ポンコツ世界異聞=【終幕を切り刻む者達《ハッカーズ》】 作:きちきちきち
―――『混沌の高山都市』
とある高台。そこにて手持ちの望遠を眺めていた。
激戦というべき、"傭兵の女"と"在野の冒険者"の気狂い合う斬り切り舞である。
近からず遠からずの距離にて目線を向け、観察する一つの影があった。
「へへ、いいねぇいい具合に盛り上がって」
【死肉漁り】【魔銃使い】【影に潜む者:変装術】
その男はだらしなく嘲笑う。
先の闘いにてカイトと交戦し、割に合わぬと仲間を見捨て逃走した
しかし、その牙の毒にて一咬み。
獲物を弱るまで追い回すトカゲの如くに、機を伺ってここに傍観していた。
「あんなキチガイに刃物携えた連中、普段なら近づくのもごめんだが、ありゃ互いにもたねえな」
【悪党の心得】【ハメ殺し】
互いに死闘であり、冒険者の方は肉は千切れ血は飛び散り、刻々と削れていった。
"傭兵の女"とて、力場の防壁に頼りながら、防戦一方に立ちまわっている。
その状況を弱目を狙う嗅覚。一方的な狩りの経験に培われたそれが結論付けて言葉に出した。
賢く立ち回れ、取り分の腐肉を増やせ。
仲間意識など微塵もない。奪えるなら、背中から刺してでも奪うだけだ。
変わらず彼は、賢く悪い奴ほど、世の悦を享受できると信じている。
「あぁ、ついてるな。最高に日だ!証明刻印すら刻まれていない『エンジェルギア』。正体は不明だがバケモン殺しの魔具まで手に入るとはよ!!」
そして戦闘の状況は刻々とまた移り変わる。
"傭兵の女"は天使の翼を広げ高き宙へと跳躍し、巨大な円筒十字架の槍を構築し構えて。
それを、その身を雷霆に燃やしながら、旋律で双剣に纏い流転させる。
高まる魔力は、渾身の予兆である。
『邪魔具:砲蜂』
故に機はここであると、与えられた魔具である銃を引き金を構え、"妖精弾丸"を打ち出そうと。
どちらに介入するかタイミングを伺いながら、更に魔銃使いのだらしない笑みは深くなっていく。
『妖精術』制御節を入れ、軌道を手繰る事で事で、短く狙撃すら可能である。
「へへ踊れ踊れ、最後に笑うのは俺なんだからよ」
「―――なぁ、あんさん。こんなところで何しとるん?」
「なっ!?」
『久磁着の腕』【悪党の心得】【疑似月衣】
しかしその、言葉をかける人懐っこそうな声が、響いた。
それに動揺しながらも、定積として自身が持つ『魔具』を起動して振り返り、身を固める。
「とりあえず、虚空に銃を構えてる不審者に駆けつけ一拳ィ!!」
どがぁ!
【旅人流儀】【ファストアクション】
そこに拳が奔る。
衝撃は鋭いが軽い。様子見に四肢に叩くように放たれたのもあって、鈍い音を響かせ弾かれた。
「いきなり何しやがる!」
「ごめんねぇ。怪しい奴がおったから、ついアンブッシュをやね」
その拳を放ったのは"吟遊詩人"の片割れ、片手剣士の"レイチェル"である。
なぜ、彼女がこの状況に介入するかと言えば。
街の異常事態の中に知己である冒険者が、猛烈な速さに走り抜けるを遠目に見かけて、不穏な空気に疑問を抱いた。
【コンビネーション】【鑑定眼(偽)】
―――それに、不穏な目線を向ける、群衆に紛れた怪しい男の姿も察知した。
旅人の勘とでも言うべきだろうか、彼女の生来の"空気を読む"という特技だ。
それと、経験によって培われた鑑定眼によって、状況の点と点を辛うじて把握したのである。
とにかく、
「おい、勘違いだぞ。俺は動けなかっただけだ。いきなり辺りでドンパチ始まってな」
「やーやー、すまんかったすまんかった」
【影に潜む者:変装術】
【死肉漁り】の男とて経験はある。むしろ群衆に紛れるのは得意とするところだ。
男は困惑の、焦りの表情を演じながら。
背後に魔銃を準備しながら、人懐っこく笑う女に、背後で殺意を向ける。
(良いところを邪魔しやがって、大した獲物は持ってないようだが……ついでだ獲物の足しに殺す)
それにしても、ゆったりとした歩調で近づいて来る女は、何処か不気味である。
一々こちらの癇に障る様な、まるで何かを隠すような歩調の動きだ。
「にしても、困ってるならギルドに案内しよか?さっき、協力して襲い掛かる阿呆共を撃退した所なんよ。術師も戦士もおる、そっちにいる方が安心やろ」
「ああ、助かるぜ頼もうか―――」
【魔銃使い】【死肉漁り】【悪党の心得】
距離に意識を置く、己の『魔銃』の有効距離だ。
不意にチャージした三章級を撃ちこむ。
それでこの女は終わりだ、その細身の剣で防ぐ手立てなんてないだろう。
量産品の魔具しか持たぬようだが、足しにはなる。狩りの手順に魔具の術式に意識を裂いて…。
その呼吸、隙間に音を裂く、鈍い音が奔る。
疑問が浮かぶ前に、それと同時に腹部に腹部に突然、鈍い痛みがにじみ出す。
【早撃ち:暗剣殺】【カリキュレイト】
「オ、ゴッ!?」
打ち込まれる剣の柄、機能に速度を増した魔具『風切り』の片割れである。
それは
体を大きく捻り、鞘に納めた剣の柄を親指で弾いて鞘から撃ち出し、敵対者にぶつける技。
剣自体を飛ばす抜刀術の亜種、というかそのまま不意を衝くが全ての邪道だ。
ザンッ!
「―――合間、とったわ」
『魔具靴:
流れる様に踏み込み、銀閃に繋げ"死肉漁り"の片腕を、瞬く間に斬り飛ばす。
本来、【早撃ち】と呼ばれる
更にレイチェルという剣士は、他人の機敏を察する。
相手を会話に乗せて初めて可能になる、それによって呼吸の合間を裂く斬撃だった。
「なにしや、は?」
ひとテンポ遅れて。
「―――ガアアアアアアアアアア!?」
男の断末魔が響き渡る。
完全に虚を突かれ魔具を起動する意識さえなかった。
『魔具:
その機能は例えて一時的なエアクラフト、重心により駆け出すタイミングをずらす錯覚技法の魔具だ。
「阿保か、最初からこんな事態でじっと立ち止まってるおるかい。怪しすぎるんやよアンタ。反応視て確信したけどな
【旅人の流儀】【観察眼(偽)】
鑑定眼、旅によって積み重ねられた経験が男の正体を看破する。
「くそがああ!オレの腕を!クソアマ風情がぶっ殺してやる!!」
『邪魔具:砲蜂』【魔銃使い】
男は完全に冷静さを欠いて銃口を向け、敵対者に撃ち放つ。
集中が途切れ、完全に魔具の機能に頼った二章級の妖精術、蜂を象った弾丸である。
「全く、一足で頭伐り飛ばせないのは未熟やな。踏み込みが足らんってやつ」
【疾風剣:疑似魔法剣】【早撃ち:駒蹴り】
それを躱して、隙を伺う。追尾性能を持つ"妖精弾丸" は普通に厄介である。
先の盾と推測された魔具を纏った腕を斬り飛ばしたが、こちらも両剣魔具の一度限りの変形機構を使い切った。
依然と同じく、レイチェルという剣士はそこまで【早撃ち】に、尖鋭化していない。
死肉漁りと、片手剣士は再びに距離を詰めぶつかり合おうと…。
―――ぶわああああああ!!
炸裂、閃光。
「な、なんやん!?」
「どわ!」
しかし、突然の極限砲撃のぶつかり合いの余波に煽られて、互いに吹き飛ばされるのだった。
●●●
その別場面、別の脅威に立ち向かう冒険者の一団の話である。
『プシュウウウウウ……』
蒸気の唸り声をあげ、巨大な刀を引きずり山岳地を堂々と闘炎の鎧は進撃する。
一歩ただ歩くことに大地は割れ、重量の暴力が山岳地帯を山彦の様に揺らして響かせていく。
それが目指す先は音によって手繰る、『高山都市』の中心である。
【炎熱地獄を越えて】
地中に封じられれ炎熱と共に苦しんだ記憶、時の感覚を忘れて、地中から宙に手を伸ばした。
彼女はただ何かを目指す、見果てぬ何かを目指す、何を目指すかはわからない。
彼女に侵略の意図はない。ただもがく、もがく、もがいて。
ただ見果てない"何かを"目指して、光閉ざす闇をただ本能の儘、進撃する巨人鎧であった。
例えば、これ一つが『高山都市』に辿り着いても甚大な被害を及ぼすだろう。
受肉に至った膨大な質量、桜皇の過去にて一騎当千と目論見、胚の剪定交配と薬物改造を経て、生まれた兵器である。
【阿修羅姫:夢幻羅道】
何よりその稼働経験から、それの躯体には確かに、夢に魘されるほどの戦闘経験が染み付いている。
桜皇にて稼働して怪力無双、その炎は不浄を焼き尽くした闘炎の戦士であるのだ。
しかし、その巨人を、渓谷で待ち構え絶望を迎撃しようとする一団の姿があった。
「来やがったなぁデカブツ、これでもくらえっ!」
―――シュパッン!!
【フォレストレンジャー:狩りの一矢】【ファストアクション】【カモフラージュ】
"緑の少年"、先に襲撃した
伝統として継承してきた森の狩人たる技法、生物的な急所を感覚器を狙い打ち込んだのだ。
それは巨体故に、寸分違わずあらゆる生物の弱点である頭部、目に当たる部分に殺到して……。
ガキン!
【シェルター】【超頑強】
その矢は届く前に不自然に弾かれた。巨人が纏う単純な防壁にである。
巨人は機能として本能として、防壁を纏っているのだ。
グうん
【巨躯巨鎧】【怪力】【蒸圧放出】
条件反射的に目線が、矢が放たれた方向に向けられ、蒸気を噴き上げその反作用によって。
その巨大な腕が振るわれ、子蟻を粉砕しようと原始的な暴威を振るう。
「うお!アブね!?」
【アクロバット】
緑の少年はそれを軽芸にて身躱し、また森へと忍ぶ。
その少年の影に残された拳の着弾点は、その木々と大地は粉々に砕かれていた。
直撃すれば即死だろう。
「こういうデカブツはやっぱこうだよなぁ!やっぱり癖もんだぜ」
緑の少年は翻りながら、次矢を装填して森の中を駆ける。
「私が食い止める!お前は矢を撃ち放っち続けて隙を探せ!!」
【アックスマスタリー】【魔力撃】【ストロングアーム】【風の担い手】
その一矢に追随して、風の猛威を放つのは豪腕から放たれる斧である。
東の部落の筆頭たる戦士、"呪魔戦士・エシオ"。
彼も先の闘いにて、
轟音、高圧蒸気、防壁、それに防がれながらも巨人の身体を揺らす暴力であった。
『―――ブオオオオオン!!』
巨人は、地を踏みしめ巨剣を取った右腕をただ叩きつける。
それだけでその着剣を中心に地から、まるで火山の如く炎が噴き出した。
「フン…!精霊様の力も借りずにこの規模を」
属性風の魔法を用いた戦闘技巧。風に巻かれ、暴風を撃ち放ちながら後退する。
エシオと呼ばれた戦士は風の防壁もあるが、部落で継承してきた古代知識から、特殊な塗料を戦化粧に用いている。魔力現象に対する耐性を成していた。
それは
瞬時に改変を、人体改造を伴い炎に可能な全てを実現可能とするそれとは、やはり例外的なものであるが。
魔を馴染ませる古来の"呪"と呼ばれる継承技術は、確かに筆頭たる大男の身を護り、憤炎の中を焼かれながらも無事に後退させたのだ。
「援護するぜエシオのおっさん!」
『クロスボウ』【フォレストレンジャー】【アローシュート】
それを援護するのは、緑の少年の弓である。
圧倒的質量相手に、それは無意味だと思うか、否。鋭く研ぎ澄ます手段など幾らでもある。
魔力をつんざく鏃の加工、強靭に編み込まれた弦から放たれる剛矢。
ガッン!!
「よっしゃあ!やっぱり攻撃時には隙ができるみてえだ!」
それが獣を相手にするときの様に、隙間に関節に放たれ命中する。
それに巨人の動きは多少鈍り…。
「さて、契約程度の仕事はするわ」
「頼みます!巨体相手にはちょっときついけど」
【ヘクスナイト】【呪いの仮面:疑似操霊術】【■■式符術:落鎧符】
【戦士の才能:全武器適応】【薬物知識Lv2】【継承の御業:ミゼラブルミスト】
仲間が引き付けた合間に、二人の戦士がそれに追撃するように畳みかける。
一人は"青の少年"。準備を整え弓を矢を放ち、生態磁気の霧を吹きつけた。
その由来に、今回は調合した薬剤も併用して扱っていた。
高山都市の部落には生態系により、金属系のモンスターにすら有効になる薬物の精製技術を持っていた。
効率的に錆びさせる霧、それを生成して鎧を劣化させようとするのだ。
もう一人は雇われた在野のBランク冒険者、邪悪な仮面を携えて剣士『ロザミア』である。
独自の符札を放り投げ鎧に打ち込み、その状態を固着させるのだ。
「強い奴とはそのまま戦うなってね!」
グランという青年の故郷で受け継いだ御業、俗にいうデバフである。
その霧は巨人に纏わりつき、一連の連携に確かに動きを鈍く、固めようとする……。
『―――プシュウウウウウ!!』
【超重炎刀】【蒸圧放出】【夢幻羅道】
しかし駆動し放たれる蒸気圧により、吹き飛ばれて意味を半ばに喪った。
【巨躯巨鎧】【薙ぎ払い】
そこで巨鎧は初めて構えを取った。小人たちに向けて、下段に構え。
巨剣による薙ぎ払いを繰り出す、大気を捲りあげ、大地を砕いてなされる瓦礫散弾である。
それだけならば問題ないだろう。獣でさえ行う小人潰しの小技だ。
―――しかし。
「ちょ、おま!?」
【反動制御】【怪力】
巨人のそれは、一度で終わらずに重心移動に二度と重ねて、逃れる小人さえ捉えて修正して放たれる。
本能に染み付いた戦闘経験、現実に溺れても実現させる鋭き暴威。
それは、迎撃地として選ばれた切り立った谷をそのまま砕き、地形有利を消し飛ばした。
『プシュウウウウウウ……』
両脚を力みを貯め。
大剣を構えて、灼熱を纏い巨人は変わらず堂々とした迫力で君臨しているのである。
「かーっ!隠れてた森が吹っ飛びやかった。でけぇっていうのは相変わらず理不尽だな、どうするよグラン?」
「うん、とりあえず一当てしてみたけど、こいつには環境操作も明確な感知能力もないみたいだ。このまま畳みかけよう!!」
【ヒーロー】
彼等がまずは様子見に一当てした理由、それは度重なるバケモノの襲撃の警戒心からだ。
更に"波の先兵"として設計された『死神』。
特に雑多に仕掛けても、逆に絶滅しかねない。そんな驚異が先の『死神』である。
ここは不整地である。囲んで圧殺するには練度がいる。
集団戦にバケモノ殺しを先鋭化して、集団戦にそれぞれの身を刃として対処する騎士はいないのだから。
しかし、武威の片鱗が見えようと相手は、孤独な巨人であると判明した。
「わかった。その程度打ち払えなくて如何にするか!さぁ、我らが誇りを見せよ!」
「「「―――おうとも!」」」
【妖精射手:合成魔矢】【アローレイン】【錬気法:オウルビジョン】
その掛け声とともに参戦する部落の戦士達が、マナスポットで育まれた木々を縫い、特殊塗料により”呪”を籠めた矢を一斉に射掛ける。
情勢不安に、他にも割かれ人数は多くないが、それぞれに"練気"と"呪"の技術を収めた戦士達である。
巨人は反応し迎撃する、猛威に、巨剣を振り回して交戦し合う。
【シャルター】【闘炎】
身を固め自衛反応だ。精霊矢を炎によって薙ぎ払う。
これは<浄解>という、マナ結合を阻害する浄化の性質を持っていた。
干渉をばらし、装甲に薙ぎ払いながら進撃し、巨剣に大地を砕き、地を噴炎に染めながら。
巨鎧を巨剣を、巨躯をもってして確かな武技をもって反動を制して回し続ける。
「事態がどうなってるかわからないけど、こんなもの先に通すわけにはいかない!皆、援護お願い!」
「全くこんなの相手は契約外だっていうのに、やるしかないのね」
【継承の御業】【超頑強】・
その様子は、質量と物量とのぶつかり合い、まるで攻城戦如くである
撃ち添えられる金属音はどこまでも鈍く轟く、地形を吹き飛ばす。
前衛に、年齢に見合わず超頑強を持ち、竜属性の武具を扱う青の少年。
風を纏い"呪"を纏いて炎に抵抗し続ける筆頭戦士。
疑似的な操霊術、別の意識総体に符術の行使を並行して行う
「さぁ、ヒーロータイムだ!」
『クロスボウ』【フォレストレンジャー】
それを援護する緑の少年に、追随する多数の矢が交戦し合う…っ!
●●●
そして、それを観測する者が一人いた。
引き金と共に、降り立とうとした『黄金精霊』の中心核の円環を打ち抜いて、その形を崩させる。
現在、"高山都市"『ドゥナ・ロリヤック』も雑多な死肉漁り共に襲撃を受けている。
それに紛れて、周囲を騒がしていた『黄金精霊』の姿も時々に見える。
「命中…、撃墜。あちらの巨人の交戦状況は……、まだ問題ありませんか」
『レールガン』【駆動騎士】【精神戦術:集中】【射撃姫】
チラリと怪獣決戦を行う方角に目をやって呟いた。
機巧騎士の生き残り、現在において稼働可能な高山都市の唯一たる特記戦力であった。
自身の乗騎である『リオン』に乗り込んで、スコープを覗き込んで。
―—―キュウウウウン、
かちりと。
―――ズガン!!
ただ、引き金を引く。一射で軌跡を状況を全体像を推測し、二射目で中心の腕輪を撃ち抜く狙撃である。
とある要因で、レールガンの出力は上がっており、より長射程を実現しているのだ。
【ハイパーセンサー:光学迷彩無効】
『黄金精霊』も、姿を隠す迷彩を施し混乱に紛れようとしているようだったが。
機巧の無機質な目は、マナの揺らぎから見抜いてぶち抜いた。
『黄金精霊』は自律適応思考を持つとはいえ、脅威を認識し、一度定められたロジックを変える前に撃ち抜かれてはどうしようもない。
「噂に聞こえて、冒険者達は優秀ですね。もしかすると私はいらないかしら」
騎士の女の言葉に少し棘があるのは、冒険者に対してまだ少し僻意があるからだろう。
八つ当たりだが、自身の弱さを呑み込んだ故に、こうして冗談めいた言葉として出てきている。
現在の彼女の状況、意味と言えば固定砲台兼、予備戦力といった具合である。
そういう命令だ。意味のある事だった。
そんな彼女の隣に、血化粧と白亜の翼を纏った騎士然とした青年が舞い降りた。
【蒼天の剣】【月衣:マニガンス】【超絶美形】
『聖錬』にて謳われる冒険者。次期Sランク候補"鬼人八門衆"が一人、"蒼天"バルムンクである。
「調子は戻った様だな騎士の女。どうだ、状況は」
「膠着といった所でしょうか、巨人は足止め。街の阿呆共は追い立てられています。あなたは出張らないでいいんですか、"蒼天"?」
「……心外だな。ある程度の仕事はしてる」
表面としてお題目にある
そして発展して彼等の精霊文化・信仰を中心とした新秩序を流布、布教である。
元より敵対的だったとはいえ、何故こんなに思い切った(頭の悪い)無謀な行動に出たか、全容は把握できていないが。
―――目的が判明している以上、狙いも読める。
「中央官吏、更に冒険者ギルドなどの
【精霊術:使役精霊】【呪魔戦士】【狂信者】
元より"蒼天"が動いているのは、『聖錬』からの調査依頼であり、体制側との繋ぎはできていた。
己が信仰が為に潜伏して、牙をむき襲い掛かったそれを。
【修羅道】
予定通りに待機していた戦力と共に悉く、連携して斬り殺したのだ。
それが現在の血濡れ風情の由来である。
「なるほど、私も機巧に乗り込む前に襲われましたね。風の理に壊す忌々しい鉄の巨人の使いと、全員撃ち殺しましたが」
【精神戦術:偵察】
騎士の女は、何でもないようかの言い。
スコープを覗き標準を周囲に周回させ、索敵を行い続けながら現状把握に努めている。
「まるで道化ですね、連動して動いている連中はどうみても
【ガンマスタリー】【コンバットセンス】【射手の体技】
この世界において、【機巧乗り】が
確かに本領を発揮できるのは騎乗時であるが、彼女は騎士である。
その異なる鋼の五肢を自在に手繰る極集中力を、生身に転化する事など、普通にやってのけるのだ。
……というか、そうできる様に叩き込まれたともいう。
「とにかく、奇襲という山場を越えて、既に頼れる戦士は配置についている。俺にはこの翼がある」
一呼吸おいて。
「こんな状況だからこそ、予備戦力は必要だろう―――なによりあいつが、冒険者"カイト"が言った【魔王級】の存在を確認できていない」
「―――信じているのです?在野の与太話、次なる【魔王級】の存在を」
上層部の考え、交えて彼等の懸念はそれである。
【魔王級】それが実在するとすれば、先の『死神』の襲撃の再来となるだろう。
たった一人の冒険者の放言、それに縛り付けられているのだった。
万が一にも、それは防がねばならない。
何処から襲い掛かるか不明な、【魔王級】の初動に対処できる戦力は、現在の高山都市には限られる。
月衣による飛行を可能にした
空駆ける鎧を身に纏った
同僚の騎士は一部復帰したが、機巧が間に合わない為、施設の護衛に付いている。
更にその筆頭であった"隊長"は、もういないのだから。
ぎゅうぅ……!
そのことを思い浮かべて、身体に空虚の倦怠感が蘇り手を強く握りこむ。
未だに心に引きずっている。きっかけ一つで乗り越えられる程、己は強くないと既に自覚している。
「フン。妄言ならいいさ。あれが、たやすくそんな大きなウソをつける玉だとは思えない。そう言うお前こそ、上層の連中に、その懸念の実現を上申したと聞くぞ」
腕を組み、鼻を鳴らす美麗の剣士が問うた。
彼はその言葉を、未だ半信半疑という所だった。
件の冒険者の携える上級魔具『黄昏の腕輪』を含めて、不確定な要素が多すぎる。
"蒼天"は怨敵の『死神』の最後にも撃ちこめなかった僻意もある。
【迎撃態勢:怨敵覚悟】
ただ、彼には"事変"に備える覚悟だけがここにあり、故に言葉に縛られているだけなのである。
現状ではただの放言でであったそれの、後押しをしたという。
その騎士の女に不穏を感じ、真意を測る様に、多少強い口調で言葉を言い放ったのだ。
「いえ、私はただの一意見を述べただけでしかなくあくまで上の決定です。ただ、件の少年と少しだけ言葉を交わして信じてもいいと思えた。それだけです」
つい先日の出来事である。
騎士の女も件の冒険者、『死神』の討伐者とは話をしたことが有り、面識があった。
思い返すのは、わざわざ恩人だという者の鍵を届けに来たという、風変わりで幼さの残る少年である。
彼女は一時期喪失にスランプに合った。
(―――えぇ、それに少年には借りがある。とも言えなくもないですし)
『鉄流星の鍵』【クーデレ】
手渡されたその遺物は、胸に首飾りとして紐に通して、騎士の女の手に合った。
矜持故に弱さを呑み込む事ができず、空を翔ける力強い翼を取り戻そうと悪循環に堕ちたのである。
冒険者の"おせっかい”が無ければ、抜け出せずに先の奇襲で、手傷を負っていたかもしれない。
いや、銃の引き金が少しでも狂えば悪ければ死んでたかもしれないと、自覚している。
【鋼の信仰】
その鋼とタバコの煙の混ざった灰色の匂いも、その叱咤も褒める声も、もう二度と戻らないが。
威霊を受け継ぐもの、彼女は向き合い方を見出したのである。
それはある種信仰である。向き合い信じる事の強さが彼女の胸の中に宿っているのだ。
「……そうか、直接確認したならいい。妙な勘くぐりをしてすまなかった」
「いえ、懸念は理解できます"蒼天"。災害の様な【魔王級】の脅威が、魔具で探知できるのはおかしな話です。暴走した『元式装魔具』の例もありますから」
脅威溢れる世界に人類種の限界を拡張し、"魔具"は常に担い手の味方とは限らない。
まるで筋書きに、意図したかの暴走により、周囲を狂わせ破滅に導く事は幾つか報告されている。
かつての二代目
それに立ちふさがった脅威の一つ。街一つを焼き払った。
悪意に、改造され侵食された『原式装魔具』使いの成り果て、いや怪獣が上げられるだろう。
―――『死神』が討たれた事ですら、既定路線の可能性すらあるのだ。
「しかし、この大騒ぎです。先ほどから目に捉えましたが、"蒼天"は救援にいっては?」
「不要だ。この手癖は
力強く、断言する"蒼天"、その仲間を含めて実力は信じるに値するだろう。
それだけは確信をもって言えた。"事変"を追い、相棒とも親友とも言える『蒼海』を抹殺した存在。
実際、自身を刃を合わせて知っている。『死神』は魔具頼りで、打倒できる程甘くないのである。
しかし。
「いえ、アレは不味いような」
「む?」
【天然】
視線の先を冷汗を浮かべて、その視線の先を追ってみれば…。
―――その先にあったのは天使染みた、巨大な宝石鎧だった。
幾つもの熱量の円環を周回させ、更に手を伸ばし喰いとめる様に樹木が這われながら。
周囲を圧壊し、何かに向けて高熱帯を向けて対峙するように構えていた。
『レールガン』【駆動騎士】【精神戦術:集中・狙撃】【射撃姫】
既に頼る銃撃は、引き金をかちりと当て、それを多少逸らす事に成功したが、砲撃自体は止まらない。
「……っ!」
【聖剣技:チャージ】【闘気の才】【修羅道】
"蒼天"が剣を抜き構えるが、聖剣たる剣を放つための生命力の隆起は間に合わないだろう。
"核属性"、現状の純人種に届き得ない破壊魔法、例えて『魔王魔術』とも呼ばれる様な領域。
その神秘を暴威を解放しようと、開封されようとして。
同じく、人類に許されぬ領域の幾何学閃光がぶつかり合う様に、辺りを照らす。
危険視はしていた。しかし、実際目にするのは初めてである。
『黄昏の腕輪』と呼ばれる魔具の猛威を、確かに"波の脅威"に抗う者達は目に焼き付けるのだった。
レイチェルは、【早撃ち】が主体なので対人戦が本領に考えてます。
現状では魔具頼りではありますが。
ロザミアさんはSSR版があるので、仲間というより時々組む傭兵みたいな感じです。
というか、キャラシートまだできてない。