ポンコツ世界異聞=【終幕を切り刻む者達《ハッカーズ》】   作:きちきちきち

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守護者【ダンジョン】

―――ぎゅんぎゅるるるる。

【水源たるモノ】【水刃鞭】【多重制御】

 クラゲの姿で水で作られた触手が払われる。質量だけではない速度も含まれた脅威。

 質量生物というのは単純な脅威があった。

 

『ガチャン』

 だが、それに対し壁になる男が一人、重鎧のマーロー・ディアスだ。

「邪魔だ、この触手ナメクジがァ!!」

【暗黒剣】【重装】【ソードマスタリー】

 彼の剣は水の鞭を容易に断つ。水に刃が入るのは当たり前だろう。だが普通は断ち切れる物ではない。

 故に水の形が崩れたのは、その手繰った要因が斬られたと想定するのが妥当だった。

 暗黒剣が次々奔り、襲いかかる水の触手を時に鎧で受け止め踏ん張りながら、解体されてく。

 不意を突かれなければ、重鎧の彼は水鞭と重量勝負に持っていけるのだ。

 

 それを壁に隠れカイトは進み、観察し隙を伺う。

(生命力で伝達して手繰ってるのか、でも堪えた様子が全くない。きっとあの触手と本体は別のモノだ)

 基礎教育の不足している彼には、生命力の電位伝達などの正確なメカリズムはわからないが。

 暗黒剣で斬れているのだ。そういうモノだと受け入れる。

 

「集中…、角度よし”叩きつける”」

「合わせるよー。いけー!【火殺球】(バグドーン)

 ミストラルの杖が動く、先んじて既に詠唱と精神統一を終えていた。

 マーローの利き腕の対角に陣取り、できる限りの安全を確保しながら。剣を体幹の回転軸に捕え。

―――【魔法剣:雷】【虎輪刃】・【魔術師:二章】。

 同時攻撃、全力で振り抜き、広範囲を削る為”飛ぶ魔法剣”を粗く放出し叩きつける。

 その剣戟はクラゲを支える触手の脚部分に命中し、雷で蒸散され削り、支えた本体部分を墜落。

 そこを更にミストラルの構えた墜落火弾が追い打ちを掛けて、その水体を破裂させた。

 

 だが…。

―――ギュルギュルル!?

【■■:自己再生】

 それを感知したクラゲ精霊が水源を吸い上げ、異音を吹き出し身体を再構成。

 全くの無傷、あっという間に元の形へと戻ってしまう。

 

「どうなってるのよアレ全然効いた気がしないんだけど?」

「わかんない。と言うかー、あの子本当に精霊?全然散らしてもマナが混じらないー!」

 ”妖精術”を専攻するミストラルが疑問を漏らす。

「そのまま異物なマナも吸収して、再生するっておかしいよ」

”この生態は都合がよすぎる”。

 自然に顕れる精霊というのは大概が自然現象延長だ。形を崩すか核となっている情報を霧散させれば段々と形を崩す物のはずだった。

 

 ブゥウンン!

 そして脅威と認識したか、鞭の数と指向性を双剣士と魔術師に振り分ける。

「グッ、全部吹飛ばす火力ないとダメとか、Cランクが持ってるわけないでしょ!もー!」

【■■技】【錬気法】【打ち返し】

 それを悪態を付きながらローズの大剣が、襲い掛かる触手の軌道を逸らし地面に叩き伏せる。

 崩すとか関係なしに単純パワーで、地面に水をぶちまける姿は圧巻だがいつまでもは持たないだろう。

 ローズの体力とて無尽蔵ではない。

 

 そして

―――ギュウウウウウウウン

【水源たるモノ】【知性】【八支足】

 攻撃を受けた精霊は暫くの思考の後、更に敵対者に対しての対応を行う。

 攻撃に振り回していた触手の一部を自身の身体の固定へと回し、浮遊を維持して対抗する様だ。

 

「っちィ!」

「それやめてーよー。魔法当たんないじゃん!」

 もう叩き落として最大火力で袋叩きにするのはできないだろう。

 魔法というのは一般的に魔法陣や媒体である杖から放たれるもの、上に居座れれては発射角度的に届かない。

 特に彼女の最大火力である【火殺球】(バグドーン)は落下の勢いも利用して威力を高めるものだ。

 

 推測だが。

 この遺跡に全く生命の気配がしない事はコイツに貪られたのだろう。

 

「っく、知性があると二度同じ手は使えないか!」

 触手を躱し、魔法剣を再付与し、様々な箇所に斬撃を飛ばすが、やはり手応えがない。

 斬り付ければ水面を叩くように水零れるだけで、こぼれた分は水掘から補充されるのループだ。

 次々と振るわれる触手、刻々とじり貧になっていく。

 

 マーローが触手の数を減らし、ローズが地面に触手を叩きつける事で場を抑えてはいるが。

「つぅ…」

 アレの振るう水には毒気があるらしく、彼女の肌が焼かれていた。

 アレはマナ中毒の類だ。人体への浸透性のある水と悪意ある水属性の結果。

 

 (でも少しおかしくないか?知性があるのに防御対応に反して”攻撃が単調すぎる”)

 言葉を理解し敵対存在への適応した事で、知性があるのは確定している。

 なのにコレのやる事と言えば、変わらず触手を振り回すだけ、しかもその狙いも甘く感じた。

 ”質量と物量を兼ね備えてる攻撃”が、人数がいるとはいえ駆け出しである彼等に捌き切れるか?

 ムリだ。まるでヌルい。幾らかのタイムラグで触手で叩いているだけのように感じた。

 

 触手を魔法剣に斬り裂く。

(それに、そもそもなぜ物理攻撃だけなんだ、精霊なのに精霊らしくない)

 更にミストラルが指摘した再生能力の事もある。

 精霊とはその構成される属性に極大の適性を持つ、魔法を得意とするものである。

 なのに今から今まで、物理一辺倒なのは何故なのか。

 

 疑問の答えとして、カイトの頭の中にとある推論が生まれる。

 

「オイ、ガキ共!手がねぇなら勝手に突っ込むぜ!!」

 前衛で壁になっているマーロー・ディアスの叫び声。

 全身鎧である彼はまだ余裕があるが、なおの事、余裕のある内に仕掛けたいと考えていた。

 彼は同行者に配慮はするが、当てにはしてはいないのだ。

 

「待って!多分アレのカラクリが分かったと…と、思います」

 それを止めて協力を求め、触手を裂きながらも得た推論を説明した。

 理屈としてはおそらく正しい。だが確信は持てていない。

 『魔法』と呼ばれるモノの可能性を詳しく知らないが故に、出てきた突飛な発想だ。

 

「―――フン、そうか。オメェには一度だけ力になると言ったな。それが正しいかわからんが勝手にしろ。俺ァとにかく前に出て道を拓けばいいんだな」

「あ、はい。ありがとう。じゃあ―――」

【孤独者の流儀】

 そう言うと鎧を正面から暗黒の剣を構え、クラゲの精霊に突撃していく。

 最前線で直接斬り刻むつもりだろう。

 元々が相手の方が上位の冒険者である。

 断言できたならばもっと積極的に協力を頼むのだが、そこまでの核心はない。

 

 だから大したことない事でも、前回の借りを持ち出してくれたのは、不安な心を軽くしてくれた。

「全く口が悪いんだから、さって言われた通りに勝手にやりましょうか」

「ほえー、マロっちも悪気はないんだけどねー。勝てるなら協力するよー」

 ローズとミストラルもそれぞれ得物を構えて、臨戦態勢に入る。

 それは、即席のチームから考えれば十分すぎる動きだった。

 

 

 

 

●●●

 

 

 

 

―――触手を捌き続けて、どのくらい時間が経っただろうか。

 

 暗黒剣で領域を割る。

 己に控えめに協力を要請したガキの事を脳裏を考えた。

 

『おそらくですが、あの精霊の攻撃にはラグがある。しっかりこちらを視えてる訳じゃない』

 その言葉通りに、常に歩みを進めれば少し遅れた場所に触手の薙ぎ払いが走る。

 重鎧を着てる事から分る様に彼のスタイルは、足を止め攻撃を受け止め迎撃する重戦士スタイルだ。

 それだからこそ気が付かなかった、攻撃のタイムラグ。

 

「フン…」

【暗黒瘴気】

 触手から吸える生命力などほぼないに等しい量だ。

 故に現在は敵からではなく、自身の生命力を燃焼させ、鎧の機能を活性化させている。

 

 彼が頼まれた役割は斬り込みである。少しの間でもいい、敵対象の攻撃手段を無効化する事。

 その為にあの化物の攻撃の届き易い、最前線に陣取った。

 今まで思い付かなかった事であるが、動き回る事で拡散させる瘴気が、攪乱の仕事を果たしていた。

 今回は”色の一つ”として攪乱していたが、脅迫感情を植え付ける霧というのも使い道次第。

 攪乱スキル【残依】の取得。

 幾ら男に集中しようとも、意識を裂きざるを得ない霧。それが対人戦での隙を生むだろう。

 

―――ギュルルルル

【センス・オーラ:残依により攪乱】【水刃鞭】

 

「っち、癪に障るな」

【暗黒剣】【残依】

 ずれて襲い掛かる触手を複数その剣で引き裂いた。

 ああ、認める。移動する事で奴の推測通りにラグが発生して随分楽に捌く事が出来ている。

 更に暗黒の霧が分散する為にさらに位置の特定を難しくし、攪乱を成していた。

 

 その発想を妬ましいと思う事はない。

 ただ、孤独の人酔いにより、その感覚を受け入れるにはただ苛立ちが募る。

 その苛立ちぶつけるかのように。

 

「ゼェェェェア!!」

【暗黒剣:生命燃焼】【ソードマスタリー:乱斬り】

 これが彼の切り札である【黒蜘蛛の鎧】の機能に頼った生命燃焼。

 それを生命燃焼により引き上げた人体限界により、更に繋げて斬り付け。

 触手をバラし、ただの水へと叩き落とす。

 

 その一方で。

「はいー。セットオッケー、燃やすわよ」

 この間にローズが準備していた松明用に持ち込んだ油を、盛大をばら撒き盛大に着火した。

 油は水に浮く、干渉が無ければ油が尽きるまで燃え続けるだろう。

 アレの厄介な点は水属性マナを取り込む事による再生力。これで火属性に環境が傾けば、再生の力は落ちる。

 持ち込みの量的に一発だけの環境干渉だが、無いよりはマシだろうと用いた手。

 

 油が巻かれた範囲轟々と燃え盛り…。

 

 それが意図しない効果を生む。

―――ギュウウウウウウウウ

 ソレは隠れていた。高い壁の塀越しに侵入者の存在を認識していた。

 精霊には人類の感性は通じない。だが、持ち得る超感覚に【センス・オーラ】という物があり。

 マナを感知する事が出来る為に、熱と属性値の移動によって居場所を判断していた。

 それが火の着火により、熱量は混乱し、マナの色もかき回される。

 

 ソレにとっては環境を乱される事はストレスであった。

 

 知性のあるソレは鞭の再生を後回しにし、鬱陶しい熱量を消そうと形態を変える。

【水源たるモノ】【水針】

 そしてそれは頭上にて触手を幾らか破棄、突起を生やし水針を発射し始めた。

「フン、雑魚が!」

 放った火は徐々に消されていくが、触手と違い十分な火力にはならないそれを普通に前衛面子が迎撃する。

 それに必要な水量を堀から補給するが、その様子を背後から観察する者が。

 

 

「―――よし、これで。ミストラルさん、一番マナの流れが強い所、わかります?」

「んー、左とから三番目の触手が一番大きく動いてるかな、魔力の動き方もそこが一番大きい流れがあるよー」

【森眼】【妖精術:ダウジング】

 クラゲ精霊は水掘に触手を数本突っ込んで、そこから水量の補給源にしている。

 彼女はエルフ混じりの眼の良さと、妖精術の振り子のダウンジングで水脈の流れを観測した。

 その一番強い流れの先にきっと、いる。

 

「わかりました。ありがとう、いくよローズ!」

「あいよー」

 観測に合った触手に向かって前進する。水堀の淵に場所取りをする為に、ローズに背後を任せた。

 万一不意に触手の攻撃を喰らえば、水掘に引きずり落とされる危険がある。

 その為の護衛だった。

 

 水堀より眼下に視線をノリだし確認したが、暗がりで目的のモノ見えない。

 なら。

「灯りついでだ。いけぇ!」

【魔法剣:炎】【虎輪刃】

 隆起させた雷を刃に乗せ、触手の先にいるだろうソレに飛ばし斬り付けた。

 

―――ギュグググググ!?

 そして目的のモノはそこに、いた。

 貝殻の様な機巧を背負った小さな貝、水精霊の【本体】、クラゲという”魔術式”を使役するモノ。

 クラゲの正体は魔道具の補助を受けた魔術、分断した”化身”と呼べるもの。

 未熟な炎撃の魔法剣の直撃を受けて、半身を焦がすような矮小な存在が、彼等を恐れさた正体だった。

 

 だが、ソレは反応する、考えた。

―――【水源たるモノ:供給廃棄】【水刃鞭】

「!しつこいってーの」

【剛剣技】

 想定しない手数による反撃をローズが斬り裂く。

 水源の供給に使用していた。触手の機能を最低限残し、後を最後っ屁のようにぶつけ。

 【本体】は掘水中に潜航を試みたのだ。

 

 

「あくそ待て、潜るな!」

 暗がり故に仕方ない事だったが、できる事なら初撃で決めるべきだった。

 彼の魔法剣には水の壁を貫き通すような収束性はない。

 

(どうする、飛びこんで追うか…?)

 しかし水の中に飛び込むのは今まで避けていた通り、それはリスクが高い。

 頭上に居座っていたクラゲは勢いを弱め、ほぼ消えうる様に弱体化していた。

 だが、背を向け撤退したところに、潜航した敵が体勢を立て直し、再度襲ってこないとも限らない。

 

「逃げんじゃないわよ、オッラァ!!」

 【■■剣:スマッシュブロウ】

 それを見ていたローズが、まだ燃えていた油を水ごと理屈が通らない程に奇麗に吹き飛ばし。

 眼下の水底に灯りをともす。

 潜航していた”本体”が再び視界に捉え…。

(逃がすか…!)

 彼は懐に手を伸ばし、とっさの思い付きに従う。

 

「カイト!!」

「あぁ、助かった!」

 懐からお守りとしていた【素人の双剣】取出し、魔法剣を再付与する。

 勝手慣れたるかつての愛剣、とっさの付与にもすんなりと応じる。

 特性を明文化して理解した事も大きいだろう。この剣はオドを”蓄積して穏やかに放出する”。

「角度よし、イッケェ!」

【魔法剣:帯電】【レンジャー:投擲】

 それを両刃共に、真っ直ぐ投擲し水の中に投げつけた。

 

 

【自己再生:反属吸収】

 普通の相手なら手から離れ、実用出力に及ばぬそれは脅威にはならないだろう。

 だが、相手はマナを主構成とする精霊。しかも自身の構成を大半を切離した渇食状態だ。

 潜航し、体制を立て直そうとマナを喰らおうとしていた時に、投げ込まれた帯電マナの剣をも喰い合い。

 

―――グギュ、ギュアァア!?

 自身の情報が焼かれる。

 消える形が維持できず、水に溶けるようにサラサラと消えていく。

 結果的にそれが、最後の止めとなる形になった。

 

「おー、やっと死んだ。勝ったのねヤッタじゃん!」

「うー、すっごーい!一時はどうなるかと思ったよぉ」

「フン…」

 一時は彼等に脅威を振るったバケモノ、それの呆気ない最期であった。

 

 

 

 

 ●●●

 

 

 

 

―――一方その頃。

 

『―――なるほどね。とりあえず及第点と言ったところかしら、まだ役者としては物足りないけど』

 その激闘を傍から、その遺跡の臓腑のとも言える奥底から、覗いていた女が一人いた。

 物々しい形式ばった目元を隠し、杖を持った白い魔導師装束を纏った。

 怪しいとしか言い様のない美貌の女だった。

 

『にしても【凍結記憶】…、なるほどよく働くギミックだわ。欠落を作る事での至って正気で狂わせている。ええ性別を転換するよりよっぽど』

 無表情に、顎に指を当て、それは人の真似をする。

 そして何でもないかのように、女はカイトの異常を言い当て、それを評価した。

 

『費やしたリソースの割には自信作だったのだけど、配置してた守護者(ガーディアン)をケシ掛けた甲斐はあったかしらね』

 先程の精霊は彼女が仕掛けたモノ。特定分野に対する専門家が遺跡を調査したのを想定し、この施設を保持する為に設置していた物である。本来彼等の様な普通の冒険者達にはスルーさせる予定であった。

 そう。あの生物として都合のよすぎる性質は設計されたが故の物だった。

 ”化身化を攻勢魔術として維持し扱う”存在。あのクラゲの存在は高度な魔術式とも言える存在だった為に、術者がいる限りのある種の不滅性を示していた。

 その本体の規模は費やした資源(リソース)相応に、”中精霊”程度でしかなかった。

 それでも彼女が、【あの男】が扱う、魔導文明に匹敵する”電子魔術”によって設計された生命はあそこまで理不尽になりえた。

 

『ここまで派手にやったのですもの。すぐに調査が来る、この遺跡はもう使えないでしょうね。ええ、人間の貪欲さを舐めてはいけないわ』

 この遺跡は一般的に言われてるような【迷宮時代】のモノではない。その後の時代。

 純人類種の歴史最盛期、宙の空さえその手に届いた時代、数名の偉大な道化師によって築き上げられた。

 絢爛なる積み木の【魔導文明】。

 これはその魔導文明、その遺産であった。各地に合った”情報演算施設”(サーバー)の一つ。

 その殆どの機能を消失させてはいるが、その一部を利用し”隠れ家”として利用していたのが彼女だ。

 女は【あの男】に気が付かれぬように、潜伏しながら。

 己の目的の為に、その風化し微かに残されたその演算機能を利用していたのだ。

 

『ほら、急ぎなさい【あの男】は着々と筋道(ストーリー)を整えている。手遅れになる前に辿りつきなさい。私が役者に潜り込ませた”普通の人”よ』

 ”英雄”であってはいけない。権力者であっても同様だ。干渉の違和感に気が付かれるだろう。

 あくまで役者でなくてはならない。【あの男】が筋道(ストーリー)に個執するが故に、その舞台でしか対峙は許されないのだから。

 道筋の不全を誤魔化せるのは何時までだろうか、彼に仕込んだ機能はまだ封印状態のままだ、解放されれば役者が揃い”時計が進んでしまう”。

 

『―――さて、ここも廃棄の準備を進めなくてわね』

 意味深な視線を残し。

 そして女の影は遺跡の闇へと消えるのだった。

 

 

 

 

 ●●●

 

 

 

 

 遺跡調査依頼の後処理。

 想定外に大変な事になった今回の依頼だが、強敵を斃したといえその後の仕事が終わった訳でもない。

 まず、枠外報酬(ボーナス)討伐の証明になるかもしれない精霊の一部である、謎貝殻の回収。

 二の次に、投擲してしまったカイトの【素人の双剣】も回収しておきたい。

 

「ローズ、手を離さないでね!お願いだから!」

「ダイジョーブよダイジョーブ、そんなへましないから」

「んー、んー、どこかなぁ。あ、そこだ!」

【妖精術:ダウジング】

 持ち込んだ縄しがみ付いて水掘に降り、ミストラルの妖精術により探査していた。

 事前に生物の類はいない事は確認済みであり、所々に見える突起の類は勢いよく落ちない限りは問題ないだろう。

 

「う、ちべた」

(うー、次投擲する時は、紐つけて投げよう)

 今回みたいな特殊な事態が、また在るかはわからないが、そう強く決めていた。

 必要に迫られて使い捨ての様に投擲したとはいえ、”思い出”をなくすのは御免である。

 水に頭まで浸かり、潜ってやっと目的の物を見付ける。

 油による火も消えており、そこは完全な暗がりだった。妖精術による探知が無ければ見つけられなかっただろう。

 

―――魔導時代の遺物『復号記貝(デコード・トーカー)』と、カイトの【素人の双剣】を回収した。

 

「よし、回収した。いいよ、引っ張り上げてくれないかな」

「うっしまっかせなさい!」

【怪力】

 合図と伴にローズがロープを引っ張り上げた。

 人一人分と濡れた武具の質量を余裕に、こういう所で能力(スペック)が違うなと実感させられる。

 

「ふん、回収したなら次行くぞ。早くしろ」

 それを腕を組み待機していたマーローが急かす。

 その後の調査でも、新手が出る事もなくもう少ない調査を完了させようとするのだが。

 

 

―――ドガァアアアン!!

「は、へ、何の音?」

「ッチィ、また面倒事じゃないだろうな」

 突然遺跡に響き渡った爆音に意識が取られる。

 

「はえー、これって隠し部屋って奴?レアアイテムチャンス!?」

「あ゛、んな都合の良いもんもんねぇよ。理性蒸発女」

【森眼】

 遠目にとあるエリアに穴が開いて、そこから空間が覗いてる事を確認した。

 そこはより旧文明の遺物的めいていて機械の様なものが、大量に鎮座している空間である

 床に不可思議な紋様が、張り巡らされてるのが確認できるだろう。

 

―――彼等は知らない事であったが、この部屋は演算室(サーバールーム)。この遺跡の中心であった。

『セキュリティの最終は物理的な廃棄…、基本でしょう?』

 怪しい女のそんな台詞を吐いて暴走させたために、その大半も既に使えなくなっていた。

 

 彼等は迷宮(ダンジョン)の専門家でもない。触りの観察だけを行い。

「とりあえず調査は済みました、撤退しようか?消耗してるしまた爆発しないとは限らない」

「さんせーい。また変な敵が出てきたらたまんないもんね」

「うー、残念。こういうの隠し部屋って宝物(レアアイテム)が定番でしょー」

 何もなかったので帰る事にする。探索するには専門知識が足りないし、余裕もない。

 

 レンジャー技能で近くの川に寄って、魔具沈静化の為にマーロー・ディアスに水をぶっかけ。

 その後の遺跡からの帰還時には数体、小型モンスターに襲われた以外はなにもなく、日が高い内に街へと戻ってくる事が出来た。

 

 

―――冒険宿『ヴェルニース亭』

「はい、依頼記録を確認しました。報告の可否を検討します。少しお待ちください」

彼等は依頼報告に戻っていた。

それを受け受付のヒバリ・カイルンが棚から書類を取り出して参照する。

 

「遺跡、【仄暗い水の底】の調査依頼で確認させていただきます。配布チェックリストのほぼ更新、敵対的な精霊種との交戦、未調査の領域の確認……、以上で宜しいでしょうか」

 彼女は報告を聞き取り、依頼の成否を既定と照らし合わせて確認する。

 

「では交戦を証明できる剥ぎ取り部位の、証明持ち込みは在りますでしょうか」

「えーと、はい。このドックウォルフの牙が三本、これが精霊の…、多分寄生していた魔道具?です」

 とりあえず剥ぎ取りしておいた牙と貝の魔道具?を提出する。

 肉の無い精霊の類は死ぬと大概骸を残さぬものだ。これだけ苦労したのに理不尽徒しか言い様がない。

 

 今回は疲れた、盗賊が本拠にしている以外では、一番波乱の調査ではないだろうか。

 仮に盗賊が本拠にしていれば、大概生活痕がある。それを見つけて撤退するのが常なので。

 トラップの様に大物が潜んでる、今回のケースが一番性質が悪いと言えるだろう。

―――そして、そういう物を積極的に仕掛ける道化もこの世界にいる。

 つまり未踏遺跡ならともかく定期的な調査というものは、平穏無事に終わるのが通常である。

 故に…。

 

「依頼の契約に照らし合わせますと、討伐二点、調査四点、発見で五点ですね。すみませんが、交戦は大精霊級との事でしたが、精霊となると真偽も不明なので通常既定での採点に成ります」

「やっぱりか、苦労したけど仕方ないかなぁ」

 こんな感じの評価に落ち着き、割に合わない。むしろ話を信じて一点分加算されたのが有情とも言えた。

 油もかなりぶん撒いたので経費も掛かっているというのに。

 ただ今回は未調査の部屋を発見した事で、その分の得点で多少の追加報酬は期待できそうである。

 

「では清算しました。虚偽申告があった場合には後からでも処罰がある事は、ご注意くださいね」

 やっと依頼の清算が終わる。

 多少多くなったゴルを受け取り、事前に決めていた通りにBランクに4、Cランクの三人に6の割合で等分した。

 当然Bランクの方が配分のが多いのは何時もの慣例だ。

 

「後、このよくわかんない貝型の魔導具はどうする。適当に換金しちゃって等分しちゃうおっか」

「それでいいんじゃない。物は分けられないしねぇ」

 有用な魔具や魔道具は処理に困る。それの所有権を巡って殺し合いになる冒険者パーティも珍しくない。

 だから、用途不明の魔道具の習得は、今回の様な寄合パーティでは逆に助かる事例だと言えた。

 醜く争う必要性が激減するのだから。

 

「ねえねぇ、ちょっといいかな?この貝の魔導具さ、これ。僕に譲ってくれないかな。その分のゴルは出すからさー」

 だが、その言葉にミストラルが少し待ったを掛ける。

 

「え、どうしよう」

「ふん、対価だすなら構わねぇよ。その女は”物狂い”だ。珍しいものが見たいってだけで底辺の冒険者になる位にな。ッケ」

「ぶー待ってよー物狂いなんて、せめてレアハンターって言って欲しいなー!」

 提示されたのは一般的な遺物の魔道具が買える安くはないゴルだ。

 この魔道具が単純に欲しいらしい。

 用途が不明である。ガラクタかもしれない、壊れてるかもしれない、呪いの魔道具かもしれない。

 そう言う事を考えずにただ欲しいと言うのは、やはり冒険者としては珍しい。

 

「えっと、いいみたい。けど、それ使い方はわからないけど本当にいいのかな」

「うん、ありがとー。僕ならさー。それの用途見つけられるかもしれないしね!」

【商いの才】【鑑定】

 ミストラルは本業を商人(の妻)として、冒険者は副業として活動している”趣味人”だ。

 他にも、珍しい道具を集めてる理由はあるのだが、それはまだ彼等には知れない。

 

「でさ!でさ!君達ってば良い人達みたいだし、できれば連絡先を交換しておきたいなーって」

「お、もちろん!いいわよねカイト、魔術師の知り合いなんてこっちもありがたいしね」

「うん、願ってもない事だ。よろしくお願いします」

「よろしくー」

 お互いの冒険者の登録番号と簡易的な連絡先を交換しあい。

 がっちりと握手を交した。

 

「えへへー、よかった。僕もCランク(駆け出し)だしさ、友達は多い方がいいかなって。そうだマロッチもどう?」

「ふん余計な世話だ!これで手続きは全部だな、オレは行くぞ。……一応、世話になったな」

【孤独者の流儀】

 ミストラルがマーローも誘うが、彼はそれを振り切ってその場を後に立ち去って行く。

 金がなく急場を凌ぐために、仕方なく受けた仕事だ。

 今回で数の力を実感させられたが、性分と定期的に所属を移す事情もあり、群れる必要性を感じてはいないのだ。

 

「あっちょ、……行っちゃった。最後まで口悪かったわねー。アイツ。強かったけどさ」

「んー、なんでっかなー。前もそうだったけど取りつく島がないねー」

「悪い人じゃないんだけどね」

 一般的に魔具の力も本人の力、そういう意味ではマーロー・ディアスは強い冒険者と言えた。

 ああいう人だと理解したならば、カイトにとっては何の問題はなかった。

 直接害された訳でもない。ただの頼れる冒険者な人でしかない。

 

「じゃあ呪文士ミストラル、お安くしときます、なんてね」

 商人の妻めいて、いたずらに笑うミストラル。

 

「じゃあ僕達もこれで、今日の所はありがとうございます。お疲れ様でした」

「またねー」

「用があったら呼んでね、ばいばーい、楽しかったよー」

 手を振り別れる。

 怪我はないが大物を相手にして疲れた。一歩間違えれば、仕組みを看破しなければ死んでいたのだから。

 今日の所は他にやる事もない、早く帰って休むが吉だろう。

 

 こうしてまた陽が堕ちる。

 あの裏の事も一切気が付かず試された事も知らぬまま、舞台の歯車が少しだけ回るのだった。

 

 

 




キャラ初期メモ。
ガルデニア(魔力撃、オンリー戦術(槍、ハルバート)、阿修羅姫、固有術”森”)
 九十九出身で、元奉納巫女候補の設定、それに関する教育があったとしてコミュ力UP。
 九十九出身設定突っ込んだせいで、選抜血統と高度教育が合わさって性能がやばい。
 今後出てくる選抜血統予定者なし、強めな設定でごー。

マーロ・ディスト(暗黒剣、ソードマスタリー、重装、孤独者の流儀、迎撃態勢)
 見た目が暗黒騎士、暗黒剣要素を入れる為に丁度いいが理屈に困る。
 魔具頼りで闘う一般的な戦闘特化冒険者の基準として設定。
 暗黒剣を使う人相が悪い孤独者(ソロ)。パーティ行動に制限が入る。
 魔具である重装鎧を付けてる時点で割と装備に恵まれた強い人。技量は聖錬では並み。
 ただ捻くれの意地っ張りで迎撃態勢だけを取得。

ミストラル(鑑定、商の才、森眼、魔術師レベル2、妖精術レベル1、理性蒸発)
 C級にしては一芸持ってる当たり枠。ネットのノリが強いので理性蒸発をシュート。
 兼業冒険者なので、本職のスキルを余技に持っている普通は冒険者やらなくていい人。
 離脱イベは要検討。


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