ポンコツ世界異聞=【終幕を切り刻む者達《ハッカーズ》】   作:きちきちきち

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あけましておめでとうございます。
ポンコツ世界の歴史もまこと長くなり申した。
こんな駄文書きですが、今年もよろしくお願いします。


調査【増殖の世界樹】

―――『脈動する大豊の森』

 

『迷彩外套』

ぱき……ばき。

 外套を被り、鬱蒼と茂る蔦を踏み抜き、森の暗がりを往く一団があった。

 『レンジャー』のカイト、『ヘビーブレイド』のローズ、『呪紋使い』のミストラル、『ツインブレード』と無理やり名乗ったナツメに。

 更に今回は幾人かの同行人が、その後に歩みを進める。

 

「んー、話には聞いてたけどやばいわね。草木がぐちゃぐちゃ、私の鼻も風が籠っていて頼りにならない。こんなのいっそ焼き払いたくなるわねー」

「やらないでよローズ。何が起こるかわからないし、少なくとも燻りだされたモンスターで大変なことになるから」

「わーかってるって!そんな考えなしじゃないってば」

【風詠み】

 大剣の少女、ローズがその光景に呆れ果てる様に素直な言葉を呟いて。

 若葉の少年、カイトはまず森の入り口に、『属性検知器』などの道具を用いて、拡大する生態系の境界を測っている。

 

 その軽口の後に続いて。

 

「うわー、すっごーい!ねぇねぇ、どうなってるのかな!あふれ出た木々の幹がまるで道みたいになってるよ!」

【レアハンター】【踏破者Lv2】【理性蒸発】

 白耳の魔術師、ミストラルがその珍しい現象に目を輝かせている。

 彼女が言う通り、これは単純な氾濫現象とは思えない位に、奥へと誘う不整の道筋が顕れていた。

 何か巨大な獣が通った道だろうか、それにしては破壊痕が少なく釈然としない。

 

 大地、大気、植生から時に削り取り、それぞれに属性値の採取を終えて。

 カイトはそこから読み取った結果を口にする。

「んー、森属性と地属性がかなりの比率で含まれてる。この現象に対しては典型的な属性値ですね。でも濃度はそこまで高くないです」

「にしては、拡大する速度が報告より早いっすねぇ、どうなっているっすかね」

【レンジャー】【野狩人Lv(2)3】

【エクスマキナ】【ペルソナ】

 細めた眼に疑問符に顎に指をあてて、仕草を取る。

 相変わらず、機能の仮面に擬態したナツメがその報告に応えた。

 

「おう、久しぶりだが若いの。少し見ないうちに一端になったようだな関心関心」

【サムライ】【アームズマスタリー:刀】【トゥルーアイ】

 サムライに被れた大柄の男が、その様子を感心する様に眺める。

 "砂嵐三十郎"、『闘争都市』にて行われた冒険者限定の大会にて決勝を競ったクランがリーダーである。

 この異変調査による"合同依頼"にて、同行する事になった冒険者の一人だった。

 

【クラン:ブルーブリゲイド】

 一応、流浪のクランのリーダーである彼がいるという事は勿論……。

 

「ちぃ、まどろっこしい。手っ取り早く襲撃でも起きねえもんかな。退屈で死んじまいそうだぜ」

「ケ、ケネスさん」

【邪剣士】(カオスソード)【魔法剣】【戦闘狂】

【セージ】【魔術師:聖錬式】【幼子】

 "ケネス・レイ"と名乗った同じく大会にて競り合った戦闘狂の剣士に。

 "ホタル"と名のった"、性別の判断も付かない様な華奢な幼子の姿が一つ、同じく共同体に所属するメンバーであるらしい。

 

「―――おいおいおい。随分とガキが多いな……、本当にこっちのチーム大丈夫なのかよ」

【聖錬冒険者:Cランク】【弓使い】

 不満気に潜む声が聞こえる。

 その他に何人かの在野の冒険者を伴って、総勢にして9人の冒険者がこの調査に同行している。

 

 偶然に、知古の顔と再会したカイトの、その時の心中というと。

(うーん意外と、世間は狭いなぁ)

 そんな妙な感慨があった。

 その実力的には確かに一度ぶつかりあって知っている。在野の冒険者にとって信頼に足るというのは貴重な事である。

 だから、これは幸いな人の運の巡りだろう。

 

 なお、今回の依頼では人手を二手に分けていた。

 魔術師が足りない為に、兼任ができる"ディフェンダー"であるガルデニアは別動隊に参加している。

 一つの森林地帯という広大な地形を調査するには、一つの手では到底足りないのである。

 現在も続く、この拡大現象に対して悠長すぎるため二手に分かれてこうなった。

 

 なお、黒鎧の剣士こと"マーロー・ディアス"は趣味じゃないと今回の依頼は断り。

 儚紅の少女こと、電脳精人の"リコリス"は、鍛えなおされた『絆の双刃』に引き籠って眠りについている。

 

「マナの属性値の測定が終わったなら、そろそろ"気配迷彩"を展開していいかなー。何時もみたいに炙ってよ!」

「そうですね、何処まで有効かわかりませんけど。すみません寄ってください、気配を塗り潰します」

『オウム貝の杖』【魔術知識】【精霊術Lv3】+『蟲煙草』【蛍火】=『気配迷彩』

 カイトは風を土を樹皮を拾い上げて"彼の炎"に燃やして精霊を引き寄せ、それを混ぜ合わせながら。

 ミストラルは、それを術式に組み上げて循環させ、移動しながらも維持し続ける。

 

「うんうん、良い感じ☆」

 杖を振るって指揮する。

 彼等のパーティの精霊術師が揃った際の得意手、一種の"気配迷彩"(スニーク)である。

 これで少なくとも、これでモンスター相手に嗅覚による感知はされない。

 正直この人数の範囲を隠すのは、負担が大きいが、相手のホームグラウンドで不意に原生生物と抗戦する可能性よりは遙かにましだった。

 

「けほ……げっほ、ケムい」

「大丈夫?慣れないなら、そんな無理しなくてもいいのよ」

 煙に咳き込む。

 カイトはその負担を和らげるために、寄り合わせた草束を己の吐息も併せた炎に燻していた。

 『高山都市』にて受け継がれる地方部落の知恵の一つ。

 今は事変に対峙した部落との信頼の繋がり(ルート)により、商人としての側面も持つミストラルが仕入れている薬草の一種である。

 

「大丈夫そこまでは、別に毒って訳でもないしね」

「ならいいけどさー、呼吸を煙って間抜けに鈍らせるんじゃないわよ」

 自生する小精霊集合植生、危険に際して結合を解除してばらけて、安全な場所に再結合する移動性植物。

 それを燻す事でオドに混ぜ合わせ周囲に漂わせて、精霊術に感応させる媒体として利用していた。

 こんなのは取り残された古流の方法論だ。もっと、賢い方法など幾らでもある。

 しかし、未だに術の多くを"固有魔法"に増幅している彼には性に合うのだ。

 

 そしてその副産物として、その植生として特性からより安全な場所に流れようとして。

「えぇ……と、ここの三爪の足跡ハ……、毛が無い油脂の匂いもない。多分昆虫種の人型、でス」

【セージ:魔物知識判定】【バッカ―Lv2】【異邦人】

 たどたどしい言葉で小さな同行人が一人、"ホタル"と名乗った幼子が痕跡を辿る。

 この蟲煙草の副産物として。獣道の流れを発見して、それを避ける事と痕跡から、そこを通った原生生物の特徴を推測する事が出来るようになった。

 

(うんうん。"セージ"か、痕跡からの魔物判定なんてここらじゃギルド職員位しかできない。幼そうなのに、随分としっかりしてる)

 その小慣れた手つきと仕草にカイトは感心する。

 "セージ"とは賢者に連なる者の役割(ロール)だ。その知識が力となり、数多くの事象や現象を看破するという。

 この世界において見せかけの年齢など、宛にならない事は多い。

 長命種や、そもそも不老である存在なども珍しくない。

 典型的な例がすでに在位から百年以上の時を数え、幼子の姿を保つ『永遠戦姫』(エターナル)こと"テイルレッド"だろう。

「へーへー、凄いね!その年で『セージ』なんてさ、あれでしょ、『牙の塔』の生徒って訳でもないのにー」

「イ、イエそうでも……」

 ミストラルの理性蒸発したぶんぶん回し、照れている

 その反応から、この幼子は見た目相応のなのだろう。それでその知識を身に着けているのはやはり凄い。

 

 その背後で、特徴的な剣を肩に構えて、苛立ちを表す様なリズムで叩きながら。

 

「オイ!手品は済んだかカイトさっさと奥にいくぞこっちぁ退屈してんだ」

「無駄に急かすなケネス!集団行動だ輪を乱すな忘れんじゃねぇっ」

「ケケケ、わーっかってるよ三十郎!だが、日が暮れるまでが勝負だってのも事実だろーがよ」

【任侠者】・【戦闘狂】

 集団の中から『邪剣士』の焦れた様な声を、クランリーダーである『サムライ』の大男が制する。

 本来この『邪剣士』は、おおよそ集団行動に向いてはいない自己本位な男である。

 それを制するのは、一重にサムライ風の男の人徳によるものだろう。

 

「うっさいわねぇ、まったくもーせっかちなんだからさ!」

「あはは……まぁでも、帰りも考えるとあまり悠長にしてられないか、準備は整いました」

【ムードメーカー】

 その凸凹なやり取りは、それを愛嬌として受け入れさせていた。

 冒険者には優位に振舞う為に暴力を用いるものも少なくない。この程度上品な物だ。

 そもそも腕はこの上なく信用できるのである。乱雑な振る舞いだが積極的に先陣を進むその姿は頼もしさ覚えた。

 

「じゃあ撤退のタイミングは、斥候役のカイトさんに任せるっす」

 そしてやっと、彼等は氾濫の境界面を脱して奥へと踏み込んだ。

 森のざわめきはまるで侵入者を迎え入れる様に、穏やかに凪いでおり、それが逆に不気味なものを感じさせられる。

 

 その歩みは駆け出しであった、昔を思い出させる。

 人にとって森は恐ろしい場所である。視界が制限され、移動が制限され、雑音が入り混じる。

(うん少しは、成長したかな) 

 実感する。

 しかし、現状に対応に幾分かの余裕が出来ていた。

 

 警戒態勢、隊列は調査に大きな役割を持っている『セージ』の幼子と魔術師を中心にした矢の陣形である。

 前列に交戦的な『邪剣士』の男が勝手に陣取り、その後ろに周囲を調査し順路を定める『レンジャー』が続いて。

 中列に『サムライ』の男と、『ヘビーブレイド』の彼女。

 後列に『ツインブレード』の在野の冒険者が二名が続く形になる。

 

 幾らも、絡みゆく雑踏の不整地を抜けて。

 目を流す、様子を観察すれば進めば進むほど、一目でわかる植生の不自然さが目についた。

【世界■の方■式】

 氾濫した植物根が壁を構成する様に、地表に出て力強く複雑に絡み合っているのが見えた。

 しかし、進行不可な訳では無い。むしろ何かを招くように、明確に通過できる隙間と空間が確かにそこに在ったのだ。

 その様は話に聞いていた通り、まるで"迷宮"(ダンジョン)の様に、意図的な組成を感じる位である。

 

 そして……、窪地に湧き出て溜まった湖が見えてくる。

「―――止まってください。モンスター2頭、中型以上おそらく牙熊種です」

『太陽の腕輪』【レンジャー】【野狩人】

 ハンドサインを混ぜて制止する、窪地に溜まる水に屯するモンスターが見えた。

 そこに鎮座する影、四肢まで覆われる剛毛、力強さを体現する丸太の如く剛腕、特徴的な円輪模様が伺えるだろう。

「タブン、あれは『リングマ』種のモンスターでス。冬眠期に地面に埋めた餌を探し当てル嗅覚、縄張りを主張する鋭い爪と怪力が驚異なモンスター……」

【セージ:魔物知識判定】

 中型種のペア、あるいは"番い"かこの大きさともなれば簡単に討伐できる対象でもない。

 

(一頭なら僕とローズで大体殺せるけど、殺し方工夫しないと他を寄せ付ける、か)

 そしてカイトが試算するこれは、割と例外寄りに歩み出した冒険者の意見だった。

 フィジカルに大幅に上回る人類に敵対的なモンスター、致命傷の可能性を持つ相手に魔具を装備したとて十全に立ち回れる冒険者はそう多くない。

「おい、モンスターしかも中型種だって、迂回しようぜ……」

「あ、あくまで、これは調査だろう?最低限の成果でも報酬はそんなに変わらない。戦う意味がねぇよ」

 後列の同行の冒険者から、恐れと消極的な声が聞こえる。

 特別な事はない。鉄火場慣れしてない。しかし、ただそれだけの事はとても大きな壁である。

 

「あの、水源の調査は、したイ。水は生物の活力、環境を染める源、原因が見えるかも、デス」

【硯学に連なる者】【セージ】

 消極的な意見の中、控えめに幼子が主張する。

 その主張は正論である。水を必要とする生物はとてもとても多い。水源が汚染源であるというのはオーソドックスなものだろう、それだけ効果的なものだ。

 『預験帝』のテロリスト(くそったれ)も、割と好む手口である。

 

「でー、どうすんのよどちらにも一理あるわよ」

「そっすねー。モンスターの死骸も価値ある調査対象ですし。どうっす、やれそうですか?」

「やろうと思えば、"相棒"(ローズ)となら片方は確実に」

【魔法剣士】【ダンシングヒーロー】【狂羅輪廻】

 その問いに、カイトは当然の様に返した。リスクに隠す必要も、躊躇う必要もない。

 既に、彼等は前を見据え選択し動けるだろう。

 自分の命をチップに、やるべきことだと割り切って、殺意の刃を握る方法を彼は知っている。 

 

「……すまねぇな、俺ァは動けん。この子だけは何としても無事に返す義務がある」

【任侠者】【スピリットオブサムライ】

 【セージ】と名乗る彼は、幼子らしい見た目の通り、余り戦闘力はないのだろう。

 役割がないというなら、安全圏に置いておいて欲しいが、既に調査に能力を示していた。

 否はない。調査依頼に必要な人材の護衛である。

 

「じゃあはいはーい、うちとそこの"ケネス"さんで片方はブチ転がしますから、もう片方はお任せしていいっすか」

「は?戦えりゃ何でもいいがよ、精々足引っ張んじゃねぇぞ」

【ギルドナイト】【機人闘舞】【夢幻羅道】

【ソードマスタリー】【変幻太刀】【戦闘狂】

 対して目を細めたまま、ナツメが軽い調子で言い放つ。

 その拡張装備(パッケージ)のほとんどを格納したままとはいえ、修羅が一角たる彼女が遅れを取る様な獲物ではないのだから。

 

「決まりですねー。ミストラル。短い間"静寂結界"(サイレント)お願い」

「うん、まっかされたー☆」

『星の血章』(エーテライト)【魔術知識LV2】

 "白耳の魔術師"は既に右腕に馴染んだ魔具を解いて、杖を指揮棒に空中に紋となる"回路"を描き出す。

 影響下にある大気の振動率を操作する……、なんて大それた大魔術ではない。

『再現:エアフィールド』【レアハンター:魔道具知識】【理性蒸発】

 魔道具の稼働原理をあふれ出るその好奇心で分解して、自己流に再現した術式というだけ、道具に造形が深い彼女だからこその方法論である。

 信頼されたロジックに組み立てられているとはいえ、『魔道具』とてマナ原理に動くだけの道具である。

 短時間ならば人力で回す事も、出来ない通りはない。

 

「お願い!"クラケー"ちゃん!」

『―――ゴーン』

【妖精術師】【風霊降臨:クラケー・クー】

 鳥を象った風の中精霊、彼女が従えたソレ。

 それを投影した"使役妖精"にて風の流れを制限して、維持の手助けをしている。

 

 故に人の手で、再現できない道理はない。

『―――ちょっと!仕入れた新製品を早速分解するのは辞めてってば!いつもみたいに戻せないんだろ!も、もう仕方ないんだから』

【魔具職人:見習い】【機工知識Lv2】【比翼の鳥】

 なおその裏で、彼女が見初めた伴侶となる男の尽力があった事は、言うまでもない。

 ミストラルだけでは爆発落ちが目に見えている。暴走する好奇心だけでは土台無理である。

 

 小さな、風の幕の帳が降りる。

 

「仕掛けます!タイミングを合わせて!」

「おうよ!!へへ、そうこなくっちゃなぁ!!」

ジャ、シャキンッ!

 カイトは"蟲煙草"を吐き捨てて、腰にマウントしてある鞘から双剣を引き抜き、身体を隠すように前に構える。

 慣れた呼吸法に、息吹を腑に血潮に熱を入れる。

 それに呼応して鍛えなおした『絆の双刃』は、鋼の外殻を拡張させるのである。

 

【精霊術Lv2:アプドゥ】

 一歩踏み出せばその身体は慣性に乗り、奏でる電磁のリズムに乗って更に駆け抜ける。

 さらに姿勢を低く双刃に身体を隠し、空気抵抗を避けて踏み込みに加速する。

【ファストアクション】【俊足】

 たいして巨大熊は、風の流れの停滞にその嗅覚に異常を感じ取って、水源に休めていた巨体を起こした。

 その全長は2mは越えようか、大型の個体である。その爪に撫でられれば純人種など、水が入った風船のように弾けるだろうと容易に想像できる。

 

 そして、立ち上がる。

『―――ぐるぉおおおおん!!』

【満月熊】(リングマ)【きんちょうかん:怖い顔】【嗅ぎ分ける】

 咆哮を上げて、この狂貌に向かい来る脆弱な人間を威嚇する。

 野生的なその威圧に呑まれた者は、脚を鈍らせれその容易く、潰されるだろう。

 

(腕を上げた……!次は振り降しか薙ぎ払いか)

【ダンシングヒーロー】

 頭に未来予測を描きながら、だからこそ、脚は止められない。

 初志、カイトは確かな歩みこそが、死を確かに遠ざけられると信じるがゆえに。

 

ダッ!!

 重心を傾けながら双剣を振りかぶり、得意とする牽制の構えに入りながら、前方に舞い出るのだった。

 

 

 

 

 ●●●

 

 

 

 

―――『まだ、誰でもない冒険者の視点』

 

 後列より、先陣を切る小さな背中を見送った"弓使い"の冒険者がいた。

 敵対するその巨獣と比率は、後に続いた大剣を背負った女の影もあるが、それでも明らかに"無謀"だと彼の常識には映る。

 まともに直撃すれば即死、その有様が恐怖の肥大化にまざまざと想像させる。

 

「くそ、無駄に張り切りやがって!しょうがねぇなぁ!!」

【聖錬冒険者:Cランク】【野狩人:弓術】【低級魔具】

 悪態を突きながら彼も踏み入れようとする。

 彼は聖錬の田舎町に育った、経歴に変哲もない冒険者である。

 ただ幼い頃に両親が離婚して、父方に引き取られて再婚先に居場所がなくなって、必要に迫られて冒険者(最底辺)に転がっただけの有り触れた人間だった。

 

 少しばかりの心得のあった弓を構えて、今日の今日まで生きてきたのである。

 命をチップとする、戦闘特化の冒険者に覚悟なんかある訳がない。

 言ってしまえば、今日まで彼が生きてこれたのは、分を弁えていたのと運が良かっただけに過ぎない。

 

 そして、それも今日に間違えた。

 調査という言葉に、割のいい仕事だと勘違いして、氾濫地という属性災害の発生地に足を踏み入れてしまった。

 

(あぁ、とんだ厄日だ。こんな命知らず共と一緒だなんてよ…!)

 それでも依頼として受けたのだ、出来る事はやらねばならない。

 パーティの体制が崩れれば、己が命の危険にさらされるのだ。

 なけなしの勇気を振り絞って矢を番い、弦を引き絞る、弓を構える。

 

 しかし……。

 それは、彼の常識を裏切って予想外に覆され、推移していく。

【魔法剣Lv2:虎輪刃】

 頭部、それも目を狙った飛ぶ炎の魔法剣、剣を振るう慣性に併せて奔った。

 急所狙い、躱しがたい様に、クロス字に放たれたそれは。

 

『―――グルオオオオオん!!』

【鋭い爪:斬り裂く】【こんじょう】【頑強】

 巨大熊の丸太の様な腕から延びる爪によって、容易く弾かれた。

 結果無力、しかしそれによって他ならぬ相手の腕によって、視界は塞がる。

 

【アームハンマー】【剛怪力】

 そして、反撃とばかりに匂いのみに頼って、巨熊のその腕が振り下ろされた。

 空気の炸裂する音がここまで鼓膜に響く、大きな土礫が周囲に無造作に振りまかれる。

 

「……よしっ頭を下げた」

【二刀流】【舞武:重心操作】

 それを若葉の少年は双剣を一瞬の激突の反動と、重心操作と併せたバックステップで躱す。

 双剣の煌めきを中心に踊るような予想していた如く、決まり切っていた動きだった。

 そのまま流れる様に、ステップして横に跳び退いて隙間を開ける、それを可能にするは傍目にも理解できる足腰の強靭さである。

 

「お願い、ローズ!!」

「あいよー、いつものパターンその3ね!任されたわ!」

【ウォークライ】【カバームーブ】

 その隙間に、大剣を構えた女が踏み入れ、前に躍り出る。

 

「さぁ、砕けなさいッ!!」

【闘牙剣:オーラファング】【練気法:マッスルベアー】【怪力】

 蛮族由来のフィジカルから放たれる衝撃を一対化した剛剣技。

 こちらも大気を割るが如く刃剛の一撃である。攻撃の硬直に動けない巨大熊の頭部に吸い込まれて……。

 

ッッガ!!

 頭蓋が砕ける鈍い音が聞こえた。

『―――グガアアアアアアァアアア?!』

【頑丈な毛皮】【頑強】

 遅れて断末魔が響き渡る。あぁ、静寂結界が無ければ周囲に響き渡ってモンスターを引き寄せていただろう。

 頭蓋が砕けたのだ。これで真っ当な生物ならこれで死ぬ。

【満月熊】【こんじょう:戦闘続行】

 しかし、これは残酷なこの世界に君臨する。

 根絶しえぬ人類に敵対者、害する為に尖鋭化した歪な生物の一統樹である。

 その眼に闘志は消えて居ない。

 

「やったか……っ!なーんてやってる訳ないわよねぇ!!」

「どいつもこいつも頑丈で嫌になるね。判断力は落ちてる、あとは削り殺すよ」

「あいよーっと!死に際の馬鹿力に付き合ってやる義理もないもんね!」

【鋭い爪;きりさく】【剛怪力】

【大剣使い】【練気法:ビートルスキン】【ウェポンガード】【怪力】

 鋭い爪の軌跡が奔る。それを受け流しながらも反動に手の構えを切り替えて、斬り返しの構えを取る。

 その背後の裏に隙に呼吸を息吹に、内腑に吹き入れてオドを活性化させて魔法剣を再付与(エンチャント)するのが見えた。

 

【あばれる】【かぎわける】【狂乱化】(バーサーク)

 巨大熊は吹き出た血に塞がった視界を匂いを辿りながら、がむしゃらに腕を振るって。

 辺り構わず地形ごと斬り裂きにかかる。

 粉砕された草木が舞う、土礫が 周りに振りまかれるのを、それぞれ頑強性に無視し、または姿勢を低く双剣の裏に凌ぐのが見えた。

 

【斬り裂く】【はやあし】

【魔法剣Lv2:雷舞の刃】【舞武】

【満月熊】【アームハンマー】

【闘牙剣】【打ち返し】

 その後は蹂躙である。

 "重剣士"が怒り任せの一撃を半歩余裕もって大剣を撃ち込んで凌いで。

 "双剣士"はわざとらしく背後を取る様に、牽制を入れながら刃の傾きに導かれる儘に、援護し続ける。

 

 時間にして数分の事だっただろうか、瀕死の巨獣の抵抗もそれも長くは続かない。

 眉間に突き刺された双剣に再度頭を揺らされて。

 持ち手に逆巻き、打ち込まれた剛剣の斬り返しにその頚を断たれて、その身体を力なく地に伏した。

 

 それと同タイミングで風の帳が晴れた。

 

(なんだよ、これ……)

【聖錬冒険者:C級】【観■眼】

 絶句、その光景に惑う。その指は弦を引き絞ったままに離れない。

 理解できない訳では無い。むしろどこまでも現実的に常識を否定する様な舞踏だった。

―――"なぜ、自分はああじゃない"。

 彼にも吟遊詩人が運ぶような『英雄禄』に対する憧れはある。

 しかしとして、夢物語と冷めた目線も持ち合わせていた。

 これはそこまで派手ではなくとも、現実である。純人種の延長だからこそ、己に重ねて惨めになる。

 

「お疲れ様。何とかなったね」

「だいじょーぶ?急ぎ過ぎて怪我無い?アンタはあたしと違って頑丈じゃないんだからさ」

 結局、何もできなかった男は思う。

 中型のモンスター種のペアでの蹂躙。それは信じがたい光景だった。その力はどうみても『魔具』に担保されたものではないのである。

 見た目から言って、おそらく年下だろう"双剣士"に"重剣士"と己は何が違うというのか。

 

 生きる世界が違うなんて言葉が心をよぎり、心が淀みが生まれる。

 半面、理解はしている。

 何処か真面目な気性を捨てきれない彼は、自身に巡る辛い事に言い訳ばかりを重ねて、何もしてこなかったと心の底で薄く感じている。

 

 人は環境に形作られる。

 ゴルがない。知識をつける余裕がない。そして支えてくれる家族がなかった。

 町で見かける富んだ煌びやかな人達に嫉妬して、世の中不公平だと呟いて、日々の辛い出来事は酒を逃げた。

 そんな男の感傷などどこ吹く風に、周りは進んでいく。

 

「あー、そっちも終わったすね。よかったよかった」

「ふん。やるじゃねぇか。へへ、そうじゃなきゃな。やり合いがいがねぇからな」

「……やりませんよ。僕に得がありませんし」

 もう片割れの"満月熊"(リングマ)も、順当に片づけた様であった。

 巨体に残る鋸傷の様な多数の疵跡に、脳天に突き刺さった杭の様な刀から、同じように脳天の急所を狙って殺したらしい。

 

 その後に、協力して仕留めたモンスターの解体を行い、調査する。

「んー、特に変わったところは見られないっすね。変異種の発生は並行してないみたい」

「コッチも、水源の汚染の兆候は、ナイデス。属性値もそこまで濃くハ……」

【双剣士】【スキルソフト:検体知識】・【セージ】

 

「ン……?ちょっと待って、神経の辺りに絡み付いたようにあるこれってなんでしょう」

【円環の蛇】

 しかし、腑を分けての解体がその髄に、脳へと至ろうとしたところで、明らかな異物が見つかった。

 珍しい物好きの"白耳の魔術師"が真っ先に食いつく。

 

「どれどれー、んー冬虫夏草……?いやなんというか蛇みたいな感じだねー。無機物な感じもするけど、寄生型の生物かなぁ」

【レアハンター】

 神経に根付いていた、謎の遺物である。

 どういう物かはわからない。どういう機能を持っていたかもわからない。

 

「とにかく専門家に見てもらわないとわかんないっすね。サンプリングお願いします」

「わかりました」

 ガラス筒に入れて、劣化しないように特殊な水溶液に浸して、異次元バックに収納する。

 とにかく、確かな成果の一つだった。

 

 後は余裕をもって森の奥へと進んで、区切りをつけて戻ればいいと、奥へと足を進めるのだった。

 

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