ポンコツ世界異聞=【終幕を切り刻む者達《ハッカーズ》】   作:きちきちきち

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傍話【増殖の世界樹】

――― 一方その頃。

 『聖錬』南部のとある田舎町。

 

 拡大する森林帯、それに近き南西の町の一つその名を『ラ・クラウス』のいう。

 その元はのどかな田舎町を、その外を鎧姿のまま横断する集団がいた。

 

 その数を100を数えるだろう。よく訓練された正規兵の集団である。

 

 騒々しく歓声が辺りを騒がせる。

 それを街と外を隔てる門から見つめる観衆たちの群衆。

 

「前列ッ!進め!!」

 一糸乱れぬ隊列行動、小国とはいえ正規軍たる練度、統一された整備された装備が煌めく。

 それが整然と動くのは迫力の溢れたものだろう。

 彼等は、『紅衣の騎士団』と呼ばれる。聖錬南部の"都市国家"の延長である水の都『マク・アヌ』に属する正規軍である。

 

 掛け声と伴に群靴の音が鳴り響き、止まる。

「全体ッ休めッ」

【鼓砲】【紅衣の騎士団】【正規兵】

 その静まり返った、その用意された空白の中で。

 

「これはこれは『紅衣の騎士団』の方々、遠い所から、よくいらしていただいた」

 そんな町より一人の老人が観衆の中から、その代表として現れて言葉を投げかける。

 ある意味儀礼かかった、事前から決まっている手順である。

 

「儂はこの町『クラウス』の代表をやらせてもらってるものです。大した歓迎はできませんが、おいでくださって実に頼もしい思いです」

「―――えぇ、町長様、お初にお目にかかります」

【指揮者】【カリスマ!】【超絶美形】

 それを確認して整然とした鎧姿の参列が割れる。

 その中から絢爛の斧に、ドレスにも見える戦衣装を身に纏って斧を構えた碧髪の少女が歩み寄ったのである。

 大人し気に品を纏った輪郭に、確か上に立つものとしての風格を纏いながら。

 

「皆様、お聞きください!

【酔紛たる胡蝶】

 その少女は煌びやかに輝く、その纏った水のベールが辺りに色彩を描いて。

 その色に、魅入ったものを確かに惹きつけて魅了する。

 

 これは都市国家"マク・アヌ"に所属する『紅衣の騎士団』のパフォーマンスである。

 こうした武力の威容は、民衆にとってこの世界では安心して眠れる夜の為に大きな意味を持つ。

 『聖錬』という連合国家において、小国の勢力図の背景には、武力が大きくかかわってくる。

 四年毎の大襲撃(スタンピード)にて、大きく地図の模様が変わり、幾つもの小国が滅びる世界である。

 

 国体を保つだけの力がないと、『聖都』が判断すれば容赦なく解体されて吸収される。

 それが習わしである。

 それは未来の事例から、一〇年ほど先の北の最前線であった『アルザス』の事例から明らかだった。

 

「『聖錬』が都市国家、"マク・アヌ"から参りました『紅衣の騎士団』団長を務めさせていただいています"昴"、と申します」

 故に、『聖錬』という人類最大の連邦国家を構成する国の勢力図は、"実効支配"といった形に近くなる。

 中規模以下の集落は、"影響力"を持つ安定した小国を中心とした枝葉になり蔦のように伸びる。

 

 仮に、その中心の国が武力という求心力を失うか、滅びるとしたら別の木に寄りかかるのである。

 滅多に滅ばぬだけの力を抱えた大国以外は危機にひっくり返るリバースゲームである、この世界の人類は麗しいのだから。

 

 

「えぇ私達は、現在北東で起こっている『脈動する大豊の森』の"拡大現象"に対処する為にこちらに参りました!」

 揺れる水の衣に声は拡散される。勿論、緊急時に動かない武力には全く意味はない。

 威風堂々と勇猛であらんと"影響力"を示す為に武力、その為に動かした。

 現在、周囲の同じ様な都市国家なる小国も同じように、抱える武力を異変の周囲を取り囲むように動かしているだろう。

 

『準竜具指定:ラピス・ハート』【水都斯魂櫛】【酔紛たる胡蝶】

 蒼き少女は水の衣をまとった、竜の鱗の持ち手が中心に宝石細工を埋め込まれた大斧を掲げる。

 準竜具指定、『紅衣の騎士団』が象徴たるその斧を掲げて。

 

 流れる清水のように澄んだ声が周囲に響き渡る。

 

「どうか安心なさってください。この騒ぎは―――じきに静まるでしょう」

 そのパフォーマンスに観衆は湧く、喝采を浴びて。

 なお、その度に彼女の心の中の影は根を伸ばすのだった。

 

(―――滑稽だわ。動くなと言われていて、今もきっと犠牲が増えているでしょうに、明確に解決法を持っているわけでもなくこんな戯言を)

 碧髪の少女は知っている。既に幾つもの村々が森の拡大現象に呑み込まれているという事を。

 暮らしの糧を喪い、飢ている者がいる事を。

 世知辛い事を言ってしまえば一定水準以上の正規兵の育成は、多大なお金(ゴル)がかかる。

 故に容易に消費はできない。その理屈はわかる。

 

(様子見……、今、実際に動いているのは冒険者だもの。造反した"応竜"様の事もある。私達はその結果を待って動くしかない)

【政治知識Lv3】

 現状では、突発的な事態の急変に備える保険が彼等が正規兵である。

 故に所属なしの根なし草、"調査依頼"を出した冒険者を捨て駒に事態の様子を見る。

 実際に威容を見せた。貧乏くじなら他に引かせればいい、軽率に動くことがない様にと『マク・アヌ』の上役に重々に釘を刺されていた。

 

 それがとても歯がゆい。

 蒼髪の少女にとって、恵まれた人達と、貧しき人達の価値の垣根などない。

 そもそも彼女の想い人とて、泥をすすって生きていた人である。

 

(本当なら、真っ先に切捨てられるべきはわたしなのに)

【我が身は民の為に】【根暗】【半身■随:竜具の器により無効化】

 笑顔の裏に自蔑する。晴れやかな振る舞いに反比例して少女の心の根は暗い。

 本来ならば、貴族の立場に生まれていなければ、真っ先に切り捨てられるべき機能が欠落した人間である。

 生来の気性の相違もあるだろう。そのことを周囲の隠している。罪悪感の中に。

 なのにまかり間違って、傲慢に己は選び取りなお切捨てる立場にいる。

 

「……司君なら、どう言うかしら」

【比翼の鳥】【劣等感】

 ぼそりと呟いた。

 自身の恵まれた生れとは、正反対の世界に生きてきた想い人の事を想う。

 出会いは、問題だらけ、生霊(ゴースト)と化して世界から孤立したがるその人に出会い。

 己がおせっかいに、それで手を伸ばしたのが最初、疵を撫で合って、利用せんとする影を拒絶して。

 今では、本当の私を受け入れてくれる大事な人である。

 

(何をそんな偉そうに、私なんてそんなに大したものじゃないくせに)

 少女は、己が生れた責務に則して、象徴として煌びやかな振る舞いをし続ける。

 ただ負い目のままに、道具のままに、道化のままに。

 己がこの世界において何ら突出した者ではないという事を知っていながら。なのに偽りの輝かしい自分を演じ続けて。

 

 準竜具を所持した適合者、人の噂に語られる『戦姫に最も近しき者』。

 それが彼女が語られる称号である。

 

 少し、頬が上気する。想えば力がもらえる気がした。

 

("四端・応龍"、何度か遠目で見たことは事はありましたが、私が知る限りは英雄染みた求道者だったはず)

 疑問に惑う。

 碧髪の少女は『応龍』事、『預験帝』煉獄の情報を打ち込まれた"エトナ・タツキ"の主張は知らない。

 自信を活したかつての愛しい人達を、その愛を今も抱いていると錯覚し、人類の可能性を心底愛する、"光の亡者"であることは知らない。

 知ったとしても、『預験帝』を廃するなどやはり妄言としかとられないだろう。

 

 しかし、ただ確かに一つ知っている。

 

(もし『応竜』様に遭遇してしまったら、いくらうまくやろうと、私達の全てを捨てる必要があるでしょうね)

【指揮官:戦闘指揮】【我が身は民のために】

 『応竜』の反乱、『永遠戦姫』の戦線離脱(脱走してるが)、それを知るのはまだ一部に限られる。

 そうなったならば、己は手の届かない範囲に手を伸ばす為に、命令を下すしかないだろう。

 今までも、幾多の部下の騎士をこの言葉でこの手で、確かに死に追いやったのだから。

 

 あるいは、己の想い人さえにも、いつかこの手で―――

 

(この準竜具を脱ぎ捨てることは出来ない、これがなければ私はただ根暗で無能な女でしかないんだから。そのためにならばこの地位に――)

【半身■随】【劣等感】【比翼の翼】

 故にこの価値を全うしなければ、己の全ての価値何てなかったものだ。

(もし、もしも)

 わたしがこの価値を脱ぎ捨てて、命を捨てる、その時は一緒に死んでくれますか。

 そんな欲深な自分に、何処か自己嫌悪を抱きながら

 

 彼女は皆に求められる自分をただ、偽り続けて演じ続けるのだった。 

 

 

 

 ●●●

 

 

 

 

【建築魔法】

 現地の技術師達の手によって築き上げられた簡易宿舎の中で。

 

「ここを倉庫とする。物資はここに運び込め!」

『騎士装備』【紅衣の騎士団:部隊長】【正道愚直】

 変哲もない鎧姿装備の男が、絶え間なく声を上げる。

 その声に従って人が動き、部隊が駐屯する為の準備を整えていくのである。

 

「寄付されたものもいったん保留で端に纏めろ、あとで術師がまとめて確認する!!」

 見境のない『預験帝』のテロを警戒しての指示だ。

 鎧姿の彼の名は"銀漢"という、現場責任者という立場にある騎士である。

 

「あー、やっと暑苦しい中休めると思ったらもっと暑苦しそうなのが叫んでるんだもんな、やってらんねぇぜ」

「まーまー、久々にお風呂に入る為ですもの、もう少し頑張りましょう」

 その言葉に、手を動かしながらも軽口を叩く部下の鎧姿達。

 急ごしらえ故に、殺風景だった簡易宿舎にがどんどんと整然と整っていくのは、やはり統一された練度を感じさせられるだろう。

 

「ところで銀漢隊長ー、この町にはどれくらいで出歩いてもいいんです?ずっとここで缶詰だと気が参っちまうっすよ」

「"昴様"の指示では、当番にないものから定期的に自由時間を設けるそうだ」

「本当っすか!ひゃっほう、ここの飯屋に娼館気になっていたんだ。やっぱ遠征となればそれが醍醐味だしな」

 その緩んだように聞こえる会話に、銀漢は多少眉を顰める。

 騎士団の遂行なる使命を妄信していた以前の彼であったら、その緩んだように取れるそれを大声で説教でもしてたかもしれない。

 

「くれぐれも『クラウス』の住民から迷惑はかけるなよ。我らが行いはそのまま昴様の評判に繋がるのだからな。われらの行いに正義の名が掛かっているのを忘れるな」

「わーっかてますよ。少しは柔らかくなったと思ったら、相変わらず小うるさいんっすから」

 正規兵とはいえ人間である。ストレスは嵩むし、欲も溜まる。

 無法を働くならともかく、正式に客として訪れるならば、それは互いに利益として融和になるだろう。

 

(澄んだ水に魚は住まぬ……か)

【鋼の規律】【正義の執行:挫折による軽減】 

 律する為には、適度に吐き出す事も必要だろう。

 一度手痛い失敗を経験した彼にはそれに多少の理解を示している。

 

 そんな中。

 

「ところで隊長ー、"あの子"の扱いはどうします?」

 女の兵士が指さした方向にいるのは深々とローブを被りその銀の髪を隠して、杖を構えて孤立する様に淡々と使役獣に指示を出している人影である。

【男■装■】【魔術知識Lv3】【この■みたいな世界】

 指さす方向にいるのは、"精霊術師"を名乗る補助団員の一人である。

 『紅衣の騎士団』と名乗ってはいるが、騎士とは名誉的な称号であり、場末の小国とはいえ"正騎士"と呼ばれるのは一握りである。

 大概に"準騎士"、"補助団員"と呼ばれる役職のピラミッド、規律だった組織として構成されている。

 その下層だ。称号の価値は希少であるほどに、勝ち取るための奮起を促すのだから。

 

「あの子いくら話しかけても、うんとか、そうとか単極にしか答えないし」

「確か昴様の推薦でしたっけ?」

 しかし補助団員とはいえ、冒険者上がり、快くは思っていない者もいる。

 場末とはいえ『紅衣の騎士団』に属している彼等の大半は、真っ当な努力により成ったと自負する者である。

 相手が馴染む気が見られないとなれば、なおさらだろう。

 

「……昴様の指示だ。術師と同じ運用をする。そう邪険にするな事実、あれ能力が有用な事はお前らも知ってるだろう」

「そーですけど、いつもローブで顔を隠して不気味なんですよねぇ、もうちょっと愛想があればなぁ」

 元々に冒険者である。

 そして2年前にあった事件の中心であり、とある遺跡に取り込まれて、意識不明に生霊(ゴースト)として彷徨っていた。

 

【元・意識不明者】(ゴースト)【精霊術師】【感応者】

 その残滓が、モンスターを従えて人を拒絶する様に負の感情の汚染に、放浪していたのが彼女である。

 それと彼女の持つ【感応者】としての才能を利用せんとする組織との抗争があった。

 それの経緯を知る者は多くない。

 

【バル■■クノヴァ:毒薬(ポイズンピル)候補】

 "母"を名乗る存在から、誘導されて破滅の運命を歩んでいたのである。

 仮に、彼女が心の底からの絶望、世界の否定を心に宿して保存してしたならば、それは人にとって耐え難い毒として武器になっていただろう。

 都合のいい感情を取り出して(リプレイ)して、波及し飛沫とする感情を武器とする、ある種の破綻者として、である。

 

「うん、そこに運んで」

 孤立する様に、ただ割り振られた仕事を、表情の一つも変えずに続ける様は不気味であった。

 事情を知る銀漢にとっても、少し複雑なものである。

 宿舎の内装が組みたたっていく。質素ながら、身を休めるに十分なものに。

 

 それを傍目に、声が響いた。

 

「銀漢隊長っ!"観測台"が完成したそうです」

「わかった。今確認しに行く!」

 責任者として今回の目的に対して重要設備の完成に報告に、さっそくその様子を確認しに行こうとして。

 

 その最中。

「……よう、久しぶりだな。ずいぶん様になってんじゃねぇか"銀漢"よ」

「!なんだ、っ!?」

 声をかけられた方向に眼を向ければ。

 禍々しい黒鎧を身に纏った他を寄せ付けない雰囲気を纏った冒険者の男がそこにいた。

 

 それはBランク冒険者"マーロ・ディアス"。

 『黒剣士』と役割(ロール)を名乗る現在調査の最前線にいる徒党(パーティ)の一部と知り合いである男である。

 

「す、すみません。銀漢隊長の知り合いで用があるというので、不味かったですかね」

「いや、いい。確かに俺の知り合いだ」

 そう、彼等は昔なじみ、旧友である。

 昔々に、供に騎士を目指した頃に修練場に供に剣の修練に励んだ同期であり友人であった。

 そして同時に彼の苦々しい失敗の思い出、"銀漢"はこの男に対して大きな負い目がある。

 考えないようにしていた、生きていたかも、死んでいたかも連絡を寄こさない。この旧友については。 

 

「たいちょーっ、俺らにいつもガミガミ言っといてご自身は早速さぼりっすかー?」

「なっ、急用だ。すぐ戻る」

「別に急いでねぇから後で構わねぇ。おらぁここで宿を取っている仕事が終わったらここに来てくれりゃいい」

 からかいの言葉に背景に。

 そう言って鎧姿の彼は姿を消したのだった。

 

 

 

●●●

 

 

 

―――『酒場:砂干のトカゲ亭』

 

 夜の帳が辺りを覆う。

 油を燃やして、所々属性石を用いられた照明がほのやかに煌めく。

 そこには日々の疲れを発散する夜の喧騒に、響き渡って騒々しく溢れていた。

 

「……久しぶりだなマーロー、待ったか?」

「ふん、時間ぴったりだ。こういう無駄にまじめな所は変わんねぇなてめぇ」

 『ラ・クラウス』酒場にて、後から来た銀漢は席に着いた。

 昼に見た時黒々しい鎧姿とは違うフラットな服装で、先につまみと酒を既に注文して一杯やっているようだった。

 

「今更に何の用だ。今まで何の知らせもよこさないで」

「ふん、俺にそんな義務はねぇからな」

 あとから来た男が席に着く。互いに少し、特に騎士の男から重苦しい空気が流れる。

 彼には負い目がある。

【正道愚直:代償行為】

 目をそらし続けた負い目だ。その分までに己が果たさねばならないと代償行為にしていたのである。

 

「まぁまず飲もうぜ、辛気臭ぇ雰囲気の中で飲む酒程最悪なもんはない」

 事前に用意された酒筒に、酒を注がれる。

 濁った紫の色彩が、灯を宿して揺れるが見えた。

 積んと鼻に付く酒精が辺りに漂う、これは度数の高い安く酔える一般的な大衆果実酒である。

 

 銀漢は勧められるままに、手を付けて一気に飲み干して。

「は、少し臭いな、もうちょっといい酒はなかったのか」

「贅沢を言うんじゃねぇよ。癖のない酒、そんな高いもん冒険者がそうポンポンと飲めるか」

 互いに少し軽口を叩く。

 これはマーロー・ディアスの奢りである、機嫌を取る訳でもなし、そんな高いものなど必要ない。

 お互いにその方が気楽だろう。

 

「―――にしても懐かしいな、ぶきっちょなお前が騎士に、5年前までは小さかった小娘も立派に団長面してやがる」

「……昴様への暴言は許さんぞ、いくらお前でもな」

「別に悪く言ったつもりはねえぞ。っけ、おめぇの生真面目さはますます磨きがかかってやがるな」

【紅衣の騎士団】【鋼の戒律】【忠義心】

 悪態。

 旧交を懐かしむような会話に、互いが芯を変わっていないことを確認し合って。

 

「―――学院の一番の有望株が今や冒険者、か。すまなかった。5年前は俺の無知で、お前の未来を奪ってしまった」

「かーっ、またそれか口を開けば謝罪かめんどくせぇな!!」

 そう、学院の卒業時に友人であった頃の『黒蜘蛛の鎧』を善意で贈ったのは他ならぬ銀漢である。

 あぁ、それは確かに一般的な市場に流れていたとはいえ『上級魔具』である為に、一般的には憧れの対象で、当初は外部臓器的な機能を果たす生態鎧だと思っていたそれを、掘り出し物だったと満足気にわたして。

 

 しかし、修練所に通う彼等にとってはいつも通りの日常の中で。

 演習にて、モンスターを斬り裂いた返り血、その時発覚した起動のトリガーにてその魔具は起動した。

『黒蜘蛛の鎧:肉体改造』

 あぁ、"マーロー・ディアス"はそのまま死にかけ同期に救護された、三日は寝込んだだろう。

 そして、また起き上がる頃にはその体質は一変していた。

 それは騎士を目指した彼にとって、築きあげた基礎(カラテ)のすべてを失っていたのである。

 体質の変化、得意属性の喪失、軽装鎧から重装鎧への変化、それによる戦闘スタイルの錯誤。

 築き上げてきたものは、剣腕を除いて全て失ったと言ってよかった。

 

 マーロー・ディアスは注いだ酒を煽って、改めて釘をさす。

 

「勘違いすんな別に掘り返しに来たわけでもない。終わった事だ。そんな下らねぇ言葉を聞きにきたんじゃねぇんだよ」

「あぁ。しかし……」

「でもも、しかしもねぇっつってんだろ」

 お互いに若く愚かだった。

 そんな若さ由来の過ちなど重しにしていたら、あっという間に老け込んでしまうだろう。

 今まさに、閃光の如くに命を燃やして成長している若輩を知る故に、純人種の時間の重さを無意識に感じ入っている。

 

「全部は許しはしねぇそんな俺は人間が出来てねえが、割り切れよ互いに」

「……変わらんか、お前も」

 全て許せるほどに人間はできていない。

 未だに多少の蟠りはまだあるが、それだけである。

 

 確かに、この"産廃"と呼んでいた『黒蜘蛛の鎧』で苦労していた事は多岐にわたる。

 

 しかし、それ以外は己の選択にて捨て去ったものである。

【孤独者の流儀】

 期待されていた分の手のひらを反すような失望が気分が悪かった。

 憐みの中に何処か優越感を感じさせる同期の目が目障りだった。

 原因と負い目に旧友が罪悪感の目が癪に障った。

 己の取り巻くその負の感情が気色が悪くて。

 

 容易く今までの全てを捨て去った、ある意味の世捨て人が彼である。

 

「…………」

 とくとくとくと。

 しばらくは酒を酒便から注ぎ、塩付けた胡桃を手の内で転がす音だけが響く。

 

 緩したような落ち着いた雰囲気である

 

 本題に入る。

「……なら猶更何の用だというんだ。思い出に寂しさを感じる様な肝でもないだろうお前は」

「言っただろう。少し聞きたい事があるだけだ。それが終わったら消らぁよ」

 先に口を開いたのは銀漢だ。

 過去にこだわらないというならば、女々しく会う理由はない。

 この偏屈な旧友が拘りを捨てる様な、理由があるのだと察したのである。

 

がりっ

 つまみの胡桃を噛み潰して、中身の実を口の放りながら答える。

「お前ら"騎士団"は今噂になってやがる北東の属性災害とやらの、それの対処に出張ってきたんだろう」

「あぁ、もちろんだ。国境沿い被害も拡がっている。『紅衣の騎士団』の名に懸けて、放置などできんからな」

 もったいぶる事もない。既に対外に大きく掲げている大目標である。

 国境沿いに拡がっていた森林帯である、他の接した国でも同じように動いているだろう。

 

「それだ、それについてオメェの知ってる事を全部教えやがれ」

「おい。冒険者のお前がなんで、そんなことを知りたがる?」

【紅衣の騎士団】【政治知識Lv1】【鋼の戒律】

 銀漢はその詰問とも取れるそれに少し訝し気に、問い返した。

 それは軍事行動に対する情報の聞き出し……スパイ行為にもとれるのだから当然だろう。

 彼とて責任ある騎士である。相手が負い目のある旧友とはいえ、警戒心が先に出る。

 

「フン、個人的な事だ。今の知り合い……、まぁ今の冒険者仲間だな。そいつらが今それを調査している」

「……あぁ、調査依頼を受託した冒険者の事は聞いている。それが何の関係があるというんだ」

 銀漢は旧友の冒険者仲間という言葉に少し安堵を感じて。

 なおその真意を聞き正したのである。

 

「わかんだよ。上には上の連中の"賢い"理屈で隠してる事があるんだろ。俺だって騎士を目指してたんだ」

「………」

【努力の才能】【元・騎士候補生】

 押し黙る。そうその通り、彼等冒険者で構成された調査隊など殆ど実質捨て駒みたいなものである。

 うまくいけば良し、うまくいかずとも生き残りが情報が落とせば、それを元に本命である正規軍が対策を固めて突撃する。

 その為の頭数はいくらでも変わりがあるのが冒険者である。

 小国どうしの権益の折衷も、それが一番後腐れなく済むのだから。

 

「冒険者のくせによつまらん意地張った奴だ。我慢も足りないやつだ」

 それが気に入らなかった。

 ただ畏れに身を削ってとらわれて奔り続けている、我慢できない己が悪いと、物わかり良く呑み込む阿呆を含めてである。

 

「命知らずの馬鹿共だ。だが上の連中の賢い理屈の使い捨てになるのは気に食わねぇだけだ」

【孤独者の矜持:プライド】

 彼はもとより自身のプライドと都合を元より第一とするような人間だ。

 己の都合もある。己と組んで動ける冒険者の知り合いという実利でもある。

 しかし、ただ一番大きな理由は自身の納得とプライドの為だった。単純に気に入らない為にこうして彼は動いている。

 

 

 それを聞いて。

「……まぁ、その程度なら構わんか」

 酒を一煽り。

 少し考えこんで、負い目からではないと自身に生き聞かせて。

 自身が知ってる内容をいくつか漏らす。

 

 

「あの件の『脈動する大豊の森』は、いくつかの小国の国境沿いにある。取り囲んでの睨み合いは、お前の言うとおりに互いに牽制し合ってる面もあるが……、容易く動けない理由は他にもある」

 酒の酔いと、再開の名残で正義を信奉する堅物で有名だった男の口も少し緩んでいるのかもしれない。

 

「『聖錬』が鬼人八武衆の一人、『蒼天』が独自に動いて主張している。連動した大きな陰謀の流れ『魔王級』の襲撃者の存在をな」

「ふん、あの『人魔身』(ナイトメア)か。一ゴルにもならねぇのにご苦労なこった」

 そう、その主張性と共に、聖錬本国の依頼のまま、構成各国を回り情報を集めているらしい。

 『■魔王事変』、一回り先の未来にてそう語られるであろう。

 たかが冒険者の戯言ではあるが、次期Sランク候補かつ、"十罰スレイヤー"の片割れである彼が発するとある程度の信憑性が見えてくる。

 

「それに伴って『マク・アヌ』(水の都)の上役は近頃の出来事を精査して、そう作為的な何かが動いていると考えている」

 不穏な事例もあげられる。たびたび目撃される改造モンスター、『死肉漁り』(グールズ)の活性化。

 上役の中には、世界に蔓延る宮廷道化(ジェスター)の影を多少なり察している者もいる。

 

―――聖錬南部で目撃され忍び寄る死の影の如く先駆け『災害級存在』(ディザスターレッド):死神』。

―――高山都市を襲撃した惑乱たる蜃気楼、伝播する魅了の歌声『天泳ぐ人魚』(ローレライ)

 なお、目の前の旧友というより仲間が、それにかなりの頻度で関わっていることなど知る由もない。

 

「それに最近、都合のいい構図が目立っている。『邪魔具』というのは知っているか?」

「知らねぇな。なんだよそれは」

 一般人である彼は、とうぜん知らない。それは有識者による仮初の名前である。

 この事実が拡がっては、貧する者、考えなしが後追い。都合が悪い為に、広がっていない事例だ。

 

「現在ではまるで都合の良い試練(イベント)の様に発掘される出土不明の魔具の総称だ。それを手にして常軌を逸した行動をとる冒険者が多く確認されている」

「はぁ、イベントねぇ、ふん、力に酔った馬鹿のすることは大体予想がつくがよ」

 由来不明の魔具というのだけでは、物自体は珍しくはない。

 学術的に分類されるだけでも既に6つの時代を数えた人の歴史の中で、多様に形取られる技術は埋もれていき、忘れ去られるものも多数あるだろう。

 

 これは旧文明の遺産であること以外は、逸脱したものはない。

 学術的には『魔導文明』由来の量産品、機械部品の回路を中心とした魔道具、基準に正して精々平均的なBランク程度の物だろう。

 しかし仮にも高度に進んでいた魔導文明由来の、空の宇宙にまで手を伸ばす可能性すらあったその時代の"遺物"である。

『魔導再生■ラント』

 彼、銀漢も知らないものだが、死肉漁り(グールズ)の時折持ち出す魔具の類も由来は同じである。

 

「あぁ、厄介なことに、そいつらの扱った魔具を回収して解析した結果な、その使用者は"ほぼ理論値"に適合していた例もあったそうだ」

「………ふん」

【AI■A:情報■伝子■論】(ゲノム・ミーム)【カオティックPK】

 理論値、魔具という肉体改造を伴うそれは、優れた『魔具使い』である程に、オドが染められ純人種の可能性と引き換えに最適化する。

 その例としては、『高山都市』にて暴れた『魔鎧使い』"カルミア"がそれにあたるだろう。

 

 『魔具使い』その性能、スペックは確かであるゆえに。

 

「誰もが抱いているだろう小さな不満を元にして、例えるならば"全能感"からきっかけ一つでそれを開放させてしまう事例だ」

「まるで質の悪い薬でもやってるのかの様なもんだな、酔ってる様な連中がいるって事か」

「そう言うことだ。群れる『死肉漁り』(グールズ)の屑共より、潜在的な爆弾だからこそ厄介な問題になり得る」

 吐き捨てるように呟いた。

 半端者は、正しくない努力は実の成らない、この世の中儘ならないことなどごまんとある。

 全てを喪った後に、それを実感してきた。そういう意味では着火剤は尽きないだろう。

 しかし、そんな我慢できない奴に遠慮する様な道理もなく、ただ都合の悪い屑と吐き捨てた。

 

「っけ、まるで人為的ってか、そんなの仕掛けて何の得があるんだか」

「さてな。そんなこと俺が知りたいくらいだ」

 互いに悪態を付く、そんな事は騎士である自分も知りたい。

 明確に確かめられたわけでもない。

 やらかした連中を囲んでボーで叩きとっ捕まえて、尋問の果てに手に入れた情報である。

 助かりたいが為に、適当を言ってるかもしれない。

 しかし、それが明確に試練(イベント)という障害の先にあるのは、人為的なものを疑わざるを得ないだろう。

 

「つまり、ほかに対処する必要もあるから動けねぇってか」

「……そういう事だ。『脈動する大豊の森』の氾濫現象も数ある問題の一つでしかない」

『"パリス同盟"が誇っていた戦姫筆頭が一人"四端"の『応竜』が反乱を起こた』

 流石に、その様子見の一番の要因は語れない。

 一〇〇余りを数える年数、聖錬南部にて守護獣に例えられる"四端"として、有名を誇った。

【戦姫筆頭:四端】

 伝説級の武具を携えた『聖錬』にて英雄の代名詞と語られる戦姫である。

 一般には流布されておらずとも、夜空に繰り返されたあの翡翠と紅蓮の衝突を目に付けた者もいる。

 何処か何かあったという不安を覚えた者もいるだろう。

 もし発覚すれば、その影響力は聖錬の南部では果てしなく大きいのである。

 

 

「なるほどな、大体わかった。邪魔したなここは俺の奢りだ」

「ちょっと待て」

 銀貨一枚、田舎町の酒場の支払いには少しオーバーなゴルを置いて。

 立ち去ろうとするマーローディアスの背を呼び止めて。

 

「久しぶりだ剣を合わせていけ」

「……ふん、まぁそれも悪くねえか、錆を取るいい機会か」

 

 そう言うことになった。

 

 夜風を浴びて、静まり返った広間に出て、

 昔になぞらえる様に剣を儀礼めいて、対峙する。

 

 今の"マーロー・ディアス"は、過去のそれではない。

 風属性であった己の体質を決定的に変え、夢を奪い去ったこの魔具に忌避し何処か精神を腐っていた。

【暗黒の才】

 故に真っ当に己の墜落した気質に向き合おうとせず、ただ剣腕の身でBランクの冒険者として活動していたのが彼である。

 しかし、元々に騎士を目指した過去から、正しい努力の仕方は身に焼き付いていた。

 

【元・騎士候補生】

 

【ソードマスタリー】【防具習熟:重■装】【是空】【生命燃焼】

【ソードマスタリー】【防具習熟:重鎧駆動】【魔力撃】【正義執行】

 昔になぞらえる様に努力し過去を取り戻していった。

 装備重量を四肢に宿らせて舞い踊る双剣士、蛮族由来の身体能力に発条の如く瞬発力を振り下ろす重剣士、槍捌きと術師と並行すると色々と頭おかしい槍使い。

 あぁ、多様な戦士と距離を取りながらも対峙した経験が、己が意地を突き通す為に踏み倒した修羅場が彼のスタイルを再構築した。

 

「―――行くぜ」

「こい」

 暗黒剣を使えないながらも、生命燃焼にかつての風を斬り裂く感覚に一糸をとして。

 かつてすれ違った剣同士が、重なり衝突し合うのだった。

 




司君のバルムンクノヴァ候補は、あくまで候補ですので本編から引用した大体お遊びですのでまったく気にしないでください。
過去に発揮してた性能は【比翼の鳥】で殆ど喪失している想定です。

GM様の添削により、当初想定していた経歴からちょっと修正をしましたので。
マイナス要素はかなり削られていますので、幸せになりやすくなったぞ!

昴ちゃんのデータがやっぱりどー見ても強いんで、実際戦姫一歩手前を想定。
でも本編バランスだとそこまで戦姫って突出していないのでバランスぶれいくはしないな!(一部例外は除く)

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