ポンコツ世界異聞=【終幕を切り刻む者達《ハッカーズ》】   作:きちきちきち

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降臨【蜃気楼の侵略】

"高山都市"『ドゥナ・ロリヤック』

 

―――閃光、破裂。

 力場により隔離し付加の極限状況の形成。マナの属性は環境によっても染められる。

 故に、本来虚属性にしか許されない【爆裂魔法】の類似を可能とする。

 核融合を成す破滅の両極番天の引き絞る弓。

 

 仮に名付けて地属性、地の力場をαフィールド。空属性、空の力場をβフィールド。

 相反する力場を縫い合わせて形取られる。原子融解を齎すマナ属性の形成、それを連鎖させる事による灼熱たる帯力場。

 

【終滅の錬金術師】

 アプローチの異なるが、"本来の使い手"が扱えば、街一つを吹き飛ばして余りある威力を持つ。

 多岐に分岐するこの世界の未来の可能性。『無限の破壊戦争』(インフィニティウォー)の参加資格を持つ者の証である。

 

 しかし、しかしである。

 傭兵の女のそれは、"可能性の翼"で形取られ、卓上の空論を卸した間に合わせでしかない。

 術式の精密性が足りない、実践試験が足りない、最適化のプロセスを踏んでいない。

 それを"可能性の翼"の天使化(セカンドシフト)、エーテルという励起魔法体質による力技だ。

 

 故に未完成、指向性だけを制御した。

 本来の資格者に届かぬ未完成の破壊魔法である。

 

―――極音の余波、巻きつき分解されゆく灼熱たる光帯(リングワールド)

 

 それに対して。

「―――ハァァアアアアアっ!!」

【円環紋章砲】(ドレイン・アーク)

 『腕輪』の担い手自身の血を絞り出し、本来一瞬の顕現である幾何学の光帯を維持し続けた。

 本来の核ではない、属性マナによる疑似核現象は、術式は分解されマナは脱色され意味を喪い。

 単純な情報として還元され、物理的な干渉力を喪って吸収されていくのである。

 

 これが『腕輪の担い手』、『碑文八相』が持つ【紋章砲】(データドレイン)と呼ばれる力。

 意味の結合を全て分解し自身の理解の形、糧と変換する。

 幾何学は未完成である『破壊魔法』を凌駕相殺・吸収を成し、更に一部を貫通して天使の鎧をも貫いた。

 その圧倒の一因には、騎士の女の魔弾によって。姿勢制御に演算を裂かれた事もあるだろう。

 

 

『―――損傷率、43%、ターゲット健在。戦闘続行は不可能と判断、"天使のお仕事"(マスケンヴァル)最終段階に移行します』

【鋼鉄乙女】【ドール化:不動心】【虐殺蹂躪(マスケンヴァル):自爆】

 最終選択肢、『エーテル』という体質、マナへの親和性による連鎖自爆である。

 実現すれば、周囲の数キロをきれいさっぱり吹き飛ばす、そんな悪夢を実現しただろうが……。

 

『承認。プロセス介入、不承認。エラー、エラーエラー』

【AIDA:ソウルバックアップ】

 使い手、担い手は最愛すら巻き込むそれに、意味を見出さずに拒絶した。

 本来なら在り得ない現象。狂いに狂った【人類愛】という名の光の亡者、超トンチキによってドール化を塗りつぶす例外(バグ)はいるが、それはもはや魂と肉体が『限界突破(バカ)(同一化して)』いるからこその踏み倒しだ。

 

 故に、そこまでの気狂いではない彼女のこれは別の、外部の要因が関わる。

―――"傭兵の女"の戦歴由来に取りついた。

 その『エンジェルギア』に共生していた好奇心旺盛な"情報生命体"であり。

 愛という感情に興味を持ったそれが魂をバックアップとして機能した。

 それゆえの"ドール化"に反した、機能への拒絶である。

 

 そして。

―――"命脈は無常にして惜しむるべからず"―――

【ソードマスタリー】【聖剣技:不動無明剣】

 そして、『蒼天』の砲撃時に間に合わなかった。生命力を燃やして放たれた連鎖魔法剣が翻る。

 巨大化が仇となり直撃し、宝石鎧は首を垂れ……。

 

「―――悪く、思うなカルミア」

【槍技・洟風月:ランスマスタリー】【生命燃焼】【阿修羅姫】

 ガキンと変形機構に加速する実体刃が、両腕を巻き力を巻き振り、投擲を成す。

 槍使いのガルデニアに、魔力撃を乗せる余裕は既にない。

 しかし体技と槍が一体となったそれは、歪む事なく空を裂き、既にボロボロに崩れた障壁を貫いたのである。

 

―――これにて、ようやく狂気の斬り切り舞いは終息する。

 

「が、ごふっ……っあね、さん」

ズグア!!

【ポゼッション:機能不全】

 "傭兵の女"を鈍い音を響かせて、手を伸ばし形成された木々に串刺しとなった。

 彼女の纏っていてた鎧はほぼ形を、大気に溶かして崩れていき。

 その『エンジェルギア』は超稼働に、その本体たるブレスレットが、破損しているのが見て取れる。

 ほぼ間違いなく、"傭兵の女"は再起不能と言える状態であるだろう。

 

 そこに、金の髪の輝きを流しながら、ゆっくりふらつきながら歩いていく。

【リジェネレイト】

 "傭兵の女"が撃ちこんだ杭は、魔具の破損に維持する事も出来ず霧散して、治癒に縫い繕われていた。

 変わらず重症ではあるが、最低限、後遺症が残らぬ様に、繕っただけのものである。

「……本当に強くなったな"カルミア"。だが、間違った強さだ。君のした事を、許さない。だから、せめて吐ける事を全て吐いていけ」

「……ほんま参ったなぁ、姉さんだけなら、奪って手に入ったんやけど。なにあの狂人わ」

【九十九巫女】【超絶美形】

 それでも本来なら、武器もなしに、近づくべきではないだろう。

 相手は、幾度も常識を崩してきたド級の魔具使いであり、何よりどこまでも狂っていた。

 順当に考えるなら、しっかり止めを刺すべきだ。未だ隠し手がないとも限らないのだから。

 

(他意はあるにしても、連動したこの動き、聞き出さないとならない事もある。…っ!)

【固有魔法:森】【医療知識】

 せめて命だけは留める。利用価値はあると言い訳を重ねて、手を当てた。

 活性化による生体反応探知、その医療知識から理解する。

 既に手遅れであると、その肉体は剥がれる鎧と連動して、自壊するように崩れていく。

 

 それを理解し、鋭い翡翠色の目を伏せて。

「……最後に何か、言い残す事はあるか」

 それでも最後に、最後と思うからこそ。

 義理とはいえ、確かに、ガルデニアと生まれを育ちを、供にした姉妹でもあったのだから。

 

「嫌やわぁ、相変わらずあねさんは甘すぎるなぁ」

 まるで憑き物が堕ちた様に、穏やかに言葉を重ねる。

「うちは、何処で間違ったんやろなぁ、最初はただ姉さんに褒めてもらいたくて、でもだんだんそれじゃあ全然満足できなくて、最初のうちは我慢できたんよ?」

【欠落狂愛】

 魂に強く刻まれた想いが、蘇って反芻していた。噂に聞く走馬燈だろうかと女は人事に思う。

 愛に飢えた欠落の獣。九九の一が欠けて、決定的に人らしい理性から離れてしまった"傭兵の女"は。

 "二度目の死"を目の前にして、最愛の目の前にいる事が、不思議と温かく満たされていた。

 

「思えば、一度死にかけてから、ブレーキが、外れたんやろなぁ」

 思い返すのは過去の事に、聖錬北部『ブリューヌ』にて活動していた頃に回帰する。

 偶然に"可能性の翼"を手に入れて間もなく、未だに自身の姉が隣に在った冒険者の頃だ。

 九十九という揺り籠を出て、身請け金を稼ぐ日々、姉にも彼女にも才能が有った。

 信じる輝かしきに寄りかかり、未来の幸福を疑いなく信じられた幼年期である。

 

『改造個体』(ウィルスバグ)

 攻撃性に突出した依頼の表記にない、異常なモンスターと交戦し重症を負った。

 弱い彼女は死んでも死にきれないと思った。一人は寂しい淋しい、寒くて暗くて領域に心を蝕み。 

【オートイジェクション】

 彼女はそれに出会った。どこまで自身を肯定してくれる無邪気な好奇心に。

【壊れた天秤】【AIDA:演算補助】

 それは"可能性の翼"を拡げるに手伝い。何処までも何処までも無邪気に振舞った。

 元々、姉以外には人見知りの気があった彼女の世界は、その共生する何かによりさらに閉じて。

 

―――その閉じた世界が、肯定する全能感が、彼女を人より遠ざけると気が付かぬまま。

 自身の最愛をより気高く飾ろうと、中心に添えて『親衛隊』騒動を引き起こした一因である。

 

 その同居人は『黄昏の腕輪』の【紋章砲】(データドレイン)をもって、分解され吸収されている。

 

「なぁ、(アネ)さん、あの気狂イの双剣士の事好いているん、やろ?」

「……なっぁ?!」

 突然のその指摘に、当の本人は顔を真っ赤にして反応する。

 ガルデニアの目線は時折追いて重症であっても、時折喜悦を織り交ぜて表裏に合わせた。

 彼女は戦いに恐怖するではなく、勇気を持ち修羅の気質を持つ戦士である。

 

「そん位、目線追ってれば、姉さんはうちと違って、割と闘う事は好きやもんなぁ、わかるわぁ。忌々しい事に」

【阿修羅姫:修羅の気質】

 自身の姉の目線を追えばわかる事だった。斬り切り舞いの中、供に傍にあって。

 ガルデニアは腑を活性させ命を賭ける。極限下の戦いの興奮にアドレナリンと共に昂り悦びを得る。

 前線の槍の波濤であると同時に、戦場において輝き戦う阿修羅の如き乙女、それもまた修羅の道。

 触れてその吐息の感触まで、好いた男の表裏の舞であれば、尚更にである。

 

「一つ忠告や、アイツはあっけなく、さっくり死ぬで。刃の振り方がうちより余程狂っとる。そん時めっちゃ後悔するよ」

「カルミア、一体、何が言いたいんだ」

 致死にあえて踏み込み、信じるの刃を、歩み歩み歩み続けて、魔法剣をもって殺意を捻じ込む。

 言葉にしてしまえば、実に簡単な事だろう。

 敵対者の拍に強引に踏み抜かせる『碓氷を踊る者』(ドン・キホーテ)、その先に術理の道は遠い。

 

「愛の理由が、突然枯れるのは、辛いやよ。特に九十九の女(うちら)にとってな、諦めるか、それとも―――、いや、うちが言うべきや、ないか」

 それは足掻きだろう。今の感情はぐちゃぐちゃに入り混じっていた。

 自身の姉を、最愛を渡したくない。

 この、散々に振舞った己にも、手を差し伸べる優しい手に、幸があって欲しい。

 そんな相反する想いだ。自嘲する。弱い己は最後まで、そのどちらに決める事すらできやしない。

 

 ぱらり。

(まぁええか。どちらにせよ、うちは、ここに終わるしな)

 肉体墓供給に経絡がボロボロに破損し、腹に開けられた大穴からは、刻一刻と熱が逃げだしている。

 "天使化"の影響としてマナ励起体質(エーテル)が進行し、リンクした肉体は。

 半端な自爆シーケンスの移行に、臨界して感光するように中から真っ黒に崩れ出していた。

 

「じゃあね、大事な大事なうちの姉さん。そしてうちの"ヘルメス"」

 "傭兵の女"が時折に呼びかける"ヘルメス"は、魔具ではなくこの共生者を指す名前だった。

きゅるん? 

 その無邪気な共生者は、"傭兵の女"の事が好いていた。

 人類種との価値観に離れた所詮単純な知性しか持たないそれは、彼女が望んだからこそ何処までも、応えて答えただけのもので。

 

「そのうちの"エンジェルギア"あげるわ、もう壊れてしもうたけど何かしら役に立つやろ。姉さんの手にかかるならうちの人生、及第点ですわ」

【AIDA:リフレイン】

 この走馬燈は、その存在にはないはずの"終わり"を推測して、"傭兵の女"が望む過去を汲みだしていった。

 文字通りの置き土産である。

 

「よく言う。こっちは、とんだ迷惑だ―――さよなら"カルミア"、九十九にいた頃に君が、私の為に、一杯怒ってくれたことだけは忘れない」

 思い出だけは永遠である、過去だけは変えられない。

 それに満たされて、死という現実の前に先を考える事もなく、女は魂すら残さず離散していった。

 

 

 

 

―――、一方の双剣士、カイト視点。

 

 その愛剣、双剣をすぐ引き抜ける体制にマウントしながら。

 呼吸を深く、何度も何度も。大気のマナを取り込む、無理に振り絞って欠乏したオド、血液を巡らせる。

 臨界したオドを静めて、自身の淀みとなり傷つけぬ様に循環させるのだ。

「かっ、は」

 血色褐色の吐息。相棒のローズより基礎のみ、習い取り込んだ呼吸法の初歩、身体の制御(リフレッシュ)

 意識をその一つに埋没させて、既に虚脱し倒れ込みそうな五肢に活を入れる。

 冒険者になって何度も経験した事であり、肉体の無理に動かすそれに少しずつ慣れつつあった。

 

「………リコリスは、平気、怪我ない?」

「大、丈夫"ぱぱ"」

【レンジャー:野狩人Lv3】

 血は滴り、手持ちの道具で止血を施した。

 警戒態勢の彼は立った姿勢のまま、内腑を、オド経絡を休ませながら時折、辺りに気を配っていた。

 未だに街は混沌の中にある。気を抜いて、『死肉漁り』に咬まれてもつまらない。

 

(よかった。今度こそ何も喪って、ない)

 先の戦闘を思い返して安堵の溜息を漏らす、"傭兵の女"は難敵であった。

 カイトはその異能の如く強度の力場に噂でしか知らぬ『上級魔人』級と評した。

 『上級魔人』とは、マナの染色・汚染を受け人類の上位種と言われる『魔人』の中でも。

 特に歪んで強化された、出力・異能を持つ者を区別した呼称だ。

 

 例え、子供でも片手で殴れば樹をへし折り、頭に岩を叩きつけられても砕ける所か岩が壊れる。

 それが『純人種』と『魔人』の歴然な差であり、"傭兵の女"の戦力値はそれに近しいものである。

 

 弩級の『魔具』によって強化された肉体は極めて死ににくく、蘇生能力を併せ持ち。

 その体系技術を交えた結界の形成能力は破格で、"自己変性"により、未だ可能性でしかない人類の最先端の一欠けらを実現して見せた。

 

「……強かった、怖かった」

「ありがとう。助かった。君が結界を、領域を、踏み倒した。そうでなきゃ勝てない相手だった」

「……ん」

【アナライズ】

 その小さな頭を撫でる。

 要因は頭数の圧倒、そして何よりその『エンジェルギア』と呼ばれる魔具への『腕輪』の特効性である。

 その結界の輪郭を確かに捉えさせ、"儚紅の少女"により分析された空間干渉の一部を、利用できずとも適応した。

 

 その魔具使いが、自分たちの先輩であるガルデニアと知古である位は、敵対する中の妄言で察していた。

 命を狙った狂人とはいえ、その死に出の別れに首を突っ込む程無粋ではない。

 そして、邪魔する奴も切り殺す気だった。

 余裕なく言葉の一つも湧き出ない、自身のできる少ない事である。

 

 

きゅうぅぅぅうん。

 

「動かないで」

『黄昏の腕輪:リ・モデリング』【憑依具:調律】【タッピングエア】

 カイト個人は身体を癒活する手段は呼吸法のみであり、故に意識を魄に向く。

 まるで『腕輪』が幾度と、損壊して体感した熱をもって、身体が"焼き直されていく"感覚。

 それは突然現れた正体不明魔具、理屈が分からず、不自然に身体の弄られる強い違和感と恐怖があった。

 

「さっきの砲撃で、吸収した"資源"は十分、中身から最低限に疵は取り繕った」

【アナライズ】

 リコリスは、珍しく実体化したまま、その指先を添わせて空を叩く。

 今回は、ある程度自覚的に他者の手によって緩やかに。

 損傷した自身の憑依先の肉体の調整をしながら、腕輪の機能を流用して以前より効率的に"修理"を行っていた。

 勿論、反則の類である。

 

(今まであった心地悪さが楽になってる。自分の事ながら単純だ)

 カイトが抱き続けていた正体不明に対する恐怖であった。

 言葉を交わせる、近しい距離の誰かが制御し言葉にしてくれるなら、軽くなっている。

 

「……ガルデニア、なんで、さっきまで敵の疵を治そうとしたの、わからない」

「簡単な話、"家族"への情はなかなか捨てられないもの」

【狂羅輪廻】

 刃を牙を折ったなら、"侵略者"としての意識はガクンと下がる。興味自体が薄くなっている。

 だから、仲間が誰かが望む通りにすればいいと思った。それが良い事だろうと。

 それは、自覚ない狂人としての振る舞いである。

 

 斬り合いの中に、あれだけ感情を波立てたのに、怒りも憎しみもなく"興味を喪っている"。

 二重の滅びの記憶に、焼き付きそれでいて記号化された恐れと怒りと憎悪である。

 

 そして、彼方に感じる電子、文字列の波。

 カイトにとっての"本命"は、未だ彼方にいるのだから。

 

 対して、リコリスはそちらの方に、興味を向けじーと見つめていた。

「"家族"……」

 彼女はある意味孤児である。捨てられた孤児(ハイキ)である。

 寄生先を"ぱぱ"と呼ぶぐらいには、その言葉に都合の良さを見出していたが、その意味に触れた事はない。

 彼女は単純に、羨ましいと思った。

 

「その呼び方は本気かはわからない、ボクは君の父親にはなれないけどさ。君を手を引いた人達には、きっとまた会える。生きてれば」

「………」

 リコリスは唐突な憑依先の言葉に押し黙った。

 形を得る為に近すぎる器を形取ったその契約(パス)は双方向に、影響を及ばしている。

 カイトは、その幼さの残る少女は、同時にその見た目不相応に理知的であり。

 過去に歩いた道があり、手を引いて導いたダレかが居た事は、なんとなく察していた。

 

 

 

 敵対していた"傭兵の女"が塵じりに、ばらけて風化していったのを傍目に見届けながら。

 調子の戻ってきた肉体に、双剣を再び抜いて、次の戦闘に向けて備える。

 

 リコリスはそれを見て。

「一旦退こう?休息が必要。さっきの"大砲"もしばらく撃てない」

 引き止める。自身の断片(セグメント)を内包した存在は自身の為に打ち倒すべき存在だ。

 しかし、今は寄生先、躯体の性能は劣化している。

 現在の状態では、寄生先の死は己の死であり、自己保全のために万全に挑ませたいと打算的に考えて。

 

「何処に退くっていうのさ、もう遅いよ」

【狂羅輪廻】

 強くなりゆく禍々しい銀砂波の予兆に、それをカイトは拒否した。

 今まで山頂にて引き籠っていた忌々しい"本命"が、あちらから向かってくるのだ。

 

(死ぬにしても、明日に背を向けて死にたくはない)

 変わらず、畏れている。

 その背を向ければ、いつの間にか自身を取り巻く世界事焼かれて、朽ちるしかない。

 それがこの世界では有り触れた悲劇なのだから。

 

 

 

「……そうか。まだ、敵が来るのか」

 その背後から、ガルデニアが、旧知の敵との言葉を投げつけ合い別れを済ませて。

 感傷を戦場に切り替えて、凛として声をかけた。

 

「すまない。助けられた。この連鎖した事態、君の言葉が事実だったのだろう。是非もないわ」

【治療術】【固有魔法・森】【阿修羅姫】

 ガルデニアは槍を構えなおして、力を籠める。

 彼女の身体は無理やり活癒させて、槍を点にして支えて無理に立ちあがっている状態である。

 生体反応を引き出す彼女の能力を応用した治癒は、純人種の範囲である限り、そこまで理不尽なものにはなり得ない。

 

「……ガルデニアさんはここで休んでてください。傍目から見ても、その身体で戦うのは無理ですよ」

「いやまだ、動けるわ。術の一つや二つ使えるさ。休んでる場合じゃないんだろう」

「だから、その余力で傷を治してと言ってるんです」

 カイトは思う。頼らしい先輩とはいえ、怪我を引き摺った彼女は魔力撃を手繰れない程に弱っている。

 当然の未来として、更なる理不尽に対峙すれば死んでしまうだろう。

 

(そんなのは例え一矢報いたとしても、割に合わなすぎる)

 先輩をその手で抑えつけて、カイトは自身の事は棚に上げて、そう我儘を通した。

 

「だが…っ」

「とにかく、ここで隠れててください」

 槍の彼女は正論である為に、言葉に詰まったが。それでもと言葉を重ねようとして。

 ぎゅうぅ。

 彼女は肩を抑えつけられて、無理やりに座り込む様に体制を沈められる。

 元より、最後の一線で動かしていた身体である。一度糸が切れれば、中々力が入らず立ち上がれない。

 上から力に抑えつけられれば、なおさらである。

 

 

 

 

 片手間に抑えつけて少年はその眼を刻々と強くなりゆき、視認が可能な文字列の先を見据える。

 

―――そして、その観測の通りに本命が災厄が来たる。

 

『―――ルル、♬♩♬♩♪―――』

 そしてそれは、その瞬間より天より顕れた。

 ステンドガラス、鋭利なガラス、白色の空を泳ぐ天魚の姿を象った、八ツ波の侵略者の一柱である。

 身体を共振させて鳴り響く、耳を裂く高音が辺りを満たした。

 

【惑乱の蜃気楼】【超絶魔力】【領域作成:禍々しき波】

 それは深淵から訪れたローレライ。

 辺りは特有の銀砂波に呑み込まれて、確かな存在感を空に示して。

 その存在一つで周囲を容易に制圧した、まごう事なき【魔王級】の一体である。

 

 それは隙を伺っていた、先兵として再現した『闘炎の大鎧』(コロッサス)は足止めをされ。

 偵察に『黄金の精霊』は侵入する傍から、撃ち抜かれることが観測していた。

 故に、出現を自重していた、自身の役割である混沌の街より、感情から生み出される"高次の聴覚"を収集する機能から観測に徹して。

 

 更に、"可能性の翼"に目を奪われて。その『黄金』の狙撃が遅れた事で。

 十分な観測を終え、ロジックとしても付け入る隙に見出し、本領として自身を投入したのである。

 

『—――私ヲ見テ。求メヨ、惑乱ノ中ニ溺レナサイ』

【惑乱の蜃気楼:高揚の詩】

 とたん巻き上がる周回し焼き払う炎と共に、謳う様に言葉を紡ぐ。

 その言葉に意思は乗らずに意味はない。偶像を拡げる為に、模倣しただけの手段である。

 蜃気楼、偶像となるべき部位を形成した、次なる波に至る為の人理混沌の理。

 群衆の行き先を惑わし、誘導し、破滅の断崖たる崖に導く。悪悦な"蜃気楼"だった。

 

【円環魔術】【幻惑の波長:鬼火乱舞】【超絶魔力】

 円環の魔法、人魚より降り注ぐ鬼火に街は焼かれ、燃え拡がる。

 その炎は特殊だ。人の精神を想起させ圧迫し焼却させる炎。それぞれに音が乗りその状態を"誤認"させる。

 音を用いた幻術、例えて言えば"錯覚"(ブラシ―ボ)、想起させてそれを実体験の様に誤認させるのだ。

 

 町にけたたましく悲鳴が巻き上がる。

 ひとたび焼かれれば。知性生物に対する特効、現実を見据えねば溺れ死ぬ炎だ。

 

 

 それに対して…。

【迎撃態勢】

 空に描く機先、それを早期に迎撃するように、二つの星が空を翔けた。

 領域作成、伝わり妨害する銀砂波、彼等にとってはその手品は既に既知の事であり、熟練の戦士である為にそれぞれに適応する。

 

【魔法剣Lv3】【月衣:マニガンス】【修羅道】

【駆動騎士】(ギアナイト)【精神戦術:集中】【射撃姫】

 

 白亜の翼を纏った男は、鋭き曲線を描いて突撃、その剣を突き立て振るい。

 鋼の鎧をまとった女は、細かく出力を吹かして、跳ね上がる様に、妨げられる軌道を合わせて、軌道に射撃体勢を向けて放った…っ。

 

【両具尖針】【惑乱の飛翔】

ジャキン!!

『―――サァ、全テノ価値アル夢ヲ希望ヲ、私二捧ゲナサイ』

 それを巨体の人魚は人魚、泳ぐ様な振る舞いで空を自由に、その両腕に巨大すぎる針を展開して。

 敵対者に振るい薙ぎ払い、町を破壊しながらも互いに空中戦を繰り拡げた。

 

 あぁ、将来に『蜃気楼の反乱』と呼ばれた、その中でも一際に派手に輝く戦闘の開幕である。

 

 その光景を目にして、我慢などできない。剣を強く握りしめて爪を食い込ませて構える。

 直接眼にして確信した。アレは自身仇である『死神』と同延長の存在である、と。

 討たねば再び自身を取り巻く全てが、焼き堕ちるだろう。その前に殺す。何をおいてをもって殺す。

 

「―――ボクは行きます、ガルデニアさんは疵を、早く。今は、足手纏いです」

【魔法剣Lv2】【精霊術Lv2】【狂羅輪廻】

 彼は罪悪感を急く、気持ちを抑えつけて、念を押す。

 オドを再点火し経絡に血潮に熱を籠め、呼吸にマナをオドに落とし込むその過程で…。

 

「フンっ…!」

「っ!?」 

【槍技・洟風月:足払い】

 天地がひっくり返り、柔らかい重量を感じた。

 冒険者の先輩である、怪我の中にもその技量は彼の一歩上に行くのは予想できていたが、こんな行為に出るとは思っておらずに、不意を付かれて。

 

「……ひどい事を言う。傷ついた、その言葉は」

 体温が近い、呼吸が近い、そのことに彼はただ、困惑する。

 目の前に、その髪は垂れ下がり金糸で縫われたカーテンの様と、華の様な匂いが鼻孔を擽る。

 その中には鋭く輝く翡翠色の目が、爛々と輝いて在った。

 

 ……彼女は符と共にその唇を、重ねた。

【陰陽術Lv3:符術】【固有術・森】【菩提樹の献身】=【オファリング】

 それは血の味のした。

 驚くままに意図問おうとした絡みついて、互いに唾液と血を混じらせて治癒と活性を施す。

 

「むぐっ!?」

「昔取った杵柄だ。…こんな形なのは不本意な、ね」

 "生贄"と呼ばれる施術、彼女の古巣である『九十九機関』の誇る奉納運命にある巫女の体系技術の一つ。

 その最高峰、星属性を持つ巫女ならば、生命力とオドの輪転させ続けて疑似的な"死者蘇生"すら可能にするという。

 彼女のソレはその比べようもない劣化だ、"星属性"を持たず、符によりオドを残留させて、自身の属性特性を付与する。彼女のそれは"生命活性"、一時的、疑似憑霊術でしかない。

「君には言いたい事が沢山ある。生きて戻って、それが私の願いだ」

 ガルデニアは不満げに口を尖らせながら、好いた男に念を押した。

 彼女はもっとロマンチックに、彼から求められる形で供に捧げたいと思っていた。

 "幸せになる"、意味ある言葉すら伝えて居ないのにある。段階を踏んで熱を通わせ合いたいと彼女は想っていた。

 

「それ以外は、許さない。何処までも追いかけてやる」

【超絶美形】【菩提樹の献身】

 妹に背を押されたのもある。酔った様に困惑に目を白黒させる少年の頬を撫でて、呟く。

 ガルデニアは少年の強くなる歩みには、信を置いていた。それが好いた理由の一つでもあるのだから。

 

 副産物、これで彼の死は感知できる。

 目を逸らさずに、妹の様に、愛に狂わずに追いかける事ができる。

 

 既に、ガルデニアは少年の歩みに根を張っている。

 初めて全力に舞い踊るは愉しかった。参考にした模倣故かぴったりと呼吸は合うのである。

 先の極限の興奮状態が忘れられない。

 武器特性の違いからずれてて刃音に折り重なる。彼女の持つ"修羅の気質"まで彼を欲していた事を、初めて自覚する。

 

 既に彼の運命は幾多の糸に絡めとられている。

 狂気に先走り、目的に燃え埋没しようと。

 その程度で置いて行かれる者はないと、彼が知るのはしばらく後になるだろう。

 

 




 カルミア、心の中に全肯定ハム太郎(AIDA)を飼ってた感じです。
 共生してるけど、それで臨死体験で変わった価値観に、ブレーキぶっ壊れた感じ。

 あれ?予定ではもうイニス殴ってたはずなのですが…。
 ちょっと違うけど、九十九伝統の逆レスタイル。ちょっとここまで重くなるのは予定外。
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