ポンコツ世界異聞=【終幕を切り刻む者達《ハッカーズ》】   作:きちきちきち

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予兆【ラインセドナ】

『ラインセドナ:郊外』

 寂れた調律器の範囲のギリギリにて。

 

「お邪魔します」

―――『月長石工房』

 

 

「ここも懐かしい感じ、お久しぶりです。"月長石"さん」

「……お前か、無事に戻って来たか、何よりだ」

 口短く終わる応対する不愛想な青年がいた。

 相変わらず不気味で怪しい暗殺者染みた風体である。

 現在、カイトは冒険者としての武具の新調の為に、ここに訪れていた。

 

「一体何の用だ。来たのならまずは作品をおいていけ、整備(検証)させてもらう」

「……相変わらずですね。じゃあこれを」

【偏屈者】【鑑識眼】【鉄心の如く】

 懐かしい相変わらずに苦笑しながら、慣れた手つきで『絆の双剣』腰ベルトの鞘から引き抜き、作業台へと置いた。

 『月長石』は、無言で手に取り工具を取り出して。

 その眼に自身の作品の、その後の経過の探求に移るのである。

 

「……ちゃんとゴルは払いますから、料金表位作ってください。時価って魚屋じゃないんですから」

「考えておく」

【貧乏店主】【偏屈者】

 再三、伝えて居る事をまた釘に刺した。

 探求心に傾いた時は仕事を遠ざける、気に入らない仕事は受けない。

 そんな職人肌の拘りが強すぎる"月長石"と呼ばれた男の、悪い癖の一つだった。

 

【鉄心の如く:反響測位】

 こんこんこんと、専用の小槌で小突く金属音が響く。

 

 予備の双剣として用いている『相鉄の双剣』であるが、特徴のない事が特徴の各一的な数打ちの剣である。

(癖が無くて扱いやすい良い剣、何だけどね)

 専用品でもなく、何処までも二級品でしかないそれは力不足が目立ってきた。

 ただの予備刀ではなくて、実際に使う術を見出した。

 疑似たる三刀を用いた三痕の牙、空・炎という空に繋がり燃え続ける彼の固有性質に力場に収束し弾けて刻み伐り通す【三爪炎痕】など、その前提になる為に出来るだけ目的の沿ったを揃えたかった。

 

 求めるのは、『高山都市』にて学び取った精霊による導き『シュートアロー』の応用、呪印(ウェーブ)を馴染ませるマナの伝導率の最低限の担保である。

 

 そう思い描いて、しかし相談していった先で。

「―――ダメだ、まず先にその破損したこの『絆の双刃』を鍛え直す」

「え……?」

【鍛冶師:一鉄錯誤】【鑑識眼】【鉄芯の如く】

 しかし開口、一言こう告げられた。

 鍛冶師の彼に言わせれば、自身の愛剣である『絆の双刃』その内部、二重構造に罅が入っていたそうである。

 表面的な顕れは、カイトが扱う炎の魔法剣に表層が炙られ、罅が溶けていた為にその発覚遅れたのである。

 

 説明を受けて、ショックを受ける。

「全然気が付かなかった…、保ってくれてよかった」

 静かに横たわる愛剣の柄を、撫で上げれば、いつも通り音叉の性質で響かせる様にそれに答えてくれる。

 当然と言えば当然だろう、短期間に酷使も酷使し続けた結果である。

 考えれば己が無理押した分、半身であるこれに無理をさせたのは通理だった。

 何度この剣で魔法剣をエンチャント(着火)したかはもはや数え切れず、自身の身体すら未だ反動に持っていかれる、奥義と呼べる螺旋潮流の刃もこれにて何度も奏で錬製したのだから。

 

 その指に労わる、過去への執着のような感情は確かに愛着へと変わっていた。

 

「折角打ち直すなら、さらに良い物とする。これは絶対だ」

【錬金知識Lv3】【探求者】【偏屈者】

 そう言って、鍛冶師に邁進する偏屈者の彼は、自身の空絵図を棚から引っ張り出して検討していく。

 

 『ダマスカス』を用いれば熱に弱い為、カイトの炎属性には見合わず。

 『アダマンタイト』を用いれば魔力の伝導率の関係で、『魔法剣』の形成の邪魔となる。

 

 ならば、『ミスリル』?『古龍素材』?はたまた『オリハルコン』?

 そんな稀少・伝説上の素材には一介の冒険者に縁など無く、そして圧倒的なまでに(ゴル)が足りない。

 

「ならば合金、しかし有り触れた物ではつまらない」

 鍛冶師である彼は、偏屈にそう呟いて。

 代表的なもので言えば、捻くれ者の金属と呼ばれる『アダマンタイト』だろうか。

 それは他の金属との混合でかなり性質を変化させる良質な武具素材だが、それではつまらないと呟く。

 

「依頼人、要望(オーダー)を、面白そうな素材はないのか?」

「えっと、出来れば既存の延長のものがいいです。面白そうな素材……?『高山都市』で暴れてた炎の巨人の残骸とか、なら」

 『隕鉄の残骸』、それは『高山都市』にて災害級の度重なる襲撃に活躍した彼等が受け取る報酬が不足していた為に一部を現物として支給された、同時期に討滅された進撃する闘炎の巨神兵の残骸である。

 正直に嵩張り重い用途の無いものだが……。

 何かに価値があると一応にと、遠征先から持ち帰ったものだ。

 

「……あぁ、話を聞く限り何処かの兵器の素材か、面白い性質があるか?探求だ、探求だ。すぐに持ってきてくれ」

「あ、はい」

 そう言われて、いったん家に引き返した。

 納屋に放ってあるそれを持ち出してくる。

ゴロン!

 そして勢いよく転がるそれら、結構、重たかった。

 『隕鉄の残骸』、その幾つもの欠片、持ち出したそれは未だに高熱を纏って脈を打ってすら見える。

 カイトそれを見て、怪しいマスクに隠れた、目の裏が輝くのを雰囲気で察した。

 

 それとは、異なる背後への暗い影。

「……むすっ」

【憑依具】

 そしてその話をしたら、"儚紅の少女"ことリコリスがその後についてきた。

 

 "人見知り"の気のある彼女には、知らない場所について来るのは珍しい事である。

「聞いてない」

「ごめん、これに罅入ってるって今知ったから」

 少し責めるような声。

 この『絆の双剣』は精霊として、情報強度(位階的)に不安定な彼女のバックアップの一つであった。

【常世裂き咲く花:二輪】

 現在は自身の欠片を二つ片を回収して、それが無くては儚く散る段階は脱したが、今でも大事な彼女の寝床である。

 元々に自分の持ち物ではない事は無視して、抗議する様に少年の腕を揺らす。

 

「……直ったらあとでちょうだい」

「いいけど、余り引き籠っても楽しい事ないよ」

「?」

 己の居場所が、"庇護者"と定めた少年に対して。

 それを袖を引いてくいくいと定めた居場所を彼女が心許した相手に見せる我儘で、当然のように要求する。

 

「ほら、折角来たんだから、見ていこうよ。剣が鍛えられてるのはあんまり見えないんだから」

「むぃ」

【電脳精霊】【偶像少女】【壊れた心】

 カイトは回答を得て、いつも通りに無為に周囲に漂い始めようとした彼女を引き寄せ、その膝に座らせた。

 気が付けば無為を揺蕩う"儚紅の少女"の意識を留めるのは、これが一番手っ取り早いのだ。

 

 やり取りをする間に件の鍛冶師である、『月長石』既に作業工程に入っていた。

 小さな見学人が増えた事など、気にも留めない。

 

「量はある。溶かしてインゴットにする」

「いいですけど、これ溶ける炉があるんです?」

【機炎方陣】(コロナ・マグナス)

 真っ当な疑問。そう思えてしまうほどに、活力を保っている残骸もとい鉱石。

 噂に聞くところによれば山一帯を焼き滅ぼすほどの、炎の暴威を纏った進撃する巨人の遺物である。

 

 しかし。

「問題ない。そういう構造、設計をしている。―――人が扱う火に限界はない」

 鍛冶師の男は自信に満ちて断言する。

「……少しばかり燃料と促進剤はいるか」

【炉の吹入れ手】

 一際、大きく鍛冶場を占拠する炉の背部の孔に『残骸』を放り込んで。

 燃料と反応剤を投入。炉に火を入れて、稼働させた。

 そして調整しながら、時に鞴に風を送り込んで、炉の稼働を巧みに高めていくのだ。

 

 とたん場を支配する、強烈な煌々とする紅と、圧倒的な熱波。

 目が眩み、汗が吹きだす。

 カイトが手繰る炎より、数段上の熱量を持つそれには、生物的な恐怖を感じざるを得ないだろう。

 

「……っ」

 リコリスが小さく息を呑むのを感じた。

 煌々と燃え滾る炉の迫力は、何とも言い難い感慨を彼女に与えたようだ。 

 それは例えて、小さくとも人工的な火山がそこにある様なものである。

 

 上位詠唱の大魔法でもなく、また魔人が纏う理不尽の如く生命の神秘(固有魔法)でもない。

 この世界は、脅威の数に比例して"鋼を加工する技術"に多岐に分岐、尖鋭化している。

 より効率の良い傾斜で熱を集め、より効率よい風道で火種を煽り、より効率よい属性伝導にて1を掛け算する。

 より高い灼熱を、これもまた知識、ノウハウ、経験を継承して探求され続けた人類の体系技術の一端である。 

 

「ね、凄いでしょ」

「―――ただ、原始的なものだと思ってた」

【アナライズ】

 喪われた"魔導文明"の"遺失技術"の揺り籠から編まれた為に、その途上の全て無意識に軽視していた。

 電脳精霊たる彼女は、世界をまた違う目線で捉える感覚器を持っている。

 その情報を多く捉えてしまう目には、その目の前の炉と呼ばれる構造物が数えきれないの理屈で組み立っている事を理解したのである。

 

「リコが見てる物はよくわからないけど、僕は初めてこれを見て感動したんだ。鍛えられた僕の『素人の双剣』《想い出》があったから尚更にね」

「……私の、揺り籠」

 髪を撫でた。霊体だからか、少しも汗を描いてない様子で少し羨ましく感じる。

 対して、カイトは再度見るこれに、生きる事への自身の"重さ"を説いた誇り高い"隊長"と呼ばれた機巧繰りの男。

 その男の半生の一つである模様を実感する様で、別の感慨を感じていた。

 

「生きる中でそういう物が一杯あると良いよ。それが底力になる、無為に過ごすのは勿体ない。親友(オルカ)の受け売りだけどさ」

「……ん」

 同じく田舎村で育った親友は、その為に"冒険者"になったという、生粋の冒険気質の傾奇者である。

 未知にロマンの為に全てを捧げ、その為に失敗しても豪快に笑う様な様子を思い返して。

 小さな村の世界に忙しくも時に穏やかに流れる全てのカイトに、そんな彼が言った、"誘い言葉"の一つ。

 そして、今改めて思い返して、"隊長"が言った人生の"重み”というのもこういう意味を内包してたのかなと思い返す。

 

―――ジュウアアアアア!!

 そんなやり取りを傍目に、気にも留めないで。

 鋳造炉の背後の注ぎ口を開け、インゴットの金型に流し込んで鋳込むのである。

 原型を留めぬ程、白熱した液状の鋼はまばゆく輝いている。

 

「……なかなか溶けにくい。純粋純度の属性金属ではないか」

 しばらく放置して、冷えて金属塊、インゴットとして固まるのを待った。

 灼光を放ち続けるそれが、だんだん自分が知る色に落ち着いていくのは、不思議なものである。

 

ガンッ!!

 "月長石"はそれを金型の底面を叩きだして取り出し手に取った。

 鑢で削り、粉末にして。

【錬金知識Lv3】【努力の才能】【正道愚直】

 工房の奥に棚に便詰め保存されている多様な金属、または属性石の試料(サンプル)を取り出して。

 少量を擂鉢の上に混ぜ合わせ反応を試して、その性質を探ろうとしていく。

 

「……大丈夫です?変な反応起こして毒ガスとか出ませんかそれ」

「問題ない、このフィルターと気合でなんとかなる」

『防塵濾過マスク』【対毒耐性】

 体当たりだ。強引な方法論である。しかし、それは珍しい事ではない。

 複雑多様極まるマナ原理の解明のために行われてる。割と一般的な方法論である。

 試行の数が信用の基礎であると、防護服を身に纏って体当たりする様が、時折見られるものだ。

 

「僕等、それじゃどうにもならないんで換気します」

【精霊術Lv2】【蛍火】

 仕方ないなぁと溜息ついて、くるりと指で風を遊ぶ。

 自信の灯に風色の小精霊を引き寄せて空気の流れを引き寄せ、

 窓から窓への風の流れを強化する。

 カイトが普段から酔い止めに使用する周囲のマナに干渉する簡易精霊術、誘導による単純な換気である。

 

「―――、この保熱率、性質は炎の属性石に近いが、特殊な弾性がある……、鉱石同士の相性は―――」

【鉱物知識】【偏屈者】

 淡々とこの単純な作業を繰り返し続ける。偏屈者の彼はこれに苦を感じないのである。

 時に脆すぎ、時に硬すぎ、時に熱を倍加し、時に熱が下がり、時に絶縁性質を持ち、時に枯渇して固まり、時に何の変哲もないボロクズへと固着した。

 大概が、その性質のどれかを大きく損ねて使い物にはならないものだった。

 特に硬度が損なわれ脆くなるのが多い。

 

 しかし、その中で幾つかまともな物を選び出して、記録していった。

「この際、柔軟性は捨てる超高温帯で膨張する性質をメインに考えた方がいい、か」

「一応、僕は精霊術も扱うから、あの共振特性は残してもらえると嬉しいです」

 鍛冶師の男は自信の頭の整理と共に、これの使い手に伝える様に呟いて。

 対してカイトも、以前と同じ様な要望を応える。

 

「ふむ、何処までも既存の延長か、お前らしい」

「ごめん。無理を言ってるのは分かるけど……、手伝えることはあります?」

「不要だ」

 言葉を短く切って。

 

「決まった。変わらず芯を残して『隕鉄の残骸』と『陽鉱石』それに『銀』を混ぜた合金で鍛え上げていく」

【鍛冶師】【彫金師】

 "月長石"は頭の中の想定に応じて設計図(デザイン)を描いて、墨筆で紙に写していく。

 即興でありながら組み合っていく、それはやはり職人芸のそれであり、改めて圧倒されるものがあった。

【アナライズ】

 リコリスは、組み上がっていくその未知をその眼に眺めていた。

 その眼に映る感慨は、感情は読み取れない。

 

(相変わらず、すっごい手に職が付くってこういう事いうんだろうな)

 ある意味、一つの道を愚直に突き進む彼を尊敬している。

 親友と似てるような変な感慨がある。

 カイトは知らない事であるが、

 この"月長石"と呼ばれた男の鍛冶師としての腕は、変態と呼ばれる人種の一歩手前である。

 

ざりぃ

 その製図が最終段階まで移った段階で……。

「確認するが、結果は保証出来ない。中途半端な事になるかもしれない、それでいいか」

 カイトは問の意味を読み取る。

 結局の所、単純に良い武具を求めるなら、最初からそう言う目的に鍛えられた物の方が効率がいい。

 この二級品の土台の上に、違法建築を塗り固めているようなものである。

 そういう確認だった、賢い選択ではない。自身の嗜好だけを押し付ける事は職人肌である彼にはできない。

 

「うん。"月長石"さんの腕は信用してますし、僕だって、今までの事を簡単に変える事なんてできないから」

【精霊剣士】【魔法剣】【■精■息】

 対して力強く断言する。

 彼に時間はない。冒険者カイトは彼の方法論にて、先鋭化しつつある。

 そして既に、自身の愛剣『絆の双刃』は、切り離しがたいものになっているのである。

 噂に聞く一級品の武具には興味はあるが、既に在野には遠い物と割り切っていた。

 

「だからお願いします」

「……わかった、最良を尽す。三日後に、来い」

 そして話は纏まった。勿論すぐにとはいかない。

 前払いのゴルと『絆の双刃』を置いて、カイトは『月長石工房』を後にする。

 

 

 

 

 

―――その最中で。

 

 

 

 

 少し荒れた道を歩く中。

 人懐っこい笑みと特徴的な細められた猫目、工房への道を向かってくる人影を見つけた。

 小柄な女性らしい影、それはこちらを見つけると駆けよって来る。

 

「おーっす、久しぶりじゃないですかーカイトさん。しばらく見ませんけど、何処かにいってました?」

「ん、少し遠征に出てて。お久しぶりなつめさん」

【双剣士】【自己変革】(ペルソナ)

 それは少し前の依頼で同行した冒険者の一人、"双剣士"のナツメと遭遇する。

 偽装の"Cランク"、ギルド秩序の裏の実力行使『ギルドナイト』という肩書を持つ推定、一戦級の双剣士。

 ただカイトが知るのは彼女が強いというだけで、実際の戦闘を目にしていない為、どの程度の物なのかわからないのだが。

 

 

「なつめさんは今日は何の用でこちらに?」

「えへへ別に大した様じゃないっすよ。『月長石』さんに補修を任せていた刃を受け取りに!」

「あー、整備に出した武具の回収か」

【エッジハンター】

 なお、これは現在の"月長石"と呼ばれる鍛冶師の腕の下地の一端に、関わっていたりする。

 ギルドの実行力の裏の顔である彼女は、依頼に失踪した冒険者、回収した破損武具を大体、鍛冶師の元に持ち込むのだ。

 彼女はある種の武具コレクターである為に、偏屈者の彼を贔屓にしている有力な客の一人である。

 

「ところでそんなに固くなくても、ナツメでいいすよー」

「ん、んー。考えておきます。」

 カイトが考慮するのは『ギルドナイト』という肩書だ。

 明らかに、人生の先輩である彼女に呼び捨ては少し気が引けたのである。

 

 最近あった事、高山都市の話、他愛もない事を色々と。

 しばらく他愛のない世話話を交わしながら。

 

 

 その中で双剣士ナツメは少しこちらをじろじろ眺める。

「んー、少し見ないうちになんかこう結構雰囲気変わったっすねー」

「そう、ですか」

「ええ、なんというかオドの気配が脈が整ってるっす」

【多目的ハイパーセンサー】

 『エクスマキナ』という種族である彼女は、より実測的な感覚でそれを理解する。

 目の前の若葉色の少年は、以前と比べて"生物的な強度"はさほど変わらないが、そのオドの統制能力が段違いに引き締まっていると、その経験にて理解する。

 

「というか結構、目と身体の枷も随分外れてるっすね。ふーん」

【スキルソフト:検体知識】【夢幻羅道】

 少し見開いた細めに、顎に指を置いて、とんとんと叩きながら眺めて。

 ……そして、それが道を一歩踏み外した結果だと感じ取る。

 世界にその隙間に蔓延り抉じ開ける強き根深い雑草。戦いから目を逸らせぬ異常者の崖壁の分化する系統樹のおそらくどれか。

【狂羅輪廻】

 一度それに陥れば後はまるで転げ落ちるように深みに堕ちるだろう。

 

「―――えへへ、同類っすね。これから愉しくなりそうっす」

「……?」

【双剣士】【乙女回路】【自己変革(ペルソナ):潜伏モード】

 そしてナツメと何処か楽し気に、勝手に自己解決する様に呟いた。

 冒険者としての一期一会の出会いであるが、彼女は割とカイトの事を、責務として正体を明かす位に割と気にいっている。

 "戦闘タイプのエクスマキナ"の設計機能としての分割した仮面の一表情は……。

 彼に特別なものを見出している。

 

「ところで、後ろに隠れている女の子は誰っすか?カイトさんの娘さんです?」

「いや、年齢の計算合わないよね」

 軽く問われた冗談に少し笑って。 

 

 人見知りに背に隠れていた袖を握った"儚紅の少女"リコリス、小さな頭を軽く撫でて紹介した。

 

「説明しずらいんですが、生まれたばかりの『精人』の子です。偶然、僕が近くにいたからなんか憑りつかれました」

「はーへー、それは珍しいっすね」

「………」

 ぎゅっ。

 実際はカイトがいや腕輪がトリガーになって誕生した存在な気がするが、そこまで説明する必要もないので当たり障りなく流した経緯を言葉にする。

 

「もし、イケナイ子だったらちゃんとお祓いするっすよ?」

「大丈夫、もう助けてもらってますし」

 どんな因果が絡まっていようと、それはそれとして抱え込むだろう。

 大概に、跳びぬけた与太話の様なものだ、カイトが未知を、共有するのは冒険者としての仲間位だ。

 

「ふんふん、そうっす。カイトさんカイトさん」

「ん、なんでしょう」

 双剣士なつめは思い付きの様に、手を叩いて彼に持ち掛ける。

 数少ない、己の役割を知っている冒険者であり、ある程度役割が合致する都合のいい相手である。

 

「確かカイトさんの役割(ロール)は、野狩人(レンジャー)っすよね。ちょっと手伝ってもらいたいことが有るんすけど」

「うん。構わないけど内容次第で」

【役割(ロール):レンジャー】【野狩人Lv(2)3】

 少しだけ怪訝な表情。中身を問いかえす言葉。

 それはそうだろう。珍しい彼女にとっての気紛れだ、実力の程はここから測ればいい。

 少なくともナツメは、己が専攻して簡単に死ぬような相手ではないという事は経験則から、その眼の機敏を見て、確信している。

 

「大した話じゃないっすよ。ちょっと近郊の土地変化の調査に、『脈動する大豊の森』がその領域を急激に広げてるという話でー」

 彼女は応じて説明する。

 『脈動する大豊の森』とは田舎街『ラインセドナ』の南西郊外、地形的にはかなりの遠方となる。

 未開拓地ではあるが、『侵魔獄』という訳でもなく『隔離領域』という訳でもない、有効な資源として残されている"自然森林"の一つ。

 

 ……それまではそうだった。それが突然に拡大しモンスターの反乱を、大量の失踪者を生み出すまでは。

【世■樹の方■■】

 その森の内部は遠方からの観測からも、複雑に絡まった未知の環境を作り出してるらしい。

 遠方からの観測では、人工物は見当たらないが、その氾濫の組成には壁を作り上げる様に、ある程度の法則が見えるという。

 

「その"合同依頼"、つまりは"ダンジョンアタック"っすよ」

「うーん。異常地の調査……か、知識はあるけどあまり経験はないかな。属性値の調査、植生の調査、生態系の調査……、うーん専門家の同行とかは?」

 カイトが言う専門家とは、『自然調査官』という呼ばれるような職業の事を指し示す。

 "変動する属性値の茂る大陸全土を調べて、安定させる専門家"である。

 大概にして国からの依頼に信頼たるエリートであり自然に対する知識と適応力及び、その多くが破格の戦闘力を持っているという。

 

 近い将来にして最強の闘争士(トレーナー)の一人に数えられる『真紅の闘争』。

 侵魔獄狂いたる踏破者『大いなる眠り』。

 天に上る全属性の付与師(エンチャッター)『高天に昇らせる者』がその代表に上げられるだろう。

 

「やだなー、だからカイトさんに頼んでるんじゃないですか。元から専攻してて、きっちりバッカーの資格も取ったんでしょう?」

【バッカ―Lv1】【精霊術Lv2】

 しかし、変わらず双剣士のなつめは目を細めて、そんな軽い調子で持ち掛けるのだった。

 実際、彼女にとっても、この一時で解決するつもりはなくあくまで彼等は初期対応、偵察である。

 結果が伴えば、そういう"専門家"が派遣されるだろう、その証拠の立証である。

 

「あてにならない。割とボクは戦闘特化寄りですよ?」

 カイトは困ったように頬を掻く、既に彼は一流水準の技能を備えているのだが、その自覚はない。

 実際に彼が備える野狩人(レンジャー)の技能は、自然に依存する田舎村で学んだ生きる為の糧を得る。

 危険に備え貧しさに偲ぶ為の、村の大人に学んで実践した経験則である。

 それを、バッカー資格の勉強に主に"道具"の使い方を学んで、確かな知識に裏付けした為に既に確立している。

 

 しかし、それでも専門的な調査となれば不足もいい所だった。

 せめて、高ランクのバッカーが欲しい。

 

「実際戦えるというのも大事っす。とりあえず私等は初期対応、生き残って内部の情報を持ち帰るところまでが役割ですから」

 そう言葉を重ねる。

 これは大規模な調査という訳でもなく、突然の事態への対応力も要求される。

 戦闘経験はあるに越したことはない。事前の地形的な情報はあるが、変異した後の森は未知の領域なのだから。

 

「"隔離障壁"が観測されていない事から、割と上はまだ楽観視してるっすからねー」

「そんな適当な、……って言っても仕方ないのかな」

 "隔離変動"(ボックス・シフト)と呼ばれる現象、時に”"態系と地形の気象の変革だけでなく、悪夢のような領域に変化させる"。

――誰も入れない、誰も出られない。この世の地獄を顕著させる理不尽の権化の様な現象である。

 しかし、其れの予兆として観測される、数十kmに渡る不可侵の赤色の透明障壁の存在は確認されていない。

 故に、向き合い方次第で対処可能な、属性災害か何かしらのテロの類であると判断される。

 

 

 そんな『隔離領域』(ボックス・ヘル)と呼ばれるような、不可侵の大地は『聖錬』の地に数十以上と観測されている。

 『自然調査官』の様な優れた"専門家"の需要は絶える事はない。

 故に優先度が下がる事は仕方のない事だった。

 比べて冒険者は腰が軽く、最悪幾らでも替えが効くのである。

 その命の軽さと、柔軟性がこの厳しい世界で社会のシステムの重要な一つとして成している理由だろう。

 

「近いうちに、冒険宿の『ヴェルニース亭』の方にも依頼が回ると思うので、他に有力な冒険者もいないでしょうし、話を通せば受けられるはずっすよ」

「ちょっと、仲間と相談してみます。心当たりがないなら、人集めるのは任せてもらっていいですか」

「はーい。早めの返答をお願いするっすねー。準備もありますので」

 そして、そんな感じに話の流れは定まった。

 互いに手を振って分かれて、互いに街の中心へと歩みを進めていく。

 

 大きな未知が潜んでいるリスクもあるが、"準備金"という名の前金も出るような大きな依頼である。

 (ゴル)に経験に、目的に対して未だに足りないものが多いカイトにとっては魅力的なものだった。

 

(うん、それにこういう依頼を受ける有力な伝手が出来るかもしれないし)

 それに彼女は言った。この 『脈動する大豊の森』への調査は"合同の依頼"であると。

 都合があった『自然調査官』や、はたまた高ランクのバッカ―、他の有力な冒険者と知り合う機会であるかもしれない。

 人脈は大きな力である。

 時間は有限だ。一人でできる事などタカが知れている為に、可能性を拡がる手早い手段の一つだろう。

 それを動かす、一番手軽な対価が"ゴル"の為、まだまだこれも必要である。

 

 カイトは頭の中で、そう想定して。

 

「……あの話、受ける、の?」

「ん、僕は悪くないと思ってる。なんにしても、ローズに相談してそこからだよ」

 何処か不安げな様子で尋ねるリコリスに応えた。

 "相棒"であるローズはどう答えるだろうか、楽観的な所もある彼女なら、受けると即答するかもしれない。

 なんにせよ、物事を善きに考える力は彼女の方が強いのである。

 

「考える時間はまだある。楽しみだねー。『絆の双刃』がどう仕上がるのかな」

「……ん」

 どちらにせよカイトの愛剣が、鍛冶屋から修復が成されるまでは動けないのだから。

 それは明確に、カイトは自身だけの物であり、焼け灰になった過去と繋がる唯一の縁である。

 それが我儘だろうと、それが鍛え上げられるなら、その完成の想像に子供の様に心が沸き立つような感覚が、珍しく心地が良い。

 

 カイトにとっては試供品のリスクとかは今更の話である

 

 歩いて歩いて『ラインセドナ』の大通りに出た。

 この街の商業通りだ。張り出した店幕の下に、それぞれの商品が並んでいる。

 豊富な水原資源に支えられた農業地である『ラインセドナ』は、割と食料資源が多様である。

 それを眺めながら、小さい彼女の手を引いて。

 

「リコは、何か食べたい物がある?」

「りんご、りんご」

 己にとっての日常、夕飯の内容も共に考えながら、帰り道を歩き続けた。

 冒険者は相変わらず、定職を持たない日雇いである。

 生きる事は忙しい。

 

「んー、りんごかこの『ナップルアップル』っていうのはおいしいのかな、試してみようか」

「(こくこく)」

 これは周辺に自生する『マンドラゴラァ!』と同じく、自立して動く植物の一つ。

 聞けば、林檎の甘さ食感とパイナップルの酸味と後味を足して割ったような、珍妙な果実だという。

 一度口にすれば暫く口に残り続けるが、病みつきになるものも多いという謎食材だ。

 

 冒険者としてある程度安定した今や、カイトは月のほとんどを費やす程には貧しさに迫られていない。

 そういう余暇を考える時間も増えてる。今や、料理は彼の明確な趣味と言えるものだった。

 

 流れる雲、傾く陽に時の流れを乗せて。

 変わらず、"侵略者"は許せないが、元凶を討ったことは確かな区切りとして今日の事、明日の事を考えながら、今を楽しむのであった。

 

 

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