ポンコツ世界異聞=【終幕を切り刻む者達《ハッカーズ》】   作:きちきちきち

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余暇【世界樹の侵略】

―――訪問者から、また少し時間をおいて。

 

 時刻は夜、歩哨として冒険者が戦い、互いの余暇の時間が重なる頃の話。

 未だに砦の中、夜に煌々と燃え盛る篝火の明かりに迷い出た蟲が誘蛾の如く引き寄せられる。

 その夜の帳を引き裂いて矢が奔る、槍が貫く、魔法に焼き払われる。

 

「南西の方向に猩々蠅の群れ!」

「またかひっきりなしに、アレはぶよぶよで斬りずらんいだ畜生が!」

「グダグダぬかすな、弓隊よく狙えって叩き落せ!物資は限りがあるんだ取り付いた蟲畜生は白兵で対処する!」

【正規兵】【紅衣の騎士団】【熟達する経験】

 

 ここは大反乱の最前線、人類が安息の防波堤である。

 その喧騒を背後に聞きながら、歩哨としての交代時間が重なる頃に病室として利用される一室の片隅にて、話し合っていた。

 

 この場にいるのは。

 "重剣士"(ヘビーブレイド)のローズ、"槍舞師"(ディフェンダー)のカルデニア、"呪文師"のミストラルの普段固定の徒党で活動する4人である。

 彼等以外は、合同依頼が解かれた後に縁はなく、また明かして巻き込む程の信用も足りない。

 『異変』など、一般的にそれぞれに騒がれていても、繋がりなど知られてはいない。

 通りかかりの冒険者及び、現地の人間が早期に殴り返して撃退している為に、そう大事にも捉えられてはいないのである。

 

 故に、これは今の所、彼等だけの独りよがりであった。

 

 

 またそれぞれに目元に、何処か疲れが見えるだろう。

 異変の森から帰還し、また彼等はここ最近後方の歩哨とはいえモンスター相手に戦い詰めである。

 その中で、小さく声が響く。

 

「―――こういう訳なんです。少し離れた辺境……、ごめんリコよく見えないから座標お願い」

「ん、わかった」

 周辺の地図を広げて、白装束の魔女が指定した座標に鉛筆で色を塗って示す。

 まだ視力が完全には戻らないカイトの代わりに、リコリスがそれを示して。

 話題は先に、幻影として接触してきた白装束の魔術師について話である。

 

「へー!そんな事があったんだ。とってもミステリアスな人、気になるね♪」

「今の話でミステリアスって…、相変わらずの能天気ねぇ」

 その話に白耳の呪文師、ミストラルが手を叩いて、目を輝かせ無邪気な声を上げた。

 疑う事をあまり知らない。相変わらず、陽の如く熱量を世界に向ける。

 彼女にとっては、その訪問者は"トリックスター"の様に写る。まるで物語の一節である。

 

「だって、聞く限りさ!とっても珍しい魔術の使い手だよ。ほらさっき見つけたんだけどさ、魔導文明というより、"シルト式"の簡易的な受信機、こんな単純なので遠くから虚像を投影するなんて―――」

「はいはいわーっかたから落ち着きなさいって」

【レアハンター】【アイテム知識】

 白兎の帽子をぶんぶん振り回して、アイテムマニアとしての知識を語る。

 "シルト式"とは魔道具の分類の一つ。

 聖錬北東の街"シルト"、聖錬有数の大企業『スタークインダストリー』のよって取り仕切られている魔導文明の「復元試験都市」で、狭く普及してる機械的アプローチの名称である。

 

 よって、非常に珍しく、その利用法を含めて彼女の知的好奇心を刺激するのに十分すぎるものだった。

 

「それでリコちゃんの秘密にも、その"腕輪"の秘密にも迫れるってなら素敵な話だと思うんだ!」

【無縫妖精】【理性蒸発】

 その白耳を興奮でぶんぶんと振り回しながら、その熱意を放つ。

 それは未知を秘密を類稀を愛する彼女にとっては、とても素敵なものに写るのである。

 相変わらずにその笑顔に世界への熱量に溢れて、代わらない様子に安心感に少し彼等は笑った。

 

 ミストラルの腕ブンブンを抑えながら、その傍に。

 先までモンスターと交戦しており、その汗に張り付いた金糸髪をまくり上げてガルデニアが口を開く。

 

「となるとこれを持ち込んだ協力者もいるか……ふむ、単純に考えれば罠、だな」

「やっぱりそうですよね」

 明らかに訝し気に、その魔道具を手に取って語る。

 金木犀の槍使いカルデニアが、冒険者の先達としてその不躾な訪問者に対して所見を述べた。

 

「実際どうだったんだ。君から見てその魔術師の言葉の真偽というのは」

「んーそうね、嘘ほんと何て知らないけどさ。ここまでの経緯は把握してるみたい。好き放題言って消えてったわ、リコにもちょっかい掛けてさ」

 その来訪に伴に立ち会った重剣士のローズに声かける。

 魔女が言う、語った内容には、ここまでの流れを示す内容もあった。

 "黒幕"というべき男の存在、意図したように発生する『侵略者』の経緯に信憑性は確かにあった。

 

 しかし、怪しいと言われればとことん怪しい。今の所それは何処まで言葉だけで無責任な介入である。

 現状は、ただの扇動者とも言っていいだろう。

 

 だから。

「意図はわからんが単純に『異変』の解決を望んでというのなら、国にでも垂れ込めばいいさそれが解決への一番の近道だ」

「ぶっちゃけてそうよねぇ、いくら前より強くなったと言っても私達なんて一介の冒険者なんだからさー」

 同意してからからと笑いながら言う。そう、彼等の徒党はあくまで一介の在野の冒険者である。

 だからこんな話を持ち掛けるその魔女に、何かしらの思惑、意図があるのだと考える。

 『魔王級』の侵略者の影のたくらみ、おそらくそれは、碌でもない事であるはずだった。

 

「んーでっ、カイト君はどうしたいの?そこが一番大事なとこだよね!」

 そして白耳の魔術師ミストラルが、詰め寄って無邪気に確信を訪ねてくる。

 無視するのは簡単だろう。要は当事者のそこだけが重要な事だ。

 

「危険があっても僕は探したい。折角に知る機会が向こうからやってきた」

【正道の歩み】

 カイトはそれに即答した。

 未だ視点が合わず朦朧とする目に、意志だけを強く宿して愛剣を強く握り締める。

 

「きっと全て、僕だからじゃなくて『腕輪』(コレ)に理由がある事だと思うから」

 彼は自身の歩みはともかく、己自身に何ら特別な事がないという事は知っている。

 そういうのは、いつもずっと先を歩いている"親友"(あいつ)の役回りだったのだから。

 必然的に己が選ばれる理由などこれしかない。これの担い手であればきっと誰でも構いはしないのだろう。

 

「―――僕はこれの、"腕輪"の理由を知りたい」

『黄昏の腕輪』【腕輪の担い手】

―――ポーン♪―――

 頭の中にもはや聞きなれた破調ラ音が鳴り、右腕から神秘的な幾何学文様が展開される。

 彼の手元に突如の顕現した由来不明のSランク相応の魔具、万物を溶かし分解し尽くす奔流の帯を放つ破滅の華だ。

 そして、何より現在襲い掛かる侵略者たる『碑文八相』が同質の力である。

 

「それに今はきっと試され(嘗め)られてる。こっちが頑張れば殺せるっていうのは唯一の交渉手札になるから」

「脅すのか」

「うん、たぶんまともに取り合われるのはそれが前提条件だと思うんだ」

【狂羅輪廻】

 過激な発想、狂羅の輪廻に墜ちた者の悪癖として相手の最悪に思考巡らせながら手段を選ぶ。

 前提として、魔女の持っているであろう情報は欲しい。

 きっと、正しい道を歩かねば前には進めない、彼はそう信じている。

 それでいて時は、終わりは迫ってくるのだから、ただでは死ねない終わり方を探さねばならない。

 その為には知る必要があるのだ。

 

 あの傍観者気取る白装束の魔女が、何者であろうとも。

 その予言の如く語る、"破滅"の未来は到底受け入れられるものではないのである。

 

「それでいい。汗も流さず言葉だけを弄す輩に、碌なのはいないからその位でちょうどいいのでしょう」

「ふふ、何だかんだ先輩も脳筋気質よねー」

「失敬ね経験則よ。そのヘルバと名乗る魔女にはその唇に命を、乗せてもらうわ」

【凛として月華の如く】【阿修羅姫】

 その答えに、意外な事に先達であるカルデニアが同調した。

 彼女は徒党(パーティ)で唯一に生来の修羅としての気質(サガ)を持っている。

 

「なんにしても君が戦う場所を選んだんだ。着いていくさ私はそうやっているのが性に合うからな」

【元奉納巫女:欠けたる者】

 それが竹を割ったような武人気質として現れるのである。

 そして割と彼女は戦えれば満足であり、己の欠けた1として根ざした少年の傍であれば猶更だった。

 

「でもまぁそーよね。あたしも落とし前はキチンと付けたいかんね、そこまでを考えるのはカイトの仕事だしー?」

【蛮族】【燻りの復讐心】【ムードメーカー】

 重剣士のローズも快活に笑い同意を示す。

 彼女はカイトの"同志"であり、その『異変』に家族を弟を奪われた側である。

 その恨みは現実の前にすり減ったが、髄は確かに熱を微かに燻っている。

 

 何より、彼女の蛮族としての本能がこの徒党を、"相棒"の傍を巣として求めている。

 

「えへへ、冒険だね!こんな状況だけどワクワクしちゃうよ」

【理性蒸発】【陽気の嗅覚】

 割と気軽に未知を求めて、白耳の魔術師は歓声をあげる。

 魔王級と直接戦うでもなし、未知の事楽しそうなことに仲間外れは嫌である。割とそんな軽い気持ちであった。

 

 そして大体の徒党の方針が定まった。

 

 その頃に、訪問者が扉をたたく音があった。

 

 キ゚っ。

 扉を開く音。

「―――おい、ここにいるって聞いたがいるかお前ら」

「あれ、マーローじゃん」

『黒蜘蛛の鎧』【黒剣士】【孤独者の流儀】

 空き室の扉を開けて、そこにいたのは、彼等の徒党時折に組んで動く冒険者の一人である。

 役割(ロール)を『黒剣士』と名乗る冒険者のマーロー・ディアスだった。

 

 彼は、一通り周りを見渡して、欠けた者がいない事を見て、口を開いた。

 

「よぅ。まだ全員くたばってねぇようだな。だがなんだその怪我は、つまらない事で無茶しやがって」

「まぁ色々あってなんとか、良縁があって何とか繋がってる」

 

 黒鎧の彼の何処かぶっきら棒な言葉に、カイトは手を上げ苦笑しながら答える。

 彼等とて付き合いは長い、表向きは呆れてるようであり、その実態はこちらを配慮する言葉だと知っている。

 

「そんな事よりこんな所にどうしたんだ。君は別の用があると言ってただろう。この砦は最前線よ」

「ふん、俺の雇い主がここに詰めてる『紅衣の騎士団』に属しているらしくてよ。砦に護衛ついでにこっちに来たって訳だ」

「ふぅん、じゃあ依頼のあとって訳、アンタもこんな時に巻き込まれて大変ねー」

「まったくだ。わざわざ巻き込まれに行ってるもの好き程じゃねえがな」

 マーローとローズと気のしれた様子で軽口を叩き合う。

 古巣に接触していた事はおくびにも出さない。

 彼等は互いに実直なタイプである為、気兼ねなく言葉交わすのである。

 

「こう、雁首揃えてるんだ何か宛はあるのんだろう。手は空いた。必要なら貸してやってもいい雇え」

「……え、いいんですか。だって」

「いいも悪いも冒険者の依頼何て自己責任だろう。俺がそう示したらオメェが何も気にすることもねぇんだよ」

 マーローはあくまで冒険者というスタンスの一線を引いて、付き合いを持っている。

 それが彼の孤独者の流儀だ。

 だから、あくまで雇われる事、立場と互いの利益を提示して、彼等に協力を申し出たのだ。

 

「ん、ありがとう。助かります。実は―――」

 カイトは軽くこれまでの調査依頼で目にしたことを説明する。

 森の氾濫、溢れ出る歪な生態系の構築、発生した大反乱、そこに見えた彼だけが認識する侵略者のノイズの波の囁き、そして白装束の魔女の誘いをである。

 

「ふん、またオメェにしかわからんノイズの囁きって奴か信頼性がねぇな。『紅衣の騎士団』は一応候補だった。伝手はある話だけ上げとけ」

「えー、マーロー君が騎士ィなんというか想像したら、ふふ似合わないなー」

「うるせぇよ理性蒸発女、その翅より軽い口閉じとけ」

「あいたっ!」

 ミストラルの率直な言葉に自覚があるのか苦い表情で頭を軽く叩いた。

 自覚があっても、こうずけずけと言われるのはまた話は別だろう。

 付き合いから悪意がないと分かってるだけ、どうにも質が悪いのである。

 

 気を取り直して。

 

「ついでだがよ町で聞いた話だと『蒼天』も何処かで動いているらしいな。流石に次期Sランク候補("鬼人八武衆")となれば目立ちもするか」

「!、『蒼天』バルムンクさんか、なんとかお話できないかな」

 この男とて、町で情報を集めていた。

 カイトは顔見知りの有力者、そして仇を同じくする"同志"だろう人物の名を聞いて反応する。

 彼が動いているとならば、発言力は無名であるカイトの比ではないのである。

 

「ムリね。今は何処にいるやらこの状況だもの人の流れは知っちゃかめっちゃかよ」

「そう、だね」

 しかし、それは無碍もなく否定される。

 わかり切った事だが、この非常事態に渡りをつけるのは彼等には土地勘のない難しいだろう。

 

「砦の歩哨からの離脱自体は通ると思うわ。元々君の意識が戻るまでという話だった。流石に成り行きで協力してる冒険者に最後まで命を掛けろとは言えないでしょう」

「じゃあ、ぱぱっと報告してさ。準備したら出発しようか!」

 白耳の魔術師、一番意欲があるミストラルがそうまとめて彼等は動き出す。

 彼等は彼等で根なし草である。

 

 こうして、彼等は彼等の都合に動き出すのだった。

 

 

 

―――同時刻。

 

 

 

 ところ変わって、小高い切り立つ丘の上の事。

 その高台より夜の帳の中、異変の森の方向を見つめる一人の女がいた。

 

 その癖のある金毛のツインテールを風にたなびかせて。

 小柄な身体に、見合わぬ大きな羽付きの提督帽に黒尽くしのコートを、空の如く澄み切った刃を大地に突き立てて眼下を眺めていた。

 

「さて、聞きしに勝る有様だな。次々にモンスターが湧いて現れ風が森臭さと土臭さで溢れている。まるですべてが引っ繰り返った様な有様だ」

『スカイエース』

 幼い容姿に引き締まった緊張感を持ち合わせたそのアンバランスさは。

 まるで背伸びした幼子にも見えるだろう。

 

「ああいうのは中心核を滅せれば滅びると相場が決まっているが、さてそう行儀良くしてくれるものか。アーカルムの糞賢者共と同じで何処までも往生際が悪い可能性もある」

【秩序の剣】【聖錬32将:アーカルム提督】【超絶美形:ロリ巨乳(偽)】(名誉メスドラフ)

 この場に威風堂々と構える彼女の名は、モニカ・ヴァイスヴィント。

 しかし、ここの童の如く少女が、『聖錬』が武力の代表たる"聖錬32将"が一角である。

 彼女の愛剣、背丈にも迫る巨大な帯剣(サーベル)を重荷ともしないのが、その証明であろう。

 

 彼女等は、話に出ていた『隔離領域』の専門家であり、この事変解決のための本命である。

 『聖錬』の南西に『新世界』(アーカルム)と呼ばれる特に有力で広大な未踏の地―――、

 既に滅んだと言われる環境すら意のままに手繰った"ノーブルエルフ"の生き残りが潜むと噂される。

 新世界(アーカルム)という"潜在的脅威"、それを監視を旨とする『秩序の騎士団』の提督である。

 

「おっと、と。ただいま偵察から戻りました。どうですかモニカさん」

「偵察ごくろう。どうもこうもない。アレは骨が折れるぞ属性値はともかく"新世界"(アーカルム)に匹敵する悪整地だ」

【フィールドワーカー】

 その腕を組みながら威風堂々と見据える、声かけるは素朴な背格好の冒険者、青の少年グランだった。

 青の少年と彼女とは古馴染みである。

 『アーカルム提督』と呼ばれる役割、隔離領域に定期的な内部調査に懇意にしている冒険者の一徒党の繋がりである。

 

「むしろ貴公はどうみる、実際にあの新世界を歩いてるのは貴公だろう」

「そうですね。『隔離障壁』はないから戦力も物資も適時投入できます、磁場は狂ってるけど地形は川を基準に辿っていけばいい。大樹の根が邪魔になる位なら問題ない思う、モンスターの異常氾濫と変異、守護者と思わしき推定魔王級、意図的な環境ホルモンとか色々報告あるけど……」

『調査報告書』【INAKA育ち】【野狩人Lv3/5】【アーカルム踏破者】

 その、問われた言葉に。

 手元の報告書の纏めをその手に、青の少年がそれぞれの経験則に、要素を並べていった。

 彼とてまだ若い、一流ではあれど『白笛』に代表される熟達の探索者ではない。

 

 雑多にもたらされた情報を呟きと共に考えを纏めて、こう結論とする。

「河川を中心に測量したルートもある、総じて少数精鋭で強行すればなんとか1日で中心まで踏破可能だと思う、こういう時ほんと先行調査がありがたいね」

「そうか、しかしそれでも一日の野営は最低限必要となるという事は」

【フィールドワーカー】

 在野の冒険者で組まれていたとはいえ、その事前調査は最低限の情報を彼等にもたらした。

 その植生、その生態系、その毒性、そしてその守護者たる魔王級の存在、基礎の情報がここにある。

 そしておそらく殲滅すべき"中心核"(コア)の推測すらも齎したのだ。

 本来に、棄てても惜しくない冒険者の成果としては、上々という他ないだろう。

 

 だからこそ今、彼等は最善手を打てるのである。

 

「誘導と退路の確保に『騎士団』から人員を供給してもらうとしよう。あちらも対応に疲弊しているだろうが、ここが踏ん張り所だ」

【政治知識Lv2/5】【カリスマ!】

 有事にて指揮系統一は重要だ。聖錬武力の代表たる『聖錬32将』は、緊急時に最大の権限を有する。

 しかし、新世界の監視の責務を放棄する訳にはいかない為、この場にいる『秩序の騎士団』はごく一部に留まる。

 

 故に連携の不安はあれど、戦力は現地調達する他ないのである

 思い浮かべて、戦力を言葉に出して確かめる。

 

「紅衣の"昴殿"にその麾下少数、案内に調査に参加した土地勘ある冒険者に声をかけ、そして我らが秩序の精鋭。"第一陣"としてはこれで十分か、『鬼人八部衆』の『蒼天』は変わらず来ないのか?」

「うん、ちょっと気に掛る事があるみたいで、あっちは独自に動くみたい」

「まったく!声をかけてきたのは『蒼天』の方だろうが……まぁよいか、流れの冒険者に命を懸けろと強制はできん。これで逃げる様な玉ではあるまい」

 冒険者はまだ参加するか不確定であるが、消耗を許容でき即応する第一陣には十分な戦力だろう。

 今ある手札で疲弊抑えて"守護者"、"中心核"に辿り着き、これを打ち砕く道筋を考えなければならない。

 

 これでダメならば、致命的な見落としがあるならば……。

 最強の幻想である『戦姫』に、最強の代名詞である『五傑』の誰かを供回りにして、本腰を入れるだろう。

 もちろん、そうならない様に尽くすのだが。

 

「―――さて明後日の朝には動くぞ。貴公の徒党(パーティ)にもそう伝え準備を整えるがいい」

「わかった。て言ってもとっくに準備はできてるけどね。ジャスミンも誘ったんですけど、今は忙しいって」

「そうか、怪我人も多いからな腕のいい癒し手は仕方あるまい」

【武具万能】【無窮の武錬】【純地単色】(シングルピラー)

 グランが徒党(パーティ)は、万能型である彼を中心に柔軟に穴を埋め。

 前衛である隕鉄の少女コロマグ、中衛である森狩人のウェルダー、後衛である呪術師アンナの4人だ。

 現状この面子が固定であり、そこから傭兵の操符術師やら薬師やらが時に加わるだろう。

 

「そういえば、リーシャさんは今はどこに?あんなに私も行きますっ!て張り切ってたのに」

「ん?リーシャなら聖錬32将()の代理で各折衝に走り回ってるぞ。いい経験になるからな」

「うわぁ」

【英才教育(虐待ですか?いいえ愛です)】

 その返しにグランの顔が引きつった。

 同格がいない為に、現状の最高責任者であり非常時における『聖錬32将』とは代理とはいえ目の回る様な強権である。

 組織にそれぞれに都合がある。それは時に流動する。

 彼が思い中るだけでも『行政府』『冒険者ギルド』それぞれの『騎士団』『自警団』などの武力、都度に、妥協点を調整しなくてはならないデスマーチでだろう。

 

 普通に考えれば、二十歳にも届かない小娘には、荷が重いはずだった。

 しかし大して。

 

「ふふん、いい機会だろう?リーシャは先代の提督『碧色の騎士』ヴァルフリート卿の一人娘だ。その肩書には力がある。何よりはあの子に上に立つ者としての才があるからな」

【政治知識Lv2】【指揮官:部隊指揮】【選抜血統】

 モニカは我が事の様に、誇らしげに小さな背を豊満な胸を張る。

 そのリーシャと呼ばれた少女は彼女の妹分であり、先代『提督』の忘れ形見である。

 

 今まで形骸的であった新世界(アーカルム)監視の為に、武力を組織化した『秩序の騎士団』の設立者だった。

 もとより貴族だったこともあり、既に戦死したとはいえ、その発言力は確かにまだ根付いているのだ。

 

「うーん、あとで恨まれそうだなぁ"なぁああんで、私だけお留守番なんですかモニカさぁああん!!"って」

「うっ……、仕方ないだろう。最悪どちらも失う訳にはいくまい、あいつは鉄砲玉が性に合ってる私より替えが効かないからな」

「過保護なのかスパルタなのか、どっちなんですかもう」

 青の少年グランはそれを聞いて納得はする、しかし少し困った苦笑いに頬を掻いた。

 秩序の騎士団の装束であるコートを着た三つ編み少女の、恨めしそうな視線を思い浮かべる

 自ら抱く秩序という正義の為、敬愛する提督であり姉の様に慕うモニカの役に立つために、空回りしそうな程のやる気を見せていたのを覚えている。

 それがお留守番となり、一回り年下の冒険者の少年を連れ立っていくのは面白くないだろうと。

 

―――【白翼の戦乙女】【号令の担い手】(ブレイブコマンド)【秩序の妖怪】

 そんなスパルタに鍛えられて、将来に立派にその適性を発揮させ……。

 時折、行き過ぎた事になるのだが今はだれも知る由もない。

 

「ま、まぁいい後で埋め合わせよう。時に貴公、その腕の方は落ちてないか?」

「勿論、色々な人に会ったからね。前よりは手札も増えたし腕も伸びた」

【御技の継承】【偉大なる加護(マグナブレス):嵐竜方陣・機炎方陣】【ヒーロー】

 そう言って自身の得物である紫光を纏う長剣を振り抜き示す。

 この少年は、血脈に環境にそして何よりそれを磨きあげる夢を骨とする努力家、英雄の卵―――。

 現在は偉大なる者の加護を継いだ、つまりは野生のやべー奴である。

 

「なら良いが、最悪生き残り誰かが情報を持ち帰なけれならん。貴公はあくまで外部協力者だ。最後まで命を懸ける必要はないのだからな?」

「そんな、どんなピンチでも皆で力を合わせればどうにかなりますって」

【純朴少年】

 モニカ・ヴァイスヴィントはそう言い含める。

 言外に全滅の憂き目には、帰還の可能性が高い野狩人(レンジャー)である彼には時に仲間を見捨ててでも生き残れという意味を含めてである。

 

「最悪の事態だと言っただろうまったく……」

 案の定の予想通り素朴な返答に、矛盾した溜息と笑みを浮かべる。

 もっともそう言う選択肢を取らないと分かり切っているからこそ、強く信頼に値するのだが。

 歯がゆいものだと、その大帽子を深くかぶり直して。

 

 彼等は野営地へと退き、来るべき時に備えて身を休めるのだった。

 

 

 




原作の七曜騎士の一人、碧色の騎士ヴァルフリートさんはリーシャの背景です。
原作の情報が少ないからちょっと動くものにならなかったので……、ただ見た目で貴族という設定を足した程度になります。


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