は周囲を斬り刻み全ての樹木を、大剣士を”全て一閃で葬り去りうる”。

 しかしそれは可能性の話だ。

 

「ハッ―――関係、あるか!!」

『竜鱗大剣:両断破損』【打ち返し】【頑強】【竜装帰:ドラゴンクロー】【戦闘続行:意地】

 攻撃性ゆえに狙い撃ちされたローズは襲い掛かる大鎌の具現の刃を、大剣を盾に両断されながらも、その両腕を回帰した竜の鱗で覆い。

 捌き殴る事で、全身切刻まれ血を流しながらも、何とか致命症だけは防いだ。

 そして睨みつける。

 故郷から持ち出した己の得物を折られても、まだ戦意は折れていない。

 

「ッチィ、【魔王級】ってはとことんクソッタレの化け物だな、どう見ても消耗しきってるのにこれか……!?」

「君も下がって居ろ、もう魔力がないが…っやるしかないか」

【暗黒剣・斬魔剣】【重装】【孤独者の流儀】・【洟風月】【カバーリング】【阿修羅姫】

 ローズに追いすがる刃をマーロー・ディアスが暗黒剣で斬り、ガルデニアが術を放棄し、武器を喪った彼女のカバーに入る。

 それぞれに構える、絶望的な状況だが弱者はそれでも意地を張るしかない。

 

『異伝碑文:死ノ恐怖』【黒き月魄ノ巫器】【影ヲ疾走スル者】【継承・夢幻羅道】

 その”命の輝き”自体を、死神は毀棄する。

 【光鱗の衣】は相変わらず破損中、その複雑さ故に戦闘中の修復は追いつかない。

 【プロテクト】も大体が吹き飛ばされたままである。

 傷痕は大体埋めたが、それでも今の身体は脆い、恐怖の対象を早く皆殺しにする為に”薄く・軽くした”。

 

 故に死の可能性は横にある。『腕輪の担い手』から逃れる為に余計な物は捨て去った。

 『碑文八相』ではない、己の存在を賭けて、幾何学模様のの大鎌を構えた。

 もはや羽虫ではなく、敵対者と認識、己が生きる為に屠ろうと疾走せんとする…っ!

 

 しかし、そことは関係なく、夜空が煌めく遠方から極光が光り…っ。

四章魔法:光の束ねたる矢(レイザス・ミストライト)

【―――――――ギガッ!?】

 文字通りの『死神』に直撃して、薄くなった装甲を焼いた。

 高台にて、杖と特殊な魔導具を束ねた魔術師が、普段の爛漫の笑みを消して、鋭い目線を向け。

 小さな身体で、木々で結われた愛用の杖を構えて、そこで砲を構えていた。

 

 

 

 




スケィス君はちょっとまだ弱かった予定時に、覚醒ギミックは決めていたんですが。
炙られて強くなっちゃったんだ、仕方ないね。
最初の予定では超再生が無かったので、ここでやっと化身化(鎌)を繰り出す予定でした。
 
割とどうでもいいですが、黒幕さんは”藍の札”(預験帝の方)との関わりを想定してます。

【空戦剣舞(名前未定)】 
 割とこの場のみの無茶で設定していた技能が、【狂羅輪廻】の腕輪の定着の指摘で、
 後の八相戦にも使いそうなので、一応設定公開。
 これ理屈として、心臓の鼓動と、体中の脈動を『絆の双刃』で増幅して旋律として、マナに感応させて周囲の認識範囲と干渉範囲伸ばしています。『黄昏の腕輪』も使い手の意図を呼応して呼吸を合わせて演算して、初めて有効になります。
 【狂羅狂羅】で狂気などの確かな芯と指向性がないと、自分を見失って事故ります。反動もヒドイ類です。
 これ技能として生えると、八相戦全部反動で死に掛けそうだなぁ…、どうしようかなぁ…(未定)
 と言うか割と寿命がバリバリ削れる。純人種基準だと八相の途中で摩耗で死にますね…。

【練気法:竜装帰→ドラゴンテイル】
 文字通りドラゴンの尻尾、ローズは今回は練気で部位変化をガチで生やしてますが。
 技能ツリー的には安定して使う為に戦闘時には髪伸ばして、髪を縫い上げて疑似竜の尻尾にする予定です。
 メリットはカウンターウェイト、地に預ければ重心を更に安定させます。使いこなせばこれ自体で蹴り上げてに跳ね飛んできます。
 十八禁描写もあって、以降彼女はポニーテイルで描写していきます(原作無視)メアリ
 元ネタはsw2のレベル1エンハンサーの技能、元ネタだと格闘しないと何も伸びないのですが、カウンターウエイトとして解釈して体技と剣技の威力あげてます。先祖由来のうっすーい竜の因子を引き出してます。
 竜由来の練気を使えるようになるのが、【竜装帰】です。あとドラゴンクロウ(ただのマナ避けの籠手)しかないですが!
 練気はただのトカゲモドキ、竜闘気は生える予定はないです。流石に千年単位は多分血が混ざり過ぎて薄すぎると思うので…。
 後、生物種別アッシュは強すぎる。

【固有術:→木卦牢壁】
 陰陽術と固有術を合わせた【木伴装】の発展、自然豊かな所じゃないとマナの放射(マナストリーム)が足りなくてここまでの規模はできません。
 多分自己意思で”呪い”を術として制御してるんじゃなくて、誘導してるだけのじゃないかなぁ…。完全に制御できれば多分、九十九の札本家に狙われるレベルだと思います。
 元ネタは桜皇魔術の解説です。詠唱は精神統一の為で、芝居法の考え方混じってます。陰陽術の解説はまだないので、ほぼ妄想です。
 投稿案のOSRシリーズの一部を参考にしました。ありがとうございました。

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