ポンコツ世界異聞=【終幕を切り刻む者達《ハッカーズ》】   作:きちきちきち

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傍話【麒麟闘舞】

【聖錬南部:騒乱の聖錬町】

 

 熱に塗れた騒がしい風が吹く。血の匂いが漂う。

【モンスター使役】

 襲撃があった。

 火に建物は焼かれて操られたモンスター共が跋扈し、住民は最後の砦に一番堅牢であろう調律器(ハーモナイザ)の設置されたその街の『ギルドハウス』に。

 生き延びた街の住人が土嚢等の資材を積み立てて、籠城の構えを取っていた。

 

「くっそ、なんでこんなことに!」

「いつも通りに何てことない日だったのに、ここに集まった自警団はこれだけか」

「ねぇ、私の子供は……どこ、どこなの!?」

 それは本当に突然の事だった。

【巡礼使(マローダー)】【神聖剣技Lv2】【人機接合:オド動力機関】

 突然に砦に放たれた【聖剣技】に分類されると思わしき一閃、それに続くモンスターの散発的な襲撃。

 誰もがこんな事になるとは予測しなかった、そしてできはしなかっただろう。

 本来、この街に襲われる様な理由も、その価値すらないのだから。

 "人狩り"(マンハント)これは人が生きている、”背教者”であるというだけの無差別なテロである。

 

 既に初期対応に動いた"自警団"や"冒険者"の面々は、食い殺されるか、逃げ出している。

 文字通りの壊滅である。

 

 そもそも、この街の"自警団"は専念する者は少なく、街に定職を持つ人間が、組み合った自発的組織である。

 つまりは片手間であり、主な活動がこの街の人間同士の治安組織であり、モンスターに対する経験は多くない。

 ただ弱かった、故に呆気なく噛み殺された。この世界ではよくある話である。

 

 例えば王国の武貴の出倣者などの"例外"(イレギュラー)など、この場にはいなかった。

 

 

『―――ガガ、ギシャアアアア』

「ひぃっ?!」

 周囲に建物の影に、モンスターがうろついている。

「まだ街に妻とペットがいるんだ。金は払う誰か探しに行ってくれ!」

 堅牢な有牙種、鳥獣型のモンスター、不気味な浮遊生物などその種別も様々に。

 これらは誘引されたモンスターである、"人類種を害せよ"という根付いた本能により、人類の安息地で我が物顔で暴れまわっている。

 

「おい、この緊急事態だ抱えてる『上級魔具』をよこしやがれ業突く張り!少しでもましだろう、それでモンスター共と戦ってやる」

「冒険者風情が信用出来るか!わしの財産奪って自分だけ逃げる気じゃろうて!?」

「なんだとゴラァ!!俺等だって命かけるんだぞ!!」

 避難してきた住民の中での喧々諤々が巻き起こる。

 日常は喪われ生と死に挟まれ混乱の中にいる、それに取り乱して纏まらない。

 

 無理もない。

 その要因の一つに幸運に恵まれたとはいえ度重なる四年ごとの『大襲撃』(スタンピード)に、この辺境街を維持していた砦の崩壊があった。

 

「そんな、折角皆で長い間足していった門なのに、あんなにあっさり破られて……」

【自警団:辺境有志】【未実の刃】

 この辺境街の"自警団"に所属していた青年が体を震わせて蹲り、力なく呆然とした声がする。

 ああ、青年は砦の崩壊をその眼にしていた。戦意を喪失している。その身に宿っていた"小さな勇気"は、すっかりしぼんでしまっている。

 これは、辺境街に暮らす人間にとっては、象徴として少なくとも共通するものがある事だ。

 

 そもそも種別によるが『聖錬』において、中型モンスターと単独に対等に戦えるものは多くない。

 雑多な『魔具』で強化されたとて純人種は貧弱である。

 大概が、有利地形で囲んで棒で叩いて殺すのが精々だろう。

 上澄みが強烈な異彩を放っている為、誤解しそうになるが、バケモノに正面から挑める者は多くはないのだから。

 

 例えにすれば上澄みの修羅と比較せずとも。

 冒険者としてのカイト等は"戦闘特化"と呼ばれる中でも、ある種の生き急ぎ過ぎたランク詐欺といえる練度に至っている。

 道標となる先達も、環境による知識の素養も恵まれないが、既にそれほどの鍛錬と修羅場を踏破しているのだから。

 

「お、落ち着け!静かにしろ!さ、騒いだって何にもならない!!」

【精霊術:リプレイ】【政治知識Lv1】【責務を継ぐ者】

 騒乱に死の恐怖に巻かれる中、若い男の震える精霊術による増幅声での一喝が響く。

 

 視線が集まる。緊迫に喉が締め上がるのを堪えながら。

 

「あーくそ、なんで俺が街長の時にこんなことが起きるか、親父から継いで間もないのにさぁ!」

【高等教育】【プライド】

 もはや投げやりさも混じって頭を搔いて悪態を突いた。

 彼は、一応にこの『辺境街:ホビン』の代表に収まっている男である。

 

 ああ、彼とて怖い、死にたくない。

 しかしとて、己はこの場で一番偉い地位にいるのだ。ならばするべきことが有ると己を鼓舞する。

 

「じ、実際どうするよ、カランドの爺さん。どう動くのが正しい」

「さてねぇ」

【辺境のギルド長】【好好爺】【熟達する経験】

 しかし、青年が正しい判断を下すには経験も度胸も足りない。

 故に、幼い頃からこの街に根づいている。己が知る一番頼りになる人間に震える声で、訪ねた。

 

「撃退は既に無理だろ。砦崩しに機械めいたの人型が見えた、おそらく『預験帝』のテロつまりは『巡礼使(マローダー)』がいるぞい」

「あの噂に聞くどうしようもない糞共か、……畜生が!」

 あぁ、それはどうしようもない話である。

 『巡礼使』(マローダー)とは五大国の一つ『預験帝』がばら撒く工作員、"公共の敵"(パブリックエネミー)である。

 この時代の水準を幾つも越えて熟成されている暗黒地帯、雑に価値はないと放逐された失敗作でも。

 隔絶した技術に歪に強化された性能は少なくとも、"一般的な戦闘特化のAランクの水準にある"が妥当だと言われる。

 

 その事実を隠さずとも大した事が無い様に、この爺は笑い飛ばしながら話す。

【法螺吹き】【老成の不動心】

「はっはは、勘が良い奴は真っ先に逃げているなぁ、Bランクの奴も幾らかいるが、モンスターと戦える"戦闘特化”の連中も多くないねえ、ましてはこの混戦だろ」

「じゃあ、尻尾逃げるしかない訳だ。くっそ音頭取る奴がいねぇと纏まんねえだろうな…」

【高等教育】【責務を継ぐ者】

 苦々しい顔をしながら、決意を決め。群衆の前に踊りでる。

 青年は経験は足らずとも頭の回転は速い。そして何より"棄てる"事を決断できる人間である。

 

「聞いてくれ!この町はもう持たねぇ、幸い大襲撃中でもない、まだ完全には囲まれていないうちに脱出するんだ、それしか生き残る道はない!」

 そう、逃げ出したとて絶望は大きな崖としてそこに在る。

 大声で叫ぶ。

 

「無茶だ、モンスターの中を突っ切れというのかよ、この青二才が!」

「そうだ籠城して国の救援を待った方がいい……」

 その通りだ多くが死ぬだろう、外の獣にここにいるほとんどが食い殺されるだろう。

 しかし、それ以外に何かが残るという選択肢はない。モンスターが腹が満たされればその分は生き残る、かもしれない。

 

「無理だ砦もないこんな所数時間だって持たない。ここでただ待つだけじゃ死ぬだけなんだ!!だから……」

 この世界の人間は逞しい。病で襲撃で故郷が亡んだ等、そう珍しい事ではない。

 そもそもが、この世界の辺境集落は平均して、たかが"一世代程度"で滅びるものである。

 

「昔話に聞くだろう爺さんの爺さん世代がやった事だ。俺らの祖先がやった事だ、だから!俺らにできない事はないんだ!!」

【先導者の素質】【政治知識Lv1】【集団指揮:鼓舞】

 彼等の祖先はそう流れ着いて、ここに居を里を作りそして、小さいまでも町と呼ばれるまでに人の往来が積み重なった。その血が流れている。

 そう嘯いて少しばかりの自尊心と希望を煽る。先導者の資質を発揮する。

 

「はは、あの若造が言うようになったのぅ」

 その言葉に揺れる場を。

 その様子を見て『ギルドマスター』の爺は笑った。

 

「さて昔取った杵柄よ。ワシが少しの間足止めするが、余り長く持つと思うなよい」

【我流剣技:ソードマスタリー・魔法剣士】【鑑定眼(贋)】【熟達する経験】

 くたびれた剣に、埃被った魔具を取り出して、その意見を後押しする。

 音頭を取れる人間が二人とも同調した事で、その場の空気が牽引される方へと傾くのだった。

 

 爺と親しまれる男が、その姿は言葉は頼もしく見えるだろう。

【法螺吹き】【老いた身体】

 実際の所は張りぼてもいい所であるのだが……。

 

「爺。一人じゃ者の数にもならねぇよ、俺も出るわ。財産を手放さなかった業突く張りから、持ってても糞の役立たねぇ魔具も奪ってやったしな」

『B級魔具:氷魔太刀』【Bランク冒険者】

 それに少しばかりの冒険者が、手を挙げる。

 あぁ、それはモノ好き連中だ。爺と親しまれた彼の人徳もあるが。

 せっかく死ぬならと憧れの魔具を手にした大義名分のまま、英雄のような夢に酔ったまま死にたいと、静観の中にも少し燻る炎に支えて、死の前に歩む。

 

「もの好きだねぇあんた等も。くはは、良いよギルドマスター権限で徴収を許す。初めての権力の乱用よ!」

 

「………頼んだ、爺さん達」

「おうよ、気にするなよぅ、少しお迎えが早くなっただけよ」

【先導者の資質】【爺の黨訓】

 青年は目を伏せて、幼い頃から親しんだものを切り捨てる。

 目的の前に、捨てる事の出来る強さである。決断できないものは餌として置いていくことに決めて。

 

ドォン!!

 扉が衝撃に軋む、モンスター共にここが見つかったか。

 いよいよに時間が無くなってきた。

 

「おうよ、さあて」

 

「―――ついて来る奴はついてこい、剣を持てる奴は持って、走れええええええええええええ!!」

 そして、タイミングを合わせて、脱出する。

 

 

 そして。

 

 

―――その決死の結果は……。

 

 

 

「そりゃ…そうだねぇ……鈍ってるねぇどうにも」

【我流剣技】【老いた肉体】

 片腕を喪い、片脚折ってを喪って蹲る、既に満身創痍の風体である爺と呼ばれた男がいた。

 時間にして十数分、それだけしかの彼等の決死には価値はなかったのである。

 

 

 最初は良かった、バリケードを突き破った獣牙種のモンスターに、魔具刀の高出力に波濤させ。

【ソードマスタリー】【魔法剣】【熟達する経験】

 怯んだ、その獣の首を斬り折った。

 しかし、その轟音にその血の匂いにモンスターは反応した。

 

 次々とバリケードの隙間から現れるモンスターの群れ。

 人類の得手である数の利はここにはなく、志願した冒険者達も一つのミスに歯抜けする様に食い殺されていく。

 

【B級冒険者】【魔具習熟:不足】

 実際の所、『魔具』の性能は、使い手の技量に担保される、上級魔具を担いだとてどれほどましだったかはわからない。

(まぁ、仕方ないさねぇ…)

【鑑定眼(贋)】

 気持ちはよく分かる。

 それでも憧れの英雄の如く"夢に酔いたかった"のだから、仕方がない事だった。

 

 背後から悲鳴が響くのを聞いて、逃げた連中が既にモンスターに襲われた事は知っている。

 しかし、そんな事を気にかけている余裕はなかった。

 必死に、埃被って錆びついた身体を動かして、獣の腕を噛み千切られながらも脳髄を突き刺して相打ちに持ち込んだ。

 

 

「さて……何人生き残れたかねぇ…」

 身体はすでに動かない、意識は朦朧となっていく。

 少なくとも自身等の肉の血の匂いが獣を誘引しているが、やはり生き残れても数人が精々だろう。

 

「いやじゃなぁ、剣が無くては自害も出来しない」

【辺境のギルド長】

 本音が零れる、生きたままに貪られるのは流石に嫌であった。

 結局の所、この爺と親しまれた男はそこまで大それた人間ではない。

 若い頃に、吟遊詩人が運ぶ"英雄禄"、成功への情熱に急かされて飛び出した良くいるような青年の一人でしかなく。

 

【元Bランク冒険者】【法螺吹き】

 

 結局、夢破れて傷を抱えて、一人の有り触れた冒険者として分相応に生きようと故郷に戻ったのが彼だ。

 ただ生き残った事、それだけが己の誉れ。

 それなのに、故郷ではまるで"成功者"の様に振る舞っていた大法螺吹きが自分である。

 

【熟達する経験】

 死にそうなほどに痛い、眼を閉じる、己はよくやった目を閉じて全て諦めようとして。

 今までの経験から、意識がまだ抗えと、脈打って止まらない。

 

 

 そして、最後に目にする。

 

『ぴぴぴ……ががが、ピー、背教者を確認。刈り取れ、刈り取れ』

【巡礼士(マローダー):改造人間】【神聖剣技】【狂信者】

 機械と半融合した様な見た目をし、機械仕掛けめいた剣を構えた歪な人型兵器。

 "公共の敵対存在"(パブリックエネミー)、。放逐された失敗作が一体。

 

 その存在の名前は『巡礼士』(マローダー)、五大国の一つに数え上げられながら、暗黒地帯【預験帝】の工作員である。

 

 

「―――墜落せしものよ、追放を許そう、楽園へ追放を許そう」

【指揮官機】『魔導式デバイス:断罪の剣』【人機接合】

 これが今回の襲撃を起こした主犯である。

 一般的に外の世界では、聖剣技と呼ばれる御業を徹底的な改造によって特化した個体だ。

 マナ動力と、機械制御による『デバイス』と呼ばれる、一世代程先征く魔道具を携えた傍迷惑なモンスターと同意議のテロリストである。

 

「せめて、こいつに一太刀加えられれば、かっこよかったんだがなぁ」

【老練の矜持】

 未練を呟くも、体は動かない。

 朦朧とする意識だけが、それを捉えて、悔しさに歯痒く睨み付ける。

 

 そしてデバイスである機械仕掛けの刃が振るわれる。

 

 奇跡などおきず、何の感慨の無いままに、爺と呼ばれた男の頸は、簡単に落ちた。 

 

 

 

 

―――そして、なお時間が経過する。

 

 

 

 

「―――嗚呼、お喜びください。天上におわす我らが神よ―――」

 炎の中に、狂信の聖句を謳いあげる歪な機械式人型があった。

 燃え尽きる町、隠れているであろう異端者共を大概に殺し尽くしただろうとその存在は判断して、聖務に励んでいるのである。

 

【ツインソード】【麒麟健脚:超俊足・フリーラン】

「―――世界は浄化され、これでまた一つあるべき姿に近づき―――」

 しかし、その聖句の合間に蹴り入れられる煌めく二筋の刃があった。

 

「―――遅かった、か」

 絶望の中に降り立つのは幻獣の化身の如き戦乙女である。

 熱のこもらぬ声に、確かな殺意をもって振り抜かれた刃は、確かに一級の輝きを持っている。

 しかし、不意を打つために得意の雷霆を纏っていない。

 

「ガっ!?」

【人機接合:超頑強】

 故に十分な有効打になり得ずに、巡礼士(マローダー)は吹き飛ばされるに留まる。

 

『偽装改磁・麒麟』【エクスマキナ】【雷鳴剣士】【鉄面妃(目隠し)】

ガシャン

 絶望に降り立つのは流れる様な白髪に、尾の様な節尾が伸びる、美麗の少女である。

 白色のメタリックな四肢に地肌の輪郭が移る薄いスキンスーツ、雷で形作られたブレード翅の衣様が奔る戦衣装、額の角装飾が目立つだろう。

 その眼は包帯を巻いて、視線は閉ざされており、その感情は全く読み取れない。

 

【悪魔の義娘】

 彼女は、誤解を恐れず言えば改造人間である。

 奏護出身由来の医療技術(サイバネ)技術を収めた、『闘争都市:ルミナクロス』が最強である『賢竜皇』が第二世代のエクスマキナを素体に改造を施した"最高傑作"。

 

 つまりはこの『巡礼士』(マローダー)と呼ばれた存在の同類ともいえる。

 

「確認、"敵性存在"(エネミー)…、やっぱりこの雑な動きは『預験帝』のガラクタ共、か」

 彼女がここに間に合ったのは偶然ではない。

 噂を聞きつけて、放浪。そしてこの場にのぎりぎりに居合わせたのである。

 

「オノレ、異端者がああああ!我が聖務を、聖句を邪魔するとは何たる不届き者か!!」

 怒りの高周波を巻き散らしながら。

 しかしその並外れた出力を、センサーが拾い、アラームを鳴らす。

 

「ぴぴぴぴ、ピガー!背教者(ミュータント)確認、背教者(ミュータント)確認。排除せよ追放せよ、楽園へ……」

【巡礼士】(マローダー)【指揮官機】【ハイパーセンサー】

 それを濁ったモノアイは認識して、備えられた機能に僚機の集合の指令を放つ。

 しかし、その声に応えるものは何もいない。

 

「無駄よ、ガラクタの同輩は全部片づけた。モンスターの使役に特化したみたいだけど……」 

【阿頼耶識】【錬金知識】

 吐き捨てる様に宣言して、少女は雷が結晶化した如く剣を構えて、体幹を捩じる。

 内在するオドを励起させて、自身の舞を準備する。

 

「あとはなんの配慮もいらない、斬り棄てて終わり」

【魔法剣Lv3:コルデーロ・ラケミス】【雷の鳴らし手】【阿修羅姫】

 一刀を構えてそして弾ける様に、躍り出て刀を振われる。

 その動きに追随する様に、雷鳴は形を崩して舞に伴って搔き鳴り渡るのだ。

 

「愚かな異端者め、聖なる巡礼に首を垂れよ!」

【指揮官機:絶縁処理】【狂信者】

 それに対して、何の生物的な畏れも抱かずに迎撃の構えを取る。

 『巡礼士』に恐怖なんて機能は備わっていない。一応に指揮官機を想定されているそれには、絶縁処理が施されている。

 

【神聖剣技Lv2:クライムハザード】【スキルソフト:剣術】【人機接合:怪力・超頑強】

 その太刀筋は基本に外れない単純めいたものだが、それでも十分に脅威になり得る籾力だ。

 生命力に威力を担保した剣に、闘気の奔流が炸裂して振るわれる。

 これだけで、雑多な冒険者は死ぬものである。爆裂する剛剣を捌ける様な存在はそう多くないのだから。

 

「………」

【魔法剣Lv3:アラマ・ラミケス】【ツインソード】【麒麟舞い:三分の見切り】

 しかし、白角の少女は無感動に、ぎりぎりの距離にてこれを斬り流した。

 これは並外れた機械染みた状況把握による神業の如く見切り、肌一枚では近すぎる、五分では遠い、ギリギリに余裕をもって避け続けろ。精密な計算機の如き教訓である。

 

ヒュン、ガ!キン!!

 返す刃にその後も怒涛に斬り合う。

 手数で圧倒し一方的に、敵対者の機能を削り取る白角の少女。

 異形の人型も翻弄されながらも、ロジックにて組み上げられる剣技にて、背教者を壊そうと狂刃を振るう。

 

「追放せよ、背教者を楽園へ。救いを許そう!!」

【巡礼士(マローダー)】【スキルソフト:反動計算】【高速機動:リミッターカット】

 狂信に高らかに謳いあげながら、既に躯体の性能を限界を超えて剣尖を繰り出す。

 実の所、この指揮官機として据えられたこの『巡礼士』(マローダー)は、改造人間(エクスマキナ)、"悪魔の最高傑作"に数えられる彼女に比類するスペックを誇っている。

 なお、その耐久年数は考慮しないものとする。所詮は使い捨てであり、考慮されない性能である。

 

 異形の刃が通り過ぎる、彼女は目が覆い隠そうとも薄肌に感じる。

 

「……狂信者め、本当に度し難い」

【ツインソード】【雷の鳴らし手】

 闘士(ファイター)としての側面を持つ彼女は、得意分野はどちらかと言えば対人である。

 雷鳴に隠れた研ぎ澄まされたリズムと間隙を突きこんだ静かなる二刀、または一刀をもって捻じ込む霹靂一閃を体現する斬舞い。

 

【神聖剣技Lv2:不動無明剣】【超反応】【高速機動】

【コンバットセンス】【五駆制御】【麒麟健脚】

ズザッァぁぁぁ!

 瞬間的な燃焼、基礎寄り脱し爆発的な威力を発揮する魔法剣が炸裂する。

 流石に、これを薄氷に割けるとはいかず、尾をを撃ち合わせた反動に、四肢の制御を合わせて、跳ね上がり後方へと下がり、地を踏み滑り流れを持続させた。

 

 彼女が誇る戦舞、これは敵対者の心理的な駆け引き、そして技術の裏を経て完成する戦理である

 しかし、これはいかなる心理をもただ狂信にて塗り潰して、武芸というよりロジックで決まり決まった最良手を繰り出すこれとは相性は良くはない。

 指揮官機由来の絶縁加工により、彼女の雷鳴による機械特効(マシンキラー)も機能していなかった。

 

―――【霹靂・雷塵】(麒麟)―――

 その為、彼女の奥義たる必殺、流動的に組み上げた先の先への突き返し(カウンター)は放てない。

 他人を直視しない殻に引き籠り、世界に疑似感覚を満ちる彼女には。

 養父が体系技術を受け継いでいながら、完成させた意識の裏、反射の限界に潜る【虚空俊撃】の様な未開拓の至高には至らないのだから。

 

 故に現在、圧倒するのは彼女が積み上げた、ただの基礎(カラテ)である。

 

 そして、巻き上げられた土煙が晴れたその先に。

 

「―――限界が、見えたわね」

「ぴぴぴ、がががが」

【高速機動:反動】【人喰らいの鉦;生命力欠乏】

 躯体の過稼働に、動力の不充に、動きを鈍らせた異形の人型があった。 

 『巡礼士』(マローダー)、元々に半機械化したその躯体に生命力(プラーナ)を生み出す力はなく、残った数少ない肉の貯蔵庫(タンク)に収奪するだけのもの。

 収奪し続けられるならいい、しかし、その略奪が途切れればガス欠となる。

 

 そして、目的の達せられないと悟った狂信者が取る手段は一つ。

「ぴ、がが。稼働率低下……、背教者(ミュータント)に対して最後の、聖務を執行する……っ!」

【狂信者】【自爆装置】

 周囲のマナにまで感応して、臨界まで高まる熱源を彼女の感覚が拾う。

 

 廃棄物、実験物の為に仕様が共通しない『巡礼士』(マローダー)という存在であるが。

 この機密保持のための最後の手段は、共通したものである。

 

 それはもはや一般常識めいて、だからその対処も当然想定の内だ。

『偽装改磁・麒麟:テールバインダー』【五躯制御】

「本当に、くだらない」

 最後まで無感動に、無感情に、それを『マギスフィア』から展開した五肢目の強化パーツである鉄尾にて、投げ飛ばして空に捨てた。

 

「………」

【鉄面妃】

―――ズガァアアアンン!!

 そして虚空にて、炸裂する。

 圧倒的な勝利、それに反してその表情は無感動に微塵にも変化しない。

 

 

 熱が渦巻く、血の匂いが満ちている。

 

【嘆きの一角獣】【ラクリマハーツ:静観の無感動】

 白角の少女のその内面には、苦々しい想いが渦巻いていた。

 あぁ、間に合わなかったと心の中で歯痒む。

 彼女の力が真に圧倒的な物であったならば、正面からすべてを斬り捨てる選択肢もあったかもしれない。

 

 しかしとして、対人特化である彼女にとって、モンスターが織り交ざった襲撃は分が悪いのである。

 己は"英雄"ではないのだ、力業で全てを解決する事などできはしない。

 

 故に思考を回した。

 片っ端からモンスターを殺して回る?そんなのは効率が悪い。

 まず優先されるのは、この戦闘力だけは有り余り預験帝のガラクタ共を、決して絶対に他で同じことを起こさぬ様に根絶やしにする事である、と。

 可能性を見捨てて。

 真っ先に、手っ取り早くこの突発的な襲撃を終わらせる方法として、頭を削り潰して回っていた。

 

「結局、私が出来るのは後始末だけ、か」

【スターゲイザー】

 幾つもの無造作に転がる躯を、空中を巡る電磁波やマナの流れを認識感覚にて拾って感知する。

 ああきっと、ここに朽ちる全ての遺体はせめて一太刀をと、逃げる者達の盾にと殉じた"善き人"たちだったのだろう。

 老体と思わしき男の手は最後までその剣を手放さずに、固く結ばれて硬くなっている。

 

「………」

 無念の情が渦巻いている、苦しみの情が渦巻いている。

 その全てに白角の少女はそれから目を閉ざした。

 その眼を覆うバイザーは彼女の心の殻、直視するには、彼女の心は弱すぎる。

 救えないことを悔いる。それを他人は傲慢とでも言うだろう。

 

「―――それでも、確かに善き人達が、救われる世界であって欲しい」

【私は証明する】

 言い聞かせる様に呟く。

 しかし、白角の少女はかつて無邪気に夢見た理想に殉じるだろう。

 それが、彼女の願い、いや宿願と言っていい。

 

 白角の少女に世界の美しさを説いた、最愛の母親を"嘘つき"にしない唯一の方法で……。

 思い浮かべるのは自身がかつて、ほんの少しの間だけ供に歩いた、無垢で無邪気な少女の事。

 災害に芽胞した幼子、可能性を諦めて、小を捨て大を生かす為、無慈悲に斬り捨てた可愛い子の感覚である。

 それを拭うと信じて。

 

―――ヒュン。

 『マギスフィア』に、自身の追加パーツを格納して、その身を軽くする。

 緑色のドレスを身に纏って白亜の長髪、その中でも一筋の長い髪をたなびかせて、廃墟の中を歩く。

 

 炎の中に生き残りはいない。彼女の感覚はそれを鋭敏に把握して溜息を付きながら。

 

「……こっちに人の気配、逃げた人たちがいるのね」

【鉄面妃】【麒麟健脚:超俊足・フリーラン】【阿修羅姫】

 熱い風に熱気に頬をうたれながら、白角の少女はその場を駆け抜けるのだ。

 

 少女の宿願は敵わない。

 この世界はどこまでも残酷なのだから、しかし犠牲を重ねてもはや戻れぬ修羅の道に。

 それでも止まらない、彼女の生末は、まだ誰にもわからないのだった。

 

 

 




一応、供養のために想定してる爺の背景を。

・若い頃に吟遊詩人が運ぶ"英雄禄"に憧れて街を飛び出した有り触れた若者の一人。
・Bランク冒険者として『ヴァーミリオン』で一〇年間活動するが、常人以上の伸びはなく、日々に焦れる事になる。
・何だかんだ戦闘特化の冒険者をやって、生き残るだけの実力はあった模様。
・冒険者の仲間の引退に併せて。彼も引退。
・しかし割と現実的な思考を持ち合わせていた為、学を身に着けて故郷に帰る。
・見得から自身の成功や、冒険話を持って語る法螺吹きである事を彼は自覚している。
・ギルド職員に就職、ギルドマスターに出世したのは、ほぼ彼の人柄と経験によるもの。
・老いても時々に血が騒ぐこともあり、未練を感じていた頃に今回の襲撃があった。
・己のために戦い、己のために死んだが、刃を届かせられなかった事に悔いを残して死亡。


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