ポンコツ世界異聞=【終幕を切り刻む者達《ハッカーズ》】   作:きちきちきち

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静寂【蜃気楼の侵略】

『脈動する大豊の森』

 

 滴る様に光溢れる、何処かの大樹を中心とした幾何学空間があった。

 

『―――第一ラインに、到達者を感知』

 どことも知れぬ暗闇の中、波をさわだてる様な高質な機械質な音が木霊する。

 高く聳える幾何学模様に侵された大樹の麓に、その根が蔓延る地中にそれは存在していた。

 曲線フォルム、肥大化した両腕に、長い長い蛇尾から延びるの如く葉の節を特徴とする異形である。

『黄昏の碑文:休眠状態(スリープモード)

 巡る紋章が脈打つように光る、それは繭に籠っていた。

 機が熟すまで自身の端末の数が十分揃い、そして"司令塔"としての自身の躯体が十分に成熟するまでである。

 

 理由は予測の修正だ。禍々しき波の先兵たる『死神』(スケィス)、波の広げ手たる『惑乱の蜃気楼』(イニス)の早期の失墜にて当初の想定より相当に早い。

【英雄招来/禍々シキ波】

 その為に、設定された機能の晩成まで遅らせたのである。

 足りない、設計者が想定した災厄に至るまで、役者が輝き女神の救いを希求する舞台まで作り上げる大きな津波には到底足りしないのだから。

 

 大地が、軋むように巨体が蠢いた。

 最奥の地中に隠されたその蛇の如く躯体は、今は半休眠状態であるのも併せて周囲への影響の発露を遮っていたのである。

【世■樹の方程式】

 繭から根が伸びる、脈打つように周囲へと影響を与えて環境のコントロールをなしていた。

 これは自身の躯体の幹を中心に発生する、葉の端末による使い魔を用いて周囲を制圧する能力である。

 更に外部機関により吸い上げ、ただ増殖させ続けるゆがんだ円環。

 

 破綻するまで過増殖を繰り返し、枯れれば次の大地に移り、次の環境をも汚染するだけだ。

 

『―――フェーズ進行、アイテムの散布、ワームの流布を加速させる』

 『増殖』が構成する"自己生態系"に、その奥に何者かが到達したのを察知した。

 これは想定の内である。定めたそれを餌に有象無象を集めて、その段階は次へと移行するのだから。

 

【邪魔具】【A■DA:躯体寄生】

 これの創造主にとって釣り餌に用いる魔具など、なんの価値などない。

 数ある埋もれた旧魔導文明由来の生産プラントから、産出される量産品、その程度のものだ。

 しかし、その性能はとある要因から、効率化をなすだろう。"可能性の翼"を纏った『魔鎧使い』の女のように、この時代においては十分に強力なものとなりうる。

 その由来は■■探■を理念において、■り出された寄■体、好■心を源泉に自■進化を繰り返す群■生命体。

 寄生対象への感情に伴うオドの尖鋭化も併せて、その性能を習熟とともに理論値へと近づけるだろう。

 

 想定する。フローを模索する。

『―――ガが、想定する領域染色まで、30%の遅延、フェーズの移行には問題はないと判断』

 その存在にとってに想定外(イレギュラー)の塊である、布石の修正として領域に招いた聖錬の英雄代表たる戦姫筆頭(四端)が一人『応竜』はやっと封じた。

 しかし、拡大した"自己を中心とした生態系"は、この存在一つに散々に踏み荒らされた。

 

『―――あぁ、私が何処で何者かもわからないが……』

【記憶破損】

 よみがえる。毒々しく見開いた紫水晶の目が、射抜き貫く。

『目の前のこれはただ敵か敵だろう、なぁ?!』

【一騎討殲】【虐殺の主】【常時破顔】

 記憶がはがれようと、己で招いたそれは飢えた飢鬼の如く、翡翠の姫である。

 半死人であるのに関わらず、その風は襲い掛かる魔物の猛威を反らし、張り巡らされる糸は肉という肉を破砕し、その"聖杭"は命を巡らす在処を貫きて塵飛ばした。

 

 数の優位などなかった。湛えた笑みに壊れかけの身体を軋ませ血反吐を吐きながら、欠けて失われる熱を魔法知識に巡らせながら一つ一つを真摯に塵殺するその姿に、『聖錬』に謳われる"英雄"の姿を重ねる者はいない凄惨な殺戮劇だろう。

 

【領域作成:禍々シキ波】【メイガスリーフ:二四ノ■瞳】

 領域の支配者たる蛇は、どこまでも暴れまわるそれを、世界樹の幹に封じた。

 休眠する本体を一時的に稼働させ、切り札の機能たる一つたる"破戒"/"不全"とする投影魔眼を交えて。

 急成長させた環境の楔である"世界樹"をもって取り込んで、やっとのことで封じたのだ。

 

 その被害は計り知れない。

 

【メイガスリーフ:陽属性】

 遥か高くそびえたつ『世界樹』生態系を巡らせる中心点を、"葉の端末"(メイガスリーフ)が周回する。

 その姿を陽属性と地属性から成る変更率の操作に、その巨大さを隠蔽するのである。

 

 周囲の環境に■■を伸ばしながらも、残響は響き渡る。

 

―――まだ、まだだとも!!まだ終われない!

『ピが、ガガガが』

【光耀渇姫】

 何度も何度も追い詰めようとも聞いた掻き切れ血に滲んだ声が、その電脳に響き続ける。

 ある種無垢なそれは、■怖を刻まれたことを悟ることもない。

 

『――― "半存在"(クビア)の代替え、"四端"『応竜』の染色、中心核に進行中―――』

 墜ちた英雄、彼女の利用法は決まっている。

 魔導文明由来の魔具、"可能性の翼"からなるその機能から修復するのはそれらにとって容易い。

 その過程に染色を施し要所において試練として任せよう。

 創造主からの指令(オーダー)に、機能にはない。あってはならないハズの疑念を抱いた。

  "ここで破壊した方が良いのではないか"かという疑念である。

 

 にじみ出るエラーを無視して、機械的なロジックを進行させる。

 しかし、新たに与えられた使命(オーダー)である"介入者"の探知のための端末も十分に揃った。

 

 不確定要素はもはやないと試作する。

 身体を起こす、更に地中に根が巡るマナの循環が加速する。駆体から分離した使い魔である”葉の端末”(メイガスリーフ)文様が浮かびあがり、それぞれ散って潜んでいく。

 

 新たな侵略者、魔王級『英雄招来・禍々シキ波』。

 "天を摩す波、その頭にて砕け、滴り、新たなる波の現す者"、それがこの存在を示す(アザナ)である。

 

【碑文八相:増殖】(メイガス)

 まだその本体は静かに、その悪意を潜ませているのだった。 

 

 

 

 

 

―――所移り変わり、氾濫地の郊外。

 氾濫し拡大する森林の境界から一キロ程度離れた丘陵地点の事。

 

 時間帯は陽が落ちた夜、静寂に満ちる件の異変の森の外周部に、彼等一行はいた。

 夜の暗闇は基本的に人間の領域ではない。

 調査も早めに切り上げて、"別動隊"と合流して、調査の為に急造された防護柵を中心としたキャンプ地に、野営用の簡易テントをそれぞれ広げていた。

 

 それが形作られるのは、まだ日が落ちる前の事。

【聖錬冒険者:土方の経験(ノウハウ)

 基本的に安定地である『聖錬』において、戦闘特化を自認しても、モンスター討伐の依頼はそう多くない。

 最底辺である冒険者は身体が資本だ。

 よって身近な肉体労働の依頼はまず"土木作業"となるだろう。

 貧した真っ当な下積みを重ねた冒険者であれば、大概が所持しているだろう経験則である。

 

「さて、こういうも久しぶりだねー!魔物除けの呪い(まじない)はここを中心に仕掛けるからよろしくね☆」

「わかった。ローズは木を伐り倒してきて材料が欲しい。あとは僕等で杭に加工するから」

「あいよー、力仕事はお任せってね。さて気持ちよく気張ってフルスイングでいきますか!」

【魔術知識Lv2】・【レンジャー】・【錬気法:マッスルベアー】【怪力】

 それはカイト達も例外でない、そうやって日々を生きてきたのだから。

 手慣れた様子で、効率よく得意のそれぞれの事の役割分担に作業を進めていったのである。

 

「うーん、こういう時には私はあんま役立たないっすねー。警戒しながら、柵の杭でも撃ち込んで掘るっすかね」

「では私は呪いの手伝いでもしようか」

【多目的ハイパーセンサー】・【陰陽術Lv3】

 別動隊の魔術師要員として、別行動したガルデニアも合流していた。

 そちらで動いていた冒険者は役割ごとに、八名ほどを一団(パーティ)として動いていたのである。

 それが合流したため幸い、人足は十分にあった。

 

 一刻も立たないうち流れるように、使い捨ての簡易キャンプ地が形成されたのである。

 杭には張り巡らされた鳴子を括り付けらえた。雑多に並べられた木柵、元々そこに据えられていた樹に括りつけられた梯と木台が、高所からの見張り台としての機能していた。

 

 最低限の用心としては十分なものだろう。

 

 そして、そこに落ち着いて、今日の探索の成果に関して合流した彼等は話し合っていた。

 なお興味がない者たちは、既に明日に備えて眠ってしまっている。

 その中には、"戦闘狂"であるケネスのように、考える事を他に任せて放棄している輩もいれば、事前に決められた依頼の拘束期間である"3日"を、無難に過ごすことに終止するしようとする冒険者もいた。

 

 パチパチパチと火は跳ねる。

 火を通してたお肉に、活動に足りないもの煮詰めた塩辛いスープをそんな簡単な食事を取りながら。

 

「あー疲れた!流石に一日中身体を動かすと疲れるわね」

 ローズが大剣を背負った勢いよく背を伸ばして、気の抜けた声が響いた。

「さーて、今日の成果を整理するとするか、どうっすっかねぇ、初日の探索としては結果としても上々だろうが」

 既存に描かれた変異の前の森の地図に、彼等が描いた不揃いな手書きの地図を並べて、それを眺めながら。

 それぞれに、今日一日の総括として、疲労が残るまま適当に言葉を交わした。

 

「にしてもへんてこだよねぇ、この大概の生き物にこんなのが寄生してるなんてさ」

「ぱっと見た印象だが……神経に似ているな、嫌な感じだ。しかし、こんなもので生き物の行動を支配できるとは思わない。せめて誘導する程度だろう」

「とにかく、ここの生き物の肉は食わない方がいいだろうな。気味が悪い」

【元・奉納巫女:医療知識】

 バッカ―資格によって所持が認められる、『異次元バック』から、取り出して。

 時にモンスターの遺骸から採取して瓶液詰めにした、網を覆うように伸びる蛇の様な物体を揺らす。

 彼等は専門家ではないために、感じたままに言葉を漏らすに留まるしかない。

 

 そして。

「……宝箱だと?こんな場所にかおかしな話だ」

「皆そう思ってるわよ先輩。中身が本物だったのが、猶更に胡散臭いわよね」

 モンスターに寄生する蛇状の生物の話に繋がり、あんまりに不自然すぎた宝箱の話に繋がって。

「まぁ、それでも回収しないって選択肢はねぇな。調査対象ではあるし、他の連中が納得しない。それに『ブルーブリゲイド』(俺ら)も余裕がある訳じゃない」

 最底辺である、ある程度群れたとはいえ足りないものは多い、放浪者のクランであればなおさらだろう。

 幾ら、怪しいからと言って手にいれた価値あるものを捨て去ることなどできない。

 

「こちらの一団では、"宝石を皮にする"植物を発見した。そう言う生態の植物を聞かない訳ではないが、それにしては"価値のある"モノばかりを吊り下げていたように思う」

 特段に珍しい事ではない。この世界はミカンが飛んだり、植物が歩き出す世界である。

 大地に微小に含まれるそれをくみ上げて、結晶化する樹はありうるだろう。

 しかし、その襟好んで人間にとっての価値を身に纏う植物があるとすれば、不自然さを感じざるを得ない。

 

 そこから話して、前進するものはなかった。

 そして、その中で大きく発展したことと言えば……。

 

「エット、少し、良いでしょうカ?」

 "セージ"と役割(ロール)を名乗る幼子、"ホタル"が控えめに声を挟む。

 

「えっと特に変わった特徴、持ち帰って検知器に分析しましタ、天属性に似た珍しい"陽属性"の疎らな割合で含まれテ」

「"陽属性"……へーへーなにそれなにそれ初めて聞くね!レアもの?」

【碩学に連なる者】【セージ】

 まだ幼い賢者が話す知識に、反応して珍しい物に目がないのミストラルがぐいぐいと迫る。

 顔が近い、距離が近い。幼い彼はそれに照れながら言葉を紡いだ。

 

「えっと、エットお日様に光に微量に含まれるマナだと聞いて、人工に集めなけれバ発現しないマナ現象。おそらく、磁場の狂いもその影響デ……」

【レアハンター】・【幼子:女顔】

 "陽属性"とは、太陽光によってのみ発生するある種、天属性に似通った属性(マナ)の名称である。

 その"性質"の代表としては"太陽パルス"や"熱量の上昇"、"植物の発育の促進"、"発光性"などがあげられるだろう。

 ただし自然界では発生しても微弱、すぐに風属性や火属性、他のマナによって染められるため観測が困難と言われているといわれている。

 

「その、属性値の異常の要因が中心にあることは間違いなイ……と、思いマス」

 理性の蒸発した、その距離感に微かに頬を上気させながら、推測を語り切った。

 これが一般にはあまりに知られていなくても仕方がない。これは比較的新しい未解明の概念だからだ。

 周囲に影響を与えるまでに集積するのは、大概にレンズ等が必要となる"人工属性"である。

―――『聖錬』に数世紀の長く語られ猛威を振るった近年討伐された伝説の怪物―――

 ”星の魔女を捉えた伝説の化け物<月に吼えるもの>”(ダークマター)が見せつけるように振るった、人が区切った時の、七色の得意属性を起源に持つ、特に途上の人工属性の探求の学問である。

 

 しかし。

「すごーい!"人工属性"なんか、専門家の領域だよ。ホタル君かしこーい!カワ(・∀・)イイ!!」

「―――ンあ、むぐぐぐ!?」

【理性蒸発】【人妻:母性本能】

 なお、基本的に理性のふっとんだ彼女は予想を超えていた。

 衝動に任せて、抱きしめて猫かわいがり、こんな子供が欲しいなと言う母性も合さって抱きしめ、胸元に撫でまくるのである。

 

「うんミストラル、彼が困ってるから離れましょうかー」

「まったくもう、ミストラルほんとこういう時ブレーキ効かないんだからさー」

「むあー!」

ずるずるずる……。

 無邪気というべきそれを、カイト等は二人かかりで引き離した。

 名残惜しいのかバタバタする手足こういうのは、主に同じく幼子を象る"儚紅の少女"への反応で慣れていた。

 しかも彼女ならまだしも、相手はまだ幼く女子めいて容貌を持っているとはいえ、男の子である。 

 主に健全な青少年の何かがアブナイ。あらぬ方向へ歪んでしまう可能性があるだろう。

 

 そんなやりとりで緩んだ空気を。

 

「こほん、話を戻そうか。その"陽属性"とやらが自然発生することが少なく人工属性だとするならば、観測されたという事はこの現象が人の手によるものであるという可能性が高くなったわけだ」

 咳払い。ガルデニアそして緩んだ空気を締めて引き戻そうとする。

 中心に向かう程にそれが強くなるというならば、発生源である原因がそこにあるというのが妥当だろう。

 

「さて今回のこの程度の調査で、国は動くと思うか?」

「まだ、おそらく足りないな。少なくとも『聖錬』本国の属する連中は動かない。単純な、武力で何とかなる問題でもない」

 ここで指す聖錬直属というのは、有事における武力の代表たる『聖錬32将』の事を指すだろう。

 戦姫筆頭が四つ柱『四端』、前線にて最強を冠する『五傑』、過去に伝わる七英雄から継承された七つの冠『七冠』などが英雄として語られるが、『聖錬』における武力の象徴として軍隊としての実働的な戦力ではこちらが身近なものである。

 

「この氾濫した『脈動する大豊の森』は、今や複数の小国の境界線にまたがってるっすからねー」

「あぁなるほどな。誰もが率先して貧乏くじを引きたくないってわけか。新しい『隔離領域』が現れた時と同じだな。冒険者ギルドから情報が渡っても、動き出すのはまだ時間がかかるってか」

【流浪者】【旅人の知恵】

 同時に仕方ない事である。

 人類最大の生存域『聖練国パーラント』は"聖都"を中心として纏まった連邦というべき国である。

 広大であり、それぞれに力関係がある。これだけの頭数があっても十分とは言えずに、軽々しくは動けない。

 そして組織は巨大になればなるほどにどうしても鈍り、動きは緩怠になるものだろう。

 ましては今は廃れた『迷宮時代』(ダンジョン)との類似など、報告しても御伽噺の部類なのだから。

 むしろ『預験帝』のテロであれば、現実味が近い位である。

 

「まぁ、『牙の塔』辺りの暇人が異常にひかれて、ふらっとこっちに来ることを祈るっすよー。あいつら優秀だけど、その分に変人も多いっすから」

【自己変革:ペルソナ】【乙女回路】

 双剣士の少女は。変わらずその眼を細めたまま、軽く楽観的に言い放った。

 ここから先は、『自然調査官』などの"専門家"の領分だろう。

 属性の安定地である『聖錬』においては、一般には比較的に属性値に関する分野はそこまで専攻していない。

 むしろ、他の国がひどすぎるとも言う。

 

「とにかく、目的は決まりました。今日採取した属性の分布で『中心地』への推測ができます、明日からはそれに沿って探していきましょう。僕等にはこれ以上、どうしようもない」

「そっすねー辿り着くだけなら、空から直行って手もあるっすけどそれは目立すぎる。人為的なものが疑われるうちはやりたくはないっすね」

「え、そんなこと出来るのアンタ」

【エクスマキナ】【SUVウェポン:エア■アル■ラスター】

 可能性として少し漏らした彼女の残された数少ない、拡張パッケージ機能である。

 基本的に彼女は機能に生き方からその尾を隠してはいるが、必要な時に悪戯に隠そうとは考えていない。

 ただ微かに漏らす。この言葉だけで考慮には入るだろうと、その傍目におった動きから信じている。

 

「じゃーねー、また明日ぁ☆」

「元気ねぇ、ちゃんと寝なさいよ。寝不足は判断ミスの元なんだからさ」

 ミストラルの陽の如く元気な声が響いた。

 方針が決まった時点でお開きになる。明日に備えてバラバラにテントに分かれて戻っていくのだ。

 眠れるときに眠るのは冒険者の大事な仕事の一つであるのだから。

 

 

 火の弾ける音が消えて、夜は更けていく、嵐の前の静けさか。

 ただまだ時は静かに静かに。

 

 

―――『キャンプ地:樹上高台』

 

 既存の樹木に、木の板を打ちつけて土台に梯を括り付けた簡易的なツリーハウス。

 そんな単純な見張り台、そこにカイトと"罠師"(トラッパー)の男はいた。

 

「属性値は異常なし空気は冷えるけど、静かなものですね」

「そう、だな」

【レンジャー】・【罠師】

 何処かぶっきらぼうな相槌、カイトはここで、自身の獲物である双剣を磨きながら、夜風に涼んでいた。

 彼等がここにいるのは、交代制の見張りの為である。

 この世界は危機に溢れている。皆寝入って、知らぬ間にモンスターの襲撃または、拡大する森林帯という属性災害に飲み込まれているなど冗談じゃないのだから。

 

 『脈動する大豊の森』を見てみれば、そこはほの明るく輝いて見える。

 あれが、話に聞いていた陽の光に、微量に含まれるといわれる"陽属性"とやらの特性なのだろう。

 それは、遠目からもはっきりと認識できる異常の一つであった。

 

『絆の双刃』

 これは、精神統一の所為である。

 相刃を大切に研いで、持ち手の具合を確認しながら、心を落ち着け様とする。

 

 

「陽か、"人工属性"……うん、ますますに、怪しい、か」

【腕輪の担い手】【狂羅輪廻】

 静かに呟いた。作為的な証拠が出てくるたびに、カイトの心は不安にざわめく騒ぎ立てる。

 彼が知る、憎々しき法則性を持った"侵略者"は脈絡なく現れて、全てを攫おうと猛威を振るうだろう。

 共通した予兆があろうがなかろうが関係ない。よく識っている、その魂に刻まれている。

 

 あぁ、耐え難く腑に渦巻く、感情に呼吸が波立つのを誤魔化しながら。

 眼下の様子を、その眼に警戒するのであった。

 

(少なくともこれが僕等を脅かしている事は間違いない。だから……)

 カイトは己に言い聞かす、正直に言って、今回は個人的な感情に急いている自覚はあった。

 怨敵が潜んでいるというなら、暴いて畏れごと斬り捨てたいその衝動はある。

 今回の依頼は、あくまで調査である。そこまでリスクを取って身を挺して進める必要は本来はないのだろう。

 それを、調査をある程度強行する主導派の一人として、意見を流しているのだから。

 

 彼にごく親しい人間なら、その一面を多少は感じ取っているだろう。

 それでも何も言ってこないのは、どこかしら何か気を使われている実感がある。

 

「落ち着かないと、冷静に冷静に―――破滅の崖はいつもそこにある。正しい道を歩かなきゃ、死ぬしかないんだから」

 間違えるわけにはいかない。吐息を夜空に溶かして、夜風に惑う。

 カイトの身を任せて、今は交代制の役割に朧気に広がる眼下の世界を警戒し続けるのだった

 

「……寝、飽きた」

「おはよ、リコ。そんな生活リズムだと身体に悪いよ」

『絆の双刃:精霊巫器』【電脳精霊】【偶像乙女】

 そしてその周囲に、空白から火がわき立つように、華奢な人型が虚空から顕れる。

 "儚紅の少女"リコリスである。彼女は人見知りを発動させて、ずっと刃の殻にこもって眠っていた。

 流石に飽きて、知らない人が少なくなったタイミングでひょこっと、小動物のように依り代である巣穴から出てきたのである。

 

「ん、あ、いい…」

 そのまま、ふわりと空から降りて己の庇護者と定める若葉色の少年の膝に座りこんだ。

【憑依具】

 硬く冷たい自身の揺り籠は彼女のお気に入りの場所ではあるが、それでもずっと宿っていては退屈なのは仕方ない。

 退屈は長命種すら殺す、彼女は基本的に寂しがりやであるのだから、猶更である。

 

「眠ることも必要ないから」

【電脳精霊:不眠】

 肉体を持たない"霊体"である彼女は、更に正確には純人種という情報骨子を持たない為に、基本的に睡眠という機能は備わっていない。

 こうして、一時に機能を落として休眠(スリープ)するのは模倣である。

 過去に、彼女が組み立てられる際、伴にあった誰かと歩幅を併せるために、歩み寄る為に成した模倣であった。

 しかし、今は自身の世界をマナの満ちた金魚鉢として観測する感覚器を制限するための手段に摩り替った。

 現実の中で、夢見て過行く時を揺蕩うのだ。

 

「まぁ、良いけどさ」

 若葉色の少年は、ちょうどいい位置に収まったその小さな頭を撫でた。

 そこの理屈は彼には分らない。自身の気の向くままにこうして寄って来るのは、やっぱり小動物のようで。

 その自我が見た目不相応に、成熟していることは知っている。

 故郷で妹を相手にしていた時とはまた違う、まるで大きな猫を相手しているような気分になる。

 

「どう思う。この属性災害、リコは胸騒ぎとかしない?」

「―――ん、あ。私の欠片(セグメント)は感じない。だけど……、在り得るとは、思う」

【電脳使い】【アナライズ】

 唯一の電子感覚の共有者である彼女に問いかけても、確信となりうる答えは返ってこない。

 互いに互いを理解しなくとも、目的に繋がる関係でもある。

【常世裂き咲く花:二片】

 異邦の侵略者である『碑文八相』を滅ぼす事で、彼女は自身の欠片を回収する事ができるのだから。

 

「で、どうするのパパ」

「動くのなら国に投げる。手に余るから、それまでは冒険者が頑張るしかないよね」

 若葉色の少年は先の展望を聞かれたと思って、口に出した。

「背後に"侵略者"がいるってわかったなら、斬るよ。リコもその方が都合いい」

 しかし、その段階でもカイトは出張るだろう。

 それが抱えきれぬ衝動なのだから、立ち止まられないじりじりと足元を焼き尽くす焦燥感がある限り、不意にすべてが崩れ落ちると猛進する限り。

 

「……違う、何をすればいい」

【壊れた心】

 小さくか細い鈴が転がる様な声。彼女の意図は違ったらしい。

 過去の死の断絶に、ある種の静観を抱いている。壊れた心に"儚紅の少女"は、永く怠惰に時を過ごすと決めていた。

 そのよく世界を見通せる目も普段は閉じて、猫の額ほどの自信の居場所に微睡んでいる。

 

 だからといって何もしないのも不安だ。

 だから己が定めた"庇護者"に命令してほしい。頼ってほしい。

 人任せ、他人本位"儚紅の少女"は己の心を自分で燃やす方法を、壊して忘れてしまっている。

 

「いいよ。荒っぽい事は僕等が何とかする。まだリコが頑張る様な困ったことはないよ」

「……そう」

 しかし、変わらず若葉色の少年は、『精霊術師』の"使役者"としては振舞わない。

 その心情をまだ彼は察せられない。まだ付き合いが短いのだから。

 【憑依具】、同属性による"伝心"は精霊である彼女に解釈を許された一方通行である。

 

 そこで会話が途切れて、静かに夜風が緩やかに流れる。

 変わらず眼下の状況は変わりない。襲撃もない。交代の時間まであと半刻程度かなと考えていると。

 

 

―――そんな空白の中に突然に、予想外の声を掛けられた。

 

「―――なぁ、少し聞いてもいいか」

「え?」

 振り向いて、伴に見張りの順番に任された"罠師"の男の方向を見た。

 突然、不愛想だった冒険者の男からかけられた声に、カイトは困惑するほかない。

 一時の共通の依頼に、袖すれ違う程度の関係、相手の拒絶的な態度もあって、そう思っていたのだから。

 

「同じ冒険者だろう。あんた等はどうして、そこまで踏み込めるんだ?」

役割(ロール):罠師】【弓の心得】

 その男は嫉妬していた。その男は焦がれていた。その男は理解が出来なかった。

 その男はまだ何物にも成れない男だった。

 

 ただ強い相手なら、ひがんで嫉妬の炎に身を燻らせただろう。

 手が届きそうだった。

 それでも、過去に幼心のままにどうせなら、格■良くありたいと思った男の子だった。

 

 だから聞く、訳を理由を拾おうとして。

「―――えっと、なんでって、そうした方が安心できるから?」

【ダンシングヒーロー】【狂羅輪廻】

 当たり前の様に、矛盾した輪廻が噴き出してきた。

 

 そのきっかけが良きに転がるか、悪きに転がるかはまだ誰にもわからない。

 

 




GM様との相談の結果、メイガス君はちょっと想定より7割増しで強くなりました。
……どうしよう。

一般人視点から見たほどほどに頭のおかしい奴っていうのをやりたかった。
しかし相手を一般人よりにし過ぎた図。スキル本当にすっからかんぞこのモブ。


 想定するシート

NAME:「コーラス」(原作:ない)
属性:金
種別:「純人種」
クラス「罠師」、サブクラス「弓使い」

【装備】
>「樫細工の弓」:量産品の弓、祝福が掛かっているといったこともない。
>「短剣」:量産品の護身用の短剣。
『下級魔具諸々』

【称号スキル】
>「野狩人」Lv2/5:屋外における知識、野外技能を修めている。
    →野草の知識、天候予測、隠密移動、登山など行える。
>「調査者」 Lv1/5:物事を調べる際の効率の良い手順、聞き込み調査の作法などに心得がある
    →交渉判定有利化・情報収集判定有利化・単独隠密判定有利化・情報伝達・尾行など
>「罠師」:野外及び迷宮内及び建造物に関する罠解除及び発見、破壊に長けた職業。
   爆薬知識並びに鉱物、機械学知識を修めたものが習得することが出来る上級職―――。
      そんな訳はない。彼にそんな大層なことはできるわけがない。
      これは手先の器用な男が、箔付けに名乗った自己申告の役割(ロール)でしかない。
>「Cランク冒険者」:C級冒険者である事を示す称号。
          身元を証明する程度以外の利点はない。

【所持スキル】
>「機工知識」Lv1/5:機械知識及びそれに関わる技術力を持っている。
>「弓術の心得」:あなたは弓の扱いに長けている。
      しかし、それは止まった目標に十分に充てられる程度のもの。
      この世界において、それ一本で食べていくには程遠い。
>「投擲術」:手に持っている物を相手に向けて精確に投げ放つ技法。
>「ハイドアクション」:自身の存在を隠蔽し相手が気付いてない場合、
      先制攻撃の判定が発生する。
>「観察眼」:人並み外れた観察力と洞察力、または生来の勘の良さ。
       普通の人間ならば見落としてしまうだろう手がかりを察知することが出来る。
       彼が臆病なりに身の程と定めて、リスクを避ける為に身に着けた観察癖である。
>「罅瑠璃の心臓」:あなたは人に自身の機敏を掴ませない所為と、手癖を持っている。
          軽いネグレクト、その経験に周囲に併せて振舞った。
          時に自分の気持ちすら騙すだろう。

【特徴スキル】
>「器用な指先」:あなたの指先はとても器用であり、
         長年の神経を使う作業として酷使された
         毛細神経の活性化によって細やかに動く。
         指先を使う技術判定に補正がかかり、器用度が上昇しやすい。
>「灰の口癖」:あなたは日々の生活に、自分を慰める口癖が馴染んでいる。
        そこそこ貧しい家に育って、
        父の再婚のたびに反発に居場所を失ってきた。
        別に特段不幸があったわけじゃない。
        普通に育って、折り合いが悪くなって飛び出してきただけだ。
        己は何者にもなれない。酒に染み入るこの穴を塞がないかぎり、
        他者の印象と精神力にマイナス補正を与える。

【称号】
>「Cランク冒険者」:C級冒険者である事を示す称号。
           身元を証明する程度以外の利点はない。

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