ポンコツ世界異聞=【終幕を切り刻む者達《ハッカーズ》】   作:きちきちきち

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墜ちて燃えて【増殖の世界樹】

 地響きが鳴り響く。

 

【二刀流】【舞武】・【罠師:弓術の心得】【観察眼】

 乱入する影に、双剣を後衛の盾に身体をもっていきながらも、鍔競り合い硬質な音が鳴り響き。

 その赤兜を罠師の矢が止めようと放たれ、外れ空をきり大樹にむなしく突き刺さる。

 まるで止まらない。

 その腕刃に挟み込んだまま、飛来した慣性の勢いのままその戦線を離脱せんとする。

 

 そんな嵐の渦中。

【フェイト】【壊れた心】

―――儚紅の少女は無為に揺蕩っていた。

 普段の彼女は、円環精霊という特異なマナに満ちた世界を観測する能力を、眠らせている。

 いつもの通り、目を閉じて、情報溢れる世界を、見たくないものなど見なくてもいいと。

 定められた破滅の運命に、伴に歩いた者の拒絶に、死の断絶に未だにその心を壊しているのだから。

 

 周囲を蹂躙する蔦のお化けが大暴れしようとも。

 ああ、だから。今の今までこの状況に反応していなかったのである。

 

 しかし。

「―――リコッ!!」

【憑依具:異心伝心】【壊れた心】

 揺蕩う中、再誕の紬、己の庇護者と定めた声を聴いた。

 さざめき立つ、静寂(シジマ)の中で無為に揺蕩っていた電脳の中で意味が、結合される。

(今、呼ばれた)

 なら応えないと、生来の人好きな資質にその主体性を喪失した心に波がたつのだ。

 

 虚空に華が開く、その姿を大気のマナに投影してその華奢な姿を映して。

 

「―――ん、わかった」 

 風鈴が成る様なか弱き声と共に、世界にその金の双眼が見開く、その紅き衣をはためかせて。

 妖精の花が、大気のマナに投影され、眼下に戦場を覗き空に手を伸ばす。

 状況は庇護者である双剣士の同属性由来の伝心に感じ取り、電脳の中にログとしていた。

 

【電脳精霊】

 故に、判断に過不足はない。

 

 この場で脅威となる存在は主に二つである。

 大地を覆い尽くす規模を誇る異常成長存在、王に等しき者(生態系の頂点)に植物塊、"豪蔦の怪物"。

 そして新たな襲撃者である"赤刃の兜"、そして庇護者である双剣士はその迫撃と競り合い勢いのままこの戦闘を離脱しつつある。

 

 存在する脅威として依然大きいのは、この"豪蔦の怪物"であろう。

 先駆けて、エクスマキナの女が本体と思わしきに存在に、遊撃を掛けていなければこれが明確に意思をもって打ちそえていたのは想像に難くない。

 この無尽の耐久力に真っ向から対抗し滅ぼすには。

 どうにかするには"聖剣の使い手"か、在野においては大魔法の類が必要であると直感するほどの規模の怪物である。

 未だに半ばのその準備を継げと、彼はその意図を伝えていた。

 

 

術式(コード)展覧(キャスト)

【円環魔術】【アサルトサージ:蛍火】【浮遊】

ばちぃ!

 自己の花びらを散らして幾重の円環を展開する。華奢な体に空間に高らかに、己が法則を宣言する。

 その白く華奢な指が空間を叩き、文字列が奔る。

 容易く片手にその銀糸(エーテライト)で描かれた矢筒の如く紋章を、"四章級魔法"に直接に『媒体』を触れて、炎を継ぎ足すのである。

 

「リコちゃん!?そんなの直接触って、大丈夫むりしないでね!」

「ん、だいじょうぶ。問題ない」

『オウム貝の杖』【魔術師Lv2:旋律詠唱】・【アナライズ】

 その異質な施術に、魔術師ミストラルが心配の声をかける。

 白耳の魔術師が杖を構えて術式の維持をする中に、その順序が引き継いで完成させようとする。

 この実態はマナに直接触れえる精霊たる彼女にとっては、原始的な方程式に補強されるマナとオドを掛け合わせた反応の加速器である。

 

(―――解析、ソート、デザインパターンを命名。ロジック設計、■■■■を追加)

【円環魔術:ハッキング】【リソース精霊】

 それは一般的にとらえて無茶な行為。例えて一度装填された銃弾、それを火薬を足し、弾丸を加工する。

 更に即席で設計したロジックをねじ込んで、発展させることも可能であるのだ。

 銀糸に編まれた空中の紋がますます実態をもって組編まれていく。

 "儚紅の少女"は実質カイトの分け身というべき存在だ。魔を扱う手に関しては十二分以上に役割を果たせるだろう。

 

 

 

――― 一方、断ちまわる前衛視点にて。

 

 

【風霊降臨】(クラケー・クー)

 使役に応じた鳥を形どった風の中精霊が、その羽搏きに風を巻き起こしながら旋回する。

 

ビュンッ!!

 蔦が絡まり巨大鞭の如く、空気を叩く音に木々が圧し折られ倒される。

 まるで足止めにもならない。しかしこの風切り音自体が、攻撃の示唆を教えてくれるだろう。

 

 そう、この間にも状況が加速しているのだ。

【FOE】【径巡る大怪樹】【無限の植生】

 地響き、それは仮想の巨体がのた打ち回るかの如く。

 更に、咲いた果実から弾けてその種を弾丸として、上面からも制圧しにかかる。

 

「各自、散開しろ!」

【ウォーリーダー】【鼓砲:鉄壁の防陣Ⅰ】

 それに相対して、クランのリーダーである侍被れの男が、その轟音に、その存在が放つ独特の存在感に負けぬよう絶えずに状況に声を張り上げる。

「密集していればいいカモだ、まとめて薙ぎ払わられるぞ!!」

「へへ、忙しいねぇもう前衛も後衛もねぇな!とにかくおらぁ前に出て時間を稼げばいいんだろう三十郎よ!」

【つるのむち・パワーウィップ】【グラスフィールド】【王に等しき者】

 変わらず、"豪蔦"の大暴れは止まらない。

 大地がひび割れて新たな蔦が現れては津波のように叩き付けられ、時に束ねられ質量を増して振るわれる。

 それが特に厄介だった。

 硬度が違うそれぞれの蔦が束ねられてまるで複合素材(コンポジット)、半端な腕では断つのに難しい。

 

「ああ、そうだとにかく暴れまわって押し込んでくれりゃいい、しくるんじゃねぇぞケネス!!」

「へ、誰に物言ってやがる。それでこそわかりやすくていいな!」

『砂塵のコフィン』【風水術Lv1】【砂漠の旅人】(サガクレ)・【魔法剣Lv3】=【トルネードブラスト】

 邪剣士の男はこの状況になお愉快そうに笑いながら、その蛇剣を振るう。

 魔道具の砂時計を砕く、"サガクレ"と呼ばれる『奏護』での旅の助けたる風水術の応用、砂嵐三十郎が隠し手に、一流水準の"魔法剣"が合さって生み出されるストリームが薙ぎ払う。

 邪剣使いの彼の属性は"空"を主体にした"冥"の二属性である。

 それぞれの礫がぶつかり合えば剥離する様に、反発の力を生み脆きを切り崩す魔法剣となすだろう。

 

「はっはーまだまだいくぜ、さぁ景気よく薙ぎ払いやがれぇ!!」

【変幻太刀】【万力握】【■侠:戦闘狂】

 嵐の剣を生み出す事時点は、魔具の補助を前提として侍風の男にも単独で可能である。

 巧みに足さばきを組み替え、邪剣士の男はその延びる剣は継続してそれを振るい続け同時に砕きそれさえも礫に、それを体力の続く限りに継続させ続けるだろう。

 

 それが正面から、雑多な蔦の津波食い止めた。

「槍使いの、これでは大蔦は無理だ止められねぇ。さきのように槍で根から刈れるか?!」

 その片手間に大声を張り上げて、成れぬ共闘の中、先ほど把握したままに指示を飛ばす。

 基本的にこの多人数では、クランリーダーとして全体を動かす事が出来る彼は戦士としてではなく、指揮官として動いた方が効率が良い。

 

「待って、突貫ならっあたしの方が向いてるっ!先輩っ"交代"(スイッチ)よろしく!!」

「ええ了解した。後衛の壁に後退する。鎧の陣形(ライン)に穴をあけるなよ」

「………任せておけ徹さぬように踏ん張ろう」

【凛として月華の如く】【魔力撃】【阿修羅姫】・【重鎧使い】(ヘビーアーマー)【アックスマスタリー】【ラインガード】

 ダッツ……、ミシィイ!!

 槍舞師が変形槍に伴う魔力撃に大蔦を薙ぎ、そのままの腰を浮かせて反動で交代する。

 寡黙な鎧使いが支え、そのぽっかり空けた穴に全力で重剣士の女が踏み込んで、剣を盾に踏み込んで下方からの切り上げに撓み軋んだそれを両断して前に躍り出る。

 それぞれが元々に別の徒党(パーティ)である。

 陣形の組みなおし、牽引する指揮の大枠に適応して組み替えてそれぞれに動き出すのだ。

 

「くそっ」

 先の宣言の通りに、重剣士の女が前に踏み出るそんな中。

(しくった!思いっきり殴ったのに止められなかった!)

【天性の肉体】【生命活性】

 心の中で悪態を付く、その強気と裏腹に心中は穏やかではない。心臓に動悸に気が焦る。

 明確に頭部という急所を狙った、しかし致命打にはならずその後の前進の重心を載せた蹴りにも、身体を揺らす程度で有効打になっていない。

 言い訳はしない。部位の判断ミス、そして何より叩き潰せない己の剣が軽かったのを恥じる。

 

「半端じゃだめだ、私ができる事をとにかくまっすぐ行って叩き潰す!!」

【風詠み】【蒼火の息吹】

 粗ぶる感情を剣に乗せ、雑じりきの炎に精霊の猛風を纏いて彼女は走る。

 己が"相棒"の無事は心配だ。しかしすでにあの離脱しつつある速度に彼女の足では追いつけない。

 ならば己の役割(ロール)のままに、全力を尽くさねば先もない。"宝物"の無事に心がとらわれるほどに今の彼女は弱くはないのだから。

 

「バカでかいだけの木偶の坊が邪魔だっていうのよ!!」

【闘牙剣:オーラファング】【錬気法:ドラゴン■ケイル】【阿修羅姫】

 突貫する。半身を捻りながら体を落とし、最後の一歩にて溜めを開放する動作を意識して。

 過去にミストラルの補助を受けて、風を纏った時の感覚のままに、荒れ狂う砂塵を一部奪い取り身に纏う。

 それにて疑似的に形成される鱗が、自身の内力に、錬気の応用に鋭き鱗の鎧に変えて襲い掛かるのだ。

 

「さっさと道を、開けなさい!!」

 そして輝きを放ち、轟音とどろかせる一閃が奔った。

ズゥア!!

 "生"()たる流儀の一端たる剣に、絡まり巨躯となった蔦の根元を刈り取り流転にバラしたのである。

 斬り倒された質量が倒れこむ、鈍き地響きが響き渡る。

 

【原始の力】【無限の植生:自己再生】

 もちろんそれは容易く再生する。大地から吸い上げそれこそ無尽蔵と疑うほどに。

 所詮、重剣士の女の錬気は"竜モドキ"でしかない。生体情報を焼く"竜闘気"なんて理不尽など纏っていない。

 しかし、束ねて形どられる蔦を根元から刈り取った事で確実に手数を減らしている、準備が整うまで何度も繰り返すだけだ。

 

「あたしが手数を潰す!安心してどーんと決めちゃいなさい!」

「うん!あともうちょっとだから頑張ってローズちゃん!!」

 少し無理を押して気張る。手を伸ばす為の幸運を少しでも引き寄せる為に。

 これが彼女の渾身というわけではない。牙を突き立て何度でも引きちぎると大地を蹴り突き進み続ける。

 

 

 

――― 一方、前の影に後衛では。

 

 

 

 大蔦が倒れ込み地を揺らす衝撃に、足を取られて転ぶ軽武装(フェンサー)の女冒険者。

 急いで起き上がって体勢を立て直す。

 

「蔓茘枝の類か、花果が弾けるたびに妙なものを弾き飛ばして」

【経巡る大怪樹】【ようかいえき・タネマシンガン】【王に等しきもの】

『グランシースピア・改』【ディフェンダー】【阿修羅姫】

 がしゃんと、改造魔具の変形が生み出す魔力撃の変形、そこから派生する払いの所為に。

 後衛の盾と槍舞師の女がその槍をを振るって、伴う魔力撃にて幾多の天然の弾丸を物理的に叩き落とすのである。

 しかし、その衝撃に種子が砕かれ、蛍光色の液体が飛び散った。

 

 全方位に飛散するのは、あらゆる肉の元を溶かし焦がす溶解液である。

 

「っち」

【見切り】【円転滑脱】

 その程度彼女ならば目で追える、反応して姿勢を低くに立ち位置の軸を切り替えて槍を振るう。

 それでも払いきれぬ飛沫にその髪を腕を焼かれた。

 溶解する液体に、砕いた種の破片に瞼が裂ける痛みを容易に踏みかえて、次の振る舞いを準備する。

 

「弾け方からして叩き落なくても勝手に爆ぜるな、手が足らないとなると」

 彼女の普段物理盾に多用する"固有魔法"は使えない。

 相手は環境を制圧し操作する化物である。

 容易にその主導権を奪われるのは想像に難くないのだから。

 

「出し惜しみなく、こうするしかないだろう―――五行、如是―――」

『裏切華のペンダント』【元・奉納巫女】【陰陽術Lv3:護符作成】

 空が軋む、片手に印を組み、自身を中心とした軌道を歪める簡易な結界を展開する。

 槍を腰に据え、劣ろうとも並行して重心移動のみで槍捌きを成す、これが聖錬Bランク最精鋭の武威である。

 彼女の呼応する過去の名残たる『宝石飾り』に、その特性は術符を"遠隔・連鎖起動"し組み立てるだろう。

 

 併せて成される槍の波濤、防波堤に。

 

「げほっ、ああもうマジ無理!なんなの、めちゃくちゃ!こんなの私の手札で効くわけないじゃん!」

「おう、そうやってちまちま投げつけてけ!その非力な手品でもやんねぇよりましだろよー」

「言ってなさいケネス!」

『金字投錨(ダート):詠唱短縮』【魔術知識Lv2】【投擲術】 

ちゃ

 軽剣士(フェンサー)と名乗った女冒険者は、両手に一杯の光十字を構えて投げつける。

 魔術知識と魔具の補助の機能に形どった返し投錨、果実に至る前の細かい蕾を打ち砕き、蔦を張り付けて。

 その必死の抵抗を、なお笑みを浮かべながら、邪剣士の男は茶化した。

 

 それに対して。

 

「……くそっ!当たんねぇ」

【弓の心得】【観察眼】【罅瑠璃の心臓】

 その所為を見て、いささか呆然としていた罠師の男が、花や蕾を目標を定めて弓を放つ。

 それらは前方で大太刀回りする彼等に比べれば、微かな抵抗だ。

 手の震えに狙いがずれる。命中するのも稀、よしんば射抜いたとしても留められるものなど大きくはない。

 

「くそがっ」

 罅瑠璃の心臓、静観に微かな火が齎した煤、歪んだそれに。

 この目を、誰かに特段優れたと言われたことのない己に、不意に憧れから投げかけられた言葉に。

 弓を構え番えた時に何処か高揚していた。根拠なく己はできるのだと自身にうぬぼれていた。

 

 『赤刃兜』、思いきって乱入者に対して射った一矢は掠りもせずに虚空を切った。

 己の積み上げのなさ噛み締める。

 そもそもに高速に動くものに中てる技量などもとよりないいうのに。

 まるで子供の用になぜできると思ってしまったのか、結局何もできやしない己の単純さに、死の不安に流れる冷や汗に悪態を付く。

 

 よく聞いた物語と違い。

 たかがきっかけ一つで、何も変わりもしないのだというのを実感する。

 

「臨界、理論値、いつでも行ける」

「おっけー、じゃあいっくよー合せてリコちゃん♪」

 そして、それは完成した。

 周囲に漂う精霊を薪に熱量を増した、回る円環を刺激される火天の槌、中心にマナの反応が臨界へと向かい。

 魔術師の扱える熱量の越えた二重構造を形成した球体が、白耳の魔術師の杖先へ遥か空へと煌めいているのである。

 

「みんなー!準備できたお願い引いてぇぇえ!!」

 掛け声のその後に紡ぐ。

 

「―――墜ちろ、天幕―――陽を顕す瞬き星―――!!」

『星の紋章』(エーテライト)【魔術知識Lv2】【無縫の祈り】=【四章級魔法:火源天槌(バグ・メテオライト)

 そして巡る円環の封を切って、少し間をおいてその杖の穂先に銀糸のレールを敷いて方向性を誘導する。

 そのまま、空から落ちる星の様に重力に任せるまま叩きつけたのである。

 

―――きぅん―――ドォオン!!

 そして貫通し炸裂する。

 その内実は、ミストラルの"光・火"という属性の攻撃性。

 カイトの"蛍火"に集めた精霊を、内部で輪転させて一気に解いて弾ける……、マナ同士の疑似燃焼反応を連鎖させる様に局所に方程式を定義した"四章級の大魔法"である。

 在野の魔術師であるミストラルが所持する、固定パーティと魔具を前提とした貴重な"破砕術式"だった。

 

 それと並行して、

「エット、油も投げマすねー!」

【バッカ―Lv2】【錬金術Lv■】【ポーションマスタリー】

ぽいぽいと。

 続くように、バッカ―資格を持つ幼き賢者がその追い打ちに、異次元格納取り出した瓶詰めに密封された幾つか薬品を投げつける。

 この着火剤は揮発性であり、属性金属の混合で大気と結びつくように調合された自家製だった。

 

 それは少量であろうと、確かに燃え続けるその一助となるだろう。

 

 燃え盛る。焼け据えた嫌な臭いが場を支配する。

 彼等は激闘の後に微塵切りになった残骸も交えて、勢いよく火柱と気流に掻き混ぜられながら燃え咲いたのを見届けた。

 魔具に支えられた完全詠唱、それは確かに在野の冒険者が用いる手段としては圧倒的な破壊力を持つだろう。

 

すたっ!きゅぅぅぅん。

「おー、流石に完全詠唱の"大魔法"だけあって派手っすねぇ。ところでこれで片付くと思うっすか?」

「……無理だろうな。ああやって燃えているのはあの化物の表層だけだろう。ああいう行き過ぎた植物は根から断たねば蘇る類だ」

【二刀流】【パルクール】【夢幻羅道】

 エクスマキナの女は駆動音を響かせて、最前線にて仕掛けた掛け声とともに、木々の枝をバネに跳ね跳んで。

 前衛の近くに降り立ちながら、問いかける。

 その問いに対して奉納巫女の出身であり、それに己の固有魔法から植物知識に専攻するカルデニアが断言する。

 

「そーっすよねぇ、あー面倒っす、しんどくて仕方ない」

【エッジハンター】【スキルソフト:瞬撃士】【高速機動(オーバーロード)

コキ、ゴキと。

 彼女自身も無理をしているのか、蒸気と排熱音にその負荷を主張する。

 潜入用『エクスマキナ』として製造された人工皮膚の被膜は、その排熱を妨げているために過稼働に耐えうる設計をしていない。

 彼女とて、遊撃として動いていた。

 そのコレクションの一つである水属性を発する魔剣により、只管に打ちそえていただけだ。

 

 故に、実質的なダメージになってはいない。

 

【王に等しき者】【グラスフィールド】

 この手を尽くした"大魔法"もってしても火力が足りない。

 仮にこの存在を一撃をもって仕留める手段があるとすれば、その根を張った大地ごと抉りとばす……。

 そう、選ばれなき未来の先に至る『絶滅戦争』、その卵の一人が扱う"爆裂魔法"に最低限のラインとするだろう。

――――――ッドォン!!

 その蔦は燃えながらも暴れ狂う、その迫力はむしろ猛威を増したようにすら感じられる。

 苦しみ断末魔の様に、身に焼き尽くす炎を自力で打ち消さんとの暴れまわり、余波に周囲の障害物を打ち砕くのである。

 

「単極に行ってしまえば、環境その物の討伐は今の手札では無理でしょうね」

「そうかここまでやってこれだと残念だが、仕方ねぇか。下がるぞ怪我してるなら止血しろ、他のモンスターを寄せちまう」

「手早くいくっすよー。……出来る限り散った冒険者を回収して帰還したいところですが」

 逃走した冒険者も見捨てるのも目覚めが悪い。最低限に望みが繋がるなら晴らす。

 己の行いは己に反ってくると自戒するならば、シビアな冒険者家業を続ける為の納得(けじめ)である。

 とにかく、"豪蔦の怪物”はその身の鎮火で手一杯でしばらくはこちらを気に掛ける余裕もないだろう。

 そう、算段して。

 

「ヘ( ´Д`)ノすたこらさっさーだねクラケーちゃん道案内よろしく!付いてきてリコちゃん、ホタル君♪」

「ん」

【妖精術Lv2】【理性蒸発】

 皆の体制が整った所を確認して、徒党は一目散に逃げだした。

 ある者は近くのある者は嵐を解いてそれを特大の目晦ましにぶつけ、ある者は魔具を起動し走りやすい形に、ある者は重いアックスを預けて、その結果を見届けないまま、素早く撤退を開始する。

 

 背後を気にすることもなく、とにかく走る走る。

 

「心配しなくてもうちのは生きてるわよ確実にね!途中から殴りかかってきた赤虫が飛び去った方向は誰かわかる?」

「エット太陽の位置から南東、にオソラク」

 目指す撤退の方向先に襲撃した紅兜が飛び去った方向である。

 真っ当にあらがえているならば、徒党の【野狩人】(レンジャー)の一人たるカイトが未だに交戦を続けてるはずだ。

 

―――遺されたのは、劫火にのた打ち回る剛腕の怪物だけ。

 しかし様子がおかしい。

 あれだけ猛威を振るったそれが、余裕がないとはいえ全くちょっかいを掛けてこなかった。

 

ずぅん

 崩れ落ちて鈍い音を響かせる。

 

 そうボロ、ボロボロボロと……、まるで塩の柱崩れ落ちる様に。

 姿が形が崩れ落ちる。"再生しない"。

 

 その事態を把握しているのは、装填される銃弾に細工を施した"儚紅の少女"のみである。

(うん、効いてる、みたい)

【円環魔術】【ウィルスコマンド】【■星の紋章】

 特殊な感覚器を持つ"儚紅の少女"のみがその顛末を観測していた。

 あの猛威を振るった大地の活力をそのままにした様に再生力をが嘘のように再生しない。妨げられている。

 燃え盛るとともに灰が末端から塵の如く崩れて風に流れていく。

 

【憑依具:光→空・炎】【常世裂き咲く花:二片】

 それはそのままに性質を表して"ウィルス"の如くである。

 "儚紅の少女"が自身の欠片《フラグメント》を回収した為に、形を取り戻した機能である。

 彼女の全盛期である災害であったころであれば、"光属性"の性質のままに透過させ、内側から陽で焼くように浸食しボロボロに崩すマナ特攻の侵略を成しただろう。

 

 再誕の際に生じた、属性の変質により形質変化に食い荒らし同化する複製する生物的な性質を得ている。

 対象の生体、または染色を利用した自己属性の複製、繰り返す転輪の微生物(小精霊)、今の彼女のできる事である。

 

「ん、頑張った」

「よーしよし、リコちゃん凄いよ、今までで一番うまくいったもん♪」

 幼子はその小さな群れを張る。撫でまわされながら一仕事終えたような達成感に呟いた。

 その観測を、言葉にしないのは聞かれなかったから、やることはやったと主体性のなさに怠惰に流した。

 

 それに、アレの末路なんて些事を見届けるより、今は己の"庇護者"を無事の追うのが都合がいいという打算がある。

 未だに"儚紅の少女"の依り代であり、居心地の良い日向である。

 

(無事だと、うれしい) 

 だから理に適う。無事を形なき何かに祈る。

 いつか必ず終わる、この黄昏は"儚紅の少女"にとっても大切な事なのだから

 

 

 

――― 一方、襲撃者に戦場から押し出されたカイトの視点にて。

 

 

【歴戦個体】

 自然界に現れるそれは弱肉強食の歴戦個体、その経験を反映していた。

 先ほどから繰り返すのは肉弾戦だ。

 

【斬刻甲虫】(キリキザン)【交雑種:蟷螂の羽】【鐵鋼赤化】

 

 油が跳ねるような羽搏き、それが激しくなる度にその存在は加速し獲物を慣性に捉える。

 双剣に噛み合わせて、何とかこの身をこらえる。

 その勢いに身体を持っていかれ、そのまま押し出される戦場を離れていくのを、勢い良く流れる風景に自覚させられる。

 

 カイトの"相棒"たる重剣士、ローズの援護はもう期待できないだろう。

 彼女は基本的に射程を持つ攻撃手段を持たないのだから。

 それに、今回は彼女には彼女の役割がある。

 状況を決定つける優勢を傾ける、白耳の魔術師(ミストラル)の壁となるのがこの状況では最善なのだから。

 

(自分で、何とかするしかない!)

 双輪たる彼等は冒険者として、"相棒"に強い信頼を置いている。

 彼の身にかかわらず冒険者として、自身の役割を果たすことを優先するだろうと信じている。

 そうだからその為に、この状況は、この乱入者は自力で対処しなけらばならない。

 

 双剣の鍔に噛み合った、競り合いに押し出される身体を……。

 

「タイ、ミング……ッ!!」

【二刀流】【魔法剣Lv1:雷舞の刃】【舞武】

 羽搏きのタイミングを見極めて、魔法剣の勢いを弱めて拮抗していた鍔競り合いを緩ませる。

 

キィン、ザッツ……!

 そのまま魔法剣の余韻に滑る刃に、身に着けた細工籠手の上から腕を斬り裂かれた。

 鋭く、熱い。しかし取り回しの悪いその構造からいって、深くはない傷だ許容範囲だと言い聞かせて。

 浮いた体に重心を揺るがしその腕を振りかぶって、殴りつけるのである。

 

『キキギ!ギギィ!』

 しかし、それは腰の入っていない軽いもの、大地に蹴りだしていない故に。

 蟲畜生の表情など察しえないが破れかぶれと笑っただろうか、羽搏き音を強く攻め気にあざ笑うように肉薄しようとして。

 

―――ぽぉん♪―――

 

『黄昏の腕輪:シェルクラッシュ』【腕輪の担い手】【狂羅輪廻】

 その特徴的な破調ラ音が響いた。

 由来不明の上級魔具、腕輪の担い手たる彼がバッシュの如くタイミングで、電磁細工の仮想装甲(プロテクト)をマナに投影するその圧力に互いに吹き飛ばし距離を離したのである。

 

【せいしんりょく・まけんき】

 その反動に双剣士は、さらに高く吹き飛ばされて宙を飛び舞い。

 "赤刃冑"は怯んだ。

 しかしそれで終わるはずもない。距離は剥されたが、その慣性は完全には消えて居ない。

 眼光が交わる。映る殺意に互いの獣性が交差する。

 先ほどに重剣士の一閃に体制を崩した時にも発揮したその生態、種族特性かならなる刃であらんとする本能的欲求に突き進んで突貫をやめない。

 

「すぅ」

『黄昏の腕輪:六花弓』【レンジャー:弓術の心得】

【クロスシザー】【凶刃の如く】

 呼吸によるセットアップ、専心による視線軸の固定。

 双剣士は構成しなおした電磁投影を絆の双刃を核に弓の形に、一呼吸の魔法剣の息吹を宿して歪みを放ち。

 赤冑は突貫した勢いのままに、飛来するその矢を両断して……。

 

 当然の物理法則に、双剣士は重力に任せて自由落下する。

―――ガガガギャン!!

『荷重の具足』(ハードポイント)【精霊術:アプドゥ】【舞武】

 透き通る空には似つかわしくない金属を擦り合わせる如く音が響き渡る。

 これは双剣士が自身の"空・炎"属性由来の炎を、張力を大気に引っ掛けて空転させ勢いを殺した音である。

 そのままに枝を圧し折りクッションに落下のちの着地する。

 

 そこまでして、やっと一幕の空白が訪れた。

 間一髪。 

 息を吐く、あのままの勢いで身体を持っていかれ障害物に叩きつけられでもすれば……。

(怯んで真っ二つ、かな)

 そのまま両断されていたことは想像に難くない。

 

【レンジャー】

 双剣士は裂かれた細工籠手に布を巻き付け出血を抑えて、血の味の雑じった吐息にその強さを噛み締める。

 "赤刃兜"は魔法剣の競り合いに焼けた甲殻の刃を研ぎ、未だ両断できぬ敵対者を睨みつけている。

 

 

「ほんと死ぬかと、思った。ここまでしてやっと止まるのか」

 この腕輪の投影を盾に殴りつける手段は元々にこの電子装甲による仕様外である。

 あくまで緊急回避の手段だった。

 以前の様に腕が圧し折れなかったのは成長もあるが、相手が小型のモンスターであり、見た目より軽かったというのが要因として大きい。

 

 呼吸を整え、自身の炎に周囲に帳を宿して、刃を向けて敵対者(モンスター)を見据える。

 出し惜しみしたら死ぬ。

(また甲殻が異常発達した"人モドキ"の類、また肉薄されたら死ぬか。それにここは敵地だ長引かせるわけにはいかない)

 観察は心中に整理する。

「―――でも、焔は効く刃は通るやれなくない」

【ダンシングヒーロー】

 最後にそう締めて自信を鼓舞する。

 鉄火場の熱に巻かれながら浮かされて、己の場所を迷わないように、進むべき道を見出すために。

 それが、彼の生来の気質、開花させつつある戦士としての資質なのだから。

 

『―――ギィィィィイ―――シャン!!』

【凶刃の如く:つめとぎ】

 その爪の刃を研ぎ終わったか、傷んだ機械の様な音を響かせながら"赤刃兜"が動いた。

 その不釣り合いな翅を羽搏かせる、油が跳ねるようなその予兆に、全身の刃むき出しに駆け出して迫る。

 カイトは経験したその加速を予測して。

 

ちゃ!

 構える。

 

 対して、双剣士は待ちの姿勢だ。

 機動力は相手が優れているうえに、下手に動き回れば他のモンスターを引き寄せてしまうだろう。

 

【交雑種:蟷螂の羽】【凶刃の如く:クロスシザー】【鐵鋼赤化】

【二刀流】【精霊術Lv2:アプドゥ(ヘイスト)】【狂羅輪廻】

 そしてそのままに再び、ぶつかり合う。

 弾丸の様な直線と、硬質な音を響かせて、曲線を描く演場の独楽が火華を散らすのだった。

 

 

 


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