ポンコツ世界異聞=【終幕を切り刻む者達《ハッカーズ》】   作:きちきちきち

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投稿遅くなって申し訳ありません(仕事から逃げながら)。



彼等の事情【世界樹の侵略】

―――『脈動する大豊の森:郊外』

 その郊外の事。

 

 また一つ、歪な葉を従事させた石槌がおられて地に沈む。

 周囲にバラまかれた"葉の石槌"を片っ端から、魔物と伴に圧し折る行動に従事していた。

 

 交戦経験は共有され尖鋭される。

 主な攻撃手段である閃光に対して有利をとれ、地重撃は確かな予兆に対処は可能だ。

 新たに顕れた"黄金の双胴"が取り巻く様になったのは厄介だが、それでも犠牲者を出しながらも確実に一柱ずつ圧し折っている。

 

 その最中の話である。

 

「伝令ごくろうさまです……ふむ、調査に参加した冒険者からの報告、ですか?」

『ラピスハート』【指揮者】【酔紛たる胡蝶】

 その宝石細工の斧を、『準竜具』を大地に突き立てて小休止に話を聞いた。

 周囲には水気に溢れて、その戦姫に近しきと評される由来をひしひしと感じさせられるだろう。

 

「要約すればこの事態の情報を持つ何者かがいる。接触の為砦の歩哨を辞したい、との事ですか」

「はっ、そうなるかと」

 届られ、丸められた書面を広げて。

 兵士に囲まれながら紅衣の騎士団長、昴は砦の伝令に持ち寄られた書面に目を通した。

 物憂げにその水面の如く青髪を繰り上げ、ある程度の結論を出しながらも周囲に問いかける。

 

「意見を」

「件の冒険者は未開の地に調査に赴き、先刻まで意識の戻らなかったと聞きます。単純に逃げ出す為の理由付けでは?」

「なるほど、怖気けついても仕方ないと、確かにそうでもありますが困りましたね」

 先に横矢の被害があった事もあって、兵士の中に冒険者を非難する密やかな騒めきが聞こえる。

 確かにその根拠は、余りに突拍子のない事だ、故に信憑性は低い。

 しかし、困ったことに今回の調査にて実績は示している徒党でもある。

 ただ、戯言と一蹴するのも早計という塩梅だった。

 

「なんにせよ。調査に参加した冒険者に森の道案内を頼みたいと『秩序の騎士団』から話がありましたのに、彼等に受けてもらう事は難しくなりましたね」

 溜息をつく。彼等は調査に参加した徒党の約半数である。

 流石に、同意もなくほぼ死地に等しい『隔離領域』に近しき地、強制的に連れ出すわけにはいかない。

 それはまるで奴隷の扱いに外ならない。

 そして、何よりそんな徴兵まがいまともに働いてくれるとは思えないのだから。

 

「どう返答しましょうか、昴様」

「えぇ、まずその徒党の経歴の洗い出しをギルドに依頼してください」

【政治知識Lv3/5】【カリスマ】

 平時ならともかく今は緊急時、間に合わないと思いながらもやるべき指示を飛ばす。

 それでも妥協点はある。割とどうするかは最初から決まっていた。

 意見を聞いたのは別視点での参考のためだ。

 彼女の施政者としての一面は確かに優秀なのである。

 

「ならば一人、監視の人員を付けて許可しましょう」

「宜しいので?」

「これが妥当でしょう、その話が本当の可能性もありますので」

 彼女の施政者としての視点がどちらに転んでも悪くない方針を決め打った。

 予想外の行動を制して、かつ予備戦力として最低眼この地に留める事が出来るだろう方策である。

 

「―――ただしその人員は私が指定します。宜しいですね」

「?、はい」

【比翼の鳥】【根暗】

 しかし、ここからは私情が混じる。

 言ってしまえばあの時からずっと続く特別扱い(ひいき)である。

 それは騎士団に『補助団員』として籍を置いている愛し人、彼女を危険から遠ざける為である。

 件の徒党(パーティ)が本当に臆したならそれでよし、事もなく安全だろう。

 真だとしても『隔離領域』とも等しい、魔境の森に赴く己の供回りよりは遥かに安全なのである。

 

(―――この事態に我儘言うべきじゃない。不具で出来損ないの私が能力を発揮できるのは、司君の血に支えられてるからだってわかってる。気持ちはすごく嬉しいけど、それでも)

【半身不随】【超人:感応対象者】

 

(危険な目にあってほしくない。私にとって、何よりも貴方の方が大事だから)

 先の様子で、己の危機に彼女が大人しくしてくれない事はわかった。

 それ故に名分で命令に縛る。

 

 身体と心に惑い矛盾に苦しみながらも。

 大勢に求められる輝かしき己を演じ続ける少女は、思いを馳せて準備を進めるのだった。

 

 

 

 そんな経緯で、伝令はまた砦へと走る。

 

 

 

―――『脈動する大豊の森:前線砦』

 

「という事で」

 突然に訪ねてきたその杖を構えた"少年"は、不機嫌そうな声で。

 こう告げた。

 

「―――『紅衣の騎士団』から補佐団員、"使役士"の司が監視に同行するけど文句ある冒険者?」

「???、なんで」

【男装少女】【ぼくっ子】

 若葉の双剣士カイトは突然の申し出に困惑する。

 とりあえずの独断専行にならない様にと、不義理にならない様にと話を通しただけである。

 

「ねーちょっと話違うじゃん、マーロー何かしたん?」

「知らねぇよ。俺ァ伝手辿って上に話流しただけだぞ。"銀漢"の奴が話に尾ひれでも盛りやがったか」

 その背後でローズとマーローの話し声がする

 伝手に話を通したマーローにとっても、本来にまともに取り合われるはずはなかった。

 だからこうして、仮にも人員を寄こされるのは予想外の事である。

 

 その動揺による騒めきに、声を挟む。

 

「……ぼくだって不満。"昴"が危険な場所に出るっていうのに、こんな所に遠づけられてさ」

【比翼の鳥】【感応体質】

 どうやら、その命令は"少年"にとっても不本意であるらしい。

 目線を憂鬱気に伏せながらまったくと、か細いハスキーな声に、溜息を揺らす。

 一応に特記戦力、戦姫に近しき想い人は、隔離領域に等しき森の踏破の為の人員に選ばれている。

 

「結論から伝える、調査から帰還した徒党は評価しているらしいよ?ただその都合のいい情報提供者の報告には懐疑的、だからぼくが監視に派遣された。どうでもいいけど、そういう建前」

「わかるような、わからない様な。とにかく僕たちに対して半信半疑って事でいいのかな」

「そういゆこと、でも場合によっては力になるように言われている。それを判断する権限は与えられてる」

 流石に命令無視はできない。そうすれば本格的に居場所を失う。緊急回避が認められたあの時とは違う。

 本当なら、そちらに血の軛として付き添っていたかった。

 危険から遠ざけようとする彼女の意図だろうと、どことなく察していた。

 

 だからこそ、この報告は、碧姫にとっても都合がよかっただけであり、真に受け止めていない。

 可能性に対処した、どっちに転がってもいいだけである。

 そう言う知らぬの意図はわかるわけでもなく、表面上だけ受け取って。

 

「そういう事なら短い間だと思うけどよろしくね司さん、だっけ」

「……」

 若葉の少年は握手に手を差し出した。

 おそらく同世代だろうという親近感から、とりあえず信頼を示す為にその手を差し出た。

 その手を。

 

 しかし。

ぱしん!

「―――やだ、よく知らない相手に気安く触れようとするなんて正気?」

【スラム育ち】【この糞みたいな世界】

 差し伸べる手を叩いて、すっぱりと断る。

 接触を起点に相手に干渉する、己がそういう手段を感情波及に狂わせるを持っている。

 己が出来る事は相手も出来るかもしれない、彼女は人を信じない。

 人見知りの警戒心に構えている故の、明確な拒絶である。

 

「ん-もー、なんか感じ悪いわねー。怯えた猫みたいにしてさ!」

「うるさい。とにかく慣れ合う気はない、から」

「ま、まぁローズ。気にしてないから」

【ムードメーカー】

 宥める声に、悪びれもせずに、つんとそっぽむく。

 補助団員とはいえ仮にも正規軍の従属とは思えない人見知り具合に困惑しながらも。

 若葉の少年は生来の気質に、まぁ、あるがままに認識したあるがままを飲み込む、そういう人もいるかと受け流した。

 

「そのスタンスで別に構わないが、司といったかそこまでいうなら君は戦えるのだろうな」

 腕を組み、佇んでいた槍使いカルデニアが口を挟む。

 彼女は北部の最前線、ブリューヌにて活動していた熟達の冒険者である。

 問題児と纏めていた経験も、正規軍と雇われて動いた経験も多少はある。

 

「……前衛()があれば」

『モンスターボール』【サイキッカー】【使役闘争士】

 杖を持ち出して。周囲に機械的な球体を浮かべる。

 それは『モンスターボール』と呼ばれる過去の遺産、圧縮空間に使役獣を格納する魔道具である。

 

「割と、できる方だよ。ぼくは」

 そう淡々と宣言した。

 事実、彼女はある程度腕に覚えがある。流れ着く前は流浪に一人で生きて来た。

 腐ったスラムという地の底を這いずって、己の飼い主を自殺に追い込んだ後。

 己の血に価値を見出し利用しようとする連中から身を守る為に、人ならずの逸れ物でつるんだ。

 

 この糞みたいな世界を、今まで何とか生きてこれた。それを担保とする自信である。

 

「そうか、ならこちらも相応に事情を説明する。着いてきて可否はそっちで判断するといいさ」

【ベテラン冒険者】【阿修羅姫】

 その回答に簡単に説明する、彼等の言葉に偽りはない。

 今の所、予定外の心強い味方になるかもしれない。未だ全貌は未知である。

 

 

 話はまとまり、そのしばらく後に。

 彼等はいったん準備に町へと赴いた。

 

 その傍の話。

 

―――『田舎町クラウス:とある場末の酒場』

 

「おい、親父ィ。酒だ酒持ってきてくれ!」

 閑散とした酒場の中、一人の粗野な男が酒を飲んでいた。

 それは戦利品である『魔具』を持ち出して消え、溢れ出た魔物に横矢を入れた罠師の男である。

 

 彼はその時、『上級魔具』を手にして溢れ出る全能感に酔って居た。

 それが盗み出した物であるという負い目も忘れて、手に入れた価値に見合う己になるのだと―――

 『上級魔具』にて紡がれる切っ先を無遠慮に叩きつけていたはずだった。

 

 無謀な一歩を経て、そんな彼がこんな所で燻っているのは、理由がある。

 

『バウンサーグローブ』【滅却師】【観察眼:勇気凛々により無効】

 一射すれば、その威力に狙わずとも雑多な魔物が吹き飛ぶ。

 燻っていた男にとって見合わぬ力に、既に展開していた兵士も己を引き立てる観客にしか見えず、無遠慮に振舞った。

 

 しかし。

 その男にとっての人生の絶頂は長くは続かなかった。

 突如、何か見られている悪寒に襲われたのだ。

 違和感に空を見上げれば、そこにただ一つの瞳があった。

『―――邪魔、黙って見て居ろ』

 気が付けば宙に妖精が、投影されただろう知らぬ誰かの瞳が、己を見下ろしていた。

 

「なん、だ……?」

【妖精術Lv3/5】【精神感応者】【この糞みたいな世界】=【投影・疑似魔眼】(ギフト・ペイン)

 それは、ただ比翼が為に血の軛にならんと、戦場に片隅の一人の逸れの魔術師によるものである。

 陣形を乱す文字通りの横矢を鬱陶しく、だから雑に心を握り泥水を浴びせかける行為である。

 それに発狂しようとも、結果的にその男が命を落とそうとも大して興味はない。

 

「――――――ッ!!」

 それはミミズが背を這いあがる如く不の感情の波及、気が付き魅入り意識合わせた瞬間に浸される。

 酔って麻痺してた恐怖に身がすくんだ。

 それは珍しい精神感応者(サイキッカー)、感情の飛沫を武器とする異能である。

 生来に、臆病である罠師の男の精神はその瞳と共振し、馴染んだ本能が引き吊り出される。

 

【観察眼(恐怖)】【灰の口癖】

 状況が過る、迫っているのは怒涛のモンスター、対して己は孤立の丘陵である。

 例えばあの蟷螂の鎌が掠るだけでどれだけ痛いか、例えばあのデカい蜂の針は当たれば即死だろうか、例えばあの騎兵が削り殺した巨熊にこの弓をもってしても何ができるか。

 

 血の匂い焼け付く草木の匂い、掘り返された錆臭さ。

 暴力に酔って居た罠師の男は場違いな場所に命を置いている事を、やっと自覚した。

 

「ア………ああ?」

【罅瑠璃の心臓】

 認識した瞬間に矢を番えた指が震える。

 血の気が引き―――このままでは誤射する。それが齎す結果に考えが及んだ。

 そう、かつてこの罠師の男は先を考えるだけの頭はあった。臆病故に、周りを察する眼あった。

 だからこそ、己の実力を未来を悲観しての無気力だったのだから。

 

『―――ルン♪』

『カオティックPK』【AIDA感染者】【無貌の知識欲】

 それに対して、頭の中の無遠慮な侵入者が、急かしてがなり立てる。

 "なぜ手を止めるのか、もっと過激に、もっとおかしなことを、と"。

 津波と波のぶつかりの様に、矢を射かけるのはまるで子供が海に石を投げ巻き起こる波紋に遊ぶが如く。

 そんな、無邪気さをもって宿主を煽って楽しんでいたのである。

 

「うるせぇくそじゃりが!射手は前衛がいなきゃなァ?!一射したらすぐ移動して隠れるもんなんだよ!!」

【罠師:弓術の心得】【ハイドアクション】

 恐怖心に、それを無邪気な声を黙らせる。

 必死も必死だ。

 あれだけ気分が良く派手にぶっ放したのだから、目立って蟲畜生が迫ってくるに違いない。

 しかし、酔いが引いた身体はもう、震えて言う事をなかなか聞きやしない。

 

「うわああああああ派手に気分よくうち放ちやがって、誰だよって俺だよ馬鹿野郎が!」

『バウンサーグローブ:滅却師』

 セルフ突っ込み、馬鹿をやらかした自分自身に悪態を付く。

 その脚が気が付けば、その場から転がる様に無様に逃げ出していたのである。

 

 その予測通りに蟲畜生が迫ってくる中、必死に必死に逃げ出した。

 

【罠師】【ハイドアクション】【飛廉脚】

 幸運だったことは手にし適応した力が、間違いなく本物であった事だろう。

 砂に塗れて不格好ながら、もつれる脚に擦り傷塗れになりながらも必死に走り抜けて。

 

 

―――そんな経緯で、やっとの事で町まで逃げ出してきたのだ。

 

 罠師の男は、未だ混乱の中にある町『クラウス』に逃げ帰り、場末の酒場にて自棄に飲み明かしていた。

 ここの真昼間に関わらず雰囲気は昏い。

 人が減り仕事がなくなった者、災害に悲観して末期とぼやく者、彼と同じような怯え竦む冒険者と。

 それぞれの理由で酒を飲み明かし、逃避する者がいた。

 掠め取った憧れに、一時は英雄に成れると思った彼は、そんな淀んだ一部にまた、有り触れた屑になってしまっている。

 

「あいよ全く、つまみもなしにこれで何杯目だ?ゴルはあるんだろうなコーラス」

「うるせえ、黙って持ってくればいいんだよ」

 酒臭い吐息に管を巻く。

「……なっさけねぇな本当によ。この手に馴染むのは弓じゃなくてこの酒だ、くは、ははは」

【灰の口癖】

 まるで今までの自分と変わらない。

 まずい酒、何よりも安い酒、底辺の冒険者の様に消費されるためだけの酒である。

 ただ酔う為だけのこれが、擦り剥けた手に一番手に馴染むさまに笑う。

 

 かつて彼を満たし動かしていた全能感は、嘘のように抜けてしまっていた。

 確かに頭の中の侵入者は、変わらず不貞腐れて面白い事をと騒ぎ立て、実際に高揚感を煽っている。

 しかし、普段に漬かっているロールーチン、自身を慰める悪癖によっていつも通りに酒に腐っているのだ。

 

 濁った水に写る、冴えない影を見て更に気が沈み。

 テーブルに運ばれた追加注文された酒をまた一気に煽ろうとして。

 偶然、酒場の外に目が向いた。

 そこに見たのは少し前に、見覚えのある顔だった。

 

「……ん、あいつ等は」

【ハイドアクション】【観察眼】

 そこに見たのは調査依頼で同行した冒険者の徒党(パーティ)の一部である。

 咄嗟にフードを深く被って、顔を隠した。

 負い目がある己は彼等にとって盗人あり、逃亡者であるはずだった。まともに顔を併せられる訳もない。

 

「あの森から無事に戻って来てやがったか、流石、俺と違って立派な冒険者様だ」

 皮肉めいた愚痴が口を突いて出る。

 酒を再び口をつけ、しかし、どうしても気になってしまいその眼は追ってしまう。

 どうやら物資を手分けして買い足しているようだ。

 今は開いてる商店も少ない。広間に集まっていた彼等は分かれて色々巡っているようである。

 

「………親父、勘定を頼む」

「おうどうしたんだ。珍しいその顔だと陽が沈むまで酒浸りかと思ってたが」

「ふん、色々あるんだよ」

【AIDA感染者:勇気凛々】

 途端に火が付く嫉妬心、全能感からの挫折もあって余計にそれを燃え立たせる。

 頭の中の侵入者も無邪気に興味を向けて騒ぎ立てる。

 それは気の迷いに己がそうありたいと、そうあれたら"格■が良い"とそう在りたいと不覚にも思ってしまった相手だった。

 

 燃えつく様に腹の内が痛む、無遠慮な侵入者に煽られる臓腑を焼く様な嫉妬心の音が聞こえる。

 一度見てしまった火に静観に腐ることはできない。

 それに導かれる儘、気も漫ろに酒場を出て、遠くから様子を窺う。

 

「―――」

【罅瑠璃の心臓】【ハイドアクション】

 千鳥足に後を着ける。幸いにして彼は元は探偵の真似事の身辺調査をして、日銭を稼いでいた冒険者だ。

 気配を群衆に紛れさせて、その後をつけ回して……。

 

【観察眼】

 こんなご時世、物価も上がってる中で物資を買い漁る理由は、なぜだろうか。

 街から逃げ出す金持ちの依頼の護衛かもしれない。それとも町に引き籠って時が過ぎ去るまで待つ為か。

 それとも底辺冒険者の己が、思いつかないような何かか。

 着け回してなにがしたいかもわからぬまま。

 

 そうやってつけていた頃、町の広間に辿り着いたころ―――

「よう、そんなこそこそと何してるんだ酒臭いの?」

「!」

【記憶喪失】【常時破顔】【鑑■眼(真偽)】

 突然、背後から声を掛けられた。

 心臓が跳ねる、背後に振り替えれば目を爛々と輝かせる少女が見据えて話しかけている。

 

(何だってんだ…?!こんな痴女に心当たり何てねぇぞ)

 色抜けた長い碧髪を垂れ流して、何処でもいる様な少し幼く小柄な体格をした村娘の如く少女である。

 素朴な容姿に見合わぬ、その圧倒的な眼力(プレッシャー)である。

 

「お前もあいつに用があるのか?ならこそこそしてないで堂々と話しかければいいじゃないか」

「な、なんでもねえよ。どこか行け」

「着け回して何もない訳ないだろう。なに、案ずるより産むが易しだ。時間は貴重だぞ若人」

 その深淵の如く瞳に強く、見据えられる。

 こちらの拒絶など露とも知らずに、一方的に言葉を浴びせかけてくる知りもしない少女にたじろいだ。

 善意の押し付けめいたその強引さに困惑するしかない。

 

「どれ、私がきっかけになってやろう遠慮するな、おーい"双剣"の!!」

「ちょ、おま、このガキ……っ!」

 こちらの負い目など暗く淀む焼け付く嫉妬など露知らずに、無遠慮に物事を進めていく。

 

 その声に気が付いたか、若葉の双剣士がこちらに振り向いて。

 

「……この声と輪郭、コーラスさんと、?なんだか久しぶりな変な気がするね」

「よう!なんだ。目が悪いのか"双剣"の」

「そう、内出血が酷いらしくて、大丈夫ちょっと無理すれば輪郭は見えるから」 

【腕輪の担い手】【盲目】【電制感覚】

 件の少年はまるで、知古である様に修羅場をくぐった連帯感のままの軽い距離関係で。

 焦点が合わない目線を向けて、軽く調子で少し笑ってそのまま返す。

 

 そして、罠師の方向を見つめて。

「それ調査で見つけた籠手、使えたんだ」

「お、おぅ」

 罠師の男は言い淀む。

 この『バウンサーグローブ』は持ち出したものだ盗み出したと言っていい。

 だから、彼は盗人だ。茹っていた頭でも負い目はある、心臓が動悸して止まらない。

 

 それを察してか、若葉の少年は言葉を重ねる。

 

「ああ勝手に持ちだした件は気にしないで、緊急事態だったしこっちで貴方への調査依頼の報酬変わりって話はついてる」

 元々、『上級魔具』とは言え、あんな経緯で見つけ出した物である。

 肉体改造の伴うそれはだからこそ、安定した冒険者なら由来が不明な物を安易に使おうとは思わない。

 

「どういう、ことだよ」

「自分たちの間に弓を専門にする冒険者はいなかった。使うにしても怖いものだし元々調査以外は浮いていたって事」

 誰も欲する者がいなければ最悪、ギルドに提出して小金に変わっていただろう。

 故障してあるいは適合に失敗して、得ていたものものを喪うはつまらない。

 そう言う苦い経験が体質改造によって失った、彼等の仲間の先達に一人いたのだからなおさらだろう。

 

「貴方は撃つべき時を判断できる冒険者だから」

 当たり前の様に垂れ流される、彼を焚きつけた言葉の片鱗である。

 

「それを持って飛び出して魔物と戦うのは選択肢としてはあり、扱って無事だったんだからそれ以上いう事はないよ。もしそれで死んだら馬鹿だけどさ」

 そう言って笑って運が良かったと、よかったと続けて締める。

 罠師の男の、その後の振る舞いを、この若葉の少年は知らない。

 それだけ言い放って、この話は終わりだと、取るに足りない如く切り上げてしまう。

 

 安堵の反面、彼が切実に求めたチャンスを、まるで取るに足らないと言い捨てられた様に見当違いな感情が浮き上がって。

 

「そうか、っ、気にもかけやしねぇと」

 その言葉につい、籠手から力を籠める。

『―――キュン―――♪』

【AIDA感染者:勇気凛々】【無謀の知識欲】

 頭の中のそれは、価値あるものだと定めて知りたいと無謀の知識欲を向ける。

 短絡的に面白い事をと、変わらず男の嫉妬心を煽り続けて。

 寄生者に煽られる儘、己を中心に閉じた世界に、勝手を世界に喚き散らす観測される聖錬を騒がせる白濁者と同じように。

 嫉妬心のまま、懐のナイフを握りしめて。

 

 なお。

 

(―――くそ俺は、これをチャンスだと思ったんだ)

【罅瑠璃の心臓】【灰の口癖】

 引き金を引ききれない。全能感は既にあの眩暈眼に一度折れて、酒に腐っている。

 心の罅割れた男には、勇気が足りていなかった。

 

(俺にも"特別"があればきっと吟遊詩人の詩の様に、人生がこれから始まるんだと)

 けど、結局逃げ出しちまったんだ。

 自尊心に、その言葉を噛み殺して、己が一瞬だけでもこう有りたいと想った相手を直視する。

 

「そう言えば"双剣"の、保存食に消耗品ばかりそんなに集めて何の準備をしてるんだお前は」

「んー、なんというか言ってしまえば簡単な話なんだけど――― 一つ、心当たりがあるんだ。」

【鑑定眼・真贋】

 そんな曖昧な感情のまま、どうやら知古らしいその二人の会話を傍に聞いた。

 翡翠の少女は爛々と眼を輝かせて興味津々に食い入るように、距離感近くぐいぐいと迫る。

 

 

「この『異変』の関係するふざけた招待状をもらってる。嘘か真か、確かめる価値はあると思ってる」

「ほうほう!それは楽しそうだな、流石戦ばかりといった所か訳もないが心が躍るな」

 若葉の双剣士、カイトは簡単に言葉を纏めて応えた。

 突拍子もない話である、詳細は語るべくもない。冗談めかして誤魔化したのだが。

 嘘八丁に思える話に予想外に、その色抜けた少女は喰い付いてきた。

 

「なんで貴方がそんなに楽しそうなんですか」

「楽しい物だろうさ。戦は良いぞ極限状況の中にこそ真の価値をはよく現れるものだろう?」

【光■渇姫】【狂羅輪廻】

 見開いた翡翠の眼、歪んだ笑みのまま、両腕を広げて身に染みついた持論を謳う。

 そのまま気狂いの笑み、その腕を最低限治療を施された、飛び出した彼女は地響きに臆さぬまま。

 戦に輝く星を求めて、溢れ出す魔物の群れに渦中に、本能のまま(魔物を蹴散らしながら)眼を輝かせて飛び込んだキチガイである。

 

「『紅衣の騎士団』といったか、アレはよく戦っていたな。特記戦力は乏しいが兵団をよく運用していた。色彩に矛先を示して、騎兵を運用した金床戦術は練度が良く―――」

「ストップストップ、わかったから…っ!まったくもう、怪我もして記憶もないのにそんな事ばっかしてると死んじゃうよ」

 軍隊にとって士気はそのまま体力といっていいと。それを煽る手腕に。

 色抜けた少女は熱心のファンの如く止まらぬままに、垂れ流した。

 若葉の双剣士は迫力に圧されて、ぐいぐいと迫るその頭を押さえ付けてそれを静止した。

 

(なんだこいつ……っ、言ってることは滅茶苦茶だが妙に響きやがる)

【観察眼】【罅瑠璃の心臓】

 蚊帳の外の罠師の男は、その気狂いの類に困惑する。

 彼は、軽い戦狂いの類すら見たことがない、純粋すぎる異物感、理解できない圧し潰されるほどのプレッシャー畏怖である。

 底なし沼と評されるようなある種の引力と呼べるそれを、彼は知らない。

 

 心臓が竦みあがる思いだ。宙に見たあの眼を思い出させて……。

 

「僕を探してたみたいだけど何か用があったんですか」

「あぁそうだ。忘れるとこだった。とにかく先立つ物がなくてな"双剣"の、金貸してくれ!!」

「えぇ……?」

 ずこぉぉ!

 故に狂人の先に語った勢いのまま堂々とした俗な金の無心に、面を喰らう。

 困惑の二人を見知らず、色抜けた少女は言葉を続ける。

 

「ギルドでなこれから冒険者の登録しても、"Dランク"だからと説明受けてな」

「信用できない奴に今のご時世に仕事はないし頼るべき知古もなし、ほとほと途方に暮れていたところにお前を見つけてな!」

「あぁ、実力が確かでも推薦もなければそうか、もう少し癒し手の所で大人しくしていれば保護でもしてもらえたと思うのに」

「ヤバいとは思ったが興奮を抑えられなかった。外がこんなお祭り騒ぎ嵐の前には血が騒ぐものだろう?」

「これをお祭り騒ぎというのは君だけだと思うよ」

 くるくると回りながら、反省はしていると言いながら欲望を抑えられなかったと宣った。

 軽く聞こえるが、人という社会に寄る生き物にとって、金がないのは首がないのと同じことである。

 街という人類の築き上げた楽園も、居場所のない余所者にも文無しにも優しくはない。

 大人しく治療を受けて居れば保護対象として扱われただろうが、腕の治療を受け早々に喧騒に惹かれて飛び出したのがこの輝き機関車である。

 

「それにまともな服が欲しい、久しぶりに寝床にお風呂も入りたい!」

「んー、女の子だものね。森で助けてもらったから別に構わないけど今手持ちどれくらいあったかな」

 その言葉に若葉の少年は懐から財布を取り出して漁る。

 中堅の冒険者らしく、多少は手持ちがあるようだったが、普段にそんな大金を持ち歩いていない。

 だから。

 

「うん、これくらいあれば少しの間はなんとかなると思う。返しは出世払いでいいよ」

「おお、恩に着る"双剣"の!金がないとこうも動きずらいとは思わなかった」

 守銭奴の気質からしばらく考えこんで、そんなに手持ちがないと財布ごとそのまま渡した。

 出世払いは方便である。冒険者同士の金のトラブルは怖い。

 石槌との交戦、絶体絶命の中で確かに助けられた。

 だから、もうあげたつもりで、済ませてしまうつもりだった。

 

「で、これからどうするつもりなの」

「記憶が曖昧だが、使命がある事は覚えている。とにかく本能任せで戦に身を投じて戻らないならば、別の方法でそれを探さねば」

「そう、頑張って。貴方なら大丈夫だろうけど無理はしないで、まだ片腕が治ってないんだから」

【記憶喪失】

 身から湧き出る衝動に身を任せて、しかし魂に従っても戻らない。

 なら、ゆっくりでも基盤を作って探していくほかないだろうと少女は言い。

 

「じゃあ、またな双剣の!」

「じゃあね。次会えるかわからないけどさ」

 嵐の様に去っていく様を、若葉の少年が見送る。

 軽いものである。

 彼には彼女ならば後ろ盾なくても、なんか麗しく生きていくのだろうという確信もあった。

 

 しかし去る間際に、蚊帳の外だった罠師の男に通りかかり。

 

「―――あぁそうだ。気張ると良いその羨み妬みは力になるぞ、ここが分かれ道だぞなあ酒臭いの?」

「っ!」

【光輝■姫】

 すれ違い様に一言投げかけていった。

 背筋が凍る。

 まるで、隠しておきたい内心を、最後に無遠慮に見通す様な期待の刃である。

 色抜けた少女にとっては、現実の焦がれるそういう目は幾らでも見てきた、彼女の本能が憶えている。

 

 少女は肯定する。

 人は人故に素晴らしい。

 その本能に染みついた原初の想いに突き動かされる儘に、分け隔てなく期待を込めて。

 

 遭遇に対して、大した意味はない。

 多少の言葉を、どちらもその内側を明かさない、袖すれ違う程度の事の話である。

 ただ一人の男の生き方という、そんな些事、異変の顛末でしかない事だ。

 

「―――おいなぁ、その心当たりってのは確かなのか」

「ン?」

【AIDA感染者:勇気凛々】【罅瑠璃の心臓】

 死は怖い。しかし何にも成れず怠惰に酒に腐る虚無も実感している。

 その言葉に、背を押された訳ではない。ただ腐り閉じた世界にケリを付けたい。

 彼の感情は現在、無遠慮な同居人に搔き乱されている。

 

(ただ……、このまま何にも成れずにただ死ぬだけなら)

【英雄■望】

 "憧れ"は男の眼には悠然としてるように映る。

―――仮にもしもの話だが。

 これを己の手で終わらせたら、この気分は少しは晴れるだろうか。

 やはり焼け付く様に羨ましい、嫉妬心が臓腑を焼く、拙い演技にそれを隠して。

 それが決定的に男にとって、道を踏み外してしまうとしても……。

 

 




巻いていきたいのに、なんでこんな所に文字数使うの……?
A.文章カラテが足りない。

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