同じ週末の土曜日、東京駅にて。
「ひとみちゃーん、こっちこっち!」
香須美と威吹鬼は先に来て待っていた。
「初めまして。威吹鬼といいます。僕も鬼なんです。」
同じ鬼なのに、響鬼とは全然違うなとひとみは感じた。
「持田ひとみです。よろしくお願いします。」
「じゃあさっそく行きましょうか。自由席だから、いい席とらなきゃ。」
「ひとみちゃん、奈良は初めて?」
「小さい頃に家族と行ったっきりなのでほとんど記憶にないんですよね。」
「今日ついて今晩中には浄めが終わるから、明日は一緒にどこか行こっか!」
ひとみは笑顔で頷いたが、心の奥にある不安は消えなかった。
その様子に何か感じたのか、香須美がひとみの背中をさすりながら一言告げた。
「そんな心配しないでいいのよ。吉野は日本の猛士の一番中心なんだから。」
ひとみはそのおかげでだいぶ落ち着いた。
その頃、秩父の山中にて。
今日も魔化魍と鬼が戦っていた。
「こいつか、今日の魔化魍は。」
弾鬼がツチグモと戦っていた。ツチグモのような大型には、弾鬼のような『打』の鬼が有効なのである。
「音撃打 破砕細石!」
弾鬼が激しく撥を連続で叩きつけた後、ツチグモは四散した。
「ふぅ~、童子と姫がいないな。」
リラックスしたのもつかの間、すぐに辺りを注意深く見渡す弾鬼。
「ん、あれは誰だ?」
それは姫のように見えた。衣装はいつもと同じような格好だが、容姿は異なっているように見えた。
同じ時、たちばなにて。
「ただいま帰りました~。」
鋭鬼が同じように魔化魍を退治して報告に来ていた。
「おつかれさまでした~!」
日菜香が笑顔で出迎える。
「今日はどうでした?」
「そうだ、おやっさんに報告しておきたいことがあるんだった!奥にいるかな?」
「いますよ~!どうぞ入ってってください!」
「どうしたんだい報告したいことって。」
「いやー今日ですね、オオアリと闘ってたんですけどね。」
「まさか、逃がしちゃったのかい?」
「いえいえ、しっかり倒しましたよ。」
「それはそれは、おつかれさま。童子と姫は?」
「そこなんですよ。普通姫と童子ってセットで動いてますよね。それが今回は姫しかいなかったんですよ。」
「それは不思議だね。童子だけ以前に倒してたりしたのかな。そんな報告あった覚えはないんだけど。」
「しかも、その姫なんとなく見た目が違って、これまで僕と同世代ぐらいの、若いお姉ちゃんって感じだったじゃないですか。それがもっと若い、そうだな、高校生ぐらいの感じに見えたんですよ。」
「そんな、今まですべて同じ顔だったのにね。」
「そうなんですよ~。なんか急にかわいくなったもんだから闘いにくかったです、ハハハ。」
鋭鬼は笑いながら言った。
「ディスクアニマルを確認したんですけど、撮れていなかったみたいなんで、次から起動したままにしておきます。」
勢地朗は表情は変えなかったが、内心焦っていた。もし童子と姫が、対ではなく単体で行動するようになると、これまでよりもさらに魔化魍は発見しづらくなるだろう。それに、その能力はこれまでの童子たちとどう異なるのか、もし二人分の力があるのならば、それが鎧やスーパー童子・姫になっていくことを考えたら決して見過ごせない問題だ。
「とにかく情報が少なすぎるね。しばらく様子を見てみようか。」
それからしばらく後、どこかの洋館で。
「新しいのはどう?」
身なりのいい女が尋ねる。鋭鬼のいう、『若いお姉ちゃん』だ。
「んー、まぁ順調だよ。2体である必要がなくなった分、楽になったのかもしれないね。」
男の方も身なりはよく、眼鏡をかけている。
「あの宿主の子、今も正気を保ってるみたいね?」
「今もというか、ずっとそうだと思うよ。」
「なんであの子は大丈夫なの?」
「そうなのかも含めて、今後のお楽しみかな。もういくつかサンプルを試す必要もあるし。」
図書館にて、ひとつの机に並んで座る明日夢とあきら。
黙々と勉強する二人。明日夢は学年トップクラス。あきらは鬼の修行であまり学校に行くことができていないときは成績は芳しくなかったが、今では明日夢ほどではないが、十分優秀と言われる成績だった。
「少し休憩しようか。」
明日夢は小声であきらに伝えた。甘いシャンプーの臭いにどきっとした。同じようにあきらも、急に耳元で囁かれたことに思わず体が飛び上がりそうになりながら目を見開いた。その後、二人同時に顔を真っ赤にした。
「わかりました。きりのいいところまでやるので、待っててください。」
「うん、わかったよ。なんかごめんね。」
あきらは顔を赤らめたまま左右に首を振った。
「もうすぐ京都ね。降りる準備しておきましょうか。」
京都からは乗り換えて奈良・吉野に向かう。
ひとみと威吹鬼は香須美の呼び掛けに頷いて支度を始めた。
ひとみには疑問があった。鬼の威吹鬼は勢地朗が言っていたように浄めに行くのだろう。では香須美の理由は何なのだろうか。単に二人の引率ということではなさそうである。それならあきらでも問題なさそうである。
そして不安もあった。もちろん自分の体のことや、これから初めて浄めの体験をすることも不安ではあるが、明日夢とあきらのことが不安だったのだ。数日前にあきらは明日夢に好意を抱いていることを知った。明日夢はどうかはわからないが、自分がいない間に二人に進展があるのではないかとどうしても不安になっていた。もちろんあきらは大切な友人の一人であり、自分の気持ちを知っている以上不義理なことはしないだろうという信頼はあったが、それでも不安だった。
乗り換えの移動の際、ひとみは無意識に香須美のリュックをつかんで移動していた。