ポンコツ世界異聞=【終幕を切り刻む者達《ハッカーズ》】   作:きちきちきち

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帰郷【ダンジョン】

都会【ヴァ―ミリオン】から離れ、帰郷を目指した。

 

 その帰りの護衛依頼。

 といっても、特に変わった事は殆ど何も起きなかったのだが。

 時折襲いかかるモンスターは、軽くカルデニアが削ぎ倒し。

 その後処理をカイト達が担当した位である。

 そんな頻繁に災害に絡まれるのは、黒幕が真顔で助力する悪運に熱烈歓迎された男位のものだ。

 

 行きの護衛の際には距離をとり、硬く口を閉ざしていた依頼人の表情が多少柔らかく。

 あの時の怪我は大丈夫か、など。控え目に話しかけてきたのも印象が深い。

 

 人によってはそれを掌返しと誹謗するだろう。

 だが、行動結果が人に形として現れるのは勇気付けられるものだ。

 基本的に冒険者なんて、最低辺で時折ならず者やろくでなしが混ざるのだから。

 この地獄めいた世界で依頼人(かれら)も自衛の手段だった。ただそれだけの話だった。

 

 なおこのキャラバンは田舎町【ラインセドナ】の中小の商工会が共同出資で、

 一括で都会に買い出しに行く商人である為。

 うちの店をよろしく!とのセールストークまでついてきた。

 商魂逞しいものである。

 

 

 

―――現在の彼らはというと。

 

 

【冒険宿・ヴェルニース亭】

 いつも通り土方や採集など、討伐ではない冒険者(何でも屋)の雑用作業をこなし続け。

 カイトの怪我が、ほぼ行動に問題ない程度に癒える時が経った頃。

 

「はい、こんにちわ。今日は依頼の受注ですか?」

「うん、こんにちわ。すみません、この討伐依頼を受けられないかな」

 彼等は普段の生活に戻り、依頼であくせくゴルを稼ぐ生活に邁進していた。

 受付嬢ヒバリ・カイルンに依頼の受注の可否を聞いた。

 その冒険者に依頼を斡旋するかは、そのギルドの判断の一存にかかっている。

 

 

「そうですね。Cランクでも信用実績なら問題ないでしょう。ただ、規模的に他のPTと合同で受ける事になりますが、よろしいでしょうか?」

「うん、大丈夫。よろしく」

「そうですか冒険者カードを、はい。確認しました。では詳細を…」

 あれから彼等は依頼達成実績を積み上げて。

 この【ヴェルニース亭】に限定するならCランクの中でも、ある程度の信頼を築けていた。

 彼等程度でもというのが、所属が30人程度の小ギルドの悲哀である。

 今回受けた依頼はモンスターの溜場と化しがちな街離れた遺跡(ダンジョン)の調査、場合によって討伐だ。

 古い時代の産物である遺跡(ダンジョン)は壊れにくくい。

 そして希少な技術を秘めている”かも”しれない貴重なものだ。

 だから基本保全する為に、そしてモンスターのねぐらにされない為に清掃(物理)を行う。

 その全容が解明された訳ではない為、多少危険を覚悟する代わりに、割が良いモノだ。

 

「よっし、ローズ仕事決まった。郊外遺跡の定期調査、十時位に合同の冒険者と酒場で落ちあうよ」

「あー、ソレ受けられたんだ。よっしゃ、もう準備はできてるわよ。先輩誘えれば万全だったのだけどねー」

「仕方ない。別件があるらしいし。それに頻繁に頼ってもいられない」

「そりゃそうね」

 B級の知己であるガルデニアは、今回は別の依頼があるという事で他に出ていた。

 合流する他冒険者はCランク一人に、Bランクが一人らしい。

 空席が目立つ酒場の席でのんびりと、探索道具を確認しながら合同冒険者を待ち合わせる。

 今回の依頼は出来高であり、手に余ると判断すれば最低限偵察で良い。

 撤退の判断に、役割【レンジャー】自分が、多少重要になるだろうと踏んで入念に確認を行う。

 

「そういえばさっき噂に聞いたんだけど、ここの所属のD級冒険者が二人消えたらしいわね。多分死んだんじゃないかって」

「うげ同業者が、”異変”との関係は?」

「ないみたい。酒浸りのロクデナシだったから、借金取りにでも命取られたんじゃないかってさ」

 その間、ローズは暇だったか齧った噂話を口にする。

 なおその死亡者というのは、護衛依頼を告げ口したD級冒険者の二名の事だ。

 生贄としてその血肉でできた【デーモン】と対面していたりするが。

 だが、彼らは自分達も関わっていると微塵も知る由はない。

 

 近いうちに誰からの記憶からも忘れ去られ痕跡すら喪われるだろう。

 世の中、無常だった。

 

 

 

 

 

 そして時間は刻々と過ぎ。彼らの近くに歩み寄る一人の人影があった。

「ねえねえ」

 白い紋章ローブ装束、二房に分かれる特徴的なファンシー帽子、十字に加工された樫の杖。

 明るいな笑顔とピンクの掛った短髪が特徴的な、おそらく術師のだろう女が彼らに声をかけてきた。

「やっはー!こんにちわ!君たちが遺跡調査の合同の人たちかな☆」

―――【理性蒸発】

 ちょっと、いやえらく強烈なキャラを引っ提げて。

 

「―――え、ぇ、はい。多分?そうかな」

「そっか、やっぱり!ぼくは【ミストラル】!」

 

役割(ロール)呪文士(マジックユーザー)のC級冒険者だよ。今日は宜しくね!」

「あ、うん。はい」

 そのキャラに多少圧倒されつつ、手を引っ張られ強制的に握手を交わす。

 呪文士―――つまり【魔術師】の事だろう。マナとオドを術式を持ってを形を与え利用する者。

 魔術の知識を治める者の証明。魔法の発動並びに術式の効率化、魔法器具への正しい運用を行える。

 専攻する魔術師はマナを利用した大破壊をもたらし、世界を縫う様に自身の理論を押し付けるという。

 この世界の基礎法則知識が必須である特殊技能だ。Cランクで所持してるのは貴重だと言える。

 

 ただ、快活を通り越してハピハピ☆なミストラルのキャラの圧力は相当なものがあった。

 カイトは少し脳を困惑させながら失礼がないように、体が動かす。

 

「……うわぁ、また強烈なのが来たわね」

 ぼそっと絡まれてる後ろでローズが呟く。全くその通りだと思う。

 だから助けて船頂戴。

 そしてしばらく為すがまま腕をぶんぶんされながら。

 

「いやー初めての合同依頼なんて緊張したけど、優しそうな人たちでよかった☆」

 一呼吸置かずに。

「遺跡なんてワクワクするよね!なんかお宝があるといいね☆」

「―――あ、うん。改めてよろしく。ぼくはカイト、C級の役割(ロール)レンジャー。それで…」

「はいはい。私はそっちの相棒のローズよ。同じくC級、役割(ロール)重剣士(ヘビーブレイド)。よろしく頼むわね」

「ローズちゃん?よっろしくー」

 脳が再起動、そういう人だと一度受け入れてしまえばなんて事はないのだ。

 そもそもこの世界は文化圏と人種の坩堝である。

 彼のコミュ能力は割と強かった。そもそも合わない人など根っからの悪人位である。

 

 

「おい。やかましいな。お前らが同行人か?オレァマーロー・ディスト。役割(ロール)は黒剣士……げぇ!?いつかの理性蒸発女!?」

「お、マロッちじゃーん、おひさー☆」

 何処かで見た男がこちらに近づき、何か嫌なモノを見つけたか。

 ずざざざと下がっていく。

 

「おー、相変わらずっごつ鎧ぃしてるねー。いいなぁ欲しいなー」

「てめぇ!金でどうにかなると思いやがって!この【黒蜘蛛の鎧】は産廃だって言ってんだろうが!!」

「なんだよー、諦めたじゃんかー。いいんだよボクは使わないし。商品(レアアイテム)を集めたいだけ」

 何らかの知り合いだったらしく、喧々と言い合いを始める同行者予定の二人。

 

 面倒そうなので 割り込む事にした。

 

「あの、落ち着いて。お二人が遺跡への同行者なんですよね」

「ん、おぅそうだ」

「そだよー。お、お?」

 白衣と鎧。二人が眼をこちらに移し、喧嘩?が止まる。 

 

「ん、あ!そういえばてめぇはあん時のガキか、ふん。なんでこっちで活動してやがる」

「そっちこそ、都会のBランクが【ラインセドナ】で会うなんてビックリしたよ」

 冒険者として仮に都会で活躍できる実力があるなら、そちらで活躍した方が実入りもいい。

 何より割と良くある災害に対しては安全だ。

 大襲撃や災害などでも【ヴァ―ミリオン】程の都市ならば全力で護られ、撃退する十分な戦力がある。

「うるせぇ、一か所に留まれないんだよ俺ァ。産廃のせいで大体変な噂が立つからなクソが」

 そこの所は暈かす男、だが口の悪さは相変わらずであった。

 

 

 とにかく再度、役割(ロール)の確認とと自己紹介行う。

 拠り合いの冒険者パーティを組む場合。役割(ロール)というのは、できる事を主張するのに便利なものだ。

 聖錬以外だと通じない文化であり、更に詐称が通じてしまう問題点もあるが。

 要はその冒険者が主張する”セールスポイント”であると考えればいい。 

 『壊し屋』(クラッシャー)や、捻りなくそのまま『冒険者』などでも問題なく通じるものだ。

 

「ふん、まぁ理性蒸発女が居るのは付いてねぇが、まず仕事だ。きっかり終わらずぞ」

「ぶー、何さー。ボクが何したっいうのさ」

 不貞腐れるミストラルに、無視を決めるマーロー。

 

「ふん、この中じゃ俺がBでランクが一番上だが、オレは基本ソロだ向いてねぇガキのどっちかに主導(リーダ)を任せるわ」

【孤独者の流儀】

 

「ガキって言うな!ったく口悪いわねぇ。じゃあカイト。何時も通りリーダー頼んだわ。それで構わないでしょう?」

「うん、ボクも構わないよー」

「遺跡潜りにレンジャーが一番適任か。じゃあ目的地に向かいましょう。地図と磁針通りに先導します」

【レンジャー:野狩人】

 パーティの役割(ロール)が確認できたら、最低限の準備ができたと言っていい。

 時間は有限である。夜の時間は人間の敵である為に、できるだけ早く取りかからなければならないのだ。

 

 

 

 

●●●

 

 

 

 

―――【遺跡:仄暗い水の底】

 平原にぽつりと開いた人工物の大口。

 時代推定600年前、【迷宮時代】頃に作られたと推測されている、地下に拡がる迷宮の一種だ。

 迷宮時代とは能力的も技術的にも先行していた魔族が、遊戯として粋を凝らした迷宮を作りだし。

 人類を招き入れ、僅かな希望の対価に縊り殺す事で家畜のように搾取していた黒燈時代。

 そしてそのダンジョンの粋自体を、突飛な天才の発想から利益として捉えられ、人類種の強欲の逆襲。

 迷宮の床とか罠とか施設とか部品とか、何から何まで丸裸に持っていかれ。解体、解剖、蹂躙の嵐。

 そして人類が再利用(リサイクル)&回収分析(リバースエンジニア)

 「ダンジョンが」狩り尽くされ、終焉した時代のことを言う。

 

 その本来の機能的に、モンスターを呼びこみ易く作られており。

 今は破壊されているが、その”モンスター収集装置”まである遺跡もあった。

 故にモンスターが溜まりやすくなっているのだ。

 

 その入り口をうろうろする3体の狼型モンスター。

【野狩人:属性検知】

 カイトはそれを眺めながら、簡易的な属性検知機の結果を待っていた。

 

「属性値問題なし見渡す限り追加もなし、よろしく!」

「りょーかい、いくぞー!”放たれよ・勅枝の光”…」

【魔術師:詠唱】【森眼】

 声を受け呪文の詠唱を始めるミストラル。二小節の低級魔術だ。

 詠唱破棄はできない。そんな事が平然と要求されるのは【王国】の冒険者位である。

 ただ、ハーフとは言えエルフの血が混ざった彼女は眼が良い。

 それを活かす為の少しだけ工夫した、射程を延ばす術式を所持している。

 

「―――光の矢(レイザス)!!」

 ミストラルの杖から光の矢が、遺跡の入り口へと投擲された。

 直進しかできない単純な魔法だが、それ故に見えていれば大体当たると彼女は自負をしている。

 その軌跡はその自負の通りに、ただうろうろしてた狼に直撃、腑を焼き内臓をぶちまけた。

 

「へへーん。どう、凄いでしょ!」

「そうね、いいじゃん。派手ねぇ、魔術師って言うのは!」

 ミストラルが成果にドやっと自慢し、ローズがそれに乗る。

 聖錬の一般的な冒険者として、呪文士として十分な強みがあると言える特性だった。

 同じ魔術師でも、狙撃が可能なCランクは珍しいのだ。

 

―――ワオ!アオオオォオオオン!!

 突然の奇襲に反応した狼が一目散にこちらに向かってくる。

 その脚力は驚異的であり、あっという間にこちらとの距離を詰めてしまうだろう。

「フン」

「さーてー、あたしもいい所みせちゃおっかなー!」

 それに対処する為にローズとマーローの前衛組が壁になり迎撃する。

 カイトは呪文士の護衛兼、万一の時の護衛だ。

 警戒し、不利を悟ったらそちらに煙玉を投げつける手筈になっている。

 

「―――シャアァ!」

【錬気法】【剛剣技】

 ローズが機動力のある相手の定石通りに、狼のヒット&ウェイに付きあわず。

 どっしり構え狼脚を狙って小振りを連打、じわじわ弱らす中。

 

 

「邪魔だ畜生風情が!」

―――【暗黒剣】【重装】【ソードマスタリー】

 狼の牙の勢い元ともせず、剣が暗黒の光を帯び狼を斬り裂き。その血肉ごと削る。

 暗黒剣の初歩、生命力の強奪だ。普通なら気が狂う程の快楽を啜る禁忌の業であるが。

 【黒蜘蛛の鎧】はその生命力を暗黒の霧に変換し、還元量を緩やかにする事でその弊害を軽くする。

 よって彼が味わうのは、鎧によって咀嚼されたゲロを喰らう様な感覚でしかない。

「止めだ!」

 一振りで血を奪い狼は立ち行かなくなる、これは血を一気に奪われた事による貧血だ。

 そして二振り目で簡単に止めを刺す。

 本来なら正規の暗黒剣という技術は、血の滲むような修練により快楽麻痺と精神力によって振るわれる。

 それを曲がりなりにも短縮するこの魔具は、破格のものであると言えるだろう。

 

 だが。

【暗黒瘴気】

 狼を両断する際に暗黒瘴気が吹きだし彼の身体を覆う。

 そして男を中心に悍ましい違和感が放たれた。

 それは生命力を腐らせた匂い、腐肉のように生物が本能的に避ける様に遺伝子に組み込まれたモノ。

 

「ッチ…」

 マーロ・ディストを苦しめてきたものに思わず舌打ちが出る。

 今回のPTはどんな目を俺に向けるか、どういう反応で避けるか、一人である事は慣れている。

 今回は持ち合わせが無くソロ流儀を曲げて、とにかく依頼を受けようとしたのだ。

 だが、最悪でも一回受注してしまえば関係ない。一人でも依頼を―――

 

「おーい、カイト!こいつらは剥ぎ取る?」

「牙だけ宜しく、川と肉は時間ないから諦めて。分担してやろう。あの…、解体できます?」

「まっかせろー。主婦の力でちょちょいのちょいなのだ」

「えっ、アンタ結婚してたの!?」

「そだよー」

 だが、目を向けてみれば黒い瘴気の事など知らんとばかりに。

 倒されたモンスターの剥ぎ取りを、手際良く終わらせようとしていた。

 

「……できらぁよ。けどよ、俺に何も言う事ねぇのか」

 釈然としなかった。疑問つい言葉に付いて出る。

 らしくない事だと、自分で思った。

 

「えっと、一度見て知れば慣れます。そういうものだと」

「あたしはカイトから事前に聞いてたからねー。あの話はやっぱアンタだったのか」

「そんな事よりやっぱすごい鎧だね。いいなー」

 理性蒸発女は知ってた。以前遭遇したこんな感じで【黒蜘蛛の鎧】ばかりを見ていたモノ狂いだ。

 だがこの二人の反応は解せなかった。

 

「まぁこの間、いきなり森から肉がせり上がってきて化物(デーモン)出来上がる所も見たからね、そん位余裕じゃん?」

「ううん、僕は最初強盗(グールズ)か何かと思っちゃったけどね」

 剥ぎ取り作業しながら、何でもないように言う。

 何処かでショッキングな体験を見てきて、多少耐性が付いたらしい。

 

「っけ、俺はそのグロ肉と同列かよ」

【孤独者の流儀】

 居心地の悪さから悪態を付き、自身が仕留めた解体を行う。

 元より一人で活動していたマーローは、冒険者の基本的な事は初歩は習得している。

 こんな程度に人酔いする程には彼は人間不信だった。

 

 

 

 ●●●

 

 

 

「おわったわよー」

「じゃあ遺跡に入りましょうか、ミストラルさん精査お願い」

「はいはーい」

【野狩人】・【妖精術:妖精の垂糸】

 属性値をチェックし、ミストラルが事前に作っていた、祈りを編んだ妖精紙飛行機を投げ込む。

 自称レアハンターを目指してると公言する彼女は、事前にロマンであるダンジョン探索で有効な術を、妄想ワクワクと作っていたのだ。

 ただし、実践するのは初めてであったりする。

 

「あれ、あれ。結構難しい。えい。あ、叩き落された」

 結果、うまくいかなかった。

 この術は下位妖精で、最低限落ちない様にと空気を滑らし簡単な反応をフィールドバックする術だ。

 熱意によって何とか編んだが、彼女の【妖精術1/5】程度では知識と練度が足りないのだ。

 

「とりあえず敵がいるってわかっただけでも御の字かな。潜ろうか、まだ調査が足らない」

「あいよー」

「初めてのダンジョンアタックだねー。楽しみだよー」

 マーロー・ディストが無言で先頭に立ち進む。

 実全身鎧の彼が突出して頑丈であり、不足の事態に備えるのには有効であるが、先導は勿論危険も大きい。

 

(やっぱ、悪い人じゃないよなぁ)

 改めてそう思う。

 冒険者の中には経歴とランクを笠に着て、新人や下位の者を肉盾として利用する者もいるのだ。

 仮に即死トラップが発動すれば、自身が掛からなかった事に安堵し笑うのだ。

 それに比べたら失礼な位だと思う。黒い霧の違和感・威圧なんて些細な問題である。

 

 

 

―――遺跡の内部

 遺跡の内部は地下だからかじめじめとした雰囲気である。

 所々に埋め込まれている光る石が、光源を確保して機能を成している。

 大凡七百年の時間の波を耐え抜く、その技術の息吹に神秘を一部に感じさせるだろう。

 蒼く黴が目立つレンガ造り、4メートルほど一本作りの浮き出た道で構成され傍には水が溜まっており、

 更に所々に装飾か、突き出た謎の棘が見受けられた。

 

(脚を滑らしたらただでは済まないね…)

 その想像に身体が震える。万一に備え、愛用のポーチからロープを手前に持ってきておく。

 

「んー、聞いてた話だと完全に機能停止してて、罠もないらしいけどほんっと不気味ねぇ」

「そかなー。遺跡だよ、ワクワクしない?」

 灯りは十分だが、一応、松明片手に警戒しながら先へと進む。

 遺跡の内容はギルドで軽く文章で教えられていたが、それでも実際見るとまた違う威圧があった。

 調査済みである為に、渡されたチェックリストの紙には。

 調査で遺跡の確認された部屋が、文字だけで記載されている。

 これに該当する場所に刻まれている印を元にチェックを入れ、調査依頼の評価ポイントとする。

 それが今回の依頼だ。不正は調査ポイントに意図的に刻まれた紋様を、チェックに用いられる事で予防されている。

 

「んー結構結構、順調ね」

「ぶー、何もないから詰まんなーい」

 調査は順調に進むんでいく、物々しいが何もない部屋が続くだけだった。

 遺跡の状態も、寂れ埃に塗れてる以外は健在である。破壊された様子はない。

 その様子に不満そうな溜息をもらすミストラル、それは冒険者からずれてる感性をしているだろう。

 おそらく副業冒険者だろうか、趣味で冒険者をしている変人もまたいるのだ。

 

 

 

 そして暫く歩く、そう何もないように思えるが…。

「クソ能天気な連中め、おかしいと思え流石に”なにも居なさすぎる”」

 先を行くマーローが剣を握り、警戒の意思を示していた。

(確かにおかしい。生き物が居なさすぎる)

 こんな場所の定番である、ネズミや蝙蝠すら見てはいない。

 基本この世界の生態系は節操がない。

 食糧がなくともマナの分解者(アメーバやらスライムやら菌やら岩石)の化物やらが湧く、そして節操なしな殺意で人類を襲うのだ。

 

 

「ちょっと待って、属性値を調べる。そこの床の埃をちょっと削って…」

「―――ッチィ!」

【迎撃態勢:孤独(ソロ)

 マーロ―の剣が奔る。四散して降りかかる何かを払い喰らった。

 一人で全てを完結しようとした意地っ張りな精神と行動からの独自の気の持ち様、精神性。

 そこから培われた警戒態勢が、不意の奇襲を迎撃した。

 

「んな敵ィ!?どっから出たのよもう!」

「やっば、撃って後ろに下がるよー”光よ・咲けよ”―――『レイ』!」

【ウェポンガード】・【魔術師:一章】

 ローズが大剣で身を隠すように斜めに構え、前衛に踊りだし。

 ミストラルは軽い詠唱で杖より光の弾丸を投擲し、前方を攻撃しながら照らす。

 

―――そこに見えたのは…。

「あれはスライム…?いやコアが無いし、あんな機敏なのは見た事ない」

 濁色をした水の塊、”分解者”であるスライムに見える何かだった。

 いつの間にか周囲の水から、湧き出る様に現れたそれに彼等は阻まれていた。

 

 

「邪魔だ雑魚が!」

「あ、ちょ。まだ不用意に前に出ないで!」

【暗黒剣】

 そしてマーロは返す刀にその存在に斬りかかる。暗黒剣は生物にとって特攻とも言える技能だ。

 だが、”斬れていない”。透かされた様に剣が通り過ぎる。

「!、味な真似してくれんじゃねぇか」

 彼に他人を頼るという発想はない。再度剣を構え直し連撃の体制に入るが…。

 

 だが。

―――ぎゅるるるるるん。

「なっ」

【膨張拡大:捕食】【水衝波】

 ”スライムもどき”は急にその身体を拡大し、敵対者(マーロー)を質量で嬲り殺そうと迫る。

 彼等は知らないが、この水は濁っている通り普通の水ではない、人体に有害なものだ。

 そしてその距離は近すぎた、まともに喰らえば怪我は免れず、最悪流されて水にドボン。

 相手のテリトリーで、更に水の中で鎧を着ていれば溺れ、デッドエンドの可能性すらある。

 

「―――ローズ!」

「あいよ!粗く行くわよ!」

 お互い相棒の一声で察し、。二人が駆ける。

 このパーティには実質前衛が三人いる。全力で駆け出しお互いの愛剣を全力の体制で構える。

 短距離の脚は彼の方が速い(ファストアクション)。だが彼女の装備【俊敏鋭爪】(ダッシュブーツ)のおかげで足並みは揃い…。

 

「「ぶっ飛べ(オラァ)!!」」

 【剛剣技】【打ち返し】・【二刀流】【舞武】

 重なり合う斬撃。

 一閃の剛剣と双剣の軸回転剣撫のタイミングが重なり、”スライムモドキ”は掘水に叩き返された。

 特にローズの剛剣は投影竜のブレスに打ち勝つのだ。多少の離散質量なら吹っ飛ばす。

「ッチ、クソ…。」

 マーローにも危機という自覚はあったか。静かに悪態をつく。

―――ギュル?

 だがスライムモドキは堪えた様子もなくうじゅるうじゅると再浮上してきた。

 単純な物理には耐性があるらしい。

 

「ミストラルさん、時間稼ぎを!」

「りょーかい―――””燃えよ”+弾けて””落ちろ”炎殺球(バグドーン)!」

 炸裂する炎弾。

 すかさずミストラルが詠唱付きの二章魔法で追撃を行うが、余り堪えた様子はない。

 その間に斬り付け四散した水片を属性検知機に通し、分析を待った。

 

 

 そして、その結果は。

「水属性が極端に高過ぎる、これ”精霊”か!」

【レンジャー:属性検知】

 不自然に高い水属性値を叩きだす。

 精霊とは統一性のあるマナが集まり核となる情報を取り込む事で、形を成した生命体。

 その対応した属性に対する大きなと適性を持つ、生きた自然そのものとも言える存在だ。

 風に吹かれれば消えてしまう儚いモノも含めれば、この世界では珍しくない自然現象であるが。

 この規模のモノとなると始めて見る。推定大精霊に成りかけのもの。

 

 そしてその声に反応してか、その姿形がスライムから物々しいモノへと変わる。

―――【擬態解除】

―――ギュル?ギュルルルルr

【精霊:水源たるモノ】【水刃鞭】

 そしてそのデカブツは周囲を水を束ねた鞭で薙ぎ払う。

 前衛はそれぞれ重心移動で掠りながら潜りかわし、剣で付き刺し高跳びし、暗黒剣で断り対処する。

 

 

「正体を当てた途端に変身!?まさか、コイツ知性まであるのか」

「まっじか。もー!冗談じゃないってーの!」

 その姿は水で形造られたクラゲの様な姿をだった。

 足場が限られる中の立ち回りは非常に不味い。

 鞭一つ一つの水量は先程ないが、それでも水堀に落されれば危険である。

 

(……どうする、撤退は)

 暫定とはいえパーティのリーダーとして頭を回す。アレは掘りに貯められた水を手足のように操っている。

 隅々まで水の掘りが巡らされてるこの遺跡で、仮に撤退しても無事逃げ切れるのか?

 殿を置けば別だろうが、そんな手段取りえるはずもない。

(ああくそ、わからない!)

 とにかく目の前の事に対処する事に精一杯で。こんなのが出てくるのは”想定外だ”。

 経験が足りない。脅威がわからない、こちらの戦力値も正確には評価できない。

 

 

「マーローさん、どうします!?」

「……さぁな。俺一人なら逃げんのは簡単だがよ。それ以上は保証できねぇぜ」

 それが答えだった。”マーロー・ディアト”単独ではこれを斃せない。

 彼は身に付けた魔具を除けば、平均的な戦闘特化のBランク冒険者である。

 というより、聖錬という人類の安定帯では、Bランク最精鋭であるカルデニアがおかしいだけで、普通のBランクは、大物モンスターに大立ち回りできるものではない。

 彼は魔具の力で底上げされているが、一人で活動する事が重りに、技能はまだ洗練されていなかった。

 この世界で一人でできる事、想像の範囲など限られるのだから。

 知識や技術や流派と同じ、交わらねば廃するのがこの世界である。

 

「ただ一つ分かった事が有んだけどよ。あの触手が【暗黒剣】で斬れるって事は、コイツの触手は生命力で手繰ってやがる。俺なら断てるぞ」

「ならやりましょう。今から逃げても誰かが欠けます。”勝つ為に”ここでアイツを斃します」

 そもそも有効打の見込みがないなら、撤退も選択肢だったが。

 その言葉で交戦を決めた。ここは相手のフィールドだ。撤退には誰か”欠ける”推測が補強される。

 喪なうのは負けに等しい。ならば正面から挑んで、アレを打破するしかない。

 幸いアレ以上の化け物(デーモン)というのは、既に体験済みだった。

 

 

「僕がメインに行きます、ミストラルさんはできる限りアレの質量散らして、ローズはサポートお願い。マナ散らすには、単純物理より魔法剣の方が効く」

「い、いよっし、やるぞー。……ホントに勝てるんだよね?」

「仕方ないわ、やるしかないっしょ。無茶すんじゃないわよ」

 魔術の事は良くわからない。が、彼女の先の狙撃を見るに撒き込みはしないだろうと判断。

 マーロー・ディアスは勝手に動くだろう。そのを事を行動で示していた。

 なら、こちらが合わせればいい。触手の鞭の斬り払って魔法に属する物で分割し希釈する。

 それが一般的な精霊への対処法である。

 

【魔法剣:雷】

 集中、呼吸を束ねる。走る稲妻、術式を思い浮かべ電撃を維持する。

 ”相鉄の双剣”に武器を切り替えては多少時間がかかるが、そのオド性質を表に出す事が容易になっていた。

 

「……フン、斬るか」

【孤独者の流儀】

 悪態も少なく、マーローは言葉少なく剣を構え、鎧を活性化させつつ対応する。

 ”一人の時と変らぬ様に”先頭に躍り出る。きしくもそれはカイトが彼に期待した動きと同じ。

 利用されるのもするのも面倒だ。だから、ただ前に出て斬ると彼は決めていた。

 

―――ギュルグル

【精霊:水源たるモノ】【水刃鞭】【多重制御】

 質量をさらに増大させ、クラゲの化け物は猛威を振るう。

 それを合図にそれぞれ動き出すのだった。

 

 

 

 

 


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