ポンコツ世界異聞=【終幕を切り刻む者達《ハッカーズ》】 作:きちきちきち
―――とある【パリス同盟】上空にて。
雷を降し、風の切れ目を裂いて、炎の紋が乱舞する。
互いに鋭い軌跡を描いて、時折絡みつくように廻り、時折目に見える衝撃として、空間が碧色と紅蓮に彩られる。
【仮想碑文:
時折、指向の鮮烈な光が蒼穹を焼き、咲さく割断の亀裂が火紋を引き裂く。
鮮烈に二人の『聖錬』の決戦兵器、戦の姫の極地が交錯し合う蹂躙光景である。
それぞれに己の信じる
「―――集え我が願望、我が想い!」
リィン!
本来ならば、”永遠戦姫”は
しかし、このふざけた様に見えるこれは、同じく【蒼穹の彼方】と同じく”空間支配”であり、機動性に優れた範囲決戦能力である。
「全ては我が友と、乱雑に吹き飛ばしやがった、その素朴な”ツインテール”を取り戻さんが為にィ!!」
【ツインテール愛】
元来持ち主を破滅させるSランクメイル、
それにより”応竜”の碧色の狂奏領域に、真紅を基調とする優美な色彩の陽炎が割り込み描かれる。
彼女にとって、揺れる炎を掴むなど容易い事、つまり今回はこれを利用して、”地上と同じように舞い狂う”ように、全力で跳べる足場を整えているだけである。
「仕方あるまい?力に耐えられぬのが悪いのだ。折角の助言だったが、私には枷にしかならぬようだ」
対して”応竜”も黙って炎に侵略される気はない。
”星属性”をばら撒く背後に煌めく放マナ板の一部を切離して展開しながら翔ける。
変幻自在、形を持たないそれを払うには”割断”は相性が悪い。小さな花弁となった衛星を媒体に、炎の浸食を雷が、分解し裂いて碧色の狂奏空間に塗り潰し返すのだ。
「ついでだ、これを持って我らの軛と、決別の証としよう!」
手を振り上げて指揮する。例えて言うなら電磁のバースト。
雷を降し、火の紋を裂いて成されるそれは宇宙嵐。
”応竜”が中心を星の様にマナを輪転しあい、展開して衛星同士がお互いに干渉し合って繋がり、繋がりを連鎖して更に力を廻す。
特に、星の本体たる
その『ザ・スラッシャー』の延長たる二対六連の
この陣取り合戦は彼女等本人にとっては、本体の動きを後押し、万全とする”付録”でしかない。
戦乙女達は、割断に続き、翡翠の欠片が空間をコマ斬りに、炎の閃光の軌跡が円環の様に取り巻き、その足は風と炎と共に走り抜ける。
『―――キィイイイイン!!』
「―――唖ハハハは!!これは流石に私も追い切れんなァ!」
【魔法剣Lv4:
”永遠戦姫”の奥義【光化炎翔】は一糸乱れぬオドの染色と呪印の調整により、感知と気配を無効化する。
故に、高級の魔石に等しい小穴の塊、聖杭が振るわれ、期待と希望に溢れる空白という予測閃に撃ち込まれる。
【魔法剣:
【蒼穹の彼方】の疑似領域作成を併せて、それは砕け、飛び散って、欠片バラバラバラに成り、撒き込んで燃焼し、炸裂して……。
音を抜くほどの鋭き刺突は、確かにその死角を低く抉り込むように迫る”永遠戦姫”を巻き込んで、吹き飛ばした。
見えてる訳ではない。元よりこの世界の理不尽は、例え修羅であっても、その反射を越えて理不尽を襲いかかる。
ならばどうやり取りするか?大体の修羅は経験によって培われる”勘”であろう。
だが、”応竜”は違う。それは期待と希望に満ちた確信である。
【人類愛】…、積み重ねた【観察眼(真贋)】に、刹那を刻む羅刹に写った”耀き”に対する鼓舞が不可視、不感知の軌跡を、焼かれ歪む空間の情報を元に、捉えるのだった。
「―――よく言うぜ、大体正確に殴りかかって来る癖によ!」
【スカーレットヒーロー】【焔劇舞踏:双尾の舞】【光化炎翔】
数十と翔けて、不可知の高速機動の悉くを無効化され、その度に回転しながらダメージ軽減した。
”応竜”は人を見る目はやたら高い。おそらく感覚派であるテイルレッド本人より、その限界を把握してるのではないかと思う位には、愛と言う幻想の名の元に、得難き”耀き”を求める彼女の観察眼は真を見抜く。
既に互いにお互いの身体を削り取りながら、それでも欠落を取り繕って寸分の隙もなく殴り合う。
”永遠戦姫”は
”応竜”はその築き上げた体系技術と、『碑文』の
がきぃん!
「と言うかよ!反応速すぎてドン引きなんだがァ!?遂に人間やめたか”タツキ”?」
「失礼な、オマエよりは大分人間寄りだぞ。なぁ竜戦姫!」
【焔劇舞踏:双尾の舞】【ボーンアミュレット:龍王の籠手】【炎の担い手】
【チェーンソマスタリー】【迫身反応:リベンジ】【空の担い手】
片腕の三連聖杭と竜双剣の鍔競り合い、寸分違わず同タイミングで弾けて。その余波に乗って四肢を運び螺子入れる。
彼女等の領域では得物以外で殺せない、なんて甘いことはない。隙があれば牽制を入れ撲殺する。
そもそも彼女等の戦場は大空の三次元の戦闘だ。その選択肢は地上に比べて比べようもなく多いのだ。
故に縦横無尽に不可視・不感知で翔け廻り、対処の手の隙間を捩じ斬ろうとしたのだが、その全て僅かな乱れでを予測されて”迎撃されている”。
「さて、しかし、そろそろそれは”憶えたぞ”。マナ染色で一律に焼き尽す事で真空
【常時破顔:迎撃態勢】【鑑定眼(真贋)】
そして四枚のカウンターウェイトで変幻に舞う、”応竜”の深淵の眼力が閃光を捉える。
レールとして空間を燃やして刻まれている塵間、真空の機先は確かに彼女の廻り続ける空間を妨害したが、その特性故に、壊れる時はその跡に殺到する様に潮流を生み出すのだ。
「その灼光、利用して”竜の尾”を掴んでくれよう…!弾けて混ざれ…っ!」
【蒼穹の彼方:
三対の聖杭から手を離し、握りつぶす動作を取る。
炎のレールの一部を握り潰し、更に”放星属性板”の機能を一部を割り振って、連鎖する様に力の奔流を誘導して怒涛の津波として形成する。
連鎖し大きくなる碧色”割断”の大渦が、時には”応竜”の出力へと変わり、”永遠戦姫”が竜の尾を潰さんと、彼女の軌道を追い潰し四方から迫るのである。
「利用するかその程度、喰らい破ってやらぁ!!」
【焔劇舞踏:壮美の舞】【光化炎翔:鳳凰天駆】【炎の担い手】
経路が限られていくのが何だと言うのか、”永遠戦姫”は出力を上げ、碧色を引き裂き舞い散る。
その姿は”鳳凰”の翼と出力を増して巨大な火の鳥と化け、全方位から迫る”割断”を、双剣をツインテールを”重み”を倍加、その卓越した柔軟性で稼動率を限界突破させたのである。
それは変幻飛翔。全て焼き時に潜りこみ、交錯しあった。
ジジジジジ!!
【修羅双乱姫:夢幻修羅】
もはや余波の音だけで破滅をもたらす程の尖鋭化である。
閃光の炎の尾は握り潰され、それでも”永遠戦姫”止まらずにむしろ勢いを出力を増して…。
その姿は、”古き”『ヴァ―ミリオン』に伝承されし守護神、再臨いや凌駕し蒼穹を裂く。
対して”応竜”は仁王の構えでそれを全く怯む様子もなく。
二対六基もの聖杭を構えて、連鎖狂奏を奏であげる…ッツ!
【光耀渇姫:夢幻修羅】
「あぁ今度は正面勝負か、気が合うなぁ嬉しいなァ!!私も追い翔けっこは飽き飽きしていた所だ。全力で抱きしめてやろう!この魂にその耀きを刻み付けてくれ!!」
【蒼穹の彼方:
ジャキ、ジャキ!!
その瞳に深淵の輝きと満面の笑みを宿して感覚を尖鋭化、四基の
これは単純な、彼女の愛の具現である刹那を見出した、勢いの二乗となる渾身の反撃【リベンジ】の究極の構え、マナを感知できる者であれば、禍々しい風雷竜に幻視されるだろう。
そして正面激突。
互いにその艶やかな肢体を捻り狂わせ、最適な角度と覚悟で持って……。
「あアアああアイしているぞおおおお!!テイルレッドォオオァァッ!?」
「オレも好きだぜ、”タツキ”友達としてだがな―――だから、さっさと正気に戻ってこいやァ!!」
【蒼穹の彼方】【魔法剣Lv4】
【美双にて舞い踊れ永遠戦姫】【陽炎の化身】【四刀流/マナの手】
激突の跡は、その後はただただ、殴り合う。
六基の使い捨ての”聖剣技”に等しい連鎖聖杭が唸りを上げて、蠢動と伴に破竹が灼耀の鳳凰を削りあげ、その結晶を装甲までを炸裂させ、蒼穹の果てたる宇宙嵐を具現した。
裂かれた灼炎に、大嵐が届き身を引き裂く刹那までに、その両の手をツインテールを柔軟性から怒涛に斬りつけて、破竹の結晶を砕き燃やし尽くす。
「―――まだ、まだだとも!まだ、足りない!!」
「―――そのしつこさは相変わらずだな”タツキ”、嫌われるぜ!」
真紅と碧色の二つの輝く星が、絡み合い闘い合う螺旋を描き、墜落しあう。
ゴムの如く柔軟性と金属の頑強性を合わせ持つ怨嗟不滅の鎧が、装甲燃焼まで燃焼させた、舞裂き損ねた聖杭の音を抜く刺突に吹飛ばされて。
【魔法の如く】積み上げた体系技術のよる錬魂装甲、『黄昏の碑文』の機能で締め上げた
―――ドドドドガガガガガッ!!
【空の担い手:燃焼不全】
【光化炎翔:粉砕破損】
そもそもお互いの空舞う翼は、真っ先に狙い吹き飛ばした。
現在はお互いに純粋に塗りつぶした、己色のマナの波濤を足場に踏みつけて跳び激突し合うのだ。
そして、受け身を取る隙もなく、空から墜落して…っ!
―――ドォオオオン!!
「ぐっ、くそ。久々に重力が重たいって感じたぜ」
「くふふふ、吾ハハ覇は刃ハハ、愉しい愉しいなぁ!!」
【戦闘続行・ヒーロー】【食いしばり】
【戦闘続行・狂愛】【心命狂化】
大地の亀裂に砂煙の果てに、二人の少女が互いに牽制すら撃ち込む余裕もなく、その姿を顕す。
”永遠戦姫”は炎を編み込まれた”蜜蝋鎧”が吹き飛ばされ、表面重量自体を目減らし、炎とは違う抉られた肉の赤味が露出して、可動域を無理した四肢は辛うじて動く位だ。
”応竜”は魔法剣の獄意を廻すだけの結晶装甲を大部分を喪い、星の煌めきも離散して、白すぎる肌も焦がされ大概がケロイドに、斬撃傷も至る所に刻まれ片肩は辛うじて繋がっている。
それでも”永遠戦姫”の瞳の戦意の炎は衰えず、”応竜”が歓喜に溢れ出んばかりの満面に笑う。
そしてその情熱を表現する方法は互いに同じだ。揺らめく身体に互いに己の得物を構えて、己の”同格”を見据える。
『邪神具:”応竜”』
彼女等は戦姫『聖錬』の剣。ただの力で、脅威を払い、人類権益を守護する為の武器に過ぎない。
貴族という立場の装飾が取り囲み、更にその中で最前線を逝く彼女等の領域は、誰も知らない場所だからこそ手探りで、模索していく苦痛に満ちた作業だ
愛に狂っていても、ヒーローの化身でも一人では生きていけない。時にどうしようもなく寂しくなる。
これは過度に過激だが、こうして力をぶつけ合うのは、確かにコミュニケーション方法の一つであるのだから。
故に、どちらの表情にも多少の差異はあるが、喜悦が浮かんでいた。
「あぁ、ほんとしんどすぎるぜ。”ユグドラ”の奴もいてさ、若い奴がこう立派になるのは鼻が高いがよ。何でロートルに楽させてくれないのか」
「すまないな、どうしても我慢できぬ事があるのだ。そして眼の闘志に説得力がないぞ
話に出た”ユグドラ”、『ファンタジア王国』の戦姫である。
彼女等と”同格”と謳われる姫の一人であった。
バグ連中である彼女等と違い、正真正銘”選抜血統”若手のホープ、”麒麟児”と呼ばれた成長株、ああ適う事ならば正面から立ち合いたい。それはともかくとして。
「感謝しよう!オマエに出会えた幸運に、私が歩んできた全てに!!命を燃やせ、心を燃やせ、世界は今動いている! 嗚呼、それが輝きだ!!
”応竜”『穢戸鳴 辰祁』が、吼えるその全てが本音本気である。
”応竜”は互いに地上に落ちて、使わなくなったリソースも費やし、モノに成らなくなった腕をかなぐり捨てて……。
「―――その永遠に決別し証明とする。闘い戦いタタカイ闘争の果てに、可能性を閉じる牢獄『預験帝』を廃し、”四端”を制して、人類に黄金時代、『永遠無窮の幸福譚』をもたらさんが為に……っ!」
ガガガガガ!グルォオオオオオオオオオン!!
【魔法剣Lv4】【誠歓誠喜誠愛:
両腕の二対三基の聖杭の爪を結合して、星属性交えて廻し、超巨大な一鎚六基の円環パイルを形成する。
空属性の電磁どころか摩擦だけで灼熱し、その人の躯体に過ぎた凶悪な姿は、まさに
『不明なユニットが接続されました。システムに深刻な障害が発生しています。直ちに使用を停止してください。繰り返します―――』
その精製・維持を補助する『黄昏の碑文』が異常な数値に困惑を吐き出すが、それを意思と気合で捻じ伏せて。
しかし、相応に負担も大きいこれは全て
「おー、すげえ迫力だなそれは、本気で体系技術で編んでるってわかるだけ嫌になるぜ。まぁそん位のクソッタレなら、四年毎に”十罰”としてポンポン現れる。ただ手に余すようなら斬り斃すぜ」
それに対して”永遠戦姫”は、あくまで自然体の四刀を中心とした”鳳凰”たる構えである
気炎万丈、明鏡止水。矛盾したそれを両立させる長くヒーローとして君臨した、彼女の最善領域なのだから。
「魅せてやるよ。大概踊って殴れば死ぬから滅多に試す相手がいねぇ型だが、こっちも限界位越えねえと話にならねぇだろ?」
【四刀流/マナの手】
舞踏を武術の
そもそも空を変幻自在に翔け回り、あまつさえ制圧する存在など滅多にないと言う突っ込みは放って置いて。
双尾と双美を互いに矛盾なく掛け合わせ、テイルレッドは至上の調べと駆け上がるのだ。
もはや言葉はいらない。
一瞬の静寂、それは互い互いを惜しむかの様な溜息を経て。
螺旋具現炎熱たる六基の杭が、碧色の跡を星の機先を残して大地を文字通りに切り裂いて、それさえも
それに対してタップを刻み高速で後退しながら、
【蒼穹の彼方】
【焔劇舞踏:殺劇舞荒剣】
―――ドォオオオ大ンン!!
そして後に伝説に残る戦姫同士の舞踏は終結する。
全体を通して、一時間も経たぬその後には。
―――数キロの範囲に大きく抉られて溝が刻まれて、ガラス質化されたまるで隕石が辺りを薙ぎ払った様だ。
その痕跡に大きく離れた地点にクレーターを作り、交戦した片割れたる”永遠戦姫”テイルレッドは重態で発見されて、周辺街の常備兵に回収された。
しかし、首謀犯でありもう一人の堕ちた戦姫、”応竜”の姿は幾ら捜索しても発見できない。
それがこの夜の結末であった。
―――『パリス同盟』
とある都市の最深部の病棟にて。
その白い白い部屋に、二つの紅一点の姿があった。
”永遠戦姫”テイルレッドと、その弟子の一人、闘争都市『ルミナクロス』の”紅宮皇”揺光である。
大襲撃の際には駆り出される半公営戦力、その立場から情報が耳に入り、口には出さないが尊敬溢れる英雄であり師である彼女の大怪我の報に、いの一番に駆けつけていたのだ。
「―――ってな事があったんだよ。いやぁ参った参った。思ってたより二割強かったわ」
「って軽いなぁ…っ!?こっちがどんだけ心配したと思ってんだ!内臓まで衰弱して全治少なくとも年単位の重症重態だぞ…っ!!」
【戦闘続行】【食いしばり】【内腑衰弱】
全身包帯グルグルの巻きの痛々しい姿でありながら、何時も通りの軽い様子で語り、からからと笑う。
あの夜の後に、何を置いても死なせるなと最優先で担ぎ込まれ、最高最新鋭の治療をその身に施され、その華奢な身体をベットに横たえていた。
「まぁこれで確信したわ。前から”タツキ”の奴はバカだったが、深刻化したのは、何かの操られて干渉受けてやがる。オレとアイツが本気で闘えば”どっちか必ず死ぬ”からなー。人の言葉聞く性質でもなし、こんな半端で終わるなんて有り得ない」
「はぁ?どっちかが死ぬなんて冗談だろ。ましてはそんだけ怪我を追ってさ」
百年来の付き合いで良く知る同僚、友人の性質上の話である。
”応竜”は人類愛に狂いに狂って、輝きを信じる。自らを信じる、敵を信じる。その試験を、敵を、未来を、人類の可能性を信じて、無謀蛮勇としかいいようがない選択肢を笑いながら選ぶ。
そんな愛と謳う幻覚を求めて走る、輝きの修羅羅刹が彼女がよく知る『穢戸鳴 辰祁』という少女である。
【不■鳥■生】
故に、彼女は追撃が来ると確信し、さらに限界を越えて生命力を燃やして、『まだだ』、と身体に活を入れて吹き飛ばされた先に万全に待ち構えていた。
しかし追撃はなかった。その集中燃焼分の無理も併せて、内腑が費やされ消耗して更に重症に拍車を賭けていたが、無駄な事だとは思わない。
「”応竜”ってのも長く戦姫を務めてる事は知ってるけどさ、ししょ…テイルレッドが全力で殴り合ったのだろ?消し炭になったか、吹き飛んでモンスターにでも喰われたんじゃないか」
「そりゃないわ。殺した手応えがなかった。そして勝手に野垂れ死ぬような奴じゃない、こりゃ確信だぜ?」
一般から見れば、”永遠戦姫”であるテイルレッドを筆頭として、その同格の存在は認識されてない。
そもそも在位期間が違う。在位壱百年を数える”応竜”ですら、戦姫の位に付いた時には変わらず既に最強であったのが、テイルレッドである。
ついでにそんな現状に不満を抱き「もっと気合い入れろオオオ!出来る出来る絶対できる、もっと輝け!!」と、”当代の空”を蹴り落して一石投じたのが、”応竜”と呼ばれる以前の
つまり彼女が本気で闘いあって、ここまでの重傷を負いながら仕留められていないというのは、単純に夢物語のような話であるのだ。
”紅宮皇”はどちらかと言うと修羅寄りではあるが、その若さと師匠への好感度と、実際に触れたその力の盲信度で、割と思い入れが偏っていてその目を曇らせていた。
「”聖錬”本国は、この事態に箝口令を敷く事にしてるみたいだ。現場は独自に対処、”永遠戦姫”の証言から対象も重傷、正規兵と精鋭ですぐに片が付くだろうと判断したらしいよ」
「っち、予想通りとはいえ鈍重なこった。”タツキ”はやるって言ったらやるぞ。干渉しやがった黒幕の事もある。ゆっくり寝てる訳にもいかないか」
【正義の心:燃える心】
これは政治的な判断である。在位壱百年の戦姫”応竜”の離反もそうだが、”永遠戦姫”の瀕死の重傷が何よりも影響が、善からぬ事を考える者に活力を、経済に影響でるレベルで大きいと判断した。
故に公的上位権限者にのみ通告、”応竜”の討伐隊である精鋭を、秘密裏に派遣する事としたのである。
「―――と言う訳で、早くこっから出せ、オレはオレの為に伴友を止めなきゃならん!」
「馬鹿言え、寝てろ半死人!!」
そして師弟の押し問答が繰り広げられる。
普段通りであれば、病棟の窓を突き破って翔け出している所だが、今の彼女は”紅宮皇”に敗北しかねない位に弱体化している。
いや、むしろ何で動けるんだよキモいわと言われるレベルであるのだが、それでも動くのに不全である。
「は~な~せー!!」
押さえつけられて、遂にベットに縛り付けられるのだった。
―――同じく『パリス同盟』
一方、何処かの鬱蒼とした森の中の事である。
少女唸り声がその中で響く。
「が、ぐア…っ!」
その片眼は欠け、半身を吹き飛ばされて、まんべんなく裂傷に火傷に満たされた、重症でない部位が無い。
そんな翡翠の少女が樹の洞で蹲っている。
”クシナダ”と呼ばれた、常識外の少年に敗北した時より酷い。
その損傷を、彼女の意思と『碑文』と呼ばれる遺物の不死性への適応によって、何とか繋いでいるのだった。
「ぐっ、がァ嗚呼!?くそ、私としたことがなんて、無様だっ」
【リザレクト】
悪態を付く。私が生きている、微塵に砕けていない。誠意・誠愛を尽くせていない。
白黒つけるのは、己の身勝手な振る舞いの最低限の礼儀だろうに、彼女の傷ついた脚はその意思に反して、戦場を飛び去っていたのだ。
『――――――』
【電子魔術:ハッキング】
その小さな頭を抱えて。
「煩い五月蠅いウルサイ…っ!雑音風情が、私達の間に入るんじゃない……ッ!!」
”疾風怒濤”の具現の果てに、”永遠戦姫”を吹き飛ばし、過稼動の反動から一瞬でも意識を喪った。
それ故に、気合と意思で塗りつぶしたはずの干渉が再び顔を出して、彼女の肉体の制御を奪って逃走、その強靭たる精神をも蝕んでいる。
卓越した遺失技術
【人類愛】【人情不解】【錬魂装甲】
それを曲りなりにも、意思の力だけで抑え込んでいるのは理外の意志力の証明である。
「私は、私はあああああああ!!奔り出し、証明しなくてはならないッ!テイルレッドに踏破する未来の可能性を、だからだガアアアア?!」
【夢惨輪廻】
元の怪我に更に塗り重なる様に奔る鮮烈な激痛だった。
身を裂かれるなんて表現は生温い、もとより『IS』と言う魔具は使用者をエネルギータンクとして造り替え、悪趣味な兵器とする物だ。
彼女の異形のようにも映る白い肌、アルビノの由来。それに沿って、血管の神経の一つに至るまでに犯されている。
「―――私は私の意思で、人類の歩みで『預験帝』を廃する。人類の、黄金時代を……っ!私の、中から、出ていけ!」
私達の闘争を穢された、その上でこんなものに屈したとなれば。
彼女が強く信じる幻想の愛に光に、歩んで踏み倒した全てに恥しくて、とても生きていられない。
故に微塵の妥協の余地なく抗うのである。
そもそも、野望に憑りつかれて真っ先に”同格”である”永遠戦姫”テイルレッドの元に訪れたのは、自身が野望の”試金石”、その知名度と影響力……最強最美を打倒し、その”耀き”を吞み込む事で証明する意味合いもあるが。
その由来故に、冗談交じりの暴走した際の”介錯”交した約束を、無為識ながら、履行反証し続けたからである。
塗り潰そうとする度に罅割れる、砕ける『穢戸鳴 辰祁』と呼ばれる少女の魂が存在が否、砕けてそれを無理矢理繋ぎ合わせて歪になっていく。
「―――がああああああああああああああああああああああああ」
【心命狂化】
それでも。それでも彼女は自身を蝕むそれに、継ぎ接いで”光”を”愛”を”自身”を見据え続ける。
屈してしまえばどれだけ楽だろうか。
それでも身を砕きながら、罅割れた”私”を元に戻そうとする。
「―――すま、ない。テイルレッド、オマエは私を精一杯愛してくれたが、私は愛しきれ、なかった」
【人類愛】
最後に出た言葉は、伴友への謝罪の言葉である。
欲求に憑りつかれて、それを履行せぬ事が死と同義とまで狂気を深めた彼女だが、それでもテイルレッドの事を、その”耀き”を真摯に愛しているからこそ、微塵も揺らがずに動いた。
そして実際、テイルレッドと対峙している時に限り、彼女は戦姫でもない正真正銘の『穢戸鳴 辰祁』でいられたのだから。
そして、歯車は動き。
夜は更ける。
それはそんな、『聖錬』の流れ本流の物語であった。
”応竜”と呼ばれた翡翠の少女がどうなるのか、それは誰にもわからない。
―――更にその一方で。
戦場の跡地、そこに立つ、翼をもつ機巧を纏った美麗の男が一人。
「―――あの閃光に惹かれて見に来れば、人界にも異変があるか、やれやれ」
【死神騎士】【失墜楽園の王】【全駆動把握】
黄金に輝く双剣を構えて、それを身体の延長に構えるそれは明らかな強者の風格。
仮面を身に着けて、その光景を見下ろすそれの真意は掴めない。
「現地兵の反応は悪くないか、騒ぎを起こすわけにもいかない。しばらく近づけなかったが…、これならば磨けば”竜魔神”に届き得る…か?」
その言葉を残し、その存在は空に消える。
思惑は螺旋を描き絡まっていく……。
テイルレッドと同格他の二人が生きてるっぽいのでプロット見直し中…。
流石にテイルレッド重症、”応竜”離反って事にしたら、なんかしらの反応あるよなぁ…。
とおもったって本殿でダイス振ったら、事故った。