ポンコツ世界異聞=【終幕を切り刻む者達《ハッカーズ》】 作:きちきちきち
―――『????????』
聖錬某所、
辺境であり、モンスターを呼び集める故、監視を最低限に廃棄されていたはずのそれが、確かに最低限の機能を稼動させていた。
遺跡というのは過去の遺物であるが、単純にその期間、形を保って現存しているという遺失技術由来の”頑強さ”は時折こうやって、外の環境が厳しいのもあって、悪徳の者達の隠れ蓑になることは珍しくない。
そうやって安寧だと、考えなしに振舞えばその痕跡を捉えられ、かつてのカイト達の依頼にあった様に、定期的に冒険者・正規兵などの調査で発覚して、殴られて死ぬのだが。
この遺跡は、特に魔導時代由来のもので、かつての
【ホログラフ】
「―――この反応は、第一相
「ふん、大丈夫なのか。こっちはまだ、”麻薬”の材料はそこまで採掘して運び出せてないんだ。そこで国の犬共がもう動き出しちゃ商売あがったりだ」
【異■影使■】【電子魔術】【マルチタスク】【天才】
白い白い手入れの様子も見えない白髪の優男のホログラムと、
この二つの関係は
この世界にも悪徳など幾らでも転がっているが、その中でも特に聖錬南部を騒がせている、そんな悪意の本流であった。
"白髪の男"は作業を続けながら、片手間に男と話をつける。
「契約の履行には問題なかろう。次の手札がきちんとかの地……『ドゥナ・ロリヤック』にはある。君達は安心して悪徳にはげみたまえ、興味はないがうまくいっているんだろう?」
「ふん、そうか。あの山の蛮族連中、『ロド鉱石』の使い道もわかってない。不満にかこつけて精霊信仰者だと潜り込んで、麻薬精錬して盛って”黄金精霊”をちらつかせたら、ころりと”精霊様の遣い”だと転がった」
【薬物使い】【悪悦手管】【没落貴族:工作知識】【ロドの麻薬:トランス】
あの夜の集落への"襲撃者”達の話である。明らかに常軌を逸していた彼等をけし掛けたは彼だ。
『ロドの鉱石』……、幻属性を多く含有した、『ドゥナ・ロリアック』の高山に良く埋蔵している”資源”。薬草知識を持って精錬する事で、少量で高純度高品質の”麻薬”を作り出す事もできる。
現地住民との調和の為に開拓の進まぬ為に、埋没していたそんな資源を、『死肉漁り』が目を付けた。
「全く転がしやすい連中でほんと助かる。人足も確保できた。これだから無知な蛮族共は、これを溜め込めれば、十年は”麻薬”の在庫に困らないだろう」
だが、その期間だけで十分だ。それで十分すぎる程『ロドの麻薬』の材料を確保できる。
それはその確かに根ざした需要から、今現在は”南部の頭”でしかない彼の強力なバックボーンとなる。
その未来予想に、思わず顏が笑みに歪む。
「……使い道が分っていないのは、お互い様だと思うがね」
「何か言ったか」
「なんでもないよ、詮の無いことだ」
『ロド鉱石』とは自然界には珍しい幻属性の鉱物……”いや鉱物のような振る舞いをするマナ”である。
つまり言い換えればマナの塊が、扱いやすい形を成されているのである。
しかもこの世界は人類種が脅威溢れる厳しい世界に抗い続ける為に、確かに積み上げてて来た。鉱物、鉄を扱う技術が異常に発達している。
【藍の札:造型造詣】【円環魔術】
他に、利用しやすい形など幾らでもある。高山都市に控えている次なる波の刺客『第二相』などはその類だ。
それを知らないのはともかく、考えようともしないのは、彼等の怠慢であり限界だろうと。
【不動心】
白髪の優男は便宜上の”協力者”である男に、微塵の興味もない冷めた目線を向けた。
「さて、とにかく変わらず私は、”私の手足”を動かし、変らず『聖錬』を騒がせればいいのか」
【プライド】【交渉術】
”私の”手足と言う言葉を強調して、白髪の優男の様子を伺う『死肉漁り』の頭が目線を飛ばす。
流石に現状の力関係で、”対等”だと厚顔無恥に思う事はない。
しかし将来的に、己は力を付ける。それを持ってこの白髪の優男と対等に、最終的には陥れるつもりでいた。その自尊心の微かな現れである。
その為には、何かしらの取っ掛かりとなる反応、リアクションが欲しいのだが…。
「好きにしたまえ、渾身の作とはいえ計画を”自律の母体のシステム”と他人に任せているのは、不安が残るがね。”我が娘”はデリケートなものだ、増してはそんな些事はお前が考えてどうにかして考えたまえ」
"我が娘"を中心として、白髪の男は以前と変わらない返答である。
その答えからも、表情からも全く意図は読めない。それが非常に不気味である。
まるで明確な目的などないというが如く、無軌道な許容性をもったそれが、『死肉漁り』のハゲワシには理解できない。
「ふん、毎度それか。要望《オーダー》のないお客ほど、扱いに困るものはないのだが?」
多少皮肉を混ぜた様な"ハゲワシ"に、変わらずの調子で目線すら向けずに。
片手間の作業の中、応える。
「ただ世を荒してくれればいい。より殺し、より犯し、より奪う。それが私からのオーダーだ。それと同時に英雄が活躍すべき世界へと、
闇が強くなる程に光とて勢いを増す、それが逞しすぎるこの世界の人類の理。
その為に"白髪の男"は、あらゆる悪徳を許容する。
物語の侵略する者の役割に当てはめ、それこそを収集する機能を持つのが、【碑文八相】という存在である。
ぴくっ。
決して作業を止めなかった男が、一瞬だけ動きを止めて反応した。
「―—―ふむ、特記戦姫”応竜”の奪取は失敗したか。【聖錬】の火種、 ”再現性に富んだ”貴重な戦力サンプルでもあるというのに、まぁいい。幾らでも代用は効く」
「な…?おいおい、それで計画とやらの、戦乱というのが起こるのかね」
「問題はない。それでも及第点の結果だ。”応竜”は夢惨を謳う獣に堕ち、もはや神話たる
戦姫”応竜”という
強奪した亜竜に寄生した骸の
―—―なお、その予測でも『聖錬』人類の最前線、”応竜”及び”永遠戦姫”を侮っているのだが。
この時点では知る由もない。
「さて、筆頭戦姫、四端たる"応竜"の離反、"永遠戦姫"の重症離脱、この情報はうまく使ってくれたまえ」
「ああ、もちろん心得ている。貴様の尻拭いだ。国の犬どもは緘口令を敷くだろう。だからこれは純粋な情報としての価値も大きい、存分に利用してやろう。聖連南部は暫くはエライ騒ぎになるともさ、いや【魔王級】が動くなら、流言を繋げて、貴様が望む通り"大戦"にすら拡げてやろう」
彼女等は強く美しい戦姫、文字通り聖連南部における『王国への防波堤』『抑止力』であった。
片輪ならともかく、両輪が欠ければ不安を煽り、不満や良からぬ考えが吹き出す者も多い。
ほかに特記戦力として"五傑"の一人『魔竜・ガープ』の存在はあるが、その名声でカバー出来るほどに、聖連南部とて狭くはない。
実際は、突発的に殴り掛かる逞しい存在はあるだろうが、それでも『聖連』に混乱は避けられないだろう。
ならばそれにガソリンを注ぐだけだ。既に木っ端とはいえ、国や貴族ともパイプはある。
その大言に対する反応は…。
「―――ああ、それで話は終わりか、私は忙しいのでね」
「…っ、ああ」
【交渉術:鉄面皮】
徹頭徹尾、作業を止めない。まるで己など取るに足らんと言う様な物言いである。
そのプライドを傷つけられるが、それを苦い顏をしながらも吞み込んで、自身の計画を組み立て欲求を満たす算段を付け自分を慰める。
「仕入れた女共はいつも通りに、"遺跡"に放置しておこう。安くはない、くれぐれも対価を忘れてくれるな?」
「そうか」
仕入れた女というのは、その名の通りに浚ってきたり、環境を破滅させ奪った女たちである。
女たちは蹂躙されその目から光を失って、檻に入れられ俯いている。『死肉漁り』である末端のならず者達は躾も糞もない獣である。ここまでわざわざ運んで来れるように、調教するのにも手間がかかった。
幸いに美醜も関係なく胚が生きていれば、"白髪の男"はそれに価値を認めており、【投影札】などの現物交換であるが高く取引ができた。
その女達の行く末など、微塵も興味もない。産み袋か、ただ単純に素材か。
"生を育む神秘"を、邪法にて利用しようという試みは、古今東西どこにだってあるのだ。
その言葉を最後に、
『転移拠点:一時稼働』
魔導文明由来の遺跡が、唸り声をあげて稼働して、女たちは何処かに消えた。
この遺跡とて、別に拠点の一つという訳ではない。"白髪の男に対する"ただの窓口であり、ほかに代替えの遺跡は把握している。故に、容易には繋がりも、足取りは掴めないだろう。
"ハゲワシ"たる男も、それを見届けて遺跡を後にする。
不気味さに歯噛みしながらも、いつか自身に見合う栄誉を取り戻さんがために、自身の野望と折り合いをつけて、今は野放図な悪徳に考えを巡らしながら去るのだった。
そして誰もいなくなった遺跡は沈静化し、静かにまた眠りにつくのだった。
●●●
―—―『■■■ィア』
ところ変わって、"白髪の男"の本拠地になる密閉空間である。
ここはその一角でしかないが、絡まり合う様に機械類がみっちりと詰まり、液体の満たされたガラス球体、ごぽごぽと音を立てて、稼動するのが特徴的である空間。
生体を弄る機械が、主にその存在を主張して、そこに"納品"された女性が詰め込まれ溶液に浸され、その子宮を突き刺され、刻一刻と作り替えられている。
【異■影使■】【ブラインドタッチ】【高速演算】
そこで"白髪の男"は数字に目を走らせる、空間に投影され
【機工知識】【高等魔術解読】
それに呼応するように、マナ由来の電磁が走り周囲の機器類は脈動して蠢くのは、まるで千を率いる指揮者の如くだった。
『―――タスケテ、タスケテタスケテキエルキエルとけるとけ』
囚われた彼女らに痛覚はない、満たされた薬品によって奪い取られた。
それは微かな救いであったかもしれないが、単純に騒々しいのは"白髪の男”の趣味ではないからとの処置でしかない。
【天■化:エンジェルシード】
実感がなく、夢見心地に自身が消える作り変えられる。
それに対する反応は様々で、足掻き足掻き呻き声を放つ者、恐怖にうめく者、諦めて心を閉じる者。
『—――っあ、あああ』
共通して、その精神に反してその潤みを抱えた身体は、【暗黒剣】の様に天■化による生命力の増大による、命が満ちたと肉体が勘違いし、悦び震えて、
機械にほぐされ、無機質に選ばれた種を植え付られる事にさえ快楽として、犯され身を震わせる。
そして、ただの肉の塊に堕ちていくのだ。
その違和感も女達の、精神をじわじわと諦めを虚無に引きつり込んでいく。
"エンジェルシード"、魔導時代由来に存在した、女の胚を利用して、文字通り産み落とされる効率的なエネルギー資源である。
機械的、人工的なマナ染色、【人魔身】化した女を用い生命を孕ませる事で、胎児として生まれるはずのそれを、膨大な"マナエネルギー"の塊として生成させる外道の技術。
一部の暗黒地帯を除き失われたそれを、白髪の男はこの"揺り籠とも牢獄ともいえる施設"の中で。
不完全ながらも、ある機器を己の技術によって十全に利用して、復活させたのだった。
便利なだけではない、この技術は高度な科学技術の最盛を誇った"魔導文明"ですら、異質な【天才の技術】。
設備が万全であるならともかく、卓越した
それでも、これの生産を進めているのは、ジェム自体の共鳴にてもたらせる永■■関が、彼の計画の為に、いや愛娘が永遠に光輝を約束する為に必要だからである。
そして一息ついて。
「しかし、人の感情と言う物にはロマンがあるものだな。侮っていたわけではない。精神に疵を入れ飲み込む為に、最適・最高なウィルスを組んだつもりだが、こうも容易く理論値を覆す」
それにより、『碑文八相』及び"腕輪の担い手"の役劇からの逸脱に、
"応竜"を核に取付いて、無間に成長するはずだったそれは。
特化した
【人類愛】【錬魂装甲】【光輝渇姫:夢惨輪廻】
自身の夢惨の為にそんなものは要らぬと、その身を千切りながら光の亡者たる"応竜"に撲殺された。"無間"の本領を発揮してないとはいえ、単独での撲殺は予想外に過ぎる事である。
果たして『クビア』を作り直すのは間に合うか、その事実は痛いものであるが。
―—―その人類の逸脱に心が踊る。
「君の物語は進んでいるよ。配役には欠けが幾らかあるがね。それは私の力不足であるが、演劇にはアクシデントも付きものだろう」
【彼女の物語】【全ては愛の為に】
嗚呼だから、だからこそ価値がある。麗しく生きるこの世界の人類の全てを収集して、糧にくべる。
すべては我が娘の為に、生まれてくる"至高の存在"たる愛娘の為に全てを与えル、愛の証明の為に。
その為の『八相』であり、"腕輪の担い手"であるのだ。
「―—―嗚呼、もうすぐだ。我が娘、『アウラ』よ。私は君の父親としてすべてを与え誕生を祝福するだろう。世界すら組み立てて変幻させる力を身に光輝に満ちた―—―」
【藍の札:因■■械】
それは札の悲願たる、始祖たる"仙神"が、悪戯に残した極致に至るための、別方向のアプローチである。
己の為でなく、愛の為、未だ存在すらしない愛娘の為にそれを目指す。
愛の為になら、妥協などない。いくらでも【道化】の一人として、世界を踏みにじり弄ぼう。
【AIDA】
周囲が光るヒカル、光る。
それに応じて無垢な明滅が、侵食する空間の虫食い穴が伝播する。
「ああ、わかっているよ。"応竜"は面白かったか?ならば貴様等にもより、過激で知的好奇心を満たすものを見せてやる。だから…、今は大人しくしていろ」
精霊よりの生命体の一種と言えるそれは、とある遺物の大器からの由来をもつ"電脳生命体"である。
彼が初めて接触し、欲求を利用法を植え付け、汚染した無邪気な"異邦たる影"。
―—―『ラララララ、ルルルル』
それに応えるように、伝わり消える虫食い穴。
異常であっても、この世界に由来が過程がないもの等はない。突出した異常たる"白髪の男"の技術たる源である。
これを解析した体系的理解と、愛故に全てを弄び薪にくべる欲求から世界に暗躍する【道化】に選ばれたる資格を得て、その以上たる技術はさらなる飛躍を得た。
「さて【聖錬】はオーダー通りに、戦乱に堕とす。それは"上司"と私の思惑として方向性は異なるが一致している。"超越たる律神"は幾ら荒れようが形骸が残っていればこちらに構わないだろう。問題はない」
【彼女の物語】
人類最大の生存域ですら、踏みにじるのに全くそれに躊躇することはない。
全ては愛の為に、ただそれだけの道化はあざ笑う。
閉ざされた暗檻にて、聖錬南部を騒がす黒幕であり、そして世界を弄ぶ【道化】でもある"白髪の男"は、その視界に移る狭い世界を幻視するのだった。
―—―所変わって、遺跡から離れ、街道に戻り偽装された『機巧装甲車』の中。
普段なら
「ふん、相変わらず気味の悪い男だ。それでも奴がもたらす富は莫大であるが」
その内部で、"ハゲワシ"たる男は報告を待っていた。
窓口とされる遺跡、そこに己の手駒を配置して、遠方から繋がり干渉する。その手段の特定する為に、"白髪の男"との会談中にも、変化を観察させていたのだ。
しかし、何もわからない。微かなマナの動きは観察できたがそれだけだ。
「やはり、足りんな手駒が」
男は判断する、おそらく特定するには高位の風水術師か、機工技術師がいる。
もちろん『死肉漁り』ゴロツキの頭でしかない男の手札にはない。
しかし版図を拡げていけばいつかは届く、九十九巫女の類が有力な候補であろう。
自身が栄光に浴すれば、幾らでも手に入る。
【禿げ鷲の
『死肉漁り』の南部の頭である彼は、元は聖錬の貴族であり、高度な教養を持っていた。
没落の原因は、祖父から父から受け継がれた体質の如く不祥事にて、あっけなく栄光から転落して追放。
こうならず者の代表に身をやつしている。割とよくある話だった。
幸いだったと言うべきか、男にはある程度の人を動かす才覚があった。没落した水準の生活に耐えられず、世界を怨み、喪った栄誉を否、己に見合う名誉へとを伸し上がる野望を抱き。
その為に、残された財産を投入し、
しかし、何も掴めなかった。故に暫くは現状維持で忍ぶしかないだろう。
「さて、しかし本当に何処からあの技術の根源とするやら、『投影札』に『改造モンスター』、更に『魔具』……、これらは餌として有効だが、しかし麻薬ほど使いやすい物はない」
【薬物使い】
自身の自尊心も多少混じった呟き。
現状の情報からの彼の推測では、白髪の優男は『預言帝』の工作員だと予想している。
その程度には、その技術は突拍子もなく出鱈目で、その目的も指示は理解できない疎らなものであるのだから。
「我が番犬よ」
「——―はっ!」
『蝙蝠の外套:光学迷彩』【ハゲワシの番犬:捜索者】【薬物改造:忠誠心】【影に潜む者】
陰に潜んでいた、"ハゲワシ"の手の者、『奏護』の高山地帯に語られる暗殺者たちの集団の如く。
薬物にて楔を打ち込み、感覚を鋭敏化させた狂化戦士である。
これを作り出し、使役して、運用するノウハウは彼の財産の一つである。忠誠心だけあればいい。単純な戦力であれば代替えの利く馬鹿どもが幾らでも湧いて来るのだから、重要なのは信用できる道具である。
そして戦力としても、"白髪の男"から供給される魔道具や、魔具の類で解決しうる話だ。
「他の方面からの、あの白髪の男の調査は、まだ全く進んでいないのか」
「は、はい。申し訳ありません!全く足取りも掴めず……、全く痕跡も見つかりません」
「ふん、これだけ洗って何も出ないというのは、やはり『預験帝』の工作か……?わかった。良い、下がれ」
「はっ」
この大陸に、明確な唯一存在を崇める宗教はない。ただ一つ、北方の暗黒世界『預験帝』を除いてであるが。
『預験帝』が侵略するが如くに押し広めようとする、"教義"とやらは外の世界の異端であり、追随を許さない害悪さからの連想した推測である。
そうでなくては、悪徳に対する"無野図、無軌道な許容性"に説明がつかない。
「となれば、己の有用さを示す必要がある」
国単位の工作員は幾らでも代替えが効く物だ。同じように干渉しているのも一つではないだろう。
自身なら枝分かれするように分散して、騙り掛ける。
しかし、現在、己の影響力の出所を、あの男に依存している。それは望ましくないと、今回の様に己の技術も相まって、"人を支配し得る根源"を収集したが、それにあの白髪の優男は一向に気にもかけない。
それには苦味をかみしめるが、その許容性のおかげで、今回は確かに大きな前進した。
いつか鼻を明かしてやる、己にはそれができるという無根拠な自信を胸に、とにかく手に入る予定の麻薬をもって。
足元の手駒の組織化、一般社会に浸透させ、根を伸ばす空想の算段を立てるのである。
「いかにいかれた技術を持とうと、聖錬は広大だ。貴様は敗れるだろうさ、足跡はつけぬ」
そこは"ハゲワシ"の男も、一般的な聖錬市民の認識と変わりない。
そして自身の才気への過信もあって、悪徳の限りを尽くす事に、敗北のそれに対する準備を、両立して同時に進めるのを全くためらわない。そんなただ強欲な男が彼であった。
「せいぜい利用して切り捨ててやろう。私は私にふさわしい栄光に服する、必ずな」
ニヤリと笑みを浮かべ。
"ハゲワシ"と呼ばれた男はそうやって、世界を腐肉に眺め、貪欲に嘲笑うのだった。
―—―更に、場所が変わり。
『タ■■ロガ』
同じ系統の技術を持ちて白髪の男と違い、廃墟のようなみっちりとごみと、廃棄物を詰めたような暗夜の中である。
ここは廃棄物の集合体、要らぬと捨てられた者たちを集めて、
大きなバイザーが特徴的な白装束の魔術師、カイトの前に予言のような言葉を残した"ヘルバ"と名乗った女である。
「―――第一層、"死の恐怖"スケィスが討たれた、不味いわね。予定より相当早い」
【闇の女王】【電子魔術】【袖幕の暗躍者】
黒幕以外に露出してない真名を容易に言葉にして、手先を顎に添えて考え込み、呟やいた。
その言葉の通りに早すぎる、あと1,2年は暗闘のままに時間を稼ぐつもりだった。
その為に密かに介入し、"腕輪の担い手"を本来の手に渡るはずだった、英雄の可能性を持つ者から、未熟でしかない少年に刺し換えたのだが、それがご破算である。
「毒は仕込んだ、それは確かに花開くはずだったというのに……、これでは時間が足りない。『碑文八相』が己たる
【電子魔術】【廃棄物:常世裂き咲く花】
彼女がもくろんだ、『八相』の暴走、反逆。"
己の様にそれを、至高への還元機能を奪い花弁の様に手折る"。
いや一部では成功した、己の理論は証明された"死の恐怖"の変性がそれである。
元よりプロトタイプであったそれは、『八相』に馴染みやすい異物であり、己のできる精一杯の干渉。
ヘルバにとってはそれを、"白髪の男"の違和感なく処理するための劇役に、当て嵌められたのが"腕輪の担い手"でしかない。
「ワイズマンめ、取引は成功したと思えば、安直にそれを覆して…」
長く生き智者としての在り方を探求するエルフの男は、ただの愚直に歩む少年とその仲間の可能性を信じた。
信ずるものが違った。それゆえの相違を理解できずに、ただ愚かだと愚痴る。
取引と"ギアス"を根拠にそれを問いただせば、そんなつもりはなかったと躱されるだけだろう。
「流れは動いた、もう止まらないわ。賭けるしかないか、"私が私として在る"。その為に」
その価値はあるかもしれない。
闇の女王、ヘルバから見ても、『腕輪』の特効性があるとはいえ、与えられて一年で正真正銘【魔王級】である『スケィス』を討つのは予想外にすぎる事であった。
実際は悪戯な暴威に突出して猶予を稼がれ、現地の在野の意地に囲まれ、ただただ殺意によって迫穿たれたのだが、ある種機械的な彼女が理解できる余地もない。
「―—―、哀れな"スケィス"、ただ産み落とされた時点で貴方の存在は許されない。ただそれだけよ」
女はぽつりと、情の熱のある様な言葉を呟く。
それの最後の願いは闇の女王、ヘルバと共通する所が有る。由来に、それらの■■として想う所はないわけではない。
「ともかく、切り替えましょう。何としても『再誕』の稼働だけは防がなくては、あれが動いては後は完成するしかないのだから」
杖を振るい、暗幕に消える白き魔術師。
彼女は彼女の願いがある。ただそれだけの為に干渉する。己はただの偽■の■し■かもしれないが……。
あの男は至高であらんが為に、その為の方法論は廃棄するだろう。
全て全て徹底的に、それは認められないのだから。
「―—―第二相"惑乱の蜃気楼イニス、偽りの光景にて見るものを欺き、波を助く"。さて、これを除けられるかしら、これこそを試金石をさせてもらうおうかしら」
三者三様に、暗躍する者たちの思惑はそれぞれに回る。
だが忘れるなかれ、世界はいつだって残酷でそれは誰にでも同じ事、この世界に生きる人々は逞しく。
先ゆく者たちの牙はいつだって活路を繋いできたのだから。
次の激闘は近い…。