ポンコツ世界異聞=【終幕を切り刻む者達《ハッカーズ》】 作:きちきちきち
―――高山都市『ドゥナ・ロリヤック』
『ふむ、この程度なら問題ないでしょう、内経絡の治療は時間が掛かるものですが、応急処置がよかった、感謝する事べきですね』
【聖職者】【月の樹】【霊的干渉:
権力側に手配された癒し手であり医者であった女は、確かに高度な医療技術をもって、その傷を癒した。
焼けた皮膚は塞がれて、内在オドのは淀み完全に正常に引き戻される。
特に問題であった、内腑内蔵の捻じれ歪みも内経絡に霊的に干渉して、針と掌打にて揺さぶり、生命が自己の治癒力に沿って、正しい流れに修正する。
総じて、物理的な怪我が少ない事が幸いとなっていた。
治療と共に、彼の身体の精密な検査も同時に行われて、『黄昏の腕輪』という未だ正体不明の魔具。
取引のままに、何度かその機能を試行しながら確かめようとしていた。
『―――結果から言いましょう。精密な検査の結果、貴方が言う、上級魔具『黄昏の腕輪』と思われる"円環"を確認できました。右腕に何かしらの発振体が埋め込まれている。しかし、そもそも動力を確認できない。これだけでは現象の説明は到底つかないですわ』
治療と検査を行ったのは和装を纏った黒髪の妙齢の女性である。
健診結果を纏められた紙束、所謂カルテを手を叩きながら読み上げていった。
『―――そしてこれは、既に肉体に癒着していますね。取り出すには物理的な切除しか選択肢はありません。それこそ、その右腕を切除して、ね』
【薬学知識】【高等医療技能】
専門家に軽く言われた"切除不可"の言葉。
双剣士として先鋭化した彼は、片腕喪う事は戦士として大きく痛手である。
『―――まぁ健康には問題ありませんわ。重大な腫瘍なども確認できません。しいて言えば血液の組成が、一般的な純人種とは明らかに違う。これ以上検査するには、解剖が必要になるでしょう?そこまでを望みますか?』
その問いにカイトはぶんぶんと首を振って否定した。
何かの思案の前に、戦闘特化の冒険者としての飯のタネがなくなってしまう、それでは干上がる世知辛い話だった。
そこまでに追い詰められていない。前提として、まだ彼は死にたくはない。
その後、いくつかのやり取り質問を行って、彼は解放された。
全治三週間、感覚のマヒしたカイトには軽い怪我であると認識する程度である。
理外の砲撃を成した原理は変わらず不明だが、それは仮にも災害に抗った戦士相手に、最低でも生きたままの解剖をする理由にはならないのだから。
実際のその脅威が、"まだ"人類側に向けられた事例があるわけでもないのだ。
確かに、この『黄昏の腕輪』は汎用性に欠けるが、強力である。
事実として何度もこれに助けられた。カイトは無意識にある程度の信頼をこの腕輪に置くようになっていた。
そうでなくては、朧とする意識の中で、この腕を向けることはできないだろう。
しかし、抗戦した"傭兵の女"、エンジェルギアという可能性の翼の繰り手。
魔具使いの如く、この腕にある事が当たり前の様には馴染んではいない。
得体のしれない演幕に"担い手"と役割を押し付けられて、彼はまだその程度の距離感のまま漂う。
そして現在。三週間の時が流れて。
同じく、高山都市『ドゥナ・ロリヤック』での事。
空を見上げる。
カイトの視界をノイズは晴れていた。久々に、その眼に違和感を最低限に世界を映していた。
『黄昏の腕輪:
元凶が撃ち滅ぼされた為に、彼の瞳が移す世界は正常な流れへと、引き戻されているのを視ていた。
【狂羅輪廻】
それが、三週間もの短い間であるが、狂気に急かされる彼が大人しく身を休めた理由だった。
精神衰弱と合わさって、目的が怨敵が喪われて、風船のように気が抜けたともいう。
久々にゆったりと世界を眺める。災害の襲来に一度更地になりかけたこの街は絶賛復興、再建の最中である。
半壊した岩作りの名目上病棟を、応急処置的に【建築魔法】にて修復した建物にて。
その物の流れをゆっくり眺めて、時が流れるのを眺めていた。
しかし、動かないと、何かしないと、足元が崩れていくその焦燥感はまだ燻っている。
検査での入院の中、冒険者の仲間以外の誰かが見舞いに来た。
その時には、まだ喉が焦れ焼けて、声がうまく出ないので身振り手振りで反応する。
『―――うぃーす、元気にしてるか!やけに久しぶりに感じるな、リューク兎丸だぜ』
『―――まだ入院してるんやから、元気な訳ないやん、同じくレイチェルや。見舞いついでに少し話を聞かせてくれると嬉しいなぁ』
【吟遊詩人】・【マネージャー】
派手な長髪に独特な槍を背負った派手な男に、軽装の二刀と人懐っこい笑顔応じて揺らすポニーテールの女。
いつかに知り合った、"吟遊詩人"のコンビである。
様子を確認するように、こちらを伺って、返事に大げさに反応して入って来る
『―――互いに大変な目に合ったなぁ、なんだか訳わからん位に動いてなぁバケモンは湧くし、色々な奴が迷惑かけよるし、うちも
『―――そう言うなよ、レイチェル。俺だっていきなり呼び出されてよい。喉がかれるまで歌い尽くしたんだぜ』
【早撃ち】【疾風剣】・【風水術】【俺の歌を聞け】
レイチェルがやれやれと溜息を付きながら、語る。
【魔王級】と呼べる災害とそれは、明らかに連動しており、事態は推移した。
様々に絡んでいた、
それぞれに、確固に対処する抗いあったからこその平穏である。一つが崩れても自体は悪い方向に転がり得た。
聖錬南部の様々な地を旅する、吟遊詩人をならわいとする彼等にとっても異常な事だった。
『―――んで、『ロド鉱石』とかいう、資源を狙って利用しようとしたこと以外、とっ捕まえた下っ端はなーんも知らんときた。あんなもんがどかーって動くんや。絶対それだけじゃないはずなんよ』
『―――お手上げ、俺ら的には骨折りのくたびれ儲けってやつだな。『預験帝』の何時ものテロリズム位に脈絡ってもんがないぜ』
比較として出るのは只管に迷惑な存在である大陸北端の五大国の一つ『預験帝』及び、その工作員である"マローダー"である。
目的もなくただ単純に猛威を振るおうとした所に印象が被るらしい。
『―――とにかく見てたで。あんさん天使モドキやら、あのどでかい天魚やらと交戦したんやろ。そこらへんの話聞かせてくれへん?』
未熟な文明社会の、情報の運び手として彼等は尋ねた。
それに困り、頬を掻いて困る。。
カイト自身も明確に知り得る内容はなく、ただノイズに導かれる異物感と殺意に殴り返しただけである。
『腕輪の担い手』たる自身に巡る疑念については、流石に彼等の仲では話せない。
故に、影を踏んだもの達がどう抗ったか、それを反芻しながら答えるに留まった。
燕の剣に巨針の矛先をもっと引きよせ、焼き尽くす天の剣を振るった『蒼天』。
同経樹の存在への二度目の交戦の経験を機動に反映し、踊る様に銃口を向け続けた『鋼鉄の銃身』。
そして、波を踏み荒らして剣を向けたカイトの知る限りの、冒険者たちの戦物語である。
『―――はー、というか。リコちゃん芸達者やねぇ。流石"精人"というべきなんか、生まれたばかりで大したもんやわ』
その中でも吟遊詩人の彼等も再誕に立ち会った。奇跡のような存在に関心が集まる。
"精人"というのは、基本的に人の形をした精霊である。
時に環境の化身であり、時に基礎となった情報に極大の適性を有する。
上位種であるが、過去に『テイルレッド』などは、竜退治の英雄の情報を骨子にその技法を継承していた。
故に、生まれたばかりという認識でもその能力には、疑問を抱かれない。
『―――色々話聞けて助かったぜ、この話を追うかはわからんが、何にせよもうちょっと修行が必要かもしれねぇよい』
『―――せやなー、うちら弱いしな。お大事になー、元気になったら手合わせ頼むかもしれんわ!』
カイトはそれに同意して、礼を言い、それに手を振り見送った。
そして別れの挨拶の後に、吟遊詩人の彼等は去っていった。
鍛錬の手合いが増えるのは、彼等にとっても都合のいい事である。
情報の運び手として『聖錬』を旅する"吟遊詩人"においても、意識的に極度の鍛錬を積んでいるのは珍しい。
元牙の塔の卒業生筆頭やら、G級ハンタークランの生き残りやら、伝説に残る迷宮の踏破者や、"勇者"の襲名者は例外中の例外である。
"レイチェル"と"リューク兎丸"のコンビは、今まで緩やかなリズムの中に生きていた。
互いに、自身の抱く理想にそこまでの才が無かった。
最初にそれを慰め合う様につるんでいた彼等は、何だかんだ相性が良く互いに長所を補い合って、緩やかに生きて。
そして、今は自身等が見出した未曾有の事態にに、未知の"詩"の可能性を感じて。
追い続ければ、夢を―――確かな何者かに成れるかもしれないというのが、彼等が抱く熱意の源泉である。
それ故に、彼等の道はまた交わる事になるのだが、カイトは知るよしもない。
そして予想外の、見舞いはもう一つあった。
カイトにとっては、背を押した鋼を知る共通点、一応の顔見知りとも言えない間柄。
鉄十字印の髪留めを新たに、青髪を揺らしていつか見た汚れたツナギ姿ではなく、紺色の私服姿である。
"機巧操りの女"、大空に巨大な
『―――ええ、互いに大事無い様で何よりです』
少しばかり、元々深く知り合ってる仲ではない為、会話に困り相手の調子を尋ねてみた。
『—――私?感覚のずれてしばらく真っ当に地面を歩けなかったのと、肋骨が幾つか折れたくらいで軽症ですとも』
【コンバットセンス】【継承・緊急起動】【鋼の信仰者】
彼は十分大したことだと、常識を元に心配の声を上げる。
一種の"空間識失調"と言える症状だろうか。空舞う機巧繰りに陥りがちの職業病である。
そんな事は知らないが、しかし、地上の歩行障害にまで発展するのはかなり重症であるのだろう。
女は才に恵まれていた。【コンバットセンス】という、雷属性のオドによる疑似神経の発達。
それは彼女をエリート機巧操りとしての駆動技術の基礎にある。
しかし、そこに染み付く油汚れの如く痕。
【メンター:鋼の声を聞く者】
夢の始まりに終わった。"隊長"と呼ばれたが反復の果てに会得した、人生の終点となる答えである。
"隊長"と呼ばれた男は、その一動作その感覚自体を愚直に紐解いていったからこそ、"他者"に伝授可能であった。
流星、それが焼き堕ちた先に。
未来に描かれる"騎士の女"のエーススタイルの源流は、焼き付いた理想とする鋼色の人生に染められた男の飛燕に染められている。
『—――そんな事です。まだ未熟な証拠、居場所を空に魅入られて見失っただけ』
その症状を何でもない事と、彼女は言い放つ。
経歴より踏鞴を踏む呼吸を小刻みに、愛機と対話する"鋼鉄を識る者の呼吸"の継承者。
それが、【鋼の信仰心】による呼吸の踏鞴も合わさって鋼の四肢に
最終的に、【全集中】に至る為の方法論の片鱗であると同時に、リスクでもあった。
技術由来、魔導文明の遺産"IFS"の一部、手の神経適合とそれによる姿勢制御を流用する現代製の
先達する"隊長"と呼ばれた男が、見込んでいた通りの
『—――私の"永遠"はずっと空に在ります。彼は残してくれました。あの飛燕の軌跡が焼き付いて空になぞれば"彼"に触れれるから、辿り付くのは果て墜ちた先に、そこでまた逢えるのです』
『流星の鍵』【鋼鉄の信仰者】【クーデレ】
"騎士の女"を極集中を引き戻す拠り所は、もはや信仰と呼べるほどの想いである。
何も知らない第三者から聞けば正気を疑い、当人が蘇れば頭を抱える言葉を、高揚しながら語る。
彼女は喪失から、ある種一線を越えてしまっていた。
カイトは遺骸を『腕輪』により溶かした。故に多少知り得ているそれを聞いて、苦笑いしながら頬を掻く。
彼女は善意の人である、喪われた美しい者に魅せられた。それを直向きに向き合おうとする実直は、普通に好ましく解釈し呑み込める範囲である。
ただ愛が重いと、女の人は怖いなと思った。その言葉が、自身の身に還る自覚はない。
『―――こほん、話を戻しましょう。現状の説明です。容易いとも言えないですけど、復興は遅々として確実に進んでいます』
"騎士の女"は一つ咳ばらいをして、話を切り替える。
調子の確認という会話のジャブから、何故か加熱した会話を真面目に引き戻した。
『―――部落の人間たちとはお互いに災害に抗った実績があり、共通する子供を一時預けたのも大きいです。互いに互いの居場所がある、そう認識する者も多く僻意がかなり薄れて、供に当たる様です』
高山都市を襲った脅威は多岐にわたる。
カイトが認識しない範囲で、『蒸気を纏い闘炎を纏った巨鎧』や、
彼が知る範囲の"部落の人"は貸し借りを誇りを重んじる。繋がったその縁は無得にはされないだろう。
『―――幸いにも収穫もあります。元々十罰や隔離領域に対する前哨基地的な役割を由来に持つ都市です。『牙の塔』からスカウトには、部落の伝承技術や、尋問で聞き出し新たに"幻属性"の鉱石、『ロドの鉱石』は興味を惹かれるものでしょう、
【牙の塔出身者】
"騎士の女"は、聖錬における難関と選ばれし者のみが入学することが出来る事で知られる、最高学位の【牙の塔】の出身者である。その情報の伝手を持っていた。
故に、復興の為の
それを聞いてカイトは安堵して、良かったと頷いた。この地に生きる気の良い人達を知っている。
不幸をなんて少ない方がいい。拭う、後押しがあるのは嬉しかった。
自身の気になる所の質問をした。
供に『魔王級』と交戦した"蒼天"のバルムンクの所在である。
『—―――あぁ、"蒼天"は既にこの地を去りました。俺にはやる事が有ると言って、全く傷も完全には癒えてないのに気が早い物です。典型的な堅物ですね』
"騎士の女"は肩を竦めた。
『鬼人八門衆』"蒼天のバルムンクその行動で確信した供に、目的を共通するとだけ確認した実力者である。
彼がすぐさまに去ったというのは"事変"が終わっていないという鈍い確信を補強するものであり。
それは同時に、別の意図を理解して、懸念を示す『腕輪の担い手』に対する明確な拒絶を感じ取った。
困って、落ち込んだ。実力者の意見を聞きたかった。
すぐさま動き出すという事は、行く道があるのだろう。対してカイトは繋がる道を見失っているのだから。
その答えと、わざわざの見舞いに礼を告げて。
『―――……礼を言われる筋合いは在りません。私は私のしたい事をしただけです。ただ願わくば、貴方が最後を見た眼に焼き付けた、鋼鉄を憶え続けてくれる事を願います』
【鋼鉄の信仰者】【その涙は枯れてなお】
忘却が、その人間の本当の死というならば。
"騎士の女"は自身の"親愛なる人"を覚えてくれる誰かが、一人でも多くいればいいと。
(ええ、それに)
冒険者は最後の飛翔を識る、己の信仰への唯一の理解者になれるかもしれない。
彼女は信仰者である。
騎士の矜持という無垢に、強固に染み付いた油汚れから、そう想う。
『―――ではさようなら、冒険者。いつか、また道が交わる事を願います』
"騎士の女"はそう告げて、病室を去っていた。
その背中に、以前のイメージに合った折れそうな脆さはもうない。
親愛なる死者との向き合い方を見出し、喪われたものに彼女なりの触れ合い方を見出した。
その依存は弱さではない。想い出の中で美化され、彼女に妥協を許さないだろう
彼女が未来にて、語られる名は、今は誰にも知る由はないのだった。
●●●
―――それから、また時が経ち。
カイトは、検査から解放された。
【高山都市】の荒れ果てた未定の空白地にて。
現在、双剣士カイトは、自身の技術を確認して反芻する作業に精を出している。
最近、特に騒がしすぎた。それこそ現状を、自身が歩いた足跡を把握する時間すらない程に。
息を吐く、吸いこむ。それを静かに何度も繰り返す。
この地に荒ら巻くマナは濃く皮膚を叩く、"風の属性"である。
それを呼吸を取り込む、幾百も繰り返した大気中のマナを呼吸法に練気に溶け込ませ、内蔵に取り込み己の炎につぎ足す所為だ。
何の特別な事もない、戦士ならば誰もが少なからず身に着けている、呼吸法の基礎からの練気の発展である。
「さて、やるか」
その一言と共に、剣をホルダーから引き抜き、重さを確認する。
『絆の双刃』【ソードマスタリー】
冒険者カイトは客観的に見れば在野の田舎育ちにしては、才に恵まれた真っ当に成長を重ねている。
己が微かな"固有魔法"【蛍火】、異能使いに比重を軸に、それと同時に基礎鍛錬の注ぎ込んだのである。
初めは微かな揺らぐ蛍の様な炎でしかなかったそれは、属性濃度に確かな熱と繋がりをもって。
"異能使い"と呼ばれる様な模索を成していた。
それが一番、手っ取り早く結果が出やすい為に、戦士としてのまだ歴が短い彼には必然ともいうべき道筋だ。
風切り音に剣を振るう。
【舞武】【ダンシングヒーロー】
一度振るえば自然に体が重心に偏り、ここから染み付いた動きに逆らわず傾き、肉体の発条は乗せる。
手首を柔らかく回し、延伸を風切り音からを体感として、その精度を確認する。
それによって、ただ一閃から派生して、刃の煌めきは派生してより重みを乗せた連閃となる。
ただの素振りではなくて、それは剣舞の真似と成していた。
【魔法剣Lv1:炎舞の刃・雷舞の刃】
魔法剣の初歩も初歩、単純なオドの放出の術式から成される、単純な属性値の付与。
その刃、オド性質にマナ構成に対する虫食い性質と、また対人特効ともいうべき雷の刃、交互に自身の信じる"魔法剣"を起動して、噴出するマナ抵抗により、ぶれる刃をそれぞれ修正していく。
ひたすら反復する、筋力を鍛え体幹と同一して動くように、但を練り上げる。
共に、呼吸を吹き込んで肺に心臓に流れる"旋律"を意識して、自身のオド由来の電磁で奏で上げた。
それをもって本来異物である双剣に、神経を通わせて制動させ模倣から発展した舞を成すのだ。
【精霊術Lv2:旋律感応】
それが獲物、愛剣を前提にした身の延長に振るい、同時に"精霊術"を両立する方法論である。
彼のオドが宙に放たれ、小精霊が集い鱗の様に補強する。純人種である限りに劇的に魔力は成長しない。
大概の戦士は魔具によるブーストか、他から取り込んで利用する事を行うだろう。
【精霊術Lv2:チャージ】
彼が選んだ取得した方法論の一つ。自然環境におけるマナ、それを己が魔力と術式によって誘導し、使役する魔術【精霊術】も併せて出力を成している。
一般的に魔力を鍛える方法というのは、やはり只管の内蔵の反復に、投薬による肉体改造だろう。
【黒薔薇の加護】
しかし、彼は魔術師ではない。その方法論は"相棒"である高山出身の蛮族、ローズから学び、混じり合った取った練気の延長だ。放出ではなく、内在のオドによる内力剛壮を重視する。
練気にオドを取りこんで、生命力に内腑が活性化すれば、その濃度は濃くなる。
カイトの固有魔法と言えなくもないもの、初めは儚く漂い散るだけであった炎。
それが
しかし、『禍々しき波』の侵略者と対峙した時の様な燃え上がる出力も、湧き上がる持続性もない。
思い返せば本来の渾身である"疑似魔力撃"の乱打、補助前提とはいえ網掛けの足場を形成し続けた。
以前ならば、あの規模の"魔法剣"を、"精霊術"を行使し続ければ間違えなく枯渇する。
「確かに僕だって必死に鍛えたけど、他に要因なければ説明付かない、か」
それを確認して。一時、素振りを中断して手を握る。
殺意に感情を荒立てて、精神が肉体を牽引してオドの放出を容易くしたのも要因にあるだろう。
しかしそれ以上に、侵略者と抗戦時のカイトは確かに自身の限界を塗りつぶしていた。
その原因を推測する。
魔王級『碑文八相』たる
短期間に複数のバケモノ、同時に怨敵交戦し、何の冗談かまだ生きている。
その違和感を。
「うん……やっぱり、そういう事なんだろうね」
『黄昏の腕輪:侵食』
以前から、マナに投影する六輪の
それが効率良く"侵略する波"に対して投影されるのを把握していた。
そこから更に『碑文八相』の放つ月匣を構成するマナを呼吸に取り込んで、内蔵に溶かして利用している。
あり得ない話ではない、自身と同一
ただ、突然に襲撃する災害相手に、それは都合の良すぎると言えた。
『黄昏の腕輪:侵食』
「僕の
以前から懸念していた、正体不明の上級魔具である『黄昏の腕輪』による"肉体改造"である。
それはきっと。『碑文八相』と呼ばれる存在を踏破するほどに、その効率が上がっているのだろう。
まるで、そちら側に適合させていくように。
"仕組まれている"。自身に張り付く正体不明の操り糸の証明。
その行き着く先は果たして……。
「今の情報じゃわかんない、けど。いい予感はしない」
静かに溜息をついた。
このままいけば己は、長くて数年で死ぬだろう。そう以前は想っていた。
己の目的に歩めればそれでいいと思っていた。
冒険者を目指した限りに早死の可能性は常で、長生きしようという方が贅沢なのだから。
"しかし、これでは死ぬ際に真っ当に、ただ死ねるか怪しい"。
併せて、最近は、少しだけそうも考える様にもなった。
その考えを遮る様に。
「おっす!随分具合よくなったようじゃん?先に勝手に始めてるのは感心できないけどさー」
【アマゾネス】【ムードメーカー】
快活な声が響き渡る。彼の相棒である、重剣士のローズである。
いい加減、相棒の怪我に慣れてきた。
彼女とはここで待ち合わせをしていたが、冒険者としての依頼、瓦礫撤去の力仕事の帰りの後だった。
「ごめん、早く体の調子を確認したくて。僕だけいつまでも働いてないのも気にかかるしさ」
「真面目ねぇ知ってるけどさ、んーッ疲れた!!」
いつもの龍の鱗を張り付けた大剣を背に、腕を背に伸ばしてぐぐぐと伸び、カイトの横に座る。
復興最中、現在の『高山都市』にはこういう仕事が溢れている。
古来文化的に岩作りの建物が多く、頑強性の代替えに重量が大きい。そのため力自慢の彼女にとっても重労働の様だった。
「動いてなきゃ死ぬってわけでもないし、あの検査地獄の後なんでしょ、少し休むのが何よ別にいいじゃん」
「そりゃこんだけ騒がしければ、寝てても気が休まらないよ。それに訛っちゃうから」
ギルド職員も、冒険者も、癒し手も、あるいは騎士達も。
目に付く動ける人間は騒がしく働いていた。基盤が崩れており、誰もかも仕事は尽きる事はない。
それを大人しく眺めて居られるほど、彼は人生に静観して生きていない。
有体に言って、居心地が悪くて、逆にストレスが溜まっていくのだ。
しばらく、互いの熱を隣に風に巻かれて。
「この
「ギアはぼちぼちと、割とボクも本調子だよ」
『竜麟大剣』【重剣技】【練気法】
『絆の双剣』【舞武】【精霊術】
ローズが大剣を抜く。竜麟細工の剣は鈍い鈍い艶を放って存在感を放っていた。
基本的に直感で動く彼女は、構えは正眼の構え一択であった。
しかし理不尽との交戦で、思う所もあったのか、その構えに微妙に変化が混じっているのを感じ取った。
「じゃあ、遠慮なくいくわよ」
【剛剣技】【打ち返し】【練気法:怪力】
肉体を活性、両腕を上段に引き絞り、振り下ろしの動作を取る。
以前の様に勢いのままに歩みを加速しない。踏み込みのタイミングで打ち降しの衝撃と制動の衝撃を一致させる。
彼女は以前は力技に成していた衝撃を重ねる、剛剣技と呼ばれる流儀の骨子である。
「タイミングは距離感で読める、あとは剣筋だけ…ッ」
【ソードマスタリー】【舞武】【精霊術:アプドゥ】
刃の剣を振るわせて、先ぶれに打ち合わせ、重剣を歪ませる。
一閃に競り合う衝撃に後退して、精霊術により空力の足場を踏み込み、もう重心の流れるままに片刃を撃ち込んだ。
それでやっと勢いは均衡する、カイトは質量由来の圧に吹き飛ばされて、飛ばされて後退する。
受け流すことも出来たが、闘気を纏っていない剣は彼女の余力の証明である。
「おっとぉ、なんか珍しいじゃん。真っ向勝負なんてさ!」
「そろそろ同じ立ち上がりは読まれそうだしね!」
【打ち返し:リバウンド】【生命活性】【怪力】
ローズはその様に快活に笑う。予測通りにこのままに終わらない。
独特の手の構え、直感より派生する斬り返しの構えのままに派生して、もう一薙ぎに派生する。
反動利用・制御、大剣による斬り返しの以前に技能。以前には力任せであったそれは更に洗練されている。
甲高い金属音に打ち合う。
数閃の煌めきの後。
筋力での対抗ロール、カイトはその勢い逆らえず、さらに後退して姿勢を崩す。
「くぅ、相変わらずの馬鹿力」
「崩れた、さぁ、隙ありィ!」
対して指を奔らせ、愛剣を鳴らした。
【ダンシングヒーロー】【蛍火】【精霊術Lv2:炸熱】
性質を押し付けた精霊の炸裂、その中に紛れて危機の先に前進する。
ローズの先ほどの構え、下段からの斬り上げ、姿勢を崩して、腕も痺れている為に片刃しか振るえない。
これでは真向に競り合えない為に、その"刃を投げ捨てた"。
「ちょ、まっ、ええ!?」
晴れた視界の先に目に飛び込む彼女の剣筋が揺らぐ、大剣を振るい反射的に弾き飛ばす。
がッ!!
そこに大剣の面ができた、その刹那に蹴り込み彼女を強引に押し出した。
【舞武】
【打ち返し:ウェポンガード】
「っくバァカ!これは模擬戦なんだから、そこまでする必要ないでしょ!」
「ん、こんな小手先ローズなら防ぐよね」
「そういう問題じゃなくて武器を、防ぐ手段を簡単に投げ捨てるんじゃないってーの、事故ったらどうすんの!!」
ローズが怒るが、カイトは意に返さずに、身体を揺らして空いた距離に呼吸を整える。
カイトは既に彼は己の危険に頓着しない。彼がリスクを考慮するのは仲間が関わった時のみである。
喪った愛剣の代替えに、同じく喪い片刃になった『相鉄の双剣』を引き抜いて構えた。
「―――うん、さっきの剣のおかげで勘が戻ってきた。ありがと」
【魔法剣】【夢幻操舞】【狂羅輪廻】
思い出した危機の薄氷中にこそ、己が進む道があるという、ここ最近に馴染んだ感覚である。
この世界にて、戦士が歩む在り方を理不尽に対する心の在り方の系樹の一つ。
この世界に闊歩する、修羅とは相反する狂気による闘いの淵に飛び込んだ者としての舞踏の在り方。
「ありがとじゃないわ。全くいつの間にか、悪い癖付けちゃってさー」
【闘牙剣】【練気法:竜装帰】【阿■■姫】
溜息をついてアマゾネスのローズは、独特の呼吸法により、変質させ竜装を纏う。
物理的に強靭となった身体に、疑似尾という増えたカウンターウェイト、精霊感応の初歩に後押しを受けて。
対してカイトは、幾多も剣を撃ち合わせる旋律のままに揺れる重心に、身を預けている。
「さてとちょっとムカついたから全力で行くわ。その癖、叩き直してあげる」
「あのちょっと、ローズ。怖いんだけど…ッ!?」
ダッ!!
ローズの切っ先に連動して互いに動き出し、再び斬り合う。
竜装を纏った力業、本来相反し己を傷つける衝撃を重ねる剛剣技、流転し噛み砕くに闘気を同一化させて。
踏み込み続けに重量を重ねて、虫食いの性質を魔法剣に発条の様に炸裂させ。
【剛剣技】【闘牙剣:オーラファング】【闘気の才】
【ソードマスタリー】【魔法剣:爆双竜刃】【精霊術:アプドゥ】
相殺した渾身の後にも、時に足場を消して落差に舞い。
互いに蛇の如く、全身を後退を同調しタップして絡み合う。
剣のはためきに、炸裂音が連続する。
「ちょっとなんでそんなに怒ってるのさ!?」
「あー、もうなんだかんだ強いのよねぇ!そろそろアンタ動きがきもいわ!」
「酷いッ」
流転する牙が迫れば、精霊術の疑似足場に踏み込み、角度を自在に重心の混じった剣が弾かれ合う。
得意分野の差はあれど、彼等の実力は基本的に拮抗している。
【蛮族:アマゾネス】
女系の戦闘系の蛮族である、"ローラント"である彼女は割と戦うのが好きだった。
近くに忙しく、密かに性欲も溜まっている事もあって、晴らす様にも激しさを増していく。
龍尾を交えた下段の薙ぎ払い、蹴って距離を取る。
ローズの誇るこの竜装は。微かな竜の因子に活性化した亜竜崩れである。
「もうぜんっぜん、崩れない。結構アンタの剣も様になって来たのね」
「ぜぇ……ぜぇ…、どう、満足した」
しかし、長期戦になれば成るほど、カイトの方が不利である。
フィジカル面ではローズが有利であり、そこから内力剛壮と練気により自己回復していくのだ。
「いい事思いついた。試したい事があるし、ちょっと賭けしてみない?」
「ふぅ…、いいけど。その試したい事って、何?」
「何でもいいからカイトの渾身の一撃を、打ち込んできなさい。負けた方が、勝った方の言う事を一日聞くっていうの」
挑発的に、指をくいくいと悪戯な笑みを浮かべて、彼女は提案する。
"相棒"である彼等は、彼等は互いの手札を知っている。
理不尽と対峙し続けて致死の鬼札とて磨かねば全く通用しない事は知っていた。
「賭けの意味は?」
「その方が気合入るじゃん」
彼女らしいと、相棒のその単純明快な快活な答えにおかしくて、クスリと笑う。
応じる姿勢を取って、両手の刃を双方向に向ける。
愛剣『絆の双刃』をかき鳴らし、炎の伝播を精霊への熱に変えて感応し、仮想刃の形に収束させていく。
冒険者カイトが現在持つ、切り札と呼べる逸脱した魔法剣は二つ。
その一つが、故郷の親友の得意技であった
「―――じゃ行くよローズ」
自己属性に染色して燃え上がる。精神統一に、精霊の投影、更に外部燃焼の手順を踏み。
そこから、"破裂"の方程式を噛ませた疑似刃を形成し、剣を振るう動作に合一化した慣性・斥力によってミキサーの刃として打ち鳴らす。
しかし、それは遅い。異なるオド特性のよる対流特性はなく、手順が多い。
一流の域にない彼にとって、
双極の対方向に交差するミキサーの刃、連ねる炎喰と雷霆の刃渦。
対して、彼女は呼吸を深く、呼応する生命力を励起させて、己の感情のままに波の如く増幅させる。
聖剣技の基礎【クライムハザード】と呼ばれる闘気噴出力による破断。
そもそもこれは、彼女が故郷で既に扱っていた業である。
一度、飢餓に衰え再度組み上げた。大剣に注力した【努力の才能】により更に先鋭化している。
"剛剣技と闘気剣の波の増幅による合一による加重破断"である。
雷霆の如くミキサーの刃と、生命力に増幅された風と闘気の光が正面よりぶつかり合い。
『高山都市』の片隅にて、微かに閃光を放つのだった。