仮面ライダー響鬼のその後   作:いしかわらいだー

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9話

三人は広い和室に通された。

「二人は少し休んでてください。一刻、二時間ほど後に浄めを始めます。伊織、少しいいか?」

威吹鬼は頷き、父親と二人で出ていった。

「少し疲れたわね。」

香須美は笑顔でひとみに声をかけた。

「そうですね。あの、ひとつ聞きたいんですけど…。」

不安そうな表情で香須美に聞くひとみ。

「浄めってどんなことをするんですか?」

「うん、私お父さんから聞いて勉強してきたの。今から簡単に説明するね。」

香須美はスイッチが入ったように真剣な表情になり、ひとみも香須美に体を向けた。

「まず、響鬼さんや威吹鬼くんといった鬼が魔化魍と闘っているんだけど、厳密に言うと、鬼は魔化魍を倒しているのではなくて、浄めているのよ。」

よくわからない表情をしているひとみの表情を見て、香須美は説明を付け足すことにした。

「魔化魍っていうのはね、邪悪な気が土や草木、水といったものに取り憑いて発生すると言われているの。その邪悪な気自体を消さないと、ただその魔化魍を殺しても、また蘇っちゃうのよね。」

ひとみは頷きながら聞いている。まだわからないところは多いが、そういうものだと思って聞いてみることにしたのだ。

「だから、その邪悪な気自体を消す、つまり浄めることが必要なのよ。それが『清めの音』と呼ばれているんだけど、威吹鬼くんたち鬼は音撃、清めの音で魔化魍を退治しているのよね。」

もはや理解は追い付いていないが、なんとか話についていこうとしているひとみ。

「じゃあ私は今から、その清めの音を聞くわけなんですか?」

「んー、もちろん魔化魍に対するような強力な音を出されるわけじゃないんだけど、ひとみちゃんの内側から音を反響させて、少しずつ浄化していく感じかな。」

「具体的には、どんなことをするんですか?」

「とくに変わったことはしないのよ。たぶんひとみちゃんは、座って音を聞いていたらいいだけだと思うわ。魔化魍に対するものと違って、苦しくなったり痛かったりするようなものじゃないからね。」

ひとみはここまで聞いてやっと少し落ち着いた。

 

その夜、京介は一人ランニングしていた。

一年間で運動音痴だった彼の身体能力は随分と成長した。ただ、今彼は悩んでいた。そして、明日夢のことを考えていた。

自分はずっと優秀だった。今もそうだと思う。それに比べて明日夢は取り分のない、平凡なやつだと思っていた。そして二人で修行を始め、明日夢は鬼にならないことを決めた。そのせいで明確に自分の方が上であると証明することはできなくなった。それは自分に対する裏切りだと思っていた。だがそれは誤解だった。明日夢は明日夢なりに鍛えていた。そして、明日夢は明日夢の道を見つけていたのだ。

自分は鬼になる道を選んだ。後悔も迷いもない。自分には鬼になる道しかない。これまで精一杯鍛えてきた。一瞬なりとも鬼になれた。魔化魍ともある程度やりあえた。だが、まだ鬼としては一流じゃない。明日夢がいなかったら、サトリに殺されていたかもしれない。今日も、一人では童子も姫も倒すどころか引き付けるだけで精一杯だった。優秀かどうかではなく、まだ一人前ですらない。

響鬼は焦らなくていいと言ったが、京介はすごく焦っていた。少しでもはやく強くなりたかった。『親父を越える』その目標達成のためにも、とにかく強くなるしかなかったのだ。

そんな具合に、モヤモヤしながら走っている京介の前を、見覚えのある人物が通りかかった。

「京介!奇遇だな!」

ジャージ姿の明日夢だった。

「やあ、こんなところで何をしているんだい?」

「はは、京介と一緒さ。今軽く走ってたんだ。」

「君と一緒にしないでくれ。僕は鬼になるために走っているんだ。」

鍛える理由に、鬼になるかどうかは重要ではないが、そうでもしないと自分の努力が評価されないような気がして、ついつい毒ずく京介。

「うん、僕も少しでも人助けできるように、鍛えてるんだ。」

まじめな表情でこたえる明日夢に、少し圧を感じた。

自分に並んで走る明日夢。少しペースを上げる京介。なんとかついていく明日夢。またペースを上げる京介。その繰り返しを何度か続けた後に、きりがないと感じた明日夢が声をかけた。

「はぁ…はぁ…わかった、おれの負けだよ。少し休もう。」

「ふん、しょうがないな。」

少し笑顔になって頷く京介。京介も少し息が切れていた。

オロナミンCを買って、なぜか少し離れて一緒に二人で座った。

「なぁ、聞きたいことがある。」

最初に口を開けたのは京介だった。

「なんだよ改まって。」

笑顔でこたえる明日夢。

「君はどうして鬼にならないんだ?」

半分答えがわかりながら聞く京介。

「おれはおれなりに、よく生きようと思ったんだ。鬼にならずに他のやり方で人を助けていくことが、おれのやり方だったんだよ。」

笑顔ながらも真剣な表情でこたえる明日夢を見て、京介は悔しくなった。

「僕は…。」

言葉に詰まる京介。

「京介はさ、すごいよね。」

「君に言われても嬉しくはないよ。」

「でも言わせてもらうよ。おれはすごいと思う。一緒に修行を始めたときは、正直自分の方が鬼になれるかもって思った。でも全然違った。運動神経とかじゃなくって、鬼になるために大切なものはあの頃からずっと京介は持ってたんだ。今ならすごいわかるよ。」

それは何なのか、京介はすごく聞きたかった。

「君は鬼になれなくて悔しくないのか?修行をやめたのを後悔しないのか?」

「どちらも全然ないかな。修行をやめて、結果鬼になれなかったけど、自分の道はちゃんと見つかったんだ。」

京介には明日夢の凛々しい姿は、眩しく見えた。だが、まだ京介はそれに気づけていなかった。それが、京介が鬼として一人前になれきれない理由のひとつだった。

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