ポンコツ世界異聞=【終幕を切り刻む者達《ハッカーズ》】 作:きちきちきち
『脈動する大豊の森』
―――重剣士、ローズの視点。
雑踏を掻き分けて森の奥へと進んでいく。
決して満たされて塞がれていない進路、微妙に違和感を感じてくすぐったさを感じるだろう。
拡大した森林地帯は視界が悪く、只管広大であり、一足跳びに多くは把握できない。
「あーもうっ、いけどもいけども森ばっか!風が淀んでイライラするわね」
重剣士の女は、只管青い青い匂い、自身の鼻も利かない鬱蒼と森の風景に退屈の溜息を溶かしながら。
その先で、苦笑いしながら"相棒"である双剣士は、合同依頼に行動を共にするセージの幼子と、
「背後の警戒は任せて大丈夫か?」
「……あぁ、野外活動なら少し経験がある。それくらいはやる」
【罠師:弓使い】【野狩人Lv1】【■■眼】
何か引っかかるものがあるのか、少しぶっきら棒な様子で典型的な軽装を纏った男は応じた。
弓も多少扱えるという男は、危機感からか多少の機敏によく気が付く様子があった。
単純に警戒の目が増えるというのは、調査にも有利なことである。
『複合式羅針盤』
話を聞くに、手元を見る方位磁針も、地属性と森属性の活性化にその針は空回りし機能はしていないらしい。
少なくとも磁場は狂っている。
おかげで日の位置を用いた方角の観測に、紙と墨筆を用いた原始的なマッピングが欠かせない。
そして森での雑踏は、同じような景色の連続だ。彼女は迷わないように目印にぼろ布を木の枝に巻き付けていくのを手伝う。
「―――!、気を付けテ、その花ハ、毒です」
【セージ】【バッカ―Lv2】・【野狩人Lv2(3)】
ああ、森の中は様々な異様に脅威に満ちていた。
時に以前の環境情報にはない、振りまく花粉に毒性を持った花々が悪意ある隠れ方をして群生していた。
時に汚染された水源が、岩の谷間から染み出していた。
時に木々に葉を腐らせて積もった地面が、足を取り進行を妨害してた。
依頼に挑んだ『隔離領域:烈風山脈』程の極端な環境ではないが、所々にその毒性を滲ませているのである。
そして比較的緩やかな活性化には、そのまま原生生物の氾濫を生んでいるのだ。
時にこの規模の森には不自然なほどに、小型・中型モンスターの群れを発見した。
時に以前には、生息が無かった種別の生物の発見が見受けられた。
『蟲煙草』【精霊術】【固有魔法:蛍火】
煙を吹かせながら、術師が停滞させた風の流れに精霊を引き寄せる"相棒"の炎を混じって。
【精霊術:
変わらずに空気を淀ませた気配を馴染ませる。
「―――んー
「ッケ、なら都度斬り倒せばいいだろうよ。まどろっこしい」
「そうもいかねぇよケネス。継戦限界はある。あまり踏み込めぁ戻れなくなるぞ」
先方を行く『邪剣士』の愚痴に、諫める侍の男の声が響いた。
あぁ、その通りに一団には信頼に足りる戦闘特化の人員が多いとはいえ、その存在を迷彩している魔術師には限界がある。
避けれるなら戦闘は避けるべきである。これは大原則だというのはわかっている。
カイトとて、戦闘の際には初歩の延長たる
余力を見据えて、内に巡るオドの使用を節約して振舞っている。
「!っ前方、獣型のモンスターだ」
『シャアアアアアア!!』
「!、こいつらは『肉食コアラ』デす。練気を遣う拳からの下段攻撃に気を受けテ!」
【セージ:魔物知識判定】
【肉食コアラ】
小型種の獣に発見され、唸り声と供に進行方向に立ちふさがる。
数は5匹ほどか、二足歩行、鋭い爪でなく、硬い拳を構えた風変りな獣である。
【精霊術:気配迷彩】
この迷彩は視認されては意味がない。あくまでこれは嗅覚に対する隠蔽の予防である。
避けても避けても時々にこうして排除し合うしかない。
「お、やるか?いいねぇ据わった目をしていやがる。退屈させんなよ!!」
【肉食コアラ】【野生の武闘派】【樹登常態】
『仕込剣:蛇乱螺牙』【変幻の太刀】【戦闘狂】
邪剣士の男が獲物の一つである蛇腹剣を抜いて、誰よりも早く駆け出して斬りかかった。
冒険者ケネス・レイの獲物は、『闘技場』で借用していた鈍らなどではなく構える
その足運びは無駄なく地を巻き上げ勢いのままに―――牙が重なった如く蛇腹が弾けて重量を載せて伸び弾けるのである。
その斬撃は射程を持ち合わせ、唸り声の如く音を混じらせ、上段から斬り下ろす。
大地を割る自身の獲物の特性を活かした鞭の様な一瞬の接触斬撃、蛇腹剣使いの典型的な牽制である。
【バトルスタイル:撲森具】《ボクシング》【練気拳】
それを獣は躱せないと判断したのか、背後に距離を取りステップに踏み込んで……。
そして目の前の男が、その大振りに隙だらけとみる。
『シャアアアア!!』
【リバーブロー】【クイックステップ】
風を受け流しながら潜る、脆弱な人間を壊そうとその握りしめた拳を叩き込もうとする。
「―――へっ、獣は単純でいいな!」
【魔法剣:インパクト】【変幻の太刀】【怪力:万力握】
大地を割った衝撃のまま、その邪剣は反動で"跳ね"上がる。
踏み込みからの円弧の引き戻し力技の類だ。制動するのはその両腕と剣技、二足の獣を袈裟に切り捨てた。
それはまるで竜の尾が如く。甲高い音を奏で牙が噛み合うように元の形に戻っていく。
「っけ、たかが一振りで死に体になる牽制なんてある訳ねぇだろうが」
"ケネス・レイ"の獲物である『仕込剣:蛇乱螺牙』はモンスターの素材を利用した生物剣だ。
刃の切っ先に重量が傾いた、伸縮機巧を持つ、蛇腹剣の類である。
元々にこの剣の
【変幻の太刀:弧月斬】
その引き戻ろうとする力を手にて握り締めて。それを手首の柔軟と誇る剣腕により"制握"する。
遠心の流れを握り続ける武理である。
更に、魔法剣による時差発破の方程式による外部衝撃の付与がとの合わせ技、名前に反した力技による自在、実態に彼が"変幻の太刀"と呼んだ
半面、その荒々しい剣の扱いから、切れ味はなく鈍器のごとくである。
グシャッ!
骨が砕ける鈍い音が響く、獣は衝撃に吹き飛び荒い剣疵に倒れたのが見えた。
これも蛇腹
「オウ、初撃で決まるか景気がいい、この勢いのまま畳み掛けるぞ!」
【贋・神鳴流】【アームズマスタリー:刀】【瞬歩】
強引に流れを一気につかんだ。それを傍目に流しながら、続いて足を踏み入れるのは侍被れた男である。
刀を水平に構えて、男とは違ったすり足めいた歩法で距離を詰める。
"砂嵐三十郎"は、侍の流儀に憧れながら生来に雷属性を持ち合わせていない。
被れ故に神鳴流の生体電気の活性化を"魔具"で代用している。
そして、本来の神鳴流の風聞だけをもとに組み上げた我流剣体技の類である。
砕かれた仲間に、少し呆気にとられた獣の喉元に。
『―――ッ!、シャアアアアア!!』
【肉食コアラ】
しかし反応する。瞬きのごとく刃が奔って、獣の拳が交差し合う。
数打の競り合いが実現して―――
「一意専心にて岩をも徹す……、チェリアァァア!!」
【贋・神鳴流:斬岩斬】【ストライクバック】【スピリットオブサムライ】
腕、腕、胴に続く三練斬撃。
カウンターを強引に、見据えられたリーチと身体能力に任せて斬り捨てる。
"砂嵐三十郎"は魔具による生体電気の活性化により、魔物に比類する如く身体能力もあるが、風聞に聞こえただけの"神鳴流"の構成要素、心・技・体を物にすべく鍛錬を重ねている。
そして、彼は専心を入り口として定義した。
ああ、迷いなく獣の腕程度切れても当然だともいう如く、刃を振るいきって。
モンスターの練気で岩の如く硬化した腕を丸ごと断ち、致命打を叩き込んだのである。
その背景に。
「んー、力業で制御する、剛剣の類かと思えばどこか違う。一度やり合ってわかってたけど強いのねー。ほんと」
「そうだね。どちらも踏み込むのに畏れがないタイプ、もしまたやるとしたら恐ろしいね」
【重剣士】【カバームーブ】
冗談めいた会話。一方、重剣士の女と双剣士は剣を向けて、踏み出しに残りの群れの牽制し獣を留めていた。
本来なら適度に休憩を挟むのが一番良いのだろう。
だが、陽が落ちるまで換算して活動する為、時間には限りがある。その為、体力の温存を役割のスイッチにて強行していた。
その戦闘を目にしてローズは、個人的に思うところがあった。
「ふーん、あたしは"魔法剣"使えないけどさ……、重量物の反動の卸し方ってああいう使い方もあるのね」
「ん?ああ、まぁ握りは脱力が基本だと思ってたから、ああいうスタイルは珍しいね」
【剛剣技】【打ち返し:リバウンド】
呟いた、彼女も反動にて制御する剣技は身に着けている。
物体の芯をその衝撃による跳ね方を、理解する程度の直感から派生する"斬り返し"の剣である。
そして侍風の男の、身体強化の方法論、専心にてなされる鋼の刃による岩断ちに近づこうとせん剣。
どちらも方法論に似通うところはある。
(―――これ以上、アイツ置いてかれるわけ行かないもんね)
それは今の所、手腕の構えにて完結しているが、それ以上を求めて。
直感派の彼女は目にしたそれにて反芻して己のイメージに変えていこうとする。
【狂羅輪廻:定着】
ローズが思い返せば、かつて
既に、"相棒"は己の身を顧みず迷いなく敵対者の最悪に前進を緩めず、その刃と伴に踊り抜ける。
―――そんな悪い癖がついてしまっている。
その癖を否定する程に、大剣士の少女の足は追いつけない。
(足手纏いなんて、冗談じゃないんだから)
【努力の才能】
彼と彼女は少し前まで、得意の差はあれど互角であった。
しかし今は彼の方が歩みが早い。焦りがあった。
"相棒"のカイトは死神と対峙したあの夜を境に、格段に何かを違えて突き進んでしまっている。
そんな少女の感傷は置いて、状況は進んでいく。
「おう、こっちは片付いた後は手筈通りに挟み込んで殺すぞ」
「はいっす!じゃあこっちも仕掛けましょうかー、こっちから合わせます」
【
数的有利に転じた、あとは"人もどき"の技術を持つモンスターは囲んで、挟んでしまえばいい。
修羅の一角たる彼女はその尻尾を隠していた、突出はしない。
難しい事はない、それが一番楽に殺せるというだけ。
この程度のモンスターならば、本能での利を覆す対処は出来はしないのだから。
お互いの呼吸を意識した、連動する動き、3つ影がまた瞬く間に動く。
ヒュン、ザガッ!!
【双剣士】【俊足】・
有利に、容易に練気の岩の腕を無視してその背から急所を斬り裂いて倒したのである。
構えを持ち合わせた"人もどき"の特性が、逆に仇となったともいえる。
「よっし、これで終わり!構えが妙に堂に入ってたけど何だったのかしら、人間もどきってやつ?」
「お疲れさまー、珍っしいモンスターだったけど、今度はすんなりいったねーいい感じ♪」
【ハーフエルフ】【レアハンター】【理性蒸発】
白耳の帽子を振り回し、ミストラルの快活な声が響いて、勝利のハイタッチを交わした。
この氾濫現象である、目に映るものが物珍しく、その目がキラキラ輝いている。
ハーフエルフ故か、森に活力に影響を受けて、併せてテンション上がり続けている様であった。
辺りに静寂が戻ってくる。
「このモンスターは、爪と毛皮が優良な素材なハズ……、爪なら手間なく剥ぎ取れマス」
「うん、ありがと。剥ぎ取った後は早く移動しましょう。今は誤魔化してますがモンスターが血の匂いに引き寄せられます」
【セージ:魔物知識判定】
戦闘後に、躯から最低限の素材を剥ぎ取る。
彼等は獲物の血と油を軽く払い、鞘にしまい後の躯を放置してその場を後にした。
そんな調子で、何度も襲来するモンスターを適度に相手をしながら。
一行は、森の奥へと歩いていく。
「ところでよ。道先案内の二人よ、日の傾きはまだ大丈夫か」
「大体行けて、あと1時間程度ですかね。これは僕らの共通見解です」
「……あぁ、それ以上は戻れない」
役割、測定したマナ属性と影から、導き出した概算の結論。
この世界で野外活動する為の基本知識だ。算術のない在野であろうと経験から人間なら正確に導き出せる。
「そりゃ無理だな。程々に切り上げるとするか」
「ええ、森の中心を目指すなら、広範囲の調査でなくバックアップを受けた強行か。それかこのモンスターの縄張りに中継地を立てる必要になるっすね」
この森は広大であり、足場が不安定で、さらにモンスターも多かった。
これでは異変の中心地まで辿り着けない。調査依頼としてはそれでは不足である。
「現実的なのは前者だな。ここまで活性化した森だ半端だとすぐ崩される。人も手間も金もまるで足らん」
「あー世知辛いわ。こんなところでも金ねぇ」
そんな会話をしながら、戦闘のたびに陣形を組みなおして。
一団は森の奥へと足を進める。
―――しかしその先に、異質なものが見えた。
森の切れ間の窪地、突然開けたそこに突然現れるのである。
「なに、これ石像?」
"相棒"から思わず困惑の声が漏れる。
何をモチーフにしたのかも定かではない"精霊像"、台座に宙に浮く石像である。
鬱蒼とした氾濫する森の中ではあまりに異質な人工物である。
そして何より異質だったのは、その根元にあった。
「どう見ても宝箱よね、なんだってこんなところにあるのよ怪しい匂いしかしないんだけど」
そう、古びた宝箱である。
それはもう物語に出てきそうな、典型的な宝箱であった。
「おー……!見て見て皆!宝箱だよたからばっこ♪ぼく調
査に
「はいはい。危ないからちょっとおとなしくしててねー」
【探索者】【レアハンター】【理性蒸発】
o(≧▽≦)oと。
例外的に、一行の中で好奇心に生きるミストラルの目がキラキラと輝いている。
ぶんぶんと白耳の帽子を揺らして、押さえつけなければ、まさに今にも駆け寄っていきそうな勢いを感じさせた。
付き合いも長い。その手をつかみ取って抑える。
どう考えても、何かの罠と考えた方が自然だった。
「で、どうします素直に開けますか?」
「もちろん、遠方からその箱を破壊するっす。中身ならそれで確認できる。壊れたらその時はその時でー」
「えー!?」
【ギルドナイト】【夢幻羅道】
自然にそういう結論になった。
大事なのは中身がだった。壊れようと、その正体が情報として確認ができるだろう。
「というわけだ、そこの弓使いよ。遠くからばーんとやっちゃってくれ」
「……矢はあるが、経費として出るか?」
「あぁ、もちろんこれは必要経費だからな」
【クランリーダー】・『爆弾矢』【弓使い】
"罠師"の男が矢を番えて構える。
これは男が護身用のとして持っていた起爆性の鏃が付いた矢だった。手持ちは数発もない。
導火線を抜く、狙いを定める。
(……、成功報酬で箱の中身でも要求すればよかったか、いや欲張りすぎだな)
【C級冒険者】
不純な思考がよぎる。男とて、この宝箱の中身に興味はある。うだつの上がらない冒険者である。
一発逆転という夢物語への魅惑。転がってくる安易な幸運に興味が出てしまうのは人間の性といえるだろう。
―――ヒュュュン!!
雑念を含みながら、番われた弓は少しずれた軌跡を追ってその宝箱に飛来して。
ドォオン!!
予定通りに炸裂した。
鏃に仕込める程度の火薬に、増幅材となる魔法石の削り粉では大した規模の爆発にならない。
例えて、ミストラルが扱う二章級魔法と同程度だろう。
「よかった。あの"石像"で変な結界とか張られてなくて」
「ううう、私の宝箱……」
「しょーがないでしょ。こんなところにある宝箱なんて、怪しいのに近づかないのは冒険者の鉄則なんだから。ほら元気出して!中身が壊れたとは限らないし確認に行きましょ」
と。
粉塵が晴れた先に、無事に上蓋半分を破壊された宝箱の姿が見えた。
彼女が求めたのは形式美を含まれている。好奇心を満たす未知の一瞬を求めて冒険者となった変わり者である。
故にこういうシュチエーションは大好物だった。
「そだね!見せて見せて、ボクが一番最初に確認するんだからー!」
ヘ(*゚∇゚)ノ と。
半壊したとはいえ、目の前の宝箱は確かにある。
ミストラルはすぐにけろっと立ち直り、陽の如く笑顔を取り戻して駆け寄った。
そして半壊したそれを覗いて罠を一応確認する。
『毒針』
そこには毒針のカラクリ仕込みが見えたが、今の爆破の衝撃にその機能を失っている様だった。
随分と乱暴な解錠である。
「ふふん、さぁごまだれーっと♪」
ぱかっと。
形式美にリズム良く電波な言葉を口ぐさんで、形だけでも勢いよく開くのだった。
「おー、なんだろこれ、カードそれになんかきれいなお皿が見える!それに―――」
『虹色のレアカード』『緋ぼかしの皿』
中身は、完全に誤魔化しようもなく宝箱そのものである。
単純に古めかしめいてキレイな"マナ細工"が二つ、こういうものは好事家にとって価値があるものだ。
しかるところに受け渡せば、相応の値段で換金できるだろう。
そして何より目を引くのは。
底の方にしまわれた鈍い銀の光を放つ、器具である。
「それになんだろ"魔具"……?この機械質なミスリルの配線見た限り、ボクの
「―――!」
【店主】【レアハンター:鑑定】
その言葉に興味ないと装っていた"罠師"の男が反応する。
そしてそこにあったのは、腕につけるプロテクターの如く見た目をした由来不明の魔具が一つである。
(っく……、幸運だ、まるで物語の様な幸運じゃないか)
『バウンサークラブ』
その見た目は、有り触れた安物のDランクやCランクの魔具とは明らかに質が違う。
この手に欲しいと胸の奥が鼓動し騒ぎ立てる。
実際にどういった代物であるかなどに意味はない。何をせずとも転がり込む幸運は己の運命を照らしてくれるという想像は、生きる事の辛さを誤魔化した夢遊の如くである。
圧倒的な上級魔具への憧れは、底辺の冒険者にとって有り触れたものだろう。
ずぅん……ゴォン!!
【アイテム神像:投影解除】
そして宝箱を当てた途端に、"精霊像"は力を失って、その姿を空に溶かしていくのである。
これは虚像、マナに投影された物体であったらしい。
「なんでぇ、てっきり召喚式でも仕込んであってバケモンでもお出ましかと思えば、中身まで詰まってやがるのか拍子抜けだな」
「やめて冗談じゃない。一部中身は壊れちゃったけど、大体は問題ないっぽいかな」
「しっかり、罠があったわねー。安心していいやら悪いやら、不自然すぎるのはかわらないけどさ」
一行の流れる会話の背後で、ただ"魔具"を注視する彼は思った。
(俺だって、俺だって、チャンスがありさえすれば)
【Cランク】【無乏の嫉妬心】
しかも、今の"罠師"の彼には先ほどの双剣士の振る舞いが焼き付いていた。
あの"舞武"はどこまでも理解のできる純人種の延長に、彼がいつも甘んじてる現実を否定して見せた。
ああ、閉塞感。恵まれたものへの暗い羨望が渦巻いている。
半面理解はしている、己は価値のあるものを何も積み重ねていないという事を。
故に余計に、幸運にすがりたくなるのだ。
そんな感傷はさておいて。
「んー、なんか
【エクスマキナ】【多目的ハイパーセンサー】【プラグイン:一般知識(魔導時代)】
双剣士の、ナツメは目を細めて怪訝な表情で呟いた。
元々に潜入目的の戦闘型"エクスマキナ"として、魔導時代に設計されて眠っていた彼女である。
その時代の大体のある程度の水準の知識は"プラグイン"として埋め込まれていた。
そこから合致し、思い至る発想である。
「まるで
そう、表向きには魔人が始めた一つの
「この環境変動に、モンスターの氾濫、明らかに人為的に用意された報酬。それと似たような雰囲気を感じるっす」
「はあ?そんな時代錯誤な事を実行できる奴がいるってかってのか、あり得ん。仮にそうだとして何のためにだ?」
「まだわかんないっすけどねー。まだ一つの感想っすよ」
少なくともこんな事が出来るのは、おおよそ個人の範疇ではない。
その言葉を聞いて、カイトはある懸念に思い当たる。
―――"魔王級"と評される弩級の侵略者の襲来。
聖錬南部を騒がせた"異変"の事。
いまだ全体が掴めないそれは、カイトはまだ終わってなどいないと確信しているのだから。
「……こっから先は国の騎士様とやらの仕事でいいだろ。なんで俺らがそこまでしなきゃなんねぇ」
「その国が動く論拠を掴むのがうちらの仕事なんですけどねー。まぁ無理しない範囲でぼちぼちやるっすよー」
軽いやり取りの裏で、若葉色の少年は、辺りを見回す。
何もない、ただむせ返るほどの緑とマナが辺りから溢れているだけである。
(……あの忌々しい侵略者の、"ノイズ"は、ない。ただの杞憂だといいのだけど)
息をのむ。【腕輪の担い手】たる彼は、電子世界を認識する"第六感"を有している。
失われた技術の織跡たる『碑文八相』は、その理たる法定空間を押し付ける際に、それを発現させるだろ。
この原理など理解はしていない。ただ鬱々しくこびりついて銀砂の嵐、認識をかきむしるそれに重なって、イメージとして一致してしまっているのだ。
【世界■の方■式】
変化はない。森は静かに凪いでいる。
むせ返る様なマナの匂い、おおよそ小人の疑念とは関係ないと如く悠然にだ。
そして、周囲がざわつく。
「ふん、今はそんなことを気している場合じゃない様だ。さっきの爆破でモンスターを引き寄せた。元々の予定通り速くずらかるぞ!!」
「先導します。そこまで集ってこないと思いますが、はぐれないように気を付けて!」
「あいよ!さっさと斬り抜けるわよ」
【レンジャー】【野狩人Lv2(3)】
爆音にモンスターが反応したらしい、日の暮れも近いのだから。
撤退である。それぞれの獲物を構えて進む。
記憶したモンスターの巣とは重ならない、比較的安全な道筋を目印の枝木を併せて頭に思い描いて、選択して進んでいく。
こう言うことは、カイトの得意な感覚である。
自然と半共生するしか生きる道のない田舎育ちと、ただ修羅場に鍛えられたレンジャーとして技能。
時に現れたモンスターは時間差の連携に斬り捨てて、先に進む進み。
そして、予定通り日が暮れる前には、森の外へと脱出することができた。
こうして、彼等の異変地での調査の一日目は終了するのであった