ポンコツ世界異聞=【終幕を切り刻む者達《ハッカーズ》】 作:きちきちきち
―――あれから、【ヴァ―ミリオン】に滞在して4日が過ぎた。
彼等がやっと都会の地形に慣れてきた頃。
ローズはカルデニアに誘われて、戦力としてではなく怪力の荷物持ちとして。
討伐依頼の付添いに遠い郊外の森へ向かい。
カイトは大分火傷の痛みがやっと引いて、街の郊外の走り込みへと向かっている。
今回の護衛依頼で【デーモン】に追い回され、まだまだ体力がないと実感した。
だから、これからは鍛練の走り込みの割合を増やす予定で。
本当ならば、彼はすぐにでも走り込みを開始したかったのだが、
『―――とにかくしばらく仕事は禁止!訓練も禁止!しまいにゃベットに縛り付けるわよ!』
となんやら興奮した様子のローズに強く言われて、暫くは強制休養する次第となった。
彼にとってはその間は暇で仕方なく、共同購入したが積んだままバッカー資格の学習資料を思い出し。
(こんなに暇だったら、持ってくればよかったなぁ……)
これを持ってこなかった事を後悔していた。
仕方がなく適当に街を出歩き、探索者の技能の延長で街の地図を書いてたりで時間を潰していた。
だが、何かに役に立つという事もなさそうで、空しい時間を過ごしていたのだ。
だがそれも今日で終わり、まだ剣を振るえるほど快調はしてないが、走り込みなら問題はない。
土地勘はないが、安全そうな場所を見出すくらいはレンジャーの初歩である。
「―――ハァ…ハァ!もうきついか、高低差とかないんだけどな」
走り込みの間は負担減らしても仕方がないので魔具を外し、モンスターと遭遇した用の武装はしていた。
これで一時間で息が上がると言うのは、常人として速いんだろうか遅いのだろうか。
短距離の脚なら自信があるのだが、長距離となるとすぐに限界が覗く。
彼にとっての比較対象は、例外的なローズしかいないのでわからない。
仮に錬気法を使う彼女なら魔具なしで三時間くらいは、大剣背負ってでも普通に走り切るだろう。
そして現在、ちょっとした丘陵で休憩中。
保存食である干した魔物肉のジャーキーを水でふやかし、齧りながら考える。
「……ちょっと位ならいいよね」
魔がさした。テストは大事と自身を正当化し、少し剣の方に触る。
現在出先に持ち込んでる剣は、買い込んだ【相鉄の双剣】だ。店主の言う所の癖のない剣である。
同じ刀匠の作品であるから悪い物ではないだろうが、まだ使い勝手は確かめられていない。
「それじゃ、いつも通りにっ…!」
普段通りにオドを隆起させ刀身に属性値を付与する。
火傷のせいか多少経絡が痛むが無視し、出力を一気にあげそれを維持しようとするが。
「!?、熱っ!!」
何故か出力が一気に上がり反射で手を離した。それでも少し自身を焼いた。
手に巻いた包帯が焼け落ちる。
普段使ってる素人の双剣なら、この位の出力でやっと雷と熱が、標準出力になるハズである。
暴走なんて起こり得ないはずだった。しかも肝心の付与維持の時間も、一瞬で消える朽ちる。
「っく、変な癖がついてるのか。とにかく安定させないと、今までのが無駄になるとか嫌だよ!」
補助輪付きでずっとやってきたツケが、ここにきて出てるのかもしれないと焦った。
もう一度、もう一度と試し、結局安定するまで試した結果。
わかった事が二つ。
普通の剣はオドに対する抵抗が小さい。オドを蓄積して放出する事もないと言う事。
【素人の双剣】基準で魔法剣を維持しようとすると、あっという間に容量オーバーだ。
溢れて四散、身体を焼く。
「つまり、外に性質を引き出すのに、別にオドを流し続けるはなかったのか」
何度かの試行で何とか魔法剣自体は形になった。
ただ、付与維持となるとまた別問題で、油断するとパチンと表面張力が割れ四散する。
今まで付いた癖がやはり邪魔になる。
言ってしまえば付与維持の効率は高いが、それが表面に属性として出る効率が最悪なのが【素人の双剣】である。
「ふぅ…ふぅ…」
呼吸を小刻みに、それを基準に丁寧に管理維持すれば、いつも通りの魔法剣は使えた。
身体強化はできないが、呼吸法の基礎位は教えてもらっていたのがここで活きる。
というより、一般的には【素人の双剣】で魔法剣を既定以上の出力まで上げる方が、変態業技の類であった。
―――カイトが【魔力撃】が不得手な理由がここにある。
素人の双剣に慣れ、日々の鍛錬で魔法剣を形作るオド出力が大きく、経絡を拡げた結果。
それに見合った圧力を確保できないのだ。
「小刻みに、小刻みに呼吸を意識、オドを合わせてコントロールして―――」
だが、高出力のオドのコントロールさえうまく行けば、発展も得られる。
マナとオドの張力、その境界が崩れる事で一気に破裂する感覚を掴めた。これをうまく使えれば…。
「一気に、振るう!」
普段と違い簡単に放った魔剣が遠方に飛び、大地が爆ぜ焼けた。
―――【魔法剣:爆双竜刃】
オドとマナの張力の破裂と振るう遠心力の瞬間到達点を、合わせる事で放たれる魔放剣。
【魔力撃】とは違ったオドの瞬間放出。彼の飛ぶ魔法剣の虎輪刃の発展技。
体技と連動している故に、だからこそ完成すれ剣技の同一延長として猛威を振るうだろう技能。
「ダメだ。極端に集中しないと、飛んでかない」
だが、未完成。
だがまだ未熟な彼には、魔力張力の臨界を最適なタイミングの合わせるこれを実戦で用いるのは難しい。
だが、今まで成長が詰まっていた分、新たな感覚を掴めたことは大きかった。
つい夢中になって剣を振るう。
そんな中で手の痛みがじくじくと、また振り返しているが気にも留めない。
「っつぅ」
結局、普段の素振り基準で、剣を振るってしまった事に気づいた時は後の祭り。
手が痛い、イタイ。
「しまったな、どう誤魔化そう」
慌てて包帯を巻きなおした。治療の為にまだ素振りはしないと相棒であるローズと約束していた。
それを破った事になる。
手から多少血が滲んでるが隠せばバレる事はないと思いたい。
少し考えため息をつく、こういう所で妙にローズは鋭いのを思い返し、気が重くなる。
●●●
隆起させた魔力を鎮めるため、自己暗示的な倦怠時間。
川辺に休んで暫く経ち…。
―――ガチャン!
「!」
突然大きな音が鳴り響く、鎧の音だろうか。そして謎の違和感のある匂いが鼻を刺激した。
街を取り囲む壁と音が反響したか、レンジャー技能の不足で正確な方向は掴めない。
頭を動かし、姿が隠れる場所を推測、向こうの茂みから来ると結論を出し、とにかく剣を握る。
(まさかグールズ、か?こんな町の近くで)
聖錬ではモンスターと同様に、危険視すべきなのが同じ人間だと誰も彼もが知っていた。
「―――おう、ガキ」
【暗黒瘴気】
「……なんでしょうか」
そして茂みの先から顕れたのは禍々しい気を纏った、騎士然とした男。
一目で怪しいとわかるその風貌。
その鎧の質から、自身の適う相手ではない事はすぐにわかった。
暗黒の気配を垂れ流すそれ、は間違えなく高ランク魔具の類だろう。
幸いここは街のすぐ近くだ。大声を出して逃げれる事も難しくない。
そういう場所を選んでいる。
【ファストアクション】
不意を突いて走りだす構え、狼藉を働くようなら、どうとでもなると身構え。
「ちょうどいい。その筒を貸せ、後ろの川を使わせろ」
「はい?」
しかし。
強盗かと思った相手の随分と控えめな恐喝要求に、少し拍子が抜けたのだった。
「ふん…あんがとよ」
「はぁ、まぁ水筒位なら」
カイトが水筒を受け取り、それを容器として頭から水を被る黒いオーラ丸出しの騎士然とした男。
男の名前はマーロというらしい、流れの冒険者だそうだ。
五大流儀(ソードアート)―――【暗黒剣】。
人類が理不尽にNOを突きつける為に生み出された剣の流儀の中で、最も禁忌とされる。
【生命力】を奪い操る技能。
振るうものは強烈な会館に襲われ命そのものを強化・暴走させ、暴走の様な進化の危険性を持つ故に。
聖錬では一部の許可された礼拝騎士団等以外では禁忌指定される流儀。
黒いオーラを撒き散らす鎧型の魔具によって、それの初歩を扱う者であった。
「っち、このクソッタレの鎧がよぉ!死臭を洗い流さねえと兜も脱げやしない」
(瘴気が…、消えてく?)
男は川から水をくみ頭上から振りかけ、それを繰り返し身を清める。
すると、彼が水で身体を清めれば纏っていた暗黒瘴気も薄まり、警戒すべきという脅迫感も抜けてくる。
となると、この騎士然とした装備を纏った冒険者に、興味が湧き言葉を掛けた。
「えっと、どうしたんです。凄く物々しいんで警戒したんですけど」
「どうもこうもねぇよ。この鎧を身に付けてると街に入れねぇんだよ。死臭こびり付いてると張り付いて剥がれやしねぇ」
「あー
「いらねぇよ」
確かにあんなに暗黒を立ち上らしていては街に入れはしないだろう。
警邏に袋たたきにされるのが落ちだ。
魔人か何かと勘違いされる程の瘴気を放っていたそれは、一目で対象を警戒させる十分な威容を持っていた。
カイトが初見で強盗と勘違いし、身構えたのも無理なからぬ事だ。
先程の黒い瘴気は使用者に余り生命力を吸収させない様に、生命力を離散させたものであり、
それが生命力を腐らせた匂いを放ったのだ。
つまりは暗黒剣のセーフティが悪い方向に働いていた。
(本人にとっては、洒落にならないけど。高位魔具って不可思議なものだな)
じーと、見られるのが癪に障ったか。男が声を上げる。
「―――ハン?テメェもこの産廃が欲しいってのか、あぁん!?」
「!、いや、それ碌でもなさそうだからいらないけど。ただ魔具に興味があって…」
ただ高ランク魔具というのに興味があっただけだ。
幾ら厄そうだろうと、高級魔具には興味惹かれるのが、低ランク冒険者の本能染みた所があるものだ。
冒険者に取って、強い魔具はそのまま命の担保である。
「っち、なるほどその装備と武器、さてがテメェも同業者か」
【黒蜘蛛の鎧】、それが彼の魔具の銘である。
魔導式であり、その効果は”体質の改造”と”暗黒剣”の補佐。
何もなければBランク上位に位置する魔具だっただろう。特に【暗黒剣】は修行が難しい流儀だ。
しかし副作用として暗黒の気配の噴出と、身体改造で使用時の皮膚への癒着半融合し暗黒剣に特化させ、それ以外の魔力に関する技能の阻害など。
強力であるがそれだけではない。それ以上に、デメリットが目立つのが彼の扱う鎧であった。
「一応言っとくが、せいぜい魔具関係で旨い話には気を付けんだな。例え親しい相手でもな、でないと産廃おしつけられることになんぜ」
「はぁなるほど」
そう言って多少の魔具による苦労話を多少零す。
曰く、この呪われた品は友人と思ってた人物から送られたもので。これによって苦労を重ねてきたと。
それは遠回しな忠告だった。
口が悪いが、根は悪い人ではないのかなと、なんとなく推測する。
「ふん世話になったな。B級冒険者マーロ・ディストだ。腕には憶えがある。なんかありゃ一度だけテメェの頼みを聞いてやるよ」
「は、はぁ」
名前だけ告げ、男は去っていく、
ただ筒を貸した程度で律儀だと、少し気圧されながらも思う。
そんなこんなで特訓のついでか何故か。
カイトは戦闘特化のB級冒険者、マーロ・ディストと知り合いとなったのだった。
●●●
―――翌日。
「―――って事があったんだ」
「ふーん、魔具は怖いって言うのは聞いてたけどそういう事もあるのねぇ」
「幾ら強力でも気軽に街に入れなくなるのはごめんだわ」
彼等が取った宿の一階の酒場。そこでローズとカイトは食事をしながら駄弁っていた。
昨日、郊外で出会った冒険者の話。
力は欲しいが高級魔具に潜んでいるかもしれない、リスクについて実物体験は有用だ。
何時も通りの相棒同士、余暇を使い彼等は共有し合っている。
「まぁ僕等じゃ目利きができない訳だけどさ。専門知識のある知り合い何かが居れば一番いいのだけど」
「強くなるってたって、ぞっとしないものね。話聞いてるとメリットあるだけましってか、きっとデメリットだけの魔具とかあるんでしょ」
「多分ね。そんなもん高値で掴まされたら泣くに泣けない」
この世界における魔具は専門知識の塊であり、精密で繊細な物だ。
というよりAランク以上の魔具は、時代からも明らかに異質なオーパーツという事も珍しくないのだ。
それに関する魔具職人や研究者ともなると、エリートと言われる程の特権層と言えた。
だから。
「まぁ、警戒する以外どうしようもないんだけどさ」
「そうねー」
結論出して互いに笑う。
それに関する知己なんて、そんな望みは駆け出しには望み薄であった。
「そんであたしん所は、先輩に誘われて、討伐依頼で【カナキリ蟲】って言うの討伐行ってきた」
「蟲か、特徴は、手ごわかった?」
「そうねー、鳴き声がうるさいし金板だったら顎で穴開けちゃうような蟲。まぁ、先輩がちゃっちゃと殴り倒してあたしの出番なかったんだけどさ」
報酬は相応の等分にしたとはいえ、周囲警戒と運搬位しか申し訳ないわと、あっけらかんと笑う。
だが彼女の同行が、無駄という事もない。
精神をすり減らす冒険者稼業。実際は一人より二人の方があらゆる面で負担とリスクが減る。
用心に越したことはないのだ。
「強さ的にはこの間見た熊と同じ位ね。先輩が言うには張られてた依頼は殆どそんな感じだってさ」
「そう、やっぱここらで活動するのは厳しいね」
「というか開拓進んでそもそもモンスターが少ないから、僕等には有ってない所だ」
「そうねー。せせこましいし、地面が硬くて慣れないから、住むってなるとないわー」
しかし、弱いモンスターの討伐依頼がない訳ではないだろう。
ただ更に多い都会の同じ様な層の冒険者と、その少ない依頼を奪い合いする事が有意義と思えない訳で。
田舎である【ラインセドナ】が良いと言うのは、彼等の共通する認識として共有した。
「ところでさ、あんたの手、今どん位治ったの。包帯巻きなおしてあげるから手を出しなさい」
「―――ぎくっ」
隔していた無茶の証に言及されて身が竦んだ。心配されるのは嬉しいけど、それ以上に後ろめたさが強い。
包帯にはまだ血が滲んでいた。隠しきる事はできないだろう。
「あはは、えーと実は…」
観念して全部話してしまう事にした。
ローズは感性で生きている。少し取り繕った嘘なら見抜いてくる事は、体感して知っている。
「はぁ!?魔法剣の扱い忘れたかもと思って、魔法剣込みで焦って素振りしただぁ!?」
「う、うん。ほら、魔法剣使えなくなったら洒落にならないから」
案の定凄く怒られた。
けど、カイトにとっては非常に切実な事情、前提
それも考慮して欲しい所だった、言葉には出さないが。
(剣振って発展が得られたのは、言わない方がいいか)
火に油を注ぎそうだと、直感が呟いていた。
「約束破ったのは悪かったけど、ある程度ならもう平気だってば。骨が折れた訳じゃないんだから……」
「だまらっしゃい!あたしの感覚に引きづられてない?アンタの身体はそこまで丈夫じゃないんだから」
「そんな事…ないはず?」
眼を逸らすカイトに、正論をぶつけるローズ。
【自業自縛】
一部の自罰を抱える人間は、痛みを何かしらの実感とする傾向がある。
だからこれからもカイトは無理をするのだろう。イタチゴッコを彼等は続けていく事になる。
「悪かったから、ごめん。次から気を付ける」
「ふーん本当かしらね。まぁ、わかればいいのよ。わかれば」
謝罪を受け、怒るのも疲れたのか。
ローズもやっと矛を収め、話の軌道を戻そうとする。
「じゃあ、さ。話を戻して今後の予定はどうする」
「【ヴァ―ミリオン】の滞在期間はカルデニアさんからの連絡待ちだけど、カイトは何かやりたい事ある?」
「特に何もないかな。賑やかさの新鮮も三日もすれば慣れるから」
折角の上京といっても、彼等の興味の範囲は限られる。
門の位置、市場、冒険者宿、魔導の塔。見たいと言うか見た方が良い物はほぼ見尽くした。
しかもカイトは強制療養により、特に暇を持て余していたのだから尚更だった。
「じゃあさ、ちょっと行きたい所があるんだけど、付きあってよ。今だけの派手な祭り!」
「そんな事があるのか。わかった。でも何処行くの?」
何処かで何か情報を仕入れてきたのか、それならとローズが切り出す。
それはある特殊な事情を抱える【ヴァ―ミリオン】と言う街の、一大イベントとも言えるものであった。
「街の中心の大本道よ。そこで午後からヴァ―ミリオン騎士団の”お披露目”があるらしいの」
●●●
―――【ヴァ―ミリオン】本街道。
荘厳な鉄靴の音が鳴り響く【ヴァ―ミリオン】の街。
多くの人がこの軍事パレードを見に来ているらしく、既に巨大な人垣が形成されていた。
様々な文化の服飾、人種が降り交って形成されたその人垣は、それだけを見ても圧巻の一言だろう。
しかし…。
「あーもうっ!?せっかく来たのに人が多すぎて、全然見えないじゃない!」
「はは、あそこにいる人達はきっと僕らみたいに思い付きで見に来た訳じゃないだろうし、仕方ないよ」
そう彼等の視線は人垣に阻まれて、全く行進の様子が見えないのだった。
元より彼らの身長は平均よりそう高い方ではない。その為、その様子は想像するしかないが。
きっとこの人垣の向こうには儀礼用の剣を構え、一糸乱れぬ行進を行う騎士の集団が、
人垣の向こうには見えるのだろう。
「そっれにしても凄い人だかりねぇ、迫力半端ないわー、叫んでもかき消されそうね!」
「これだけいるとなると、もしかしたら【戦姫】や【五傑】のお披露目もあるのかもね」
彼が推測を述べる。
「確か、【ヴァ―ミリオン】に所属してるのは”七属を司る火の戦姫”に、五傑”魔竜ガ―ヴ”。聖錬最強の代名詞だよ」
この辺りでは子供でも知っている事だろう。
「はー、相変わらず良く知ってるわねー。アタシ奏護出身だからそこんとこよくわかんないわ」
この世界においてこの”お披露目”意味は複数挙げられた。
統制された集団行動と衆意の目による軍への締め付け。
周囲の仮想敵国、特に国境の近しい(ラスボス)である王国に対する威嚇・牽制行為。
聖錬中央聖都への義務を履行する、可能である事のアピール、連合の中での、独自性の顕示。
何より民の慰安と経済効果である。
比較的に平和とはいえ脅威蔓延るこの世界において、軍事力の形はそのまま人類の安息へと繋がるのだ。
地獄めいた世界。そこで生きる集団意識は、軟弱を淘汰し続け、あるいは平和である世界より洗練されている。
殺意に足りているとも言う。
(僕も始めて見たけど遠目からでも凄い。これは、突き詰めればラスボスとも言われるか)
その迫力に圧倒された。
常時モンスターハンスだ!な外敵故に、これを突き詰めたのが修羅蛮族の国【王国】と言われていた。
脅威を常に想定し、尖鋭化した常備軍が弱いはずがないのだ。
時は流れ刻々とイベントは続いていく。
ピョン!ピョン!!
「あぁもう!みーえーない!一目だけでも見たいのに!!」
「危ないよ。周りに気をつけて」
ローズが人垣の背を追い越そうと跳ねる。そんな彼女の快活さに癒されながら。
反面、この集まりだ。他の人に迷惑かけてないだろうかと少し心配で周りを見回す。
幸い、気にも留められていないようだ。
というよりそこらの塀によじ登ったり一目でも見ようと、もっと凄い事やらかしてるのもいた。
危ないし、下手をすればテロ行為ともとられかねない行為である。
(あ、警邏にとっ捕まった)
引きずり落とされ、ドナドナされる件の人物たちを見ながら。
罰金で済むといいねと、軽く思った。
兵隊の行進は通り過ぎ、分厚かった人垣もまばらに解散していく。
結局、正規の鎧姿の兵隊をちらちら確認できた位で、【戦姫】と【五傑】の姿は一目も確認できなかった。
実際、”お披露目”に登場したのかすらもわからない。
「にしても凄い人気ねー。あんだけ人集まるんだもの。奏護じゃちょっと考えられないわ」
「聖錬の街に住んでたら、知らない人はいないだろう”英雄”だからね。【大襲撃】になるもあるから、ね」
【大襲撃】とは、四年ごとの定期的にこの世界で起きるモンスターの
億を超える数が聖錬の領土を縦断し、人類生存域を脅かし、明らかに生態系に反した。【十罰】という巨大怪獣級まで現れる。
幾多もの村や町が消え、下手をすれば国が消える。そんなこの世界の”恒例行事”。
そんな中、一般的に千のモンスターを単体で蹴散らすと言わている、戦略級の魔具を扱うのが【戦姫】だ。
そして。
【五傑】の方々なんか勝手に突っ込んで、必ず大物殴り倒してくる良くわからん生モノである。
一部の認識では戦姫より遥かに強いと噂されているが、伝説の魔具の力を、(誇張された)噂で聞いてる一般人としては半信半疑である。
「―――だから、まぁ一目その姿を見たいって人も多いってわけ、明日が不安だから少しでも晴らしたいんだ」
「良くわかんないけど、そんだけ慕われてる英雄様って事でしょ?なら、ぱぱっと”異変”の方も解決してくれないかしらねぇ」
「あはは、それが一番いいんだけどね」
苦笑するカイト。
彼らが追ってる”異変”などこの世界では些事である。千や万が消え去ってからが対処すべき問題だ。
この程度で”英雄”が動く事など絶対にない。
「んーよし!ほとんど見えなかったのは残念だけど。人波も落ち着いてきたから帰りましょうか!」
「うん」
これも大都市である【ヴァ―ミリオン】でしか体験できない事だった。
これは何かの役に立つ訳ではないが、有意義な事だろう聖錬に生まれた者として、カイトの中にも”英雄”への敬意も憧れも強くある。
(一歩一歩前に進めば、いつか、きっと)
故にこの人の熱の集まる光景は、胸の薪の熱に足しになると信じていた。
そして戻った冒険宿【仔牛のポルカ亭】、受付より。
「おい、お前さんがた。カルデニアって奴から手紙を預かってるぞ」
「あ、はい。ありがとうございます
手紙の中を開くと、今後の予定についての記載があった。
二日後に同じ隊商からの【ラインセドナ】への護衛依頼が伝えられたそうだ。
それに合わせて体を休め、準備を万全にする事との連絡だった。
「ほんとに護衛依頼を引き続き依頼してくれるんだ。信用って嬉しいね。初めてだ」
「そうねー、とにかく明日は旅支度かしらね。よっしゃ張り切るわよ!」
これは、【阿修羅姫】と呼ばれる領域にいるカルデニアに依るところが大きい。
それでも多少は認めてもらえた感覚は嬉しいものだ。
早々に切り上げ食事をとり体を休め、今日もまた日は暮れるのだった。
王国武貴のお披露目が、聖錬でも同じような事が無いかなと。
暗黒剣が禁忌で難度も高く出しにくいから、魔具の力で強引に出しました。
が、これでも普通にとっ捕まりそう。