ポンコツ世界異聞=【終幕を切り刻む者達《ハッカーズ》】   作:きちきちきち

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石槌の杖【増殖の世界樹】

―――『脈動する大豊の森』

 

 明るすぎるほど輝く、蒼天の空。

 

【碑文八相:端末】【苛烈なる萌芽:新緑の閃光】【禍々シキ波】

 岩を削り出した様な単純な杖に、まるで葉の様な端末を附属したとても生物的ではない構造物が汚す。

 不気味なオブジェクトが、天を優雅に浮遊するのだ。

 頭上から降り注ぎ薙ぎ払うように移動する、閃光の雨が降り注ぐだろう。

 まるで等間隔を焼きつぶす光の網だ。たまらなく焦げ臭い。

 陽属性の偏光場(レンズ)によって収束した太陽光に木々は焼き切られ、両断されていくのである。

 

『ぶるるるるるる!!』

【FOE】【狂乱の角鹿】【狂乱のステップ】

 その熱線網の中を鹿の如く獣が跳びはねて、立ち上る銀砂(ノイズ)領域も関わらずそれを躱していく。

 人にとって越えがたい不整地だろうが、野生の強靭な四足巨獣には関係はない。

 その根を踏みつぶし、茂樹を掻き分けて、鬱蒼とした森の中を駆け抜けていくのである。

 

 その姿は雄々しく、悪整地をまるで全身に跳ねまわる様に。

 勝手知ったる己の縄張りである。その背に普段にない荷物を抱えようと変わらず脚で駆け抜ける。

 

 

「うーちゃん、右に避けて!」

『ぶるぅん!』

【アニマルマスター】【四式六令:回避指示】【(すえ)拡がりの茉莉花】

 その背から、太陽光を増幅した閃光網は、光故に直線でしかなりえない。

 故に素人である花の少女の目に追える。頭上に眼を配り、進行方向の指示を飛ばした。

 使役闘争士(トレーナー)とは名乗ってはいないが、その技能は友達と触れ合う中で確かに育まれている。

 

 その声に、回避の、揺れのタイミングを予測して。

(牽制じゃ通らない、また訳の分からない月衣モドキはあるか、留めるられるか!!)

 若葉の少年は冒険者として活動してきた戦場の空気の読み癖に。

 その合間合間に揺れるだろうタイミング図って力を込め、または電子装甲の弓を構えるのである。

 

 仮想の弓が引き締められ軋みあがる音。

 弓を引く手の内、専心の心得はすでに備わっている。

 指に滴る塗布の呪印(ウェーブ)、矢の感応にその燃え上がる炎を宿して。

 手を離し供給を断とうと魔法剣を維持する為の、今は廃れた古風の方法論である。

 

キュぅン、―――ッ!

『六花の弓』【魔法剣Lv2】【田舎育ち:弓の心得】

 そしてその矢は打ち放たれた。

 その矢は風を切りながらも焔は燃える、形砕ける事で威力を増す、そう言う術式を知り合いの精霊術師と設計した。

 

 果たしてそれは、なお石槌の枝に纏う、葉の端末(リーフ)を一枚抜き、砕くだけにとどまる。

 

『―――ゴオオオン―――』

【碑文八相:■末】【破■の杖】【超頑強】

 不気味な石槌は空中で姿勢を微かに崩した。

 ただそれだけである。音を打ち鳴らして、石槌もどきはその葉を羽搏かせて浮遊しながら追撃する。

 

(目標線(ターゲット)からずれた。揺れまでは調整しきれない)

 残心、結果をそのままに次の矢を手にとってつがえる。

 目標を外した。本来ならば、その頭でっかちを撃ち抜いてバランスを崩してやるつもりだった。

 歯噛する、田舎育ちに学んだ若葉の少年の弓腕は変わらず二流止まりである。

 射撃体勢の悪さも相まって、予測線通りには容易に定まらない。

 

【バッカ―Lv1】【野狩人Lv3】

 野生生物の大鹿に鞍なんてものはなく、そもそも大鹿の背は二人でかなりぎりぎりである。

 しかし、この速度と高さから落下すれば命はないだろう。

 故に足を掛け、野狩人の道具である縄を首に、簡易的な命綱に巻き付けてそれを支えに不安定な位置にいる。

 

 大きく跳ねる。

 十字砲火に重なる降り注ぐ閃光を、跳躍にて大きく飛び越えて。

 

「ごめん。痛いだろうけど、耐えて!」

 大鹿に語り掛けながら、なお力を込めて電子弓を構えて、敵を見据える。

 幾ら巨獣とはいえ、ほぼフル装備を纏った人間ほどの体重が、縄に掛かるは痛いだろう。

 それでも勝つためには、生き残る為には大鹿の助けが必要だ。

 先ほどの大鹿の行動に、彼か彼女が賢い事を知っている、だから伝わるかもと考えて。

 

『ふしゅる!』

「……っ賢い子だ、君は!」

【鈴芽鹿】【フォレストフレンズ】

 大鹿は相槌を打つかの如く答えた、鼻を鳴らして前を見据えて大地を駆ける。

 それに感謝を伝え得て。

 

 ずしんずしんと、大鹿が大地を踏み蹴る衝撃を慣らさんと。

 "陽属性"による偏向場に収束した光線が飛び交う、それが時に掠りそうになりながら感じる。

 焼き切れた木々の臭いが鼻を突くだろう。

 あれが直撃すれば、大鹿ならともかく純人種の細き四肢など容易く落ちる。

 

「すぅ」

 呼吸によるセットアップ。専心による射線の固定。

 若葉の少年は変わらず腕輪の電子装甲に形取られた六花弓が空間を響かせ―――

 

―――キュウン……!

 今再びに撃ち放つ、己は牽制に徹する。

【過負荷装甲】(プロテクト)

パ キャ ン!!

「よしっ」

 今度はしっかりと狙い通りに、障壁を砕き、その頭でっかちを撃ち抜いて大きく揺らがせた。

 予想通り失速して空力が弱まり高度を下げて、多少時間が稼げる。

 少しは時間が稼げた、それと同時に双剣士は紐を引っ張り上げて、その背に戻る。

 

 また次を番える、矢の残存はそう多くない。

 オドを馴染ませる呪印(ウェーブ)の塗料とて連戦に嵩を減らしている。

 余り無駄使いはできない。

 

「に、しても、妙だ」

『腕輪の担い手』【異変の証明者】

 それが成す現象は、他の同類の波の侵略者に比べ、明らかに規模が小さい。

 その銀砂の嵐を空間領域自体を汚染せんとしたその波動を、息苦しさを彼は実感として覚えている。

 

【破壊の杖】【世界樹の方程式】【禍々シキ波:■■依存】

 それに比べれば余りに力の波動が弱いと実感する。

 大地から湧き上がるその砂嵐(ノイズ)は、空間を法定するにはまるで足りていない。

 『腕輪の担い手』特有に視界に入り混じる0と1の帯は(ラベル)は、まるで森全体から薄く放たれているようである。

 

 他人とは共有できないその感覚に、どこか薄気味悪さを感じながら。

 次はどうするかと、少し離れた距離の相手を睨みつける。

 

「距離が離れた。もうちょっととにかく頑張って、走ってうーちゃん!」

【博愛精神】【天然】

 "ジャスミン"が色抜けた少女を落ちないように抱えて半泣きになりながら、ただお友達を応援する。

 速度に流れる風、ブロンド髪を靡かせる彼女は戦闘者ではない。

 ただ彼女は生来の優しさに、もし困っている人がいて可能性があるなら助けなきゃと思ったのだ。

 

(スエ)拡がりの茉莉花】

 結局のところ縁を結ぶ固有魔法に、頼もしい森の友達に守られて己の身が危機意識が足りていなかった。

 つまり今に至って、事態を舐めていたのである。

 ただ善意故に、こんな命がけの逃走劇何て、覚悟してるわけがなかった。

 

 それでも気丈に、気丈に巻き込んでしまった負い目からも、取り乱さないように。

 

 

―――ドぉォオオオァンッ!!

 

「きゃぁあああああ?!」

 

【苛烈なる萌芽:機雷化】【増殖の種子】

 大鹿の踏みしめた大地が、突然に炸裂したのである。

 それは調律器である葉の端末(リーフ)を中心に、属性値を極端に高めて、環境に応じたバックドラフト/自爆現象である。

 大地に埋没していた、あの杖の石像が翅の如く従えている葉の端末(リーフ)と同一のものだった。

 現在、この森の至るところに、これが同化する様に仕込まれて、補修部品の様に罠が如く機能している。

 

 

 

 

 

 

―――故に辺りの地形がそのまま炸裂した。

 立ち上る土煙が、晴れていく。

 

 

 その爆発に、投げ出された彼女は―――

 

「げほっうぅ、ぐす。どうしてこんなことに」

【医療知識】【森ガール】

 身体が痛い。

 そりゃもうすごく痛い、その医療知識から少なくとも、骨の幾つかが折れた事を把握してしまう。

 普段の様に支えて立てない。喉がしゃくりあげて、呼吸すらもままならない。

 

 彼女のお友達に眼をやる、大鹿は地に伏せて呻いていた。

 あぁ、その脚に痛々しい火傷の跡が見えた、いくら頼もしいお友達とて全速力で転落したのだ。

(あぁ、うーちゃん痛いよねごめんね)

【博愛精神】

 己の傷みも忘れて治療しないと、這って手を伸ばそうとして。

 

(はえ?)

 己のいる場所に影が差した。

 頭上を見上げれば……。

 

『―――ごぉぉぉおん―――』

【碑文八相:端末】【増殖の波動】【衝撃の杖】【禍々シキ波】

 鈍い鐘を打ち鳴らすが如く。

 あの不気味な石槌の枝(オブジェクト)が、不気味なラ音を鳴らして彼女を見下ろしていた。

 

「あっ………」

 息をのむ。死んだと、場慣れしていない彼女は助けてと叫ぶ間もなく。

 槌の如く頭を傾げて、その破壊槌如く構造のまま、質量、衝撃の纏った暴力が振り下ろされる…っ!

 彼女は墜落するそれに引きつぶされて死ぬ、そのハズだった。

 

「―――させるか、この不細工が!」

【精霊術Lv2】【魔法剣Lv2:裂破轟雷刃(ボルテクス)】【輪廻狂羅】

 雷鳴が轟き、炎が先走る。

 それを打ち放ったのは、その身を燃やしながらも若葉の双剣士である。

 

【双剣士】【舞武:重心操作】

 先ほどの大鹿の転倒、それに反応できたのはその双剣士のみである。

 転倒のタイミングに合わせて大鹿の側面を蹴り離れて。

 一人出に宙に放り出され、重心操作と五体転地に受け身を取って、ダメージを流したのである。

 彼も無傷とは言えない。強く体を打ちつけて、全身を大きく擦り剥いてる。

 

 故に早くに復帰した。怪我などもはや慣れている。

 衝撃に歪む意識に活を入れて、歩みが死を遠ざけると信じるが故に、その脚は動く。

 二刀にオドの鼓動を打ち鳴らして、破滅的な脈動に。 

 それでも本来に少年の手には届かない奥義の再現を打ち鳴らすのである。

 

【過負荷装甲】(プロテクト)【超頑強】

【■炎】【生命燃焼】

 本来なら天と炎の二属性の対流特性の違いに威力を増す 対流螺旋の嵐の剣。

 全体に纏う障壁に、その"石槌の杖"の投射面積は広い。故に刃に収束はせずとも十分だろう。

 あえて収束も最低限に風が如く押し流そうと、落下地点をずらそうと薙ぎ掃う……っ!

 

バチィ!

 それは確かに障壁(プロテクト)とすり合わされて、互いに電撃が弾けるような音を鳴り響かせた。

 未完とは言え奥義。確かに、その魔法剣は落下予測を大きくずらして。

 

(……っ!だめ、か……っくそ)

 しかし、落下地点をずらしても墜落自体は止められない。

 それは地属性のよる加重撃。

 自己の領域である"禍々シキ波"を纏って割る大気にて、水面を叩き割る如く"響き"を纏ったの一撃である。

 

 戦慣れに状況を見据える目が判断する。大地が炸裂した。その散弾に少女は巻き込まれるだろう。

 飛来する弾ける瓦礫は、心得のない少女の頭を砕くには十分すぎる。

 すでに手は尽きた。足は動き続けるが、間に合わない事を頭の中で理解ながら、なお足を進めて。

 

 ぺしっ。

 一陣の風が駆け巡る。その瓦礫はあらぬ方向へと弾かれた。

 

 拍子抜けするほど、何でもなかったかのように、軽い音である。

 それを引き起こしたのは。

「へ…?」

「うるさいなぁ」

―――色抜けた少女が眠気眼を、擦って、そこにいた。

 流石にこれだけ騒がしければ、どこかで目を覚ますというもの、宙に投げ出されていた段階で目を覚ましていた。

 まだどこか夢見心地にいながら。

 もはや本能に染みついた修羅場の経験に、勝手に身体動いただけである。

 

「起きてみれば、何だここは、どういう状況だ。私にはやり残したことがあったはず」

『IS・応竜:休眠モード』【記憶喪失】【魔術知識Lv■】

 その翡翠色の目が見開く、そこにかつての気迫の面影はない。

 無垢に辺りを見渡して、なお前後の繋がらぬ己の存在記号に惑って。

 

「そもそも私は、誰だ」

【常時破顔:記憶喪失の為不全】

 呟いた。

 何かをしなければという意識はあっても、それがわからない。

 たまらなくもどかしい。そうしている間にも。

 

『ブォオン』

【増殖の種子】(メイガスリーフ)【苛烈なる萌芽:新緑の閃光】

 墜落した石槌の杖が附随していた葉の如く端末が一斉に、例えてその幾多の目線がこちらを向いたのを見た。

 それの本体は畏れている。己が領域にて一方的な大虐殺を引き起こした風竜姫の再臨を。

 故に集中砲火、固定砲台と化して、閃光が収束する。

 

 

 それを見て、少女は。

「ふふん」

【魔■の如く】

 腕を掲げる。

 何だか知らないが、この身には自信と活力だけは満ち溢れている。

 記憶を失った故に根拠はない。ただ本能が知っている。己は飛べる生き物であると。

 無才の身ゆえに積み上げた。

 身体に染みついた導き出される数式のまま―――この距離を、空を一息に駆けようと。

 

しゅうん。

 しかし、それは思うとおりに結実しない。

「おろ?」

 彼女がかつて扱っていたのは装備も合わせた効率感の極地、魔法が如くを実現する緻密な方程式である。

 現在はその歯車のいくつかが欠損している。それは例えて精密機械のようなもの、故に機能しない。

 先の反射で繰り出した、ただの暴風とは違うのだ。

 

 二手遅れた。

 まぁ仕方ないかと、その眼に見開いて、備えんとして。

 

「伏せて!!」

「!」

【迫真■応】

 しかし横合いから、知らぬ誰かの声が聞こえた。迫真に迫ったその声に、身体は自然に反応する。

 眠っていた故に彼女は見ていない。それは"陽属性"の偏向場による幾多の光線である。

 マナ現象の副産物としての屈折率を操作した科学的現象、故にそれはそのまま光速に近しい。

 

 少女の頭上を熱が奔ったのを感じる。あぁそれは確かに兆候を見てからでは避けられないと理解して。

 発展して。

 その発振体の構造から、焼き払いに来ると"予測"して、それを転がって躱した。

 改めて立ち上がって、足を動かしながらその声の方向を何処か■待も込めて目をやった。

 

【鑑定眼:■贋】

 

 色抜けた少女が目にするのは、既にボロボロの軽皮鎧(レザーメイル)を纏った若葉の双剣士だった。

 変哲もない冒険者だろう。

 その彼は不可解なオブジェクトに己を執拗に狙うそれに肉薄している。

 

【高速■■適正(偽)】【阿修羅姫】

ダっ!

 身体に染みついたかつて空を駆けた獣の経験に、極まった肉体駆動、風をつかみ空蹴るフェイントを織り交ぜて。

 身体を入れ替えて、空間を転がる様に。戦場において阿修羅の如き乙女の利を証明する。

 そう彼女は、本来回避不能であるはずの閃光を転がるようにである。

 閃光の網を連続する"側転"にて躱して流しながら、互いに言葉を投げかける。

 

 

「なんだ敵か、お前は」

「とりあえず違う。余裕ないからから今はこれだけ聞くよ!」

【二刀流】【舞武】【ダンシングヒーロー】

 若葉の双剣士の踏み込みから、両足を交互に軸に回しての斬撃が繰り回される。

 非力、まるで通らぬとも、ただ愚直に。

 

 双剣士の少年は、優先事項に紐づけして、今は敵か味方かなど後において。

 その技はまだ未熟、少女の肥えた目はそう評して。何処かその面影に、懐かし気な何かを感じるだろう。

 

「今君は、戦える?!」

「勿論だとも、状況はわからないがこれは戦わねばならないのだろう?」

 

 ただ本能に併せる。己の手は空手だ(・・・・・・)、武器もない。

 しかし、なお沸き立つ高揚に何処か戸惑いながら、風の中に方程式を描いていく。

 

『ザ・スラッ■ャー』【チェーンソマスタリー】【錬金知識Lv■】

ギャギキィィィン!!

 指から糸が生える、かつての彼女であれば児戯その物、それは鋸刃の帯だった。

 碧色の曲がる曲がる鋸刃の軌跡で、前線で立ち回る双剣士の間を縫うように絶妙に食らいついていく。

 それはとても連携とも呼べぬような、期待に満ちた一方的な先読みの絶技である。

 

ギャルンッ!!

(あぶなっ)

 鼻先すれすれ、まるでこちらが全力で動くことを前提とした弾丸に、冷や汗を掻きながら。

 かといってこの状況で後退はあり得ない。

 鋸刃の如く帯に、亀裂入る目の前の装甲帯を目掛けて、双剣を翻して。

 

「その目障りな障壁をさえ抜けば……ッ!」

『腕輪の担い手:電制感覚』【魔法剣Lv2:木端美刃】

 『応竜』と呼ばれた彼女の【有頂天外】(牽制)に繋がるその基礎、魔石に隆起される精霊の風帯だった。

 その原理など、一介の冒険者である彼には理解できないが、砕けた宝石細工を巻き込んで魔法剣を起動する。

 "あの夜”に珪素に構成された、『黄金の双胴』の残骸を消費した魔法剣と同じ。

 ただ精霊術師として実感する、その芸術的な鋭さの弾丸を己が炎に燃やして、纏い撃ちである。

 

【過負荷装甲(プロテクト):破損】

 炎に焼かれ更に替え刃の如くまた鋭さを取り戻した魔法剣、それの纏う障壁を引き裂いて破った。

 双剣士はその無理やり拓いた隙間を明確に認識する。幾つか瓶詰めを投げ込んで。

 

【バッカ―Lv1】【ダンシングヒーロー】

 着火、途端に炎が渦巻くのを見た。先の"蔦の怪物"に使わず余った揮発性の油で着火された炎である。

 属性染色の妨害、更に光は温度に曲がるだろう。

 

(これで少しは時間が稼げるか、な)

 離脱する。

 そのついでに野狩人の道具に、持ち込んでいた簡易用の狼星筒(ノロシ)の着火剤を口で引いて空にあげながらその様子を観察する。

 

 果たしてそれは効果があった。

 苛烈に攻め立てていた。閃光の群れが勢いが減衰され、あらぬ方向に曲がっていくのである。

 

『ググ、ゴーン』

【適応進化思考】【浮遊】【超頑強】

 その石槌の杖は、再度浮遊して回転運動に、油を炎を振り払おうとしているようだった。

 ただ鬱陶しいというばかリに、優雅にである。

 

 余裕はない。その合間に状況の把握、手を伸ばす。

「ジャスミンさん立って歩いて!泣けるならまだ余裕があるでしょう!」

「うっ、う、ぐす……私、生きてる?で、でっも痛くて、うごけなくて」

「大丈夫。人間、骨が折れたくらい普通に動けるから!」

 見た所肋骨辺りの骨折だ。その手を取って無理やりに引っ張り上げて、その背中を押した。

 こう言うのは勢いだ。

 一回身体が持ち上がってしまえば、倒れる様に進んでしまえば割と何とかなる。

 

 そういう経験則である。

 

 立ち上げられた彼女は、半泣きになりながらよろよろと倒れた遠い大鹿の所に歩み寄っていって。

 

 そして、本題である。

「……嬉しい誤算だといいけど」

 不安にそう呟いて、カイトは背後に振り向く。

 先の様子を見るに"被保護対象"と思っていた色抜けた少女が、おそらくは己より優れた戦士であったのだろう。

 手が届かなかった。彼女の一手がなければ、恩人を殺されてたとはいえ。

 遭遇から特殊が過ぎる、怪しく棚上げしていたその"正体不明"に初めて目を合わせようとした。

 

 色抜けた長い碧髪を垂れ流して、何処でもいる様な少し幼く小柄な体格をした村娘の如く少女である。

 少なくとも閃光を察し、アクロバットに躱し切り、その鳴り響く風の刃に斬り裂いた相手だと思えない。

 活力の強く宿った目は、何処かまだ定まる位置が定まっていないように見える。

 

 そして、大きく引き裂かれ、紅色に染められた片腕が大きく目を引くだろう。

 そう、片腕がザクロめいている。

 

「―――は?」

「うーむ、なんか痛いな。血がだらだらどうなってる」

ぽたぽたと。

 その色抜けた少女は、攻撃など当たっていないのに、だらだらと血を吹いて片手をぶら下げていた。

 肉中から裂かれたような裂傷だ。普通に彼基準にヤバい類の怪我である。

 

「手にあって当然だと思うものを引き抜いたらこれだ。なんでだと思う?」

「知らないこっちだって貴方のこと知らないんですっ!とにかく止血ッ、止血を」

「おうっ、それもそうか」

【狂■■廻】【苦痛耐性】

 とぼけた顔、彼女が平然としているのも相まって。

 少し、思考が止まった。補充した奇麗な布を雑に手渡して、彼女は雑に縛り上げる。

 

 かつて『応竜』死にかけていた。放浪していた頃、コイル状愛剣の、分解された糸に接合さして。

 自身の星を巡らす知識を、機能を脈を巡らして、その命をつなぎ合わせていたのである。

 

 故に彼女は世界を引き回す思惑も伴って、"修理"されていた。

 そのまま体に命を繋いでいた、動脈のそれが埋め込まれたままにである。

 結果、異物との癒合とでもいうべきか、そんな歪な補修を施されたのはこの事変の中心たる『増殖』(メイガス)がこれを惧れを抱いた故か。

 

 そのラッピングを解いた結果がこれである。

 彼女は魂に馴染んだ其れを、当たり前の様に抜いて身を裂いたのだ。

 其れで引き抜いたのは全体の20%もあればいいか、全てを引き抜ては命に係わるだろう。

 

 応急処置、正体不明の相手と、そんなやりとりをする中。

 

【碑文八相:端末】【増殖の波動】【衝撃の杖】

ドォォォオオオん!!

 頭上から、また影が迫る。マナの波動を纏いながら石槌が墜落した。

 今度は何にも阻害されない加重撃の落下、容易に大地が砕けた。巻き込まれて森の植生自体が傾く威力である。

【舞武】【精霊術Lv2:アプドゥ(ヘイスト)

【迫身■応】【空■■い手】

 

 炎はほぼに、消しとどめられたようである。

 閃光を阻害するものは既にない。発振体である葉の目線が色抜けた少女を再び射抜く。

 

「ははっ、まぁどうにでもなるさなんだか戦うと元気になるしなぁ♪」

「痛々しいからあまり無理しないで」

 しかし先の閃光と違い。その墜落は来るとわかっていればどうにかなる類である。

 一人は仮想の精霊足場と重心操作に疑似二段、宙に逃れて。

 一人は風の導きのままに身を軽く、扱える金属糸(コイル)を木々に巻き付けて身を引き上げて、風に乗る。

 

 数が減ろうと、閃光も奔って、全機能を任せた殲滅戦が開始される。

 

「っく、瓦礫が邪魔っ」

「ふむ、あの"石像葉っぱ"の数が少ないなぁ。何か、企んでるのか」

『腕輪の担い手:六花の弓』

『ザ・スラッシャー』

 若葉の双剣士は、宙にて死に体になった隙を構えた弓の射撃にて、反動に距離を開けて。

 色抜けた少女は、普通に木々にリールを引くが如く慣性を味方につけて、普通に空手に風を纏う。

 

 怪我人に後ろに引いてと言えない、この戦力差が憎々しい。

ジャキ。

 なぜかあちらに集中する攻撃に、予備の『相鉄の双剣』を引き抜いてぶん投げてどうにかヘイトを取ろうとして。

 

……ヒュンッーーー

(……!)

 若葉の双剣士が聞き覚えのある。風切り音を耳に拾った。

 彼はそれを知っている。

『星の血証』【精霊術Lv3】【再現精影砲】=【四章魔法:光の束ねたる矢】(レイザス・ミストライト)

 

 反射に跳び退いた。

シュッ、ジュアァァァァ!!

 その最中に、光矢の榴弾が飛来し、石槌の杖を命中し炸裂するのである。

 

 

 

 

 

 

 

―――その一方で。

 

『脈動する大豊の森』

 

 空間に光の矢の景色が、反動に立ち上がる煙が払われながら。

 

「へっへー、手ごたえあり、どう?」

 森の中の小高い丘の上で、遠方を観察する集団がいた。

 そうこの危険地帯の高所に陣取って、複数人の冒険者の一団が遠方を観測しているのである。

 

「―――命中、確かに狼星(のろし)が上がったのはあそこっすねー。いやー、よく生きていたものです」

「随分と派手にやり合ってるな、地形がまるで円ハゲてやがるぞ」

【多目的ハイパーセンサー】・【野狩人Lv2】【奉納巫女】

 ネコ目に細めた双剣士に、槍斧を構えた金糸の髪を流した女が、双眼鏡を片手にその様子を観察する。

 

 この徒党(パーティ)は陽が落ちるに、簡易拠点(キャンプ)に撤退していた仲間である。

 途中で掲示された小目的である冒険者の救援を、である。

 流れてきた小精霊に乗せられた生存のメッセージと、闇夜の森という危険性に、一度簡易拠点に引いて世を開けるのを待っていた。

 足の関係と、動機から同行してない者もいるが、クランの戦闘特化の一部も参加している。

 

「うちのバカ相変わらず何やってんのさ。まさか、はぐれた後も調査続行していたってーの」

「結構な話じゃねぇか、ガッツのある事だそう言う喰い手がある奴は大歓迎だぜぇ」

 重剣士の少女が、武器を大地に突き刺して呆れた溜息をついて

 

「さてぇと、これ以上進んでも時間を食うだけだな。変わらずここで介入するとしよう」

【ウォーリーダー】

 侍被れの男が音頭を取る。

 現在、彼等の徒党(パーティ)には、先導役を主に担っていた『レンジャー』を自認(ロール)する少年がいないのだから。

 ただ合流し様にも、"狼星"(ノロシ)が上がった地点に短時間に辿り着くのは難しい。

 時間ばかりが掛かり、強行ゆえに体力も消耗してしまうだろう。

 

 しかし、幸いにここには、長距離からの狙撃を可能とする魔術師が一人いた。

「流石に、目立ったな。モンスターが寄ってきやがる」

「おっし、出番ね!あたしたちがちゃんと護衛するから、安心してぶっ放しなさいミストラル!」

「うん、もちろん任っかせてー ♪」

 その砲撃で、目立ったか、周囲から多数のモンスターが寄ってくる。

 散発的に、種別として蟲畜生を中心として。

 "翡翠の虐殺者"の影響で、大きく目減りしているとはいえ、『碑文八相』たる"増殖"が活動するこの地帯の利である。

 

 それに対して、ある者は大剣を構えて、機巧槍を構えて、蛇腹剣を抜いて、刀を定めた。 

 それぞれに風切り音が走り、己の信じる鋼の矛先で血の絵図を描くだろう。

 

 全てを相手にする必要はない。

 短時間、あの不気味な構造物(オブジェクト)、『石槌の杖』を撃墜する機会を、時間を稼げればいい。

 それ以上は望まない。それが精一杯である。

 

 手放せない現実に、それぞれに精一杯抗う。

―――その真の鼓動を隠したままに

 『増殖の世界樹』その脅威はまだ終わらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 長距離射撃できる魔術師は割と超便利。

 なんか暴れとる。
 もっと村娘だった頃まで回帰するかと想定してたら、なんか精神系スキル積み過ぎたおかげで、あれこれ無垢化しないくね?のせいである(それでも人類愛とか忘却してる)。
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