ポンコツ世界異聞=【終幕を切り刻む者達《ハッカーズ》】   作:きちきちきち

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上京【ヴァ―ミリオン】

―――護衛依頼の顛末。

 【デーモンの襲撃】

 その被害は、カイトは手の焼き付き裂傷に全身火傷、ローズは軽度火傷(肉食ったら治った)。

 B級冒険者の先達であるカルデニアは貫録の無傷。

 

 【デーモン】を退治した後、その後には追加は来ることはなく。

 それが現れた地点をそれとなくカルデニアが調査した結果。

 使役者と思われる人物が半身を喰われ、首だけで転がっていたとの事である。

 今更、間抜けにモンスターに喰われるような手合いでもないだろう。

 口封じか何かがあったのだろうと、そう彼女は話していた。

 

 その後は特に何も起きることなく、無事に目的地である街へと辿り付いた。

 

 とにかく焼け付いて、絶マナグローブが手から剥がれず困ったなと考えていた。

 なお、街に着いたら途端に、治療機関でもある。現地の【九十九機関支部】連れ込まれた。

 【九十九機関】というのは簡単に言えば血筋の坩堝。

 人材の収集と量産を使命とし。優れた血筋を保持しつづけ”尊き、優れた存在”に奉納する機関。

 役割を喪った穴倉の代わりに知識と術を保存する役割も帯びているので、

 こういった専門的な治療に技術を持ち合わせているとか。

 優れた者であれば世紀の罪人すら活かさず殺さず保存し、(タネ)として利用するのだ。

 この様な機関があり、歴史の中で長く機能してきたという事は。

 この世界の”選抜血統”と”平民”には越えられない差と言うものがある。

 もはや、”選抜血統”は人種が違うとも言ってよい。

 一般人である彼等には縁が薄い場所ではあるが、カルデニアに伝手があったらしく、

 世話になる事になった。

 

 

 (治療費と装備代、旅の費用で足が出るか)

 と冷や汗搔いていたが、治療費は今回の護衛の依頼人が持ってくれるとの提案があった。

 一応、化物相手の彼らの命がけの奮闘を目にして、思う所はあったらしい。

 冒険者に対する僻意に満ちた視線は薄く、最後の方にはかなり態度が柔らかくなっていた。

 

「命かけた甲斐は、少しはあったかな」

「ないわよもう、痛くないの!?ああもうこんなグログロに焼けちゃって!」

「イタイけど、騒いでなくなるわけじゃないし」

 彼の手は罅割れ焼け裂け、ケロイド状の部分がぽつぽつとある位の傷だった。

 やせ我慢。無理を押して高出力の魔法なんか受けた割には軽傷と言えるだろう。

 同属性の魔法剣様々だった。

 だが、相棒であるローズにとっては気が気ではない様で。まるで我がことの様に騒ぐ。

 

 既に治療は済んでいる。手は包帯のグルグル巻き、応急措置もあって後遺症は残らない様だ。

 魔法があり、脅威が多い分この世界の医療技術については著しく発展している。

 噂では特にラスボス国家こと【王国】は、モンスター害が多く。

 九十九機関の発祥地である事と。

 【五奇不理】という変態科学者連中が、魔法の様な外科手術を専攻して。

 不可能すら可能にするとの噂もあった。

 

「しばらくは軽作業の依頼しか受けられないかな。柄も握れやしないや」

「いいわよ。と言うかしばらく休みなさいよ!大きな収入が入るんだし、鉢は当りはしないわ」

 呆れる様に言い放つローズ。

 カイトが意図的に休みを取るのはもう数か月ぶりであり。

 そう言われても落ち着かない気分になるのは、そのままワーカーホリックの兆候だ。

 ここまで大きすぎる怪我なく、

 冒険者として生きていける事は、彼等の才と何より運の良さを示すモノでもあるが。

 そして同時に危うさでもあった。

 

 

 しばらくして。

 ガラリと冒険者の待機場所の扉が開く。

 パーティのリーダーとして、依頼の報酬を代表して受け取りに行っていたカルデニアが戻ったのだ。

「その通りだ。というかその怪我で働くつもりだったのか君は。やめておけ、冒険者らしくもない」

「あ、お帰りなさい先輩。結構時間経ったけど、何か有ったの?」

「ああすまん、少し手続きで遅くなったか。その分良い報せもある」

 

「あの首の男は安いが賞金首だったらしい」

 そう言って彼女は卓の上に想定より多めのゴルが入った袋を置く。

 あの襲撃の首魁の男は、何だかんだと優秀であった。

 デッキを持たぬとはいえ、投影竜を利用したトレイン時点で襲撃を成功させる事もあれば、

 最後の【デーモン】を切札として蹂躙する事もあり。

 付近の実力者には見かけたら惨たらしく殺す。その程度の脅威として認識されていたのだ。

 

「おお、ラッキーね。あんなの相手にしたんだし、ただのくたびれ儲けにならなかったのは嬉しいじゃん」

「あと新人なのに今回はそちらに負担を掛けてしまったからな、報酬の割合にそちら一割マシでいい」

「え、いいんですか」

 驚いた。常識と仕事の割合で言えば、最初の提案でもまだ有情な位だと彼は認識していた故に。

 貰えるゴルが増える事は嬉しい。

 いくらあっても目標には足りないのだから、でもそれと後ろめたさは別問題である。

 

「構わない。むしろ命の値段としては安い位だ」

「そーね。カイトが一番身体を張ったんだから妥当じゃないかしら」

 

「臨時収入まであったんだから、とにかくアンタは暫く休みなさい」

「ん、んーそう…かな」

 純粋に自身の仕事を褒められるのは、カイトにとっては珍しく、こそばゆかった。

 ある種の強迫観念に縛られた彼の中では、

 冒険者が役割に応じて命を張るのは”当たり前”の事でしかないのだから。

 嬉しい事には嬉しいのだが、こそばゆさで頬が上気する。

 

「さて、これで護衛依頼は全て終わりね。助かった、お疲れ様だ。これから貴方達はどうするんだ?」

「こちらこそ、お世話になりました。僕達はとりあえずこっちの冒険者宿に3日位滞在ですかね」

 相棒であるローズに眼を合わせ、意思を確認する

 

「折角都会に来ましたし、商店や市場で掘り出し物がないか見たりとか、ローズは早く帰りたい事情はある?」

「あたしは特にないわね。臨時にどっかの冒険亭に登録して、依頼受けるには短すぎるし」

「問題はあたしらのどっちも、モノのとか良し悪しとかわからないんだけどねー」

「まぁそこまでのゴルはないし、高望みはせずに珍しいモノあるかもって程度の感覚で行きます。」

「ふむ。なるほどな」

 

 ―――目的の街【ヴァ―ミリオン】

 依頼の目的地である都市の名前である。

 彼等がの拠点である【ラインセドナ】に比べて比較にならない程の大都市であり。

 聖錬にその名を轟かす聖錬騎士の頂点と言われる【五傑】。

 更に貴族の尊き血、選抜血統の頂点、その血に合わせた【竜具】という至高のS級魔具を合わせた。聖錬随一の戦力と謳われる、【戦姫】まで常駐している程の大都市だ。

 だから、彼等の感覚で言えば上京した都会と言った感覚になる。

 仮にこのまま依頼なしで帰るとしても、何か掘り出し物の一つでも見つけられれば、

 十分ここに来た価値はあると言えた。

 巡る物流の量が、文字通り桁が違うのである。

 

「それなら、とりあえずこれを渡しておこう。字は読めるな?」

「あ、はい勿論」

 そう言うと、カルデニアは字が書かれた一枚のメモを手渡して来た。

 

「折角だ、ゆっくり一週間程度滞在するといいさ」

「先の依頼人から【ラインセドナ】に戻る時は、また護衛をお願いしたいとの誘いがあった。それに合わせて戻ればいい」

 思う以上に依頼人に高く評価されたらしい。大半はB級であるカルデニアに対する評価だろうが。

 (あんなに冒険者から距離を取りたがっていた依頼人が、なぁ)

 それがこちらを信用したというのは、世の中も行動次第で結果は変わると示しているようで。

 少し勇気付けられるようだった。

 

「そこに書いてあるのは、私の連絡先と、都市【ヴァ―ミリオン】で信頼できる宿だ。困った事があれば言うといい。仕事はあればまた誘おう、鍛練も時折なら付き合うさ」

「あの、ありがたいですけど、何でそこまでしてくれるんですか」

 疑問をぶつける。

「僕らの目的は言いましたよね。余り良くされても返せる見込みはないですけど」

「なに、その目的があっても君等は将来有望だ。私が判断した、その範囲でできる限りのことはやってやるさ」

 一呼吸入れて。

「……それに君等ならば、対人関係の頭の痛いトラブルもなさそうだ」

 惚れ惚れとする面倒見の良さだった。

 これで鋭利な美貌を持ち、簡易的な治療技術を持ち、PTを護る盾である。

 

「じゃあ遠慮なく、これからもよろしくお願いします。カルデニアさん」

「こっちも宜しくね。先輩」

「こちらこそ、だ。私にとっても対人戦の機会は貴重だ」

 これは親衛隊もできるなと、納得もいく。

 自身の利も一応勘定はしているが、この精神的イケメンっぷりが数々の残念な女性を惹き付け魅了し。

 親衛隊結成にまで至った事を、カルデニアは自覚していなかった。

 男性?気圧されるか、親衛隊にシッシされた。そんな高嶺の花であった。

 

「じゃあ、時間が開いたら一回練習お願いでき―――」

「「君(あんた)は休め」」

「おっふ」

 二人に静止されて落ち込む。彼の感覚で言えば実戦はともかく、二刀流しなければ握力は足りる。

 さらし巻いときゃ何とかなる程度の感覚であり、そこまで重症の自覚はない。

 身体の火傷の痛みなどそもそも考慮に値しない。

 

 

「では私はもう行く。良く休めよ二人とも」

 大槍を構えてカルデニアは去った。

 有力な冒険者の道標を得たと言っていいだろう。

 彼等は気が付いていないが、彼等が冒険者に成って五か月の中では一番の進展にであった。

 人のコネの力は大きいのだ。

 

 

 

 

 ●●●

 

 

 

 

「よしじゃあとりあえず、まずは紹介された冒険宿に部屋取りに行って荷物卸そうか」

 加護に置いてあった荷物に手を伸ばす。

「仮構えにゴル勿体ないし、二人で一緒でいい?」

「別にいいわよー、あたしはさっき通った街道にあった青空市場で飯買ってくるわ」

 

「今日はもう作る気力ないっしょ、カイトは何か食べたいものある?」

「んー、お肉と汁物と何か?勿体ないけど、怪我してるし栄養付けないと」

「はいはい。あたし鼻には自信あるからねー。美味しいモノ買ってくるわ期待してて」

 何時も通りの仕事終わりの緩い雰囲気。

 行動するにしても明日になるだろう。流れで別れて役割分担、もうこれは彼等の癖みたいなもので。

 

 (そういえば慣れた街じゃないし迷うかも、都会割と複雑だし…、もしかして不味い?)

 それに気が付いた時にはもう既に遅かった。

 その結果、宿に部屋を取った後位に、お互いにお互いを探し回る事になる。

 合流できない場合は、別れた場所にお互い戻る取り決めが無かったら、危ないかもしれなかった。

 

「慣れって怖い!」

 再度、気を引き締められる失敗であった。

 

 

 

 ●●●

 

 

 

 ―――冒険宿、「仔牛のポルカ亭」

 

 

「ハー、無駄に疲れた」

「はァ、うん。次から気を付けようこんな簡単な失敗を、他でもやらかしかねないって事だからさ」

 青空市場で買った食糧を齧り、スープを流し込みながら。

 或いは、護衛という初めての大仕事が成功した後だったのも、気の緩みに拍車を掛けていたのかもしれない。

 失敗を思い返し、命のかかっていない場面で良かったと安堵する。

 

 取った部屋は二階の207号室。少し割高になるが二つベットが置かれた割と大きめの部屋だった。

 防具を外し、魔具を取り外し、そこのベットに互い転がり、駄弁る。

 疲れも溜まっていたのだろう。硬いベットに転がってから、倦怠感でもう起き上がる気力が持てない。

 カイトは火傷で熱を持った身体が、シーツで冷やされてて心地がよく、このまま寝入ってしまいそうだった。

 

「……買い物とか行く時も基本二人…行動か。同じような建物ばっかで……迷宮みたい」

「確かにね。鼻も効かないのは予想外だったわ。あー湯浴みぐらいしなきゃ……」

 

「でさ、本当にアンタ怪我大丈夫なの?」

「んー…実はちょっと辛い。さっきも結構歩いたから…でも大丈夫」

 都会舐めていた、としか言いようがないだろう。

 ひりひりひりと、質の悪く分厚い革の防具は肌ズレも大きい。歩くたびに割と痛みが増すのを実感した。

 今回の事で防具もダメになった、修理は効くだろうか。

 新しいモノに買い替えるにしても、少し良いモノに買い替えたい。

 

 ―――【■縛■■】。

「本当にー?辛いなら湯浴び手伝ってあげようかー」

「!、何言ってんのさローズ、一人でできるよ。君女の子でしょ!?」

「冗談よ冗談」

 からかいめいたて、からからと笑う彼女に突っ込みつつ。

 身体は汗まみれではあるが火傷の熱が引かない限り、湯浴みをすれば余計痛むだろう。

 菌の傷感染は九十九の処置されて露出がない、問題ないハズだった。

「もぅびっくりした。……う、大声あげてくらくらしてきた。僕はもう寝るよ、明日から頑張る、から――――」

「はいはい。おやすみなさいな」 

布団にくるまり、今度こそ眠りについた。

 

 

「もう寝たか。疲れてるとはいえ突いてもピクリともしないなんて無防備ねー」

 

「よっぽど、あたしを信用してるのかしら」

 それをローズは、横目に楽しそうに眺め、時折頬を突く。

「―――仮に、あたしがここでアンタの首を絞めたりしても、気が付かなっかったりするのかな」

【■縛■■】

 彼女は湧きあがる衝動を噛み抑える。

 低ランク冒険者が事変の究明なんて狂気の沙汰を、今なお全力で進み続けてる彼等。

 生来の狂人でもない彼等には、それなりの素養(理由)がある。

 カイトは【自業自縛】、庇われ生き残った自分が、何かしなければいけない。

 歩みは止められない強迫観念(サバイバーズギルト)。

 

 では彼女、ローズは?

 確かに彼女は外に出稼ぎに出た仲が良かった弟が、何かしらの事変で行方不明になったとの噂が届いた時。

 「情けない」と吐き捨てる母親を殴り付け、怒りに任せて外の世界に出た”世間知らず”が彼女だった。

 だが、現実は重い。その熱だって長くは持たない。

 カイトに会うまでの2ヶ月もの間に息巻いて冒険者になった意気は押し潰されて。

 復讐心まだ燃えているが、既に弟が生きているという望みも棄てていた。

 

「アンタだけだからね。あたしの■■■■■■」

 それでも彼の無茶に付き合う理由は―――

 

 

 

 ●●●

 

 

 

 ―――翌日。

 

 火傷の痛みは多少マシになり、身体を水で軽く流して身嗜みを整えて、火傷の部位に持ち込みの包帯を巻いた。

 食事は宿の方で世話になった。

 味はかなりおいしく、栄養価が考えられていたが、代わりにかなり値段が逝った。

 これは他の所でも同じだろう。

 

(ううん、やっぱ都会は物価が高い)

 その一点だけで、定住はないかなと考える守銭奴が彼である。

 おそらく冒険者の数も需要も飽和していて、駆け出しにとっては辛い事だろう。

 ローズとカイトは、焼け付いた剣と皮防具の代わりと掘り出し物を求め。

 二人でヴァ―ミリオンの街の市場に出かけていた。

 

 市場の様子はなかなかに盛況であり、油断すれば逸れてしまいそうな勢いだ。

 

「おーい。この剣なんてどう?」

「機巧剣なんて扱えないでしょ。そんなのだとボクの魔法剣も使えないし」

「でもさ、こういった尖ったのも有用かもしれないでしょ?それにかっこいいじゃん」

「整備はどうすんのさ」

 目利きなど効かないから、ババを引いてもいい気持ちで、安いものを中心に見回っている彼等だが。

 やはり都会でも掘り出し物と言うのなど滅多にない。

 

「安くても魔具は不安の残るモノは使いたくないし難しいわ」

「まぁね、不具合起こした(ジャンク)高ランク魔具買わされて、体質改造で衰弱死なんて話も珍しくないから」

 

「由来がわからないとリスキーすぎる」

 この世界における高性能、高ランクの魔具というのは、能率を求める為に。

 使用者の体質まで変えてしまうなんて事も珍しくない。

 人種の多様性は千差万様、絶対的な都合の良い魔具など存在しない。

 つまり魔具とは幾多の死体の山によって築かれたのが純人種の叡智だ。

 故に、当然それに見合った知がなければ、先人の犠牲と同じような轍を踏む事になるものだ。

 

「とにかく数合わせでも、あんたの剣位は揃えないとね」

「だね。早く素振りしたいと感覚が」

「……わかってると思うけど、その手で素振りなんかしたら怒るからね」

「わかってるよ」

 内心では硬く包帯を巻いて、火傷の皮膚ズレの痛みは相当楽に成ったから。

 走り込み位は大丈夫だろうと判断してる事を彼女は知らない。

 

 その後も市場を回り続けて、目ぼしい物を漁る。

 

「ン……?これは僕の使ってる双剣と同じものだ」

「へ?」

 そしてそれを見つけた。武骨でシンプルな見た目の双剣。

 親友が駆け出しのカイトに会わせて選んだモノを、今の今まで長らく使い続けている為、見間違う訳がない。

 

「えー、それまた使うの!折角だから少しは良いモノに買い換えようよ。数打ちの量産品でしょうソレ」

「えっと一応双剣士の端くれだから馴染んだ重さは大事だから…、頑丈だし」

「確かに、いい武器使えば強くなれるとは限らないけどさー、でも質悪い武器使い続けちゃ限界が有るじゃん?」

 反論の余地のない正論である。

「これを機に買い換えよう!ね!」

 惜しく感じるのには実利もある。

 この剣の銘はそのまま【素人の双剣】、頑丈さだけが取り柄だがこれを振るい続けてすでに半年。

 あと少しでこのこの剣限定の、武器の熟練の技能【ソードマスタリー】が見える位に彼は振るい続けていた。

 

 喧々早々と得物に付いて議論を拡げる彼等に、店主も気が付いたかこちら近づいてくる。

 

「おう兄ちゃん達!その双剣が気になるのか。見た所冒険者のようだが、やめとけやめとけそりゃ偏屈品だぜ」

「へ?」

 そんな感じに豪快に商品を奨めるでなく、否定の言葉を述べる市場店主。

 その姿は恰幅の良い豪快な雰囲気の低身剛毛の男。おそらく種族ドワーフの男だろう。

 

 ドワーフとは山、それも鉱山や火山などの<土>や<火>の属性値に適応した種族であり。

 適応した経由であればエルフと同類、半精霊種族である。

 以上の特性から鉱物を主体とした鍛冶などに一芸を持つ者も多い種族だ。

 そんな鉱石の専門家から件の双剣の評価が出る。

 

「その【素人の双剣】やは魔法剣練習用でな。使用者を傷つけない事を第一に鍛えられた剣だ」

 そして、楽しそうに説明を連ねる店主。

「属性伝導、保持率が高くてオドの逆流で腑を傷付ける心配もないが、切れ味も多少鈍いし、オドを外に放出するのに不向きなんだわ。つーかぶっちゃけ長く使い続けるもんじゃねぇ」

 故に買い換えてまで揃えるものではないと露店商人は言う。

 実際この【素人の双剣】剣は数打ちの部類には入るが個人で制作した者である。

 質はいいのだが、目的の為にも全く普及してないのが現状だった。

 魔法剣の習得には有用ではある。だが、長く使わないものにしては値段が張るそんな武器だった。

 

「ほらねー!やっぱ買い換えないとこれからに付いてけないわよ。命を掛ける相棒なんだから」

「うぐぐ、やっと手に馴染んだけどなぁ」

 ホルダーから焼き付いた方の【素人の双剣】を取り出し、眺める。

 これも砥ぎ直す気でいたのだが。

 来る日も来る日も振るい続けた愛剣である。愛着もあるし、そもそも親友の残したものと言えなくもない。

 

 

「……驚いたな、まさかそれを使い続けている物好きがおるとは」

 呆れたような口調で言う露天商。

「あ奴も鍛冶師としての腕は確かなんじゃが、目的に固執しがちで偏屈なモノを時々作りよる。同じ製作者の作品は他にもあるが見ていくか?」

「うん、柄に半月と銘が刻んであるのがそれですか」

「そうだそうだ」

 ここにある同類の剣も有用は有用なのだが、もう使わぬと何度もここに売り払われたモノだと言うのにと。

 刀匠の名は「月長石」。

 他の作品を説明を聞くと目的に対する実用性はあるが、応用が利かないものが時折混ざると言った印象だ。

 例えば他の商品で言えば、【剥がれ長剣】マナに対する剥離装甲の様な性質を持つ魔法迎撃剣など。

 だがの剣としての性能には疑問符が付く、むしろ盾にしろ。

 そんな感じの奇天烈な物が幾つかあった。

 

「とりあえずこの半月印の割かし普通の剣をください。あと、すみません。できればその鍛冶師の居場所を聞かせてくれませんか……?」

「……普段なら絶対言わんが、まぁそれだけ偏屈品を使い込んでる愛用者なら構わんか」

 少しだけ迷った様子で。

「奴ァ【ラインセドナ】っつう田舎町の方でひっそりと鍛冶をしてるらしいぞぃ。後は自分で探しな」

「!、ありがとうございます」

「世間は狭いと言うべきかしら、まさか地元にいるとはねー」

 これで少しは希望が生まれた。

 カイトの剣技は、今のところは【素人の双剣】の形と重量を前提としたものである。

 センスに依り、重心移動を他より重視した双剣士の彼はできれば、同じ得物を使い続けたい。

 鍛え直してもらえれば可能性はまだある……、かも知れない。

 鍛冶の事は彼にはわからない。

 

 

「お、こっちに良いモノあるじゃん。注文しないでサイズが合うなんて貴重だわ。店主これ買うわ、幾ら?」

「あ、それか?まぁ新古品だから二回り安い位だな」

 その後、この露店でカイトの防具一式と、ローズの<俊敏鋭爪>(ダッシュブーツ)を購入する。

 空け透けに包み隠さず物を言うこの店主は信用できると彼女は感じた。

 狙いが低ランクのスタンダードな魔具な事もあって、購入を決意したらしい。

「まぁ折角色々買ってくれたんだ。サービスだその【素人の双剣】を貸しな」

 

「俺もドワーフの端くれだ。芯はどうにもならねぇが最低限研いでやるよ」

「!、ありがとうございます」

 意外な収穫、素人が研ぐより断然期待できるだろう。

 彼等にはこの街の鍛冶師の伝手もない。ありがたい事だった。

 

 その嬉しそうな顔を見て。

「結局それ使い続けるつもり満々なのね、アンタ」

 背後からローズの呆れた声が聞こえた。

 こうして彼等は都会の都市にて、質の良い防具や魔具を買い替えて宿への帰途に就いた。

 

 

 

 

 ●●●

 

 

 

 

「いやー、良い買い物したわね。まさかサイズの合う中古の<俊敏鋭靴>(ダッシュブーツ)があるなんて。欲しかったんだーコレ!」

「まったく、カルデニアさんが使ってたの見て、すぐ影響されるんだから」

「失敬な!前から考えてたわよ」

 結局あの店ではカイトは代替の双剣【相鉄の双剣】とダメになった防具の仕立てを。

 ローズは脚力を強化するC級魔具をそれぞれ購入して後にした。

 値段は大体平均より安く、魔具に至っては中古だからと半額近い値段だった。

 

「うん、いいおっちゃんだったよね。助かっちゃったわ」

「そうだね。……おかげでこの【素人の双剣】はまだ使えるかもしれないし」

―――【凍結記憶】

 霞んだ自身の記憶、連続性のないなくした大事だったはずの【親友】。

 それを証明するはずの形は現にもうこれしか存在しない故に、カイトの不安な心はその重みを頼るのだろう。

 その自覚は彼にはまだない。

 

 

「おや、君等も今帰りか、その様子だと収穫はあったようだな」

「こんばんわ。カルデニアさん。はい、まぁ色々と。装備が新調できましたので」

 その途中に観光りのカルデニアと遭遇した。、

「それは良かったな。良いモノというのは大体探すと見つからないものだ」

 彼女は我が事のように目を細めた。

 

「よし、折角だ。今日の夜は予定はあるか?少し話をしようか、代わりにお気に入りの店で飯を奢ってやる」

「ええ、いいの?面白い話なんてないわよ」

「ああ、話し相手がいるだけできっと楽しい事だ。私はBランクだからなその位の余裕はある。今日位は奢るさ」

 一緒に食事を取る流れになり、日は暮れた。

 面倒見の良さ故に、距離を詰め過ぎる癖がある彼女だが、親衛隊(束縛)がない今を楽しんでいた。

 だからか、そこまで吞む気はないが、酒飲む事自体久しぶりで。

 一応、酔いつぶれた時の介護人も欲しかったと、冗談めいて笑った。

 

「うわお……、クレイジーねその親衛隊って連中は」

 その話をはじめて聞いたローズは露骨に顔を顰めドン引きの様子だ。 

 元居た【ブリューヌ】の街では、お酒を一滴も飲まず自重していたらしい。

 そのせいか擬音が出てると錯覚するほどの上機嫌さだった

 下手に酔いでもしたら、狂いレズに(性的に)捕食されかねない環境だったとの事。

 

 なんというか、もはや凄まじいとの言葉しか出ない。

 

 ちなみにローズもカイトも適量なら酒は飲める。普段はゴルがかかるから吞まないが。

 この世界には酒を飲む年齢を制限する法はない。

 

「あの、ほんとにここでいいんですか」

「気にするな。私は気にしない」

 紹介された店はちょっと高めの店で、奢られる二人がちょっと焦ったり。

 

「へー、こんなお酒あるのか。何も浮いてないし透明だわ奇麗ねぇ……」

「ん、良く濾した果実の鋳造酒だ。飲むか?奢るぞ」

「いやいいですって!」

 始めて見る濁りがないお酒に田舎者二人が驚いたり。

 気軽に奨めてくるその値段に、流石に気が引けて必死に断った。

 

 彼ら二人の苦労話とかにカルデニアが相槌をうち、お酒が進む中。

 

 カルデニアの懸念通りにと言うべきか。

 酒を飲み交わしながら愚痴が進み、更に酒が進む、そんな感じで彼女はすっかり出来上がってしまう。

「うぅ、私はノーマルだぁ…レズの首魁ではない」

「―――槍捌きばかり上達しても―――」

「おかしい何かがおかしい。ちゃんと身嗜みは気を―――」

「私だって九十九出た時は素敵な殿方捕まえて妹達みたいに―――」

「あの、そのえっと、カルデニアさんは頼りがいのある素敵な女性ですから、きっとすぐ見つかりますよ」

「キチレズ軍団から離れたら幾らでも機会あるって!」

 怒涛の愚痴。

 普段の凛々しさからは想像も付かないだらけっぷりも、ストレスの反動だろうか。

 何にせよ普段の彼女は堅過ぎた。実力も突出している。

 そして下心はしっかり見抜くのだから、こんな感じにもなる。彼女の理想も割と高いのだ。

 

 そうやって今日の夜は更けていったのだった。

 

 

 




魔改造ガルデニアさん。九十九出身って設定にしたらコミュ力UP。
【素人の双剣】=魔法剣の補助輪です。

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