ポンコツ世界異聞=【終幕を切り刻む者達《ハッカーズ》】 作:きちきちきち
―――氾濫した森の中に囲まれた小屋にて。
時刻は、夕暮れの一歩手前の時間の事である。
元々このあたりの管理していた人と思わしき少女。
『薬剤師』の"ジャスミン"と名乗った新緑色の少女に招かれて、カイトはその小屋の中で座らされていた。
ちらりと目を配れば、適度な生活感に溢れていてこの事態とは似つかわしくなく、先の一面の糞緑を見続けたからか余計にアンバランスに思う。
「い、つつ」
「もう久しぶりのお客さんなのに、こんな血まみれで、一体どうしたんです?」
「ちょっと、モンスターと戦って」
若葉の少年が身に着ける細工籠手、損壊して半分機能を失っている包帯を拭い去る。
するとその疵跡が露になる、バックりと裂けており、あと一歩で骨まで届きそうな深さである。
「……うわぁ、こんなにばっくりイってたのか全然気が付かなかった」
すっぱりと肉まで見えた。
目にしてしまえば、途端に実感が湧いて痛みが襲いくるのが不思議なものだと他人ごとに思う。
「まったくもう!冒険者さんだからって無茶はだめですよー」
『特製ポーション』【医療知識】【薬学知識Lv3】
少し怒りながら、消毒液をしっかり当てて、その後に彼女が調合した薬草を薬液に浸したあて布の上に。
応急措置の即席の包袋を新しく奇麗なものへと取り換えて。
「はい、とりあえず処置できましたー」
その、処置が終わって。
ペタペタぺたぺた、くるくるくると、それを肩・腕・頬の疵の全てに施したのである。
「ビックリするくらい奇麗に切れててよかったですねー。これならきっと早くくっついて治るでしょう」
「いっつ……、ありがとう。すみません大切な物資なのに、恩にきます」
「いえ、困ったときはお互い様ですから、気にしないでくださいな」
お手製の救急箱を取り下げて。
治療してくれたジャスミンにお礼を言って、きつく縛られた腕を動かしてみる。
手を握れば握力も十分、緊急時には動かせるだろう。それを確認して、安堵する。
「気を付けて行ってくださいねー。人は無理は効くようで効かないんです、体をどんどん壊れていく人もいるんですからー」
「……うん、そうですね。わかってます」
心当たりはある話だった。
冒険者の先輩であり、『九十九機関』出身から医療知識を持つカルデニアから忠告を受けていた。
痛みは慣れるもの、刺激は神経反応を壊すものだと。
しかし、とにかく今は止まれない。それだけの事だった。
「あ、そうだ。よろしかったら、お茶入れてきますねー。」
「えっと、そこまでしてもらうのは悪いです。それよりちょっと聞きたいことがあって……」
「遠慮なさらないで、せっかくの久々のお客さんですもの♪手を動かしながらでいいならどうぞ。寛いで行ってくださいな」
【野狩人Lv2】【マイペース】
遠慮も聞かないで、キッチンと思わしく奥へと消えていく
備え付けられた火の魔石に灯を入れて、湯を沸かしてお茶の匂いが漂う。
(ん、変な感じ外はあの有様だっていうのに)
そんな中に、窓から外に視線を流す、やはり外は一面の糞緑である。
まるでここだけ時間がとどまっているような感覚に。
そのとことんまでのマイペースに調子を崩されなら、どうにも違和感を感じながら。
寛いで行ってという言葉に、ひしひしと現状認識の落差を感じる。
「ちょっと、聞いてもいいですか」
「ええ、どうぞ」
若葉の少年は、その少女に質問を投げかける。
「ジャスミンさんはなんでまだここに、もしかして何か理由があってここに留まっていたりしますか」
「どういう意味でしょうかー、だってここが私の家ですよ?」
【アニマルマスター】【マイペース】
柔らかな疑問符を浮かべて、小首を傾け疑問を投げ返してくる。
その自然の仕草で察する。
(―――あ、これなんにも分かってないやつだ)
それで確信した。この少女はこの事態……"森林の氾濫現象"を把握してはいないと。
現に森に呑み込まれて、いやどれだけマイペースなのだと突っ込みたくたくはなるが、もうそういうものだと呑み込んで順序だって話を進めようとする。
「じゃあ、説明しますね。といっても僕が知ってる範囲の話ですけど」
白磁の器に淹れてもらったお茶を一口に含んでから、ほぅと溜息をつく。
土と灰汁の臭い味がする、故郷の自然茶に似た風味である。
おそらく自身で摘み取った自家製なのだろう。そう乾いた口を潤して、改めて。
「今から1か月程前、ですかね。北西にあった森が氾濫して爆発的に領域が拡がる現象が観測されました。典型的な"属性災害"の観測です」
"属性災害"、マナの属性の隆起や一極化によって齎される災害の総称である。
属性の安定地『聖錬』において、あまり観測されるものではないが、だからこそ対処が求められるだろう。
放置すれば人の生存域は確かに狭まる。現在においても森に根付いて生活していた人々が住処を追われて、なお生活の為に縋るしかなく多くの犠牲者を生んでいるのだ。
「上のお偉いさんは最初は焼き払って対処しようとしたらしんですが、拡大のスピードに断念したらしくて」
ここで下した初期対応も悪かったのだろうと、無責任に想う。
まだ小さかった拡大する森に火を放った。
それはただ呑み込まれて元の木阿弥どころか既成の古き森を焼いて、更に拡大に適した生態系に成り代わったのである。
それで悟った、その原因、根本をどうにかしなければ無ければならない類であると。
「その調査の依頼に来ていた冒険者の
そして最後にここにいる己がここにいる理由を話した。簡単に言えば下手をこいたわけで、頬をかいて、苦笑いする。
最初の想定では、ここにあるであろう管理人の住居であった建物。
その残骸でもいいから退避場所として地下に潜って、朝まで身を休めて体力を回復させて、帰還を目指す方向だった。
こうして彼女がここにいなければ、治療を受けることはできず生存の確立がぐっど下がっていたのだから、この巡り合わせは幸運である。
「まぁそれは大変でしたのね!ご無事でよかったです」
まぁまぁ、と手を合わせてその身を案じる。
治療を施した彼女も先の戦疵を目にしていた。まるで達人が刃で斬り裂いたが如く奇麗に割れた疵である。
素人である彼女にも、強靭なモンスターとの戦闘があった事は想像に難くないのだから。
「それでー、その調査はカイトさんたちの方で、なにかわかったんですか?」
「結果はまだ、サンプルを持ち帰って専門家の解析待ち。だけど、少なくとも僕等は人為的な干渉を疑っています。とすればこれがもっと大きなもの前兆の可能性もあると思ってる」
根拠の欠けた危機の警告、曖昧な言葉に。
根拠を彼個人の感受性に基取る為に、大っぴらに語れない予想を口に出す。
下手な話をすれば、狂人扱いが妥当だろう、その不自然を疑われると知るが故に。
実際の所、彼が知る同じく"異変"を調査していた冒険者としての成功者―――
『鬼人八部衆』"蒼天"が距離を取ったのがその証拠である。
(多分、共闘したからこその様子見、なんだろうな)
溜息をついた。
結局のところ、魔具による災害の予見など都合がよすぎる。
あの夜に襲撃した『死神』同系統の能力を扱うとなればなお更に。
(仕組まれてたって構うもんか、歩かなければきっとまた崩れてしまう。無遠慮に踏み倒す"侵略者"は殺す)
『腕輪の担い手』【狂羅輪廻】
若葉色の少年が森の侵入前の先触れに観測した、砂嵐軽い
今も視界と少なからず脳裏を走る砂嵐、彼が畏れる"侵略者"の予兆である。
無為に危機感を煽る事になるかもしれないが、少し曖昧に言葉に出して忠告とする。
「えぇ、外ではそんな事があったんですねー。森のお友達も駆けつけてくれたのは、そう言う事なんですね」
【アニマルマスター】【縁拡がりの茉莉花】【香りの女王】
その話を聞いて少女は考え込む。
その少女ははモンスターの使役者として大きな資質を持っている。
人類の敵対的本能を持つのモンスターすら惹きつけるような"魅了体質"である。
傷ついたものを案じて、弱きものを慈しむ。
その博愛めいた性格もあって、時折にはぐれなどの手を伸ばしてお友達として共存していた。
結果的に、他人とは違う時間を生きているのが、ジャスミンという少女である。
「確かに朝起きたら、空は森に鬱蒼としてお客さんも来なくなってしまって、ちょっと困ってましたの」
【博愛の精神】【マイペース】
彼女は森の様子には少し違和感を感じながら、集まってくれた友達に安心感を覚えて。
それでも、今の今までいつも通りにこの危険地帯で暮らしていた。
普通ではない。今は亡き、彼女の両親が案じていた世界に絆す、ある意味ではとても危険な才能である。
「―――というわけなので」
ここで言葉を切って。
あとは彼としての提案を、今後の自身の予定に基づいてその方がいいと思われる誘いをかけた。
「僕は夜が明けたらいったんこの森を脱出して報告に戻るつもりです。ジャスミンさんもよかったら一緒に脱出しましょう、ここは危険だから」
『バッカ―Lv1』【田舎育ち】【野狩人Lv3】
脱出の宛はある。田舎育ちに自然への生き残り方は知っている。まず体力を回復させる。
この森を踏破せずともその半ば"狼星"を上げれば、救援が呼べる。
今はキャンプに戻っているだろう、
ただここにいるよりは遥かに現実的な選択肢だろうと、彼女を誘ったのである。
「んー、ちょっと待ってね。
彼女が外に出て、一度口笛を吹けば、ちょこちょこと魔物達が顔を出した。
【FOE】【狂乱の幼鹿】
そこには先ほど若葉の少年に初見に襲い掛かった、巨大な鹿も見えた。
あの行動の示す通りに、それらが事実彼女を護っていたのだろう。
だからこそ、この異常事態の中でここが縄張りとして保たれていたのである。
鼻先を撫でながら彼女は語り駆け、それに巨大鹿は低い呻き声に頷いたのを見た。
「お友達に相談したら、一緒に付いてきて護ってくれるって、お言葉に甘えようと思うの」
「あはは、そう付いてくるのかぁ」
『―――ヴぅオオオォォォ』
カイトとて、知り合いにはいないが、
短い観察ではあるが、それは強く彼女の事を慕っている様に見えた。
強靭なモンスターであるその大鹿が付いてくるというのは、冒険者の本能から警戒してしまうが、恩人のいう事である信を置くほかない。
「ただ……えぇ…でも、ちょっと気になることがあって、脱出はちょっと待ってもらえないですか」
「へ、気になる事、ですか?」
じゃあ決まりだと思っていたところに。
しかし、まだ躊躇するような言葉にその理由を聞き返した。
「ええ、数日前に、その森の方で大騒ぎがありましてー」
彼女はその長いブロンドの髪を捲って頬に手を当てて、思い出しながら。
相変わらずのマイペースに眼にした過去の出来事を語る。
「風が強いと感じた日の事です。
珍しく、お友達が怯えて、低い唸り声を上げていたここに身を寄せていた。
それはここまで波及する圧倒的な存在感だった。
思い浮かべるのは、吹き鳴らした風の指揮者、翡翠に輝く虐殺の天使の事を身振り手振りに語ろうとする。
それが収まる頃には丸々半日もかかったように思うと。
『邪神具:応龍』【魔法剣Lv4/5】【一騎当殲】【虐殺の主】
「私見たんです。空にたくさんのモンスターが翡翠の天使みたいな誰かが空を舞ってる光景を、襲われてて、空で戦っていたのを、その方がちょっと心配でー」
「そう、この森で、ですか?」
若葉の少年は少し疑わしげに声を出す。先に誰かが依頼を受けて調査に訪れたのだろうか。
その話が事実だとして、彼女が目撃した人物は生きてなどいないだろう。
人類の生存域外に生き残るは厳しい。
それが既に、モンスターの群れに既に襲撃をされていたというなら猶更のことである。
誰もが見なかったことにするだろう。それがこの一般的な世界の常識である。
「もしかしたら、カイトさんみたいに誰か怪我を負って困っているかもしれません。だから―――」
【博愛精神】【マイペース】
しかし彼女はこういった。
見ず知らずの誰かでも、彼女は放っておけないのである。
実際に、こうして同じように怪我して困った人を目にしたのなら猶更だ。
だから。
「この子と一緒に、ちょっと様子を見にいくのに行ってきますね。カイトさんはここで待っていてください」
「まって、ちょっと待って」
その言葉に若葉色の少年は、静止の声を上げる。
軽く言う行動力に困惑するしかない、それに己の身が救われたとて、気軽に肯定することはできない。
先も言った通り、この森は絶賛、属性値災害の危険地帯の真っただ中である。
『隔離領域』化も疑われているのは伊達ではない。
「ちょっと確認してくるだけですよー。
「それはわかる。でもそう言う問題じゃないんです。きっと貴方が考えているより、事態は重たいことだから」
そんな森の最中を、ほぼ単独行動など命が何個あっても足りないだろう。
若葉の少年は、それを先ほど死にかけて、必死に己の息を潜めて身を潜めての歩みで、誰よりも体感しているのだから。
「でも、放っておけないですし、もしかしたら今も傷ついて苦しんでるかもしれないと思うと」
「なら―――」
根がどこまでも優しい目の前の少女に、それに助けられた事もあって
妥協案の提案として言葉を紡ぐ。
●●●
―――そして、翌日。
森の中をのっしのっしと威風堂々と歩く一頭の巨鹿、その上に騎乗して風にたなびくブロンド髪の少女。
それに続く随伴歩兵の如く。
木の根を踏みしめ周囲を警戒しながら後に続ける若葉色の双剣士が一人いた。
「―――はぁ、こうなるか」
【
カイトは結局、恩人である彼女の要望に従って、伴に行動する事を提案したのである。
それに、先から匂う陽の香りに、どうにも判断が揺らぐ感じはあった。
「ごめんなさい。私の我儘で、カイトさんは怪我してるのに……」
「気にしないで。僕には一晩の宿と治療の恩がある、これであなたが帰ってこなかった方が後悔するから」
それでも冷静であることを理性で自省して、なおそれが自身の出した結論がこれであった。
「それにジャスミンさんの治療のおかげで、ほぼ万全で動けます」
『迷彩外套』【精霊術Lv2】【野狩人Lv3】
剣を握ったまま、その腕を軽く振るってと完調を主張する。しかし、それは強がりである。
疵を消毒して包帯をもって締め付けて矯正したが、全力で動けばそれはすぐに疵は開いてしまうだろう。
それでも一人でいくより、二人で動いた方が生存の確立は遥かに高い。
「ジャスミンさん、その件の"天使"というのを目撃したのは、南東方向であってますか」
「えぇ、そっちで間違いありません」
陽の傾きに方角を察して、地図を読みと見ながら最短距離を模索して先導する。
大鹿は構わず進んでいくが、彼はそうはいかない、持ち込んだナタにて蔦を切り払い。
踏み倒して道を作りながらも先に進む。
【FOE】【威嚇】【狂乱の角鹿】
【ソードマスタリー】【舞武】
そもそもこの生態系上位種であろう大鹿の影響からか、森に生息する半端な獣も先から近寄りもしない。
割と楽はできている。あえて蛮勇を振るい近寄るとしたら、脊髄反射に動く原始的な蟲畜生位である。
その程度なら打ち漏らしを切り払う程度で片が付くのである。
「はえー随分とて慣れてますねー。冒険者さんってすごいですね」
「少し田舎に住んでいたから、それより少し確認したら、戻りますよ。約束ですからね」
『蟲煙草』【田舎育ち】【精霊術Lv2:
一宿一夜の休息に、彼の体力もある程度に復調している。
短時間の強行を想定して、そこらの土を木を混ぜ合わせて己の炎に燃やして煙を炊きながら、普段においてミストラルの補助をもって成している気配迷彩を単独で維持しながら進む。
『―――ヴゥオ!!』
「わかってるよ。不埒な事は考えてないし、君の主はしっかり守るから。さっきから唸って威嚇してくるのやめて」
背後から聞こえる獣の唸り声。
言葉が通じぬと、その視線と唸り声に無駄だと思いつつもに大鹿の返答に言葉を投げかける。
それに聞こえているかいないのか、大鹿は鼻を鳴らして、ずんずんと相変わらずの威風堂々に草木を踏みしめて進む。
(んー、モンスターに背後を見られてるなんだか、落ち着かない)
頬を掻く。
彼とてモンスター使役するをならわいとする
しかし、背中を預けるのは初めてであり、目を併せれば普段に殺し合うモンスターの視線を感じるのは非常に落ち着かない。
そんなむず痒い気持ちを、冷や汗に渇く身体を抑えながら。
『蟲煙草』が燃える、精霊寄せの煙に紛れながら、森の中を進んでいくと……。
―――そして、見えてくる。
【世■樹ノ方■式】
「なんなんでしょう……?ずいぶん大きな樹ですけど、こんな所にはなかったはず……?」
それは枝葉から粒子を光り輝く大木だった、いや見ようによっては異質なほどに巨大なそれである。
明らかに異質であるそれに足を止めて。
……ざっ、ッザ。
ノイズの音。
「っ」
一匹と二人にはその威容を見上げた。
しかし、それぞれみている者が違う。ジャスミンにとっては森の中に一際高く聳える立派な樹木でもあっても。
0と1の数字のらせんに取り囲まれた、異質な虚偽に塗られた樹にしか見えない。
【迎■態勢:怨敵覚悟】
ささくれ立つ未だ定着していない、肉体の臨戦態勢が神経を逆なでる。
「えっと、場所的にはここ。でもこれなんでしょう……?」
「明らかに人工物っぽい、けど。ジャスミンさんは不用意に近づかないでください」
『属性検知器』【野狩人Lv3】
採取用のナイフを取り出し、その表皮を少し削りとって反応をみる。
属性は不明、"天と土"の混合に、何か正体不明の属性混ざっているのが結果に見れた。
「……はぁ、ホタル君の話を顧みると、これが『七輝属性』の"陽"かな、やっぱもうちょっと高いの買うべきだった」
つまりは未だに貧乏が悪い。己の貧乏性な根を自蔑しながらため息をつく。
この間買い換えた、『属性検知器』は新しい人工属性の概念である合成属性の為に、"七輝"に対応していない。
本来に、自然界に存在しない不安定な属性故に必要ない機能だったはずだったのにと愚痴る。
【野生の嗅覚】
ふんふんと大鹿が鼻を鳴らして。
「大変、うーちゃんが言ってるけど中に、誰かいるみたいです……!?」
「は……?」
困惑の声を漏らす。
生きてはいないものだと思っていた。それは意外な言葉だった、ただ確認のためにここに来た。
その不自然な状況に、疑問を整理する間もなく。
「早く助けなきゃ、お願いねーウーちゃん!」
『ウウウゥウウウウウ』
【狂乱の角鹿】【メガホーン】【鵯越逆落脚】
彼女の掛け声とともに、大鹿がその絶壁な崖さえを駆け上がるだろう強靭な脚力と角に倒そうとする。
ドォン!!
その衝撃に大地が揺れる、しかし大樹は軋みそれでもしかし強く大地に根を張ったままである。
そう簡単に折れてはくれない様だ。
あぁ、それでは目立つ時間がかかる、目立ってしまう。
中にとらわれているという誰かが、無事で済むという保証もない。
「うん」
それを見て、あっさりと秘めるべきそれの封を切ることを決めた。
元々にその為に来たのだ。
誰かが望むなら、誰かが"良き"を成そうとするなら、助けられるべきである。
「どいてください。どうにか、します」
ぱちぃ。
【腕輪の担い手:
電子装甲を展開し杭のように打ち込む、樹木にその右手を触れる。
脈打つ電子の鼓動、鍵のかかった内部の数列、接頭詩に隠された法則性を理解して、その数列のロジックを当てはめる。
(思った通り読めるか、中の空洞、液体かその中に確かに誰かがいる)
(角度の計算……、これなら巻き込まない、ハズ)
しかし、
これを覆す"反則"は、この手はある。
「……あまり他の人には見せたくないんだけど」
電子装甲がマナに投影される、いつものように花が咲く様に。
その輪郭をなぞる様に、その砲撃の軌道を脳裏に描いて。
キュウン―――ドォン!!
そして電子紋章を解き放ち、その過負荷粒子の奔流の中に溶かした。
そこに巨大な樹があった事さえ否定する様に、加羅の現世の帯にしたがって溶け墜ちるのだ。
それとともに支えを失った大樹の上部は不自然に崩れて、斜めに倒れるのである。
ばしゃん……ずぅん!!
【世界樹の方程式:自■培養■ッド】【脱色回帰】
その後は物理法則に従って、中の内用液ごと、その人影が地面にぶちまけられる。
白みかかった
(……ごほっ)
【元村娘】【記憶■失】【色抜けた天使】
小さく、正体不明の水溶液を吐き出し、呼吸をする様子が聞こえる。
周囲を警戒しながらも、それを耳に少し安心した。
当然だが、意識はない様だった。彼女が件の天使なのだろうか、その少女に見覚えなんてない。
「はえー、凄い奇麗……。あ、いけない。早く手当しなきゃ!」
【医療知識】【薬草知識Lv3】【博愛精神】
彼女は正体不明の帯、圧倒的なその現象に。
一瞬、呆気にとられれるが、すぐに怪我人に駆け寄って治療を施さんとして。
「大丈夫ですかそこの人ー!意識をありますか?」
「ッ、下がって!!」
「はえ……?」
【迎撃態勢:怨敵覚悟】
駆け寄るジャスミンを静止する。
【増殖ノ波動】【衝撃ノ杖】
それに反応する自己防衛の如く。
上空に光を掻き分ける様に空から舞い降りる槌の様を、枝葉をぶらさげた石像のような何かを視認する。
コマ送りにそれが落下する。
もろともに大地につい穿たんと、それが滴る様に地に落ちて大地を震わせんとして。
『グゥウオオオオオオオ!!』
【狂乱の角鹿】【鹿々の怒り:とっしん】【巨躯巨体】
己の主の願い通りに護らんとその落下の軌道を巨鹿が踏みしめ、その巨体をもって突進して弾き飛ばす。
―――ズゥウウウン!!
剣を引き抜いて構えて、その間に壁担うように。
払う、その巨体を盾にするように、彼女の砕ける電子装甲欠片と衝撃から庇いやり過ごした。
落下地点にあるクレーター、粉砕衝撃を目にして、危機感を煽られながら。
「ジャスミンさん、その人をお願いします」
「え、えぇ……?」
煙が晴れていく。
「やっぱり、お前らが元凶か」
「か、かいとさん……?」
【碑文八相:■■】【世界樹ノ方程式】【禍々シキ波】
途端に拡がる
言いようもない高揚感、沸き立つ血、これを探していた。
あぁ、間違いない。これは平常を侵すクソッタレ、己と
そこに降り立つのは石像、先端に隕石の如く対、六対十二枚もの葉を従えた異質な
不気味で不恰好なそれを観察して、睨み受ける。
「―――今までどこに隠れていた不細工な"侵略者"がッ」
『黄昏の腕輪:六花の弓』【腕輪の担い手】【精霊術Lv2:
構えを直す、電子投影された弓を構えて、降り立った異物な構造物を牽制する。
(しかし、どうする。二人も生きて返さないといけない人がいる)
引き絞る音に。
しかし、現在の状況では、被保護対象が二人もいる。衝動に任せた突撃などできない。
あまりにその後の事に無責任だと知るが故に。
そもそも、余りに勝ち目が微妙だ。単独で対峙してどうにかなる相手でない事を知っている。
なら、と。
「その人を連れて早く離脱してくださいっ!僕が足止め出来てる間に」
非戦闘員1人、要救助者1人、逃走を考えれば戦えるのは己が唯一だ。
そしてもはや、己の足では浮遊するこれを振り払えないだろう。
しかし、あの大鹿の脚ならば、足止めがあれば安全圏まで離脱できるかもしれない。
【狂羅輪廻】
その現実に、その"免罪符"に己がやるしかないと心拍にアクセルを入れて狙いを切っ先を定めて向けんとして。
『―――ゴォン』
杖葉モドキの、羽搏く枝葉が煌めく。
【碑文八相:■■】【増殖】【苛烈ナル萌芽:浄化ノ閃光】
放たれる日光を増幅した光線、空を焼き落とすそれが幾多にも放たれる。
地を奔り、草木を焼き迫りくる焦点を交差して合さって焼き落とさんとする浄化の光である。
シュ、ガン!!
それと同時に弓が放たれる。
斥力弓を一発に限りにその纏う装甲を貫けぬとも揺るがして、その射線を反らした。
「―――ッ」
【精霊術Lv2:アプドゥ】【舞武】【超俊足】
同時に攻撃を、六花弓を打ち放った反動で躱して、結合を解除して双剣に構えなおす。
塗布に精霊細工を纏った魔法剣の一矢である。それは確かにその巨体を揺るがして十分な威力がある。
全力で駆け抜ければ、3秒で詰められる距離だと試算して、それを実現する為の己の
それでも有効になる道筋を歩まねば始まらないと、姿勢を低くにいつもの通り構え―――。
視界が宙が反転する。
「は……?」
困惑の声、前方に向けていた集中力の中に、突然の浮遊感に惑う。
せめて、己の立ち位置を見失わない様に、重心操作に地に足をつけんとして。
柔らかな感触を踏んだ。
『ぶうぅん』
「何、乗せてくれるの、……?」
【アニマルフレンズ】【己の為の誇り】
着地、柔らかな体毛を踏んだ感触だと理解して、そして自身の状況をやっと把握する。
大鹿の角に足元を掬いあげられて、宙に浮きその頭へと着地したという事を。
大鹿はその問いかけに、少し鬱々しそうに首を振る。
そしてその強脚で大地を駆けて、じぐざぐに惑わすが如く、根が蔓延る森の不整地を跳ねる様に踏破していく。
ダッ!
【困惑のステップ】【鵯越逆落脚】
「うん、賢いねお前は!」
しかし小さく鼻を鳴らして。
"当たり前だ"とそれに答えたように聞こえる、少なくともこの状況ではそう納得しておく。
部外者の己にこの大鹿は、大事な背を任せてくれるらしい。
それなら、己も逃げ切れる可能性は十分にあるだろう。
再度の、空間に引っ掛け矢を塗布して、電子装甲再投影、構えたのである。
大地に線が奔る、焼かれて切断されていく。
【投影巨体】【二四ノ蛇瞳】【飛翔】
"枝葉の槌"は苛烈なまでに、ソードフィッシュの様に、葉を羽搏かせて飛翔して追ってくる。
頭上に葉の部分に分離させて、マナに発振機を投影し光の焦点を合わせて、光線の雨を降り注がして頭上を覆う木々焼き切てくる。
対して。
「あた、れ!」
それを勢いを殺さんがために、彼は一発限りの弓を形作り、打ち放てば空気に溶かす。
―――キュイン……。
空間の歪み、引き絞られる音。
この世界の一流水準の弓使いのように、必中必殺の一矢の連射などできない。
弓の威力を担保する方程式は盗用だ、"魔導鎧使い"の女から奪ったそれを儚紅の少女が組みなおして利用している。
―――ズガァン!!―――
解体して組みなおして、電子細工の弓と腕輪由来の演算能力がなければ実用レベルにすら届かない。
タイミングを計り、肥大化した槌部分に撃ち込んで姿勢を崩させんと。
ただの借り物と小手先の誤魔化しで、だからこそ十全に活用せねば明日はない。
『―――ゴォオン……・』
鐘のごとき音が成る。天を摩す波、その頭にて砕け、滴り 新たなる波の現出す。
其の名は『増殖』"メイガス"、それが羽搏くたびに天に波が奔る。
■末の一つでしかない。
己が使命を、そして己が恐怖を消し去らんがために、増殖たる波を現出し続けるのである。
・ジャスミンさんの元ネタはグランブルーファンタジーになります。
だからゲストキャラみたいなものです。ヒロインの予定は今の所ありません。
ウェルダー君の幼馴染だから、グラン君の方に絡むかも?
・『増殖』強化のため、
ジャングル王者たーちゃんから予定変わって、かぐや姫たーちゃんになった図。
なお、記憶取り戻したら、目に付くもの大体に殴りかかる模様。
・弓、カイト君原理わからんから、いちいち初期化して再起動、プロセスを繰り返す図。
本人は大まじめです。リコリスがいれば連射できます。
普通の弓?安物しか持ってないから当てても大概の奴にもう通らん!