ポンコツ世界異聞=【終幕を切り刻む者達《ハッカーズ》】 作:きちきちきち
―――少し時間は巻き戻って。
『ドゥナ・ロリヤック:中央式病棟』
そんな光景を、同じように彼を心配して時折、見舞いに通りかかった一人の少女が見てた。
鋭い眼光に凛とした佇まい、流れる様な金の髪を湛えて背後に流す美麗の少女。
"槍舞師"たるガルデニアである。
「—――………」
【九十九巫女:一つを欠けた者】
沈黙、空白。
"接吻"、知識として話だけ聞いた、好き合った異性のスキンシップの形の一つである。
普段の凛と頼られる先輩として、自然に振る舞うガルデニアならば、気を利かしてその場を立ち去っていただろう。
しかしその目は、その足は縫い付けられた様に、動かない。
彼女は体験で知っている、肌を通わせるのは甘美なものだ。
彼を悪からず想っていたのは自覚していた、”彼”のその目はまっすぐで、それが時々年相応に揺れるのは面白くて、その足は迷いながらも俯かず歩みを止めない。
そして目に映った解釈をそのまま受け入れ。いつも、適度な湿度をもって隣に座る。
その質実を良しとする彼女はその距離感が、ただ好きだった。
「なんだ。まぁ、若い冒険者の異性だから、予想はしていたわ」
ぽつりと呟く。そもそも、ガルデニアが彼等と関わったきっかけがそれなのだから。
元々、古くから男女のペアならば、頭の痛い同性のトラブルはないだろうと、知らぬ土地で生きていく為に。
そうやって選んだのが始まりである。
彼等が組んで短い間柄だと知ったのは後の事である。
だが、居心地の良さから変わらず、冒険者の先輩として、仲間としてそこにいた。
―――「私だって君の……」。
その言葉に反して胸が痛い。そして"ずるい"とも感じた。
彼女が、初めて感じた昏い、加速する甘美な嫉妬の感情の痛みである。
あぁ、それはおそらく話だけに聞く、恋の味だろう。
自分でもよもや、ここまで、己より一回り下の"男の子"に入れ込んでるとは思わなかった。
ズキン。
(……私は違う)
【女難の相:愛欲忌避】
『ブリューヌ』での同性の【親衛隊】騒ぎ、それに悩まされていた故に、感情的なそれを毛嫌いしていた。
そのはずなのに、一度火のついた胸の奥を欠く脈動は消えない。
(こんなの違う。こんなのは私じゃない)
実際に目にしてなかっただけである。元々予測していた。
ならば、いつも通りに凛と構えて流して、受け入れて、
カイトもローズも、同じように好きだった。
こんなの外に出したら、頼られる自分でなくてはいけない。もしかして"嫌われてしまう"かもしれない。
―――『九十九機関』、そこに属し優秀な血の保管庫、坩堝たる『九十九巫女』という存在。
大概に才能に恵まれ、研鑽する環境に恵まれた、尊き存在に道具の様に壊され、治され、奉納される。
明確な家族はなく、九十九機関という大きく大雑把な揺り籠に育まれた彼女たちは、結局のところ芯たる愛に飢えて、人になれぬ獣であるともいう。
それが"一つ欠けた物があり、百には満たない我らが機関"。
それが『九十九機関』及び、『九十九巫女』という名前の由来である。
一般的に言われる九十九巫女の血に対する飢狼っぷり、"逆レ文化"もそれと無関係ではないだろう。
―――■ましい、■しい、■しい。私は―――
深淵に溶け合えず浮かぶ想い。
早く痛く鼓動にそれに耐えらず、逃げる様にただ想いを沈めて、今は彼等が離れて談笑してる病室に。
トントンっ。
「入るぞ、カイトの意識はまだ―――」
まるで知らぬ風に戸を叩いて、普通に見舞いだと入室する。
その幼い瞳が、己をとらえて申訳けなさげに、その揺らめきに心臓が跳ねる。
それを制して、飼いならされた獣の様に、"私"を匿う鳥籠を探す。
私は、そんな女ではないと自分に言い聞かせて……。
●●●
―――『高山都市:ドゥナ・ロリヤック』
『崩落した岩作りの麓』
あの後、結局。眼の検査の後カイトは退院を選んで、その姿は一人で在野にあった。
検査の結果は異状なし、瞳孔細孔に異常はあるが肉体健康的には、問題のないという診断である。
これは結局のところ、それにかかるゴルの事もあるが、何よりこの緊迫状況で身体を訛らす恐れを畏れた為に、それに一理が有る為に……。
その後に、街の重役に呼び出されたりして『蒼天』に話した内容。
経緯を聞きだされた。
既に供に交戦した仲間達からも話は聞いていたらしいが、信憑性はともかくとして【魔王級】の存在を示唆する言葉は無視できないものらしい。
"相棒"のローズは一緒にはいない、冒険者としてその土木ノウハウを活かして建築に駆り出されていた。
絶賛この街は警戒体制である。冒険者の仕事ならいくらでもある。
ここは『死神』襲撃の後に、その圧倒的な暴威にて破壊された建造物の一つである。
現在の高山都市『ドゥナ・ロリヤック』には同じ様に、痛々しく残された破壊痕が、至る所に残されているのだった。
『黄昏の腕輪:侵食』
更に"彼の眼"には、その残骸に電磁渦の残滓を幻視していた。
「こんなに、頑丈だった街が……、短い間だったはずなのに」
崩落した岩作りの住居、街の象徴である『精霊風車』を千切られ、描かれた文様を焦がれて、貫かれた様にそこらがくり貫かれていた。
乗っ取られ、黄金精霊を投影していたこの街の三機もの
「むごい」
その一言、その訪れた時と変わり果てた街の姿に、既に実体験したとはいえ【魔王級】という存在の脅威がもたらす被害をその目に刻みつけられる。
【死ノ恐怖】【超絶魔力】【領域作成】【継承・夢幻羅道】
本来『死神』のこれらの機能は、街どころか小国を亡ぼすには十分すぎるものだ。
先兵、"波の先駆け"としての役割の為に、表面化してなかっただけである。
そこをゆっくりと歩いて、見渡して、確認していく。
夢の内容が正しければ確かここは、"鬼人八人衆"『蒼天』の奥義たる一撃を受け、『死神』が墜落させ。
『蒼天』に【機巧騎士】達と『隊長』呼ばれた男が畳み込もうと、死神を取り囲んだ場所である。
激闘の本流であるからか、特にその損壊も大きく、"死の波動"によってクレータ―を形成していた。
「よいしょっと」
その破壊痕の淵に腰を掛けて、眺める。
彼らがいなければ、己は"死神"を屠る所か対峙するのすら許されなかっただろう。
あの人が言う"重み"という言葉は、彼には全くわからない。
「"ああいう風に生きられたなら"…、いいや無理だな」
その生き方に足跡をたどっていた。
目的でもない、あんな風に積み重ねるのはもう遅く、今更、"夢"を見い出す寄り道するには余裕がない。
役職でもない。"騎士"という役職は冒険者にとっての夢物語、成功たる一握り、縁などない。
ただ、死に挑みその身を焦がそうとも自身の人生に満ち足りて、どうして逝けたのか、ただその疑問である。
『隊長』の最後の飛翔は、流星は苦痛に満ちた軌道であったはずだ。
カイトは、まさしく成れの果てのずたずたに、荷重に潰れた男の姿を目に焼き付けている。
その姿は、最後までヘタしたら死した後も、そのペダルを踏み込め、駆動レバーを手繰り続けた証左である。
「どうして」
それが彼には理解できない。いや、客観的には理解できるが、その力強さはわからない。
守護者を体現した鉄流星の在り方。
己の様に復讐でもなく、どこからその底力を吹き込めたのか。
それに考えを巡らせて、高山都市特有の強風に身を任せて、惚ける。
「あれは、幻か、奇跡なのかな」
『黄昏の碑文:自■■義』【鋼の声を聞く者】
あの夜、最後に『機巧』を己を導き、死神を屠る最後の一押しとなったそれ。
この世界では幽霊なんて珍しい事でもなく、しっかり理論に元付いたものであり、それに疑問はない。
大概は強い不感情、断末魔によってマナに染み付く
それとは反した、最後まで人を激励した強い強い生なる輝き。
それに対し自身の芯を再度、戦う理由を問いかければ問いかければ……。
(―――侵す者は死ね)
【狂羅輪廻】
あとは獣に狂い、痛みを抱え、更にただ我慢ができなくなった精神からくる、"畏れ"と"私恨"である。
ただ、あの波の如く侵略者を畏れて同時に許せないのだ。
また奪われる、不意にまた己のすべてが奪われる。その核心じみた遺恨だった。
己は未熟な冒険者である。長生きしようなんて贅沢は考えてもいない。
『黄昏の腕輪:
腕輪を半端に仮想展開する。
そして零れ落ちてくる、六角形結晶体、その中には何かの"鍵"の様な物が閉じ込められていた。
この『腕輪』には
その鍵は『ガーリオン』と呼ばれた機巧の、起動キーであり、本来担い手が選び取れば、それに合わせて可能性を拡張していくはずの、"侵食機能"だ。
「えいっ」
粉砕。
それを何となく有用だと理解しながら、躊躇もなく叩きつけて割り、中身の方を取り出した。
これを後悔としてる慰霊が、必要としてる人がきっといる。
「正しいと思える事を、とにかくしよう」
ぽつりとつぶやく、結局今までと同じように、歩みを進めるにはそれしかないのだから。
自身の、歩いてきた道を信じるという事、その言葉の意味は分からない。
【ソードマスタリー】
カイトの剣に重みが乗る。剣を身体の延長にする証明、元より既にそれに至るほどには振るってきた。
ただ、今の今まで結実しなかったのは、独学・模倣故に疑問に思いながら振るった、その自信の欠如からくるものである。
あの夜の日に起きた、奇跡というべきそれに恥じぬ様に生きねばならない。
価値ある
「うっひゃー、噂聞きつけて来たんやけどマジかいな。ほんまひっどい有様やわ―……」
「ああ、一度だけ来たことが有るが、滅茶苦茶に崩れてやがる『死神』の襲来はガチらしいな」
【吟遊詩人】【相方】
彼の他に姦しい声が、この残骸の跡地に響き渡る。
大仰な仕草、元気に揺れる茶髪のポニーテールと独特な訛り口調が特徴的な"レイチェル"に。
派手な格好、派手な立ち上がる銀髪を印象に残る伊達男、"リューク兎丸"の二人組だった。
「こんにちわ、お久しぶりです」
その遭遇に驚いたが、知った顔に、手を振って声をかける。
「おっ、カイト君やんかー、久しぶりやな!」
「ここにいるって事はお前達も巻き込まれたのか。その怪我はそれか災難だな」
以前、彼等の護衛依頼を受け、旅を共にした、吟遊詩人のペアである。
変わらず騒がしく、派手な雰囲気をもってそこにいた。
「うん、ちょっと無理をして、貴方達はどうしてこの街に?」
「うちらは近くにいたから取材目的やな、これでも一端の情報の運び手やし」
「流石に街が亡んだってなら避けるが、人が生きているなら来ないわけにもいかないからよ」
彼らは笑いを運ぶクランとして、同氏として集まったクランに所属しているが、自身らがやらねばという使命感も持ち合わせているのだった。
「『ドゥナ・ロリヤック』から避難してきた連中からの話で、『死神』と『黄金精霊』の軍勢が襲ってきたとか聞いてよ」
「そうそう。更に現地から、まだ部落抗争中やら、更に馬鹿でかい空飛ぶ巨大魚が襲ってきたとか聞いてな。でかい話過ぎて、どうなってんだこりゃて、色々見て回ってるところやよ」
【旅人】
高山都市と呼ばれるここは、かなり特殊な半分未開の不整地である。
そこから真っ先に逃げ出す事ができるのは、捨て賭ける思い切りの良さを持った『奏護』の住人の如く者か。
財産を抱えて、自身を守る戦力と旅支度を整えられた者だろう。
それを護衛を受けた冒険者等も流出し、この街の戦力値はだいぶ減っていたりする。
「そういう事でな、なぁなぁ、カイト君が知ってる事があれば何か教えてくれへんか?」
「まぁ、『死神』の事なら、他はちょっと寝込んでたんで、僕が知りたい位ですけど」
愛嬌染みた仕草に少し苦笑して、自身が知る話す事を考えながら。
怨敵に構えた『蒼天』、【死ノ恐怖】を墜落させた鋼流星、彼等が対峙し屠った『死神』の話。
一つ一つ、自身の整理を込めて。
「はええええ!?あんたらが、その『死神』っちゅうのを撃破したんか!?」
「ええ、まぁうん。最後の一押しに近いけど」
『蒼天』が迎撃し、併せて【機巧騎士】が墜落させた。
殺意に先走った己はともかくとして、それを死力を尽くして囲んで凌ぎ屠った。
その事実は実績は、確かにカイトと仲間のものである。
「道理でよく知ってるわけだな。というかその包帯ぐるぐる巻きは、そりゃそうなるか。とにかく生き残った様で何よりだぜ」
「うん、なんとかもう殆ど中身は治ってます。ミストラルって魔術師は知らないと思うけど、いい人ですし良かったら紹介しますよ」
「ホンマか!いい取材元やぁ、儲けやわー。という事はあの時の皆ここにおって、無事なんやな?」
【マネージャー:情報収集】
それを聞き取って、頷きながら談笑を重ねる。
吟遊詩人の職業からか、その経緯を詳細に渡って聞いて来て、それをカイト自身を経緯を除いて話した。
「なるほどな。まぁ『死神』の襲撃と同時に、あの『黄金精霊』が氾濫したらしいってから、予想はしていたがよ…、どの『死神』を中心にして発生してたのか」
「エライ迷惑な話や!うちらは一回見たきりやけど、確かにあの『腕輪』の砲撃なら殺せるかもやなー」
独立稼働する為、肉を持った『黄金精霊』に襲撃を受け、辛うじて撃退した彼らも憤慨して語る。
波の如く『碑文八相』はそんな傍迷惑で強力無比な侵略者である。
それを評して大雑把に表するのが歴史に倣う過去、およそ五百年前の地獄、極度の属性汚染地より。
『魔王領』からの
「"鬼人八人衆"の『蒼天』の詩は、イケメンていうし幾らでも世にあるからいいとして、"鋼の流星"ってのは、いい詩になりそうやわ。ありがとさん!!」
「うん、まぁ多分後に残る訳だし、あの人なら普通に喜ぶと思うからいいと思います」
「おうよ。とにかく凄いロックな男だったんだな、実際、目にした訳じゃねぇからよい。作ってストックしとくだけだが、必要だと思ったら弾き語るとしようか」
それは後へと残る英霊を称える詩、この世界には噂元が主張できる権利などない。
『聖錬』において半ば、共通文化となっている。次期Sランク候補と噂される"鬼人八人衆"という名誉称号だが、当然それに相当して噂になっており…。
【破海の剣】【冒険バカ】・【蒼天剣士】【超絶美形】
過去の『蒼海』は豪快に笑っていたが、相方の『蒼天』の方は非常に華が有る為に、多様に語られ美化され迷惑していたりする。
未来においてその一人として称される、『剣姫』の少女はこう言う。
―――『あの人外どもと同じにされるのは、人権問題で訴訟(真顔)』…と。
「—――で、本当なんか。その同類がまだこの近くにいるっていうのは」
吟遊詩人たちと、談笑から声のトーンが変わった。
終わらぬ騒乱、続いたバケモノとの襲撃、それに加えて大本に同じく災害たる【魔王級】の存在があるとすれば、この街は未曾有の脅威に晒され続けてる事になる。
「ん……、少なくとも、僕はそう信じてます」
「それは街のお偉いさん方に言うたん?法螺吹きと思われてもエライ事やで」
職業柄、情報の流通に敏感な彼女が指摘する。
災害に至る可能性の秘匿は重大な背任である。囲んで殴られても文句は言えない。
「うん、"鬼人八人衆"の『蒼天』バルムンクさんから話は通ってて、僕も呼び出されて話を聞かれましたが…、まぁその後の反応は特に」
法螺吹きという言葉に笑って。
実際は"死神討伐者"の一人の証言に上層部は半信半疑といった所で、
そうでなくても現状敵は、脅威は多いのだから、ある程度割り切って判断するしかない。
「あっそうや思いついた!依頼やよ、依頼。もうある程度動けるんやろ?」
【マネージャー:企画者】
そのポンと大きく手を打つポニーテールを揺らして、"レイチェル"が声を上げた。
初めて会った時の様に、何か唐突に思いついたらしい。
「おいおい、また突拍子もない無茶な事じゃないだろうな」
その様子に、相方の"リューク兎丸"がそのやるを肩に担ぎながら竦める。
悪態を付いても、派手好きな彼はその彼女の癖を悪くは思っておらず、気に入っていた。
「失礼やな!単純に取材やよ取材!あんなー、うち等をその『死神』との交戦地に案内してくれへんか?危険は承知やけど、報酬はちゃんと出すから頼むで!!」
そう彼女は快活に提案したのだった。
最近、この周囲の情勢は不安定であり、リスクも大きいのだが。情報の運び手としてより正確な体験に興味を惹かれての事である。
「えっと、どうしよう。とりあえずローズと相談してみます」
「おう、無理なら断ってくれてもいいんだぜ、相棒の突発な思い付きはいつもの事だよい」
あの夜の結末を見届けていない為に、カイト個人にとっても興味を惹かれる内容である。
既に残滓が、何かしらの手掛かりが残っているかも怪しいが、それを見届けたい。
(もしかしたら)
何より、"侵略者に備える"その手掛かりが、残っている可能性。
この瞳に胸に渦巻く歩みに絡みつく倦怠感を解く、足掛かりになるかもしれないのだから。
―――そしてまた時は進み。
翌日の昼間帯にて。
今回のメンバーは三人、それぞれ【レンジャー】【重剣士】【呪文師】の役割を持つ者。
「おっし、おひさー!噂聞いてこっちに来るなんて、アンタらも物好きねー」
「久しぶりやな!性分やからな、今日はよろしゅうな!」
【ムードメーカー】・【漫才師】
久しぶりの再会に、快活にハイタッチを交す彼女等に。
「君が、話に聞いてた"吟遊詩人"さん達だね、ボクは
【理性蒸発】
それに負けず劣らずの熱量で割り込んで、会話に混ざるミストラル。
合わされば相応に姦しい様相だった。
「うっし元気だねぇ、うちの女性陣は負けねぇ様に気張るか!」
「ですねー。あの集落から…、地図に円を描いてっと、こういうルートでいくかな」
『太陽の腕輪:投影レンズ』【レンジャー】
元来の彼の得手である野狩人の技能を活かして、変わらずルート取りを行っている。
なお、ローズの故郷から持ち出した『亜竜麟の大剣』は一応修復をなされているが、半端な形であり、余り無茶はさせられないらしい。
「とにかく、『黄金精霊』程度なら僕等で十分バラせます。囲まれないなら強行しましょう」
【狂羅輪廻】
それでも連携するペアとして呼吸を合わせ、呪文師も併せた彼等なら、例え"肉を持った"の『黄金精霊』程度なら。
八つ当たり含めて、順当に屠殺する。
修羅場を乗り越えて、その程度の実力はすでに備えていた。
「おっとー!うちらも戦力として換算してええやよ?魔具も新調して十分ほぐしたし」
「あれから鍛えなおしたんだぜ。あんた等が『ルミナ・クロス』で準優勝したって聞いてな、腑抜けてられないってよ」
『機巧剣:風滑り』『魔具靴:
それぞれに新しく調達した魔具を見せて言う。
『魔具靴:
『錬金楔:五行錬地』、自信を囲むように大地に突き刺す事で、整形・調整する”金属術”の鋲。
なお、『聖錬』では不足を感じたら魔具を新調するという考え方は、割と一般的なものである。
「はいはい、前回は世話になったからね期待してるわよ」
「とにかく行こうかー、なんか物騒な人達は天頂に引きこもってるらしいし、怖がってたら何もできないからね!」
『星の血晶』【精霊術Lv3:索敵精霊】
互いに武器を掲げて、街の門から外に乗り出していく。
その頭上には、見慣れぬミストラルが使役した精霊が、その感覚を頭上から伸ばしている。
彼女はあの夜を超えて
緊張状態継続故に、変わらず出ている付近の調査依頼を含めて、依頼を受けて"吟遊詩人"の負担金を軽減している。
「うー、日差しが強いのにさっぶい。上着必須ってのがよーわかるわ」
「先導しますから、足場だけには気を付けて」
風の猛攻を受け、一度歩んだ不整路を警戒し通りながら彼らは行く。
特にトラブルが起きる事もなく。
まるで嵐の前の如く静けさをもって、すんなりと目的地にたどり着いて…。
逃れる様に破壊され、一直線に伸びた大地を抉る痕跡。
不自然に成長し、そして乱暴に薙ぎ払われた森林地帯。
その原因を欠かしても主張する、不自然に拓かれ
極大光矢に焼かれた着弾痕。
それらは全て、一帯の地形をボロボロの穴あきにした、あの夜の死闘を物語るものである。
「うひゃああ!?こりゃ凄い光景やなぁ、これだけで来た価値あったで」
「これ、主にガルデニアさんの【陰陽術】ですね。『死神』を追い立てる際に使ったみたいで」
「滅茶苦茶だな。俺も風水術は嗜んでいるが"環境操作"には程遠いぜ」
【陰陽術】【固有術:森】【旋律詠唱】
実際はこの現象はきちんと制御した訳ではなく、
『桜皇』における『鬼道』に似たアプローチ、和歌の如く旋律詠唱で誘導したのみである。ロジックによって確立されてはいない。
【九十九巫女】【精練潔白】
元々、彼女の由来として持つ『奉納巫女』。
途中で"奉納基準"を満たさずと育成を廃棄されたとはいえ、幼い頃からの禊で形取られた。
その洗練された属性純度は、彼女の中に息づいている。
故に環境からのマナの
「なーなー、あの特段に伸びている樹は何なん?」
「えー、あれ?後先考えずに機巧と一緒に突っ込んで墜落してくるから!先輩が足場作って、あたしが跳ね飛んで受け止めたのよ」
「えあ?ごめんてば、あそこで叩き込まなきゃジリ貧だったから……」
【竜装帰:ハイジャンプ】【風詠み】【頑強】
投影した竜の尾をもって、跳ね飛んだ力業である。
なお、生来の頑強性と自然治癒を持つ彼女が、しばらく病棟に叩き込まれた原因の一つだった。
流石に彼女は言わない。"相棒"が自制して欲しいだけで、追い詰めるのが目的じゃないのだから。
「はえー、明るくなってみると凄い光景だねー。傷痕がよくわかるよ。」
ミストラルが単純にそう総括する。
「―――ん?」
『黄昏の腕輪:侵食』
そのカイトは気が付く、彼が墜落したという樹を基準に。
大地が抉られ残った中、不自然に咲いた一輪の美しい『彼岸花』の存在を認識した。
【常世裂き咲く花】
それは思わず触れたくなる様な、毒々しい儚き美しき花である。
「あれ、なんだろう。なんでこんな所に花が?」
「ん、はぁ?何ってあんな所に花なんて咲いてないわよ。そもそもまだ滅茶苦茶な荒野よ。見間違いじゃない?」
「そんなはずは」
眼を擦って見直した。
が、その目に映る儚き花の存在は消えない。
「ふんふん、僕は眼には自信があるけど、見て精査しても何もないように見えるなぁ、ちょっと触れてみてくれない?」
【理性蒸発】【森眼】【魔術師:精査】
好奇心旺盛なミストラルが、直接触れても透過してしまう。
だから唯一、それを認識できるカイトに、触れてみる様に促すのだった。
「……一応、武器構えててくださいね」
彼は怪しく思いながら、手がかりかもしれないと手を伸ばして触れた。
それに劇的に反応した。
『―――呪いアレ、呪いアレ、生きたかった。触れて、聞いて、見て、食べて、嗅いで、もっともっと私は…っ』
「!?」
【人工精霊】
カイトは流れ込んでくる怨念めいた強い感情の奔流に、抵抗する。
『黄昏の腕輪』の自体のセキュリティは非常に硬い。弱い己が触れれば消し飛ぶ、故に"腕輪の担い手"の方を、"脆弱性"通じて、己の情報を刻み付けて補強する。
【イレギュラー:三度壊れては蘇り】
それの存在は、精霊にも至らぬ"幽霊の位階"である。何とかしがみ付いているだけに過ぎない。
生きる為に、死して自身を分割して、自己定義を行った彼女でなければとっくに霧散していただろう。
まさに【イレギュラー】である。
【憑依具:絆の双刃】【蛍火】
それにとって幸運だったのは、"担い手"のオドの延長であり"精霊巫器"の可能性を持つ『絆の双刃』を所有して、そのオドの性質が精霊にとって栄養価が高い事。
そこに己を染み付け留めて、繋がり熱を与え続ける『蛍火』を己の器を形採る材料に貪る。
時間にして数秒の事。
そして形取り、顕れるのは深紅の衣の白髪に赤毛のメッシュが特徴的な華奢な幼な子である。
「わぁ、綺麗…っ」
周りの人間が息を呑み、空白が生まれる。奇跡の如く虚空からの誕生。
【イ■ントエ■ミー】【藍の札:偶像少女】
眼を見開き、金の現れ。
庇護欲を誘う様に理想的に設計されたそれは、華奢で儚くそこに在った。
それを。
(―――侵す、もの、壊すか?)
【狂羅輪廻】【ファストアクション】【二刀流】
カイトのみが殺意で反応する。
それは細く弱り儚いが、眼に映る反応は、あの夜の『死神』同類の気配がある。
現在も彼の眼を刺激する、山頂に伸びるノイズめいた『侵略者』とほぼ同質、故に狂気が反応したのだ。
今ならきっと縊り殺せる。ならば―――
獣の反射の領域で、己の獲物に手が伸びる。
しかし。
「―――ぱ……ぱ?」
ピタっ
しかし、その己を庇護対象に呼ぶ言葉に、文字通り殺意が萎えた。
寄生先を父と呼ぶ、それはその見た目の通りに、庇護を求めるただの"打算"である。
(僕は、!?)
そして、己の行動を、鉄の冷たさに、客観的に思い返し愕然とする。
"波"と酷似してるとはいえ、反射的に幼子の頸を、斬り落とそうとしたのだ
紅の少女の状態はカイトに寄生している。それも併せての反応だったが、彼には分からない。
「えっと、僕は君のパパ君じゃないんだけど、君はナニ?ダレ?」
やはり、あの夜に、自身は何処か壊れてしまったらしい。律しきれない自身を認識する。
己を律する様に、意識的にいつも通りを意識して振る舞った。
名を取り、認識して、解釈して、それで初めて物事の意味が取れる。何事も触れねばわからないと己を戒めた。
「りこりす……、リコリスよ。ぱぱ」
【フェイト:壊れた心】
彼女が寄生先を父と呼ぶのは、本能的な自衛反応である。
強い”生に執着する心”を持ちながら、同時に”死を受け入れた”その特有性のデータのサンプリングに、
撃ち込まれた"廃棄物"が、『死の恐怖』に残留したのは皮肉であろう。
それでもそれでも許されるなら、生きていたかった。
すでに終わったはずの少女であった。
誰にとっても予定されなき者、それが幸福を齎すか、破滅を早めるか、だれにもわからない。
彼女がスケィスから出てきた理由。
1、ヘルバがやらかした(スケィス覚醒原因)。
2、そもそもこの世界だと黒幕(仮称)の性格の悪さが改変・改造レベルで増して、
原作と違い自分の運命を受け入れての消滅でなく。
死を受け入れたけど、死にたくはないという想いで討たれた為に自己を残した。
3、.hack特有の深刻な専門術者不足の為に、ミストラルの離脱も検討されているし、
人妻で身が重いので。
手軽にうごかせるPTに常駐できるような術者が欲しかった(おい)。
4、「黄昏の腕輪伝説」は大分ノリ違うので出せないので、
放浪AIも冒険しようぜ!って事でテーマの一部だけ導入。
放浪AIの中で、現在存在してるのが彼女だけである。