ポンコツ世界異聞=【終幕を切り刻む者達《ハッカーズ》】   作:きちきちきち

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決着【ドゥナ・ロリヤック】

高山都市『ドゥナ・ロリヤック』

―――小高く聳える崖の上。

 夜遅く、危険な時間帯のも関わらずその場所で、白装束の目立つ耳を風にたなびかせている。

 そんな在野の魔術師……、そう”ミストラル”が眼下を見つめていた。

 その顔に、いつもの太陽の如く熱量の笑顔はない。厳しく唇を結んでいた。

 

「―――ボクは行けない、例え大事な友達の為でも」

 仲間(ローズ)の必死の頼みごとを、一行の中で魔術師ミストラルは、ただ一人同行せずに”死の恐怖”との交戦の同伴を断った。

 その事を誰も責めもしなかったが、彼女の気持ちに重たいしこりを残していた。

 

「だって、”アレックス”を残して、無責任に逝けないもん」

【人妻:比翼】

 彼女には『死が二人を分かつまで』と誓い合った伴侶がいる。

 大切な友のためとはいえ、普通なら、彼女たちでは必ず死ぬとわかっている様な、”魔王級”相手に交戦して、勝手に死ぬのは余りにも無責任じゃないか。

【ハーフエルフ:冷めない愛】

 軽い愛じゃない。私の恋は永遠で、その愛は契約である。

 魂に染み渡る言霊を受けて、あの時から、彼を真摯に愛し続けると誓っていた。

 

 しかしそう”選択”したとはいえ、心穏やかにいられる訳はない。

 残った後に発生した”部落同士の交戦”にも、直接矢面には立たず少し手助けしながら、心の中ではずっと彼等の無事に祈っていたのだった。

 

 その後、闘争の気配を嗅ぎつけて、気合で復帰していった屈強な戦士達を含めて襲撃を迎撃して。

 抗争はお互い痛み分けに終わり、襲撃者は夜闇に紛れて撤退していったのだが。

 

【薬草知識】【バッカー】

 後処理が進む中で、バッカーの異次元カバンに収納した医薬品を放出し、父であるエルフ由来の知識で薬を仕立てながら、彼女はある意味恥知らずなお願いをした。

 

「―――お願い、ボクをあそこの、周囲を一望できる高台に連れて行ってくれないかな!」

【理性蒸発】

 彼女の愛は契約である、愛している故に伴侶に無責任な事はできない。

 それでも友も諦められ切れない、夜の見知らぬ未開の地に線引きして選択する。

 『死神』に立ち向かった彼等に比べれば、秘境の夜がなんだと、辛うじて介入できる地点への案内を、現地民に頼みこんだのだ。

 

 ある種、医療品の弱みに漬け込む様に聞こえなくないが。

 同行を一度断ったのを聞かれたのに、その真意を察してくれたらしい。

 

「ありがとね」

 あちらも余裕がないのに、案内人所か、術師に慣らした”精霊”の護衛を貸してくれた。

 それには感謝しかない。

 

 しかし。

「うー、全然見えない!」

【森眼】【精霊術:レンズ】

 ミストラルは生来のエルフ由来の血から、いや、その中でも特に夜目が効き遠方まで見渡せる体質である。

 しかしそれでも木々に阻まれて、銀の砂(ノイズ)に塗れて視野を妨害されて、外部からは良く見えなかった。

 カイトが移動しながらそれを観察できたのは、『死神』と【機巧操り】達が互いに上空で交戦していた為である。

 

「―――お願い…っ!」

【精霊術:祈り】

 杖を突き立て寄りかかる様にして祈る。ここに案内してもらったのに、結局は何もできない。

 ミストラルの狙撃術式は直進しかしない故に、視界が通らねば何ともならないのだ。

 明確な宗教が(預験帝)以外には存在しないこの世界で、相変わらず彼女はただ真摯に奇跡を願い、祈りを捧げる事しかできなかった。

 

 遠方からも、彼等が『死神』と激しくやり合ってるのが見えた。

 歪んだ砂煙が、頻繁に立ち上がりちらりと、電磁と見慣れた剣の閃きが円を描く様に、機動するのが見える。

 彼女が知る範囲では、あんな剣は知らない。まだ幼さが残る様な少年の剣とは到底思えない無理な機動だった。

 暫く経ってそれが止み、大きな氷塊が立ち上がったのが確認できて、それは見えなくなる。

 

 地形を大きく制圧変性させる、【魔王級】と言う存在の暴威を目に焼き付けて、手に汗握る。

 

 更に続く大きく立ち上がる闘気の噴出が立ち上がり、更に砂煙が上がって。

 木々の迷路が『死神』を追い立てるのが見えた。

「っ、よかったぁ」

 きっと”ローズ”の闘牙剣、”ガルデニア”の固有魔法だろうと推測する。

 なんとか無事に合流出来た様だった。しかし、暴威は止まらずに樹木が砕かれ、その動きに連動してそれぞれの軌跡が奔る。

 

 そしてしばらく地響きと舞う地形の残骸、激しい交戦あとが相変わらず見えた。

 

 そして。

 『死神』に殺到した樹木に押し潰され、繭の様に固められた様に。

 やったか、一瞬そう思うが。

 次の瞬間砕かれ、”変性”より黒く禍々しく大鎌を構え、その存在の鋭利さを更に増したように見えた。

 そして『死神』は、その大鎌の一振りで、地を切り裂いて発生した”樹木の牢獄”を砕いたのである。

 

 その攻撃性は、間違いなく桁違い。【領域作成】に費やされていた時とはまた違った。

 それは【超絶魔力】と呼ばれる…、己がオドのみで場のマナすらも破壊する”魔力を超えた魔の力”の攻撃性の具現である。

 

「―――見えた」

 しかし、これで【禍々シキ波】が消え、銀砂波(ノイズ)は晴れたのが確認できた。

 あれは由来無い覚醒ではない、自己を構成するリソースは変わっていない、攻撃的に”変性”しただけだ。

 例えて、純人種の手が二本しかない様に、同じ容量では出来る事は限られるのだから。

 

 しかし、それは重要な事ではない。遠方からの視界が通る…っ。

 それに呼応して、強く握りしめていた杖を構えた。

 そして杖を振り回して、設計魔法(モールドマジック)を単語化して詠唱する。

「”光よ”+”織り紡ぐ”+”精霊よ”+”曲がれ”+”紡げ”+”集え”……」

 

【魔術師Lv2:簡略化詠唱】【マルチキャスト:術式投影】【妖精術】

 相変わらず詠唱破棄はできない。持ちいる単語も多い。

 詠唱を回りくどく”単語”に置き換えて、自身の意識を切り替えて、術式を引き出す。

 得意の術式の発展とは言え、未熟な彼女は集中を乱せばこの力は自身を焼いてしまうだろう。

 ミストラルが普段、オドを外に放出する補助にしている妖精細工の『知力の腕輪』は、前線に向かったガルデニアに、せめての力にと調整して渡してしまっている。

 

 だが、彼女の手にはまだとっておきがあった。

 

復号記貝(デコードトーカー)』『魔導具:妖精使いの宝石』

 周囲を耀きに満ちた精霊と、緑色大気の精霊が舞う。

 精霊術と妖精術を併用して、魔法を撃ちやすい場は整えてあった。

 それを維持してるは使い捨ての道具の力だが。

 

『魔具:星の血証(エーテライト)

 その為に純人種以外が高度な魔具を扱うには基本的に専用品を用いる。同じくハーフとは言え、半精人(エルフ)である彼女は、影響の少ない簡単な魔具しか装備できない。

 その見た目は片腕に装備されたアミュレットの取り付けられた、肘まで覆う様なグローブである。

 これは彼女専用の魔具の”試作品”(プロトタイプ)。触れる位ならいいが、不安があるから本格的な使用はまだ早いからしない様にと、言いくるめられたのだが。

(……ごめんね。アレックス)

 それに内心謝りながら封を解いて、魔力を通す。

 魔具職人として、何とか技能を示して、資格を貰った。そんな伴侶が作り出した”世界で一番珍しい物”への階段である。

 その効果は……。

 

「”天駆ける矢となり、敵を穿て”!!」

 詠唱が完了する。

 光を束ねた様な、蛇が火色の光帯渦巻くように交えた、大規模な”光の矢”が現れた。

 ”範囲”を中心術式の周囲に、”媒体”を”妖精と血を通して”指定した、彼女が扱える最高峰の”四章魔法級”の魔法。

 周りの火色の光帯は、大気に満ちるマナにいち早く触れ、斬り裂き均等に”光の矢”の機動を安定させる。安定フィンの役割を持っている。

 

 それを彼女の杖で導いて、角度を調整して…。。

 

「―――さぁ行くよ、”光の束ねたる矢(レイザス・ミストライト)”!!」

【四章級魔法:”光の束ねたる矢《レイザス・ミストライト》”】【森眼:鷹の眼】

 そして臨界に導き『死神』に向けて放つ……っ!反動に土煙が上がる程の威力。

 その軌跡は夜空を確かに切り裂き奔り、多少重力に惹かれて、軌跡を落とし…っ。

 

ズゥン!

 響く鈍い音、確かに『死神』に直撃して、その黒色の装甲を焼き焦がした。

 貫通してしまえば威力の大半が逃げるという問題も、接触時弾ける事で、榴弾の如くに解決した。

 そんな理論だけは完成していた”完成術式”。

 

「よし!よし当たった!!」

 喜色溢れる声。

 彼女の持つ自己開発の”狙撃用の術式”は彼らと組んだ経験も反映されて、三段階作られている。

 初期にして基礎たる二章級”光の矢”(レイザス)

 そこから射程を減らした代わりに、妖精を媒体に制御節を入れ性質を足す三章級”散光の矢”(オル・レイザス)

 そしてさらに制御節を増やし妖精を”媒体”に狙撃に特化し、威力も両立した四の章級”光束ねたる矢”(レイザス・ミストライト)である。

 しかし、魔法への適性をもつハーフエルフとはいえ、まだ未熟な魔術師である彼女には上級魔法は、手軽に使える物ではない。

 

 しかし、しかし、その前提を覆すのがこの世界の『魔具』と言う存在である。

 人体の改造も含んで、限界を拡張する為に、高度な物はまるで疑似的に”技能すら”拡張する。

 即座に、『光の血証』(エーテライト)がバラバラに染色されたミスリルが糸の様に分れて、空間を取り囲んで筒の様な形を作り出す。

 その先には、彼女のオド性質によって形取られた、”光”のオド性質によるレンズが形取られた。

 その内部で、先程の環境を再現して次の”光の矢”の臨界が訪れて、薄く形作る。

 専用魔具(オーダーメイド)である『光の血紋』の効果は、彼女の”光属性”オドの放出・増幅と、再現性(トーレース)を描いた”紋”を血とミスリル糸を媒介に空間・物体に精製する事である。

 それは簡単にまとめれば固定式の砲塔と、光の矢を増幅するレンズを投影する『魔具』である。

 

 魔術師ミストラルのオドの属性は”光”、いわゆる”空と天”の混合属性だ。

 特に大気に干渉するのに特に向いた性質である。

『復号記貝:基盤記録』+『魔具:光の血証』+『妖精術』=【再現精影砲】(トレースサーキット)

 合わせて術式の基盤は、魔道具『複合記貝』に登録してある。それとの合わせ技。

 魔具の補助が無ければ、単純に壁を形成する”フォースシールド”等のメジャーな光属性の術式と、やる事は同じであるが、それにより紋を刻み込んで、環境自体が術式を執行する補助をかけるのである。

 

「よし、よし、いい感じだよアレックス!!魔力再現(サーキット)再試行(トレース・オン)!!」

【精霊術Lv2:使役妖精】

 後は弾丸を詰めればいい。”精霊術”と、”妖精術”を兼任する外部環境で術を成す運用思想。

 章節の”媒体”として、妖精術師である彼女は自身が使役する妖精を指定して、魔法が行使している

 今回に限るが、あの焦れた時間の真摯な”祈り”は確かに届き。

 山岳地帯でも特に高い場所にて大気に満ちる天属性のマナが、彼女の想いに”感応”して、その情報を元に形をなして、その元に馳せていた。

 

【理性蒸発:無縫の祈り】【精霊術】

 半精人であり、純粋な彼女の祈りは精霊に届く。

 小さな精霊は形のない物である、小さな精霊はアメーバの様なものだ。意思なんて上等なものはない。

 だが、故に形を求めるのか確かな強い想い、残留情報に集るものだった。

 

「―――もう一発!いっけぇ!!”光の束ねたる矢”(レイザス・ミストライト)!!」

 それにより、場所を固定し環境を作る事で、大魔法に近づいたそれの状況を復唱して手順を省略する。

 ”砲撃式”、それが現状のミストラルの専用魔具(オーダーメイド)

 手順を省略出来る場所は省略して、未だに戦闘の続く谷の地帯に、光帯を纏った光の矢を投げ込む。

 

「あと、何発、イケル…?」

星の血証(エーテライト)』【魔術師Lv2】【森眼】

 遠目に激化する戦闘に、目で追い横槍のタイミングとポイントを考えながら。

 効率化もしているが、魔力量自体が増えている訳じゃない。あくまで魔具は試作の為に身体への不調も考えられる。

 仮にこの規模の術は誤射すれば大参事だ、標準に、計算に集中力だって擦り減らす。

 

 天衣無縫に、心が跳ねまわるミストラルは、いつだって”選択する”事に情熱的で、いつだってその結果を受け止めてきた。

 失敗したら失敗したで、それを笑ってごまかすが、決して責任から逃げない。

 だから愛を誓った比翼を残して、己が死ぬわけにはいかないと”選択”して、それでも”友達”も見捨てられなくて。

 彼女が生きていて初めて安全な場所で、”自分に出来る事を”そんな、半端な事をしていたのである。

 

 ただ、身を削っているのは、罪悪感とかではなく、彼女はいつだって必死にそうするだろう。

「いっ、けぇ!!」

 更にもう一発。

 この世界の魔法は反動もある、マナ放出と物理的な反動は肉体を物理的に蝕む。

 光属性のオドの反応は目立つだろう、魔具頼りとはいえ四章級を反動無しで扱えるほどに、効率に習熟していない。

 砂煙をあげながら、ギリギリまで限界に踏み込んで、己の魔法を『死神』の横槍に打ち込んだっ…!

 

『――――――』

「うひゃあ!?」

【黒き月魄ノ巫器】【円陣刃】【紅の三眼】

ブォン!!

 『死神』もそれを鬱陶しく思ったか、乱雑に幾何学の大鎌を振い。

 ミストラルのいる高台の断崖に、魔力で形作った刃を、力任せに飛ばしてきた。

 

 勿論、そう簡単に命中する訳はない。

 ミストラルとて、対象が大きく専用の術式を用いてようやく命中させてる距離である。

 その魔力刃は断崖にの麓に命中して、地を揺らす。

 

 しかし直撃しなくとも、それに煽られて落ちたりすれば死にかねないだろう。

 

「―――…っ!手が震えて」

【理性蒸発】

 手が震える、集中力が乱れる。崖が切り落ちれば死ぬ。その想像で、術式がうまく組めない。

 ”死にたくない”。

 彼女は理性が蒸発し、世界に対する情熱が溢れても。まだCランクの普通の冒険者の範囲でしかないのだから。

 前線で立ち会った彼等の様に、”死の恐怖”は容易く踏み倒せない。

 

【死ノ恐怖:プレッシャー】

「―――ハァ…ハァァ……やだやだ…っ!動かなきゃ…っ」

 重なる自身の死のイメージ、動かなきゃ、そう思っても頭が思うように動かない。

 暴走しそうなオドを精一杯沈めるので精一杯で、祈りに”感応”した精霊達が心配する様に寄りそう。

 再び己の杖を頼り寄り掛かりに、それでもせめてここから逃げ出さぬ様に。

 視界の拓けた、崖の上に歯を食いしばって彼女は踏ん張り続け、とにかく祈りを重ねる。

 

 

 

 ●●●

 

 

 

 

―――場面は変わって

 『死神』と直接交戦している、在野の冒険者の視点。

「大きい”光の矢”、ミストラルの魔術ね。全くっあんなこと言ってお人好しな、助かるわ!!」

「フン、あの”理性蒸発女”らしくねぇと思ったが、……ふん。俺は勝手に斬り込むぜ」

ズドォン!

【四章級魔法:”光の束ねたる矢《レイザス・ミストライト》”】

 彼方からもう一度の”光の矢”が『死神』を掠めたタイミングで冒険者達は一部が散開して対峙した。

 そのターゲットは変わらずに、自身の身体に一番の疵を加えた重剣士に意識されている為に、躯体の角度と三眼を向けている。

 しかし。

 

ギギギギ、ブォン!

【怪力:片腕損壊】【超再生:不全】

 対峙している『死神』は尖鋭化して軽くも脆くなった装甲に、光矢を喰らって十分なダメージに。

 更に【領域作成】を喪った影響で、マナによる再生力も落ちている。

 片腕が焼かれて辛うじて繋がっている状態であり、巨大化した大鎌を十全に振るえずにいたのだった。

 

「―――振りおろし型は三パターンか、あぁ片腕ではそれで限界だろうな…っ」

【洟風月】【魔力撃】【見切り】

 変形槍が振るわれ捲かれる、その軌跡が宙を刻み込み、幾何学の大鎌を迎撃する。

 ”ディフェンダー”の役割(ロール)を名乗っているとはいえ脆い人間、直接、その鎌を受ければ即死を免れないだろう。

 故に魔力撃の波濤を浴びせかけて、その『改造魔具』を用いて大地と反発しながら下がりながら捌き続ける。

 『死神』の大鎌は頑強であったローズの大剣をへし折ったように、”長く”触れていれば、浸食するように斬れ落ちる。故にその斬り合いは一瞬の接触で、単純に反動を推進力としている。

 

 その様は大きな潮流に揺らめく揺らめき、回遊する人魚の如く。

【阿修羅姫】【リジェネ】

 しかし、オドが足りない。自身で整えた大地からの放射も循環させて。

 ガルデニアは、槍を斬り込み振り回し、細かく足跡(タップ)を刻む。元より経験により培われた技量はより卓越しているのだ。

 それをもって、体躯と出力差がある化け物相手に、最前線の波濤(ディフェンダー)として立ち向かい続ける。

 ガルデニアはオドを細かく吐きだしながら身体に熱を巡らし続けた。

 

『―――……ルゥウン』

【黒き月魄ノ巫器】【影ヲ疾走スル者:虚ロナル疾走】【継承・夢幻羅道】

 そして『死神』は数度の試行でパターンを変えた。

 今度は大鎌を大地に突きたてて、引き裂きながら礫を振りまき、両足に渦巻く粒子の推進力を活かして、敵対者に向けて突撃した。

 ”腕輪の担い手”の試行(アプローチ)を観測にて真似て鵜呑みにせずに、疾走の蹂躙機動である…ッ!

 

「………!今度は突進か、この衝撃、まともに喰らえば死ぬか」

「カバー入るわ先輩!全力でとにかく引いてッ!!」

ガキィ、キイイイン!!

『竜鱗の大剣:破損』【打ち返し】【カバームーブ】【練気法:ドラゴンテイル】

 ガルデニアは言葉通りに全力で跳び退いて、そこにローズが折れた大剣を壁に、突貫してカバーに入る。

 両断されたとしても、その巨大さからローズの大剣は十分な凶器で、それを彼女が技能である”打ち返し”による勘任せに振るい、衝撃波を薙ぎ砕いた。

 

「っつ、助かった」

「それはお互い様でしょ!」

『俊敏鋭靴・改』【ガゼルフッド:円転滑脱】【カバーリング】

 それは表裏のスイッチの如く連携。更に退いたガルデニアが更に滑る様に、全面に舞い戻って。

 次の攻勢に備えて”カバームーブ”と”カバーリング”それぞれの連携技能を切り替えて、互いに庇いながら構えた。

 

 一方で、『死神』は木々を砕いて、粒子の反発力に無理矢理、方向転換を試みていた。

 

―――ザッッザッツ

 その隙を黒き影が差す。黒き鎧を脈動させながら、大きく踏み込む。

「―――ふん、幾らでもくれてやる。力を貸せ、”産廃”…いやオレの『黒蜘蛛の鎧』よォ」

【孤独者の流儀】【風の担い手:破損経験】

 初めて鎧の名を呼ぶ、マーロー・ディアスは基本的に連携は極所的にしか行わない。

 ソロとしての彼はその精神安定の代替に、パーティ連携に慣れてはいない。経験が足りずに制限が入る。

 ギリギリの連携が要求される際には、喪った”風の担い手”としての経験を活かして、単独で動くのだ。

 そして、上級魔具使いである彼は、それを”使いこなせれば”可能にするだけのスペックがある。

 

「クソッタレのバケモンが!そのどて腹喰い破ってやらァ!!」

『黒蜘蛛の鎧』+【暗黒剣】+【暗黒瘴気:純化精錬】=【漆黒】(Jet black)

 それは彼の可能性の先取り、普段は意識的に制限している、魔具と自身の身体を脈動を循環輪環である。

 先の木々を喰らった生命力をマーローの代謝まで、利用してして、普段は廃棄物として処理している闇と水の混合の【暗黒瘴気】を、精錬して”暗黒剣”の霧として身に纏いながら、突撃する…っ!

 

『――――――ルーン』

【黒き月魄ノ巫器:ガード】【継承・夢幻羅道】

 そのクロの突撃は粒子を喰らう、波状を喰らう、木々の障害物も喰らう。

 『死神』も、それに反応して大鎌を大地に振り落して、ガードの姿勢を取った。

 しかし、巨大とは言えそれは魔力で編まれた”化身”(紛い物)である。

「チィ、邪魔だ…ッ!」

 それさえも黒の霧により喰らい破って、『死神』に肉薄し、制御できない程の魔力を身に纏い溢れさせ、視界が霞み、身体の暴走に、意地で前進して喰らい付いた。

【ソードマスタリー】【生命改造】

斬ッ!

『――――――ポーン、ルルル』

 暗黒の霧を纏い基本に忠実な、渾身の剣撃を振り落される。

 それの一太刀は粒子を纏った、その躯体の右足を切り裂いて損壊させ、そのバランスを崩させたのだ。

 しかし、『死神』は動揺しない。

 ”驚異的な暗黒剣の類”と理解して。

 自身の命を脅かす敵対者である、それ位やるだろうと悠然と、残心に構える。

 

「グッが…、きっちぃ……なこれは」

「馬鹿、避けなさい!」

【暗黒剣:吸命反動】【孤独者の流儀:プライド】

 勿論、リスクはある。それは鎧のフィルターを越えて、生命力を循環させた為に本来の”暗黒剣”のリスクである、快感による発狂の可能性である。

 それを捻くれ者の精神力で無理矢理こらえて、生命活性で跳び退いた所に、膝折り動けない。

「うるせぇな…わかって……!?」

【重装】【暗黒瘴気:マナ軽減】【頑強】

ドカァ!

 そこに大鎌の柄を細かく振り回して、それに殴り飛ばされてマーローは吹き飛ばされる。

 しかし、『死神』はその好機に急いて追撃を賭ける事はない。

 

―――ブォオンン!

【迎撃態勢】

 そして、”予測通りに”それを援護するかのような三発目の閃光が飛来する。

【四章級魔法:”光の束ねたる矢《レイザス・ミストライト》”】

 すかさず、”予測通り”に飛んでくる遠方砲撃を、再生も半端な右腕に粒子を纏わせて、微かに再び焼かれながら拡散させ。

【紅の三眼】【黒き月魄ノ巫器:円刃】

 そのまま流れる様な所為で、演算能力を利用して、大鎌を切離した魔力刃を振りかざし、”光の矢”の飛跡と紅の三眼に捉えた、崖の先に立つ術者へと斬り離す。

 勿論、演算は万能ではない、『死神』の機能で世界の全ては把握できない。

 故に、その刃は風にぶれて着弾点がずれ、発射地点の崖の麓を大きく斬り裂いた。

 

「あっちは!この、ミストラルのいる方向に!?」

「落ち着け無事だと祈るしかない、一瞬でも気を逸らすな…っ!」

 だがそれでいい。一番の火力であるが術師の類は、術式を編む集中力がいる。

 己の機能は牽制に収まらぬ、相当な精神負担になるはずだ。

 これで砲撃が止まれば良し、止まらねば取得選択を斬り捨て前提として立ち回り皆殺しにするだけだと。

 

『―――――――ルーン』

【再生】【継承・夢幻羅道】

 そして油断なく敵対者に対して、紅の三眼を走らせた。

 ”腕輪の担い手”は相変わらず後方、重剣士と槍使いはペアで連携して動いて斬り込む隙を伺っている。

 先程、吹飛ばした鎧の男も、まだ生きているようだ。油断はできない。

 

 ”腕輪の担い手”は、【紋章砲】は反応できれば、以前と同じく相殺できるだろう。

 死から逃れ為に、その為の身体を作った。代替に格下相手を蹂躙する為の技能はほぼ喪っている。

 故に、この敵対者達も己の命を奪い得る脅威であると認識していた。だから、優先して皆殺しにする。

 それが今のロジックである。

 

 

 そして。

『――――――ルルルルルルル』

「シィイイイイイ!!」

 再度互いに駆けて、凌ぎを削る。

 お互いカバー範囲を持つ彼女等が、交互にスイッチが切り替わり続け、後退しながら立ち回る。

 

がぃいん!

【見切り】・【打ち返し】

 特に熟練であるガルデニアはなんとか、直撃だけを避け続け、一秒でも長く稼ぎ続けたのだ。

 しかし、それは振るわれるたびに動きの誤差を修正していき、鋭く研ぎ澄まされていき、大鎌の刃が砕かれる度に、振り撒かれる”化身化”の刃まで交えて、冒険者たちを追い詰めていく。

 

―――さぁ、この『死神』の可能性を語ろう。

 【起源覚醒】……とも言うべきか、変性した『死の恐怖』は身を削り軽く素早くなった躯体に、各部位に牙まで生やして、脚まで螺旋状に虚属性の螺旋粒子が循環放出して出力にさせている。

 大鎌を構え、疾走する挙動がそのまま小人に対する攻撃手段となっているのである。

 更に、持ちいる大鎌武装【黒き月魄ノ巫器】は、そのまま攻撃的な”化身化部位”であり、マナ浸食に寄り切れ落ち、文字通り食いちぎる様に切り裂く。

 それが独自に最適化された異聞碑文『死の恐怖:スケィスR2』と言う存在である。

 時間が経ち、他の全損した機能が戻れば、自己再定義の定着と伴に、他の『魔王級』とも一線画した戦力になるだろう。

 

【自己変性:我ハ、ココニイル】

 そう確固たる自分を定義した『死神』は成長・いや進化し続ける。輝かしい命の輝きを真摯に羨みながら、それを呪いながら。

 故にここで殺さねば。

 聖錬南部が誇る最強の代名詞”伝説”である”テイルレッド”に代表される二戦姫。更に”五傑”ですら屠り得るだろう脅威となりうる。

 

 しかしそんな『死神』とて、変性したその鋭く軽量化された躯体に、すぐ万全に適応できはしない。

 それと先程から、こちらを瞳孔を見開いて、『腕輪』をつき付けて、”即死の吐息”がこちらを牽制し続けているのも大きかった。

 おかげで、全く大胆に己の力を振るえない。

 それによって、それぞれ命を燃やしているとはいえ、在野の冒険者相手が【魔王級】である『死神』に、わずかな均衡状態を作り出していた。

 

『異聞八相』 

 それでも彼等は勝てないだろう。

 しかし、振るい暴れ回る度に修正して、今の『死神』機能として合一した”生に執着する心”の力は。

 全ての外敵に対して畏れと伴に向き合わせて、えり好んでいた時とは違い、その存在の構成自体を練り上げているのである。

 

 この世界の誰にもまだ知りえない事だが、『死神』が”ただ生きる為に敵対する全てを喰らい”、イレギュラーとして”黒幕”にとて重要なファクターである『再誕』と対峙する……。

 そんな可能性もあったかもしれない。 

 

 しかし、それは届かない。

 

キュア、ギュュゥゥゥン!!

【――――――ギギギ、ギィイイ!!】

「……なぁ、あれは、まだ動くのか!?」

「カイト!?」

 それはこの場の誰にとっても予想外。

―――朽ちていたはずの機巧(ギア)『ガーリオン』が再び空を翔けた。

 両腕は欠け、破損した余分なパーツは振り落とし、そのフィールドを発生させていた動力機関は露出してなお。その耀きを露出させて。

 丁寧に吹き込まれていた、乗り手とは違い。乱雑に光の尾だけを引いて。

 再び機巧に衝突された『死神』は軽くなったのもあって、先よりも大きく身体を持っていかれた。

 

「……ッいい加減、シ、ね!!」

『黄昏の腕輪:ハッキング』【舞武】【狂羅輪廻】

 それを操るのは一人の少年である。

 外部装甲の上に腕輪による電子装甲を直接撃ち込んで、身体を固定して加速の衝撃に堪えていた。

 『死神』は理解する”腕輪の担い手”であるアレは、『機巧』と直接接続してその制御を握ったのだと。

 

 木端の冒険者をも敵対者と認めた、故に意識リソースを十分に裂いた。

 それ故に反応が遅れた、想定外の奇襲。

 

 彼の脳の処理を足して”腕輪”が解析し、機能を掌握した『機巧』。

 不恰好に躯体を叩き付け、本来限界を超えてるはずの躯体を鈍い音を立てながら律動させる。

 

 

 

 ●●●

 

 

 

―――そして、背後のカイト視点。

 

 カイトは戦闘を狂気に目を見開いて、”仲間”と『死神』その戦闘を睨みつけていた。

 喪いたくない物がある、狂気に身を委ねた”薄氷を踊る”事は、もうできない。

 ある程度、理性的に判断する。片腕と片目を損壊したカイトがそれに無理に出張っても、彼女達の足を引っ張るだけだった。

「いっつぅ…」

【戦闘続行:狂気】

 少し身体を動かしたが、重心移動に尖鋭した双剣士として、かなり致命的な損壊であると理解した。

 

 故に、カイトは『死神』に【紋章砲】を撃ち込むその隙を喰い入る様に、見出そうとしているのだが。

 『死神』は特に、”腕輪の担い手”には全くその隙を見せない。

 

『―――――ブゥン』

【死ノ恐怖】【紅の三眼】【迎撃態勢:生渇望】

 常にこちらにその三眼を飛ばして、常にこちらを警戒しているのが見て取れた。

 【迎撃態勢】と言うべきだろうか例えて言うなら”残心”、気持ちを途切れさせず余韻を残すといった人間がするような所為である。『死神』に、既に油断などない。

 

 【紋章砲】は完全に展開すれば、発射角度は固定されてしまう。

 だからこうして片腕に『腕輪』を軽く幾何学装甲を展開して向け続け、『死神』牽制するのが精いっぱいだった。

 

「…く、ぞっ!」

【狂羅輪廻】

 脆い身体、役に立たない身体。それを歯痒く、噛みしめて端から血を流して食い入る様に睨み続けた。

 彼が想う通りに、冒険者の”仲間”は強く、それぞれに命を燃やして”奥義”と呼べるように至る可能性を持って、【死ノ恐怖】と言う理不尽に抗い、抗し続けているというのに、と。

 

 槍舞師と、重剣士がお互いのカバ―範囲を重ねて凌ぎを重ね。

 鎧使いが隙を縫い、一撃を加えその片足を斬り裂いた。

 しかし、『死神』は未だに健在、躯体はともかくとして、振る舞いに翳りはない。

 

 その状況を目に追い、どうにか打開策を模索し続ける。

 

 明確な体系技術、師匠筋がいない在野冒険者、カイトの技術は継ぎ接ぎである。

 魔法剣が基礎だけ『親友、オルカ』から学び後はほぼ自己流、それに伴うオドの切り替えと魔法剣の再付与は『重剣士(ローズ)』の”呼吸法”、重心移動と闘舞は『槍舞師(ガルデニア)』の”槍の技法”、『精霊術師』(ミストラル)からは精霊術を代表する術の類は、関連した精霊との”旋律感応”は『吟遊詩人』のペアから一度の試行で発想だけを得た。

 時間を掛けて表層は読み取れる程度の半端な才は、その試行(アプローチ)分散させた。

【継ぎ接ぎの才】(パッチワーク)

 狂気で意識がオドが尖鋭化してるとは言え、今まで積み上げてきたそれは変わらない。

 このままでは彼は自身の”奥義”(オンリーワン)には至らないのである。

 

 そこは今は関係ないが、故に仲間の事は良く理解していた。 

「何か、なイ!?」

 その、カイトは技術と成長の成り立ちから、”仲間”の耀きも傍目に捉えられて認識した。

 仮に”奇跡が重ならなっても”『死神』を打倒する事は適わないと理解した。

 変性前なら、何処か小人を侮る様な素振りもあり、小人故に、油断を突き圧殺する事も適っただろう。

 

【継承・夢幻羅道】【迎撃態勢】

 しかし、今の『死神』には油断も隙もなく、更にその動きは刻々と練り上げられているのだ。

 安易にこちらに手を出しに来ればいいのに、背後に隙を見せるだろうと、それすらない。

 そうすれば二、三手。いや『腕輪』も併せればそれ以上に、まだ死ぬまで踊ってやれるというのに…っ!

 

「イヤだ」

 探す探す、認められない未来を避ける為に、アレが生きている限りに苛まれる。

 滅びの記憶への拒絶に、急かされて可能性を空転させ続ける。

 渇く、痛い、痛い。

 

―――そして目に留まる。

 カイトの近くに、朽ちて佇む、街を護り『死神』を圧し振り払い流星となった『機巧』(ギア)

 強く強靭な身体のそれがふと彼の目に入る。

 

「コれ、まだ動く、か」

『黄昏の腕輪』

 それは使用者を浸食して、”腕輪の担い手”として改造する機能を持つ。

 徐々にだがその浸食は担い手として十全に腕輪を用いらせる為、その知識まで含むのである。

 それと、ここまでの『死神』を墜落させた、流星の軌道も併せてそれに惹かれて、導き出された発想。

 

 炉の火の落ちた『機巧』を”再起動”させて、死神にぶつけて一瞬でも、【紋章砲】を捻じ込む隙を切り開く。

ガシ……ッ!ギギギギ!!

『絆の双刃』【輪廻狂羅】

 未だ続く交戦を横目しっかり捉えて、駆け寄って跳び上がり、コクピットに辿りつき亀裂に手を入れ抉じ開けようとする。

 しかし、カイトは狂気でリミッターが外れているとはいえ、鋼鉄の扉を抉じ開ける様な怪力はない。

 そして、その隙間に限界を超えて流星となり使命を尽くしたであろう、人であった血袋の如く物体を見て。

 心臓が跳ねる、心が鼓動する。

 

「―――ゴメン、なさい」

 これから、自分がする事に、謝る。

 その耀きの軌跡を知る英雄、弔われるべき人よ。これから貴方を霊体の跡形もなく、塵にします。

 

 時間が無い、『腕輪』の知識を、それを疑問に思う余裕もなく。

 自身のオドの延長である『絆の双剣』を動力に突き刺して直接に『腕輪』の光鱗が這い繋がり精査する。

 

「ウぐ、ウがアアアア!!?」

『黄昏の腕輪:ハッキング』【狂羅輪廻】

 走る、奔る電子の衝撃、その情報の奔流が脳を焼きながら。

 人にはない触覚の無理な開拓、それは通りは違うが文字通りの第六感(シックスセンス)と言えるだろう。

 電子の世界を拡げる、手足が拡張した様に、冷えた身体に同調して、現実感に戸惑う。『機巧』の損傷を精査する度にまるで肉体に、身体が欠損する幻痛が奔って刻み込まれる。

 

 そんな微かな事に構っている余裕はない。

 巡り体感する。動力が火が入り、身体に熱が戻る、そのエンジン音が唸り声が如く。

 先まで沈黙していたとは思えない程、息を吹き返したソレは、主の操り手の無念を体現するが如くである。

 元より供えられた制御プログラムをも処理し、手足として律動させる。前面に『腕輪』の機能である六凛の幾何学の花が咲いて、フィールドの代替した。

 

『ガーリオン・リペア』

 致命的な欠損部位は繋いだ人体に羽はない、だからどうした。

 元より空を掴んで蹴って跳んだ身、存在のひとかけらも自体を許容できない怨敵に、真っ直ぐ喰らい付く位はどうにでもしてやろう。

 『機巧』の装甲にアンカーとして腕輪の電子装甲を打ち付けて、身体を固定する。

 

 

 

 ●●●

 

 

 

 そして、死神に衝突した場面に戻る。

 

「―――夜空ノ、ホシになレぇえ!!」

『黄昏の腕輪:プロテクト』【舞武:重心操作】【狂羅輪廻】

 安易に山肌に叩き付けてはダメだ。【紋章砲】を放つ前にこちらが持たない。

 バーニアの出力を上空に向けて、予想以上に軽い死神を上空に、押し込んで打ち上げる。

 意識は、掌握化に置いた『機巧』にリンクさせて何とか繋いでる。

 

 しかし右手だけそれが『死神』に向けられていれば。

 それで殺す。この身が身を砕こうが殺す、頭と腕さえ残っていれば”【紋章砲】は発動する”のだから。

 

『―――――ギガガガ、ガガガ!!』

【怪力】【継承・夢幻羅道】

 粒子を纏った片脚が損壊しているのもあって、姿勢制御がうまくいかない。

 長柄である大鎌が仇となり、懐に飛び込まれて振るえない。しかし、それで”生を”諦める訳もない。

 

『――――――ルグ、ガガガ!!』

【自己変性:魔力放出】【影ヲ疾走スル者】【凍結の櫃】

ドガァ!!

 駆動、噴出、改造。

 『死神』は自身の右腕を、虚属性の粒子を噴出する構造を作りだし、同時に氷の権能を解放、何度も殴り返して押し返す。

 全ては”生きる為に”、何度だって自身を変え続ける。

 

「ッ、ハガ……ッ!?」

 殴られる度に、空間固定を越えての衝撃が、身体中を破断させる。

 感覚を代替した躯体の破損が二重の痛みとして反映されて、狂気の中のみを引き裂いて…っ。

 

【紋章砲】(データドレイン)

 

 それでも抑え込んで『死神』を捕えて、徐々に装甲を戻して、紋章砲の展開態勢に入る。

 己の魂など、命など意味はない、持てる物を砕け砕け、全てを燃やして。

 ようやくこの命に意味が宿る、届くなら、”護れる”なら、よろこんで―――。

 

 しかし。

『―――やれやれ、『蒼天』の言う奴が、こんなガキたぁな、おちおち死んでもいれん。ここにも手間かかるひよっこがいやがったか』

【メンター】

 ……そんな、知らない誰かの声が聞こえた気がした。

 

『真似ても駄目だぜ、生きた事に満足してない奴にゃ重さが足りねぇよ。自身の信じた物に重さを乗せるって言うのはな……ッ!こうやんだよ!!』

『ガーリオン・リペア』【機巧の呼吸】【人機一体】

 操作してないのに、勝手にペダルが踏まれた、微細に踏鞴を踏むように、併せてレバーが鉄の音を聞く様に、握られる。

 掌握したハズの、第六感、有り得ない錯覚。

 

 それに容易く振り落されて、宙に放り出される。『機巧』は一人でに『死神』を捉えて、空を舞い。

 

『――――――ッッッル!?』

【我流・緊急機動(ツバメガエシ)

 銀の波に邪魔されていたソレ、文字通り躯体と同一化した事で開かれた可能性である。

 半壊と言うのも生温い程のそれが、宙を翻し、力でなく技で水適をこぼさぬ様な機動で、翔け…ッ。

 

『死ぬことはねぇ、やれよ、坊主…ッ!』

「っ、ぁ嗚呼アアアアアア!!」

【円環紋章砲】(ドレイン・アーク)

 その力強い言葉に促されて、【紋章砲】を十全以上に展開して『機巧』事、『死神』を消し飛ばしにかかる。

 それは空間を制圧する多数の”死の吐息”だ。

 

『――――――ッッ!!』

 その暴威に『死神』は、ただそれでも真摯に、無駄と理解していながらも必死に逃れようとする。

 脚が消し飛ぶ、腕が消し飛ぶ、三眼が消し飛んで…、徐々に分解されていく中に。

 

『――――――ワタシ、は。タダ生キタカッタだけ、ナノに』

 何故だ、自身が負ける訳がない。スペックが違う、油断などなかった、つまり、どう足掻いても、己は消え去る運命(シナリオ)だったと言うのか。

 

 ただただ因果応報、殴られたら殴り返される。

 暴威を振りまきすぎた、それをある種無垢なそれは、認識できないままに。

 

 それを観測する一人以外、誰にも聞かれる事はないそんな断末魔を上げて。

 最後の残滓が吸収されて。

 

 その言葉と伴に、一輪の真紅の花弁が、大地に舞い落ちた。

 




魔法少女ミストラル(?)
【漆黒】は、炙られた奴です。

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