「お昼に悪いね。ちょっと話したいことがあるんだけど。お昼食べたら一度寄ってくれるかい?」
勢地朗からの電話だった。
同じ日、帰り道。
「今日の英語の小テスト、どうだった?」
いつもと何も変わらず話してくる明日夢。
「いつもよりはできたかもしれないです。」
いつもより気持ちよそよそしいあきら。
「安達くーん、あきらちゃーん、待ってよー。」
そこにいつもより少し元気に駆けてくるひとみ。
ひとみの明日夢に対する態度は特に変わっていない。
ここ数日ひとみに起こったことを考えると、変化がないこと自体、明日夢に対する信頼があるからこそなのかもしれない。
あきらは昨日響鬼と話したことを明日夢に伝えたかったが、無理して二人にしてもらってひとみを不安にさせたくなかった。
「ねえ今日たちばな行かない?」
ひとみは明日夢とあきらを誘った。
「いいですね。行きましょうか。」
微笑んで頷くあきら。
「ごめんおれ今日バイトあるんだ。」
頭をかきながら謝る明日夢。
「じゃああきらちゃん二人で一緒に行こ!」
あきらは少し気まずさを感じながら頷いた。
「来てくれてありがとう。」
勢地朗と響鬼は二人で話している。
「昨日あきらと話したそうだね。何か言ってたかい?」
「なにかとまた不安はあるみたいなんですけど、あきらなりにがんばってるみたいです。」
「それは、よかった。」
「おやっさん、話ってどうしたんですか?」
「いやー、実はあきらのことでちょっとね。」
間を空けてから、勢地朗は話を続けた。
「さっき吉野から連絡があってね。あきらくんのことについてだったんだ。ストレートに言うと、あきらくんに鬼の修行を再開するように説得してほしいそうなんだ。」
「えー、それはあきらの意思次第なんじゃないですか。あきらは鬼にならないという決断をしたわけで、おれたち大人はそれを応援してやるのが務めでしょう。」
「僕もそう思うんだけどね。やっぱり天美の血を引き、和泉が面倒をみてきたあきらが修行をやめて猛士から抜けるというのは相当あちらでも衝撃だったみたいだ。」
「でもそれがあきらが決めた道なんですよ。」
「おそらく吉野から、あきらを直接説得に来ることも考えられるみたいでね。響鬼くんに頼みたいのは、あきらを守ってやってほしいんだ。」
「確かに和泉の者である威吹鬼が入ると、ややこしくなりそうですもんね。」
「そうなんだよ。とはいっても鬼は他人に決められてなるものじゃないからね。」
「その通りですよ。なんで吉野はまた急にそんなこと言ってきたんですかね。」
「それがわからないんだよ。あきらについて報告したときには特に何も言われなかったんだけどね。」
並んで歩くあきらとひとみ。
「安達くんに気持ちは伝えないんですか?」
あきらの質問に、ひとみは焦ったように答える。
「んー、安達くんは私のことただの幼馴染みだと思ってるんじゃないかな。だから今はとりあえずアタックしてく感じかな。」
そんなことないでしょうとあきらは思ったが、何も口にはしなかった。
「あきらちゃんはさ…。」
目を合わさず話すひとみ。
「あきらちゃんは、安達くんのことどう思ってるの?」
「私は…。」
返事に困るあきら。どうして何も思ってないと言えないのだろう。ただの友達だと言えば持田さんは安心するのに。何かがそれを邪魔していた。あきらの言葉の続きの前に、ひとみが話し出した。
「あーやっぱりあきらちゃんも安達くんのことが好きなんでしょう!」
「えっと、その…。」
「あきらちゃん、お互いがんばろうね。安達くんの魅力がわかる人が他にもいて嬉しい!」
驚いて目を見開くあきら。どうしてひとみはこんなに強いんだろう。自分の立場なら同じように言えただろうか。いや、言えなかったから迷っていたのかもしれない。あきらはまた自分に悔しくなった。そして、無自覚ではあるが、明日夢を好きになっていたことを受け入れていた。
ひとみは正直複雑な気持ちだった。あきらは明日夢と猛士という共通の秘密を持っていた。ひとみにとってそれは二人だけにある絆のように思えていた。それに、今まで自分は無意識に明日夢の気を引こうとして行動している場面があった。だが明日夢にはそれはきっと伝わっていない。きっと自分は本当にただの幼馴染みだと思っていたからだ。
「こんにちは~。」
ひとみが大きな声で入っていく。
たちばなはいつものように談笑する老人のグループが数組いて、日菜香にも香須美にもある程度余裕がありそうだった。
空いたテーブルに座った二人に香須美がお茶を持ってきた。
「ひとみちゃん、もう体調はよくなったの?」
「おかげさまで。ご迷惑をおかけしました。」
「んーん、何も気にしないでいいのよ。ひとみちゃんは巻き込まれただけなんだから。」
そのときちょうど響鬼が中から出てきた。
「おーあきら、それにモッチーも。」
ひとみとあきらのテーブルの横に座る響鬼。
「無事でよかったな、モッチー。」
「ご心配おかけしました。」
「明日夢も京介もがんばってくれたおかげだな。」
「桐谷くんは今どうしてるんですか?」
「あいつは今も鍛えてるよ。今日は轟鬼のサポーターやってる。」
「轟鬼さんについて桐谷くん大丈夫なんですか?」
あきらが話に入った。
「今猛士も人がいなくてね。入ってもらってるのよ。轟鬼くんなら京介くんをお願いしても大丈夫だと思って。」
確かに京介と一緒にいて、腹がたったりしない人は数少ないかもしれない。
「二人とも、ちょっといいかな。」
中から勢地朗が顔を出して、ひとみとあきらを呼んだ。
二人ともなぜだろうという顔をしながら中に入っていった。