「ただ今戻りました!」
轟鬼と京介が入ってきた。
「あらお帰りなさい!」
日菜香が笑顔で出迎える。心なしか鋭鬼のときより帰りを喜んでいる。
「おー轟鬼、久し振りだな。」
ちょうど鋭鬼が中から出てきた。
「鋭鬼さん!お久し振りです!」
「君が京介くんか、響鬼さんから話は聞いてるよ。すごいらしいじゃないか。」
「そりゃどうも。でもまだまだ強くなりますよ。」
「ビッグマウスだね~、期待してるよ。おれもうかうかしてらんないな。今日は何の魔化魍だったの?」
「今日はアミキリです。」
オロチの一件でアミキリはバケガ二の変種だということがわかったそうだ。だがその発生条件はまだわかっていない。
「京介くんも闘ったのかい?」
「いえ、今日は闘ってないですね。」
しかめっ面をする京介に変わって轟鬼が返事をした。
京介は響鬼の最速記録に並ぶ勢いで鬼に変身した。
しかし、まだ安定して変身できるわけではない。変身できたとしても魔化魍と闘うことができるような力はまだない。前回明日夢の前でサトリと闘った際には、自分の持ち得る力以上のものが出ていたのだ。
そして、響鬼がいうように『これからが正念場』なのである。
その頃、図書館の休憩室。
自販機の前で一息つく明日夢とあきら。
「天美さん、何か悩んでる?」
あきらは内心相当驚いたが、表情にはあまり出さずに答えた。
「いえ、特にありませんよ。何かありました?」
「ならいいんだけど。んー、何となくよそよそしいような気がして。」
「そ、そんなことないです!絶対!もしそう思わせてたら、ごめんなさい。」
「んーん、何もないんならよかったよ。何かあったら言ってね。」
明日夢が自分のことを気にしてくれていたのが嬉しかった。あきらははじけたような笑顔で頷き、それを見た明日夢は照れて目をそらした。
ひとみ、香須美、威吹鬼は吉野に到着した。
吉野から使者が来ていた。女性というより、女の子で和服を来ていた。
普通だと和服を来て一人でいるのは珍しいものだが、この吉野という地では、特に目立っていなかった。むしろそちらの方が溶け込んでいるぐらいだった。
「お疲れ様です。ようこそ吉野へ。使者の者です。」
声を聞いて、ひとみは人だと感じた。
「あ、栞ちゃん。久し振りだね。」
「あら~、大きくなったわね。私は何年振りかしら。」
「どうもお久し振りです。威吹鬼さんは2年ぶり、香須美さんは4年振りになります。」
少し前のあきらと雰囲気が似ているようにひとみには思えた。
はやくも3人で話が盛り上がりそうになっている。ひとみは威吹鬼と香須美と距離があるのを実感した。やはり二人は猛士の人間で、自分はその他なのだ。わかってはいても少し寂しくなった。
「初めまして。白井栞です。持田ひとみさんですよね?」
いきなり話かけられてひとみは驚いて返事がなかなか出てこなかった。
「そ、そうです。よ、よろしく願いします。」
「はい、敬語じゃなくていいですよ。私の方が年下なので。」
笑顔で言う栞に対して、ひとみは緊張しながら頷いた。
「栞さんって何歳なの?」
「今年で中学校を卒業します。」
「へー、もうそんな大きくなったんだね。」
香須美が代わりに返事をした。
「じゃあ出発しましょう。バスが来てます。」
「よっ、京介。」
京介は響鬼と合流していた。
「どうだ、調子は?安定して変身できるようになったか?」
しかめっ面で返事をする京介。
「まだです。」
「焦ることはないさ。じっくりがんばってみようぜ。」
「と言われても焦りますよ。まだおれは鬼になれたわけじゃないんですね。」
「お前にとって鬼になることはどういうことなんだ?」
京介は変身することができた。京介は変身できれば鬼になれると漠然と思っていた。だがもちろん現実は違った。まだ魔化魍と闘うことも十分にできない。おそらく一人ではサトリとは勝負にもならなかっただろう。こないだのサトリとの一件以来、京介の中で変身することのさらに次の目標が出てきたのだ。それは自身の鬼像が変化していることも表していた。
「おれにとって、鬼になるとは魔化魍を倒すことですね。まずは結果がほしい。」
「それだけじゃあ弱いかもしれないな。お前の中でそれに納得できてないところもあるんじゃないか。」
「それは…。」
「変身して闘うから鬼なんじゃなくて、鬼だから変身して闘うんだぞ。変身してない時の自分も含めて鬼にならなきゃいけないんだぞ。」
「その響鬼さんの、鬼になるってのはどういうことなんですか?」
「おれにはおれでちゃんと答えはあるよ。きっとおれ以外の鬼にもそれぞれにあると思う。京介も自分なりの答えが必要なんだ。」
ずるい答えだと京介は思った。
大体鬼の人たちはみんな言うことが哲学的でよくわからないんだよ。なんか核心を言わずにみんなぼやかして伝えてくるんだから。
京介は心の中で毒づいていた。彼が伸び悩む原因はこういうところだとも知らずに。響鬼は京介がそのことに自分で気づくのをずっと待つことにしていたのだ。
「すみません。嘘をついていました。」
図書館からの帰り道。
あきらは明日夢に告げた。
「え、どんな嘘?」
心配そうな表情の明日夢に、あきらは笑顔で答えた。
「実は今悩んでいることが2つあるんです。」
「えっ、何に悩んでるの?」
「ひとつは、鬼の修行を再開するかどうかなんです。」
「え、天美さんもう一度修行するの?」
「まだどちらに決めたわけじゃないんですけど、今なら以前とは違う気持ちで鬼を目指せると思うんです。鬼の修行をやめて、安達くんや持田さんと一緒に学校に行くようになって、色んなことを勉強するようになって、今まで自分の憎しみのために鬼を目指してたのが、今では人のために鬼になるのもいいように思えてきたんです。」
「うーん、おれなんかが言えることかはわからなし、ずれちゃってる気もするんだけど…。」
「なんですか?」
「おれ、天美さんのことすごい尊敬してるんだ。」
「えっ、どうしたんですかいきなり。」
照れるあきらに気づかずに続ける明日夢。
「だって自分と同い年でずっと鬼になるって決めて修行してたんだよ。京介はあんなこと言ってたけど、おれは本当にがんばってたと思うよ。しかもその道をやめたのだって本当に勇気がいることだと思うんだよね。今だって勉強もパネルシアターもすごいがんばってるし。だから、今天美さんが鬼の修行をするのは、鬼になるその一本で目指してたのとはだいぶ違う視点は持てると思う。」
真剣な眼差しで話す明日夢が、あきらは頼もしかった。
「確かにそうですね。なんかありがとうございます。」
「全然大丈夫だよ。でも…。」
表情を曇らせる明日夢。
「どうしたんですか?」
「いやぁ、別に…。」
「言ってください。私も言ったんですから。」
強めのトーンで聞くあきら。
「うーん、こんなこと言ったらだめなのかもしれないけど…。鬼の修行始めたら、また学校とかあまり来れなくなるのかなと思って、少し寂しくなっちゃった。」
力なく笑う明日夢とは裏腹に、あきらは内心喜んでいた。自分がいないと寂しいなんて思ってくれるんだ。それがすごく嬉しかった。
「そういう風に言ってもらえてうれしいです!」
あきらは心からの笑顔で伝えた。二人は目を合わせてまたお互い真っ赤になった。