ポンコツ世界異聞=【終幕を切り刻む者達《ハッカーズ》】   作:きちきちきち

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楽園【増殖の世界樹】

 そして、一方。

 

―――渓谷を越え拡がる平原。

 そして、その後も幾度も遭遇したモンスターとの交戦を交えながら。

 冒険者徒党(パーティ)は、接敵を避けえないほど反乱した蟲モドキを雑に斬り捨てて。

 先へ先へと進んでいく。

 

【レンジャー】【■炎】・【使役闘争士】【精霊術・水】(メロー・ルフ)・【道具知識】【精霊術師 風】(クラケー・クー)

 現在彼らの徒党(パーティ)は、普段不足している探査能力が『使役闘争士』の助っ人によって補われ。

 環境に働きかけるのに長ける『精霊術師』が3人もいる。

 時に火気で燻し匂いを馴染ませ、風気にて包み隠し、水気と虚像に誤魔化しながら。

 この暴走にて荒れた平地を、最低限の少数を有利な局面の戦闘にて、ここまでたどり着く事ができたのである。

 

「ここが目的の座標だけど……」

「んー何にもないねー。見渡す限りの小丘っ!それとほぼ崩れかけの『魔導文明』遺跡っ!」

 一見、そこには何もなかった。

 崩れかけた遺跡は、機械質な見た目から『魔導文明』産のものであると推測されるだろう。

 それは機能しておらず風化によりボロボロだった、何か特別なものとは思えない。

 人類の魔導が虚空の空までへと手を伸ばしかけた古き時代の話である。

 

「『魔導文明』の遺物、ダミー、かしらね。こんなもの探せば幾らかはあるわ」

「"ぽち"、変なものがないか探せる?」

『ばうっ』

【ハイエナの嗅覚】

 使役闘争士の指示にて鬚犬が、張り切って大地に鼻をつけ周囲を嗅ぎまわって探した。

 冒険者たちも同時に、何か手掛かりがないか探す、探知能力でいえば野生の嗅覚が一番だろう。

 しかし、しばらくして力なく戻って一吠えした。

 

 尻尾をぺたんとしょぼんとした仕草、どうやら何も見つからなかったらしい。

 それを使役者である男装の術師が、労わりながら。

 男装少女は埒のあかない様子に、ジト目で訝しげに見てきた。

 

「……カイト、どういう事無駄足、謀れた?」

「それはない魔女は確かにいる。一介の冒険者なんかを引っかけて得があると思えない」

 その当たりの強さに苦笑いしながら、こういう時に頼りになる器用な半身を呼ぶ。

 

 若葉の双剣士の呼びかけに、炎が迸るその中から輪郭を持って。

 声に喚ばれて顕れるのは、宙に儚く燃えて火の粉に薄紅の精人、リコリスである。

 

「"リコ"何かわからない?」

「……んー」

【憑依具】【円環精霊】【アナライズ】

 

 

―――ぽーん―――

 

「少し、待ってて」

【人見知り】

 なんか増えてる新顔に距離を取り、陰に隠れつつも。

 儚紅の少女はその華奢な手を燃やして、その指が疑似的に空を叩いた。

 普段は引きこもっているマナの満ちた金魚鉢に生きる彼女が、そのマナの淵に触れて手繰り得る。

 

「設定"金属探査"、発信媒体を代用(エミュレート)、シグナルをもとに人工物をサーチ」

【円環魔術】【タッピングエア】【ハッキング】

 取り巻く紋章、数式の入力装置、疑似キーボードを周囲に展開する。

 宙をたたいてマナに投影、周囲を疑似的に反響にてアクティブソナーに探る。

 

 これが自然発生するはずのない『円環精霊』という存在。

 マナの世界にて同化する化身でなく、マナにより実在から定義する異形の在り方である。

 

 そして程なくして。

 

 

「―――電波反応あり。ついてきて、丘下に」

 宿主へとふわふわと近寄って、囁く小さな声に誇らしげに告げた。

 そして指さして示した。

 

「ん、そこに地下空間がある、入り口が偽装されてる」

「ありがと、リコ」

「ん―――」

 何処か褒められたそうな雰囲気を察して、寄ってきた小さな頭を撫でる。

 心を許した相手に儚紅の少女はそういう反応を見せるようになってきた。慣れというものだろう。

 元々小動物めいた情動の幼子である。

 

 死という静寂を恐れ、無為に無意味に、時間を過ごしてきたいと思って過ごしていた壊れた心は。

 自身の色が周りに馴染んで、周囲の目線が少しずつ癒していっている。

 視線を感じる、体温を感じる。頼まれた、願われた。それに高揚する人好きのサガである。

 

 そして、宿主の手が頭に触れて実感し、そのままに空に溶けてしまう。

 

「ふおおおおお!本当だすごーい、よく隠されてるけど怪しい淵がある!まるで秘密基地だぁ♪」

「……なんでも、楽しそうでいいなオメェはよ」

「そりゃそうだよ!こんなの用意できるのは遺跡か、どっかの秘密結社かロマン溢れる話だからね☆」

【理性蒸発】

 白耳の魔術師は未知が大好物である。

 皮肉めいた言葉に気が付きもせず、そして白耳帽子の魔術師は目を輝かして、期待に胸を躍らせてる。

 

 

「閉じてるんじゃ仕方ないわねー。じゃあ、扉ぶっ飛ばして中はいる?」

「よしやっちゃおうか、呼びつけといて厳重に扉に鍵占めてるあっちに問題ある。司君、なんか火薬とか大魔法とか手段ある?」

「無理、ない。乱暴なのは冒険者(そっち)の仕事でしょ」

 かたや、傍に物騒な会話を繰り広げていた。

 彼らの事情は割と切迫して急いでいる。

 仮にも呼びつけておいて、挨拶もなしの無礼な相手の都合に合わせる気などない。

 

 よって、手早く済ませたい。

 今は有事だ仮につまらない事であれば、次にやるべきことなど幾らでもあるのだから。

 

「じゃあいっくわよー!!」

【重剣士】【錬気法:マッスルベアー】【天性の肉体】

 重剣士ローズが、大剣を振り上げて呼吸にマナを取り込みその生命力を循環させる。

「せーの……!」

【闘気剣:オーバードライブ】【全力攻撃】

 生命力を扱う者の流儀その初歩、竜鱗大剣に宿し爆発力へと変えてぶっ放す。

 彼らの徒党(パーティ)における『腕輪』を除いた最大火力である。 

 

「これで吹っ飛べ"オーバード"……っ!!」

『―――ピー、ガガガ、チョット!マッテ!!』

 その物騒な声に反応したのか、閉鎖空間に周囲に似合わぬ抑揚のない機械音声が響き渡る。

 何処か壊れた様子に、その音調を外しながら不気味な音を鳴らしている。

 

「困るヨォ、大事な住処を壊サレチャ、直す当てモないんダカラ』

「……やっと反応があった。遅い、ポンコツなの」

 相手の姿は見えない。遠隔で話しかけているのか、元々そういう機構なのかは検討が付かないが。

 どうにも調子の外れる陽気な人工音声である。

 

 やっと、反応があった事で、彼らは構えを解いて虚空に声を返す。

 

「初めまして、僕らは"ヘルバ"って名乗った魔術師に招かれてここにいる。話が分かるなら取り次いでもらいたいんだけど」

『ヘー、ヘルバの客クサンカァ、ナマモノトハ珍シイ事モアルモンダネー』

『ドウスル?ドウスル?』

【ジャンクファーマー】

 他人事のように、何処か間の抜けた様子で人工音声がざわめく。

 背後で別の機械音声が、話し合うようにがやつくのも耳に入った。

 

 それらは何処か、骨のない道化の様な印象を受けるだろう。

 

「マー、イッカ。ヘルバノ知り合いナラ通してモ、此処ハ掃溜め壊レタ道具達のマヨイガ」

 重厚なギアと、空転する拍子抜けな案内が響き渡る。

 

 そして軋み上げる鈍き音と供に、偽装された年季の入った扉がゆっくりゆっくりと開きいった。

 

 

 

 

ずぅぅん!!

 

 

 

 

【ネットスラム】

 

 

 

「―――っこれは」

「これは、またすごいものが出たな」

「うあぁぁ、すっごーい☆かっこいー!見てみてこれこんなギチギチに詰められた機械遺跡なんて初めて見るよ。もとからあったものを拡張して使っているのかな」

 思わず息をのむ、目に飛び込むのは絡まるように伸びたパイプと機械の群れ、歯車のきしむ音である。

 拡がる濃厚な錆臭さ、それでいて整然とは程遠いと感じさせる乱雑な組み方(カオス)

 今まで見たどれとも規模が異なる、未だ稼働する太古の機械遺跡だった。

 

「―――ぴーががが、そう!ここはネットスラム!棄てられ放浪者達の楽園へようこそ☆楽園にようこそ☆」

 そして、来訪者の反応に気分を良くしたか後の同じフレーズだけを繰り返し続ける。

 ここは貧民窟(スラム)と、集められた者たちが自然に名付けた。

 シグナルの回路(ココロ)と油の血潮が流れた、縁なき道具(もの)拾い上げられた放浪者達の、安息地(らくえん)である。

 そのうちから何も生み出せない、放浪者、空洞の自律たちの集まりである。

 

『―――"ヘルバ"はイツモ通り奥の方にイルカらネー。誘導灯の通りに行けバキット会エルよ』

「そっかー、どうもありがとねー!」

【理性蒸発】【陽気の嗅覚】

 白耳の魔術師、"ミストラル"が機械音声の先に無邪気に手を振って。

 彼らが徒党は、次々と見えているほの暗い照明に導かれて進んでいくのである。

 

 その不気味な廊下を進みながら、少し内緒話をする。

「出迎えの襲撃はなし、か」

「本拠地に招いて身構えた割には緩い。君の言う、"ヘルバ"という魔女は何考えているのかしらね」

「わからない。でも何か知ってる、この『腕輪』についても、きっと何か」

「へっ、そうだといいがな。そもそも都合よく災害をどうにかできる手段があるっていうのが眉唾だぜ」

 しかし、それを確かめにここにきた。

 魔女が語る『腕輪の担い手』という単語、その意味について。

 『死神』と同類、猛威を振るう蛇、魔女が『増殖』(メイガス)と呼んだその円環を断つ方法について。

 何も知らないままでいられないのだから、魔女の真意を確かめるのだ。 

 目に入るのは古い、古い、壊れたものの集合体。

 しばらく歩いてたところに、やがて何処か広い空間へと出るだろう。

 

 

 

―――そこで目にしたものは。

 

 

 ディスプレイを頭部に、意味不明な言語を垂れ流す人型人形(ヒューマロイド)が歩き回っていた。

 

 装甲が剝げおちまるで斑の様に、時に規格外を取り付けた機械が座り込んでいた。

 

 ひたすらに、誰も使わぬ道具を作り続ける機械があった。

 

 意味不明な言語をつぶやきながら、周囲に電気信号を振りまく雑な精霊(電波)が漂っていた。

 

 繰り返し繰り返し同じ行動を繰り返す、進みもしない。

 機械仕掛けおんなじループを生きる。

 珍しいはずの来訪者に、目線さえ向けない人型さえ多くあった。一言で評すれば退廃的の極み、である。

 

「―――おい、ゾンビみてぇな連中ばっかだな気味が悪いぜ」

「ふむ、まるで実験場みたいな印象を受けるな。こんな所に住んでるなんて、ここの主とは相当変人と見受けられる」

 先達の冒険者の二人が率直な感想を漏らした。

 どれもこれも正規品とは思えない、劣化して歪な拡張を施されているのが素人目にもわかるのだから。

 『不気味な谷』と呼ばれるそれとは、別方向に嫌悪感を彼らに与えるだろう。

 

「おほー☆凄い♪」

 しかし、やはりというべきか。

 そんな空気など知らぬ、読まぬ、顧みぬとばかりに吹き飛ばすのが一名。

 

「見てみて機巧都市"シルト"のうわさだけ聞いた試作品とか、こっちは『魔導文明』のマイナーモデル!!しかも結構どれも改造されてるね♪超レアものだよ―!」

「おい、落ち着けよ理性蒸発女」

【レアハンター】【アイテム知識】

 ミストラルが目をキラキラさせて、珍しい物に目がない歓声を上げて駆け出そうとし。

 黒剣士のマーローに首根っこ掴まれて止められる。

 それでも彼女は指さして、袖を引っ張って童子の様にその感動を興奮を主張していく。

 

 珍しいものが三度の飯をより好きな彼女にとって、目の前の光景は宝の山に等しいのである。

 

 それをさておいて。

 

 しばらくそうして周りを観察していると。

 ほの暗い暗闇から、杖を突き駆動音を響かせて歪な機械人形が現れ歩み寄る。

 

「―――よく来んさった若ウドよ、ワシはここの纏め役をしておる『タロタロガ』と申すものじゃ」

【管制■I】【リペアモデル;自己改造】【老器の集約】

 しっかりした話方と反比例してそれは、醜かった。

 まず両足が不揃いな部品に接合し、それを突出して大きな頭はバランスすら怪しい。

 最新型機巧の姿に見られる整然とした部品に組み上げられた機械質な美しさなど、片隅にも感じられない異様、まるで老人をわざわざ象っているその姿である。

 

「さて皆様方、遥々お出でなさってさぞお疲れじゃろう」

 しかしどこか柔らかい。明らかに周囲の退廃とは異質な機械人形である。

 

「新鮮なオイルでも刺しては如何じゃろうか、ここでは貴重な天然油じゃよ」

「んーなこと言われても困るわおじいちゃん。あたしらそんなのもらってどうしろっていうのよ」

【ムードメーカー】

 客人をもてなす様な申し出、しかしそれはどこかずれていた。

 重剣士のローズは陽気に一種の冗談と受け取って、軽く流して答えた。

 

「はっはっは、それはそれは失礼しもうした。わし等には、ナマモノの皆様方の持て成しなど、とうに忘れてしまってのぅ」

「え、冗談じゃなくてマジで言ってた感じなん、あたし等以外の人間はここにはいないの?」

「そうじゃなぁ、我らが"魔女"は基本栄養剤の注入で済ましてしまうでな。データとして知っていても使わなければ、時折ぼけてしまいますな」

【自己定義者】(アンサー)

 しわがれた機械音声に、何処かしょうがない事と陽気に笑う。

 やはり、不格好な機械の爺は人間臭さを感じさせた。

 ここで彷徨っている大半それとは明らかに、話が通じるものである。

 

 機械の爺の、『魔女』という言葉を聞いて反応して。

「そう、魔女に僕らは招かれて来た。気持ちはありがたいけど、急いでいるから早くヘルバに合わせてほしいんだ」

「ふぅむ、そうかのう。では少しお待ちくだされ」

 そういって機械の爺は、駆動音のうなりを上げ……。

 

 

「"ヘルバ"から多少話は聞いております。さぁさご案内しましょう」

「ん、ありがとう」

 すんなり、拍子抜けするくらいに話はすんなり通った。

 カツンカツンと杖を突いて進む、機械の爺は進んでいき徒党はその後に続いていく。

 

 そして歩きながら、歩きながら。

 

「ねぇお爺ちゃん。少し、聞いていいかしら」

「ほほっ、この爺に応えられることであれば」

 感性に生きる重剣士の彼女が、気にかかったことを、先を行く機械の爺に問いかけた。

 

「ちょっと気になってさなーんで、"ヘルバ"はこんなところを『楽園』と呼んでるのさ??」

【ムードメーカー】

 その言葉は純粋な疑問だった、言葉にはその人となりが滲みだすだろう。

 感覚に生きる彼女は、単極に行ってローズは不信感を抱いていた。

 もしこの退廃の様を、『楽園』と呼ぶような人間は信用できないと単純に思ったのだ。

 

「うん。詰め込めるだけ詰め込んだ、廃棄場にも見える。ここを楽園と呼んでるの」

 そのなにげない問いかけに、若葉の双剣士も同意して耳を澄ませる。

 今のところ彼らのサイドから見れば、うさん臭さの先入観しかないその魔女について。

 

 にじみ出た神出鬼没の魔女の謎の一欠けら、ただ知りたくて。

 

 その問いに対して。

 

「そうですなぁここにあるワシらは、それぞれ経緯は違えど共通する事がありましてのぅ」

「共通、点」

 その顎を撫で、様になるようにゆっくりと。

 『タロタロガ』、纏め役と名乗った機械の翁(おきな)は語る。

 

「―――ここに集められたのは全て失敗作や廃棄品や故障品(ジャンク)。壊れた道具故にこの世界に故郷はなく居場所もなく……」

 例えば、"魔導文明"に生まれて、埋もれ時代に取り残された"未完成品"

 例えば、現代に"魔導"を再現しようと試され、やはり未熟な技術に打ち捨てられた"試作品"。

 例えば、マナに溶けた雑音が集まり、乱雑な思考をまき散らすだけの"雑精霊"の群れ。

 

 思考回路は未完。そもそも在るように設計されたかも不定。

 血の繋がりや遺伝子といった、『存在意義』をもとから持たず放浪者達である。

 

「ああ、魔女は知的好奇心から放浪者に居場所を作ったのじゃ。無作為とはいえただ思考実験を繰り返す検体達、―――ある意味の同胞――――それが害されないように、そして魔女が結果を観察する箱庭として」

「集めてる、か。こんなに規模を意図的に」

「えぇ、それと同時に同情も抱いておるのでしょう。"魔女"は片付け下手でもありますからなぁ」

 ふと漏れた呟きが挟まる。

 それはきっとこの途方のない規模への呆れもあるが、何かしらの執念を感じ取ってのため息でもある。

 環境に育ち、常識に根付き、日々の忙しさに忙殺される彼らにはよくわからない世界だ。

 

 しわがれた機械音声がこう締めた。

 

「故にワシ等はこう答えるとしよう。だからこそ『楽園』と呼ぶんじゃよ。故郷がない者たち、居場所がない者たち―――未完成でも壊れていても必要とされないモノでも、ただ侵されないだけの安息地、それがここ『ネットスラム』じゃよ」

「ふーん、よくわかんない。なんだか難しい話ねぇ」

 重剣士、ローズは相槌をうち、何処か思考放棄して答えた。

 

「そう、なんですか。ありがとう。少しは、分かった気がする」

「ほっほ、それはそれはようございました」

【田舎育ち】

 若葉の双剣士は、若葉の双剣士は認識をとりあえず飲み込んでから、考える癖、多少の得心に頷いた。

 すべてを納得できたわけではないが、ただ一つ故郷という言葉に共感を感じた。

 機械の世界なんかわからない。大概のそれは道具として目的をもって創られるだろう。

 

 故に、必要とされてなければ、その意義を失う。

 それはきっと圧倒的孤独だろう。

 この世界において、機械の類がマナによって意志を持つ、そんな例も珍しくはない。 

 

 だがそれでもおぼろげに。

 己に顧みて故郷も、血のつながりも、目的さえも消し去って当て嵌めて。

 単純に害されないからと、ただ生きていくのは嫌だなと思った。

 

「ふーん」 

 命令すらなく、機械仕掛け、同じループをひたすらに生きる。

 

「多分純粋で、残酷な人なんだねー。その"ヘルバ"って人は、棄てられた道具を集めても使われないなら一緒だと思うなー。それで何かが変わると思ってるのかなー」

【陽気の嗅覚】【理性蒸発】

 思い付きに、ミストラルが口をはさみ、カイトも内心それに同意する。

 あり続けることは、必ずしも救いになりえない。

 そんな悪夢が永遠に続くのなら、"終わり"も、ある種の救いになりえるだろうにと一人考える。

 

 

「っち、どうやらおしゃべりはここまでの様だぞ」

「―――んっ!」

『黒蜘蛛の鎧:生体感知』【孤独者の流儀】【迎撃態勢】

 先達たる冒険者、構えた動作に。

 意図を察する。その事実に、すでに熟達の域にある冒険者達は一斉に得物に手をかけ構える。

 

「―――あら以外、気づかれたかしら。どうやらこの『迷彩』にも改善点があるかしら」

【闇の女王】【純粋理性】【電子魔術師】(テクノマンサー):光学ベクトル操作】

 女の声響いた、幻影に問いかけられ、それだけ聞き覚えのあるそれ。

 目を向ければ、空中に独特のヘッドバイザーと杖を構えた白装束の魔女がいた。

 

「……、鍵式。箱ごと別の形に変換して再解凍を実行―――」

『魔動機』【電子魔術:鍵式秘数(疑似AMF)】【袖幕の暗躍者】【機巧知識】

 『腕輪の担い手』は知覚する、何処か息苦しい。

 魔女の手により、マナの流れも制限されているようだ。

 対して儚紅の少女は、反応して一人でに姿顕わし、拙い方法で総当たりで解こうとする。

 

 しかし、その空間はなかなか解けない。

 

「あら、健気。自律判断はできるみたいね。確かに原始的だけどその方法は有効よ」

「リコ、いい。隠れてて」

 冒険者という荒くれ者を自身のテリトリーに招く為には、当然といえば当然の処置だった。

 せめて直接、姿を現したのは魔女なりの誠意なのだろうか、栓のないことが頭をよぎる。

 

「おや、幻影(ホログラム)でなく自分から出向くなどどういう風の吹き回しで?」 

「私が動くのはただ好奇心に導かれてのこと、案内ご苦労だわ"タロタロガ"。あとは下がっていなさい。万が一でも巻き込まれたくはないでしょう?」

「ほうほう、剣呑剣呑。ではくれぐれも穏便に……」

 そう言って機械仕掛けの爺は、ジャンクの山の何処かへと歩いて消えてった。

 

 

(……あれが、アンタが言う"魔女"って奴?)

(うん、あのうさん臭さは間違いない)

(ふーん、めんどくさそうなタイプ、どうすんの対処は任せた)

 男装少女の耳打ちに応える。

 目配せすれば、単純な構造の魔動機(ドゥーム)が多数配置させていることが分かるだろう。

 単純になんらかの手段で姿を隠していたか、直前まで、察知できなかった。

 

「にしても、随分物々しい警戒具合ね。安心しなさい坊や達を傷つけたりしないわ」

「ごめん。招待状が不躾だったから、ね」

「ふふ本当はもっと場を整えてからと思っていたのですけど。そうも言っていられなった事は詫びましょう」

 おそらく秘密を握る魔女である。

 値踏みするように眺める視線に居心地の悪さを感じながら、距離を測り話を続けた。

 

 そう時間は少ない、本題に入る。

 

「"タロタロガ"のお爺さんから、『ネットスラム』(ここ)の話は聞きました」

「そう、素敵な場所でしょう拾い集めたわ。棄てられた者たちの安息地、なんにせよ結論を得るまで害されぬ穴倉、『聖錬』広しといえどここだけだと自負している」

「うん、とても不気味でただそれだけで貴方を測りそうになる場所だった」

 何処か誇らしげに魔女は語る。

 確かに物珍しさで言えばピカイチだろう。しかしそれは今どうでもいい。

 

「本題に入って、テリトリーに貴方の言う通りに出向いた。知ってる事、そして貴方が求める事を応えて」

「ふふ、具体的に言ってくれないとわからないわ坊や、その子の正体のことかしら?」

「惚けないで、『死神』と同類の―――貴方が『碑文八相』と呼んでる存在、今猛威を振ってる『増殖』(メイガス)、そして僕に与えられた『腕輪』の事だよ」

 若葉の双剣士はそのためにここに来た。

 不安だらけだ。それでも正しい事をして行く事でしか前に進めないと信じる故に。

 カイトは、暗がりを進むための道標が欲しいのだ。

 

「冒険者という人種は、そろいも揃ってせっかちね。さて、坊やたちにどこから語りましょうか」

 "魔女"は、小首をかしげて演技めいて悩んだそぶりを見せながら口を開いた。

 そして、しばらくして。

 

「―――そうね。『黄昏の碑文』(エピタフ・オブ・ザトライライト)、この言葉を聞いたことがあるかしら?」

 

「なにそれ凄そうな名前だねー、もしかしてとんでもないレアアイテムだったりするの?!」

「僕も知らない。聞いたことのがない」

 物珍しそうな響きに興奮する約一名を除いて。

 そして飛び出た謎の言葉。徒党の誰もが目配せに首を振る。

 この場の誰にも、聞き覚えなどあるはずがない。

 

「当然ね。始まりはある一人の美貌の詩人、嘘か真か臨死体験に垣間見た神秘に魅入られてつらつらと書き綴った作り話だもの。無意識に学び見聞きし下地にした歴史はあれど、詩人が死んだ今、有り触れた埋もれていくだけのものでしょう」

「それがどーしたってのよ。そこまで引っ張って関係ない話はやめてほしいんだけどさ」

「あら関係はあるわ。それこそが貴方を振り回してる原典なのだから」

 変わらず道化の様に演技めいて首を振って魔女は語り続ける。

 

「そんな女に魅入られ恋し愛した男がいたわ。男は"天才"で故に周囲に馴染めず、ただその頭で世界を廻すほどの独りよがりのロジックを組みたて結実せず。そして一人で挫折していた。そんな男が」

 つらつらと語る魔女。

 男はその才に感性に幼い頃から両親には気味悪がられ、目的もなくただ才ゆえに見出され『学院』に引き取られた。

 

「男は神秘的な雰囲気を持つ美貌の詩人に一目惚れし焦がれて。その告白はたやすく成ったわ」

 そんな男が学院にて出会った神秘的な美貌の女、初めて知った恋であり、愛である。

 

「しかし詩人は男のことなど愛していなかった。ただその才能だけを愛でていた。その美貌からほかに愛人もいて、愛される己に己惚れていた」

 それは男も理解していた。

 故に、女が不慮の事故にこの世に失われても、ありきたりに、女を甦らそうとは思わずに―――

 

 "女が綴った物語と女が唯一愛した己の技術の結晶”を生み出そうと考えたのだ。

 

 

「だーかーら!!そんな作り話と今の災害が何の関係があるっていうのよ。もっとわかりやすく言いなさいってば!!」

「察しが悪いのね。だから坊や達が対峙する『碑文八相』は女の物語に記された災厄こそは作りものなのよ。『碑文八相』、そして『黄昏の腕輪』、その担い手はその役者の一人って訳ね」

 

「……嘘だ」

【魔法剣Lv2/5】【狂羅輪廻】【自棄自損】

 若葉の双剣士は思わず感情的に否定する。

 何処か湧き上がる熱と激情に鼓動が励起し剣の切っ先を、構え向けゆがむ。

 あぁ『黄昏の腕輪』の都合の良さから、何処か己が手のひらに転がされている自覚はあっただろう。

 しかしそれだけでなく。

 

「どうしたの、落ち着きいて」

 魔女の話を信じるならば―――

 

(そんなくだらない事に、リウ村の皆が、オルカが殺されたって事………ッ!?)

 

 そんなこと認められない。あまりにくだらない所以に否定する。

 あの滅びの夜は、遭遇した"死の恐怖"は超然的で、もっとどうしようもないものであった。

 そうでなくてはならない。

 故郷のすべてが知らぬ誰かの、愛の過程なんてくだらないものに殺されたわけじゃないと叫ぶ。

 

 未知に目を輝かせて、手を伸ばしどう転んでも笑う。

 あいつは世知辛い日常を廻していながら想い馳せた僕たちの、同じ空に繋がって僕の憧れで。

 

「嘘だ、あのすべてが誰かの物語?!それに仕組むにしても僕を選ぶ理由がない!!それに個人でこんなことは不可能だ!!」

【事変の証明者】

 根拠に重ねて否定する。

 そう、選ばれるとしてもあいつの方でなくてはおかしいのだ。

 客観的な事実として、ただの村人であったかつての己と、『鬼人八部衆』であった親友の価値はとても釣り合いえない。

 

―――(……あ、れ、おかしいな。こんなはずじゃなかったんだ)―――

 焼き付いた記憶が反芻する、破滅の吐息に形が崩れて消えゆく親友の声。

 煌めいていたあの瞳の光を失い、己をかばった"親友"の最後が。

 

―――(巻き込んじまってごめんな)―――

 そんなくだらない、誰かの都合に振り回された後の謝りで、終わっていいはずがないのだから。

 だからこそ、強く強く否定する。

 

「あらどうしてかしらね。どんな理由かしら、なんにしても『黄昏の腕輪』を手にした坊やだけは生き残ったそれだけが事実じゃないかしら」

「……ッ」

 どこまでも惚けた、言葉である。

 望んだ答え、その返答に己が都合のいい駒であるとの事。

 必死に理不尽を、命を振り絞って正しい道と信じた事を、足元から愚弄する言葉に。

 

 自分で望んでいながらも噛み砕けずに、刃に炎をたぎらせて睨めつける。

 とっさに斬りかからない事だけが最後に理性だろう。

 

 

 

―――しかし。

 

 

 

 ばさっ

 舞う白い羽。

 魔女の独壇場をぶったぎるように、想定外の乱入者が現れた。

 

 

 そんな若葉の双剣士の葛藤を差し置いて。

「―――ふん、ダウトだ。戯言はここまでか魔女……、つらつらと言葉を並べたが、貴様が黒幕の可能性が高まっただけだろうが」

【踏破者Lv2/5】【蒼天の剣】【人魔身】(ナイトメア)

 そんな流れを両断する如く、鋭利な声が空洞に響き渡る。

 鋭利な物語の如く美麗の騎士、白翼をはためかせて宙に構える、『蒼天』たるバルムンクである。

 

「えぇバルムンクぅ!?なんであんたがここにいるのよ!」

「黙れ。明らかに人為的なこれに、怪しく動く害虫がいれば潰すだろう。それだけの事だ」

 突然乱入したとりつく島もなく、美麗の剣士は。

【聖剣技Lv2/5】【闘気の才】【修羅道】

 ―――"その魔女と徒党その両方に命の輝きを乗せた剣を向ける"

 

 その意図は明確であった。

 

「あら、珍しいお客さんだ事。ネットスラムを代表して歓迎するわ、ようこそ楽園へ」

「黙れ。やっと尻尾を出したな魔女め」

 そう若葉の双剣士に会う以前から"蒼天"は、独自に動いて。調査を続けてる。

 そして、"指名手配犯"であるこの魔女が、少なからず『事変』に関わりのある事を掴んで居る。

 

「"ヘルバ"か、何を吹き込もうとその名には覚えがある、牙の塔の出奔者であり『聖錬』から指名手配を受けている『魔導遺産』・魔動機の簒奪者(ハッカー)だろう」

「あら、あら。それで初めからこんな純朴な坊や達を疑ってかかってつけ回してたのね。後をつけてこそこそ何をというと思えば、『フィオナの末裔』の名が泣くわよ」

「黙れと言っている」

【正義漢】【片刃の末裔:精神焦燥】【迎撃態勢:怨敵覚悟】

 故に、一方的に都合のいい言葉であろうと推定し、そしていま語られた明らかに知りすぎたそれに。

 彼にとって、『黒幕』としての疑いは深くなった。

 

「バルムンク、僕たちは…っ」

「犯罪者の言う事など聞く耳などを持たん。密会していた貴様らも同罪だ。全ては牢の中で聞かせてもらおう」

「頭はカチカチね。まぁいいわ役者は揃った。そろそろ来る頃でしょう。楽しくお喋りさせてもらったわ」

 しかし、何処か魔女は不敵に笑う。

 まるで狙い通りといわんばかりに、である。

 

―――『Alert Alert Alert Alert!!』―――

 

 そして地下空間に突如轟音と、地響きがなり渡る。

 

「なっ、何をした」

「私は何もしていないわ。少し物語の禁忌に触れただけ、許されざるネタばれという訳―――」

【電子魔術師】《テクノマンサー》:光学ベクトル操作】

 その襲撃を予想していた魔女は、まさしく魔女らしく。

 一人でに杖を振るい宙に逃れて、ネットスラムの暗がりへと消えていった。

 

【新緑の閃光】【領域作成:禍々シキ波】

 

「待て魔女がっ!!」

【修羅道】

 "蒼天"の剣が消える魔女に空を切り、若葉の双剣士はその感覚から何処か察する。

 襲撃である。

 カイトはこれと一度交戦して知っている。故に攻撃手段も予想できるだろう。

 

―――ザッザザザザザッ……!

 

「うわ、うわわわ」 

「この砂嵐(ノイズ)……!影に、多分あの大蛇だ!!」

「心得たっ、状況はまずいな」

 円形に赤く白熱した天辺が照らし、その光源が溶解する天井と理解するにそう時間はかからなかった。

 

 これは熱による融解である。そうあの閃光による溶解であろう。

 少しの時間と供に、破壊された天井の瓦礫が崩れ落ちる。

 

【腕輪の担い手:電制防壁】【狂羅輪廻】・【陰陽術Lv2/5】【固有術・木卦牢壁】【阿修羅姫】

 頭上に、腕輪由来の電子装甲が展開される。

 かすかな土気を糧に、ガルデニア木柱に成長し支えんとする。

 

「ちぃいいいいいい!!」

【ソードマスタリー】【聖剣技】【闘気の才】

 "蒼天"鮮烈たる斬撃、先に臨界状態に保っていた生命の光が奔流となり炸裂し。

 落下する中でも大きな瓦礫を弾き飛ばした。

 

【碑文八相:増殖】(メイガス)【新緑の雫腕】【超絶魔力】【飛翔】

 綺麗に光線の切断した天辺を弾き飛ばして、確認するように晴天たる光とともに大蛇の異形が覗いた。

 仮面に覗く無機質な瞳。やはり、従えるように"石の葉"の群れ。

 どうやら、この『ネットスラム』は丘そのものが、ドーム型の遺跡であったようである。

 

 音声が響き渡る。

 

「そうそう貴方達に、『増殖』(メイガス)の滅ぼし方を教えるって言ったわね」

 

「この状況こそがそう。設定された『権能』、『自己を中心とした生態系』からの切り離し」

 

「手伝ってあげるからあとは頑張りなさい坊や。"代わり"でしかなくとも『腕輪の担い手』なら、ね」

 

 一方的にそう言って、魔女が従える多数の『魔動機』が浮かび上がる。

 

『―――碑文―――八相―――増殖―――』(メイガス)

 まみえるのは 二度目、待ち構えるように対峙する。

 大蛇は悠々と飛翔しながら、その腕に『石槌の杖』を構え、その無機質な目をもって見降ろすのだった。

 

 

 




投稿遅くなりました。申し訳ありません(誰も待ってないことに目をそらしつつ)
職場環境の変化と通院で家に帰ってきて寝るだけの生活になりました為、今後も投稿が遅くなると思いますが、それでもよろしくお願いできたらなあと。
一度始めたのだから、少しづつでも続けていきたいと思います。
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