ポンコツ世界異聞=【終幕を切り刻む者達《ハッカーズ》】   作:きちきちきち

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蜂起【蜃気楼の侵略】

 あれから、さらに一週間の時が経った。

 

―――とある山頂のマナスポット。

 

『―――ラララルルルルル』

 起動する、脈動する。

 圧倒的な巨躯、すらりと伸びた尾、白く光の鱗を持ちて、それを美しく脈動させて地から浮き上がる。

 それは力を蓄えていた、山頂に集まるマナスポットによって、その集まる情報によって。

 

【惑乱の蜃気楼】(イニス)

 風鳴き音を響かせて、人には聞こえぬの妖歌を歌う。

 後光の如き、円環をその姿は人魚の如く躯体を持った、一つ目の異形の天使に映るだろう。

 

【碑文八相】【領域作成:禍々シキ波】【超絶魔力】

 それは侵略する影の一つ、理不尽たるあの夜に蹂躙した『死神』の同系樹、『碑文八相』一柱。

 自身で作り出したノイズの様な波の風を従えて。

 黄金の精霊をも浮遊させ、周囲の"音"を狂わしながら浮遊する。

 

「おお……っ!"精霊様"だ!精霊様が祟れたぞ…っ!」

【精霊狂信者】(ナチュラリスト)

 それに沸き立つ、蜂起した『高山都市』の現地部族の者達である。

 彼らは近頃は、偉大なる我らが祖霊と誤認したそれに、沸き立つマナスポットに対して祈りを捧げていた。

 

 

「さぁ皆の衆!我らが祈りに応えて、祖霊たる"精霊様"が降臨成された!!視よこの神々しき美しさ、輝きを!今こそ世界の理を正さん時である!!」

【惑乱の蜃気楼:高揚の詩】

 これは高次の音に、聴覚を収集する機能を持った波の侵略者…、そして■■■■に至る物である。

 その妖詩により、人を感情を読み取り共有化して、高揚に導き。その情報をフィードバックして蓄えている。

 故に、災害と言われるような【魔王級】が、それらの人をまるで従えた光景を実現していた。

 群衆の行き先を惑わし、誘導し、破滅の断崖たる崖に導く。悪悦な"蜃気楼"となずけられうる機能の一つ。

 

 更に、人魚は不可解な歌を謳い。

『―――♬♩♬♩♪』

【投射眼写:無形の人形】

 その躯体を背後に抱えた円環を、その中心に湛えられた一つ目を震わせて、その構成を組み替え変化させる。

 その機能・投影は、近くに街を襲った"天を泳ぐ巨大魚"を作り出したのと同様の現象である。

 原始的に『投影札』、投影媒体。それを身体の模様を構成を組み替える事で成される、取り込んだ情報を再現する、万能投影板である。

 

 そして顕れる、巨大な炎熱を放つ巨人たる鎧。

『ガシャン…!ぷしゅうウウウ……!』

【闘炎の鎧】(コロッサスマグナ)【超重炎刀】【陰陽・炎熱機関】(プロミネンスリアクター)

 猛る様に吠える様に、ヨロイを脈動させ蒸気を放った。

 それは、過去に大陸外の島国"桜皇"にて、受け継がれる鎧『劔冑』(ツルギ)と呼ばれる兵器の申し子。

 特徴としては大の大人が乗り込む甲冑型は少なく、ヨロイの骨格に、乗り手自身が合わせろと言わんばかりに、時に肉体改造を伴い。

 女・子供がそれに押し込まれて、運用されることが多い独自に発展した "機巧操り(ギアドライバー)"の一種である。

 

『グウルオオオオオオン!!』

【炎熱地獄を越えて】【蒸発駆動】【重折爆砕】

 ヨロイの力は戦時において一騎当千。その中でも"彼女は"幼い頃から"隕鉄"の神秘を求め。

 母体である胚から資質を選別、薬学改造によって炎属性に染色、"隕鉄"で鍛えられたヨロイという兵器の為に生まれた。

 

 過去において、自己拡張による巨大化で猛威を振るった闘炎の鎧である。

 全盛期において、単独で軍を相手取り、とある戦国覇者の奸計(マンチ)により地に沈み。

 その己自身というべきヨロイの灼熱地獄に、資質により死ねず妄執を凝縮した残骸。

 その化石を、興味は引かれないが有用なサンプルとして、白髪の男は■■■■に溶かし解析した。

 

 再臨したこの存在は、山頂に存在した幻属性の塊"ロドの鉱石"も肉として、

 受肉に至っている。

 

 進撃する闘炎巨人を先兵に。

 人魚は自身の存在を誇示するように、そしてその移動を浮遊から、飛翔へと変えるのだった。

 

 

 

 

―――同時刻、その方角に、拓けた広場から目を向けるものが一人いた。

 その気配は荒々しく波たち、にらみつけ、普段の雰囲気からは逸脱していた。

 

「―――やっぱり、来た」

『黄昏の腕輪:侵食』

 冒険者カイトはその眼でなく、感覚で観測・察知していた。

 夜な夜な、それの存在を意識し、常にその根元に目を向け畏れていたのだから。

 彼の怨敵、『死神』と同経樹、忌まわしき侵略する波が長い潜伏を経て遂に来たる。

 

「あぁ、殺さないと、明日に背を向けて死にたくない」

【精霊術Lv2】【狂羅輪廻】

 小人の無謀な呟き、己が"愛剣"を手に取り、武装を羽織り、その脚を山頂の方角に向けた。

 

「来たって、カイトが言う例の『魔王級』の事そこまでわかんの?」

「うん。あの時と同じ、山頂からのノイズの脈が酷くなった。来るよ、『死神』と同類が確実に」

 まだ、カイトの仲間はその存在を、冗談の様な【魔王級】の複数を半信半疑という所だった。

 事実『魔王級』に一度は対峙し、その理不尽を信じたくないという、心理も多少はあるのだ。

 

「まっじか―…、しんどいわね。とにかく、手分けしてみんなに伝えましょうか!これで何もなかったら、盛大に笑ってやるんだからね!」

「お願い。僕は『蒼天』さんと、吟遊詩人の二人を探してくる」

 なら伝えねば、それが彼にできる数少ない"正しい事"なのだから。

 そしてどう選択するかは別として、この事を知らないより、知る方がよほど良いだろう、と。

(なら、『蒼天』の発言力がいる)

 それに雑多な冒険者がやたらに声を上げて、信じてはくれないだろう、混乱を招くだけである。

 

 

「侵す者を波を払う。リコリスも、戦えるなら力を貸して」

「……うん、構わない」

【円環精霊】【憑依具:マナ投影】

 燃え立ち抜け出す様に様に、空間のマナに己を投影して顕れる儚紅の少女である。

 カイトは、彼女がマナに生きる精霊らしく、ある程度の術を扱える事を事前に把握している。

 

(庇護者が砕けたら、私もまた、死ぬ。だから私の欠片を―――)

 突然空白に顕れた精人だが、彼と彼女の目的はある意味一致している。

 それだけで、時に歩みを共にする供に理由に十分だった。

 

 その動き出しは破格に速いと言えるだろう。

 カイトは、自然体による【迎撃態勢】までには至らないがノイズに塗れる限り。

 変わらず畏怖に急かされ、侵略者に備えるのである。

 

 

―――しかし、彼にとっても予想外な現象が、起こる。

 

「……っなんだ。火の手が?」

 外を眺めていた目に、"街の内部"から火の手が上がったのが見えた。

 見つめていた大きな侵略に対して、その唐突な小さい非日常に、思考が疑問を抱く間に。

 

 仕込まれていた計略が起動する。

 

―――ひゅん!

『魔導式・光学迷彩』(インビジブル)『邪魔具・砲蜂』【ファストアクション】【悪党の心得】

 虚空から、Bランク以上の高度な魔具を複数用いた。

 術式による妖精弾丸を生成し、自立稼働することでの必中を実現する魔銃により奇襲が飛来する…ッ。

 

「させない」

「……ッィ!」

【二刀流】・【円環魔術:炎天】【アサルトサージ:蛍火】

 しかし、それは憑依する霊が別視点で反応し、それに釣られてその剣が迎撃して対応した。

 本来、その上級魔具は容易に"妖精弾丸"を形勢起爆し、二章級の炸裂を起こすものである。

 しかし、【円環魔術】によって"魔術"として形成し、より【蛍火】のマナに対する"虫食い性質"を強化し焼き払い。更に物理剣が衝撃を切り裂き分散させて。

 

【ダンシングヒーロー】

ざっ、ッ!!

「なっ、くそあぶねぇな!」

【影に潜むもの】【狩りの作法】

 それにて焼かれながらも、軽傷にて重心を傾け踏み込みを。

 炸裂に紛れて逆に斬りかかる事で、奇襲を仕掛けた側が飛び退いたのである。

 

「えへへへっぃ!反応しやがったぁ。ああ、めんどくせぇええええ!!」

「ふん、事前情報じゃ『魔具使い』って聞いてたんだが、まぁいい。どちらにしろ狩るだけだ」

「へへ、聞いているぞ、"大物殺し"だってな。魔具をよこせ小僧」

【死肉漁り】(グールズ)【魔銃使い】【狩りの作法】

 基本的に強力な『魔具使い』と呼ばれる人種は奇襲に弱いと呼ばれる。

 魔具の肉体強化・補助を前提とする為に、それが稼働する誤差(ラグ)によって致命傷を負う事が多い。

 故に、この世界の一部修羅は、魔具をむしろ外して上限値を修羅の如き鍛錬にて補う類もいる位だ。

 

「女が良い、柔らかそうな女が良いなぁ…っ!新鮮な肉だ、あんな所で缶詰で待ちきれねぇよ」

『狂戦士の鎧』【暗黒剣LV1】【固有術:収奪するもの】

 この男たち、死肉漁りはそれを熟知しており、幾度もそれにより一方的な狩りを成功させてきた。

 情報を集め、上物の獲物を狩る作法を持ち、効率よく腐肉を快楽を漁る。

 その程度には頭が回る、悪党(ハゲワシ)である。

 

「……」

【ハゲワシの番犬】【薬物改造:忠誠心】【影に潜む者】

 更に、陰に潜んでこちらを伺う目も見えた。

 数は四人かその姿をしっかり認識して、彼等達の反応は…。

 

「何あんた等、こんな時に、なんかトチ狂ってるのが出たんですけど!?」

【剛剣技】【ウォークライ】【カバームーブ】

 ローズが困惑しながら、その巨剣と身の頑強さを活していつもの通り、最前線に出張る。 

 火事場泥棒、言葉にしてしまえば簡単である。

 しかし、この状況で、このタイミングで仕掛けてくるのはよほどの阿呆か、それとも…。

 

「ああ、タイミングが、良すぎる。つまり―――」

 そのタイミングの意を感じ取れるのは、電子の世界に対する第六感(シックスセンス)を拓いた彼しかいない。

 故に根拠に欠けるが、その前提で推測すればする程、不自然である。

 

「共謀してる、か。お前らも"侵略者"か」

【狂羅輪廻】

 そう結論付けて、以前と違い。仮にも人間相手に、何も躊躇ない殺意の刃を向けた。

「なら死ね」

 侵略者は殺す。それが彼の殺し合いに赴く際の芯である。

 そうでなければ、この畏れも痛みも乾きはしないと、狂気は感化するのだから。

 

「へえ、怖い怖い。だが俺等だけ見てていいかのかな」

 男が指し示す、その方向に―――

 

 

 

―――時は少し遡り。

 ガルデニアは"高山都市"に武具を整理して、宿の外へと出向いていた。

 

「っ、…お前は」

「あはは、なんて偶然。待ちわびていた良い日や。久しぶりやね、(アネ)さん♪」

 髪を片方に纏め更に白く異形めいた。懐かしい旧知の顔に遭遇していた。

 

【元九十九巫女】

 ともに、"聖錬"における、『九十九機関』に育った血の繋がりはない姉妹同士である。

 しかしそれに反して再会に、ガルデニアの顔は苦い。

 それもそうだろう。彼女こそ、かつて聖錬北部で活動していた頃の話。

 何か己の『親衛隊』なんていうふざけた物を布教し先導して、周囲に軋轢をばら撒いた主犯である。

 

「よく言うわ"カルミア"。とても偶然とは思えない。君から離れる為に私は聖錬北部から、南部に距離を取った。この広大さで偶然だと?」

「ひどいですわぁ、うちは姉さんは槍働きしかない"欠陥品"じゃないって、証明したかっただけやのに」

【欠落狂愛:唯愛至高たる(オンリーワン)

【女難の相】

 それは間違えなく本心である。

 同じく花の名を付けられた"カルミア"という少女は、本心で同性である姉を愛していた。

 凛として花の如く、その姿に魂の欠落を。かつて『九十九機関』において"不要な血"と廃棄された姉を、至高に唯一に飾り立てると決めていたのが、過去の凶行の原因である。

 

「変わってない、か。何の用かは聞かないわ。私は私の居場所を見つけた、大人しく立ち去りなさい。―――でなければこの場で斬り捨てる」

【ディフェンダー】【洟槍月】【阿修羅姫】

 その愛槍を握りしめ、上段から手を添えて流すように伸びる構えを取り、槍を向けた。

 ガルデニアは距離を取れば、少しは、九十九姉妹こと"カルミア"の頭が冷えると期待していた。

 しかし、その狂熱は微塵も衰えてなく、まるで正気ではないのが見て取れる。

 

(あぁ、仮にも義妹だ。己に責任が、情が無い訳でもないが…っ!)

 感傷を捨てて、今はただ斬る。

 ただ、己の大切な者に、彼女はただ危険な存在だというだけである。

 

「居場所あは?あははははははは?!」

 それを聞いた女、"カルミア"は狂ったように笑う笑う、笑って。

 

「―――うちが、それを認めると思うてますの?」

【欠落共愛】

 その声を底冷え、その狂気に染まった眼の混迷を深めて。

 

「やっぱ甘いなぁ、姉さん。突き放して、拒絶したうちにも、悠長に会話に付き合ってくれるなんて……、悪い奴なんて一杯おる。そんな脇の甘い姉さんには、うちが付いてない駄目ですわー」

 何処までも純真に恋する童女に様に笑う笑う。

 女は自身の愛を、生来の欠落を埋めるために、周囲を顧みない狂気の獣である。

 

 ッダ!

『俊敏鋭爪・改』

 そこからは彼女にとっては言葉は要らない。

 

 己が最速の槍を突き入れようと、警戒し開けていた距離を獲物を盾に駆け抜け…。

 それに全く焦ることなく、独演する様に身振り手振り思って、その軌跡を当然の如く躱した。

 

「っ!?」

「"我が意は(いの)りて螺旋、円環にて()りこみて、無限に連なる杭とならん"」

【多目的ハイパーセンサー】【欠落共愛:リフレイン】【狂羅輪廻】

 あぁ、目に焼き付いたこの善き日の為に、その狂気の如く打ち砕かれたあの決別の瞬間を。

 何度も何度も反芻したのだから。

 

「"堕ちろ『十字架の杭』"。うちの最愛に、二度と抜けない楔を打ちたもう」

 

『A-K:ヘルメス』【サークルマスタリー】【旋律詠唱】【陰陽術Lv3】=【十字架の夜明け】(セント・オルトゥス)

 そして"高山都市"の天に顕現する円を重ねて、巨大な十字架が形成された。

 A級と呼ばれる様な破格の魔具の援護を受けて、描かれ投影されたその威力は重なり合い割り砕く様に。

 局所を歪み粉砕する"戦術級の魔術"である。

 

 ズガァアアン!!

 

 そして、"高山都市"に捻じれ竜巻が巻き起こる…っ。

 

 

 

―――そして視点が戻る。

 

 その光景は遠く、【死肉漁り】(グールズ)共と対峙する彼等の目にも届いていた。

 十字架は圧倒的な輝きを放ち、墜落時点を巻き上がる竜巻にて。

 高山都市の一角を砕いたのを確かに観測できた。

 

「へへ、あの十字架が見えるだろ?あれの付元にてめぇらの仲間、"槍使いの女"がいるって話だぜ?」

【脅迫術】【悪党の心得】

 "傭兵の女"に、余計な横槍の無いようにその獲物の話は聞かされている。

 獲物男たちが言うそれは、単純な揺さぶりである。

 "戦術級"に驚き鈍ればよし、仲間の事を心配ればさらに良い。その程度の付録であった。

 

 しかし。

―—―ブオンッ!!

 冒険者の女、ローズは全く、手を緩めず、その大剣を一足に構えて振り回した。

「って、アブね?!おいこら、少しは怯めよ!!」

「知るか、そういう単純な話じゃない。先手必勝よ死ねェ!!」

【アマゾネス:蛮族】【闘牙剣】【練気法:マッスルベアー】

 その"蛮族"(バルバロス)出身のローズが、大剣を盾に突き進んで斬りかかったのだ。

 目の前の障害を一つ一つ暴力で粉砕して行く、脳筋理論である。

 

「うん。一秒でも早く、あんたら殺して向かう」

【ソードマスタリー】【二刀流】【舞武】

 "相棒"であるカイトも、それに呼応して彼女の影を壁にしながら舞い、隙を伺った。

 修羅をいく者であれば、その機に急いだ姿勢に、隙を見出すのだろうが。

 あいにく彼等は死肉漁りであり、弱さを付き貪るだけだ、そこまで先鋭化していないのである。

 

「うまそうだなぁ女ぁァ…!」

『狂戦士の鎧』【暗黒剣Lv1】【狂化】【固有術:収奪する者】

 先行き、剛剣と打ち合う肉狂い、血走った眼を見開き、力だけの乱雑な剣で反撃する。

 突き動かすのは単純な食欲、性欲である。典型的な在野の欲望狂いたる暗黒剣使いであった。

 暗黒剣という技術は、生体を活性させる"生命力"(プラーナ)を他者から、収奪する技能だ。

 故に活性化した生体機能によって生み出される快感を、抑圧せず、貪るだけの狂人である。

 

「暗黒剣はまともに喰うわけにはいかないか…っ」

―――そして衝突。

【闘牙剣】

【暗黒剣】・【投擲術】【影に潜む者】

 その技術の稚拙さに反して、身に見合わぬ『魔具』によって身体能力は拮抗していた。

 更に狂人の男は危機感覚さえ鈍らせて、身の傷を気にせずに突撃してくる。

 

「うへえへへへええ!!女ァ女だァ!!」

「ただ気色悪い!死ね!」

【闘牙剣:スマッシュブロウ】【練気法:ドラゴンテイル】【怪力】=【薙ぎ払い】

 彼女は重量を軸に、髪編みの竜の尾とと同一化した大剣波撃にて。

 作り出した三点重心を、体技に重さとして乗せ周囲を障害物ごと薙ぎ払った。

 潜む射線をも意識して、剣を尾を主に壁に、鬱陶しい投擲ごと薙ぎ払う力技である。

 

 前衛としてその傍にて、舞う双剣士が一人。

 

ドガガガガ!!

 射撃を切り払う。

【ソードマスタリー】【魔法剣:炎舞の刃】【精霊術:旋律共鳴】

『邪魔具・砲蜂』【魔銃使い】【悪党の心得】

 蜂の様に形取られたその妖精魔弾は、連射速度自体は逸脱したものはないが。

 魔具に刻み込まれた術式によって、その制御節を入れ一時待機。

 射撃のタイミングを合わせる事で、回避困難な面制圧射撃を成しているのである。

 

閃光。

「しぃイ!!」

「ちっ、おらッささと死ねよ」

 双剣を角度を荒く散らし、燃やし、終わり際に重さを載せて振り払う。

 この場で一番厄介である、蜂を形どった妖精弾丸を迎撃して、術式を燃やし散らしていた。

 実際、"相棒"の頑強さを抜ける、一番有力な火力はこの"魔銃"である。

 

「へへ、よく捌いてやがるが、さっきから手も足も出ねぇようだな・・・っ」

『邪魔具・砲蜂:妖精術Lv2】【魔銃使い】【マークスショット】

 舌なめずり。死肉漁りの男は、余裕の表情で嘲笑った。

 男は勘違いしていた、己が手癖が、この冒険者の持つ"大物殺し"たる上級魔具を封じていると。

 しかし、単純に彼は『黄昏の腕輪』に、そこまで信を置いてないだけだ。

 

(使えば手早く殺せる。けど、それだけ…っ)

 元より『腕輪』は対人戦に向いていない。展開し、必殺の吐息【紋章砲】(データドレイン)を放つ。

 "3秒"のラグ、知り得ればおそらく己の冒険者の先輩や、知古の暗黒剣士には、十分に対処されると知る故に。

 【死肉漁り】の所持する身に似合わぬ"魔具"の事もあり、【電制防壁】(プロテクト)を持っていようと、隠し手を警戒したのだ。

 

【ソードマスタリー】【黒薔薇の加護】

ザギィ!

 連携、呼吸を動く風の動き感じて、供に足を運び舞移動する。 

 ただ、拮抗状態である背後の"相棒"への流れ弾を防ぐ。その応用性においては、彼は築き上げた剣のみを信じるのだ。

 

(強い訳じゃない…射撃は雑っ、実弾の方が厄介だ)

【ソードマスタリー】【二刀流】【蛍火:精霊誘因】

 なお、冒険者カイトは未熟故に【見切り】及び、発展技能はない。

 これは"妖精弾丸"である事を利用して、それは誘引して、瞬間を合わせ切り払って実現しているのだ。

 彼の亜流たる【精霊術】旋律感応の応用、双剣を震わせ先ぶれそれに反応しうる。

 

「―――"解析"、"照合"(カレション)、電子技術、マナ回路と数式による道具」

【電脳精霊】【アナライズ】

「……気に入らない」

【円環魔術:ハッキング】【タッピングエア】

 その憑依先の肉体の中で、"儚紅の少女"は闘いを観測していた。

 彼女の『電脳精霊』由来の技能に、空を叩き信号を打ち込み…、その弾丸の一部に干渉する。

 

―――"妖精弾丸"の制御奪取。

 密かに密かに、それは少しずつ、潜んで行われて術者を気づかせずに…。

 

「掌握。その鏃には己が焼かれて」

「な、ガぁ!?」

 男は撃ち放ったその弾丸の方向が、切り替わり自身に向けられた事に、驚愕の声をあげた。

連続炸裂。

 その次の瞬間には、男は炎に包まれていた。

 

「ふふん」

「やるじゃないの。ざまあみろ!」

【剛剣技】【打ち返し】【練気法:ドラゴンクロウ】

 その成果にに得意げな儚紅の少女こと、リコリス。

 狂った生命中毒の男の猛撃を、影から潜む投擲を、練気部位で瞬発力を増した体技で薙ぎ払いながら。

 それでいてこちらに目を配って、歓声を上げた。

 

「なら次に、殺しきる…っ」

【狂羅輪廻】

 カイトはそこで止まらず、狂気に殺すと。炸裂の真っただ中に自己を顧みず、足を踏み込んで。

―――そこで視界に互いに影を映す。

「「?!」」

【【ファストアクション】】

 同時に、不意を討とうとした【死肉漁り】とぶつかり合って、瞬間に斬り/撃ち合った。

 男とて身に合わぬ魔具を与えられて、冗長に奪う日々を繰り返した訳ではない。

【悪党の心得】【ハメ殺し】

 故に、それは度胸ではない。

 より、自信が賢く奪う。リスクが少ないと信じる、最大限得をするその方法論は考えていただけだ。

  

「っちぃ?!どういう手綱だそりゃ」

『邪魔具:久磁着の腕』【魔銃使い】【疑似月衣】

 疑似月衣と呼ばれる、金属を媒体に発生させるマナ沈着力場。それを発生させる上級魔具を彼は奪った。

 魔法で殺しに来るならと、それに紛れて、沈着させてぶち抜く。

 それを実現させる為の、マナに対する強制力を十分に有しているのが、二つの魔具である。

 

「上級魔具二つめか…っ、ただの火事場泥棒風情がどういう経緯で!」

「クソ、クソが!!想定以上に厄介だっての!!」

 互いに悪態を突き合う。

 炸裂し合う魔力圧に弾かれ距離を取り、男は思考を回した。

 一般的な盗賊の寿命三月、例え悪党とて、考え続けねば長生きできないのがこの世界である。

 

 そして出した結論が…。

「……っち、大赤字だが仕切り直すか」

【妖精術Lv2:チャフ】【俊足】【悪党の心得:逃走術】

 このまま闘い、負けるとは思わない。しかし、仮に手を、足を喪えば元も子もない。

 そして選んだ選択肢は、連れを見捨てでの逃走だった。

 積み上げた経験と、その才覚にて今は機ではないと判断したのだ。

 バケモノを殺しうる、"大物殺し"の魔具は惜しい。だが、それだけだった。

 

「へへへ、死ね死ね死ねェ!!」

『狂戦士の鎧:過剰治癒』【暗黒剣Lv1】【生命燃焼】【中毒不充】

 期待通りに、こちらを気にも留めずに目の前の柔らかかい肉に食らいつき、疵を負いながら重戦士の女と交戦していた。

 そんな中毒者に目をやって、期待通りの単純な馬鹿さ加減にほくそ笑むのだった。

 情はない。死肉漁りの男にとって、単純で阿呆な都合がいい肉壁共でしかないのである。

 

(へへ、それにまだチャンスはある)

【死肉漁り】【ハメ殺し】

 死肉漁りは推測する、打った布石により奴らは、先ほど十字架を墜落させた傭兵"狂いレズ"の所に向かうと。

 それと交戦し、消耗した所を己が背後より襲い奪う。

 互いに消耗して。場合によってはソレが持つ『エンジェルギア』、または『IS』という弩級の魔具さえ奪えるだろうとニヤリと笑った。

 

―――あぁ、この"高山都市"に既に希望などない。

 己と同じく、欲望にかられた死肉漁り共が、火事場泥棒に励んでいる。

 だから賢く立ち回れ、取り分の腐肉を増やせ。

 彼は、賢く悪い奴ほど、世の悦を享受できると信じている。

 

【魔法剣:虎輪刃】

 追い打ちの"飛ぶ魔法剣"、それをチャフに逸らされ。

 そして一人が戦線離脱したのを、歯噛みしながらもう一方に剣を向けるのである。

 

「ごめん、殺しきれなかった。今そっちを片付ける」

「ッ!こんな奴らあたし一人で十分!それより早く行きなさいよアンタの脚なら間に合うでしょが!!」

【打ち返し:リバウンド】

ガキンッ。

 "相棒"、ローズは大剣を組み躱し斬り返して、追撃の蹴りで男をぶっ飛ばしながら叫んだ。

 しかし、狂戦士の男の持つ魔具は、生命力を輪転させて傷を歪に塞ぎ、狂化による脳内麻薬でそれすらも快感に変えて、堪えた様子なく狂い襲い掛かる。

 

『狂戦士の鎧:過剰治癒』【収奪する者】

 快楽狂いの男は、誕生より母を吸い殺す。常人より生命力を溜め込む事ができる才を有していた。

 【五大流儀】(ソードアート)の一つ。

 技として洗練させるに厳しい肉体改造、快楽・精神鍛錬が必要な【暗黒剣】の技量こそ初歩(LV1)だが。

 犯し収奪し殺した女の、溜め込んだ生命力を無遠慮に散財して、この均衡を作り出していた。

 

【投擲術】【ハゲワシの番犬】【影に潜む者】

 剣尖。投擲も躱し吹き飛ばしながら。

「でも……っ」

「でもも何もない!きっと"先輩"が、さっきのはヤバいってあんたもわかるでしょが!!」

 その背を押す"相棒"の声にも一瞬躊躇った、元々喪う畏れにより突き動かされる彼だ。

 確かに目の前にも敵がいる。それも複数だ。

 これに明確な方程式など無い。殺し合いの場には万一は常に在り得る。

 

 ならば。 

「頼むから無事でいてよローズ…っ」

「誰に言ってるのさ、ちゃちゃっと片づけて私もそっちに向かうわ」

【阿修■姫】 

 ニカッと笑う、己の両輪"相棒"を信じるしかないだろう。

 己の両輪"相棒"を、己一人でできる事などタカが知れている。

 彼女の力を彼はよく知っている。だから少しだけ彼は欲張れる。己の手で故に頼り拡げる、喪わない可能性を…っ。

 

【黒薔薇の加護:抵抗軽減】【俊足】【精霊術:ヘイスト(アプドゥ)

 駆け抜ける。肉体の発条を自身の技術のすべてを投入し、高山都市を走り抜けた。

 

「―――吹き飛べ―!”燃え盛れ”+”墜落せよ”【火殺球】(バグドーン)!!」

『星の血晶』(エーテライト)【魔術師Lv2】【精霊術Lv3】 【理性蒸発】

 

(暴れているのは、あいつ等だけじゃないのか)

 その最中に、町の至る所で火の手が上がっているのが見えた。

 

 知り合いであるミストラルの術が、墜落するその地点では、街の在野の人員がそれを殴り返す様も。

 抗っている。突然の略奪者にも、誰もがふざけるなと。

 

 カイトはそれを目に焼き付けながら、走り抜ける。

 

 

 

―――更に視点が切り替わる。

 

「ごふっ……、きさ、ま」

「えへへ、ちゃんと防いでくれると思うてました」

【槍技・洟風月】【魔力撃】【阿修羅姫】

 変形槍を地に突き刺し、胸に杭を打ち込まれ、地に片脚を突き対峙した己が九十九妹を睨み付ける。

 彼女は十字架の墜落した地点にて、魔力撃にて打ち払い。

 その身を一本の槍の如く伸ばし、対流するように魔力を流れを打ち付け払い軽減したのである。

 

 しかし、無理な稼働はそこまでだった。

『エンジェルギア:ヘルメス』【魔術師】【陰陽術Lv3】【乾坤一擲】

 "傭兵の女"の姿は変性していた。ライドスーツの様な姿に、黒色の幾何学的な鎧をまとって。

 洗練された大規模魔術に紛れ、己の最愛に真っ直ぐに"無限の可能性の翼"纏って。

 接近戦を仕掛けてきたのだ。

 

「油断したでしょう?今のうちは姉さんに負けた時みたいな『魔具使い』やない」

【サークルマスタリー】【ギア解凍:限定解凍】

 ガルデニアは膝をつき、槍を支えに辛うじて立つ。

 歪悦の表情で、彼女"カルミア"と呼ばれた女は、独特の歩法でゆったりと近づいて来る。

「術式を開発した、こんな風に、今なら、この『ヘルメス』の部位を展開して、準備しておけばこれ位の規模すぐに撃てるやよ?」

 ガルデニアはその『魔具』の機能は知っていた。

 多重に折り重ね多角に縫い合わせた円筒結界、その自壊による螺旋破戒である。

 故にそれは防ぐ方法は知っていた。それぞれの歪みを拡大させて破壊力とする、歪みゆえにムラが発生しそれを見切り、槍を突き入れ分解すればよい。

 

【サークルドライブ】

 しかし、無理な稼働はそこまでで、己の身を護りながら。

 一直線に追撃する"杭"を防ぎきれなかったのである。

 

「その打ち込んだ杭は、繋がりの杭、うちの意思一つで花開き、姉さんを縛り付ける―――もう別離は許さない」

「うっく…、お断り、だ!」

【魔術師:ヘルメスの薔薇】【欠落狂愛】

ぶんっ。

 辛うじて振るわれる槍を、睨め付ける目を、目前でまるで無視して。

 鋭い輪郭の頬を、美しい金の髪を愛おしそうに撫でた。

 

「安心してな、うちも医術は得意さかい。姉さんの傷を綺麗に接合して生活には支障ないようにしてあげる。うちのそばにいる限りは、ね」

【医療技術】

 "カルミア"も九十九巫女の出身である。治療術の心得はある。

 この繋ぐ杭の為に、自在たる薔薇の蕾にて、己の最愛を縫い留める夢想をしていたのだから。

 

「もう、逃がさない。姉さんはうちのものや」

『エンジェルギア・ヘルメス』【陰陽術LV3】

 宣言し、結界が、それを構成する鎧の欠片を再び降り注いだ…っ。

 




この圧倒的キチガイ率。

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