処女作ですが、頑張って参りたいと思います。
満月の浮かぶ静かな夜。
冷たい風がふく空の下にある大きな島。
その島の砂浜の上に、その白さに似合わぬ黒い陰が揺れていた。
「……ここぁ、いったい…………」
陰の正体は、全身黒尽くめの大男であった。
黒い髪に黒い瞳、身に纏う甲冑とマントも共に黒。
極めつけに、彼の左腕の肘からさきも黒い。そんな『闇』に紛れるような格好をした男の名は『ガッツ』。
『黒い剣士』ガッツ。
烙印を刻まれ、その心に復讐を誓った者。
その彼は今、困惑していた。
(俺ぁたしか船に乗ってたはずだが……?)
彼は仲間と共に、自分と同じ烙印を刻まれた娘、『キャスカ』の心を取り戻すために妖精郷をめざす旅をしている。
その際、旅の一行の一人、ファルネーゼの婚約者、ロデリックの『海馬号』に、縁あって乗ることが出来て、妖精郷に向かう途中の島で海神と戦ったりもしている。
ガッツは海神との戦いで負った大怪我がやっと癒えてきた頃であった。
(……ここが妖精郷ってわけじゃあなさそうだな)
ガッツはついさっきまで船の甲板の上にいた。
さらに当たりを見回しても船はおろか、イシドロやセルピコ、ファルネーゼ、シールケなど、一緒に船にのっていた連中の誰一人の姿も見当たらない。
自分の知らぬ間に妖精郷についたわけではなさそうだ。となると、自分の全く知らない場所に、いつの間にか飛ばされたということになる。
(まさか使徒の……!?)
ガッツは一瞬そう考えた。
しかし使徒絡みならば、烙印がなにか反応するはずなのだが、今は烙印が全く反応しない。
とすればこれは一体なんなのか。少しの間ガッツは考えたが、
(いろいろごちゃごちゃと考えるのにゃあ向いてねえからなぁ……)
自分がそういったことへの知識がないことは知っているので、ガッツは深く考えるのは止めた。
(とにかく今は船に帰ることが先決だ)
ガッツは当たりを見回す。
まず目の前に広がるのは広大な海。
だが、つい先ほどまでガッツたちがいた海とは、なにか『違う』気がする。
後ろを振り向くと、そこには生い茂った林
さらにその奥には、やたらと背の高い、見たことのない建物が並んでいて、所々灯りがついている。
あんな立派な建物があるということは、少なくともここは無人島ではないことは確かだ。
「とりあえずあそこにいくか……」
今はとにかく人を探さねば。
ガッツが一歩前に踏み出した瞬間、近くから人の声が聞こえてきた。
「お~~いキャスカ~、シールケ~、イバレラ~、ファル姉ちゃ~ん」
「…………」
「あ、あとついでに、モン吉、すけこまし、マニ彦さん、さらについでに保護者剣士~
ど~こだ~い」
「だれが保護者だ」
ガッツは右手でむんずと、目の前を飛んできた光る小さなものを捕まえる。
するとその光るものは顔を青くしながら、
「のわわわ~!よりによってチミか!ここで最初に出会ったのは!こんなクソヤローより魔女っ子とかのほーがいい!」
「そいつは悪かったな」
なんか失礼なことををのたまったので、手の中のものを軽くひねるガッツ。ポキャッと小気味のいいおとがして、光るなにかがビクビクとガッツの手の中で痙攣し始めた。
この瀕死の光るものの名前はパック。いつもガッツと一緒にいる、妖精郷出身のエルフである。
「おいパック」
「いきなり……なに…しやがる極悪非道剣士……で、なになに?」
はやくも復活したパックに、ガッツは気になっていることを訪ねた。
「俺とお前がここにいるってことは、他の連中もここにいるかもしれねえだろ。お前、あいつらの気、みてえなもん感じねえか?」
そう聞くと、パックが困った顔をしながら答えた。
「それがさっきから全然感じないんだよねー、多分この近くにはいないと思うよ?」
「けっ、使えねえな」
「あっひどーい!また勝手なこといってー!」
軽い感じに返したガッツだが、内心は穏やかではなかった。
(じゃあマジでここぁどこなんだ?)
いきなり知らないところに飛ばされ、周りには仲間がひとりもいない(栗はいるが)状況にガッツは珍しく焦っていた。
そもそも、ここにはあのとき吹いた『風』を感じない。
あの風が吹いた以降、烙印の傷口が開きっぱなしだったのだが、今はそれが閉じている。
急に黙りこくったガッツ。そんなガッツにパックが「まあなんとかなるって」、と軽く言ってきた。
「よくわかんないけどさ、多分俺たちがいなくなったことぐらいみんな気づいてると思うし、きっとシールケ達がなんとかしてくれるって!大丈夫だよ!それよりさ!せっかく変なとこ来たんだし探検しようよ!」
脳天気な物言いに、一瞬イラッと来たが、ガッツは考えを改めた。
(まあ、船にゃあアイツらがいるしな……キャスカも……)
ガッツは思い出した。今の自分には頼れる仲間がいることを。決して独りではないことを。
……オレ以外の誰かがお前を救う
……いまはそれでいい
オレではお前を
壊すだけだ
「へっ」
ガッツは少し笑い、
「ほんとテメーといるとマジになんのがバカらしくなるな」
「あー、またそんなこというー」
パックのこういったバカさ加減はこんなときにはありがたい。
「じゃあ、チミもちょっと落ち着いたところで、さっそく探検にいこ~!」
「ほんとノーてんきだなテメーは」
苦笑しながらパックについて行こうとしたたその時
「待って!!」
パックが叫んだ。ガッツは少し驚きながらも、珍しく真剣味の帯びたパックの声に足を止めた。
「どうした」
「なにかが、もの凄い速さでこっちに向かってきてる!」
(使徒か!)
その言葉にガッツは剣に手をかけ、辺りを警戒した。しかし、ここでガッツは右後首に違和感を覚えた。
生け贄の烙印が反応しないのだ。
確かに、ほんの少し、疼く程度には感じる。
だがその感覚は死霊や使徒のものと比べるとかなり弱い。痛みが全くないのだ。
……一体なにもんだ?
「ガッツ!近づいてきてるのは人間!人間だよ!でもこんなに速く動けるのって変だよ!」
「なに?!」
予想だにしなかった答えがパックの口から発せられる。
パックが驚くような速さで近づく人間だと?
「おい、そいつの気、ってのは」
「……凄い敵意を感じる。少なくともユーコー的って感じじゃなさそうだね」
だったら遠慮はいらねえな、とガッツは舌なめずり。
ガッツは自分らの命を狙ってくるようなヤツに手加減するような人間じゃない。
「あ、きた!あっちの林のほう!」
パックが指差した方を見ると、空に鳥にしては大きく、速い影がこちらに近づいてきている。
(……あれか!)
ガッツが身構えた瞬間、その鳥、いや、よくよく見ると、まるで鋼色の天使かのようなソレは、二人の目の前にスタッ、と可憐に着地した。
その天使は、女だった。
女の体を纏うのは、今まで見たことのない、異形の『鎧』。
女の身体に見合わぬほどの大きな鋼の両腕、足。
「なにあの鎧、身体全然守れてないじゃん」
そう、パックの言うとおり、女の胴体には装甲が一切なく、女のボディラインが顕著に現れている。
天使から女の声が発せられた。
「貴様ら、一体何者だ!」
天使が手に持っている大きな刀をガッツに向ける。
「貴様を不法侵入者として連行する!おとなしく投降するのが身のためだぞ!」
天使……いや、世界最強の女、織村千冬が、高らかに宣言した。
to be continue