ポンコツ世界異聞=【終幕を切り刻む者達《ハッカーズ》】   作:きちきちきち

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この話はかなり主観によっています。
キャラの製作者様等が不快に感じられた場合は、ちょっとダイレクトメール頂けると助かります。
タイトルに剪定事象と付けますので…。

※本話時間軸のIFです。読まなくても問題ありません。
 作者がキャラシートという履歴書から、想定した話として一応残しておきます。
 


剪定事象【応竜VSアンリマユ】

『聖錬中央部:滅びの町』

 禍々しき風が駆け巡る。

 炎に巻かれて、沸き立つ殺した相手の肉体や魂を基に邪の精霊「黒魔」が周囲を蹂躙する。

 

 その渦中の元凶であるのは、一人の少女を象った人害である。

 

ずるり。

 己に刃を向けた、兵士か戦士かまたは冒険者だったのか、その臓物をいたぶり拷問にそれを雑多に放り投げて。

「あーっはっは、弱い!弱いなぁ!」

【悪竜融合者】【濃怨魔精】(ダクスフレア)【超絶魔力】

 歩くたびに溢れる汚泥が世界を汚す。

 魔竜の骸から生れ落ちて過去に魔王災害の、残滓であるそれが蹂躙して世界を染める。

 

 地獄の有様、おぞましき災害の具現である

 

「バカみたい何が、"人間の意地を見せるだ"何が"せめて子供だけは逃がさなくて"はだ、善人(強さ)を気取っておいて蓋を開ければ吐き気がする弱さじゃないか」

【正義を貶す者】【弱さは悪】

 その人型はあざ笑う。

 そのマナ波及する怒涛の冥属性の波、怨嗟により成り立つ倍々式に増えてくる。

 街を飲み込んで幾多の人類を贄なお、溢れんとする汚泥流砂の海である。

 

 既に、防衛戦力は冒険者と自警団も悉くこの怨嗟の海に呑み込まれて。

 骸にまたは同胞と成り下がっている。

 その存在は偶然に昇華して成り果てた『魔王級』、在野に抗う術などない。

 ましてはそれは、田舎町を狙って襲撃する、確信犯であるのだから。

 災禍に逃げ惑う人々を自身の黒魔に蹂躙されるを見ながら、その人型には悦に浸る。 

 

「いい気味だ。平凡な市民がどれほど強いか知らないだろう!平凡すら勝ち取れない程の弱者が居る事を知らないだろう!弱者が悪な理由を知らないだろう!それがこの結果だ」

【弱さは悪】【救いを求める悪】【芯なき悪行】

 "平穏"を唾棄している。自身が蹂躙された経験の、身勝手な正当化に。

 それは恵まれた強者の善人の特権であると勝手に決めつけて、弱者の悪の代表として蹂躙することを使命とすら感じている。

 

―――彼女の、この"悪の自認者"の原初(オリジン)を語ろう。

 

 かつて『聖錬』にて、暴れまわった魔王級災害である魔竜がいた。

 その魔竜を鎮めんが為に生贄にささげられた、少女がいた。

 あぁ、その少女は己が不運を嘆いただろう。周囲の人間を恨みもしただろう。

 

 しかし、結局無知に希望に縋る生贄などでは"魔王級災害"は収まるはずもなかったのである。

 未知に縋っただけのそれは何の役にも立たずに、ただ少女は魔竜の一部となり果てて……。

【救いを求める悪】

 誰もが変質した己を悪しきと呼んだ。ただ魔竜として剣を魔法を向け、処理しようとする世界に対して。

 誰も救ってくれない八つ当たり。己が悪であると開き直って、魔竜の意思に共鳴して災害を振りまいたのである。

 

 それだけなら良くある破滅的な悲劇で収まった。

 

 そうやって開き直った彼女は、通りかかりのさらなる大災いである『悪の御旗』(アジ・ダハーカ)の滅殺されたのである。

 焼き尽きる魔竜の骸の中、這い出して喚き散らすだけの彼女は、救うでも殺すでもなく悪の御旗は一瞥もせずに放置した。

 己を救わなかった世界に開き直っていた虚勢は壊れたのである。

 それが、そんな偶然にその魔王事象自体を"運よく"乗っ取った。ただの人間が彼女という存在である。

 

 あぁ、確立の寵児の果てにここにいる。

 この世界において、滅ぼされた災害の残滓の再現という意味では同類はいる。

 ただの村娘の骸に宿った古龍の残滓、その異能を全て授かり使命感をもって、再び"悪の御旗"に挑みかかった古龍モドキの少女である。

 

 この例と同じように、この"悪の自認者"は竜の如くその強靭な生物強度を受け継いでいるのである。

 

「いい気味だ善は強者だけの特権、お前たちは恵まれていただけだ!善人(強者)善人(強者)しか救わないのだから!」

 己の色に染まった世界の中で。

 骸だらけ、または既に己自信に染まった世界で、誰も聞いてはいないのに、自身の持論を展開して悦に浸る。

 

 

 そんな滅びの町の中で。

―――遥か空の彼方、蒼空の果てからの襲撃者が現れる。

 まるで天が落ちる様な衝撃に魔術知識に、空気の壁を置き去って具現だ。

 その爪は、夜空より暗き汚泥を引き裂いて。

【雷光の襲撃者】【空の担い手】【高機動適性(偽)】

 

ズゥアア!!

 流星、夜を斬り裂いて。

 墜落する如く軌道にに大地を砕きついでとばかりに翡翠が汚泥まで、一息に抉り断ったのである。

 

 

―――グシャぁ

「へ?」

 現実が追い付かない。元々に戦闘者ではないそのコア人格は何が起こったかも呑み込めずに。

 それは観測上、その身を粉々に砕かれて、一度死んだ。

 

【悪は滅びない】(リザレクト)

 しかし己の性質から無意識に、砕かれた己を代替えし再構築して。

 バックアップに転写した犠牲者の人格を乗とって、復帰する。

 そして、その己の死を自覚せぬままに、その襲撃者がその瞳に映ったものを。

 

 

「ふむ、風の匂いが妙だと惹かれて来たが、ただの災害か、コアは砕いたがさて」

【七界戦姫:空】【迫真反応】

 機械質な杭の如く剣にこびり付いた先ほど己だった血肉を汚泥を、雑に振り落として。

 対峙するのは翅となる水晶の様な背の翼、その上昇志向を示すような上矢印に意匠されたライダースーツを身に纏った天使の如く翡翠の姫である。

 どこでもいる様な村娘の様なシルエット、それでいて見開いた瞳孔に脱色した白抜けたの肌が異形感を感じさせられる。

 

 

「あぁ、気配が消えない。もちろんこの程度なら死なないか嬉しいなぁ?」

―――ゾクゥぅ?!

【人類愛】【鑑定眼(真贋)】【光輝渇姫:狂羅輪廻】

 歓喜に歪んだ笑みに、瞳孔の開ききった目が転写したこちらを捕らえた。

 その瞬間に、瞳に災害であるそれの臓腑の底から震えた。

 

「はん、遅れてきた正義の味方気どりか―――」

【魔法剣Lv4:有頂天外】

しゃぁ。 

 いい気なもんだ。お前が守りたかったものは全部死んだぞと煽る前に。

 視界がずれた。

 その牽制の兆候は剣が鳴った程度、それだけの事で風精霊が連鎖し首を落としたのである。

 

 理解ができない。

(ふせげっな!?何が、おきた)

【暗黒の化身】【心の壁】(アカ・マナフ)【超絶魔力】

 災害が絶対の自信をもって展開する、出力の理不尽に担保されたマナ障壁は容易く貫通……。

 否、しっかりと機能していた。精霊の伝播による刃を確かに染め上げて支配した。

 単純に翡翠の姫にとっては、通った微風程度で人の首を落とすのには十分すぎるだけである。

 

「私が正義の味方か見当違いもいい所だな。そういうのは"テイルレッド"の役目だ」

 その言葉を混濁した意識の中で聞きながら

 その翡翠の姫から発された。『聖錬』であればだれでも聞いた事のあるであろう英雄代表、『永遠戦姫』の名を聞いてその正体をある程度察した。

 

(吟遊詩人の詩で。戦姫……筆頭の、『応竜』、こんなところにいる、はずが!?)

 錯乱した。

 それは彼女が避けていた英雄である。悪であると自認する自身の天敵(と思い込んでいる)の存在である。

 

 ずるずるずると逆再生するが如く。

【超再生】【不浄なる死】

 ミンチにされた時とは違い、周囲に汚染された汚泥をもってその身を形取り再生する。

 環境そのものである精霊、その上位種である精念人(マナフレア)の特性に容易に、己の同胞のストックにその肉体は埋め合わされる。

 

「ほう、偶然で成り上がったタイプか、アイツと同じ精念人(マナフレア)は珍しいな」

【鑑定眼(真贋)】

 翡翠の姫は関心の声を上げる。

 そうただの精人でも宝くじレベル珍しいのに、その上位種となった精念人(マナフレア)とはさらに一段上の珍しさを持つだろう。

 

「それにしては、中身が伴わないがさて」

【常時破顔】

 少し警戒、否。期待をして改めて武器を構えなおして、残身に警戒態勢を取る。

 マナに対する強制力は、亜竜由来の半端物の本来竜具ですらない"可能性の翼"では劣るだろう。

 そう、試算してなお、彼女はその歪んだ笑みを絶やさない。

 

 その耐えがたい重圧に、"悪の自称者"は虚勢を張る。

「嘗めやがって!!英雄風情がいまさら!!」

【暗黒の化身】【混沌たる暴風】(サルワ)【超絶魔力】

バンッ

 手を地に付く、波及する。それは自身を救わなかった強者たちへの憎悪を支えに。

 精霊由来の無詠唱。

 自身が汚染した町の犠牲者を同胞たる精霊に汚染昇華、冥属性の魔力渦を高速回転させた。

 余波で暴風を生み出し、敵をねじ切り潰す。五章級の暗黒の風が吹き荒れる。

 

 

「はははははっしねええええええ!!」

【正義を貶す者】

 制御も最低限に吹き荒れる魔力の渦が建物を粉砕して。

 その圧倒的な力は行使する彼女自身にすら、陶酔する程の圧倒的な暴威である。

 力による蹂躙は心が躍る者だ。強者()を貶すならば、相手が正義の具現たる英雄であるなら猶更の事に。

 

 

―――しかし。

 それに対して、翡翠の姫では手を振り上げ風の流れを指揮せんとする。

「殺意が足らんぞ、逆巻け淀みを見抜け、高きから流れる様を創造しろ。ただの物量ではまるで足りん」

【魔術知識Lv3】【魔法剣Lv4】【空の担い手】

 同じように翡翠の風が吹き荒れる。

 その質量は、幾多の生贄を元に空間領域に燃料をバラまいたそれに比べると格段に劣るだろう。

 

 しかし、押しのけて打ち勝つのは翡翠、風が高きから低きに流れるように解体して一つの道が現れる。

 

「丸見えだぞ?さてどう防ぐ―――」

 

【錬金知識Lv3】【チェーンソマスタリー】

 そして彼女が構える杭剣が拡張し、三対一基の杭として顕現する。

 力を前屈体制に星を示すような紫苑の翼が拡がり、ただの踏み込みの一つで空を浮かび駆け抜けるだろう。

 

「ひっ」

【精霊術Lv3】【剣の悪魔】(アエーシュマ)【大魔の黒翼】

 悪の自認者は、攻勢魔法を展開しながらより見据えられたことを認識する。

 愉悦が一転、本能に背が冷える。お前らがなんとかしろと。

 町の全てを染め尽くした仮想の巨体、その自己防衛反応に、恐怖に感応させて剣霊の群れを、物量にて排除せんとして。

 

 また意識を置いて、意識が分解される、ミンチとなる。

 

「あぁ、根性も芯も足らん、技もない未熟で欠伸が出る!!」

 黒風は役に立たない、逆に手放した魔力渦はむしろ翡翠の姫の加速に利用され。

 迫る翡翠の瞬き星に、全て速度に置いて行かれ貫かれて砕かれミンチとなった。

 粉微塵それは観測上、二度目の死である。

 

【悪は滅びない】(リザレクト)

 また無意識に再び骸を乗り換えて、その存在を再構築する。

 

 頭上を見上げれば、視覚化されるまで凝縮した緑色大気と紫電の牙の渦の風雷竜がこちらを見下ろして。

 その底知れぬ深淵の瞳、笑みが己の身に纏わりついて離さない。

 

 悪の自認者の心拍が、壊れたように鳴りやまない。

 精神はすでにもう折れそうだ。

【戦闘続行:自棄】

 しかし、なお、相手の否定してなんとか自棄に開き直ろうとする。

 

「なんだよ。なんで英雄が弱い者いじめんだよ!お前もオレが悪いっていうのか!」 

 この悪の自称者は身勝手の極みながら己の観念思想(イデオロギー)を持ち、それに則り暴れまわる人害である。

 

「さぞいい気分だろうね……っ!勝者の極み(英雄)。そうだ、私が悪いんだ、そんなことはとっくに知ってる」

 己を決して照らしはしない圧倒的なそれに、許せないと。

 只今憎いと憎悪に周囲を感応させて拡張する。

 全ての勝者に否定を、全ての"勝者"に蹂躙を、踏み躙じられてきた私達の怨嗟を世界に反逆せんと自身の存在をより竜へと近きに純化させていく。

 

 そして。

「"オレ達"敗者は!弱さの極まった悪の極まった"私達"は―――」

 魔力渦に時に瓦礫を弾丸に、使い魔である【黒魔】の群れと共に翼を拡げて、弾き飛ばして。

 沸き立つ、無謀の軍勢形成に襲い掛かる。

 

「―――そうやって見下すお前みたいなのを無残に殺し尽くさない限り、救われないんだよぉおおおおォ!!」

『善挽鋸』(ザッハーク)【鋸にて刻む】【異形の両腕:轟怪力】

 そこに顕現するのはまごう事なき竜の腕、限定的な化身化、その両腕に冥属性の汚泥を纏って鋸斧を振るうは大地をすら薙ぎ払いうる圧倒的な轟怪力である。

 選択は正解だろう。距離を取れば、翡翠の姫はどこまでも加速するのだから。

 圧倒的なスペック差に裏打ちされた接近戦での物理、経験不足に、己の圧倒的な力と手札に振り回される彼女にとってはこの翡翠の姫に対抗しうる唯一である。

 

―――迫る剛怪力、なお、それでも翡翠の姫は笑みのままに。

 

「弱者だと己を卑下するか理解できんな。お前が手にした力だけは本物だというのに」

がしゅん!!

【錬金知識Lv3】【チェーンソマスタリー】【迫真反応:リベンジ】

 その鋸斧は、杭剣に渦巻く風と超振動に振り流され、空振りする。

 附随して飛び散る汚泥の飛沫、それに潜り込むように抱きしめる如くに、接敵して。

ズ ガ ン!

 その杭剣に、竜腕を吹き飛ばされて。

 

「がああああああああああああああ!!」

【怨嗟精人】(ダクスフレア)【超再生】【悪徳の精神:狂■■廻】 

 咆哮。

 それでもなお、超再生に身体を捕肉して、斧を力任せに振るう。

 おおよその生物には取り得ない。

 その破壊と再生の輪廻が繰り返す、化け物の理のまま素人である彼女を短時間に抗いを許す。

 

「己の評価は全てお前の行動の結果だよ。それ以上の意味があるだと、余り自惚れぬな」

【鑑定眼(真贋)】

 殴り合いながらそれに対して心底不思議に、翡翠の姫は空からそう言い卸した。

 その"悪の自称者"の力だけは本物である。

 魔王級の魔竜の力をそのまま乗っ取ったその力は規模で言えば、既に友人である竜戦騎(ドラグーン)に等しき精念人(マナフレア)である『永遠戦姫』(エターナル)ですら凌駕するだろう。

 

 その竜衣は砕かれ、再生して砕かれ、再生して、再生して再生して。

 効率化に微々たるを積み上げる翡翠の姫など、本来一息の理不尽の海のハズだった。

 

しかし。

【魔法剣Lv4:歓天喜地】【迫真反応】【錬魂装甲】

 その小さな体で、狂いひらめく、それは未来を見据える魔法の如く。

 その理不尽は、潜り抜け潜り抜け、時に気合で弾きながら、わずかな生存域に殴り合う。

 

 砕かれた翡翠の欠片に、旋律が響いてそれぞれの風の刃が"悪の自認者"の五体を斬り裂いた。

 ぼとりぼとりと地に落ちる人害だった残骸、彼女はそれを蹴り捨てて更に駆ける。

 観測上の4回目の死である。

 "悪の自認者"はまた、その意識を別に投射して、這い上がる。

 

「そもそも、だ」

 そこは翡翠の姫にとってはどうでもいい。

 ただ一つ、彼女には許容できないことが一つある。

 

 一つ息を吸い込んで、その想いを込めて。

 愛を謳う。

 

「己を磨きもせずに自分の可能性を、善だの悪だの強者だの弱者など決めつけるなど言語両断!!人の可能性はそれに収まる者か!」

「はぁ?!」

 定義してその可能性を狭める事、それに対する叱咤である。そして激励である。

 そもそも翡翠の姫は最初の襲撃時から、何処か助言めいた言葉を投げかけてさえ居た。

 おかしなことである。

 この世界の真っ当な修羅であれば、嫌悪を侮蔑を覚えるだろうその勝手な理屈も……。

 

「何なんだよ。その眼はっつっ、何言ってるんだよ気取りやがって……っ酔っぱらってるのか人でなしの糞野郎!」

「至って正気だとも、よくも多くの輝きの可能性を奪ったな。お前の方が無遠慮に多くを殺す」

―――そう、本来に翡翠の姫にとって、悪しきも善きも等しく見える。

 そんな歪みを彼女は抱えている。

 決して義憤などではない身勝手、己の為、愛という名の欲望の為である。

 

「だから私が砕く、理由はそれだけだ」

【光輝渇姫】【人情不解:善悪同化】

ぐしゃあ。

 翡翠の姫は交差する爪に、重量を跳ね上げ空を蹴り縁落し叩き潰した。観測上5度目の死である。

 ただ友人であり、特段に輝かしい魅入っている『永遠戦姫』(エターナル)が、英雄の具現の如く、善意の人であるからこそ、影響されて現在は善きに傾いているだけの―――。

 自身の本質が獣、災害に近しき者。

 

 "悪の自認者"のその勝手な理屈も憎悪も、あるいは行動さえも。

 翡翠の姫は、断罪でも否定もしない。ある意味、可能性を否定しない限りに肯定するだろう。

 そんな人倫から離れた、気狂いの類であるのだから。

 

 過去に喪った。自身を生かした限りない"愛に"彼女にとって愛は有り触れたそれに。

 その愛を"今も"身に抱いて生きていると言う幻想・錯覚。

 己が愛された分だけ愛し返そうと。

 その機能を、本能を腐らせて退化の道を歩まない限り、彼女の信じる人間らしい輝きのままに肯定する。

 

「なん、なんだよオレが、私が苦しかった時に。何もしてくれなかったくせに!」

 痛みも置いて、困惑、気味が悪い。気色悪い。

 その巨大な翼をはためかせてどこまで行こうと、その深淵の目から逃れられない。

 

「嫌だいやだいやだ、何だ"オレ"は、"私"は弱いから―――」

 曇りなき期待が押しよせる。

 まじまじと見つめてなお、無様に地団駄を踏み鳴らす。

 その様を散々とみても、その程度であるものかと、もっと輝けと、その先の可能性に叱咤を重ねる。

 

【悪は滅びない】(リザレクト)

 

「まだ甦るか、気合いだけは十分だ!そうだもっと来い。その掴み取った偶然の可能性の輝きを証明して見せろ!!」

 ただ輝きを信じる。自らを信じる、敵を信じる。

 その試験を、敵を、未来を、人類の可能性を信じて、自身の理屈を世界に押し付ける本質が災害に近しき者である。

 

 

「そんな目で、私を、オレを見るなぁあああああああああああああああああ!!」

 憐れまれるはいい、憎まれるのもいい、侮蔑されるのもいい。

 己が悪である、悪そのものであると開き直って、己を否定する者たちへの答えとした。

 彼女の語る弱さは開き直る為の免罪符(言い訳)でもある。

 しかし、しかしその"弱さ"を、翡翠の姫はどこまでも踏み躙ってくるのだ。

 

 歪む軋む、そんなにまじまじと見るな、開き直った心の中に正気の鼓動が木霊する。 

 故に、"魔竜"に昇華して初めて明確に"発狂"した。

 殻にこもる。オドを垂れ流して生物高位の理のままに心の底から、それを拒絶せんと回帰せんとする。

 

 圧倒的な冥属性の波及、形作られていく黄金の竜麟。

 人にて竜への到達者を、"竜戦姫"(ドラグーン)と指すならば、その悪の自認者は生まれながらにしてその資質に至っている。

 それは化身と呼ばれるマナの投影現象の極み、また竜人において秘奥とされる【竜棺】の具現だ。

 そのまま災害に成り代わった類まれなる確率の寵児に、それの使用を可能とするのである。

 

 大地からマナが染め上げ、マナそのもので織り込まれた魔竜の姿を顕現させんとして…。

 

『『『―――グオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』』』

【悪竜融合者】【濃怨魔精】(ダクスフレア)【暗黒の化身】=【化身化・終焉の三頭竜(ドルグワント)

 顕現するかつて、聖錬にて暴れまわった3つ頚の魔竜である。

 おおよそ破壊においては全能の姿だろう。

 

【虚ろなる魔精】【貪り喰らう者】(クリンタ)【悪の光輝者:領域作成(ドゥシュ・クワルナフ)

 山の如き巨体、其れが現れた途端に、冥属性の波及に、空間が歪む。

 辺り全ての神羅万象を染め上げて、分解し食らい尽くす。

 それを可能にするのが『超絶魔力』という、魔を越えた魔の力の理というものである。

 

 その一挙動で、世界が悲鳴を上げる。空間が爛れて軋むだろう。

 英雄といえどただの矮小な人間が、それに対抗できる道理などない……っ

 

 ズァア!!

 常識の則れば、はずだった。

「それが、お前の全霊か」

【一騎当千】【虐殺の主】

 空を駆ける翡翠の天使は、泥を掻き抜ける。時に噛み締めて痛む腑を実感に換えながら。

 従う精霊、剣の軍勢すら、一息に連鎖して生まれる幾多の軌道の風の刃に薙ぎ払い。

 纏う翡翠の風はもはや螺旋の如く、夜より昏きその悪意の暴力を繰り抜いて、なお世界に輝くだろう。

 

 二対六基の杭と共に、伴奏を構える。

 

 なおのこと、その深淵の笑みを深めて。

 まるで激励する様に応えて見せろと、翡翠の天使は宣言するだろう。

 

「全力で滅殺しよう。それが私が示す愛なのだから、だが、願わくば乗り越えて。その掴んだ幸運の輝きを見せてくれる事を願っている!!」

【―――蒼穹の彼方―――】

 自身のオド(碧色)に染まった風を流し出しそれは破滅的な音楽を奏でるコンサート会場の如く

 自分の攻撃範囲と防護反応とするだろう。

 腕を振り上げればその軌道に波紋を起こして、端まで衝撃が刃の如く割断を行う。

 

 それは間違えなく、ただ魔法の如く、努力を積み上げる彼女が奏でる蒼穹領域(オルケストラ)

 

【渇き焼く黒星】(ザリチェ)【山の如く】【超絶魔力】

【魔法剣Lv4:誠歓誠喜誠愛】【空の担い手】【高速機動適性(偽)】

 雑に3ツ頚から放たれる、冥属性の超高密度の暗黒球のブレスである。

 それだけで、町だったものの残骸は、消し飛び崩壊して瓦礫が宙に舞い上がる。

 

「ブレスとはな」

 しかし、そんなものは全空を駆け抜ける空の担い手である彼女にとって、奔流を躱すは容易い事だろう。

 飛翔して射線を外れ、余波の泥にまみれながら。

 

 その"聖杭"をもって、直線にぶち抜いて噛み切ったのである。

 

『ゴガッ』

 全身の発条を連動させて自身の腕に全霊を。

 炸裂する魔法剣の小技に衝撃に固める、そして本命の突貫にて容易く、一つ頚を消し飛ばす。

 

 3つ頚の竜は、咆哮と共に冥属性の波及に、翡翠の天使を弾き飛ばして。

 

 殴り合う。殴り合う。それは精魂の尽き果てるまで只管に。

 

 

 

 

―――そしてその決着は。

 

 

 

 

 猛威が吹き荒れ、完全に跡形もなくなった町の中で。

 翡翠の姫のやり口は徹底的であった。十全に"悪の自認者"は滅殺された。

 

 その手に風に再生を許さぬ程に微塵になった数は数十を数えようか。

 痕跡のいたるところまでを砕かれて。

【殲滅闘士】【鑑定眼(真贋)】【魔術知識Lv3】

 目の前で散々見せた、汚染投射による再生は、その魔術知識と眼力が見抜くままに。

 その縁に、代替えの遺骸の全て至るまですべてを微塵に還されたのである。

 

 故に、それは甦れない。

 

ずるり。

 ……本来ならば、そのはずであった。

 

「ア、あは、ははハハハハハ!!」

【悪は滅びない】(リザレクト)

 それは偶然だった。

 産声を上げる。半壊した調律器《ハーモナイザ》が微かに機能が維持されており、その汚染されたマナ配列にずるりと生まれ墜ちる。

 

 肉体を乗取った訳ではない、マナに情報配列を投影する事による再現である。

 再誕にすり減ったその自尊心はずたずたであり、自身の免罪符はどこまでも肯定(じゅうりん)され、【濃怨魔精】(ダクスフレア)としての肉体までも失った。 

 

 それでも。

「磨り潰され磨り潰され、それでも生き延びた! 私が勝利者だ!! あーはぁはぁ……」

 敗者()であるという論理すら捨てて、勝利者を自認する。

 ざまぁみろと、己を砕きに砕いた翡翠の天使を嘲笑う。

 

「見つけられない方が悪いんだよ!」

 脳裏に焼き付いたのは理解不能の愛と、あの深淵の眼と笑みである。

 それを、それを―――

 

「あぁ壊す、その全てを犯して染め上げてやる、その眼が絶望に染まるまで凌辱しきって―――」

【救いを求める悪】

 己が私と同じ目に合っていないから、そんなことを言えるのだと吐き捨てて。

 あの英雄が、その眼を絶望に染める想像は、その果てに己に助けを、救いを乞うならばそれは何とも甘美なものとして彼女の髄を熱くするだろう。

 

 だから、どんな手を使おうとも。

―――あの目を、あの肉体を、信念を凌辱しきってやる。

 情欲とでもいうべきか。

 胸が高鳴る。八つ当たりめいた世界への執着が、方向性をもって定まっていく。

 

 あぁ、執着に、"悪の自認者"は、その存在を再生させたのである。

 

 這い出て、弱っているその身体を、抱えて。

 彼女は知らない。

 近い未来にさらなる悪運に拾われて牢獄に、その未来を閉ざされる事を。

 戦姫筆頭が一人、『四端・応竜』とて、永遠でないことを。

 

 望むものは全て手に入らない。むしろここで死ねた方が、幸運だったかもしれない。

 残酷な世界に、地団駄を踏む哀れな道化は。

 未来にて、とある転生者に蹂躙されるまでその身勝手な戯言を垂れ流し続けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 




 この子の戦闘力の参照は竜人よりでどちらかというと、アジさん特攻隊のゼットンさんと似てるなぁと少し反映させています。
 元の素体が村娘のゼットンさんも生物強度受け継いでる糞強い子なので。
 同じ災害の古龍(魔竜)の残滓だけど、あちらはアジさんに挑んでるんですよね。
 なんでこんなに差がついたのか…、慢心環境の違い?

 スキルがどう見ても強いからこんな感じに暴れましたが、この子真7冠の中じゃ、最弱なんだ…。

・この子の解釈について。
 悪霊の集合体みたいな存在ですが、アンリマユ(杏里麻友)というもじった明確な真名を持っている為。
 コア人格は定まっていると想定してます。
 英霊や精霊とかにとって、自分の名とかは重要なものだと考えてるので(マローネの英雄の真名自覚イベントを参照)。

・基本的な経歴はGMの考証したオリジンに則ています。
 経歴の虐待とかも、GM解釈に則る感じです
 ただの助けに来た騎士君は、ちょっと行動が(この世界的に)頭悪すぎるので除外してる感じです。
 冒険者とかならとは思うけど、どっかの国の騎士がこの行動はしないかなぁと。

・応龍との相性。
 【人類愛】なんてついた奴が、無感情に修羅(セメント)らないし、真っ当に断罪するわけないだろという個人的解釈。
 【悪なる者】に特攻が入り。
 たーちゃんと対峙するとこうなる想定。人間性引き吊り出されてそのうえで蹂躙される。
 複数戦でミンチにされたと思ったら、一回の戦闘で数十回ミンチにされたという事で、鑑定眼(真贋)と魔術知識でこれくらいの偶然がないと逃げきれない想定と考えています。

 なお、この後すぐ嫌な職場にとっ捕まる模様。

 現行時間軸だと、多分この子閉じ込められてて、応竜の死(生きてるけど)とか知らないとかだと割とおいしいかなと安直なネタ。
 いきなりぶつけてやりましょう。多分発狂するんじゃないかなぁ。
 

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