のんびり投稿ですが、お付き合い願います
「聞きてえことだと?そいつぁコッチのセリフだぜ、おっさん」
ガッツは現れた初老の男を睨みつけた。
「オレはいきなりココに放り込まれて、そこで襲ってきたコイツを倒した。オレが分かるのはそれだけだ。何を期待しているか知らねえが、こちとらここがどこだかも分からねえんだよ」
しかし轡木はガッツの迫力にも動じず、ニッコリと微笑みながら、ガッツに提案した。
「大丈夫です。わたしが知りたいことは全く別の話ですので。なんならあなたが欲しいであろう情報をすべて差し上げでも構いませんよ?」
「はあ?」
ガッツが素っ頓狂な声を上げた。
「バカにしてんのかお前?そんな都合のいい話があるかよ」
「そうですかねぇ?」
「当たり前だろーが。甘い話には裏があるっつーが、いくらなんでも甘すぎだ」
「ねえガッツや」
「あ?なんだよ」
パックがいきなり話に入ってきた。
「オレ、おじちゃんの言うこと聞いた方がいいと思うよ?」
「はあ?なにトチ狂ったこと言ってやがる。いきなり現れた知りもしねぇおっさんの言うことを聞けだと?」
「うん、だってオレらには悪い話じゃなさそうだし、たぶんだけど、あのおじちゃん、ウソは言ってないと思うよ?」
「だからってよ……」
「なんでもいいから聞いといた方がいいって!いまのオレらじゃいくあてもないしさ!」
「……まあ……確かに……」
パックの言うことには一理ある。
現状、この二人はここがどこかすら分からない。
いや、正確にはガッツたちがいたのとは『違う世界』、である。
ガッツはそのことに気付いていた。
シールケの護符の効力は、もうとっくに切れている時間だ。
だと言うのにこの満月が降り注ぐ夜に、死霊の一匹も現れないのだ。
それに加え、見たこともないような武器や建物。
あまりにもガッツ達がもといた世界とは違いすぎた。
(それにコイツさっきオレのことを『黒い剣士』っつたな……)
確かにガッツの見てくれは、『黒い剣士』、という表現が一番しっくり来るだろう。
聖鉄鎖騎士団の連中からも、その名前で呼ばれていた。
だが、さっきの言い方、ニュアンスから考えても、まるでその言葉を、『最初から知っていた』かのように、ガッツには聞こえたのだ。
(何にも知らねえ訳じゃ、なさそうだな。)
そう結論づけたガッツ。コッチも聞きてぇことがあるしな、と男の提案に乗ることにする。
「……わかった。その話乗ったーーー」
「ちょちょちょ!ちょっと待ってください理事長!私には全く話が……」
ずっと蚊帳の外だった千冬が慌てて声を張り上げた。
取り乱す千冬を、轡木は落ち着いてください、と優しくなだめる。
「あなたにもちゃんと説明しましょう。この場に居たもの全員に、聞く権利がありますからね。」
「しかし……この男は危険です!無理矢理にでも取り押さえた方が……!」
「それこそ無理な話ですよ、織斑先生。仮にも世界最強と謳われたあなたが手も足も出なかった相手です。内の教員、生徒全員出撃させても、彼を取り押さえるのは厳しいと思いますよ?」
そもそもそんなこと出来ませんしね、と、轡木は頬をぽりぽりと掻きながら苦笑した。
轡木にそういわれては千冬も黙るしかない。
「……分かりました」と千冬の渋々ながらも、肯定の返事を聞くと、轡木はニッコリと微笑み、
「というわけですので、『黒い剣士』さん、よろしいですか?」
轡木の質問に、一拍おいてからガッツの口が開いた。
「いいぜ、聞いてやるよアンタの話。ただし」
ガッツは轡木を鋭く睨みつけた。
「もしこのアマみてえな連中がまた襲ってきたときにゃーーーーーー今度は容赦しねぇ、ぶったぎらさせてもらうぞ」
ガッツから殺気が漂う。それに千冬はビクっと身をすくめたが、轡木はそんなことどこ吹く風かのように全く動じず、
「その点はご心配なく。あなたに不利になるようなことはまず起きないと約束しましょう。ーーーここは寒い。どうぞ屋内へ」とガッツを招いた。
ガッツはフン、と鼻を鳴らし、轡木のあとをついて行こうとした。
「ちょい待ちよガッツくん」
そのとき、いつの間にかガッツのバッグに戻っていたパックが半目でがガッツを呼び止めた。
「……なんだ」
「あの子どーすんの?」
パックは親指で、砂浜に座り込んでいる千冬を差す。千冬は、吹き飛ばされた衝撃で足をぐねったのか、なかなかうまく立ち上がれないでいた。
「ほらほら~、チミが手加減しないから、痛そーにしてんじゃん」
「知るかんなこと」
「……私は大丈夫だ、お前らは先にいけ……心配するな、すぐに追いつくさ……」
「ほらもう絶対ヤバいよ、完全に強がりだよ今のセリフ。も~、どっかの誰かさんが女の子相手に大人げないことするから~。しかもさっき泣かせちゃったしさ~、ちゃんとチミが責任を持ってーーーー」
「黙ってろ」
ガッツはパックを無理矢理鞄のおくに押し込み、羽織っているマントを脱いだ。
そのままガッツは千冬の前に立ち、千冬の左手を掴み、無理矢理引き上げた。そして千冬の体に、脱いだマントをかぶせる。
「いきなり何を」
「その格好じゃ寒いだろーが」
黙って着とけ、とガッツはぶっきらぼうに答えた。
千冬は一瞬、ボケっとなったが、すぐ我に返った。
「あ、ありがとう……お前こそ、寒くないのか?」
「気にすんな、これくらいどーってこたねぇよ」
(まったくもー、素直じゃないんだからー)
パックが鞄のおくでにやける。
「……おら、とっとといくぞ」
「あ、待っ……!」
千冬は、歩き出したガッツのあとに続こうとするが、足の痛みのせいか、ふらふらとしか歩けなかった。
ガッツは建物の方を見た。
それなりの距離がありそうだ。
こうも遅く歩かれると、さすがに寒い。
「あーもうーーー仕方ねえな」
「え、ちょおま、いきなりなにを」
おもむろにガッツは千冬の腰に右手を回した。
そのまま千冬の体を無理矢理持ち上げ、自分の肩に載せた。俗に言う『お米様抱っこ』というやつだ。
「…………」
「よし、いくか」
「よし、じゃないわアホぉぉ!!」
千冬が抗議の叫びを上げた。
「なんで寄りによってなんてお米様抱っこなんて選ぶんだ!恥ずかしいだろ!今すぐおろせ!!」
「耳元でギャーギャー騒ぐなうっとうしい!この運び方が一番楽なんだよ!いいから黙って……暴れんじゃねえ!」
千冬はせめてもの抵抗だと、手足をばたつかせた。
「おーろーせー!そーゆー問題じゃないわバカ!お前はラクかもしれんがこっちは腹圧迫されて結構苦しいんだぞ!?轡木先生も笑ってないで止めてくださいよ!」
前を歩く学園のトップにヘルプを求める。
轡木はニッコリ笑って、
「いやあ、若いっていいですね~」
さらっと千冬を見捨てた。
「そんなことよりも、黒い剣士さん。あなたのお名前を伺ってもよろしいでしょうか?ずっと黒い剣士、というのも変だと思いましてね。」
「…………」
少しの沈黙の後、ガッツは、ゆっくりと自分の名前を口にした。
「…………ガッツ。ただの、ガッツだ。」
◇
「人払いは済ませてありますのでご安心を。どうぞお好きなところに座ってください。」
三人と一匹は、学園の中にひっそりとある、『用務室』と書かれてある部屋に入る。
部屋の中には、大きな執務用の机に高級そうなソファー、壁は本棚になっており、その中にはびっしりと綺麗に本が並べてある。
千冬とパックはソファーに座り、ガッツは立ったまま壁にもたれかかり、腕を組んだ。
轡木が「粗茶ですが」と入れ立ての緑茶を、来客用のテーブルの上に並べる。
千冬はいただきます、と断りを入れ、一口飲んで、湯飲みを皿に戻した。パックは足を滑らせ湯飲みの中にダイブ。茹で栗になりきる前に千冬が救出した。
「いやあ、それにしても素晴らしい闘いでしたねぇ。まさに手に汗握る!って感じでつい見とれてしまいましたよ」
轡木が先ほどの戦闘の感想。
その発言に千冬は驚いた。
「り、理事長、最初から見てたんですか!?」
「ええ。二人が闘い初めてからですかね?」
「と、止めてくださればよかったのに……」
「あんな激戦の中に飛び込むなんて自殺行為ですよ。そもそも止めるにも、私が林から出た途端に始まってしまったのですよ」
「…………あ」
千冬が合図にした林の方からのガサガサ音は、轡木によるものだったようだ。
(あれかぁぁ)
ちょびっとはずかしい気分になってしまう千冬。
するとガッツが、緑茶に目もつけず、会話を切り出した。
「おっさん、あんたに聞きてえことがある」
「どうぞ何なりと」
「まず、ここはどこだ」
ガッツは単当直入に聞く。
轡木は微笑みながらガッツの問いに答えた。
「ここはIS学園という、他と比べて特殊ではありますが、言うなれば子どもたちの学びやです」
「じゃああんたやこの女は教師ってことか?」
「私は経営担当なので教鞭はとりませんが、そういうことですね」
「……分かった。じゃあ次に、ここの国名を教えてくれ」
「日本、という国です。……聞き覚えは?」
ねえな、とガッツは自分の記憶を探ったが、そんな国の名前聞いたことがなかった。
「ミッドランド、クシャーン、チューダーって国、聞いたことあるか?」
「ありませんねえ。……恐らくですが、そんな名前の国、この世界にはありません。過去にもその名前の国は現れていないはずです」
そうか、とガッツはガッカリしながらも、理解した。間違いない。ここは、オレらがいた世界とは別の世界だ。
「……なら最後にだ」
ガッツはさっきから一番に気になっていたことを訪ねた。
「あんた、まるでオレのこと知ってるかのような口振りだったよな。---何を知っている?」
「……これをみてください」
轡木は机の引き出しの中から、しわくちゃの古い紙に包まれた、卵の形によく似たものを取り出した。
「これは、ちょうど5年前、ここにいきなり現れました」
轡木が紙を丁寧にめくると、中から、緑色の卵、表面にはまるで正月に遊んだ福笑いのようにデタラメな位置に、目、鼻、口が並んでいた。
(なんだあの悪趣味なものは……)
千冬は素直な感想を心の中で思って、あの男と関係あるのか?とガッツを見た。
ガッツの顔には、驚愕と、怒りと、憎悪がにじみ出ていた。
千冬と闘っていたときとは比べものにならない剣幕で、ガッツは轡木に詰め寄った。
「……なんでコイツがここにある!こいつは……」
「落ち着いてくださいガッツさん。私にはこれが何で、どういったものかまったくわからないのです。ですがーーーあなたは知っているようですね?」
轡木の優しくも、落ち着いた声に、ガッツは落ち着きを取り戻し、「……ああ、知ってるぜ」と眉間にシワを寄せながら答えた。
そうですか、と轡木は安心したかのようにニッコリと笑った。
「私が聞きたいことはこの卵についいてです。これが一体何なのか、何を意味するものなのかーーー」
「あの、少しいいですか?」
またしても蚊帳の外になっている千冬が手を挙げた。
「なんでしょう?織斑先生」
「……轡木先生は、何故その置物を特別視なさるのですか?端から見ればただの悪趣味な置物ですよ、それ。」
「それはね織斑先生。これは『ただの』置物ではないからですよ」
「?それは一体どういう意味で……」
するとガッツの鞄からパックが、轡木の持っているものそっくりのものを抱えながら千冬の前に飛んでいった。
「おいパック!テメーなに勝手に」
「ベッチーは『オレ』のものです~!よってどう扱おうがオレの勝手だもんね~だ!」
ガッツに舌を出して、パックは千冬にベッチーを近づけて、
「こいつの目!目をじっと見ててみ」
「……?目、だと」
千冬は、とりあえず言われた通りに卵の、目蓋を閉じてある目を見つめる。
千冬はその目に、『見つめ返された』。
……見つめ返された?
「な、ななな!」
千冬は驚いて、『目を開けた』卵から顔を遠ざけた。
「今!こいつ目を!」
「……ただの置物じゃねえ。『生きて』やがんだよそいつは」
「いや~オレも初めて見たときはビックリしちゃったけどさ~、今はいいペットだよ!なあベッチー!」
パックがベッチーを叩く。ベッチーは、もうやだコイツ、とでも言いたそうな、悲哀に満ちた顔になる。
「まさか同じものを持っているとは………!」
轡木は驚き、ガッツに質問を投げかけた。
「あなたはその……ベッチーとかいうものをどこで?」
「……正しくはベヘリットだ。昔いろいろあって手に入れたものさ」
「そうですか……あなはコレについてーーー」
「そいつに答えるよりこっちの質問がさきだ」
ガッツが轡木の言葉を遮った。
「確かにソレは、オレの世界にあるものだ。だがよ、ソイツだけじゃ、『黒い剣士』には繋がらねえぜ?まだあんだろ、オレにまつわる何かが」
さあ答えろ。とガッツは轡木に一歩詰め寄った。
轡木は苦笑し、口を開いた。
「ええ。まさにその通りです」
これをみてください。と轡木はベヘリットを包んでいた紙を手に持った。
見ると、そこにはガッツが見たことのない文字が並んでいた。
「この文字は、今私たちが使っている物の何百年も前に使われていた日本語です」
「んなこたあどーでもいい、なんて書いてあんだ」
「ここには要約すると、
『この包みを最初に開けた五年後のその日、この土地に、異界から訪れる、龍をも喰らい殺す黒い剣士が現れる』と書かれてあります。」
「黒い……剣士?」
千冬がはて、とガッツを見た。突然現れた黒い大男。バカみたいな大剣と強さーーーー
「も、もしかしてコイツが……?」
「ええ。おそらく彼がこの『黒い剣士』でしょうーーーーそしてこの龍をも喰らい殺す、というのはアナタの強さを示したもの」
轡木が言葉を続けた。
「いやあ、私も五年前これを呼んだときは、何かのイタズラだと思ったんですけどね、中に入っていたものがものだったんで、一応保管しておいたのですが」
まさか予言通りになるなんてね、と轡木がたはは、と笑った。
「校内に侵入者が出たと聞いたときは、まさかと思ったんですがね、いやあ、面白いこともあるもんですね」
「ふざけんな、こちとら全然面白くねえんだよ。で、アンタはこれ以外になにか知ってんのか?」
「いえ、これ以上は何も知りません。これが私の知っている全てです。では私にも教えてくれませんか?このベヘリットがなんなのか」
「そいつぁオレにも詳しくはわからねえーーーー
ーーーーだが、ロクなもんじゃねえってことだけは解るさ」
ガッツから溢れ出る怒りを感じ、轡木はこれ以上掘り下げるべきではないと判断した。
「そうですか……分かりました。私の聞きたいことは聞けました」
「そいつは良かった。じゃあな」
ガッツが轡木に背を向け、部屋を出て行こうとした。
千冬が慌ててガッツの腕を掴んだ。
「ちょ、待て、ガッツ!!」
「……なんだ」
「いやいやなんでこの流れで立ち去ろうとするんだ!」
「そこのオッサンはもうなにも情報もってねーんだろ、だったら用はねえ。あとは自分でなんとか帰る方法を見つけるさ」
「……それは得策とは言えませんよ、ガッツさん」
ゆっくりと轡木が口を開いた。その言葉にガッツが轡木の方に振り返った。
「あ?どーゆー意味だ」
「あなたはここから出て行って、それからどうなさるおつもりで?」
「……そこらへん旅して情報集めをーーーー」
「その装備でですか?ここ日本ではそんな大剣持ってたら警察に即捕まりますよ?」
「けいさつってのはなんだかしらねーが、んなもん軽く切り伏せてやりゃあ」
「そんなことしたら世の警察全員からお尋ね者のレッテルを貼られて、どこにいっても追い回されることになりますよ?テロと一緒なんでやめてください」
轡木がやんわりとガッツの考えを否定する。
「あなたが元の世界に戻りたいならば、この『ベヘリット』という『アナタの世界』のアイテムがあるここが、一番あなたの元の世界に近いと思いますがねえ」
「オレがここに留まってもいいていうのか?」
「ええ。もちろん条件はありますが」
「……解せねえな」
ガッツは訳がわかんねえ、と呟いた。
「なにがでしょう?」
「いきなり現れた怪しげな人間に向かって、ひっとらえるどころか、ここにいてもいいだと?こっちに都合がよすぎるぜ」
「いえ、アナタにここにいてもらうことは、私にとってもメリットが大きいのですよ」
「く、轡木先生、それはどういう意味で……」
千冬が轡木に質問を述べる。
「……そのことを説明するにも、まずはガッツさんにインフィニット・ストラトス、通称ISのことについて説明せねばなりませんが……ガッツさん、聞いてくれますか?」
「……簡潔に短くまとめてはなすってんなら聞いてやるよ」
「分かりました。では最初に……」
轡木はISのことを要点だけまとめ、簡単に説明した。
十年前に突如現れたパワードスーツであること
ISを超える兵器はないということ
ISは女性にしかあつかえないこと
そのせいで今社会では女尊男卑が定着しつつあること。
などを説明し終えたとき、ガッツが口を開いた。
「で、そのISがコイツが着てた鎧っつー訳か」
「ええ。あれは『打鉄』と呼ばれる量産機です。ISは世界に467機しかないのですが、その多くがここIS学園に存在しています」
「その話はいい。で、そのISってヤツが男のオレにどう関係がある」
「……先ほどもいいましたが、ISは現状世界最強の兵器です。それは、ISは今、一番世界に影響をもたらすアイテムである、という意味でもあります」
轡木は一息つき、すこし険しい表情になり、再び話し始めた。
「現在、世界の影の部分でなにやら不穏な動きが活発になってきているのです。それは私や、この学園にも悪い影響をあたえかねない」
「なるほど?。それで、アンタはオレに、何をしてほしいんだ」
「……分かりました。単刀直入に申しましょう」
「ガッツさん、アナタの力、私に貸していただけませんか?」